とにかく、息もつかせぬ70分でありました。
すさまじいパワーでありながら、どこか静謐さをたたえており、しかし一方で、権力の座に上り詰めた者の、悪魔的な魅力もたたえる傑作が誕生しました。N響の定期公演Cプログラム、プロコフィエフ作曲の「イワン雷帝」がそれです。
http://www.nhkso.or.jp/concert/concert_detail.php?id=692
若き巨匠・ソヒエフ(向かって右のひとですね)の指揮は、まさに衝撃のひとこと。ともすれば熱情的になりがちな演奏が、冷静な視点でふしぎな統一感を見出しており、イワン雷帝の複雑なキャラクターとロシアの大地に生きる人々の姿を活写します。「大海原」の美しさ、「余は皇帝になる」の決然たるイワンの雄姿、「敵の骨を踏みしだき」の戦場での迫力、「イワン、貴族らに懇願す」のかなしみ、「親衛隊の合唱」の鮮烈さ、「終曲」の、皇帝イワンと国家、神への狂信的な賛歌・・・。大編成ながら、すみずみにまで神経をゆきわたらせ、”イワン雷帝”の人間像に迫る構成は、まさに傑出した出来栄えというべきであります。9月の「レニングラード」の成功が記憶にあたらしいところですが、N響公演、そして、ことしの芸術シーンを振り返る上でも白眉の公演といえます。
また、進行役をつとめる歌舞伎役者・片岡愛之助のみごとな朗誦がこの劇的な大曲を大いに盛り上げます。彼のさまざまな舞台の中でもきわめてすぐれた演技であることは間違いありません。愛之助は、ナレーションをつとめつつ、悪魔的な魅力をもつ、イワン雷帝をすさまじい怒気を秘めて演じており、イワン雷帝の複雑な人間性に迫っています。この優れた演技があり、N響のオーケストレーションがいっそう映え、すぐれた効果をあげています。
愛之助についてさらにいえば、このイワン雷帝を熱演したことで、彼は義太夫狂言の大役(たとえば、知盛・熊谷・松王丸・権太・樋口など)のみならず、「勧進帳」の弁慶、現代劇のストレートプレイ(たとえば、「マクベス」「ハムレット」のタイトルロール、「アマデウス」のサリエリなど)も掌中におさめるのではないかと思われるほどの素晴らしさをみせています。12月の「実盛物語」も楽しみですが、これを機会に今後歌舞伎役者として、より一層大きく大輪の華をさかせてほしいとおもいます。大きな役者さんになられるでしょう!
ソリストのスヴェトラーナ・シーロヴァ(メゾ・ソプラノ)、アンドレイ・キマチ(バリトン)もみごとな歌唱で、「イワン雷帝」の世界を盛り上げます。また、合唱の東京混声合唱団、東京少年少女合唱団もまたすぐれた歌唱をきかせれくれ、統率感と不穏にみちた「イワン雷帝」のスケール感を現出しています。
きょうも13時から、東京・渋谷のNHKホールにて当日券が販売になるということなので、クラシックファンのみなさま、歌舞伎ファンのみなさまはぜひお誘いあわせの上、たくさんのご来場を願い、ぜひこの衝撃の体験をしていただきたいと思います!
#nhkso_tokyo
#ソヒエフ
#愛之助
#片岡愛之助