昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百三十四)

2023-03-16 08:00:18 | 物語り

「いや。竹田の心配、あんがい当たってるかもよ。
じつは、おれも少し気になってることがあるんだ。実害は出ていないけれども。
日の本商会という名前さ、きいた気がするんだ。
木村商店でなんだけど、あそこの大将は、うちの社長に恩義があるから教えてくれたんだ。
けど、価格交渉はうけそうな気がする。
奥さんと、こそこそ話してるんだ。で、おれがちかづくと話をやめちゃうんだ」と、山田が声をあげた。

「気のまわしすぎじゃないのか? おれの地区と山田の地区とでは、相当にはなれているぞ。
ほかの奴、どうなんだ? なんか変なことに、気づかないか?」
 山田をけん制しつつも、不安げな顔でみなに問いたたしてみる。するとあちこちから
「そういえば、見慣れない車をみかけたような。
ぼくが着くと、荷物のつみおろしを止めちゃうこともあったです」。
「ああ、ぼくも経験あります。なんかそそくさと帰っちゃうんです。
ぼく、わりと業者さんとはなかよしで、情報交換なんかするんですけど。
ひとり、ぜんぜんはなしをしない人が。みんな知らない人間だって」と、声が上がった。

「車に社名はあったか?」
「さあ……。気がつきません。なかった、と思うんですけど。君のところは?」
「うん。おれも、なかったと思うんだけど」
「ばか! 思います、じゃだめなんだよ。もっと、しっかり見ろ!」
 服部のイライラがつのり、八つ当たり気味にどなってしまった。
「服部くん、やめろよ。気がつかなくて当たりまえさ。
いろんな会社が出入りしてるんだ。無茶をいうなよ」
 あわてて竹田が間にはいり、取り成した。

「みんな、待たせたな。社長の方針をせつめいするぞ」
 上気した顔で、五平が部屋にもどった。
「おまけ作戦は、実行する。ただしだ、社長の前言はとりけす。
勝手な判断でやることは、まかりならん。
まちがいいなく日の本商会だと確認がとれてからの、実行だ。
そのさい、かならず口止めをすること。お宅だけに対してだけだから、とな。
よそには、決して口外してほしくないと、かならず付け加えること。以上だ」

「専務。その、おまけ作戦、取引先、全部に広げるんですか?」
 おずおずと、服部が声をあげた。いっせいに、五平に全社員の視線があつまった。
かたずを飲んで、五平の答えを待った。
「バカ言うな! 日の本商会相手だけだ。どういうことかというとだ」と、具体的な方法がかたられた。
 日の本商会の取扱商品をきょう中にしらべあげて、その商品だけを対象とする。
あすの朝に一覧表をくばる、ということだった。調査については、社長が直々にやるから心配するな、とつけ加えられた。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿