突然の振りにおどろいた真理子からはことばが出ない。
まだ意思疎通がうまくいっていないふたりだったんだと、唐突すぎた声かけを悔やんだが、今さらどうにもできない。
みずからの失策で暗闇にほうり込まれた彼だった。
真理子にしても己の無言が、ひまわりの咲き乱れていた野原から一転して空っ風が吹きすさぶ荒廃した地へと変えてしまったことで暗澹たる気持ちを抱えていた。
しかし、急に声をかけてくるから……と逃げ場を求めた。
息苦しさを感じ始めた彼に「どうしたの、声が裏がえってたわよ。
そうそう、ドライブウェイに乗って。わたし、プラネタリウムに行ってみたいから」と、貴子の声が明るく車中に響いた。
(どうしてかしら、こんなにポンポンとことばが出るなんて。
啓治さんの前だと、どうしても身構えちゃうのよね。
だからかしら、真理子ちゃんを連れ出すのは。
ひとりにさせておけないからなんて言い訳してたけど)。
「お姉さまには聞いてません。そちらのお嬢さまにお聞きしたのですが」
掛け合い漫才みたいだと思いながら、咳ばらいをしたのちに声を整えてから、謙譲語を使いながらも声はぞんざいに答えた。
「アラ、失礼しました。どうせわたしは、刺身のつまでございます。お邪魔虫でございますわ」
軽く受け流す貴子のことばに、車中に笑い声が起こった。
(ありがとう、貴子さん)。声にはしない彼だったが、改めて貴子の機転のはやさに舌を巻いた。
「真理子お嬢さま、そこでよろしいですか?」
「はい。まだ行ったことがないですから」
真理子の蚊の鳴くような声が、身震いしてしまいたいような可愛い声が、彼を包んだ。
(もういい。これで帰ることになっても文句は言わない)
「OK!」と答えるや否や、町の外れにある、さほど高くはない山に作られた金華山ドライブウェイ――金華山の南に瑞龍寺山(通称水道山)があり、西ふもとの岐阜公園と南ふもとの岩戸公園を結ぶ山道――に向かって車を走らせた。
その山頂を造成し、プラネタリウムが作られている。
このドライブウェイは、以前に二、三度走ったことはあるが、プラネタリウムには入ってはいない。
山頂の駐車場でひと休みしてすぐに下りるだけだった。
(彼だって、すぐに下りる……よな?)
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