昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

[ブルーの住人]第六章:蒼い部屋 ~じゃあーず~

2024-06-08 08:00:31 | 物語り

(三)蝶々

 このところ、なにをする気にもならずにいる。
日がな一日を、白く塗られた天井をじっと見つめているだけだ。
 白? いや白ではない。ベージュっぽい白だ。
そして所々にしみのようなものがある。
それを見るにつけ、心にざわざわと嫌な感じがおきる。

 銀縁のめがねをかけた女医に見せられたシートを思い出してしまうのだ。
ロールシャッハテストと呼ばれる検査を思い出してしまい、いらだちが増してくる。

「これから絵を見てもらいます。最初に思い浮かべたことを言ってください。
考えちゃいけません。
直感で言ってください。すぐに答えてくださいね。
正しい答えはありませんから、大丈夫ですよ」

ばあーか! ばあーか! あいてにするのも めんどくせえ
ああ かったるい かったるい! 
おい すこしわかいはばあ ごっちんこをしてみろ
そしたら まじめにこたえてやるよ
ああくそ! あたまのなかで くとうてんをかんがえるのも めんどうくせえ

 くどくどと念をおす女医に反感をだき、その指示をことごとく無視した。
じっくりと時間をかけて、はじめおもい浮かべたこととは反対に近いことを答えた。
 こうもりに見えた図柄にたいして
「蝶々だね、これは。誰がなんと言おうと、蝶々だ!」
 と、勝ち誇ったように告げた。

「蝶々じゃなくて、その前に感じたことはありませんか? 時間をかけすぎてますよ」
 いらだつ女医に対して、「あんたが嫌いだ!」と叫び、最後には黙りこくってしまった。

 ぷいと横を向いたきり、一切の返事をしなかった。
「ごっちんこだよ ごっちんこをしろ」
 ちっちゃな きこえるはずのないほどのちっちゃなこえで はやくちでいってやった
キョトンとしてやがる ざまーみろ!



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