昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

水たまりの中の青空 ~第二部~ (二百三十五)

2022-05-19 08:00:41 | 物語り

「ちょっとやり過ぎか?」
「出入り禁止なんてことにならんだろうな?」
「新聞沙汰になりでもしたら、とんでもないぞ」
「いやそこまでには、ならんだろうさ」
「いやいや、客の一人が面白おかしく喋ったら……」
 ひそひそと話し合うが、今夜の正三を制御することは難しいことだった。

「佐伯君、局長の立場を考えなくちゃね」
 杉田の耳打ちに、やっとひとみの手を離した。
正三の急所を突かれた。どんなに酩酊していても、源之助を忘れることはない。
じっとひとみを見つめる虚ろな正三。
力なく、離れ行くひとみに手を振りつづけた。
「何を言ったんです? 課長。」
「なに、大したことじゃ。佐伯君の急所を突付いただけさ。彼を黙らせる唯一をね」
「何です、それは。後学のために教えてくださいな」
「いやいや、こればかりはね。さあさあ、飲み直そう」

「そうおっしゃらずに。我々だって手に負えなくなった時の、対処法を知っておきたいんですが」
 食い下がる山田だが、杉田は素知らぬ顔で興に入った。
「薫ちゃ~ん。薫ちゃんは、どこにも行かないよね~」
「は~い! 行かないわよ、ターちゃんの傍に居るわよ~。 ターちゃんも、浮気しちゃだめよ~」
 やたらと語尾を甘ったるく伸ばす様は、聞かされている身としては辛いものがある。

「わたしとしては、ありきたりの美人には飽きたんだ。
良く言うだろ?『美人は三日で飽きて、不美人は三日で慣れる』って。
さらには、『醜女の深情け』ともね」
 しっかりと薫の肩を抱き寄せて、真底の思いを語ったかの如くに、満足げな表情の杉田。
「安らげるんだよ、薫のそばだとね」
“こんな痩せぎすのおばさんの、どこが良いんだよ”
 そんな思いを抱いていた面々だが、杉田の言葉に妙に納得させられている。

“確かに、美人相手だと気を使うかもな”
“最近は、鼻っ柱の強い女が多いからな”
“プライドの高い女は、確かに、ある意味疲れはする”
“すぐに指名が入って、じっとしていない。けしからん!”
“キョロキョロして、落ち着きがない”
 と思いはするが、それでも、“グラマーな美人がいい”が、本音ではあった。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿