Mr.Dashが単身赴任になって初めての遠征登山。どこで合流するか、荷物をどうするか、
いろいろ試行錯誤したうえでの挑戦でした。さて、どう出るか・・・。
関西からはともちゃんとのぶちゃん、Y井氏、T橋くんが参加。T橋くんの車で平湯温泉に
向かいます。高速道路の渋滞は全くなく、予定より2時間も早く到着した関西組は、平湯温泉バス
ターミナルビル3階にある温泉に入って時間をつぶしました。
Mr.Dashは特急あずさとバスを乗り継いで、バスターミナルに、12:30に到着。無事合流でき
ました。5人揃ったところであかんだな駐車場へ。
シャトルバスの待合室で、奈良から持ってきたMr.Dashの荷物を詰め替えるのですが、
「白いザックを持ってきて」と言われていたことを、ともちゃんはすっかり忘れていて
(言われたことすら憶えてなかった)、千葉から背負ってきた日帰り用のザックを使うことに。
やはり口頭での約束は忘れてしまうので、メモを取っておくべきでしたね。
上高地に着くと、小雨が降っていました。雨具とザックカバーを着けて歩き始めます。
今夜の宿泊は徳沢園。小説「氷壁」の舞台にもなったことから、「氷壁の宿」とも呼ばれます。
調度品に骨董品や美術品が使われており、上品で落ち着いた雰囲気や、ホテルのようなおもてなしが
気に入っている宿です。
食堂の前にはこんなボードも。食事が楽しみになりますね。
実際に出されたのがこのメニュー。豪華です。ちなみにお風呂にも入れます。
次の日は快晴!気持ちよく歩き始めます。まだ残雪も多かったのですが、ショウジョウバカマを
見つけました。
本谷橋からはひたすら雪渓を登り続けます。気温も上がってグサグサの雪に足を取られ、
思うように登っていきません。
ドーン、ゴロゴロという地鳴りがして、上の方で雪崩が発生しているのが見えました。
距離も遠く、こちらに向かってくる様子もないので心配はしませんでしたが、やはり
気持ちのいいものではありません。しかし足早にその場を立ち去りたい気持ちはあるものの、
延々と続く腐った雪の斜面に息が上がるばかりでした。
歩きにくい雪質に加えて、気温が上がったことから、メンバーが体力を消耗して、思ったより
時間がかかってしまいました。元々の計画では今日中に北穂高山荘に着いて泊まることに
なっていましたが、それをキャンセルして、涸沢小屋に泊まることにしました。涸沢小屋の
テラスで昼食。徳沢園で作ってもらったお弁当は山菜おこわでした。
くつろいでいると、頭上をヘリコプターが旋回してきて、涸沢ヒュッテのそばに下りました。
急病人かけが人を一人乗せて、また素早く飛び立っていきました。
大部屋の窓が額縁みたいに見えました。どんな名画にも勝る景色です。
3日目。この日もよく晴れました。5:30の朝食を済ませてすぐ出発したおかげで、雪が
締まり、アイゼンがよくきいて歩きやすくなっています。
ここから山頂までの傾斜は、昨日の雪渓とは比べ物にならないほど急なものです。無心になって
足を進めるしかありません。
ともちゃんは、新しい重登山靴と、随分前に買ったワンタッチアイゼンの相性が悪くて、3度も
アイゼンが外れてしまいました。
何時間もの急斜面の登りにうんざりする頃、ようやく山頂にたどり着きました。
山頂からは富士山や槍ヶ岳が見えて、がんばったご褒美をもらえました。
立山の「雪の大谷」みたいにきれいに切り取られた隙間を通って、北穂高山荘へ。
眺めのいいテラスで、しばらく休憩させてもらいました。
さて、今度は同じ道を下って帰らなければなりません。実は下りの方が登りよりも数倍危険。
うまい具合に雲が出て気温が下がり、雪質はそれほど悪くならなかったのはラッキーでした。
そうは言ってもやはり雪が柔らかすぎて足を取られる場所もあり、脚も神経も相当疲れて
きます。
注意深く下りていると、ともちゃんのすぐ前を歩いていたおじさんが急に座り込み、「休憩する」
といって動かなくなってしまいました。追い越そうにも、あたりはズブズブの雪で、回り込む
こともできません。2メートルほど離れて、もう一本トレース(踏み跡)が並行していたので、
そこまで行こうとトラバースし始めました。何度も足を蹴り入れてステップを作ったつもり
でしたが、そこに足を乗せて体重をかけると、あっと言う間に雪が崩れ、足を滑らせて
ともちゃんは転がり落ちてしまったのでした。
滑落しながら、必死でピッケルを雪に突き立てるのですが、雪が柔らかすぎて摩擦力が働きません。
まるで融けかかったかき氷にフォークを刺しているみたいです。一旦は頭が下になって「ヤバイ!」
と焦りましたが、諦めずにピッケルに力を込め続けていたら、なんとかスピードダウンして
きました。すると、斜面を登っていた人が腕をつかんでくれて、ようやく止まることができたのです。
まずは立ち上がりながらお礼を言い、ケガがないか、途中で落としたりなくしたりしたものはないか、
壊れたものはないか、自分で全身をチェックしました。どこにも怪我がなく、装備も無事だったのは
奇跡的でした。怖い思いはしたものの、ここから先も自分で歩くしか下山の方法はありません。
ちょっと近道したと思って、気を取り直して再び歩き始めました。
今回の滑落の原因は、トレースのない場所に足を踏み入れたことだというのは明らかなので、
まずは踏み跡から外れなければ大丈夫だと自分に言い聞かせて進みました。それでも、下から
続々と人が登ってくるので、何度か道を譲らなければならず、その際にトレースからはずれると、
膝がガクガク震えるのが分かりました。
自分では、滑落した距離は20メートルくらいの感覚でしたが、滑ったときにすぐ後ろにいた
Y井氏は、ほんの10メートルくらいだったと言い、上の方にいたMr.Dashからは、
30メートルは落ちたように見えたそうです。さて、実際はどれだけ滑落したのでしょうか。
そこからは転ぶことも滑ることもなく無事に涸沢小屋まで下り、醤油ラーメンで昼食。
そのまま上高地まで下りて、予定通り、西糸屋山荘に泊まることにしました。
今日からゴールデンウィーク後半ということもあって、涸沢を登ってくる行列がすごいことに
なっていました。ひと足早く上高地入りできてよかった!
今日の歩行時間や標高差を考えると、横尾山荘あたりで泊るのが理想的なのですが、西糸屋山荘には、
ともちゃんが登山ガイドの検定を受けた時に一緒だったA川さんが働いているのです。
同じガイドの資格を目指していたとは言え、のんびりハイキングのともちゃんと違い、A川さんは
西糸屋山荘で働きながら、山岳救助隊からの要請があれば救助の手伝いやパトロールなどもされて
おり、今さら資格など要らないくらいの猛者なのです。彼は入山前から気にかけてくれて、いろいろと
情報をくださっていたので、やはりここで泊まりたいと、がんばって歩きました。
部屋に着くとA川さんからアップルパイの差し入れが届いていました。頑張った甲斐があった!(笑)
まずはお互いの無事を祝って乾杯。命拾いをした後の生ビール、最高でした。この日は岐阜県や
長野県でかなり大きな地震が頻発していて、食事中もけっこう揺れました。「ともちゃんが
転がったときの振動が原因やで」と、冗談が言えるのも、無傷でいたから。
お風呂で、筋肉痛になった腿やふくらはぎをマッサージしましたが、階段の上り下りでヒーヒー
言ってました。夜中も何度か自信で起こされましたが、ゆっくり身体を休めることができました。
チェックアウトの時に知ったのですが、ガイドの資格を持っている人は半額で泊れるそうです。
ともちゃんも宿泊料を半額にしてもらいました。講習や検定でお金がかかってばかりだったけど、
やっと、初めて報われたわ。「今後はお客様をたくさん連れてきてくださいね」とのことです。
フロントにいた紳士も、談話室の写真を見る限り、実はすごい登山ガイドのようでした。
最終日。お世話になった西糸屋山荘に別れを告げ、上高地からあかんだな駐車場へ。駐車場周辺に
生えていたフキノトウとつくしを収穫したのが、ともちゃんの何よりのお土産。平湯のバスターミナル
で、またも温泉に入りました。
Mr.Dashが乗るバスを待っていると、水平の虹が見えました。「彩雲?」
後で調べたら、「環水平アーク」と呼ばれる現象で、同じころ日本各地で見られたそうです。
関西組が昼食のために立ち寄ったラーメン店の駐車場では、幻日環も見られました。地震と
関係があるといわれており、実際に何度も揺れているので、珍しいものが見られた嬉しさ半分、
気味悪さ半分といったところです。
帰りも渋滞に遭うことなく、明るいうちに家に着きました。
次の日になって、左の腕とむこうずねに青あざが現れました。滑落の際、全くの無傷だったわけでは
ないようですが、この程度で済んだのはやはり幸運でした。安全登山のためには、まだまだ雪に慣れる
必要がありそうです。