集成・兵隊芸白兵

 平成21年開設の「兵隊芸白兵」というブログのリニューアル。
 旧ブログ同様、昔の話、兵隊の道の話を続行します!

今年初のサバキ、ふしぎ発見!(先代の格言の意図を探る!)

2018-02-17 07:16:52 | 芦原会館修行記
今も版を重ね続けるカラテ界不朽の名技術書・「実戦!芦原カラテ3 誰にでもできる空手」(講談社刊。芦原会館のネット販売ページで購入できます(;^ω^))は、左側ページ(同著は横書き・右開き構成)の下部に「ひとことアドバイス」が10~184ページに亘って書き連ねてあります。
 芦原会館の門人でなくなった現在でも、たまに稽古の内容や技術進歩に行き詰った際にパラパラ、とめくると「ハッ!」とする新たな発見があるのですが…今回の「サバキ、ふしぎ発見!」で特に取り上げたい名言はこちらです。
「すれ違ったら倒す」
 同著160ページ、「投げの3」の解説として記載された言葉ですが、これはサバキの、そして「実戦」の本質を見事に表現した、まさに至言ともいえるひとことです。

 サバキをものすごく簡単に、しかも周防平民珍山といういち個人の解釈により表現すると…「エネルギー確率論を軸に、効率論をギリギリいっぱいまで集成させた体系」です。
 それがどのように「実戦」の役に立つのか。今回のサバキふしぎ発見!は、そのへんをお話しいたします。 

 日本で唯一、学術的なケンカ術を研究している林悦道・士心館館長は、ケンカに勝つために必要なファクターを次の2点に絞っています。
(以下、林先生のお言葉として抜粋した箇所の出典はすべて「ケンカ術の科学 データと数式が示す不敗の構造」〔東方出版〕 )
 ① 的確な状況判断ができる頭脳
 ② 的確に人を倒せる技術と肉体
 林先生によりますと、必要なファクター①②の比率変換は7:3、名人クラスになると8:2、甚だしい場合は9:1になるとのこと。
 それじゃあ、②なんていらないんじゃないの?ということを考える人もいるでしょうが、そういうことではありません。逆に言えば、①のレベルがいくら高くても、②のレベルが低ければ完全に画竜点睛を欠きますし、だいいち、②なくして①のレベルが上がるはずがないので、①しか必要ない、という議論は成り立ちません。それはさておき。
 林先生はケンカ術を「頭脳を主としたエネルギー確率論(いかに自分が相手の攻撃を食わず、自分の攻撃を相手に命中させるか)」としています。
 ケンカ術ではとにかく、相手の攻撃行為を如何に適切に外していくか、ということがまず主眼となります。
 そのために必要なことはまず…適切な間合いを取ること、確率論を発揮しやすい有利な位置に占位すること、場所を味方につけ、接近戦に変化した場合は効率論(自分のエネルギーをいかにロスなく、相手に投射するか)にすぐ変化できるようにする…
 ここまで読んで「!!!!」と気が付いたあなたは、相当な芦原カラテ研究家とお見受けします。
 そう、林先生の言うケンカ術の基本理念、そこから必要となる各種ファクターを、サバキはすべて含んでいるのです。

 まず第一に、芦原カラテ、そしてサバキは打撃系格闘技たる「空手」を母体とします。
 サバキを見て「投げを使っている。これは合気道と同じだ」などと、「主張している人の頭は大丈夫か?お薬差し上げましょうか?」的な批評をする人が今も昔も後を絶ちませんが、これは後述する「効率論に変化する」箇所だけを切り取り、その部分しか見ていない粗末な意見です。
 相手の攻撃を食らわない、逆にこちらの攻撃を当てるためには打撃系格闘技の基礎知識は必須であり、逆にその知識と技術なくして「確率論」を体現することは不可能です。だからサバキの根本は空手であり、その技術なくしてサバキも成り立たない。当然の話です。

 ワタクシ、職場でタイーフォ術や格闘技を教えたりする係をしておるのですが、何がむつかしいと言って、格闘技経験のない人間に「打撃を避ける方法」を教えることほど難しいことはない!これは今までの経験上、自信をもって言えます!
 組みつく、取っ組み合うという「原始的効率論」は人間の本能に根差すものであり、誰に教えられなくてもある程度はできます。っていうか、素人同士の喧嘩はいつもそうなりますよね(;^ω^)。
 ところが打撃系格闘技の技術は「効率論」と違って完全に後天的なものであり、習得には練習が必須です。ところがうちの職場のアホはその「確率論は専門練習必須」の理屈がわからない。何度説明してもダメ。困ったものです。それはさておき。

 打撃系格闘技の技術を持つことは、「確率論」を高いレベルで体現する大きなアドバンテージとなります。ただ、ケンカの状況は時々刻々と変わります。例えば相手の人数が多い、武器を持っている、突き蹴りを振るえるほどの隙間がない、などなど…なので、「確率論」をただただ原則通り振りかざすだけでは、いつかジリ貧になる瞬間が訪れます。
 相手を「完全に叩きのめす」ためには、突き蹴りをただ振り回すだけでは完全に役不足。立って動いている人間を殴ってKOするのは、プロでも難しい。そこで必要となるのが自分のパワーをロスなく相手に伝える「効率論」です。
 そうです。実戦なるものを勝利に導くためには、「確率論」に準拠した「相手の攻撃を食わない」ことを主軸としつつ、相手を完全制圧しないといけない場合、どこかのタイミングで「効率論」にスイッチしなければならないわけです。

 「効率論」を最大に発揮する方法は、相手を壁や地面など、硬いものに叩きつけること。それも、相手に接触する面積を最小限にとどめつつ、こちらのパワーを投射する方法で…
 その答えこそが、芦原会館の「投げ」であり、「確率論」を「効率論」にシフトチェンジする瞬間こそ、冒頭に掲げた「すれ違ったら」なのです。
 相手とすれ違う瞬間までに受ける攻撃は「確率論」でかわす。しかし、それよりも詰まった間合の場合、あるいは相手を完全制圧する必要がある場合には積極的にインファイトし、「すれ違ったら」その瞬間に「倒す」。
 芦原会館の「投げ」は本当によく考えられており、少ない接触で最大限に「効率論」を発揮できるようにできている。これは芦原会館ののち、組技系格闘技に没入したワタクシも自信をもって「よくできてる!」と感心するほどです(;'∀')。

 以上グダグダと「すれ違ったら倒す」に関するお話を記載しましたが…門人じゃなくなった今頃気が付いても遅いのですが、本当にサバキというのは奥深いものだと思います。

3 コメント

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Unknown (老骨武道オヤジ)
2018-02-18 06:37:13
お待ちしておりました。今回はほかの皆様のコメントに期待いたします。私はただ一言「同感じゃ!!」と述べておきます(^^)v
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Unknown (四十路メタラー)
2018-02-18 19:40:40
周防平民珍山様

ご無沙汰しております。
「サバキふしぎ発見」、お待ちしておりました。

今回のテーマ「すれ違ったら倒す」も興味深く拝読しました。
正直に言いますと、これまで「すれ違ったら倒すって何なんだ?」と思っていたんですf^_^;
ヒントをいただき、ありがとうございました!

一般的に「投げ技」と聞くと、柔道などでいうところの背負い投げなどを想像しがちですが、相手に自分の背中を見せる格好になり、「すれ違いざま」とは言いがたいです。
横回転とポジショニングを利用した巻き込み投げはまさに「すれ違いざま」の技法ですね。
今回の考察で、「すれ違いざま」のテイクダウンこそ芦原カラテの「投げ」の本質なのだな、と再認識した次第です。

私は組み技系の格闘技の経験はないのですが、キックのジムでは首相撲の練習をしています。(翌日の筋肉痛がつらいです(>_<)…)
キックボクシングでは首投げや背負い投げは禁止なので、芦原カラテの投げ技が応用できそうです。
すでに首相撲の練習中にも回し受けを使って相手の組みからの脱出、反撃に利用しています。
いろいろ使える芦原会館の技術に感謝ですm(_ _)m
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いずれもありがとうございます! (周防平民珍山)
2018-02-18 20:07:18
 コメント頂きました老骨武道オヤジさま、四十路メタラーさま、いずれも、マニアックにもほどがあるお話に果敢にコメント頂き、大変ありがとうございます!

 特に四十路メタラー様におかれましては、「サバキ、ふしぎ発見!」を待っていただいておられたとのことで、恐懼に堪えません。本当にありがとうございますm(__)m
 また、コメントからも日々研究や稽古を欠かさずにおやりになられていることがわかり、こちらが平伏するくらいでございます。

 私的な話で恐縮ですが、ワタクシは芦原会館の門人でなくなったあと、打撃系では関西系フルコン、キック、組技系ではアマレス、SAWなどを練習し、いずれも帯に黒色がつくまで練習したのですが、その過程で芦原の「投げ」を再考察して、やっとそのすごさに気づいたのですm(__)m。

 組技系の投げは、寝技と表裏一体であるために捨身系の投げも多く、「倒れる」「寝る」ことが致命的な不利を呼ぶ「実戦」では有効性を疑われるものが多い。そんな中、自信をもって「立ったまま確実に制圧ができる、倒せる」投げを収斂した芦原の投げは本当にすごいものであり、今もこうやってフューチャーしている次第でして…('◇')ゞ

 「サバキふしぎ発見!」のタネは沢山あるのですが、こうやって文章にまとめるのはなかなかむつかしく(←ブログ主の怠惰とアホさのせい)、アップの頻度は本当に少ないのですが、今年はなるべく、たくさんのサバキの不思議に迫っていきたいと思っておりますので、これからもお見捨てなきようお願いし、また、四十路メタラー様がケガなく稽古を継続頂きますよう、お祈りしております。
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