七
“女? 立派な女? どういう意味だ?
加藤家を辞しているって、どこに、どこに移ったというのか。
僕を為にするための戯れ言か?
いや、叔父が、僕ごときに弄されるとは思えない。”
「嘘ではないぞ、確かなことだ。
嫁ぎ先に確認をしたことだ。」
「お、叔父さん。
嫁ぎ先って、本当ですか!」
思わず、語気鋭く詰め寄った。
「信じられない、そんなこと。
あれほど固く約束をしたんだ。
接吻までしての、約束事だ。
信じられない、断じて違う!」
源之助にというよりは、己に言い聞かせる言葉だった。
確かに不安はあった。
ひと言の連絡も入れていないのだ。
東京に着いたことすら伝えていない。
同じ街で同じ空気を吸いながら、己の気配すら感じさせていない。
缶詰状態の中で、日夜をプロジェクトに費やしてしまった。
「男をたぶらかして、その男の家に転がり込んだようだ。
キャバレーで煙草売りをする傍ら、男の値踏みをしていたようだな。」
勝ち誇った言い草だった。
多分に源之助の創作を入れながら、思い切り小夜子を貶めた。
「信じられない・・信じられない。
そんな方じゃない、誇り高い女性なんだ、小夜子さんは。」
何度もかぶりを振って、否定する正三だ。
しかし源之助は、畳み掛ける。
八
「会社経営をしている男だが、ころりと小娘に騙されよった。
ふん、小物だな。
雑貨品を扱っているというが、ちまちまとした小商いだろう。」
どうしても、武蔵を認めたくなかった。
政府筋ではなくGHQ絡みと分かった折には、
関わりを持ちたくない相手だと思った。
「信じられんか? だったら、自分の目で確かめてくればいい。
今度の休みにでも行って来なさい。
住所は、ここだ。」
源之助の差し出す便箋は、目に入らない。
「違う、違う。何かの間違いだ。
そうに決まっている、あの小夜子さんが。
僕を裏切る筈がない。
伯父さん、人違いじゃありませんか?」
すがるような正三に、源之助は厳しく宣した。
「いい加減にしなさい!
いつまでも、未練たらしいぞ。
お前も男だろう、笑って許してやれ。
独りきりの東京がどれほどに厳しいものか、まして女だ。
分かってやれ、正三。」
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