昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

にあんちゃん ~大晦日のことだ~ ラスト

2016-02-28 11:29:25 | 小説
 じっと聞き入っていた孝男が
「父さん。なにか欲しいものはあるかい。食べたいものを言ってよ、用意するから」
 と、声をかけた。

「孝男。お前は良い嫁さんを貰ったな。
いいか、道子さんを大事にするんだぞ。
いつまでも、昔のことにこだわっちゃいかん」

 暗に初恋の女性を想い続ける孝男に苦言を呈した。

「道子さん。もうここまでだよ、わたしも。
定男の不始末では、本当に迷惑をかけた。
良くやってくれたね、ありがとう。
どうやら、ばあさんが迎えに来たようだ。今までありがとう。
みんな、ありがとうな」

 その言葉が最後だった。

 孝道の葬儀には、しっかりと見送ることができたほのかが居た。
弔問に訪れた人すべてに、深々と頭を下げるほのかが居た。
そして出棺前の最後のお別れもしっかりと済ませることができた。

 斎場の煙突から立ち上る煙を目で追いながら、次男の袖口を引っ張った。
「にあんちゃん。あたし、学校に行ってみたい。ばあちゃんとほのかの母校に」
 そしてせわしなく動き回っている道子に
「ばあちゃんに会ってくる。学校の、あの木の下に行って来る」
 と声をかけた。

「そうだね。おばあちゃんと、しっかりお別れしておいで」
 
 突然に涙があふれてきた。
夕焼けの映える校庭のあの木の下で、小夜子の目から大粒の涙がこぼれた。
何年ぶりかで立ち寄った婆ちゃんとほのかの母校の校庭で、やっとやっと、祖母のシゲ子に
「ありがとう、婆ちゃん。さよなら、婆ちゃん」
 と、告げた。

「にあんちゃん、にあんちゃん。あたし、あたし‥‥。ばあちゃんに、さよならが言えたよ」
        


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