(七)シャウト、シャウト!
“バババ、ドンドドドドン!”
“チキチョン、チキチキチキチョン、チョン!”
“ブンバンバンブンブンブンバン!”
“ティーヴイィィ、ディーー、チューン、ティティーー!”
“あの娘が、あのこが、云ったのさー!”
とびら扉を開けたとたんに、少年の耳に飛び込んできた。
少年には、騒音としか聞こえない。
ロック音楽と称されて、同年代の少年たちが狂喜している。
しかし少年には、どうしても異質な音楽だった。
シャウト、シャウト! と歌うが、大声で叫ぶことになんの意味があるというのか。
バズトーンと称される重低音が、お腹にズンズンと響く、そしてひびく。
ピックで弾くはずのギターで、
“チューン、ティティーー!”
という音を出すのが理解できない。
「大人のジョーシキは俺たちのヒジョーシキ! 俺たちのノーマルは大人のアブノーマル!」
とボーカルがうそぶく。
少年には上すべりに聞こえる歌詞が、持てはやされる世界へ。
“Wellcome to Rock’n Roll!”
そこには少年の思い巡らせた世界はない。
色とりどりの光を発するミラーボール、壁と言わず床そして天井に容赦なく叩きつける強烈な光。
それが、もうもうと立ち込めるタバコの煙に取って代わられている。
その煙に色があり、赤、青、そして白とさまざまな色だった。
しかし濁った色でしかなかった。
そして光ではなく、色でしかない。
少年の心には投影するもののない、色だった。