桂木嶺のGO TO THE THEATER!~Life is beautiful!~

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男たちの凄艶な競演! 幸四郎さん、仁左衛門さん、藤十郎さんが傑出している歌舞伎座夜の部です!

2017-11-09 05:23:08 | 劇評

 

きのうは、「ワンピース」の興奮さめやらぬ中、

歌舞伎座夜の部に行ってまいりました!

こちらも大変充実した内容で、まさにパーフェクト!!!

現在の歌舞伎界の底力を感じさせる、すばらしい出来栄えでした!

 

甲乙つけがたいのですが、やはりいろいろな意味で衝撃なのは、「仮名手本忠臣蔵」の五段目・六段目の仁左衛門さんの勘平です!

歌舞伎を見始めて30年になろうとしている私ですが、やはりこの仁左衛門さんの勘平は、唯一無二、史上最高の勘平ですね!絶品です!どうすばらしいかということを、うまく言えないのですが、もちろん型もきちんと守っておられ、いろいろな手順もぬかりないのですが、そこからさらにはなれて、活殺自在に勘平の緊張感と、彼の塩谷判官に対する苦渋の想い、そして「色にふけったばっかりに」となげく、そのなんともいえない美しさは、いま現在もとめられる最高の勘平像といえましょう。


いつもはどうしてもなんとなく段取りに追われる感のある五段目・六段目ですが、仁左衛門さんの手にかかると、大変にドラマティックでぎりぎりの精神状態で生きている男の、切迫感と生活感がリアルに出ていて素晴らしいです。それにけっして勘平がそそっかしくておっちょこちょいなのではなく、つねにかれは追い詰められた思いで生きていることがよくわかり、おかる(孝太郎さんがこれまたみごとな造形をみせてくれます!)との愛もかれにとっては、終の棲家ではなく、心のどこかに爆弾を抱えているような思いで生きている男のリアルな心情を見せています。


忠義というだけでない、塩谷判官への想いが全編流れているので、勘平の生きざま、義父を殺したと思いこんだこころの葛藤に非常に説得力があるのですね。姑のおかやの上村吉弥さんがこれまた殊勲賞物の演技で、ドラマを盛り上げており、今回五段目・六段目の成功を確実なものにしています。そして、一文字屋お才の秀太郎さんの、色街にいきて、さまざまな男と女をみつめてきた、どこか冷めた視線がまた新鮮で、勘平とおかるの悲劇を非常に現実感あふれるものにしています。


特筆すべきは、判人源六の松之助さんで、松嶋屋につかえてきたこの大番頭が、じつにいやらしく、こそくながらにくめず、愛嬌もたたえる上方の男の驕慢さを表していて傑作です。仁左衛門さん・孝太郎さん・吉弥さん・松之助さん・秀太郎さん、このアンサンブルが見事なので、ドラマにぐいぐい惹きつけられます。


そして、話は前後しますが、五段目の彦三郎さん(千崎弥五郎)がまた実に見事な演技をしめし、忠臣蔵のドラマの悲劇の全容がよくつたわります。勘平のような悲劇をあちこちで目撃して、千崎なりに葛藤をおぼえつつ、大義と死に向かって邁進するしかない男のかなしみを全身で演じており、六段目にいたっては、その悲劇が頂点に達するので涙をおさえきれない千崎の姿をみごとに活写していました。


彌十郎さんの不破数右衛門がこれまたすばらしく、情誼に厚いながらも、大望の前には非情にならざるをえない人間の皮肉をうつしだして秀逸。とにかく、この五段目・六段目をみるだけでも、歌舞伎座顔見世の価値は十二分にあります。染五郎さんの斧定九郎もまた凄絶な美をみせてくれます。

つづく「新口村」も、現在の歌舞伎の最高峰である藤十郎さんの至芸を堪能できるばかりでなく、雪の夜の男女のかなしみと、親子の別れを歌六さん、扇雀さんがこれまた熱演しているので、大きな感動を呼ぶ一幕となっています。藤十郎さんはその若やいだ姿と言い、うつくしさといい、まさに今日の平成歌舞伎の水準の高さを示しており、大きな規範となるでしょう。また歌六さんについては、父・孫右衛門をみごとに造形しており、かれの可能性が脇役のみならず、芯の役も範疇に入るスケールの大きさをしめしており、今後の眼がはなせません!

そして、掉尾をかざり、幸四郎の名前では最後となる「大石最後の一日」を、幸四郎さんが万感の思いで勤め、大きな感動をよびます。ぜひ、「高麗屋の歌舞伎はちょっと」という方も、ぜひ、くもりのない目で幸四郎さんの人間観察のたしかさ、セリフの朗誦術の卓抜さ、華のある役者ぶりをごらんいただいて、来年の白鸚襲名を寿いでいただきたいと思います!

幸四郎さんはセリフもけっして泣きすぎず、ぐっとこらえ、大石という人間のふところのふかさ、大きさ、そしてどこかにたたずむ無常観をみせたのは大変な収穫です。「初一念」というキーワードを大切に語り、磯貝十郎左衛門(染五郎さんが神妙に演じています)と、おみの(児太郎さんが大ヒットの名演。かれは立女形として、王道をあゆむスターになるでしょう!)のあわれた恋をみまもる役回りを、しっかりと見せてくれます。大義をかかげ、吉良を討ち、死を座して待つ大石の、胸のうちにひそむ死への恐れも、幸四郎さんは正直にあぶりだし、真山青果のみごとなセリフをものにして、大石内蔵助という人物の、奥のふかさを堪能させてくれました。

おみのが四十七士の自裁を前に、みずからの命をたつ哀れさは、児太郎さんの端正な美しさとあいまって劇的効果をもたらしています。かれは今回の公演で、いちだんと大きくなりました。玉三郎さんにどことなくセリフなども似ているのがすばらしいですね!おみのの清冽な愛によって、磯貝の想いもすくわれ、すべてが再生と和解のものがたりに収斂されていくのは、大きな感動を呼びますし、幸四郎さんの孫の金太郎さんも清冽な演技をみせて期待をもたせます。

最後の幸四郎さんの万感の涙も、このすぐれた英雄役者の次の名前に向けてのはなむけとしてふさわしいものでしょう!



ぜひぜひ、「ワンピース」で歌舞伎の魅力にはまった若いみなさま、ぜひ当月の歌舞伎座にもお越しいただいて、現在の歌舞伎がいかにすぐれた水準にあるかをまざまざと体感していただきたいと思います。

歌舞伎400年、その進化はけっして止まらない_____

そんな感慨にふけりつつ、帰途についた、東銀座の熱い夜でした。

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