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セピア色の想い出。

日々の生活と、其処から生まれる物語の布飾り。

月の静寂(しじま) En.7 身代わり無き月 

2008-03-03 03:25:57 | 凍結


「くそ、くだらない。」
「依頼は、どうするかね。」
「受けるしか無い状況で、どうもこうもあるのかしらね、タヌキジジイ。」
「辿れるような、ソースを残しているのは、誰かな?」
「ああもう、セイバーハーゲンよりも、性質(たち)が悪い。
 仕事だから、受けるけど・・・・・・夜道には、気をつけてね。」
「・・・月が出ている時でも、じゃな。」
「・・・・・・・・タヌキ。
 黒鳥(ブラックスワン)も、可哀想に。」
「お主は、人には、滅びろと?」
「うん。セイバーハーゲンの余禄だもの。
 それに、君は、彼の決意を汚しているわ。」
少し前の、御前と私の会話。
はっきり言って、虫好かないかんじの。






  En.7 身代り無き月







私が、ストラウスの元へ、「転移」している最中。
花雪が、廊下を歩きながら、何やら、思い悩んでいた。
大方、ストラウスの目的だろう。
確かに、彼の目的が「復讐」であれば、「筋」は通るだろう。
だけれど、黒鳥としての彼女の記憶は、それを支持しないだろう。
状況を詳しく、冷静に分析すれば、解るだろうし、私は、ストラウスとの約束もあって話す事はしない。
ストラウスの処に、向かっていたのだろう。
縁側のような場所で、ケーキと紅茶を楽しんでいるストラウスがいた。
手には、「ウィクリーナビ」が、あった。
「・・・・・・その分ですと、お体の調子は、よろしいようですね。
「おかげでな。
 身体は完治したし、魔力も三割方戻った。」
私は、目的のストラウスを見つけても、とりあえず、傍観する。
一応、ここで、ことを起こすほど、阿呆じゃないだろうし。
「それより、レティを知らないか?」
「あの子なら、不誠実な貴方に愛想を尽かして出ていったようですよ。」
「そうか、それなら、身軽になって良い。」
二人は、至って真顔でそう会話を交わす。
しかし、一応、ギャグとしての意味で言ったのでなくても、表情が動かな過ぎるぞ?
しばらく、沈黙が落ちる。
その後、花雪は、レティがGM御前についていった事を告げる。
しまった、もう出ちゃってるか。
花雪は、窘めるように、ストラウスに、「唯一の仲間をもっと大切にしたら、どうですか?」と言われた。
そこで、私は、二人の前に広がる庭園に降り立つ。
「・・・その人は、味方を求めないよ。
 孤独が怖いなら、私や、ブリジット、国や民を捨てなかったんだろうね。
 少なくとも、私は、コミュニティの維持には必要ないし、それでも、その人は、連れて行かなかった。」
「お祖父さまに付いていったと思っていました。」
「うん、一応、陛下にご機嫌伺いしてからと思って。」
ストラウスは、溜め息一つ。
一応、私が、「陛下」と呼ぶことへの意味を知っているからなのだろうけれど。
半分は、ね。
私は、その気配を背に、縁側に腰掛ける。
「――――――あの時、望めば、私の側には、全てのダムピールがあっただろう。
 国を全て、味方にも出来たのだ。」
「・・・・・・・なぜ、望まなかったのですか?」
「私が、側にと望んだのは、ステラだけだ。」
「花雪、失ってしまったモノに、天地全てを別のモノをあてがおうと、欠落は、際立つばかり。
 そう言うモノなんだよ、ストラウスにとっての、ステラはね。」
「・・・よくご存知で。」
「そりゃね。
 ブリジットよりも、長く、彼といるし・・・私にも、覚えが無いわけではない。
 ・・・・・・違っていたら、ごめんなさい、ストラウス。」
ストラウスは、縁側から、庭に降りた。
そして、庭の椿の木の側まで、歩きながら、椿の花に手を伸ばしながら、こう呟く。
「いかに、不毛でも、孤独に復讐を求める方が、どれほど、気が休まる。」
誰に聞かせるわけでもなく、ただ、自らの真の心情であるかのように、呟く。
ストラウスの真の心は、時間と共に、遠く遠くに言ってしまった。
だけど、私は、敢えて、訂正しない。
私は、ストラウスの知る真実を知っている。
同時に、ストラウスの決意も知っている。
だから、訂正しない。
「私は、ステラに出会って、将軍でも、王でも、ヴァンパイアですら無い、ただの「自分」を見つけた。
 ・・・・・・・私だけの月を手に入れたんだ。
 その輝きを忘れられず、それを失った暗黒が私を苦しめる。」
そうだね、一度、手に入れた「月」を失えば。
失っても、手に入れた時の、温もりを、輝きを、忘れる事が出来ない。
出来ないからこそ、失った事実は、蝕むモノだものね。
「仮定は、無駄だけれど、ステラに会っていなければどうだった?」
「―――――――私が、ステラに会っていなければ、最後まで、国と民を守っただろう。
 血族を守る為に、この身を投げ出しただろう。
 ・・・皆を護るだけの「王」という心無き装置であれただろう。」
感情を込めない呟き。
込めないからこそ、その呟きには、それでも、「哀しみ」が見えた。
だけど、その後の事を考えれば、ベターだよね。
そして、ストラウスは、落ちた椿を見つめ、或いは、遠くを見つめ、腰を落とした。
「だが、私は、ステラに出会った。
 彼女を奪われた。
 ・・・彼女の中にあった、彼女との子どもも、殺された。」
半分は、真実だ。
或る意味でも、真実だ。
論理は、アーデルハイトが、犯人だと告げる。
だけれど、論理にも昇らぬ、「REDRUM」がいたのだ。
今は、昔なのだ。多くは語るまい。
「あまつさえ、殺した者は、十年もの間、私の妃であったんだ。
 心なき装置であれるはずもないだろう――――――――――――・・・」
私の後ろの円形の椅子に腰掛けた花雪が、ほうけるのが、気配で分かる。
それもそうだろう。
真意は、「復讐」なのか、「それ以外」なのか、断し難いのだろうから。
「・・・私の心のうちは、どうでもいいことだな。
 むしろ、お前が、迷うのを見る方が、私には楽しい。」
「(・・・どうしたことでしょう?
  こちらが、圧倒的に有利だったはずなのに、たった一つの真実の揺らぎが此処までまどわせるとは・・・)」
ということを思っているのが、気配だけで分かる程、花雪は動揺していた。
たった一つの真実で、揺れる位なら、それは、圧倒的に有利では有り得ない。
ま、ストラウス相手だし、仕方ないと言えば、そうなのだろう。
「・・・・・こうも、連日屋敷に籠っているのも、気詰まりだな。
 どうだ、花雪、エレノア、たまには外に食事しないか?」
「・・・・・・・はい?」
「街には、いい店がたくさんあるそうだ。」
「あ、ごめんなさい、ストラウス。
 お姉さんは、これから、お仕事だから。
 花雪と楽しんで、食事して来てね。」
ストラウスの誘いを断りつつ、私は、「転移」を編み始める。
そして、彼にしか聞こえないように、
「ご武運を、陛下。」
と囁いて、地を踏み切って、「転移」した。
この時期に、蓮火の暴走はマズいだろうし。
にしても、ストラウス、タヌキっぷりでは、御前に負けてないと、思うよ?






GM御前の自動車の車内に直接、「転移」した。
いきなり、現れた私に、御前は、驚いたのが、気配で分かった。
「遅くなったわ、御前。」
「もうすぐ、着くぞ。」
「思ったより、時間、掛かってね。」
一応、弁解はしておく。
今、この車は、ブリジットとの会談の場所へ向かっている。
かなり、「会談」と言う言葉に合わない場所だろうけど。




ブリジットが、会談に選んだ場所は、「回転・かなと寿司」だ。
一言で言うなら、本当に、何の変哲も無い回転寿司屋だ。
少々時間外れのせいか、人は少ない。
それでも、私とブリジットと、レティと御前の組み合わせはどう見られてんだろう。
孫三人を連れて来たお爺ちゃんという図なのだろうか。
「レディ・ブリジット。
 どうして、こうも、奇矯な場所にばかり呼び出す。」
「奇矯な面を被ったヤツが何を言う。
 だいたい、モノも食えんその面で来る方も来る方だろう。」
「あ、ブリジット、御前は、顔出せる顔じゃないんだよね。
 ・・・ネギトロと赤貝を三枚づつお願いします。」
「へい!!ネギトロと赤貝を三枚!」
「あ、穴子来た。」
ブリジットと御前は、真面目に、会談をしている。
しかし、私とレティは、ご飯に専念している。
うーん、カニ汁にするべきか、タラ汁に、いや、豚汁も捨て難い。
こういうトコのは、大量にし込んでるから、うまーなのだ。
その間に、二人の話は進む。
前の会談から、約二日で、御前は、コミュニティから、軍事包囲は愚か、偵察衛星まで外したらしい。
うん、潔いというべきなのかね。
一応、下心あるわけだけど。
「下手を打って、そちらの機嫌を損ねても、ことだ。
 この先の難局を乗り切る為に、そちらの協力は必要不可欠だ。
 出来うる限り、求めに応じよう。」
「ほう、随分と低姿勢だな。
 こちらの脅し以上の事があったな・・・」
ブリジットは、にぃと笑い、そう言った。
どうでもいいけど、美人がそれをやると、怖いです、ブリジットさん。
その言葉を受けて、レティを箸をくわえながら、こう付け加えるように言う。
しかし、行儀悪いぞ。
ストラウスに、その辺の事は、仕込まれているだろうに。
「どうも、こいつら、ストラウスにアーデルハイトさまを殺されるのは、都合悪いらしいよ。」
「黒鳥も、面白い位に、慌ててたね。
 今代のは、やや精神面が不安定かもね。」
「なるほどな、封印を大規模に捜索しているのは、そう言う理由か。
 ・・・「腐食の月光」まで、必要としていたとはな。」
「或る意味、念には念のレベルだけど。
 あるに越した事はない。」
ブリジットが、レティシアの様子を見ながら、少し、少しだけ「遠い目」をした。
多分、昔のストラスに勉強を教えてもらっていた頃を思い出しているのだろう。
口がうまいから、レティも,ブリジットも、ストラウスを慕ったわけでは無いだろうに。
複雑だねぇ。
陛下は、あの頃となんら、お変わりない。
精々が、少々下世話なギャグが言えるようになった位だ。
それでも、ブリジットは、湯のみを叩き付けるようにして、こう注文を出す。
「ウニを三皿もらおうか。」
「へい、ウニ三枚ね!」
こらこら、御前が、怪訝な顔しているじゃないか。
もう少し、おしとやかにね。
一応、ストラウスを恨んでいると同時に、慕っているのを知っているけど。
・・・・・・今、流行のツンデレなのかな?
恋愛感情ってわけじゃないんだろうけど、その人の事が、好きなのに、ツンツンしてるしな。
うん、ブリジットは、ツンデレだ。
面白い。
うん、近いうちに、からかって見よう、うん。
面白そうだし。
「・・・・・・時期尚早ではあるが、こちらの腹を明かそう。
 何故、ヴァンパイア王と女王を必要とするかを。」
そんなことを考えていたら、御前が、『理由』を話そうと決意したようだ。
確かに、やや時期尚早だ。
ベストな時期は、解らない。
しかし、ベターとしては、証拠を提示できることなのだろう。
それは、御前とて、解っていたのだろう。
時間を稼ぐ意図も少しはあったのだろう。
こんな事を言って来た。
「その前に、一つ、聞きたい。
 そもそも、ヴァンパイアとは、一体なんなのだ?」
ま、確かに、人間が、ヴァンパイア・・・吸血鬼と聞けば、
『人の姿をし、超常の力と不死身の身体を持ち。』
『喉をその牙で吸った血で潤し。』
『十字架に怯え、陽光に滅ぶ人外』
こんなところだろう。
夜道を歩くなら、豆をまけとか、流れる水が苦手とか。
或いは、塩味がダメだとか。
結構、滑稽というか、それを実地で知っているだけに、ぶち殺したい伝承もある。
これだけ、一定しないバケモノも珍しいんだろうけど。
「花雪の話や、実際にこうして会うと、実際のぬしらのイメージとは違うの。」
「ふん、全てが間違っているわけではない。
 純血のヴァンパイアは、陽光を浴びれば、滅ぶ。
 ・・・・・人間や他の種族とヴァンパイアの混血であるダムピールも、太陽の下では、著しく能力と身体機能を削がれる。」
ま、正確じゃないにしろ、大体は正確だ。
あの部分を言ってしまえば、人と歩み寄る事すら難しくなる。
いや、もう難しいどころではないか。
御前は、全てが終れば、コミュニティを滅ぼすだろう。
・・・・そうなれば、あの術を全力発動して、世界人口を八割を減らしてやろうと決めている。
誰にも、リトにすら話してないが。
「十字架にどれほど効果がある?」
「魔術的には、ともかく、私達には形に意味はないわよ。
 霊力を・・・人間がヴァンパイアや私達に対抗できうる力を留めやすい形だったから、昔から、武器防具に使用されて来たってわけ。」
「・・・・・・・そのみてくれ、だけが、残っているだけだ。」
そんな話をしている間に、私も、レティシアも皿を積み重ねている。
あ、私は、話しながら、食べてるんだ。
レティは、全然話に参加しないで、もう、30枚以上皿を詰んでいる。
・・・一応、寿司だけじゃくて、副菜ー唐揚げだの、ゼリーだの、フルーツポンチだのの分の皿も、混ざっている。
混ざってはいるが、いささか、食べ過ぎではないだろうか?
というか、私でも、まだ、20枚だぞ?
「マンゴープリンもいただき!!」
「・・・・おい、山猫。
 聞いているのか?」
「うん?聞いてる、聞いてるよ?」
「・・・まったく。」
「へい、生ビールと、オレンジサワーお待ち!!」
見かねたのか、ブリジットがそうレティに、聞くが、手を止めずに生返事をするだけだ。
・・・どうでもいいけど、半分親子か、姉妹にちかい会話のような気がする。
つくづく、仲が良いのか悪いのか。
敵対関係にある以上一概には、良いとは言えないけど、それとて、悪いとも言えないのだろう。
特に、ブリジットは、ダムピールコミュニティを預かっている。
だから、その関係の部分もあるのだろう。
「人間達のイメージで、一番の違いは、「吸血」だろう。
 私の知る限り、記録に残っている限りも含めて、血を吸ったダムピールも、ヴァンパイアも居ない。
 吸血衝動を持つ者は、おろか、生きる為にすら、必要はない。」
「普通に、ご飯があれば、大丈夫だし、それも、人より少なくても大丈夫な範囲かな。
 あの頃、夜の国の敵対国ですら、「吸血」を恐れるのは、皆無だったよ。
 ・・・そりゃ、吸血ヒルとかはいたけど、ダムピールやヴァンパイアに、「吸血」を恐れるのは居なかったね。
 陛下、ストラウスも、血を欲しがったりしなかったでしょ?」
「うむ。
 吸血については、後世の作り話か?」
私も、ブリジットと共に、話を騙る。
ま、基本、私はマッドサイエントか、ビブリオマニアと称される類いだ。
語るのも、騙るのも、嫌いじゃない。
・・・・・・でも、レティ。
ビッグパフェって、確か、十人前だよね?
ああまで食べて、大丈夫なのかな?
少し心配になった。
ブリジットと御前も、凍っていた。








タイトルは、三重の意味の「身代わり無き月」。
ストラウスにとっては、「ステラ」。
エレノアにとっては、「テオ」
ここまでは、誰にも変えれない相手と言う意味。
御前達にとっては、「腐食の月光」
これは、代替えの効かない駒と言う意味で。
まだ、「月」は動き始めたばかり。


月の静寂(しじま) En.6 とある騒動の前奏曲

2008-02-04 06:34:36 | 凍結

「・・・・」
「エレノア、その名で、もう呼ぶな。」
「一応、継ぐのね、「鉄扇寺風伯」の名前を。」
「ああ、親父様の名前だ。
 赤バラ王を倒せず散った無念をも受け継ぎたい。」
「そっか。
 大変だと思うよ、女性なのに?」
「女は、捨てる。
 赤バラ王の最期をとるまではな。」
「やれ切れるといいわね、としか言い様が無いわ。」
風伯と私の、五百年前の会話。
彼女の父親が、死んだ数日後のお話。



En.6 とある騒動の前奏曲



翌々日の夜。
牡蠣とキノコのXO醤炒めと南瓜サラダ、鶏肉とキノコの味噌ホイル焼き、海鮮トマト煮込み、オニギリ数種類、天むすが食卓に並んでいる。
リトの腕を振るった料理の数々だ。
ここは、リトー私・エレノアの義理の子どもの家だ。
ストラウス達が、いる日本屋敷から、歩いても、三十分ほどの喫茶店のあるビルの二階である。
アプリコットワインを飲みつつ、私は、ちょっとご機嫌だった。
レンナルトも、林檎のコンポートが味を馴染ませる為に、冷蔵庫に入れたあと、カレットを楽しんでいた。
夕食兼晩酌と言うところだ。
「・・・・それで、エル。
 事態が動くと?」
「うん、それが、良きにしろ、悪きにしろね。
 千年前の、再演だろう?」
味噌ホイル焼きをぱくりと一口、口にほおり込みながら、私は言う。
それにしても、義理息子といっても、美形だな、と関係ない事ながら、そう思ってしまった。
赤い細目は怖いと言う人もいるだろうし、整っている造形は、冷たい印象だろう。
だけれど、アホ毛というか、額の方から、ちょん出ている二本の髪束が、どことなく、ユーモラスで、冷たい印象を幾らか緩和している。
おまけに、料理掃除洗濯なんかの家事一般もこなせる。
魔法・・・魔術行使は、あんまり得意じゃないけど、ブリジットに勝てはしないけど、負けもしないし。
風伯とエセルぐらいなら、時間は掛かっても、二人一緒でも、三回に二回は、勝てるだろう。
性格も、丁寧だし、優しいし、女性のエスコートも、上手いし。
つらつらと、考える。
海鮮トマト煮込みのイカと白菜を口に入れて、結論を頭に表示する。
なんで、それで、決まった相手いないんだろう。
よく出来た息子だし、コミュニティにも、それなり、同じ年頃かはともかく、結婚適齢期のダムピールはいるのに。
なんでだろう。
「エル?」
「ああ、ごめんごめん。
 少し、考え込んでた。
 でも、ダムピール組と黒鳥は、気付けないんだろうけどね。」
「確かに。
 真実には、陛下が隠された真実には、届かないでしょうけれど。」
「でも、気付かなければ、ブリジットは、今回の件で、あの術を行使しようとするだろうし。」
つらつらつらと、リトと、意見をすりあわせていく。
一応、ストラウスとアーデルハイト以外では、私とリト以外は知らないだろう。
あの場に、居たとは言え、すぐには気付けなかった真実。
私は、千年前のあの後に、少ない情報で、答えに行き着いたが。
少なくとも、それは、魔力行使に長けていたから、なし得た事だ。
それに行き付くまで、200年ほど、ストラウスの仲間と見なされていたもんな。
おかげで、強くなれたけどね。
「なんにせよ、終らせない為に私達が、打てる手は、限られてしまいますね。」
「でも、終りそう。」
「はい?」
「終ると思うわ、どういう形であれ。
 ・・・・・少しでも、幸福で終れば良いのに。」
「エル、泣きたい時は、泣いていいって言ったの、貴女ですよ?」
その後、差し障り無く、「最近、パリでも、治安が悪い」とか、「そう言えば、近所のビルの一階に、美味しいパン屋出来たみたいです」とか、「アメリカが、また無駄な戦争しそう」とか、そんな話題を話し、夕飯兼晩酌を終える。
・・・どこが、差し障り無いか、ツッコミは入れないで欲しい。
ダムピール・・・同胞が関わらない情報は、全て差し障りが無いだろう。
ただし、一応、食事時は、スプラッタな話題は避けている。
スナッフフィルムの話も、入って来ないわけではない。
しかし、そう言うのは、御飯時には避ける。
その最後に、林檎のコンポートを美味しく頂き、リトは、台所で後片付けをしている。
「あ、エル。
 お風呂、入ってしまって下さい。」
「わかった・・・・・久しぶりに、リトも入る?」
何の気無しに、いつも通りに、そう言うと、かなり、ヤバい音・・・ナベとか、皿とか、落ちるそんな音がした。
おーい、リト。
義理とは言え、子どもとお風呂入りたいって、そんなに奇妙?
「い、い、いえ、遠慮します。」
「そう、んじゃ、お風呂貰うね。」
その後、一緒のベッドに入った。
あっちの意味じゃなく、ベッドが無いからだ。
ソファで寝るのも、寝かせるのも、ごめんだし。
結局、朝方、寒かったのか、リトは、すりすりとすり寄って来て、私を抱き締め眠っていた。










翌日の晩。
都内某所。
「どうも、蓮火。
 まだ、悩んでるのかな?」
「うるさい、赤バラの仲間のくせによ。」
くわえ煙草の蓮火と、いつもの格好の私。
ほとんど、私と変わらない年齢だし、他の通行人には、バンドとかの同じグループとか、同類に見られているだろう事は、容易に想像できる。
「・・・『仲間』ねぇ。
 定義にも寄るよ、一応、私はかつて、赤バラを王と仰いでいた。
 それを、千年忘れないというだけでは、仲間と言わないだろう?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
苦々しく、煙草のフィルターを噛み潰している蓮火。
私はね、それ以上に、真実を知っている。
事件当時に、知っていたとしても、結末が変わらないにしろ、それでも、「何か」出来たのではないか、そう思ってしまうのだ。
変わらない、と思っても、違うかもしれない、って、言ってしまう、私の理性。
「ねぇ、先代・・・小松原ユキは、今の君の姿をどう思うかな?」
「・・・・・・・・・・・うるさい、お前がユキを語るな。」
「君が、知り合う前からの知り合いだよ?
 変わりえなく、友人だった。
 君は、ユキがどう思っているか、解るのに、何故そうしているの?」
「・・・・・・・・・・・かってる。」
ガキ、ガキ過ぎると思う。
解ってるのに、なんで、そうなんだろうね。
そりゃね、私も、120年ほど前の、イギリスの時は、色々とおイタをやったし。
ってか、それこそ、あんまし関係ない人も殺したよ。
でもね、でも、蓮火。
勝てないなら、勝てないで新しい道選びなさいって、思うけれど。
だけど、言えないわよね。
「解ってるなら、なんで?」
「・・・・・・・」
「蓮火、なんで、君は、ストラウスを憎む。」
「それは、ヤツが、ユキを殺したからだ。」
「・・・それは、ユキを盾に君が、復讐を正当化しているようにしか、私には聞こえないよ。
 ユキは、黒鳥(ブラックスワン)だった。
 そうである以上、覚悟をしていたんだよ、彼女は。
 蓮火のしている事は、ユキを汚してしまっている!!
 それで、君は、笑えるの?」
それでも、今回こそは、いわなくてはならないと思ったんだけれど。
思って、言ったんだけれど。
殴られた。
正確に言えば、頬を張られた。
一応、蓮火、君、男だろ?
なのに、一応とは言え、女性の私を殴るんだよ。
「・・・・・・・・・・・・あ」
「・・・蓮火の大馬鹿野郎!!」
そう言って、私は、「転移」を使用して、ジャンプした。
もう、本当に痛かった。
勢いとは、言え、本気で頬張るんだもん。
GM御前のお供も、もうすぐ時間なのに。
そう思いながらも、私は、「転移」中の空間の中から、蓮火を知覚する。
都会の街を、都会の華やかさと裏腹に沈んだ表情で、歩いていく、蓮火。
確かに、蓮火。
お前から、ユキを奪ったのは、確かに、ストラウスだ。
あの冷たい骸の感触を匂いを、狂おしい痛みを、得たのかもしれない。
だけれど、それは、ユキとの想い出を・・・彼女の言葉を否定する材料だろうか?
「・・・「機嫌良く、笑えれば、それで幸せだよ。」・・・か。
 それすら、否定するのかい?」
誰に、言うでもなく、私は、呟いていた。
私にも、ユキ以外に、同じような台詞を言われたことがあった。
・・・・・・GM御前のお供の前に、ストラウスのとこ、言ってくるかな。
もう、車上の人になりかけているだろう、雇い主の元へ、「転移」する前に、ストラウスの元へ飛んだ。










「ねぇ、風伯さん。
 あれって、蓮火さんですよね?」
「そうだな。」
都内のとあるガード下の風伯さんのラーメン屋台に、買い出しの帰りに寄って、風伯さん特製チャーシュートッピングの醤油ラーメンを楽しんでいた時でした。。
私・リト的には、自宅で作れない事もあり、あまり食べる機会の少ないラーメンなのだが、それでも、時折、食べたくなる時があったりするんです。
そう言う時は、コミュニティの仲間である、風伯さんのところへ行くのです。
寒い真冬に食べるのも良いですけれど。
でも、春先の今、食べるのも、相応の味わいがあってグッドなんです。
そこへ、いつも以上に、切羽詰まった様子の蓮火さんが来たんです。
向こうも、風伯さんに気付いたらしく、はっとなって、振り向きました。
「ふ、風伯?」
「なんだ、蓮火か。
 暇なら寄ってけ、サービスはしよう。」
「あ、蓮火さん、久しぶりです。」
「お前もいたのか?
 珍しいな、エレノアと一緒にいないところは。」
「たまには、ってヤツですよ。
 なんか、エルは仕事が入ったらしくて。」
そのあと、蓮火は、何やかにや言っても、ラーメンを平らげました。
でも、さっきまでの切羽詰まっていた様子の理由を話してくれません。
多少は、想像はつきます。
たぶん、エルに際どい処まで、ツッコマれて、それで、反射的に殴って。
それで、自問自答をしたけれど・・・・・的なのでしょう。
あえて、私は、それ以上は聞きません。
蓮火の心の傷は、蓮火もモノですから。
女性でしたら、此処でツッコんで聞くのでしょうけど、さすがに、聞けませんからね。
ま、後から、オシオキはしましょう。
エルを殴ってくれたのですから。
「(どうして、でしょうね。
  こうも、妙な胸騒ぎがするのは・・・・・。)」
その、胸騒ぎは,辛くも、数時間後に当たってしまいました。










タイトルの前のミニ会話は、とある日の、過ぎた日の会話です。
本編には、然程関係があったり無かったり。

Day’s5 酔いどれ記譚

2008-02-03 21:26:38 | 凍結



Day’s5 酔いどれ記譚





うん、少年、悩んでるねぇ。
悩め悩め、それが、青春ってもんだ。
俺は、ディスティアー我が宿主の歓迎会と言うのだろうね、それに来ていた。
場末のーというほどではないが、それなりに、客層は、世辞としても、良いとは言えないねぇ、うん。
俺は、ラルディアス=トラインクルメイカー。
ディスの中にいる精神体だ。
ある種の監視者でもある。
監視者と言っても、何の抑止力も無いのだけれどね。
「それじゃ済まないが、ビールを大ジョッキ追加4人前で。」
クラブーだっけ、そういった名前のシン種の龍で、人化している姿は、俺の好みのベリーストライクだ。
しかも、大酒飲み。
まぁ、キサに肝臓が無いと言われた俺に、勝てないだろうけど、一回は、酒の相手して欲しいよな。
それには、ディスティアが、俺の事話さなきゃいけないから、難しいだろうけど。
でも、かわいいよなぁ。
「フレイは何か呑まないのか?」
「呑みません!」
紅い髪の少年―炎龍あたりが、人化したんだろうーが、ジュース片手に、そう断言してる。
少年から離れたの方で、トマト顔で、よだれを垂らして良い気持ちで寝入ってる乾が、ディスがこの街にきた要因。
うーん、頬をつつきたい。
成人男性のクセして、妙な魅力を持ってんな。
ディスが、昏倒したら、つつかせてもらうかな、身体操ってさ。
「なあ、風歌・・・・・・って、風歌」
フレイと呼ばれた少年の席では、風歌―風龍が人化けした少年―が酒肴のビーフや喧嘩盛りをひたすら、食べている。
そして、透明な酒が入ったコップを両手で抱えてグビリ!と、一口で飲み干す。
あれは、日本酒か、中々渋い趣味だね、風歌君。
「君も何か食べないのか?」
「いや、・・・・・・もういい。風歌、お前まで・・・・・・」
そこまで、つぶやいたフレイが、疲れたような溜め息を吐く。
悩めとは言ったが、なんか、中年の哀愁がほんのり漂ってるかんじだ。
まぁ、酒と言うのは、狼を量産する薬でもあるから、仕方ない惨状なんだろう。
「うう・・・・・・ですから、あの時のラグワイトで乾様と別れる時は・・・・・・」
あ、ディス、第一量超えて、泣き上戸は言ってしまったか、第二量まで、ビール大ジョッキで二杯ちょいぐらいか。
第二量超えても、楽しいけどね。
まぁ、ラグワイトの時期までが、旅の間で一番楽しかっただろうけど。
キサも、まだ、キサとして生きてたし。
みんなの目の前のテーブルには、お酒のビンとおつまみの皿。
結構、空皿も、多くなって来ている。
周囲には、俺らの囲んでいるテーブル意外にも活気のいい声が響いてくる。
「うーん・・・・・・そうだよね。あの時は本当に・・・・・・」
乾と言う青年は、半分テーブルに顔を埋めた様な格好でディスの話を聞いているーいやいないだろう。
手元には、カルアミルクの入っていたグラスが3杯。
八割以上、酔いつぶれている。
ってか、カルアミルクって、カロリーはすごいけど、度数はそれほどじゃないはずなのにねぇ。
なんにせよ、お酒ってのは、知らない部分をさらけ出してくれるもんだね。
ほとんどしらふで、尚かつ、かぱかぱ開けているクラブ嬢。
ケッコウ、弱い乾くん。
変化が無いっぽいのは、周っていう水龍ぐらいか?
そして、ディスは・・・・・・
「うう・・・・・・そして聞いてください。」
気付いたら、俺・ラルティアのほぼ目の前に、たじたじになったフレイ君の顔が、それこそまつげの本数が解るくらい近くに迫っていた。
ちょっと、ディス。
お兄ちゃん、こんな少し間違ったらキスしそうな距離は認めませんからね。
「私は、貴方の故郷の北国の近くも旅した事があるのです。その時、一人の騎士に助けられて・・・・・・」
「え、えっと・・・・・・」
・・・それは冗談にしても、フレイ君は、面白いくらいにしどろもどろになってくれている。
手にしたグラスからジュースが零れ落ちるくらいだよ?
涙もろくなるのは、一年以上前変わらないけど、やっぱ、キサの事から酷くなってるね。
「ディスティアさん、少し無理をなされているようだ。外の空気を吸って気分転換をしませんか?」
フレイ君に、周が助け舟を出したようだ。
うーん、そつのない美男子っぷりだよ。
ディスの肩に自分の腕を引っ掛け、そのまま涙を流すディスを連れて店を出ようとする。
「うう・・・・・・キサ生きていたんですね。あの時私のせいで・・・・・・」
やっぱり、ディスが、周に抱きついて、『キサ』を見たかのようにまじまじと周を超至近距離で見つめる。
ま、半分は血族上の近種だ。
仕方ないと言えば、そうだろうね。
「!?」
キサの事が誰だか解らないと言った風情で、フレイ君は固まっていた。
周は、突然の事に切れ長の目をこぼれそうなぐらい見開いて抱き突かれたディスの勢いにされるがままになっていた。
ディス!!
お兄ちゃん、そんなふしだらな女の子に育てた覚えは無いよ。
ってか、それじゃ、男同士のラブシーンにしか見えないだろうに。
なんか、娘を嫁に出す父親ってこんな気持ち?
一応、子ども、生めないって訳じゃないしね。
「おやー、周くん抜け駆けかな?まだまだ宴は始まったばっかりだよー。」
クラブがそんなディス目の前・・・・・・俺の少し右斜め前ににビールのジョッキを両手に持って、2人の前に立っていた。
ひのふのみ、そろそろ、量的にヤバいかな、うん。
楽しくなりそうだけど。
「ほら、飲む飲む!こんなにあるんだからたっぷり呑まなくっちゃ勿体ない。」
次の瞬間には、2人の口に無理やりビールをやっぱり、流し込んだ。
周は流し込まれたビールで口を塞がれながらも、目は何か非難を訴えていて。
うん、いじめたいなぁ、良い声で鳴きそうだし。
ディスは目をグルグル廻しながら流し込まれたビールで益々顔を紅くしている。
ついに、第二量超えたねぇ。
周はその勢いでカウンターに倒れ込む様にもたれ、座ってしまった
ディスは・・・・・・
「あれ?どうしたんだ。ディスティアさん。」
ディスは、俯いたまま、固まった様に動きを止めている。
クラブが覗き込んだのとほぼ同時に・・・・
うん、クラブ嬢、無闇に箱はのぞかない方が良いよ。
「一人・・・・・・嫌です・・・・・・傍にいて・・・・・・下さい。」
そう呟くディス片手がクラブ嬢の頭を掴み、もう片手は腰に。
ようは、抱き寄せて。
そして、そのまま腕に絡みつく様に自分の手を廻すと固まっているクラブ嬢にキスをした。
あ、しまった。
身体に入ってれば、感覚共有できたのに。
おしいなぁ、クラブ嬢ほど好みなの居ないのに。
うう、すんごく、ソンをした気分だわ。
「えええええええ!!?」
フレイ君は、絶叫を上げている。
なんか、いろいろと頭ん中でぐるぐるしてそうな顔。
だけど、叫ぶと注目集めちゃうよ。
混乱した頭の中、周囲の人たちの目線もフリーズしてるのが微かに伝わってくる……。
「ちょ・・・・・・君は何を・・・・・・。」
クラブ嬢はクラブ嬢で、何とか無理やり寄せられた唇をディスの離そうと腕の自由を何とか利くように足掻いて、ディスから密着した体勢から逃げようと必死だ。
う~ん、今乗っ取れたら、クラブ嬢可愛がってあげるのに。
どっちの方向とか野暮な事は聞かないように。
ま、ある意味、クラブ嬢の自業自得だけどね。
もう少し、観察してよう。
「ディスティアさん、大丈夫ですか?
 クラブさんも・・・・・・ディスティアさんに無理やり飲ませない。」
その状況を止めに入ったのは、また周だった。
むぅ、面白いと言うか、いいトコなのに。
嫌いじゃないけどね、そういう真面目なの。
キサも、真面目だったし。
少しふら付いた足取りでカウンターから立ち上がった彼が、ディスの肩に手を掛けて泊めようとする。
その周の真剣な態度に、ディスはクラブ嬢から両手を離して顔を周に向け直し、その周の真剣さに……
「何処にも・・・・・・行かないで。
 キサ・・・もう、何処にも・・・・・・行かないで・・・・・・ください。」
周の頭を絡めた両手から固定して、首筋を掴んで今度は周にキスをした。
・・・・・・・・・・って、ディス。
今度はお兄ちゃん許しませんよ、ってか、すごい注目されてるわ。
いやん、男同士のラブシーンよ~。
ってか自分、なんで、女言葉。
『何だ何だ?こんなところで告白か?』
『うわ!大胆だな。他の客が見てる前で。
 あの黒髪の兄ちゃん、ノンケだろ?』
『酔って手当たり次第か?あの綺麗な兄ちゃん。』
『男なのに、売女みてぇだ。』
『ってことは、あっちも具合良いのか?』
『だろうよ、サノバビッチ野郎だろうけどよ。』
結構好き勝手言ってるね。
ってか、ディス、やっぱ男と取られてるね。
ディスも女の子なんだし、もう少し服装に気を使いなさいって。
魔道士だからって、そうして良い理由にはならないだろうにさ。
はぁ、俺でも逃げたい状況だ。
楽しいけど。
周りも、楽しがると言うか、修羅場?を見守る感じで、何も行動しようとしないし。
風歌君も、無視と言うか、食事にいそしんでるし。
そんな中、フレイ君は、周とディスの傍に駆け寄ってきて、二人を離そうと悪戦苦闘している。
ま、炎龍系は、概して外見よりも力ある場合あるけど、まだまだ、その外見年齢だとそうもいかないのかもしれないねぇ。
「ディスティアさん、いい加減正気に戻ってください。周も固まってないで冷静になって。」
そう言いつつ、引き戸を開けるみたいに、手を差し込んでやっているみたいだ。
だけど、30センチ以上違う身長のが二人だから、難しいようだ。
「風歌、お前も手伝って・・・・・・って風歌、なにどさくさに紛れて日本酒飲んでるんだよ!」
フレイ君が、助けを乞おうとした風歌君は、背中の羽を羽ばたかせながらコップに注いだ日本酒を呷りながら、大きく息を吐いていた。
妙に、親父臭いかもしれない。
『俺何でこんな必死になってるのか分からなくなってきた』とでもいうように、フレイ君が、脱力と言うか、げんなりしていると、風歌君はこう言って来た。
「うー・・・・・・ヒック。フレイ。君は手が足りないと言った感じだな。」
「足りないんだって!
 手伝うなら手伝って。酔っ払っているなら、それはそれで仕方ないけどさ。」
フレイ君が、泣きそうな声で必死に周とディスの体を引き離そうとしたまま、こっちに来た風歌くんに手助けを頼んでいる。
風歌くんは、頼りない軌道で宙を飛びながらこっちへやってきた。
酔いつぶれるほどじゃないけど、千鳥足・・・いや、千鳥飛行は危ないと思うよ?
「後は、乾!あんたも手を貸してくれると嬉しいんだけど。」
フレイ君の頭上で2人を離す為の手を頼りない手付きだけど貸してくれた風歌くんに加えて、乾にも彼は声を掛ける。
「うーん・・・・・・呑むならもうちょい待って。一休みしてから・・・・・・」
机に突っ伏したままそう言っている乾。
ちょっとは、この騒ぎに気付こうね。
そうこうしている内に、
「私は・・・・・・もう、一人に・・・・・なりたくないのです・・・・・・」
そう言いながら、フレイ君を見るディス。
『?』と、思うか思わなかったんだろうけど、そのタイミングで。
「・・・・!!×△○!」
背中を片手で抱かれて、もう片方の手が肩に来て、フレイ君は完全に身動きが取れなくなっていた。
本当は、片手は腰に回したかっただろうけど、フレイ君の身長が、低過ぎて、廻りきらなかったんだろう。
とにかく、逃げたいようで、身体をよじっているようだけど、抜け出せないみたいだ。
ふっふっふ、特殊な家系のディスの力を舐めるなよ、フレイ君。
「ちょ・・・・・・ちょっと!ディス・・・・・・さん・・・・・・力ゆるめ・・・・・・」
あ、でも、そんなに密着すると顔の位置からして、少しヤバいかな。
そんな時、フレイくんの頬に、涙粒がおちた。
「ディス・・・・・・ティ・・・・・・うぐ!・・・・・・さん・・・・・・いった・・・・・・」
まだ、引きずってんのか。
まだっても、一年と数ヶ月ぽっちだけどさ。
キサと、ディス、すごく仲良かったもんなぁ。
従者と主人と言うよりは、兄妹並みにさ。
「ディスティアさん、貴女と一緒にいた者は最後まで貴女の事を思っていた筈です。」
クラブ嬢だった。
その瞬間、ディス手の力が緩んだのが、俺にも解った。
声の方向に意識を向けると、腕組みをして椅子に座り、真面目な表情になったクラブ嬢がいた。
うん、凛々しい表情に惚れそうだよ。
「それでも置いていかれるよりは一緒に死にたかったんですよ・・・・・・」
詳しい事情は、一応、覚えてる。
覚えてはいても、その言葉には、しばらく、何も言えなかった。
あれは、不幸な偶然が重なった結果だった。
・・・・・・・・それでも、ディスは自分を責めるんだろうな。
「でも、貴女は今ここで生きている、彼のお陰で。
 ほら、周君。こういう時は君が泣かせたようなものなんだぞ。」
クラブ嬢は、酔いが廻ってカウンターにもたれかかったままその光景を傍観していた周のところへ行って、周の肩を意地悪っぽく、数度叩いた。
ま、たしかに、構成上の近種と言う以上に、周は、キサに似ている。
クソ真面目なところも含めてな。
なんだか、しんみりしてきてる。
お酒は、基本的に、楽しく飲むもんだと思うけどな。
「っつ・・・・・・ディスティアさん?・・・・・・どうしたんですか?」
酔いが少し冷め始めたと言った感じの声でこめかみを押さえながら、ディスに声をかけたのは乾だった。
気が付くと、立ち上がってディスの傍に来ている。
「乾様・・・・・・何故・・・・・・私はこうして生き続けて・・・いるのでしょうか?」
その言葉が終わるか終わらないかの瞬間に、ディスは乾の肩と腰に手を絡めて頭をしっかりと抱き付いていた。
だから、ディス!!
お兄ちゃんは、そういうふしだらなのは、認めませんって。
寂しいのは理解するけどさ。
「・・・・・・!キサの・・・・・・事?」
乾は一瞬抱きつかれて驚愕した表情をしたけれど、何だか妙に落ち着いた声で、小さな子に言うように、ディス言って、そのまま流れに任せて抱きしめられている。
司祭のくせに、妙に場慣れと言うか、そんな感じだよな。
一応、経験あるな、あれは。
「キサ・・・・・・ひょっとして、今はもう・・・・・・」
抱きつかれた体勢のまま、彼は自分の手を逆にディスの腰にそっと当てて静かにそう言う。
・・・・・って、こら、乾。
あとから、ボコるぞ、こらぁ!!
それか、責任とってもらう如かないのかもね、乾?
「私のせいです、私のせいで・・・・・・キサは・・・・・・」
乾に密着した体勢のまま気が付いたらディスの目には大粒の涙が浮かび、そして頬を伝った。
あれは、ディスのせいじゃない。
堕落(クラッシュ)したのも、キサが同化する事で止めようとした事も、キサがキサでなくなってしまった事も、ディスのせいじゃねぇのに。
「ディスティアさん・・・・・・」
乾は、それ以上何も言わずに抱きしめられたままディスティアさんの肩を優しく抱く。
だから、一応、慰めの意思しかねぇのは関知するが、それでも、ベタベタすんな。
ディスティアが、背負っているもんは、重過ぎっけどよ。
しばらく、ディスは、乾の肩に顔を押し付けて、静かに泣いていた。
そして、しばらくの間抱擁を交わしていた体をディスは、乾から静かに離す。
「何の慰めにもならないかもしれないけど・・・・・・、僕には何があったのか分からないけど・・・・・・自分を責めないでください。
 後ろを振り向くのは・・・・・・もうやめて欲しい。」
ディスの目を見ながら、乾は静かに口を紡ぐ。
それは、ディスを本当に、思っている言葉だった。
「私は・・・・・・誰かを傷つける事しか出来ない・・・・・・そんな私に過去を振り返るな・・・・・・と?」
ディスは、少しだけ疲れた感じで乾に言葉を返す。
確かに、傷つけるだけの事が多かったわな。
乾は、静かな表情のまま、ただ一言だけ口にした。
「誰かの為じゃない・・・・・・唯、今生きているって事。
 罪を重ねるからこそ、人は運命に抗って生きるんだと思ってます。」
そして、しばらくの沈黙の後・・・・・・ディスは。
「ひどい方ですね、乾様は・・・・・・でも、嬉しいです・・・・・・」
涙を拭いながら、ディスティアさんは笑みを浮かべてそれだけを言った。
少し、自嘲とか、他の感情が交じっていたけど、故郷を捨ててからの心からの笑みだった。
心ある存在は、誰かを傷つけないと生きてケ無いのは、あるわな。
それでも、俺に、大切なものはあるんだ。
「皆さん、申し訳ありません。何だかせっかくの歓迎会なのにお茶を濁してしまいましたね。
 宜しければ、残りの時間まで改めてお付き合い願えますか?」
そう言うディスの口調には、どっか優しい感じがした。
いつもの演技じみた口調だったけど、雰囲気は昔の素の優しい口調だった。
「私と一緒に飲むと高いですよ?」
クラブ嬢は、意地悪げに、そういう。
ある程度・・・俺の事も含めて、しられてると思う。
「ゆっくり残りの時間も満喫しましょう。」
周が、やれやれと言った表情で冷静に頷く。
内心は、動揺しまくってるのに、ポーカーフェイスが上手いな。
「まだ、食べ物は出るのか?」
風歌くんが、相変わらずの無表情だけどどこか可愛げのある声で言う。
まだまだ、酒より食いもんか?
「俺、あんまり暴れて欲しくないんだけど。」
フレイ君は、わざとからかい混じりの言葉を言う。
うん、可愛いねぇ。
「また、会えた事を乾杯して!」
そして、乾が満面の笑みでディスを祝った





周に肩を支えられながら居酒屋の外の近くから、88番地の家への道を歩く、ディス。
顔は赤かったし、べろべろだったけど、口調だけははっきりしたまま、訥々とこう呟くように、話す。
話すと言うよりは、独り言に、どちらかと言えば近かったけれど。
「以前、貴方に似た龍がいたんです・・・・・・」
周は、ディスの方を向いたけど、そのまま余計な事は言わずに話しに聞き行ってくれていた。
その雰囲気に甘えるように、ディスは、言葉を重ねる。
「顔が似ているってわけじゃないんです。
 髪とかの色も、違いますし、どちらかといえば、あのアイトラのお嬢さんの方が似ています。」
つらつらと、ディスは、話す。
キサが居なくなってから、一度も、あいつの事は話さなかったのに。
それを、周は静かに聞いている。
「でも、静かそうだとか、そんなところが似ていました。」
ここで、少し、ディスの声に、涙色が混じる。
思い出しているんだろうか、あの静かな春の昼下がりの陽光のような龍を。
「今は、彼は、彼じゃなくなってしまったまま生きていて、でも死んでいて。
 ・・・・・・最期まで、『ちい姫様、笑っててください』って。
 ・・・・すいません。」
「いいえ。」
「あ、ここまでで、もう、ここまでくれば、すぐですから。」
そう言って、88番地の家まで、あと100メートル足らずになったとき、そう言って、ディスは、周と別れる。
このさい、ディスは、こう周に言っていた。
「・・・『月の君』にお気をつけ下さい。」
って言う風にね。
まぁ、俺の意思を組んでくれたんだろうけど。
不安にならせちゃ悪いよう。
ともあれ、ディスは、88番地へ向かって一人歩き出す。
周の足音も、遠くなったのを確認すると、こう呟く。
「キサ、貴方は微笑んでくれますか・・・・・・?」
俺は、何も言わない。
言わないけれど、だけど、アイツが笑っているのは、保証してやる。
アイツは、ディスの幸せだけを願っていったんだから。




余談
「・・・ねぇ、ラル、昨日途中から、覚えてないんだけど?」
『乾達が、聞いて教えてくれるなら、解るんじゃない?
 俺としては、黙秘権を行使します。』
翌日、昨日の事は、半分しか覚えていなかったようだ。
或る意味、乾宅の面々が、気の毒?









色んな意味で、特殊な一話です。
ありがとうございました。

月の静寂(しじま) En.5 真実の翼は未だ近くて遠い

2008-01-27 17:01:03 | 凍結

「あ、エレノアさん、今から?」
「そう、因果なもんよね、情報屋ってのも。」
「くすくす、なら、辞めて、普通にバイトとかすればいいとおもうけど?」
「はい?」
「だって、エレノアさんだったら、看板娘だよ、きっと。。」
「今更、でしょ?
 一応、この界隈じゃ、情報屋として有名になり過ぎ出し。」
「もったい」
「ユキも、もったいないわ。
 美人だもの。」
そんな、会話。
ユキに、黒鳥がつく、前夜の会話だった。






月の静寂(しじま) En.5 真実の翼は未だ近くて遠い




ブリジットと蓮火は、人気の無いスクランブル交差点にいた。
あと、数時間もすれば、人や自動車の行き来で、にぎやかになるであろう交差点も、今は、誰もいない。
そこを、髪と服をなびかせた二人がいた。
やや、離れた場所に、私は「転移」した。
「赤バラの目的が、何故、復讐に過ぎないと何故、黙っていた?」
「仕方あるまい。
 当時、真実を知っていたのは、私とストラウス、アーデルハイトだ。
 今でさえ、エレノアが、知っているのが、関の山と言うところだ。
 それ以外の者は、女王と王が、そう愛だと信じている。
 昔も、今も、それは変わらない。
 私が、真実を伝える前に、他の話を浸透させていったのだ。」
商店街を歩きながら、二人はそんな会話をしている。
画廊を通り、アンティークショップを通り。
そのアンティークショップの前で、ブリジットは、立ち止まる。
古いけれど、懐かしい、精巧な置き時計を・・・それよりも更に遠くも見つめながら、ブリジットは続ける。
「例え、真実でも、定説を否定する情報は、混乱を招く。
 混乱は、コミュニティのためにならない。」
「それくらいなら、目的が定説と違おうと、胸に秘める方が、余程静かに済むわよ。」
「・・・・・・エレノアか。」
「ども、一応、真実の一部は、陛下の口から、五十代目や山猫に渡ったんで。
 蓮火も、ブリジットに聞いているだろうと思って、一つ指摘に。」
そこで、私は、二人の会話を視聴する事を止め、加わった。
口を挟むのは、クレバーじゃないにしろ、必要だと思ったから、
というか、このまま、言わせたくないと言うのもある。
ちなみに、ブリジットは、「転移か」とでも言うように驚いてないが、蓮火は少々驚いたような表情である。
それなりに、長い付き合いなんだから、慣れて欲しいな、ほんと。
「で、ある程度、真実に近づいて、みた気分はどうかな、蓮火くん?」
「そうだな、とらわれのお姫様を助けるって話が、血腥い復讐の話になっただけじゃないか?
 俺が、奴を殺す理由に、変わりない。」
私が、促すと蓮火はそう答えた。
煙草に火をつけながら、「奴も、みにくい人じゃねぇか?」とでも言うように。
ぶち殺して良いかな、本当に。
というか、埋めて良い?
「なんてこたない。
 赤バラは、心底クズだってことじゃねーか。」
ああ、気付いてないか。
ここまで、一途な男も珍しいけど。

―――――-------------------かちこちかちこち

しばらく、時計の音が場を支配する。
耳が痛いほどの静けさだ。
「そんな事を言って良いのか?」
「んだと?」
「解らないのか?
 お前と赤バラは同じだ、蓮火。」
斬りつけるように、突き付けるかのように、ブリジットは断言した。
蓮火は、気付いた・・・より正確に言うなら、気付きたくなかった事だろうけれど。
私は、ブリジットの言葉に重ねるように、言葉を告げる。
「「赤バラ(陛下)は、ステラのため。
  お前は、小松原ユキのため。
 失ってしまい、もう還らない女の為に、二人とも、身を焼いているのだ。」」
「・・・・・!」
蓮火は、凍ってしまう。
信じたくない、モノを突きつけられたように。
ストラウスは、それでも、復讐だけで動いているわけじゃない。
少なくとも、冗談も言うし、笑いもする。
蓮火、お前のように、破滅の匂いだけをしているわけじゃない。
ブリジットが言う以上のモノが、真実がある。
どこか、一点からしか、みていないものは何処かほころびが生まれるモノだもの。
「君が、追っているのは、君自身の影なんだよ?
 陛下をクズと言うなら、君もクズと言う事になってしまうよ?」
「お前が、復讐の為に、同胞を捨てても良いと思うのならば、それこそ、赤バラと同罪だ。」
「復讐を、目的を達した後すら、考えていないのだろう、それでは、陛下以下だろう。」
私とブリジットの言葉に、蓮火は、煙草を落としてしまう。
というか、歩き煙草をするのは、もう人でもしない事なのに。
しばらく、口を開閉して、言いあぐねた後に、蓮火は、こうやっと言う。
それをブリジットは、断ち切るように言葉を継いだ。
「・・・・んだよ、そりゃ。
 そんな馬鹿な話・・・」
「そうだ。
 昔話なんぞ、全て馬鹿げている。
 今更気付いたお前が、馬鹿なだけだ。」
「・・・・っ」
「一人で、勝手に赤バラを追うな。
 今、手を間違えれば、人間共に、コミュニティの同胞を滅ぼされかねん。
 私の指示に従え、蓮火。」
そう言って、ブリジットは、蓮火から離れていく。
私も、合わせて、「転移術」を編み始める。
その後ろで、先ほどのアンティークショップの硝子を割り、こう呟いていた。
「なんだよ、そりゃ・・・・・」



『転移』中。
転移先を選んでいた時だった。
真っ直ぐ、リトのトコに帰るよりも、一度、ストラウスに会っていこうと想い、意識をそちらに向けた。
すると、あの山猫・・・もとい、レティシアが、側にいるのが解った。
なるべくなら、手の内を明かしたくなかったので、彼女が出ていくのを待った。



「まったく、私もヤキが回ったか・・・・・・。」
レティシアが、出ていった後、ストラウスが、そう呟く。
それに会わして、転移を終え、私は、彼が腰掛けている縁側に降りた。
「こんばんは、ストラウス。
 それでも、放り出せない事でしょ?
 最初から、そう覚悟しての事なんだから、ね。」
「エレノアか。」
「うん、お久しぶり、二年ぶりかな。」
「そうなるかな。
 ・・・『あの真実』を知る存在が、いるのは、ぞっとしないことだ。」
「くすくす、でも、殺さないでしょ、君は。
 余計なダムピールは殺さないのが、ストラウス、君のポリシーだろう。」
ストラウスの真横の・・・障子の影になる部分に、あぐらをかいて座る。
この場に、リトがいたら、はしたないとか、言われそうだけれど。
ストラウスは,決して、私と眼を合わせようとしない。
「それで、お前は、どうするつもりだ?」
「・・・うん、赤バラ陛下は、解っているんだろうけど。」
「大体は、それでも、聞きたいと言ったら?」
「・・・・・・・・・・風のまま、月の赴くまま。
 私の意志を貫くだけよ。
 ・・・・・・どうにも、よくない予感がしてね。」
「珍しいな、『蒼天の魔術師』のよくない予感。
 そう思っていても、お前がそういうのは、珍しいだろう?」
「うん。
 感、だし、確証はない。
 だけど、千年の因縁が、形が付きそうで、ね。
 一応は、雇われた以上、GM御前サイドになるのかな?」
「言い淀むのは、『言葉にしてしまったら、確定してしまいそうで,怖いから。』だったな。」
「覚えて、いらっしゃたんですか、陛下。」
「ああ、その言葉を考えに入れなかったのは、私の失策だ。」
少なくとも、失策ではないと思う。
どうしたら,言葉無い忠告を注意できるだろう。
つらつらと、ストラウスと、会話をする。
今は、少なくとも、意味を成さない会話だ。
後になって、少しだけ、ほんとうに、少しだけ意味を成すのだろう。
ストラウスは、優しい、優し過ぎる。
誰かを恨んでも、憎んでも良いのに。
『王』なのだろう、どうしようもなく。
「それに、お前が、こういうケースで、誰かに付くのも、珍しい。」
「・・・そりゃね、一応、はぐれとはいえ、私もダンピールだからね。
 同胞・・・そう言えなくても、同胞を見殺しには、出来ないわ。」
「そう言うところは、変わらないんだな。」
「・・・・・・変われないよ、私達は。
 GM御前、セイバーハーゲンを思い出すのに、アイツよりも、倍以上、ムカつくよ。」
そこまで、言って、やっと想い至った。
リトに、夕方に、夕ご飯弁当をちょうど、今頃、此処に持って来てくれる様に頼んだんだ。
マズい,マズいよね。
「・・・・・・・・マズぅー。」
「どうした?」
「リトが、来る事を花雪に言っていない。
 おまけに、リトに部屋の詳しい場所教えてない。
 ・・・あ、私の部屋、この隣なの。」
「・・・・・・やれやれ。」
杏仁豆腐をデザートに頼んだのに。
花雪と出会ったら、ビミョーに戦闘に突入しそうな気がする。
そして、杏仁豆腐が、ぐちゃぐちゃになりそう。
リト、滅多に作ってくれないのに。
昨日、口説き倒して、やっと作ってくれるって約束取り付けたのに。
泣きてぇ。





「・・・さすがに、四十九人分です。
 一気に辿るのは、負担が大きいようですね。」
「(・・・一気に辿るのも、過去を辿るのも、寿命を縮めるのに)」
そんな声に、思わず、そう私は呟いていました。
私が、エルに頼まれ、弁当を届けようとして、とある屋敷の庭を彷徨ってました。
造詣の無い私でも、感心するような日本庭園の中。
その中の池にかかる橋の上に、着物姿の少女がいました。
エルが言っていた、今代の《黒鳥(ブラックスワン)》でしょう。
随分と、普通の・・・どこかの高校にでも行けば、学年に一人はいそうな、そんな印象を僕は受けました。
あの腐れポンコツジジイ、もとい、GM御前に、操られてるお人形さんですね。
「誰です!!」
「ええと、エレノア=シュヴァルツェン=ヴァイセンヒートに、呼ばれて来たのですが?」
構えられるが、両手が塞がっていても、霊力は凄まじいだけの、黒鳥になら、勝てますが。
そう言っても、戦ったら、デザートの杏仁豆腐は、ひっくり返ります。
というか、お弁当ごと、ひっくり返しそうです。
そしたら、エルを哀しませることになるので、避けたいのですか。
「・・・・・・・ダムピール、ですか?」
「ええ、そうですよ?」
「それにしては、気配が、妙な気配です。」
「・・・広義のダムピールですよ。
 人とヴァンパイアではなく、そのハーフと狐の間に生まれたんです。
 ・・・・・・・・・・すいません、エルの部屋に案内して欲しいのですが。」
「そうですか。
 ・・・案内する前に、一つ、聞いても良いですか?」
「はい、私に答えられる事でしたら、いくらでも。」
「ありがとうございます。
 では、『一気に辿るのも、過去を辿るのも、寿命を縮めるのに』とは?」
「・・・・・・聞かれてしまったようですね。」
「お答えくださいますか?」
「答えるも何も、そのままですよ。
 黒鳥の記憶を辿り過ぎたのは、貴女が、初めてではないと言う事です。
 その一人は、700年、もう少し前ですか。
 それくらいの時の当代の黒鳥が、黒鳥に潜り過ぎて、二年ほどで、発狂し、自殺しました。
 黒鳥が、付いてから、二年。
 平均五年としては、短いでしょう?」
私は、少し隠したありのままを話します。
或る意味で、当代の黒鳥・比良坂花雪に、私は同情していたのかもしれません。
もちろん、黒鳥憑きになったことではないのですが。
私が、同情していたのは、GM御前に操られる人形である事にです。
それは,悲しい事です。
まだ、黒鳥と言う霊的寄生体を寄り付かせられたのは、救いをまだ見る事が出来ます。
私は、花雪さんの反応を待ちました。
「・・・・・・・」
「黒鳥(ブラックスワン?)」
「・・・ともかく、エレノアの部屋に案内します。」
内心の葛藤を、私がしるべくも無いですが、それでも、葛藤があったのでしょう。
それを外に見せず、くるりと、花雪さんは、歩き出した。
何も、問いつめないのでしたら、私は、話しません。
そのまま、花雪さんに付いて、庭園を抜けます。
途中で、エルが、歩いてくるのが見えました。
「はー、良かった。
 ごめんなさい、花雪。」
「・・・部外者を呼ぶのでしたら、事前にお願いします。
 では、失礼します。」
「あ、っと、花雪さん。
 一応、夜食にどうぞ。」
一食分・・・二段重ねの普通の弁当箱と、プラスチック製のカップ入りの杏仁豆腐(アーモンドパウダー入り)を花雪さんにも、渡す。
一応、多めに作ってあったし、いわゆるお礼と言うことです。
「・・・・・?」
「お礼です、ここまで、案内してもらいましたから。」
「だそうよ。」
「・・・では、頂きます。
 ありがとうございました。」
「いえいえ。
 では、またいつか。」
そう言って、私は、エルと一緒に、エルの部屋に向かった。
途中で、『あの子に、一目惚れ?』とか、エルに聞かれて、本気で泣きたくなった。
鈍いとはいえね・・・・。
一応、あの子、肩の力の抜き方を知らなかった頃の・・・出逢ったばかりの頃のエルに似ているなんて、言えないけれど。










オリキャラは、生きている中で、三人(エレノア/リト/???)と言ったけれど。
友人とのコラボ?の結果、もう二人増えて、ゲストキャラも私のオリキャラから更に二人出ます。
一応、ゲストの方は、通りすがりのですが。
友人からのは、友人のヴァンパイア十字界にそった設定を微アレンジして登場予定で。
後、今回はオリジナルポート多くなりました
では、次回で。


月の静寂(しじま) En.4 霧の向こうの必然たる悲劇

2008-01-12 16:25:06 | 凍結

「良い月だね、ストラウス、明日、なんだってね。」
「ああ、ブリジット姫様をお預かりに行くのは、ね。」
「お疲れさまって感じだね。」
「それは、そちらも、同じだろう?
 私は、これからだ。」
「そうだね。
 ああ、そうだ、厨房からいい葡萄酒を拝借して来たのよ。
 飲まない?」
そんな、私とストラウスの会話
ブリジットを迎えにいく、前日のお話。








En.4 霧の向こうの必然たる悲劇






私が、ブリジットとレティシアに追いつくと。
案の定、レティシアが、或る意味で、正しい事を言っていた。
しかし、ブリジットの睨みで、レティシアは、へたり込んでしまう。
・・・・ま、当たり前だろう、ブリジットが本気で睨むと、私でも、裸足で逃げ出したい。
「確かに、千年前、ほとんどの同族が、赤バラ王を先に裏切った。
 だが、ストラウスは、最後の最後、正しい月に背いた。
 ・・・・自ら信ずるべき『義』を捨てたのだ。」
それは、違うよ、ブリジット。
違う、彼は、義を捨ててもいないし、月に背いてもいない。
ああ、私が、もう少し早く気付いていれば。
それでも、もう遅過ぎた。
遅過ぎるか、全てが遅過ぎる。
「愛するアーデルハイトだと?
 ふざけるな。
 ストラウスはこれっぽっちも、アーデルハイトを愛してはないぞ。」
それも、真実。
でも、少なくとも、恋愛ではない愛情はあったのは、ブリジットも忘れる事が出来ないだろうに。
思い出す。
今も、流布する夜の国崩壊の御伽噺を。






遠い昔、夜の民に夜国があった頃。
今は、遠き昔々の事だ。
ヴァンパイア王・赤バラは、星をも砕かんと言うあまりにも恐ろしいほどの強さから、人間のみならず、同族からも強く強く恐れられた。
ついには、愛する女王を人質に取られ、処刑されようとした。
しかし、それに狂乱した女王は、眠りし魔力を暴走させ、世界を崩壊の危機に追い込んだ。
人々は、辛うじて、女王を世界の何処かに封印したものの、王は怒り狂った。
そうして、自らの夜の国を滅ぼして、女王を取り戻すべく、封印を巡って、同族や人間との終わりが見えぬ戦いに身を投じた。
最後のヴァンパイア王・ローズレッド=ストラウスは、守るべき国も、愛するべく民も、捨てて、封印を探す放浪を、千年以上、千年以上も続けている――――――――。
ただ、愛するアーデルハイトを取り戻す為に。




事実ではあるけれどね、真実ではないが。
信じられない、いや、信じたくないとでもいうように、レティシアは、言葉を叩き付け返す。
「そ、そっちこそ、ふざけるな。
 ストラウスが、アーデルハイト様を愛していないわけがないだろ!!」
更に、良い募ろうとしたレティシアをあたしは、口を塞いで押しとどめる。
一応、両方の為にだ。
ブリジットにとっては、或る意味で辛い言葉だろうから。
レティシアは、こういう交渉の有利に進めるには、必然の事を思い出させる為に。
「・・・・・・ToBeCool?
 レティシアちゃん、落ち着きな、ひとつづつ、丁寧に。
 それが、こういう会話の基本。
 君も、陛下から聞いているのだろう。」
じたばたしつつも、やや気分を落ち着けて、先ほど続けようとした言葉をレティシアは続ける。
彼女としても、自分の母親の悲劇も、赤バラが原因というので、恨みはしたのだろうが。
それが、『愛』という理由ならと、納得させて来た部分があるのだろう。
「愛していないなら、なんで、千年前に大人しく掴まって、殺されようとしたんだ!!
 立った一人、全部を敵に回してまで、女王の封印を解こうとしているの?
 それとも、何!!?
 ・・・・・伝えられていることは、全て嘘だって言うのか!!!!?」
夜の港公園に、レティの切なる声が、響く。
嘘、と言うわけでもない。
真実、と言うわけでもない。
私は、そっと、ブリジットとレティシアの間に立つ。
「・・・・・表面的には、伝承に嘘は無い。」
「―――――!?」
「陛下は、確かに、その御力故に、同族にすら恐れられ、処刑されようとした。
 アーデルハイトを人質にされた。
 陛下は、大人しく、処刑台に上った。
 そして、国も民も捨てて、封印を解こうとした。
 それは残らず、真実の一端だよ。
 だよね、ブリジット。」
ブリジットの言葉をとるように、私は、半ば唄うようにそう言った。
そう、少なくとも、嘘ではないのだ。
嘘では。
私の言葉を継いで、ブリジットは、こう言う。
誰にも、顔を見せないように、海側の仕切りに手をそえて。
「・・・・・誰も、嘘を伝えようとはしていない。
 当時、ストラウスとアーデルハイトは、相愛だと信じられていた。
 起こった事をつなげて解釈をすれば、伝承のようになって当然だ。」
ブリジットは、紅い薔薇を模したイヤリングを耳から外し、更に独白する。
どうして、そうなってしまうんだろうね。
嘘を伝えてないのに、嘘に塗れてしまうなんて。
「私とエレノアの二人が、真実を知る立場にいた。
 ストラウスが、アーデルハイトを愛していない事を。
 何が、あの人に王である事を捨てさせたのか。」
「陛下の、闘いは、不毛だよ。
 封印を砕き、アーデルハイトを殺せたとしても、陛下が失った星はもう戻らない。」
ブリジットが語ることは、少なくとも、嘘ではない。
でも、奥に幾つかの秘密がある。
それを私は語らない。
語れば、ストラウスの決意を閉じる事になるから。
黙っていれば、少なくとも、ブリジットは戦えるから。
「どういう事です?」
と、そんな時、横合いから、花雪の声がかかる。
その後方に、蓮火も居た。
「お話中、すいません。
 ヴァンパイア王が、女王を愛していないと聞こえましたが?」
「赤バラは、女王など愛していない。
 それでも、ヤツが女王復活を望み、生き永らえようとするならば、我らはヤツを殺さねばならない。
 状況に変わりはあるまい。
 それとも、そちらには、そうだと困る理由があるのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
花雪に歩み寄りながら、ブリジットはそう言う。
ストラウスは、生永らえようとしてはいないけど、生き永らえなくてならない立場なのだ。
ま、ここでいうことではないね。
それに、実際、花雪・・・正確には、GM御前サイドは、そうでなくては困る状況なのには違いない。
私とて、裏稼業でなかったら、絶対に、信じれない事だった。
というか、あれを信じたいと思う夜の民はおるまいよ。
「お前も、赤バラの想いがどこにあろうと関係あるまい。
 奴が、お前の女の殺したと言うだけで、戦う理由は揺らぎはしないだろう?」
蓮火にそう言った、ブリジット。
確かに、それくらいで揺らぎはしないだろう。
私が、五十年前のあの時に聞いた嘆きは、凄惨とまで言って良いほどだったけど。
剣の腕は、憎しみで少し曇っちゃった感はあるけれど。
しかし、蓮火が煙草に火をつけながら、次にいった言葉は、真面目に、あたしは硬直した。
というか,蓮火、お前、マゾか、と本気で突っ込んでやろうかと思うぐらいだった。
「・・・・・・笑える噂を聞いた。
 かつて、お前は赤バラの娘同然に育てられたと。
 ついでに、奴の恋人だった時もあると聞いたが。」
「!!」
それに、一応、敵味方はっきりしてない、レティシアと花雪の前で、そんな事普通言うかな?
案の定、二人は、驚きまくってるし。
「一体なんだ?
 お前は何を黙っている?」
「・・・・・・私が、赤バラに育てられたのは事実だ。
 十歳の時に、赤バラに引き取られ、夜の国が、滅亡するその時まで・・・・・。」
蓮火の言葉の返答と言うよりは、独白に近い語調で、ブリジットは語る。
確かに、そうだった。
ブリジットは、此処数百年愛用していた、赤薔薇のイヤリングをするりと手から滑らせ、海に流した。
「私は、赤バラの側に在った。
 ただし、恋人だった時間は、一秒とて無い。
 私は、あの男にとって、「可愛い娘」でしかなかった。
 ・・・・・・・・真実が、知りたければ、赤バラに訊け。」
さて、荒れそうだ。
それでも、ストラウスは、決して、「真実」は話さないのだろうけど。
でも、話すのも、或る意味での「真実」だ。
少なくとも、客観的な意味での、今知る人は知る「真実」と言う意味で。








「・・・『そして、憎悪の黒月を見るといい』か。
 いい具合に、凝ってるねぇ。」
その後の車中。
私は、そう呟いた。
でもね、ブリジット、あの人は、誰も、そう、誰も、決して憎んでいないんだよ?
御前が、花雪に呼びかけているが、先ほどの言葉の事を考えていたのか、上の空の花雪。
レティシアも、「どうしていいのか、解らない」というように、俯いたままだ。
「・・・・・雪、花雪。
 どうした?」
「あ・・・・・いえ・・・・・・対した事では。」
何処かそうなのだろう。
少なくとも、「陛下が、アーデルハイトを愛していない」と言うのが本当なら、そっちの狙いは、ご破算だろうに。
そうこうするうちに、ストラウスがいる日本家屋に戻る。
考えてみれば、御前の仕事を受けてから、初めて会うんだよね。
一応、自業自得と言えば、そうなんだけど。
怒らないのが解ってても、気まずいのに変わりないんだし。
レティシアについて、ストラウスの処に行くと、彼はケーキを食べていた。
・・・ちょっと羨ましいのかもしれない。
三段で、間に生クリームとイチゴのスライスを挟み、生クリームで飾った上に鎮座するのは、ルビーのようなイチゴ。
うん、美味しそう。
・・・って、そう現実逃避してる場合じゃなくて。
レティシアが、言いあぐねている。
私が、ストラウスに挨拶をしても、そのままだ。
そこに、花雪が、言葉をこう挟んだ。
「貴方が、女王アーデルハイトを愛していないというのは、本当ですか?」
しばらく、沈黙が流れる。
同時に、風に葉が、踊る。
少なくとも、ストラウスとしても、言いにくい事ではあるのだ。
「----------私が、王になる前、夜の国の大将軍であった頃。
 私は一つの星を失った。
 ステラと言う、人間の女を。
 もしも、後一月でも、生きていれば、彼女は私の子を産んでいた。
 私が、すべてを掛けて愛したのは、アーデルハイトではない、ステラただ一人だ。」
ケーキを食べ進めながら、ストラウスは、話を進める。
ま、事実だけなら、そうだろうさ。
嘘ではないけれど、真実・・・ありのままというのなら、そうではないものだ。
「人間の女性?」
「黒鳥(ブラックスワン)五十代目、比良坂花雪、其処で一端ストップ。
 ストラウス、いえ、陛下。
 私の口から、幾つか良いですか?」
「かまわない。」
「ありがとうございます。」
視線だけで、いつか、約定したようにしか話さないと。
幾つかの真実を隠した真実までなら、良いとストラウスは、許可したのだ。
不信に思われようと、情報を明かし過ぎれば、殺されるだろう。
陛下は良くも悪くも、そう言う方だ。
「赤バラ王が、本当に愛したのは、本当に、混じりっけ無しに、人間の娘。
 当時、18歳になったばかりの娘で、名前をステラ=ヘイゼルバーグと言う。
 あたしの義理の親戚でもある。」
正確に言えば、その時のヘイゼルバーグ家の当主がその座を退けば、私が、その座に付くはずだった。
もう、そうなることは無い。
そうなることは無かった義妹になるはずだったステラ。
でも、本当に、外見ではなく、心が美しい娘だった。
「何事もなければ、ストラウスの子ども生んでいた。
 でも、彼女は殺された。
 万が一、腹の子どもまで、助からないように、完璧なまでに、引き裂かれていた。」
陛下、いえ、ストラウス。
心配しなくて良いわ。
私が、私の思考が、行き着いた真実を決して語らない。
あの真実が、今も、一族を苛んでいるのだから、話さないわ。
それが、私の矜持だからね。
「当時、政治的、その他の理由で、犯人の捜索は、断念された。
 それから、十五年後、赤バラ王は、敵対国の人間のみならず、同族からも恐れられ、処刑されようとした。
 元老立ちに寄って、処刑を策謀された。
 皮肉な事に、その時になって、ステラを殺した犯人が分かった。」
今のところ、ストラウスは、静かに聞いている。
聞きながら、ケーキを食べ進めている。
・・・ここまでは、許容範囲内らしい。
更に進め・・・正確には,一番の核心を口にした。
「殺したのは、女王アーデルハイトだった。
 赤バラを愛するあまり、嫉妬故に、ステラを殺した。
 そうと知った王は、復讐に走る。
 しかし、姫様も、土壇場で、魔力に目覚めてしまった。
 彼女が、魔力を暴走させたのは、伝承にあるように、赤バラの危機に狂乱してではなく。
 赤バラに、殺されるのに怯えたから。」
もちろん、真実は、違う。
何が、どうとは、今は言えないが。
それでも、あの時、アーデルハイトが、魔力を暴走させる直前まで、処刑場にいた私として、それは、確実に証明できる。
背景まで・・・・・・真実の奥の真実まで、情報を得たのは、事件後百年ぐらい立ってからだ。
黒鳥(ブラックスワン)が、三代目か四代目のときだ。
最終的な、結論を得たのは、黒鳥十七代目の時だった。
「私が、封印を求めるのは、アーデルハイトを引きずり出し、その手で八つ裂きにする為だ。」
そこで、私から言葉を受け継いだストラウスが、言葉を切る、
当時、直後の出来事で、ブリジットは、確信的にストラウスに裏切られたと思ったらしい。
その場にいなかった私が、直接知る事は出来ない。
でも、その後の状況を考えるに、それは、あの出来事が無い限り難しい事柄だったらしい。
だから、余程の事だったのだろう。
しばらく、沈黙が落ちる。
風が、不意に強く流れ、木々を揺らす。
そして、黒い鳥が羽ばたいていった。
「ヴァンパイア王、貴方は・・・・・。
 不毛な復讐の為に、全てを捨てたのですか?」
・・・・・・・・・・・「不毛」ね。
少なくとも、それで、ダムピール達は、まとまって来たんだよ?
それを、「不毛」の一言で、潰して欲しくないな。
本当は、言っても欲しくない。
花雪の言葉に、ストラウスは、無表情とも取れる表情で、こう返す。
「目的がどうであろうと、やる事は同じだ。
 封印を探して、倒す。
 邪魔する者は、倒す。
 私とお前の関係も変わる事はあるまい?」
「いったい、千年前に、何があったんです?
 貴方やエレノアさんは何を黙っているんです?」
花雪は、そう疑問をぶつけていく。
ま、当たり前だ。
それに、私が、ストラウスと口裏合わせ、幾つかを隠していることを察知したのは、流石だ。
流石は、黒鳥だ。
さて、これ以上みていても仕方あるまい。
そう思った私は、この場を離れる。
千年前のあの後に、会得した空間転移の魔術を駆使して、ブリジットと蓮火の居場所を探す。
どうせ、一悶着あるんだろうけど。
どうでもいい、少なくとも,私には、ね。
本当に、どうでもいい。
花雪たちの目的が、「アーデルハイトとストラウス」の両方の力がいる事・・・・・・「ストラウスにアーデルハイト」を「殺させない」ことも、どうでも良い。
結末は、結局結末にしか、行かないのだから。








Day’s4 僕のご主人様

2008-01-09 20:01:10 | 凍結



僕は、光龍のシャイニング種・輝(テル)=ヴァイスと言います。
88番地に、ご主人のディスティアっていう名前の魔法使い系の人です。
僕は、ご主人に、この街で、二匹目に出逢ったドラゴンだそうです。
先輩龍に、シワコワトル種のケレルさんがいます。
ちょっぴり、わがままだけど、頼れるお姉さんです。
だけど、解りにくいだけで、とっても、優しいんです。
僕が、ご主人に、引き取られたのは、ご主人が、召喚石が二つ目になったからでした。
この街では・・・他の街は知りませんが・・・、初めに召喚石を貰います。
そして、二匹目以降に入れれるようになったら、その召喚石が分裂するんです。
一応、直接的な契約を出来るのは、五匹までですが、心理的な契約?は制限が無いようです。
うんと、あんまり、理解してないんですけど。
ともかく、ご主人の二匹目の龍が、僕だったんです。
入れれるようになったその日に、僕が龍屋から、引き取られました。
直前まで、ケレルさんが居たみたいなんですけど、買物で帰ったと後から聞きました。
龍屋さんから、88番地への道すがら、ご主人は、こんな事を話しかけてくれたんです。
「名前、どうしましょうか。」
「人間形態になるとどんな外見なんでしょうね。」
「オトコノコの龍は、久しぶりですね。」
とか、色んな事を話してくれました。
まだ、人間の言葉がよくわからなかったんですけど。
でも、何故か、意味は解りました。
そうして、ご主人に抱っこされて、88番地に帰ったんです。
ご主人は、背が高くて、それなりに起伏のある身体をホータイを緩めにまいて、魔導師用のゆるりとしたローブを着ていました。
髪は、青みがかったアッシュブロンド、瞳はサファイアみたいな深い青。
服装は、身体の線がよく解らない服です。
そのせいで性別がよく解らないんです。
龍形態の時は、尚更でした。
ご主人が、男性じゃないのわかったの、人間形態に初めてなったときでした。
88番地に来てから、三日目の事でした。
二回ほど、ご主人に導かれて、人間形態になるコツを掴んで、自力で人間形態になったのが、その日でした。
僕の人間形態は、銀髪に金色の瞳で、十歳ぐらいの短パン、サスペンダーの男の子です。
ケレルさんより、幼い感じになったのは、少し残念でした。
オトコノコとして、先輩より、幼いのは少し悔しかったんです。
「ご主人、自力で、人間形態に変身できました!!」
ギュ・・・ふにゅって、やっと気付いたんです。
思い切り抱きついてから、です。
「・・・・あれ?
 ご主人、胸、ふにゅふにゅしてる。」
「ディスティア、もしかして、輝に、言ってないの?
 ダメじゃん、いわないと。」
「うっかりしていましたね。
 ・・・・・ああと、輝。
 私は、その感触のとおりなんです。」
「だから、ご主人。
 いつも、お風呂一人で、入っていたんです?
 一緒に入っても、にごり湯の入浴剤いれてたんですか?」
「それは、また、違う理由なのですよ、輝。」
「なんでですか?」
「輝、ディスティアが、自分から話したくないこともあるわよ。
 此処に落ち着くまで旅してたんだし。
 過去にいろいろあったのよ。」
「ごめんなさいね、輝、ケレル。
 今は、まだ話せません。
 それに、此処に来た目的を忘れるぐらい、此処は少し殺伐としていますが、それでも穏やかで暖かいのです。」
ご主人は、そう言って、少し淡く微笑んだんです。
その微笑みは、何処か悲しげだったんですけど。
僕とケレルは、何も言えなかったんです。
どういう過去があっても、ご主人がご主人なのには変わりないのに。
それから、僕が、ご主人の過去のことを少し解ったのは、それから数日後のことでした。











その日は、曇りで濃い霧が出ていました。
今にも、濃い霧の代わりに、雨が立ちこめそうなそんな天気の午後でした。
でも、ケレルは、ご主人のお使いのお手伝いで、外に出ていた日だったと思います。
僕は、『黒猫の舞踏会』という本をご飯を食べる部屋で読んでいて、ご主人に呼ばれて、ご主人の部屋に行ったんです。
ご主人の部屋は、一階の左奥の三間続きで、その奥が寝室で、手前が、物置と言うか実験室兼作業室。
ちなみに、一階の右奥部分は、生活共有空間って言う分類のがごちゃごちゃしてます。
いわゆる、洗濯場や風呂場、洗面所なんかです。
その実験室兼作業室に、ご主人は居なかったんです。
「ご主人?』
「すみません、今そちらに行きます。」
ご主人は、鉄の宝箱と言うアイテムの殻を小物入れにしているんです。
家に居るときは、装飾品の類いはあまり付けないので、その装飾品入れにしているんです。
それに、仕切りを付けて、武器の手入れ道具も入れているようです。
この時も、作業用の魔導士衣―整備用の油だとか、薬だとかのシミで汚れているんですーを着ていました。
淡く青に輝いている髪も、帽子の中にまとめて入れているようでした。
「牽制用の小刀を昨日、全部使ったのですけど、まだ手入れしていませんの。
 輝、手伝ってもらえますか?」
「全部って、50本ぐらいありましたよね?』
「・・・・・・はやく、レベル50七連戦したのです。
 無論、アイテムで回復しながらですが。
 最後の142番地の乾さんが、とても、接戦でしたので、ついムキになりました。
 ・・・・・・初めて、戦闘で勝てて、辛勝でしたので、まだ良かったのですけど。」
「・・・良かったのですけど?
 どうしたのですか?」
「つい、手元を入れ違えたと言うか、力の位置がずれたと言うか、殺害一歩手前でした。」
作業用の木製の円卓と折りたたみの椅子を引き寄せながら、いつものアルカイックスマイルを崩さずにそう言ったんです、ご主人は。
ちょっぴり恐いと思いました。
とても本人には言えないですが。
何故だか、その笑顔が、『仮面』みたいでしたから。
「さて、ケレルが、帰ってくる前に、終わらせましょう。」
「何処まで、お使いに?」
「隣町ですね。。
 栗とロホロホ鳥の卵、肉、はちみつですね。」
「ハニーパウンドか、パンケーキの栗入りと、チキン焼き?
 そしたら、帰ってくるの五時過ぎそうですね。」
「そうですね。
 輝は、お腹すきましたか?」
「ん~、そうでもないです。
 終わらせましょう。」
「そうですね、輝。
 ええと、小刀の方、オイルで拭いて、軽くヤスリに掛けた後に、そよ風程度に龍の魔力込めてくれますか。」
「はい、ご主人。」
しばらく、無言で、作業が進みました。
魔力を込めるのは、飛ばしやすくするためだと、前に聞いた事があります。
ご主人は、その時使っていた、エーテファインを布で磨いていました。
結構、使い込んでいる部類に入る剣です。
後は、此処に来る前から使っている鋼の剣とご主人が扱うには、少し大きな白い布に包まれた剣。
後、奇妙に、感じる刀が二振り。
大きな剣の方は、私の大切にしていた人が使っていました。と、寂しそうに前に言われました。
刀の方は、聞いていません。
なんか、聞いちゃいけないっておもったから。
僕は、あんまり考えないように、作業に没頭しようとしました。
だけど、出来なくて、作業を止めてしまいました。
「輝?
 どうしましたか?」
「あ、ううん。
 そういえば、乾さんってトコの、タイガさんって龍、なんか、ご主人睨んでませんか?」
「ああ、たぶん、初日ちょっと、疑われて、それでまだ疑っているんでしょう?
 一応、晴らしたんですけれど。」
「・・・・・・・・そうなんですか。
 ねえ、ご主人、歌、歌を歌って欲しいです。」
一応、その話題は、触れて欲しく無いのかなぁとか、思ったのです。
だから、逸らすためも含めて、そうリクエストしてみました。
「歌・・・・・。
 どういうのが良いですか?」
「この霧みたいな静かなのがいいです。』
「そうですねぇ。」
ご主人は、作業する手を休め、眼を静かに閉じて、唄い始めました。



♪  霧 霧は何もにも 捕らえることは出来ない
   形があるようで 形が無く 
   姿が無い霧は ただ漂い 流れるだけ      ♪


♪  霧 霧は愛情にも 何処か面影を覚える
   形が無いから 掴めない 実感できない
   実感したら その手からすり抜ける      ♪



「どうでしたか、輝?」
「ご主人。
 ・・・・・・ご主人は、どこにも行きませんよね?』
「・・・・・輝?」
僕は、多分泣いていると思いました。
ご主人の歌を聴いて、何故か不安になったんです。
そう、不安です。
何処かに行くか、解らないのに、でも、何時かご主人がここから居なくなってしまう事が解りました。
手が、オイルで汚れているから、拭うことも出来ません。
主は、少し困ったように笑いました。
僕は、ご主人にそんな顔をさせたい訳じゃないのに。
どうしても、僕の涙は止まりませんでした
次から次に、涙が溢れて来たんです。
「だって・・・・・、だって、ご主人が、いつも寝る前に、ペンダントを見つめて。
 凄く哀しそうで・・・・何処か行ってしまいそうだって・・・・・・。
 ケレルさんや、そんなこと無いって笑って言うけど・・・・・・。』
「・・・・・・・・・・・・・・見られていましたか。
 輝、手を洗って来てください。
 ちょうと、お茶の時間ですし、少し、ほんの少しですけれど、お話ししますよ。
 だから、泣かないでください、輝。」
「ご主人!!?』
「泣いた鴉がもう笑いましたね。
 ・・・・・確か、カステラありましたね。」
「わぁい。』
現金とか言わないでください。
甘いものでおいしいものと言えば、カステラです。
それ無くして、この街の食事を語るな!です。
カステラこそ、人間の食事の金字塔なのです。
キングオブキングなのです。






はくはくはく。
私のも、半分あげます。と、ご主人は、自分の分のカステラを半分にして、僕のお皿に入れた。
僕が、僕の役目の紅茶をいれて、ご主人が、話し始めるのを待っていました。
しばらくして、「開いてみて」と、人間形態の僕の拳よりも大きな・・・・それでも、ちょっと大きなリンゴぐらいの平たい包みを僕にご主人は差し出しました。
布をほどくと、それは、龍の翼と鳥の翼を交差した上に、薔薇の紋様が、その意匠に剣が刺さる紋様を薄青い翡翠のような石に彫り込み、銀で縁取ったアンティークな感じのペンダントでした。
高いとか安いとかよく解らないです。
でも、凄く手がかかっているなって、思いました。
綺麗だったけど、でも、何故か、血の匂いがしたんです。
ほんの一瞬でしたけど、確かに、それは、血の・・・死の匂いでした。
「・・・・・・それはですね。
 私が、故郷から持ってきた数少ない品です。
 ・・・・成人の儀の日に、婚約者からもらいました。」
「キレーですね。」
ご主人は、少し悲しげに、言葉を続けました。
「でも、その数日に私は、その婚約者を殺しました。
 この手で、剣で胸を刺し貫いて。」
「・・・・・っっ!!?』
内容も、驚きましたが、それ以上に驚く事がありました。
あまりにも、その声音は、感情がこもっていませんでした。
ご主人のその声音に、敢えて名前をつけるとすれば、『虚ろな絶望』とでもういうような。
絶望に、絶望を重ねて、重ねすぎた果ての感情に、僕は思いました。
短い、龍生でも、それが解るほど、ご主人の声には、感情らしい感情がありませんでした。
太陽が、その強過ぎる光に、そのものが見えないように、強過ぎた感情が全ての感情を飲み込んでしまうようでした。
「・・・な、なんで?』
「・・・・・・・・・そこまでは、まだ秘密です。
 私も、まだ、受け入れ切れていない事実なのです。
 真実かどうかも、含めてね。」
おいでおいでと、手招きされ、膝の上に乗ってと、小声で言われ、そうしました。
ご主人は、ぎゅっと僕を抱き締めました。
少し珍しいことでした。
その数日の事ですが、ご主人は、抱きつかれたり、或いは自分から撫でることはあっても、ご主人が自分から抱き締めたりするような、過剰なスキンシップはあまり無かったんです。
「・・・・・ご主人?』
「・・・・・・・・もう故郷には、戻る気はないのですよ。
 それに、私は、故郷を出てから、やっと安らげているのです。
 最低でも、目的が此処に居ましたからそれを倒せるまで、此処に居ます。
 ・・・・戻る場所が無いのですから、恐らくそのまま暮らすかもしれないですしね。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・私は、ケレルや輝のことが大切です。
 この街を出るにしても、一緒に連れて行くつもりですよ?」
優しく、小さな子どもに話しかけるみたいに、静かに語りかけるご主人。
ちょっと、子ども扱いされてるなぁと、思ってしまいました。
だけど、僕は思わず、ご主人に、僕の方からも、向き直って抱きつきました。
「ご主人、僕も大好きです!!」


僕のご主人様は

まだ 僕にも話せない

青色の過去を持っているけど

だけど、僕は、

ご主人が大好き!!

今はそれで良いと思っています






08年一発目は、遊戯王の予定でしたが。
相方の兼ね合いで、今回と次の更新は、恐らくsos2オリジナルになると思うです。


I wish you a Christmas?†聖夜の夜に† (季節ネタ番外)

2007-12-24 11:29:00 | 凍結

※季節ネタですので、ゲーム中に、登場人物及び、その周辺設定を合わせております。
 微妙に、06年10月以降の事も、少し書かれてます。



I wish you a Christmas?†聖夜の夜に† 




12月24日
その日の88番地は、いつもにも、まして、戦争だった。
元々も、メンバーの数が多いところだ。
なおかつ、シルバニオンのアージェントが、現役の方の図書館で、クリスマスの知識を手に入れて来たことや、メティラゴスのエルヴィンが、小さめとは言え、もみの木を引っこ抜いて来たことで、クリスマスムードが高まったようである。
「主様、クリーム、5リットル分泡立てました。」
「わかりました、それ、三等分してください。」
「うん、わかりました。」
「姫さん、ローストビーフ焼き上がったぜ。」
「ストーブの側の机に置いておいて下さい。
 寒く無く、暖か過ぎも泣くな処ですよ。」
「OK、チビ達に食われないようにしとくぜ。
 次は、ローストターキーだな。」
「マスター、シチューの味を見て下さい。」
「解りました。」
「おねがいします。」
「サンドイッチ、冷蔵庫ですね。」
「お願いします。」
「ええ。」
「マスター、腹減った~。」
「居間に、オニギリとストーブに味噌汁が掛けてあります。
 紅や、ヴァーユをよろしくおねがいしますよ、アージェント。」
「いえす、まむ」
こんな具合に、ディスティア及び、上から、リュコラヴォスのリュイス、ボレアスのセファイド、レティーシアのラケシスの三人と合わせ、フル回転で、クリスマス料理を作っているのだ。
最後の銀髪のアージェントは、ただの邪魔であるのは、明白なのだが。
メニューとしては、ローストターキー&ポーク&ビーフ、付け合わせ数種、海老のオーロラサラダ、サンドイッチ、シチュー数種などなど。
一応、瑠璃など、和風好み用に、キノコパスタや、肉味噌ポテトサラダなどを用意している。
ケーキは、生クリーム、チョコ、マロンの三種類+カボチャケーキ
アージェントは、ちびっ子ズのアリナトの紅とブルーホワイトのヴァーユの面倒を見ている。
たぶん、一緒にサイクロンのアレクサンドラもいるだろう。
或る意味で、ローストビーフをちびっ子達と一緒になってつまみ食いしそうな組み合わせなのだが、セファイドがうまくヤッてくれるだろう。
ラリユーのレヴィンとシンのブリジット、イシュタルのソルカーシュは、飲み物の類いのおつかいに、隣の市場まで行っている。
住人のほとんどが、健啖家というか、大酒飲みな以上、「帰りは、小さな荷馬車を借りなきゃね」というのが、冗談にならないのである。
ちびっこでも、ヴァーユが、そこそこ呑めるように。
また、クラッカーなども、一緒に買うようだった。
だから、林檎酒や生姜蜂蜜酒から、テキーラ系まで、色々用意する羽目になるのである。
エポパスのライアとメティラゴスのエルヴィンが、裏庭に移植したもみの木に、飾り付けの仕上げと、余計な雪を落としている。
その後に、薪割りをする予定のようだ。
電飾の代りに、エルヴィンが、炎の精にお願い・・・もとい、脅して、硝子玉に入ってもらうようである。
トップスターの中に入ってもらう精霊にお願いする役は、末妹の紅が担当するようだ。
祭りは、準備が楽しいという。
普段は、諍いが少ないと言えないような個性豊かな面々が揃う88番地。
でも、クリスマスの空気に、一致団結していた。
食い気やら、主への忠誠やら、理由は違うけれど。
それでも、妙に浮かれたクリスマス気分だった。


「「「「「「「「「「「「「「Merry Christmas!!」」」」」」」」」」」」」」
ディスティアが、メモリーオーブに、「Joy to the World」や、「Amazing Grace」等のクリスマスソングを吹き込んだモノをBGMに、そんな声に響いた。
続けて、クラッカーの破裂音がなる。
間をおかず、乾杯のグラスの音が鳴る。
ちびっ子達や、お酒に自信が無い人(龍)には、林檎酒や蜂蜜生姜酒のお湯割りのグラスが手に。
それなりに、呑める人(龍)は、とりあえず、スパークリングワインのグラスが手に。
ローストターキー&ポーク&ビーフをそれぞれが、好みのモノを一皿目として、切り分けられる。
ソースは、基本的に、同系等ので、まとめてあるため、問題は無いのだ。
そうして、無礼講と言うか、そんなのが始まった。
腹が膨れてくると、宿り木のリースの下で、ラケシスに、エルヴィンがキスをして、ソルカーシュに、睨まれていたり。
呑み過ぎた、アージェントが、ヴァーユを抱っこしたまま、潰れたりしていた。
始まって、数時間が過ぎる頃には、涼しい顔したライアとブリジット、茹で蛸になった状態で、セファイドが、呑み比べというか、そんな具合で、呑み続けるだけで。
他の面々は、風呂に入ったり、早い人は、もうベッドの住人になっている。
リュイスとラケシス、ディスティアの三人は、後片付けをしている。
ラケシスが、流し台に立ち、皿や鍋を洗っている。
リュイスが、洗い上がって来た皿の水気を拭き取って、戸棚に入れている。
ディスティアは、ローストターキーの骨から、肉を丁寧にはがし、小さな肉片を鍋に、割合大きな肉片を別のボールに、わける。
そして、骨を砕いて、タマネギと人参、ブーケガルニ、塩ハムに、岩塩、粒こしょうを昨日別に作っておいたチキンブイヨンが入った寸胴に放り込んでいく。
これで、明日には、美味しいチキンスープが飲めるのだ。
もう片方のローストターキーの割合大きな肉片とローストビーフ&ポークの切れ端を、マリネとして、付け込む。
これを明日、さらしタマネギと一緒に、ホットサンドする為の用意である。
「マスター、料理上手いですね。」
「傭兵稼業を数年すれば、自然に、覚えますよ。
 それに、以前、一緒に行動していた剣士が、結構上手でしたから。」
「にしても、マスターのクリスマス料理って定住してないと難しく無いですか?」
「この時期だけ、定住していたのですよ。」
他愛も無く、でも、少し寂しい会話をしていく。
そうしていれば、じきに時間も過ぎる。




午前二時。
置き時計が、時間を告げる。



黒色のいわゆる暗殺者スタイルに、白い袋というスタイルで、ディスティアは、二階の廊下を歩いている。
リュイスは、一緒にサンタクロース役をすると意気込んでいたが、それでも、寝てしまったようだ。
レヴィンには、竪琴用の研き油と手編みの緑色の手袋を。
ヴァーユには、お菓子の詰め合わせと絵本を。
ライアには、手縫いの占いサークルクロスと、安眠セットを。
ブリジットには、レイピアの磨き油と藍色の手編み手袋を。
瑠璃には、緋漆の簪と瑠璃色の手編みのケープを。
リュイスには、本と栞セットと手作りのネコモチーフの指輪
そんな具合に、ディスティアは、プレゼントを枕元に、置いていく。
三階に上がる。
紅には、茜とお揃いの赤い手袋とマフラー、絵本を。
アレクサンドラには、フォトスタンドと水色のニット帽を。
ソルカーシュには、黒いセーターと、ラケシスとのペアリングを。
ラケシスには、料理のレシピ大全とソルカーシュとのペアリングを。
そこまでーソルカーシュとラケシスの部屋まで、配るとディスティアはとある事に気付いた。
一個前に、廻ったアレクサンドラの部屋にも、同じ事が合ったなと思い出す。
すなわち、先客が居た事を。
回った順番から考えれば、次の・・・アージェントの部屋で、鉢合わせするかもしれないと思いさっさと、移動した。
そして、案の定、その先客は、アージェントの部屋に居た。
「・・・セファ、去年も、同じ事をしていましたね。
 ありがとうございますと言うべきでしょうか、主人として。」
「ん「おこすつもりですか?」
先客―セファイドが、アージェントの枕元に、プレゼントを置いていたようだった。
ディスティアが、声をかけると、大声を上げかけたので、彼女は思い切り勢い良く、口を塞ぐ。
小声で、「静かに、配り終わったら、一階に来て下さい。」と言って、ディスティアは、アージェントの分を置いて、次のエルヴィンの部屋に行った。
アージェントには、低反発クッション(リクエスト)と、銀ねず色のマフラーを。
エルヴィンには、リップクリームと保湿クリーム、緋銀の逆十字のペンダントトップ。
それぞれを置いて、一階にディスティアは、移動する。
お湯を沸かすため、ケトルを火にかける。
その間に、とろ火にしておいた寸胴鍋の様子も一緒に見る。
「うう、さびー。
 姫さんも、もうちょっと何か着ろよ、風邪引くぜ?」
「風邪も、引けない身体なのは、セファも知っているでしょう?」
「そりゃ、そうだな。
 何、喫れる?」
やがて、セファイドも、プレゼントを配り終ったのか、一階に降りて来た。
そして、居間の椅子に、腰掛ける。
ディスティアが、暗殺者スタイルで、白いエプロンで台所で立つと言う、或る意味、キングギドラ&キュロットにも匹敵するミスマッチスタイルで、ハーブティをいれる。
「バレリアンとオレンジピールですよ。
 一応、寝る前ですし。」
「なんか、食うもんねぇ?」
「・・・カボチャケーキなら、残ってますが。
 寝る前に食べるのは、身体に良く無いですよ。」
「いいじゃんいいじゃん。」
「変わりませんね、セファイド。」
「そうか?
 結構、変わったぜ、俺も、姫さんも。」
「そうですか?」
「変わったぜ。」
「くすくす、そう改められると嬉しいですね。」
「・・・恋人も、出来たしな。」
「・・・・・・けほ、そうですけれど。」
「あっちの方はともかく、「呪い」は解けたんだろ?」
「ですが、あの人達にとって、私が都合のいい駒なことには変わりないですからね。」
「アイツが居るんだから、大丈夫だぜ、きっと。」
つらつらと、二人は、ハーブティとクロテッドクリームとイチゴジャムをそえたカボチャケーキを肴に、話していく。
他愛も無い・・・だからこそ、掛け替えの無い会話だった。
ぽつりと、ディスティアは、こう言う。
「それでも、一年前なら、一年後のクリスマスのことなんて、考えれませんでしたね。」
「だよなー。
 いつ、「呪い」が、どうなっか、解らない状況だったんだし。」
「ええ、本当に・・・・・・」
「うんうん、そうだったよな。
 確かに、「呪い」と「混沌」で、ダブルで大変だったもんな。
 おまけに、あの頃のお前は、自己追いつめモードだったから。
 それに、キサのこと思い詰めてたしな。
 ・・・・・・ありゃ、寝ちまったか。」
セファイドが、長々、話していると、ディスティアは眠ってしまっていた。
やはり、昨日からの準備で、疲れていたのだろうか。
寸胴鍋の火も消し、電気も消すと、セファイドは、ディスティアを俗にいうお姫様抱っこで抱き上げ、一階の彼女の寝室に運ぶ。
その時点で、眠かったセファイドも、深く考えないで、ディスティアと同じベッドに潜り込む。
ようは、ディスティアを抱き枕にして、眠ったのだった。
翌日、ラケシスが、ちょっと気をきかせて、寝たい人には、そのまま、その日は起こさなかった。
そして、昼少し前の事だった。
142番地の乾・・・ディスティアの想い人が、やって来た。
ラケシスは、マスターを起こしてくれるように、頼んだのだった。
約一分後。
言葉に表すのも、苦痛なくらいの悲鳴と言うか、絶叫が、ディスティアの寝室から、響いたのだった。


-------クリスマスの朝に、何があったのかは、ご想像にお任せする。






月の静寂(しじま) En.3 気に食わない依頼×協力戦線成立?

2007-12-16 03:14:51 | 凍結


「急に、呼ばれたかと思えば。
 そのちびっこの服とか、見繕えば言い訳ね。」
「チビッコいうな、これでも、十八だ。」
「おや、私は、1500歳ほどなのだけれど?
 そこのストラウスよりも、更に上だよ、ダムピールだけれど。」
「なら、なんで、コミュニティにつかないんだよ。」
「それは、レティシアも同じでしょ?
 私も、私なりの事情があって、付いてるんだから。」
「むぅ~。」
「で、ストラウス、どういう系統で揃えれば良い?」
「というと?」
「昔風の出そろえようと思えば、揃えれるわよ。」
レティと私の、初対面時。
あんまり、好きになれないタイプ。





En.3 気に食わない依頼×協力戦線






都内某所の日本家屋。
和風庭園の美しい庭に面した縁側で、花雪とタヌキジジイは、「星が落ちる」話をしていた。
結局、あの後、正式に、私・エレノア=シュヴァルツェン=ヴァイセンヒートは、タヌキジジイこと、GM御前に雇われた。
一応、元々、私は仕事に関しては、ビジネスライクだ。
報酬さえ、頂けるのなら、あの北の総書記の護衛でも、大統領の命だろうと、なんでもするさ。
それなりの金は頂くけれどね。
でも、今回の仕事は、金はそこそこ、合衆国の上議院議員を一月、警護する程度しか貰っていない。
そんな金で、GM御前と花雪のボディーガードを受けたのは、脅されたからだ。
適宜、指示された方を守れと言う事らしい。
今、ダンピールコミュニティを囲んでいる軍を、私が仕事を受けなければ、総攻撃をしかけさせると言ったのだ。
全く忌々しい。
セイバーハーゲンも、外道だが、GM御前は、もっと外道だ。
「所詮、あの者達に、大局は見えんのだ。」
あ、今の発言、タヌキジジイ、殺されたいととってしまいたい。
ストラウスやブリジットの、何が解るんだ?
どちらにも、付かない私が言える事ではないが、それでも、イライラする。
私は、ジ-ジャンの内ポケットから、煙草を「バッド・ジョーカー」という銘柄の煙草を取り出し、くわえる。
魔力で、火をつけ、手を使わずにふかした。
くわえたまま、唇の隙間から、煙を逃すやり方だ。
そのまま、一本目を吸い終わった時、二本目に手を伸ばしかけたときだった。
タヌキジジイの部下の一人がやって来た。
やや、慌てているようだ。
「・・・・御前。」
「何事か?」
「お電話が。
 相手は、ブリジット=アーヴィング・フロストハートと名乗っております。」
ブリジットが、御前を抑えにかかるとは思ったけど、直接、連絡とはね。
・・・・黒鳥も、連れて来いか。
蓮火に、話を付けさせると言うところかな。
でも、蓮火、気付いているの?
お前は、今のままでは、ストラウスに勝てないよ。
力量とか、そんなつまらんものじゃなく。








案の定、ブリジットが指定した場所に行くと、蓮火もいた。
ま、それでも、周りにコミュニティのメンバーが、人払いをかけるために、いるのかもしれないけれどね。
「奇矯なところに喚び出したものだな。」
「こう、人がいては、我らも下手はできん。
 そちらに気を使ってやったんだがな。」
「いいだろう。
 では、お互い、明日の為の話をしようか。」
顔を合わす形、軽い応酬をするブリジットとタヌキジジイ。
しかし、ブリジットの視線は、あたしの方に向かっている。
あー、はいはい。
確かに、何で人間なんかに、従ってますけどね。
そして、ブリジットは、後ろのトランクをこじ開けた。
やっぱり、山猫もとい、レティシアが入っていた。
どうでもいいけど、暑くなかったのかね。
埠頭のほうに、花雪と蓮火は、移動したようだ。
たぶん、小松原ユキ・・・先代の遺言を渡すのだろう。
蓮火にとっては解り切った事だろうに。
星は取り戻せないよ。
ストラウスが、ステラを取り戻せないように。
とりあえず、GM御前とブリジット、レティシア、私は、車の中に戻った。
対面座式のシートに、タヌキジジイと私が、片側。
もう反対側に、ブリジットとレティシアが、座っている。
タヌキジジイに、ウーロン茶。
ブリジットに、ドライ・マティーニ。
レティシアに、アップルジュース。
私に、ガルフ・ストリーム。
それぞれ、供された。
どうでもいいけど、雰囲気ぴりぴりしてる。
ま、仕方ないけどね。
「四の五抜きだ。
 コミュニティに敷いた包囲網を解け。」
「そうもいかぬよ。
 首輪無しで、放っておけるほど、お主ら、コミュニティは安全ではなかろう?」
「ほう、・・・・・我らに首輪を付けれると思うな。」
言葉のみの切り合いを、ブリジットとGM御前がする。
ほんと、GM御前は、少なくとも、セイバーハーゲンとよく似ている。
大局の為に。人を使い潰せる、トコとかね。
ま、セイバーハーゲンは、カリスマを持ってして、それを無していたから、違うと言えば、違うかな。
そんな事をつらつらと考えていると、ブリジットが、御前の方に書類の束を渡した。
「ば、馬鹿な。」
たぶん、全軍事データ。
配置から、ミサイルの自爆コード、核施設の制御プログラム。
そんなとこだろう。
GM御前、お前が敵に回したのは、あの赤バラが、手塩にかけて育てた娘だぞ?
それが、育成した諜報部員が、人間の情報網を突破するのは、ゾウがアリに勝つよりも、容易い事だ。
おまけに、霊力と魔力を使ったジャミングのデモンストレーションとそれに準じる脅しで、御前は金縛らざる得なくなった。
確かに、人は生き残るだろう。
でも、電気と通信を寸断されれば、経済的損失とダンピールが攻めれば、人的損失は量り知れないだろう。
人間は、長い間に、霊力とそれを御する能力を失った。
今、これを防ぐ術は無いだろう。
うん、ブリジット、合格だ。
少なくとも、今とりえる、サイコーの手だ。
レティシアも、固まっている、ストラウスに前、持って言われていたのだろう。
「もちろん、我らの魔力と霊力とて、無限ではないよ。
 しかし、三ヶ月もあれば、今の世界の人口を三割は、減らせる。
「あ、ブリジット。
 私も、その時は協力するわ。
 コミュニティを人質に、脅された仕返しはしないと、ね。」
「ならば、五割だな。
 エレノアだけでも、その状況なら、二割は減らせるだろう?」
「もちろん、黒死病バラ撒くのとか、一晩あれば、二つ三つは国を潰せるわ。
 ・・・・・・お姉さんを舐めないでね。」
私は、ちゃっかり、下手を打てば、私自身も、裏切ってやるというのだ。
脅しで、人を従わせたお礼はしないとね。
ブリジットと私のダブルで、忠告された御前は、多分こう思考している。
(今、ダンピールに手を出せば、最終的には勝てても、負けたも同然の被害が出る。
 ・・・・その上、この女は、迷わず全滅戦をしかけてくる―――――・・・・)
甘く見過ぎたね、御前。
我らは、我ら夜の国の民は、噛み付くなら、容赦はしないよ。
御前の左胸、心臓をつぃと、指差し、ブリジットはこう言った。
「我らに、触れるな。
 お互い、失うだけだぞ?
 そちらが、イイコにしていれば、人間世界を乱す気はない。
 わかるな?」
小学生に言い聞かせるように、ブリジットは言うのだ。
実際、我ら・・・などと、私が、言えた事ではないけれど。
夜の血族は、争いたいわけではない。
ただ、平穏に生きたいだけだ。
「・・・・・・コミュニティからは、手を退こう。
 だが、せめて、あと一週間、ヴァンパイア王の身柄をこちらに預からせてもらいたい。
 そちらにも、悪い話ではないと思うのだ。」
「まずは、軍を退け。
 話はそれからだ。また、連絡を入れる。」
ブリジットは、其処まで話すと、話は終ったとでも言うように、車を出ていく。
うん、少なくとも、最善かどうかはともかく、それないにイイ手だね。
御前は、或る意味、信じられないとでも言うような口調で、こう呟いた。
「・・・・・・しかし、解せん。
 これだけの力を持ちながら、ダムピールは何故、裏からでも、世界を支配しようとせんのだ?
 調べた限り、ぬしらの集団が世界情勢に関わった形跡なんぞ無いぞ?
 レディ・木蓮が、些少糸を引いたぐらいじゃが、それは些細じゃ。」
あ、うっさい。
一応、蝙蝠だって、お腹は減るから、ご飯の種を稼ぐのに、情報操作なんかをしてたんだよ。
身体を売るなんてのは、死んでもイヤだからね。
それに、戦略知識だけは、腐るだけあったしね。
私も、外に出る。
ブリジットは、街灯を眺めていた。
そして、こう言った。
「・・・・・・・どんな強力な支配も、抵抗を招いてしまう。
 無益な血を流すだけだ。
 我らが、平穏に暮らすのに、対して土地は必要ない。
 世界や人間を支配する意味は、無い。
 全てを欲せば、その欲ですべてを失うぞ?
 大概、にしておけ、御前。」
つらつらと言う。
その間にも、近くの観覧車に視線が行く。
だけど、それは見ていないだろう。
見ているのは、千年前に潰えた世界なんだろう、ブリジット?
歩き出したブリジット。
彼女を追って、レティシアは、付いていった。
「怖いだろう、お前が小僧扱いだ。」
「ああ、ヴァンパイア王にしろ、レディ・ブリジットにしろ、何という器量だ。」
「あれが、陛下の愛娘だ。
 さて、ちょいと、話を聞いてきたいから、少し待っててもらえる?
 花雪も、もう少し掛かるだろうから。」
御前と短い会話を交わす。
決して、GM御前は、阿呆でも狭量でもない。
ただ、会わないと解らないものは多々あるのだ。
私もブリジット達の後を付いていく為に、断ると。
御前にしては、珍しくきょとんとした反応を返して来た。
「仕事は続けるよ。」
「脅して受けさせたものだぞ?」
「おや、それでも、受けたのはあたしだ。
 私の仕事のプライドとして、最後まで受けるさ。
 そいじゃね。」
そういって、一度、御前から離れた。
花雪の話は、どうせ、芳しくないだろうな、と思いつつも。




月の静寂(しじま) En.2 赤バラの娘と書庫の守人

2007-12-07 20:46:20 | 凍結

「どうした、姫様。」
「もう、姫じゃない。」
「・・・・・ああ、あの事案が通ったのか。」
「・・・・・・・・・」
「ねぇ、ブリジット。
 国王は、ゴットフィード陛下は、さらりと決めたようだけれどね。
 あれで、その命令を出される前は、ここに通って、何度も、私に御尋ねになっておられたよ。
 『これで良いのだろうか?』って、何度もね。」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「でも、ストラウスの元にいて幸せなのだろう?
 未だ少し、わだかまりはあるかもしれないけれど。」
「ああ、そうだ。
 ストラウスは、本当にすごい。」
「そうか、本当に良い父親なんだね、ストラウスは。」
これが、ブリジットとのある時の会話。
彼女が、十歳の時。私が、三百歳ぐらいの時。
外見で言うなら、彼女は十歳で、私が、15歳ぐらいの時だった。







En.2 赤バラの娘と書庫の守人






かちこちかちこち

半壊したショッピングモールの時計広場に、ブリジット達は居た。
私・エレノアは、結局数日前の、五十代目黒鳥(ブラックスワン)とブリジット、ストラウス達が、邂逅する場に間に合わなかった。
でも、あの後、GM御前に聞く限り、別の場所で、ブリジット陣営と花雪達の戦闘があったらしい。
予想通りと言えば、予想通りだったけれどね。
私は、ブリジットの真後ろの位置にいた。
そこから、見ると、近い順に。
瓦礫の間に慄然と立つブリジット。
その近くの瓦礫に座りうなだれる蓮火。
更に奥に、元はファンシーな時計だった残骸に腰掛けるエセル。
二階へ通じる階段へ、座っているのは、風伯。
元気そうだ。
どうやら、誰も重い傷すら追っていない。
良かった。
私が言える事ではないけれど、良かった。
『そうか、では、情報部を走らせろ。
 そう。敵のインフラ、支配まで。
 追って、指示を出す。』
念話で、コミュニティの情報部に指示を飛ばすブリジット。
それに区切りがつくのを待って、私は声をかける。
この瞬間は、いつも、緊張する。
ストラウスのような、すぐさま殺さなければ、行けないような存在じゃないにしろ。
難しい立場なのだ、あたしは。
「コミュニティの周りに、国籍不明の軍隊。
 その上、偵察&攻撃衛星に包囲されてるし、大陸弾道ぐらい用意されそうね。
 GM御前。
 あのタヌキジジイは、面倒そうだね。
 ブリジット。」
「・・・・・・エレノアか。」
「うん、ええと、三年ぶりかな。
 四個前の、陛下の狙った封印の碑の場所でだから。」
「何のようだ?」
「陛下、とかなり、ドンパチやったって、教えてもらったから、お薬いるかなって。」
声をかけると、低い声で、ブリジットが答え、他の三人にも、緊張が走る。
そうされると、お姉さん的には少し哀しい。
薬瓶・・・十センチぐらいの小さな、三角底の歪なフラスコを三つ指と指の間に挟んで、存在を主張する。
色は、紫色の毒々しいカラーだが、これ一本で、滋養強壮とある程度の魔力回復、怪我治癒効果のあるものだ。
そのときいた場所から、飛び降り、ブリジットの側に歩み寄る。
「相変わらず、蝙蝠なのだな。
 エレノア、コミュニティには来ないのか?」
「その台詞も、相変わらずね、ブリジット。
 私は、私の理由があって、蝙蝠として生きているのよ?
 それに、真実に至る道の道しるべは一杯上げてるわ。」
いつもの会話をして、私は、自分より頭半分ほど上にあるブリジットの顔を見る。
懐かしい。
あの時から、然程変わらない。
「・・・・・・・・それにしても、厄介ですね。」
「時の権力者達が、我々に触れようとしたのは、幾度となくあった。」
「そうね、でも、それを危惧しているわけじゃないでしょ,風伯」
エセルの呟きに、乗っかるように、鎧武者の風伯が、過去を語るようにそう言った。
蓮火より、若いのに、クールだよね。
ある意味で、枯れているのかもしれないけれど。
「今日は、大人しく退いたが、我らに手を出した愚は思い知らせてやる。」
「じゃぁ、問題は何だ?」
蓮火は、気怠げに・・・やる気が無さげに、話を促す。
50年前に、小松原ユキ・・・先代黒鳥を失うまでは、充分格好良かったのに。
私が、背中を任せれると思った剣士は、ブリジットと君ぐらいだったんだけどな。
「「赤バラ(陛下)が、権力と結びつく事(だ)(だよ。)」」
ほぼ同時に、私とブリジットがそう言った。
しかし、ブリジットは、声が重なった事と未だに、ストラウスを陛下と読んでいる事が嫌なのだろう。
顔を微かに顰める。
私が、彼女達に会う時に、ストラウスを「陛下」と呼ぶのを止めないのは、一つのメッセージだ。
かつて、あの夜の国で、私が「陛下」と呼んだのと変わらないのことがだ。
「いくら、黒鳥(ブラック・スワン)がいても、タヌキジジイに、陛下を御せるはずが無いと思うよ。」
「逆に、赤バラに利用されるのが、関の山だ。」
「・・・・・でも、赤バラに、時の権力者を従える器量があるとは思えません。」
エセルがそんな事を言ってくる。
無理も無い、未だ一番若いのだから。
ブリジットが何かを語り出す前に、あたしは、嘆息一つの後に、揶揄するように、こう語る。
「無理も無いけれどね。
 もはや、陛下の治世を知るのは、コミュニティにも、いないし。
 せいぜいは、ブリジットと私、姫様ぐらいしか、知らない。」
「蓮火・風伯でも、600歳そこそこ。
 エセルに至っては、300歳にもならないからな。
 知らんでも、いた仕方ない。」
途中で、台詞を奪われた形になったが、まぁ、間違いない。
長い間に、ストラウスに、あの治世を知るダンピールや、辛うじて生き残った純血に近いのも、殺されたんだ。
知る人はいない。
語り合う人もいない。
寂しい事だ。
しかし、ストラウスを不倶戴天として、恨む蓮火には、許せなかったのだろうか。
私とブリジットの二人に、正確には私にやや量を多く、睨み噛み付くようにこう言って来た。
それこそ、視線で人を殺せるなら、もう殺害しきれるほどに。
「だがっ・・・ヤツの治世は、たかだか、十年。
 最後は、女の為に国を滅ぼしたクズ王だろう!!!?」
「・・・・・「腐食の月光(アーデルハイト)」がいなければ、ヤツの王国は未だ栄え散るぞ。」
ブリジットは、蓮火の激高を受け流すように、そう言った。
かがみ込み、健気に咲く白い花を慈しむその胸中は、謀りやすい。
(そうよね、まだ、ブリジットもストラウスの側に在れたわね。)
実際、愚王ではないのだ、ストラウスは。
むしろ、賢王であり過ぎたと言うべきか。
部外者でなければ・・・当時では、気付けないベールで、真実を包み隠したのだ。
・・・・・・まぁ、私は、当事者でもあったけれど、渦中におらず、書庫の住人であったから、ストラウスの異図に気付けたのだけれど。
真実は、変わらないからこそ、人を責めるの。
だから、私は、良くも悪くも今の状態がベターだと思う。
決して、ベストではないけれど。
「で、これから、どうするの、ブリジット?」
「解っているだろうに、意地の悪い。
 御前と赤バラを分断する。
 私が、御前を懐柔すれば、赤バラも利用できんだろう。」
「ついでに、黒鳥(ブラックスワン)も利用しやすくはなるわね。
 でも、御前の目的も、調べなくちゃ。
 結構、意外すぎる意外だから、ね。」
その後、この直前の赤バラ&黒鳥VSブリジット組の闘いの顛末とその反省がなされた。
このときに、やっとその日の闘いの経過を知った。
結末は、あのタヌキジジイが止めたと聞いていたけれど。
ああ、そう言えば、どうせ、アイツ、ストラウスの琴線に触れて、恐怖を味わうだろうな。
などなど、結構、色んな事を考えていた。
実際、ストラウスは、あれで、優し過ぎるからね。
結局のところ、ストラウスは、戦力・・・魔力も含めて、無い状態で、ある程度は勝て・・・はしなくても、負けはいない程度に、強いのだ。
だから、今回、負けた形になったのは、ブリジットの自身も気付かない動揺があったのだろう。
口にしても、否定されて、激昂されるのがオチと言う類いの事なのだけれどね。
「私のミスだ。
 読みが浅かった。
 赤バラなら、これぐらいの術策を瞬時に巡らせる。」
風が吹き抜け、その中に、髪をまとめていたリボンを解きながら、ブリジットの呟きも解け消えた。
その言葉に、苛ついたように、蓮火は、こう訊ねる。
・・・・・・どうでも良いけど、煙草の吸い殻のポイ捨ては頂けないよ。
あと、その問いもね。
「やけに、赤バラに理解があるな。」
「私は、お前らより、四百年は長くヤツと戦っている。
 理解もしよう。」
「本当にそれだけか?」
―――――――――――――かちこちかちこち。
ブリジットと蓮火の言葉以外は、時計の音しか響かない。
そして、或る意味で、彼女にとって最大の爆弾であろう台詞を蓮火が口にした時だった。
――――――――ボーンボーンボーン。
ちょうど、十二時なった。
そして、沈黙は落ちる。
蓮火、付き合いの長い、私とストラウスの次に、ブリジットと長くいるであろう君が、口にしては行けない事だと思う。
或る意味で、今君は、地雷原で、コサックダンスを踊っているに等しいだろう。
そして、ブリジットは、先ほど愛でていた花をヒールで潰し、こう言った。
「月にでも訊けば良かろう?」
それは、冷たい冷たい表情だった。
直接言われたわけでもない風伯は、エセルまで言葉に詰まらせている。
しかし、それを彼女自身が崩すように、動き出す。
「・・・各自休め。
 エレノア、傷を癒してやってくれ。」
「りょーかい。」
「直に、大きな戦がまた始まる。
 今まで以上のな。」
髪を結んでいたリボンを風伯の腕に結び、ブリジットは何処へも無く歩み去っていた。
弱音を吐けないってのは、寂しい物があるね。
そう思いつつ、先ほど色の毒々しい飲み薬以外にも、鎮痛効果のあるどどめ色の軟膏やら、疲労回復のみの赤い「酒」などを腰のポーチやジージャンから取り出していく。
「風伯、腕貸して。
 あぁ、やっぱり、これは黒鳥にか。
 エセル、一応、顔の擦り傷に軟膏塗っておけ。」
てきぱきと、風伯の右手の袖を斬り広げ、薬を塗り込んでいく。
黒鳥の傷とストラウスの傷は、見分けやすい。
霊力と魔力と言う違いもあるんだろうけど。
黒鳥のは、どうしても、引っ掻いたようなというか抉ったような傷になりがちだ。
巨大な霊力を制御しきれていない部分もあるからだろう。
反面、ストラウスの傷は、鋭利な刃物で切り刻んだような精緻な傷なのだ。
傷に、精緻もクソも無いが。
「強いけど、大丈夫なのかな、ブリジット。
 会うたび、ダンピール側に付いちゃおうか、考えるわ。」
傷の手当を終えた後、煙草を吹かしながら、あたしは呟いた。
昔から、本当変わらないのよね。
なんでも、自分で背負い込んじゃうし。
おむつを変えた事がある身としては、結構複雑なのよね。
ストラウスの事を考えるとあたしが、ダンピール側にいるのはマズいんだけどね。
「・・・・・ブリジットがいなければ、千年前にヴァンパイアの血族が生き残るのも、今のコミュニティが人間の世界で、維持できるも不可能なのよね。」
「ブリジットが、希代の指導者であり、戦いにおいても屈指の戦術家であり、戦略家なのは、周知の事だ。」
「それに、霊力も魔力も、強くて、剣でも蓮火さんと渡り合えるんでしょ?」
「世界中の警戒網と催眠結界。
 ダンピールは、ブリジットがいないと、赤バラと戦うどころか、瓦解して、人に追われるのがオチね。」
つらつらと、私がいうと、風伯やエセルが、付け加える。
私が、言えた事ではないけど、本当に、どうしようかと迷ってしまう。
蓮火は、語られる事を無言で聞いている。
そして、苛ついたように、何本目か解らない煙草に火をつける。
「・・・・今更、それがどうした?」
「・・・・」
風伯が何かを言う前に、私は、語り出す。
事実を包み、ある程度は、今の風聞にそったブリジットの事を。
「コミュニティにも、同じような噂があるのだろうけれど。
 かつて、ブリジットは、ダンピールながら、150歳の若さで大将軍を務めた。
 同じ頃、私は、書庫の守人なんかをやっていたけれど。
 王たる赤バラの右腕だったわ。
 陛下の治世が長ければ私も、そこそこまでは行っていたかもしれないけれど、あの子は陛下が、大将軍の頃から、右腕だった。」
「それだけではなく、赤バラに娘同然に育てられ、才能を開花させたとも言われる。」
「・・・・・下世話な話も、付け加えるなら、陛下の恋人とも、言われるわね。」
エセルも、蓮火も、初耳だったのか、はっとなる。
事実なのには変わりない。
「恨み無くて、千年も戦えないわね。
 ・・・・・・夜よ,夜よ、夜の国よ。魔と豊穰の夜の国よ。守りたまえや、至高の王よ・・・・・。
 遠いねぇ、今は遠い。
 なんで、彼女は、陛下が、捨てたものを守り続けるのだろうね。」
私は、そうと呟き、その場から去った。
しばらくは、いつものビルに世話になっていると、風伯に、ブリジットへの言付けを頼んだ。
日本に来た時に、世話になっているリトのトコロに、向かって、私は歩き出す。
さて、途中で、酒でも買ってくか。
ああ、フライドチキンの店も、未だやってるっけ。
近くに、24時間のトコあっただろうし。
そんな具合に、私は、三人に背を向けた。
どうせ、又明日か、明後日には、ブリジットかタヌキジジイが動くだろうからね。









月の静寂(しじま) En.1 今は昔、終わりは始まり・・・

2007-12-01 14:52:06 | 凍結




「ブリジット、見ない顔がいるけど、その子は?」
「最近入った、刃蓮火と言う。
 蓮火、こっちは、エレノア=エレノア=シュバルツェン=ヴァイセントヒートだ。
 ダムピールと言う事になるな。」
「そう、よろしく、かな、蓮火。」
「・・・・・なぁ、お前、なんでコミュニティに入らない?」
「不躾だね。
 私は私の事情で、いや、私の正義でコミュニティにいないだけだ。」
「なんでだ。
 生き難いだろ、人間に迫害とか。」
「聞いても、答えてもらえない事もあるのだよ?
 生き難かろうと私の選んだ道だし、そうね。
 聞きたいなら、そうだね、拳で聞いてくれると、お姉さん的にも、嬉しいかな。」
「なら、拳で聞いてやる。」
「・・・・・・・・・・・しばらくでも、使い物にならなくされると困るのだが。」
これが、私と蓮火の出会い。
彼が、百歳と少し。
外見で言うなら、15歳の時の出会いだった。















一つの御伽噺を語ろうか?
昔々、夜の王国があった。
その国は、『ヴァンパイア』の王国だった。
長い長い繁栄。
栄枯必衰というけれど、その国には、陰りは無かった。
でも、千年前のあの時、とある出来事によって、その国は亡くなり。
『ヴァンパイア』とその血族は、散り散りになった。
数百年かけて、自分達の存在を実在から伝説に、そう人間たちに浸透させていったのだ。
しかし、翳りが無かったその国が、何故、滅んだのか。
一般的・・・無論、ダムピールのコミュニティにだけれど、伝わるのは、次のお話。
『至高の赤バラ』と言われた王が、同族からも人からも、恐れられてしまったのだ。
だから、彼の王は、処刑されようとした。
それだけなら、よくある話までは行かなくても、処刑が済めば、めでたしめでたしだ。
しかし、その時、人質に取られていた女王が、王が殺されようとしたのを見て、半狂乱になり、魔力を暴走させた。
そして、一度世界は滅びかけた。
女王は、結果無惨に封印された。
王は、怒り、女王を取り戻す為に、同族や人と対立した。
―---結局、それが原因で、夜の王国は滅んだ。
それが、今も、伝わる悲嘆のお話。
だけど、真実を知るのは、数少なく。
ただ、月と数少ない同族だけが知っていた。
ただ、黒鳥(ブラックスワン)が、彼の二人を弑す為に放たれた。
それも、これも、今は昔の話。
当時から生きる者は、数少ない。
当時を語ろうとする者は、尚少ない。




    
En.1 今は昔、終わりは始まり・・・




『赤バラ、この仇は取ってやる!!
 俺がユキの仇を,絶対に取ってやる!必ず!!』
そんな声を、然程離れていない丘から、私は聞いていた。
刃蓮火が、四十九代目の黒鳥(ブラックスワン)小松原ユキの遺体を抱え、そう誓っていた声を私は聞いていた。
茶番(ファルス)と言えど、見ていて気持ちのいいモノではない。
私はそう思う。
ストラウスの千年に及ぶ、ミスリードを私一人の感情でご破算させるわけにも行かない。
辛いねぇ、自分から選んだ『蝙蝠』と、言えど辛い。
それよりも、彼の赤バラの方が、辛いか。
つらつらと考えながら、私は、その場を離れる。
「夜よ,夜よ、夜の国よ。
 魔と豊穰の夜の国よ。
 守りたまえや、至高の王よ・・・・・。
 今は、もう遠いね。
 続けば良かったのにね、ストラウス、ブリジット、アーデルハイト。」
あの今は亡き、夜の王国で、確かに、私達は幸せだった。
狂う時は、滅びる時は、潰える時は、ほんの一時で済んだのだけれど。
あの時に、死んでいれば、良かったのかもしれないね。
どちらとも決めれない、そんなのは、さ。




それから、五十年が過ぎた。
私の、焦げ茶の髪も、琥珀の瞳も、姿形も緩やかにしか変わらない。
嗚呼、バケモノだ。
人が、排斥しようとしただけはあると、時の緩やかなこの身体を思う。
だけれど、人のままで、黒鳥を付けた娘は、どうなるのだろうな、その身の上は。
五十年も、黒鳥が現れなかったのは、珍しい。
しかも、今回の黒鳥は、人に飼われているらしい。
そして、今、純和風の家屋で、仮面と和服で、花を生けている老人と大雑把に二つお団子状にした和服姿の少女が居る部屋を見ている。
完全に気配を隠し、小蟲一匹以下の気配もない状態で、二人の会話を聞いている。
老人は、「GM御前」と呼ばれ、少女は、比良坂花雪と言う名前だったかと思う。
内容は、アーデルハイトの『腐食の月光』のことと、封印された彼女を巡る争いの事だった。
実を言えば、私は怒っていた。
ブリジット達のダンピールコミュニティに所属しない、異端の千年前の生き残りだけれど。
直接、あの時間に触れた私としては、怒っていると言う言葉もぬるい位に怒っていた。
何も知らないお前らが、ストラウス達を利用するだって?
「よもや、ヴァンパイアなる者が実在しようとは・・・・これも天の配剤か。
 ―――――人類の命運、お前に託した。
 頼んだぞ、花雪。」
「はい・・・・・お爺さま。」
「ちゃんちゃらおかしい事なんだけどね。
 あの人が、人の大義の為に、真紅に染めた手を、そう利用するとは、流石は、GM御前と言うところなんだろうね。」
私は、堪らず気配をあらわにし、その和室に上がり込んでいる。
土足だけれど、そんなこと関係あるかとも思う。
花雪は、構えるが、私にとって意味をなさないだろう。
「ほほう、レディ・木蓮か。」
GM御前は、私の裏の稼業の常連は、私が裏で名乗っている名前を言った。
こう言う時でも、表面上怯えを出さないのは、年の功だろうね。
そこには、敬意を表するべきかしら?、と素直に感心した。
あるいみで、タヌキと表するべきだろうね。
・・・・・あと、黒のタンクトップとジーパン生地のジャンパー&ミニスカ、オーバーニーソックス、ロングブーツの私に、レディの呼称が似合うと思ってるのだろうか?
まぁ、多分、当てこすりだろうけれど。
「お久しぶりです,と言うべきところだろうね。
 少なくとも、人には、そう言うだけの時間が流れているし。」
「・・・・・・・・おじいさまのお知り合いですか?」
「そうだ。
 ・・・ヴァンパイアなどの情報を流したのも、彼女だよ。」
「初めまして、黒鳥(ブラックスワン)五十代のお嬢さん。
 武闘派情報屋の木蓮。
 黒鳥に黙っていても、無駄だろうから、ダムピールのエレノア=シュヴァルツェン=ヴァイセントヒート。
 これから、関わる事になるだろうから、挨拶と、君達がお探しの『赤バラ』の行方が解ったので、一応,お知らせに。」
あくまで、ビジネスライクにそう返す。
別の筋から、次に、ストラウスとブリジットが動くならば、この二人・・・正確に言えば、GM御前も動くだろうと言う事を小耳に挟んだからだ。
・・・・・・・荒唐無稽も良いところの話が、真相の位置にあるのだから、ブリジットも気付けない話だろうが。
ヴァンパイア達を人間のトラブルに巻き込むのは、蟻を殺すのに、ロケットランチャーと対空ミサイルが、適しているかの議論の方が、余程有意義だと思う事に等しい気がするしね。
「というより、今現在、『赤バラ』とブリジットが、交戦開始まで、棒読み状態でしょう。
 私も、ブリジットの方に用事があるので、これで失礼させていただきますが。」
「・・・・・花雪、接触を持ち、『赤バラ』をあの屋敷に迎えておきなさい。」
「はい、おじいさま。
 しかし・・・・」
「大丈夫だ、彼女に私を殺すつもりなど無いだろう。
 あるなら、とうに殺せておるよ。」
花雪は、何か言いたそうだったけれど、言いつぐみ、部屋を出ていった。
ストラウスに接触しにいくのだろう。
私も、退席したいのだが、このタヌキは、承知しないだろう。
承諾しないうちに、出ていけば、自分で自分を刺して、私のせいにする位はするだろう。
「で、前も聞きましたけど、あんな若い子を嘘の孫に仕立て上げて、何をするつもりで?」
「人類の為じゃよ。」
「・・・・・・人類の為,人類のためね。
 それで、人間を使い潰していいわけか?
 まだ、セイバーハーゲンの方が、高潔だったよ。」
少なくとも、あの「無限十字」には、「私」が無かった。
無かったからこそ、私は、殺さなかった。
少なくとも、殺すよりも、生かす方が、「無限十字」にとって地獄かもしれないとも思ったけれど。
でも、私利私欲で、「黒鳥」を生み出し、アーデルハイトを封印したわけではないのだから。
「でも、君は、私欲が無いわけではないでしょ?
 黒鳥は、人が飼ってはいけないよ。」
「・・・・それでは、レディ・木蓮は、人類に滅びろと?」
「うん、少なくとも、セイバーハーゲンのおかげで出来た余禄で生き残ってしまっているのには、違いないからね。
 私は、君たちがキライだ。
 だから、滅んでも良いと思っているよ。
 ・・・・・・・私が、「蝙蝠」でいるのは、まだ、夜の国を想い出に出来ていないせいもあるんだよね。
 その頃の君たちならまだしも、今の君たちは、嫌い。
 王様じゃないのが、王様ヅラしていたら、壊したくなるでしょ?」
「少なくとも、星人フィオにつかないだけ、マシだと思えとでも言うのか?」
「うん、私はね、この星が大好きだ。
 だから、君達にとって有益な情報を流すだけだよ。
 ・・・・・・・さて、私も、そろそろ行くよ。
 あとね、明日、花雪ちゃんの屋敷に行くなら、早めにね。」
反応はなかったが、少なくとも、呼び止められもしなかったから、私はさっさと、ブリジット達が、いるろう場所へ向かう。
少なくとも、黒鳥が、ストラウスに味方しようと言うのだ。
混乱もしていよう。
私は私なりに、彼女達に関わるだけだ。
それが、良しにしろ悪きにしろね。







コメント
一応、原作通り。
オリキャラ二名関わります。
さて、エンドは原作通り?