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愛之助・中車・松緑、新時代!12月歌舞伎座劇評

2017-12-12 08:21:05 | 劇評

当月歌舞伎座は、三部制興行である。玉三郎を上置きに、愛之助、中車、松緑が競い合う形になったが、結果的に非常に好舞台の連続となった。ことに愛之助の「実盛物語」は私が20年この戯曲を見た中でも屈指の出来であり、渡辺保先生もご指摘があったが、彼の今後のおおきな当たり役になろう。また2部の「らくだ」、3部の「瞼の母」の中車がまったく対照的な役柄を鮮やかに演じ分けており、ことに「瞼の母」では歌舞伎座史上に残る大熱演を見せた。また、好調・松緑が家の芸である「蘭平物狂」を豪快に演じ、1部の「土蜘」でも不気味な存在感を見せた。ますます祖父・2世松緑にセリフ回しといい、面構えといい似てきたのは、立派である。

特に印象にのこった舞台をふたつ。そのうちの「実盛物語」は愛之助は東京では初めてだが、切ってはめたような爽やかさと義太夫味が身上で、かれがこの世代でいちばんの義太夫役者であることを証明した。仁左衛門に驚くほど似ているが、仁左衛門よりもずっとシャープで鋭い芸風である。これに愛嬌が加われば、石切梶原も彼の掌中に収まるのは自明の理だろう。「うきつしずみつ」の調子のよさ、小万の腕を切り落とした「物語」で、彼自身と合戦の様子が浮かび上がるセリフの妙、そして、扇をパッと鮮やかに開いて決める型の美しさなどで、観客を華麗に魅了した。九郎助の松之助、瀬尾の片岡亀蔵、葵御前の笑三郎と手練れがそろい、当月きっての好舞台となった。

「瞼の母」は長谷川伸の名作だが、私はじつは初めてこの作品を見た。あまりにも有名な作品だが、中車と玉三郎の真摯な演技の取り組みによって、すばらしい劇的成果を上げた。番場の忠太郎の一本気で男気あふれる性格を、中車が丁寧に演じていて、好感が持てる。また、玉三郎の母・おはまも、泣く泣く我が子・忠太郎を手放したかなしみを、ずっと内に秘めつつ、あえて冷淡に突き放すおんなの葛藤を、実に見事に演じた。おはまの横顔を見ているだけで、玉三郎の白い頬に、人生の苦渋がみてとれる。中車の妹役・梅枝に「なんでおまえは可愛く思えるのに、あの子はそうは思えないのだろう・・!」と嘆くありさまに、母子の相克がみてとれて、私は思わず涙を禁じ得なかった。

中車は、「ひでぇや・・・ひでぇや・・・」の詠嘆と絶唱に、彼自身の人生をオーヴァーラップさせ、よりふかい感動に観客をいざなう。新歌舞伎では彼の個性と、すぐれた脚本への解釈が生きるように思うし、今後もぜひ新歌舞伎に光を当ててほしいと願っている。いずれ「暗闇の丑松」も手掛けてみてほしい。

若手中堅では、やはり彦三郎、梅枝、児太郎が光る。彦三郎の短気だがまっすぐな性格の半次郎は、そのまっすぐさゆえに幸せをつかむにふさわしい。児太郎はなにをやらせてもうまい。立女形への道をまっしぐらである。梅枝は、玉三郎のイキをよくのみこんで、熱演していて好ましい。萬次郎もよい味をだしているし、歌女之丞の夜鷹は殊勲賞物の出来ばえである。

とにかく、ぜひ好劇家ならずとも、若い歌舞伎ファンの方々にも見ていただきたい、今月の歌舞伎座である。

ともあれ、今年も1年、いろいろあった歌舞伎界だったが、すばらしい舞台に出会えるのは本当に僥倖ともいうべきことである。来年も高麗屋三代襲名からスタートする歌舞伎界なので、ぜひ記録にのこるビンテージイヤーになることを願ってやまない。(了)



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