【その48 「逮捕術」陰の立役者はピストン堀口だった】
初代「逮捕術教範」第2条を再度、振り返ります。
「逮捕術は柔術、警棒術、空手術、拳闘その他内外古今の格闘術及び護身術を参酌し、警察官として容易に習得し得られる最も有効適切なるものをもって編み出したものである」
そして、制定委員として拳聖・ピストン堀口(堀口恒男)氏を起用したこともだいぶ前に振れました。
ではいったい、「初代」のどこに拳闘の要素が組み入れられたのか。
結論から申しますと、じつは「初代」の術技として採用されたボクシングテクニックは、全然確認できません。
「応用技」に入っていないのはまあいいとしても、「基本技」にすらそれらしいものは入っておらず、一見して「え?」と思うこと請け合いです。
ただこれは、ボクシングというものの本質を知っていれば、すぐに氷解する疑問でもあります。
もともとボクシングというのは「定格・整地のリングで、両拳にバンテージを巻き、グローブをつけて実施する格闘スポーツ」。
そのテクニックは上記の舞台・上記の拳以外では使えない技術…つまり、ルールのない「実戦」でうかつに出してしまえば、容易に逆襲を許してしまう技で埋め尽くされています。
ではなぜ当時は、街のター公が生かじりした程度の半チクボクシングが、即効性のあるケンカツールとして威力を発揮したかといいますと、これは武道・格闘技における常識中の常識である「知らない技は簡単にかかる」という言葉で理解が可能です。
以前もお話ししました通り、わが国のケンカでは「打撃技」のレベルが非常に低く、ごく初歩のコンビネーションであっても、それを知らないシロウトを倒すには十分な打撃力があったわけです。ケンカにおけるボクシングテクニックの登場は、「戦国時代における火縄銃の出現のようなもの」といえば、なんとなくわかって頂けますでしょうか。
また、当時の一般人がボクシングについて唯一触れることができたコンテンツである「映画」では、主役がボクシングテクニックらしきものを駆使して、悪役をバッタバッタとなぎ倒すというのが定番でしたから、「ボクシングとは、どんな相手も一撃でなぎ倒すスゴいものだ!」という思い込みに起因する威嚇の効果もありました。
こうした「ボクシングが制圧する技に向かない」ということ、そして生半可ボクシングがケンカツールになり得てる正体・機序を一番よく理解してたのは、他ならぬピストン堀口制定委員、その人でした。
堀口制定委員はボクシングの長短所を知り尽くしているのみならず、自らの志向する「拳闘道」の完成のため、本朝の武道を研究し尽くしていまたし、また、これは「ピストン堀口の生涯」を語る際によく見落とされることですが、堀口制定委員は戦前の早大卒という超インテリなのです。
それゆえ堀口制定委員は逮捕術におけるボクシングを「制圧技として組み込む」ことではなく、「敵を知るため、自分を磨くための練習の一環」として残す道を選びました。
堀口制定委員は第24回・【その40】で話しましたとおり、アメリカの占領下にあったわが国に於て、逮捕術を進駐軍に認めさせるための安全手形のような存在でした。ピストン堀口氏が制定委員になっているからこそ、逮捕術技の検討や制定が進駐軍から許可してもらえる…といった事情が当時、間違いなくあったわけです。
ですから制定委員会の席上、堀口制定委員がボクシングの地位向上だけを目指し、鼻息荒く「ボクシングのコンビネーションを基本技に入れろ、ステップを基本技に入れろ」と訴えた場合、ほかの制定委員や警察幹部も、止める手立てはなかったことでしょう。
しかし堀口制定委員は、いままで申し述べたような理由からそれを一切せず、かわりに「初代」のなかに深遠な宿題を入れた…
「初代」の術技のなかに、ボクシングテクニックが目に見える形で採用されていない理由は、おそらくこうした経緯によるものではなかったのではないでしょうか。
では「拳聖」が逮捕術に練り込んだ「宿題」とは?
それは「初代」の基本技・「前突き」の訓練備考欄に書かれた、この部分です。
「拳闘の構え、左右直突(=ストレート)、斜打(=オーバーハンド)、鉤打(=フック)、刻打(=ジャブ)、突上(=アッパー)等の要領も訓練すること」
要するに堀口制定委員は「敵を知らなきゃ、戦いには勝てない。制圧術技としてボクシングを採用する必要はないが、ボクシングテクニックを知り、その対策を練らなきゃ、ボクシング使いの制圧はできないよ?わかる?」ということを、この一文に集約したのです。
こうしたことをわざわざ公文書に書くのは極めて異例であり(当然、現在の警察逮捕術の通達からは除かれています)、「初代」のなかでもかなり異彩を放つ一文です。
「知らない技は簡単にかかる。だからこそ、様々な勉強とトレーニングを。」
「拳聖」が初代逮捕術の短い一文に込めたその思い…現代の「逮捕術使い」のなかでいったい、何人がその真意を理解しているか…不明です。
ともあれ、初代逮捕術を形成するうえで、ピストン堀口制定員がひっそり果たした功績は絶大なものがあり、もっと大々的に取り上げられるべきと思います。
初代「逮捕術教範」第2条を再度、振り返ります。
「逮捕術は柔術、警棒術、空手術、拳闘その他内外古今の格闘術及び護身術を参酌し、警察官として容易に習得し得られる最も有効適切なるものをもって編み出したものである」
そして、制定委員として拳聖・ピストン堀口(堀口恒男)氏を起用したこともだいぶ前に振れました。
ではいったい、「初代」のどこに拳闘の要素が組み入れられたのか。
結論から申しますと、じつは「初代」の術技として採用されたボクシングテクニックは、全然確認できません。
「応用技」に入っていないのはまあいいとしても、「基本技」にすらそれらしいものは入っておらず、一見して「え?」と思うこと請け合いです。
ただこれは、ボクシングというものの本質を知っていれば、すぐに氷解する疑問でもあります。
もともとボクシングというのは「定格・整地のリングで、両拳にバンテージを巻き、グローブをつけて実施する格闘スポーツ」。
そのテクニックは上記の舞台・上記の拳以外では使えない技術…つまり、ルールのない「実戦」でうかつに出してしまえば、容易に逆襲を許してしまう技で埋め尽くされています。
ではなぜ当時は、街のター公が生かじりした程度の半チクボクシングが、即効性のあるケンカツールとして威力を発揮したかといいますと、これは武道・格闘技における常識中の常識である「知らない技は簡単にかかる」という言葉で理解が可能です。
以前もお話ししました通り、わが国のケンカでは「打撃技」のレベルが非常に低く、ごく初歩のコンビネーションであっても、それを知らないシロウトを倒すには十分な打撃力があったわけです。ケンカにおけるボクシングテクニックの登場は、「戦国時代における火縄銃の出現のようなもの」といえば、なんとなくわかって頂けますでしょうか。
また、当時の一般人がボクシングについて唯一触れることができたコンテンツである「映画」では、主役がボクシングテクニックらしきものを駆使して、悪役をバッタバッタとなぎ倒すというのが定番でしたから、「ボクシングとは、どんな相手も一撃でなぎ倒すスゴいものだ!」という思い込みに起因する威嚇の効果もありました。
こうした「ボクシングが制圧する技に向かない」ということ、そして生半可ボクシングがケンカツールになり得てる正体・機序を一番よく理解してたのは、他ならぬピストン堀口制定委員、その人でした。
堀口制定委員はボクシングの長短所を知り尽くしているのみならず、自らの志向する「拳闘道」の完成のため、本朝の武道を研究し尽くしていまたし、また、これは「ピストン堀口の生涯」を語る際によく見落とされることですが、堀口制定委員は戦前の早大卒という超インテリなのです。
それゆえ堀口制定委員は逮捕術におけるボクシングを「制圧技として組み込む」ことではなく、「敵を知るため、自分を磨くための練習の一環」として残す道を選びました。
堀口制定委員は第24回・【その40】で話しましたとおり、アメリカの占領下にあったわが国に於て、逮捕術を進駐軍に認めさせるための安全手形のような存在でした。ピストン堀口氏が制定委員になっているからこそ、逮捕術技の検討や制定が進駐軍から許可してもらえる…といった事情が当時、間違いなくあったわけです。
ですから制定委員会の席上、堀口制定委員がボクシングの地位向上だけを目指し、鼻息荒く「ボクシングのコンビネーションを基本技に入れろ、ステップを基本技に入れろ」と訴えた場合、ほかの制定委員や警察幹部も、止める手立てはなかったことでしょう。
しかし堀口制定委員は、いままで申し述べたような理由からそれを一切せず、かわりに「初代」のなかに深遠な宿題を入れた…
「初代」の術技のなかに、ボクシングテクニックが目に見える形で採用されていない理由は、おそらくこうした経緯によるものではなかったのではないでしょうか。
では「拳聖」が逮捕術に練り込んだ「宿題」とは?
それは「初代」の基本技・「前突き」の訓練備考欄に書かれた、この部分です。
「拳闘の構え、左右直突(=ストレート)、斜打(=オーバーハンド)、鉤打(=フック)、刻打(=ジャブ)、突上(=アッパー)等の要領も訓練すること」
要するに堀口制定委員は「敵を知らなきゃ、戦いには勝てない。制圧術技としてボクシングを採用する必要はないが、ボクシングテクニックを知り、その対策を練らなきゃ、ボクシング使いの制圧はできないよ?わかる?」ということを、この一文に集約したのです。
こうしたことをわざわざ公文書に書くのは極めて異例であり(当然、現在の警察逮捕術の通達からは除かれています)、「初代」のなかでもかなり異彩を放つ一文です。
「知らない技は簡単にかかる。だからこそ、様々な勉強とトレーニングを。」
「拳聖」が初代逮捕術の短い一文に込めたその思い…現代の「逮捕術使い」のなかでいったい、何人がその真意を理解しているか…不明です。
ともあれ、初代逮捕術を形成するうえで、ピストン堀口制定員がひっそり果たした功績は絶大なものがあり、もっと大々的に取り上げられるべきと思います。
当時の方が治安、進駐軍の意向、将来を
見据えた組織の作り方などなど、
恐ろしいほどの複数問題をいろんな
立場で同時に処理してたんですね。
知られざる超偉人:(;゙゚'ω゚'):が
こんなにたくさん
この連載のおかげさまで
また気づかせてもらえました
過去への誇りが未来に希望を
もたらす。チャーチル首相です
引き続き長い長い歴史
お待ちしております。
この連載、あともう少しでオーラスとなります。今少しだけ、お付き合いくださいませ。よろしくお願いいたしますm(__)m。