昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

水たまりの中の青空 ~第二部~ (二百十八)

2022-04-12 08:00:27 | 物語り

“えっ? なんのことなの! あたし、そんなこと話してないわ。寄付って、どういうこと?”
思いもかけぬ寄付の話に、思わず武蔵の顔を見やった。
「いやいや、そうでしたか。村長選のことは知りませんでした。
小夜子が生まれ育った地です。感謝の意味を込めてのことでしたが。
そりゃいい、結構なことでした。加藤という男がGHQの中にコネを持っています。
お困りのことが起きましたら、どうぞ遠慮なく。
お義父さんからご連絡もらえましたら、すぐに対処させます」

 あくまで茂作を前面に押し立てる武蔵に、引きつった笑顔で感謝の言葉を述べる二人だった。
「ほうほう。有難いお言葉をありがとうございます。中央にコネが有る無しでは、えらい違いですで」
「ほんに、ほんに。村長は佐伯家を後ろ盾にしとりまして、源之助という官吏を使っておりまして」
「ああ、逓信省の保険局の局長さんですね。事務次官の権藤さんに電話番号をお聞きしましてね。
この間、ご挨拶をさせてもらいました。中々に切れ者だとお噂を聞きましたが」
“事務次官さまに通じてるのか? こりゃ凄いわ”
“茂作なんぞを通せと言うことか。茂作に頭を下げろと言うことか。中々に喰えぬ男じゃとて”

 当の茂作は、そんな話などまるで耳に入っていない。
“小夜子を嫁に出さにゃいかんのか。やっぱり帰って来ぬのか。
正三の馬鹿たれが! あいつがしっかりしておれば、小夜子はここに帰って来たろうに。
タキや、タキや。どうしても小夜子を手放せばならんのか? 
わし一人になってしまうのか? いっそわしも、タキの元に行こうか? 
どうじゃ、迎えに来てくれんか? 夜寝てそのまま、というわけにはいかんかの”

 がっくりと肩を落としている茂作に、小夜子が優しく声をかけた。
「お父さん、今までありがとうね。お嫁に行っても、小夜子は小夜子だからね。
帰ってくるから、きっと。
今まではいろいろと忙しくて帰られなかったけれど、これからはたくさん帰ってくるから」

「そうですよ、お義父さん。わたしは中々来れませんが、小夜子には帰らせますから。
出張がちなわたしです。その折には夜子に寂しい思いをさせてしまいます。
お義父さんの所にお世話にならせてください。
それでたまには、お義父さんに来てもらいたいですよ。
なあ、小夜子。どうだ? 親子水入らずもいいだろう」



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