side:七ツ森諒鷹
どういうわけか理事長室に呼び出されました。
入学早々・・・五月半ばで、会長選の公示がされる少し前のことです。
流石に頭髪で呼び出されないでしょうし、裏の仕事がバレたというわけでもなさそうです。
・・・呼び出しの理由はわかりませんが、謝ったら許してもらえますか、いえ、無理でしょうね。
なんて考えてる間に私の混乱もなんのその、平然と本題を切りだす理事長先生。
「七つ森晤鷹くん。
実は君に、十三組への移籍推薦が出ていましてね」
「お断りします」
・・・・・・あほですか、まったく私の正体に近づいていないんですね。
反射的にですが、断ってよかったです、はい。
・・・苦労したんですけどね、特例(スペシャル)の体育科とはいえ、十三組に入らないように。
実雪みたいにお人よしではないんですよ。
あの世界に戻る代わりの三年間、無駄なことに関わりたくないんです。
青色にしろ、橙色にしろ、赤色にしろ、そういうのを思い出す連中とはね。
結局、フラスコ計画なんてのは、それの人工繁殖じゃないですか。
「まあ、そう言わずに。
君の評判はかねがねうかがっています」
どんな評判ですかね。
お昼は、食堂か由良のお弁当ですし。
そう目立ってないはずなんですが。
私が唖然としている間にも、この爺様は喋る喋るよく喋ります。
私が恐らく異常―アブノーマル―だとか、十一組のカリキュラムでは勿体ないだとかなんだとか、特例組ですらもったいない、クラスをうつることを考えてみないかだとか。
ちゃんと、自分のことですから、気付いていますよ、異常(アブノーマル)だって。
いや、過負荷(マイナス)だってこともです。
両方ですしね、そんなの珍しくも無いでしょう?
あの不平等(ノットイコール)とも繋がっているんでしょうから。
まぁ、由良との友人付き合いが原因でもあるんでしょうが。
「あの日之影くんとも、知り合いと聞いていますよ。」
「それが、どうしましたか?」
あの気の良いおっちゃん、もとい、年齢的には年下である巨漢で先代の生徒会長・日之影空洞です。
一応、この学校の生徒です。
いえ、人間です。
図書館の奥の書架でよく会うんですよ、由良さんとクラスメイトらしいですし。
まぁ、その後も、つらつら、この爺様は喋ります喋ります。
いい加減空きましたから、断ち切るように、こう一言。
「私はただの一生徒です。
少なくとも、此処の生徒であるうちは、特例(スペシャル)です。」
いつまでも続きそうな話をぶち切って発言でした。
少しだけ、零崎としての気配を出します。
幾らなんでも、西と事を構えることはしないでしょう。
解かり易く置いた部分に触れれなくとも、裏を探れば私の正体の片鱗にぐらいはたどり着くでしょう。
でも無理ですね。
さっきからうっすらと感じる室内の姿が見えないけどいるっぽい誰かさん達の気配とかぴりぴり来てる殺気とか殺意とか敵意とかよくわかんない電波(キチガイじみた思考)とかにどうも苛立ってしまいます。。
・・・殺しちゃダメですかね、流石に。
「まずはちょっとした実験に付き合ってくれませんか?
君には自覚がないと見えます」
いやあります。
自分が、人間としては規格外のバケモノだってことにはとうの昔に。
虐待していたとは言え、自分の両親と自分を庇ってくれていた姉を殺した時から、自覚しています。
にこにこと笑う爺様に差し出されたのは、サイコロが突っ込まれたひとつのグラス。
「こちらのサイコロをまとめて振ってみてください。君が「異常」たる由縁がわかりますよ。」
化け物であることになれてるんですよ。
抑えることも、可能なんです。
「無駄だと思いますよ」
引き寄せたグラスから手のひらにサイコロを移す。
いっぺんに握るのは十二分にきつい。
かちかちと手の中でぶつかり合うサイコロにため息を零して、適当にテーブルの上に放り投げた。
結果は言わずもがな。
普通に普通な結果でしたよ?
行橋未造side ―とある一年生への印象―
彼は、とても冷たくて、冬の夜のような目をしていた。
黒神めだか、そして、七ツ森諒鷹と浜武実雪。
今期で最もめぼしい生徒としてよく名前があげられるこの三人のうち、とうとう一人が理事長室に呼び出されることになった。
将来的には黒神めだかも、理事長室を訪れることになるだろう。
ボクとしては何の興味もなかったけれど、収集されたこともあって王土と一緒に出席。
集まったのはいつも通りの面子で、誰もが好き勝手に身を隠し、新入りを観察しようと面白がっているのわかる。
十三組の十三人に欠員が出たわけでもないのに、今回の生徒― 七ツ森諒鷹が呼びだされる理由は、彼が十一組に在籍しているからだ。
彼がボクらと同じ異常である証拠は、経歴の嘘しかないらしいんだ。
その嘘がわかっても、本当の?経歴は出てこない。
だけど、存在感、気配、異質さからいって、十三組に属するべき生徒であるに間違いないだろうというのが教師陣の判断。
確かに、その空手の腕は、十一組に相応しいけれど、それ以上にボク達よりみたい。
七ツ森諒鷹に興味を抱いている奴もいれば、あまり感心のない―ボクみたいなのもいたと思う。
十三組の浜武実雪は、家族みたいに接してるけど、養親が一緒らしいかららしい。
相変わらず自分のことしか考えてない王土が彼に興味を抱いているかどうかはよくわからなかったけど、どちらかと言うとまだ判断しかねている感じではあった。
即決ばっかの彼が珍しいなと、その時はあまり気にせず考えていたんだ。
王土が興味を抱く、抱かないの判断をしかねている時点で、ボクはこの収集に応じないべきだった。
七ツ森諒鷹の心が、あんなにも怖いものだなんて知らなかったから。
理事長室にやってきたのは、大人びた雰囲気の綺麗な顔をした一年生。
振る舞いや外見はまともだなって思った。
顔が綺麗なのは確かだけど、ただそれだけで、特質すべき点が無いと言うか。
存在感が物凄いと聞いていたのに・・・どこか、ケモノが自分の気配を隠しているような、そんな感じに気配が薄かったんだ。
だから、拍子抜けした。
彼は小さく一礼して、理事長の前に腰掛けた。
ボクらに視線も意識も向けない所を見ると、ボクらが隠れていることにも気付いていないのかもしれない。
・・・もしかしなくても、見当違いだったってことなのかな。
王土のおかげで周囲の声はうまく読めなくないけど、最初から落胆したっぽい空気が周囲に漂っていて、ボクもそれに同意した。
せめてボクらに気付いてくれるくらいの反応は欲しいよね。
噂の一年生なんだから。
「七つ森晤鷹くん。
実は君に、十三組への移籍推薦が出ていましてね」
シンプルに単刀直入に本題を切りだした理事長。
彼、七ツ森諒鷹は、顔色変えずぴしゃりと一言。
「お断りします」
・・・意外に意志が強い性格なのかもしれない。
まるで最初からこの言葉以外を口にしないと、決めてたみたいな速さだった。
上手く読めないから、彼がいまどんなことを考えているのか、よくわからないな・・・。
とにかく今の返事は早かった。
理事長も流石に驚いたんだろう。
ちょっとあっけに取られた顔をしている。
大抵の生徒は、十三組移籍なんて聞いたら喜ぶところだけど。
異常だって自覚している生徒だったらね。
というと、七ツ森諒鷹は異常じゃないんじゃないかなあ。
王土とか、名瀬の判断が聞きたい。
出鼻をくじかれた理事長はというと、世間話らしいことを口にして何とか間を繋いでいた。
暇つぶし半分の興味で理事長の口から出てくる彼の評判について聞いてみるけど、どちらかというと噂どまりなふわふわした内容のものばかりで、確かな情報は何一つない。
……って、ちょっと待てよ。
それって結構、大したことなんじゃないかな。
生徒の自主性を重んじる箱庭学園だけど、生徒の管理には物凄く余念がない。
だって、計画の被験者や、僕らみたいな協力者を確保する為にも必要だもの。
彼が異常たりえる確固たる証拠、異常ではない確固たる証拠、どちらもないというのは、おかしい。
「あの日之影くんとも交流があるとか。
それだけでも十二分に、君が十三組に移る理由になるんですよ」
――日之影?
もしかしてそれって、あの日之影空洞?前生徒会長の?
言われてようやく存在を思い出す程度。
理事長室を出た瞬間、また忘れてしまいそうなくらいに虚ろな響き。
ボクでも王土とは違う意味で存在を受信しにくい彼と、交流がある?
成程。確固たる証拠もないのに 七ツ森諒鷹が呼びだされた一番の理由は、きっとこれだ。
感知されないを見るという点で何かしらの異常を持っているのかもしれない。
もしかするとボクに似たタイプなのかな。
・・・でも、やっぱり、そんな風にはあまり見えない。
ぴりりと、皮膚がひりつくような感じがした。
はっとして顔を上げる。
一組のカリキュラムと十三組の重要性なんかについて語る理事長に、冷たくて闇みたいな瞳を向けている彼の顔を、ボクは見た。
苛立ちに、近い。でも、なんだろう。わからない。怖い。
「私はただの一生徒です。
少なくとも、此処の生徒であるうちは、特例(スペシャル)です。」
理事長の言葉を遮るようにして、彼はきっぱりと言い放った。。
その瞬間、ぞくりと肌が泡立つ。
何かに包まれるような、違う、首筋にナイフを突き付けられたみたいな感覚に、ボクは息を呑んだ。
指先が引きつって不自然に強張る。
ボクの様子に気付いたのか、傍にいた王土が訝しげにボクを見た。
送信側の王土は受信に特化したボクとは違い、この部屋の異様な空気に気付かなかったんだろう。
喉の奥が乾く。
嫌だ、怖い。
ここにいたくない。
逃げたい。
覗きこまれているような感覚。
頭の中を確かめられているような感覚。体中に纏わりつくような気配。
探られてる。
気付かれている。
見られている。
・・・そんなはず無いのに、そう思ってしまう。
あんなに――あんなに、ボクらに気付いているような素振りも見せていないのに!
たまらず後ずさった瞬間、ふ、とあたりを包みこんでいた嫌な感覚が消え去った。
誰も気付かない。
・・・気付いていない。
あの異様な空気に気付いていたのはボクだけで、ふと顔を上げると、理事長が彼にグラスを差し出している所だった。
恐ろしく長く感じられたのに、あの「感覚」はほんの一瞬だったらしい。
彼はボクらに気付いている。
気付いているのに、あえて無視をするでもなく、まるでボクらがここにいないような素振りをしてあの場所にいる。そんな確信があった。
いつでも殺せるネズミを放置するみたいに。
差し出されたグラスを一瞥した彼が、つまらないものを見るような目でサイコロに視線を落とす。
十三組の十三人全員がさせられた簡単な実験。ボクもまた、なるべくしてなる結果を持つ一人でもある。
だけど違う。彼は異常なんかじゃない。異常なんかじゃ、ボクらと「同じ」なんかじゃない――。
少なくとも、「異常(それだけ)」じゃない。
だったら彼は何なのか?ボクにはそれがわからない。
ただ、あれはとても「こわいもの」だと、ボクは思う。
震える指先が周りに気付かれていないかと、手袋の中で握りこんだけど。
たぶん王土には気付かれているだろうな。
ほんの少し、視線を感じる。
名瀬はどうだろう。
彼の異質さに気付いただろうか。
どちらかというとあの手の空気には、高千穂や古賀の方が気付けるかもしれない。
本能的な部分として、だけど。
意味のある違和感までは届かないだろう。
「無駄だと思いますよ」
彼の言葉に肩が揺れた。
平常心を保とうとしても忘れてしまったみたいに出来ない。
さっきまではほとんど感じなかった彼の心が、思考が、僅かに流れ込んでくる。
彼の心は妙な膜に覆われているように感じた。
膜って言うほど厚くないけど、そんな風にボクは思った。
ついさっきまで、何も聞こえなかったのに。
苛立っている、のだろうか。
そうだ、だって彼は異常じゃない。ボクらと同じわけがない。
ただ、異質なんだ。
おかしいんだ。異常じゃなくて、違うんだ。ボクらとは違う。
何がどう違うのかは分からないけど、ただ、彼が異常(なかま)ではないことだけは、わかる。
・・・将来、事を構えることになるのかもしれない。
side:七ツ森諒鷹
理事長先生の部屋から内心ダッシュで逃げた後、実雪にメールしときました。
ー『今日の昼ごはん、二人で食べて。』ってね。
ここらには滅多に来ないことだしと適当に散策してみたら気付けばなぜか時計台の真上に辿りついていました。
・・・この学園の研究所の真上ですか
A・Tはいて飛び降りたくなります!壁登りもしたくなります!
ご存じエアギア、A・T。
この世界にも漫画として存在する「エアギア」に出てくる、A・Tというあの漫画のメインアイテム。
キーパーツといってもいい存在だ。
数年、私はその世界にいました。
一ユーザーとしていまいち仕組みは理解しきれていなかったけど。
幸い、妹・実雪のツテで、ああいうものを作るのが得意な人に、記憶力を総動員して、さらにエアギア全巻を渡して、どうにか造ってもらったんです。
その試作A・Tものすごく愛用しています。
ローラーブレードよりも、私達の身体能力を生かせますし。
決まった武器を持たない私にとってそれが武器になりますから。
大体、こっちのアブノーマルさんやマイナスさん達だって、もう正直言ってプレイヤーレべルですし。
学校でぐらいそんな奴らに関わる予定は微塵もないです。
姉さんから、指示されれば別、ですけれどね。
幸いいまんとこ生徒会に知り合いはいないですし・・・喜界島さんは、クラスメイトでけどね。
そもそも、あんまり学校生活に関わる気無いですから、どうでも良いんですが。
生徒会どころか、学園生活にすら関われていない感じですね。知ってます。泣ける。
久々に、A.T.で散歩に出かけましょうか。
うーん、悩ましい。
「調書では暇さえあれば本を読んであると書いてあったが、考え事でもしているのか?」
・・・ええと、振り向くと常識にも重力にも、絶賛反抗期のお兄さん・・・都城王土だったですかね、それがいました。
うっぎゃあああああ!!
と、心の中で叫んでみた。
口のチャック硬くてよかったです。
こんなとこで叫んだらいろんな人に聞こえてしまいますね。
あの世界について悶々と考えてた所為で全然気づいていませんでした。
見るからに人目を引く上にこれだけ尊大な態度の男に気付かないとは相当、私もイカレていますね。
・・・ええ、好きですよ、大好きです。
なんて動揺している間に、いつの間にやら時計台に上って来ていたらしいそちらのお兄さん――都城王土先輩が私に近寄ってきます。
ちなみに、私はフェンスも何もないという、危険なことこの上ない時計台の縁に腰掛けて空中に足を揺らしていました。
よい子は真似しちゃいけないよ!
殺人鬼(ぜろさき)とか、プレイヤーとかm異常とかでないと、落ちたら普通に死ねますからね。!
異常でも大抵の奴は死んでしまいますね。
重力加速度って怖いですね。
・・・というか、何で来たのでしょう、都城王土。
平凡なる俺ならともかく偉大なる俺モードの都城には会いたくなかったのDEATH!
いやさっき会ってたっと言いますか、潜まれていたっというか、同じ空間にいたことにはいたのですが。
振り向いた俺の少し後ろに立って腕組んで仁王立ち。
無駄に輝いているようにも見える奴さんを見上げると、何故か満足げな満面の笑み。
・・・怖いです、というか、生理的にめんどいです。
「…成程。
行橋の言うとおり、何をしているかはわからんが、貴様に俺や行橋のようなタイプの能力は通じないようだな」
はい!?
微妙に重い肩にうんざりしていた間に人の話を聞く気もない俺様顔で語りだす都城くん。
一応、年上なんですよ、まぁ、馬鹿正直に生徒手帳なんかには示していませんが。
あのそれでも、勘弁してください。
面倒ごとに関わりたくないんです。
日之影先輩とは、無駄にでかい存在感とか似たり寄ったりだけどやっぱり私の先輩は日之影先輩だけで十分です。
顔が怖くても身長でかくても、中身が凶悪なキングよりよっぽどマシです、ええ。
固まったままの俺を前にふふんと肩を竦める都城さん。えーと、なんだこれ。どういう状況なんです?
どこでこいつと関わるフラグ立てました?
時計台いるの毎朝なはずですよね?
・・・なんていつまでも頭の中で混乱している場合じゃありません。
面倒ですが、聞きましょう。
目をつけられたなら、つぶすまでです。
「用件は?」
「別に貴様に用があるわけじゃない。
これからまた下に戻らなくてはならないからな。そのついでに俺の鏡でも見ておこうかと思ったまでだ」
鏡=太陽でしたねわかります。
お前の鏡、いま真昼間だから真上にいますけどね、首痛くならないんですかね?
・・・・・・じゃ、じゃあ単なる通りすがりってこと、ですかね
私に関係、ないですよね、ええ。
いや別にそんなやましいことないですし・・・。
隠していることはもちろんありますけれどね。
少なくとも、ここではおとなしくしておきたいんです。
そういうことにしておきましょう。。
それにしても、行橋はいないんですか行橋は。
この学園で目立つ人ってでかかったり顔怖かったり中身やばかったりする人がほとんどだから、ああいうちっちゃくてわりと常識ありそうな人は貴重ですよね・・・。
といいますが、顔が可愛いんだよ行橋は。
もちろん、亜紀人のほうがかわいいですが。
行橋と都城で送受信コンビなわけですが、しょっちゅう一緒にいるってわけでもないんですかね。。
だいたいさっきまで理事長室に一緒にいましたよねぇ。
「・・・連れは?」
「行橋のことか?
あいつなら先に下に戻ったぞ。どうも貴様と関わりたくないらしいから
対面すら果たしていないのに、嫌われました?嫌われたんですね。
・・・ま、まあいいや、昔から子供には何かと怖がられるタイプだでしたしね。
いえ、あの人、俺の先輩ですから子供ではないけど、小さいのでつい。
万が一に備えて構えつつ、都城が私に喧嘩を売ろうってわけでもないのに安心して再び前に視線を向ける。
眼下に広がる学園の施設と視界いっぱいの青空。
空は好きだ。
A・Tで空を飛んだ時に見える空はまた格別で、たぶん俺は読書と同じくらいに空を眺めることが好きなんだと思う。
少なくとも、あの世界にいた時のようだから、
図書室は受付から窓が遠いから、あまり青空鑑賞できませんが。
たまにここに着ますかね。
「ふむ。どうやら貴様にとっての鏡とは、空か本、そのどちらかのようだな」
いや俺の鏡はほんとただの鏡ですけど。
太陽みて身だしなみ揃える予定はありませんけども。
空も本も同じく。
わけがわかりません。
なんかもう突っ込みどころ多すぎて笑いをこらえるのに必死で振りむけないんですが、怖いよ、ママン、じゃなくて、日之影先輩助けて。
「本を己の鏡にするというのも悪くはないが、それでは偉大さに欠ける。
やはり貴様の鏡は空と言ったところか」
爺さん、理事長の爺さん!
・・・おじいさんの自慢の優等生くんがなんか後ろで怖いこと言ってるから回収してください。
私が、零崎する前に、お願いします。
異常組の皆さんとスムーズに会話出来る気しないんで。
ただでさえ入学して以来日之影先輩と由良さんと実雪以外とまともに口きいてないんです!
俺のコミュニケーション力はほぼゼロないです。
正確にはする気はないんですけれどね。
後ろで喋り続ける都城先輩が(うっかり殺してしまいそう、という意味で)怖いので恐る恐る立ち上がり、階段降りて戻ろうと後ろを振り向きました。。
・・・・・・仁王立ちしてる都城先輩(うっかり殺して以下略)が怖くて進めません。
どうしろっていうんです。
いえ、殺しても良いんです。
殺しても良いんですが、面倒なんですよ。
由良にも泣かれそうですし。
「どうした?そろそろ授業が始まるぞ」
面白がっていらしゃっていやがりますですか、この野郎は!
お、私がお前に(うっかり殺して以下略)ビビッてそっちいけないのをにやにや馬鹿にしていますね、ええ。
そんなことすると日之影先輩に泣きつきましょうか、マシな方法ですと。
いや、実際そんなことしたら、生徒会にかかわりそうですし、辞めたいのですがね。
どう見てもそこから動きそうにない都城先輩。
そして、チャイム鳴る前にちゃんと教室に戻りたい私。
しかし、悩んでいるうちにも刻一刻と授業開始のチャイムが・・・。
・・・待てよ?
そろそろ授業開始ということは、もうほとんどの生徒が教室に入っているということで。
この時計台の上に突っ立ってる男二人にわざわざ気にかけるほど、性格には、お空を気にする余裕はない、はず。
ということはこっから逃げちゃってもいいってこと、ですね。
トン、と後ろに飛ぶように床を蹴ります。
ふわりと浮かぶ身体。
流石にこんなことは想定していなかったのか、少しだけ驚いたようにも見えた都城先輩の顔。
いえいえ、私は貴方みたいに足の裏の握力で壁歩きとかできませんから。
普通に落ちるよ。
ただ、落ちても平気なくらいに身体が頑丈なだけです。
まぁ、本当に何もしないで落ちると痛いので、時々、でっぱりに手をひっかけて減速はします。
あ、良い子はまねしちゃダメですよ、下手にやると手を傷めますから。
そういうわけで無事に時計台の入口の前に飛び降り→着地した私は、授業に遅れないようにといそいそと一年校舎に向かったのでありました。
飛び降り投身自殺に見せかけた必殺脚力着地を見ていた先輩がいたことに気付かずに。
「なんかいま、えらいもん見たような気がすんねんけど・・・目ぇ疲れとんのかな・・・」
都城王土side ―とある一年生への興味―
奴はまるで、空気のような男だった。
もともと俺は七ツ森諒鷹という男に興味などなかった。
黒神めだか同様、見目はいいのだから偉大なる俺の視界に存在することは許してやってもいいが、奴の持つ異常性がフラスコ計画に貢献するようにも思えんからだ。
実際、理事長が設けた実験の場では、奴には何の異常性もない―という結果が出た。
異常であるならそれにふさわしい結果が出る。
サイコロに何の異常もなかったことからして、やはり奴は俺達と同じような「異常(アブノーマル)」に類される人間ではないのだろう。
なら、やはり用はない。
俺が必要としているのは異常(どうるい)だ。
異質でも異様でもない。
毛色の変わった愚民一匹、いちいち偉大なる俺が興味を向けてやる存在ではないだろうと。
行橋が感じた奴の「印象」を聞くまでは、そう思っていた。
十三組の十三人の中で、七ツ森諒鷹に対する印象は様々で、何の興味もわかなかった俺とは違い、全く違った意見を出す者が多発した。
その中で唯一、七ツ森諒鷹に対して危惧にも似た感情を抱いたのが、行橋と宗像だ。
あまり多くを語ろうとしない行橋とは違い、宗像はあの男を「殺せないと感じた」と明言した。
人間を見ればその殺害方法を考えずにはいられない宗像の異常性からは考えられない反応だ。
だが、それはそれで納得できる。
殺すことが出来ないと判断できるほど――奴が異様であるだけだ。
防御に特化した能力か。
はたまたそれ以外の何かか。
やはりその時点では奴に対する興味はなかった。
俺が関わるほどではないと。
理事長に言われて解散した後、俺の後についてきた行橋がやっと口を開く。
俺の傍では受信の精度も落ちるというのに、何やら強烈な印象を奴から受けたらしい。
「ボクも初めのうちはなんとも思ってなかった。
噂はハズレだったなって、普通の人間だって思ってた。」
先ほどちらりと触れていた言葉を繰り返し、行橋は俯いた。
かすかにその肩が震えていたが、俺が何か言う前に行橋は言葉を続ける。
「王土の傍にいたって、ある程度のことなら受信出来る。
実際、ボクは彼を探ろうとした。
だけど、ボクには彼を探ることはできなかった」
「どういうことだ?」
「読めないんだ。・・・・・・彼の心」
行橋の言葉に僅かに眉を上げる。
絶対的な送信を持つ俺の傍にいたとはいえ、何も受信することができないということはあり得ない。
ある程度の情報ならいくらでも拾えるだろう。
少なくとも、その時どう思っていたか程度なら、拾えない筈がない。
俯いたままの仮面を見下ろした。読めもしないほどに意思がないのか?
ならばあれほど噂になるか?
「きっと王土も同じだ。
ボクらの異常性は彼に通じない。膜みたいなものだよ。
彼を包む何かの所為で、ボクや王土は彼に干渉できないんだ」
「電磁波を妨害するというわけか?・・・ふむ、それが奴の異常性だというなら肩透かしだが」
「違うよ。彼は異常じゃない」
子供のように首を振った行橋の言葉に、内心同意する。
あの男は異常ではない。
簡単な実験とはいえ、あのサイコロの結果は正直だ。それを誤魔化す術を俺たちは持ち得ていない。
俺達の異質であるという端ではるが、絶対的な結果だ。
なら、何故あれだけ特異でありながら当たり前にあり得るのか。
平然と雑踏に立つことが出来るのか。
それこそ空気のように振る舞えるのか。――俺にとって、奴の印象が空気同然のものだったと同じように。
まるで、幼い頃から、異常(それ)であることに慣れきっていたかのように。
「まあいい。フラスコ計画に関与しないのであれば、俺たちにとっては毒にも薬にもならん」
「・・・・・・彼、やっぱり十一組のままなのかな」
「そうだろう。生徒本人の承諾がなくてはクラス移動は行えんからな」
そう言った俺の言葉に、行橋はどことなく安堵しているように見えた。
――七ツ森諒鷹、か。
・・・・・・面白い。
俺にはまるで空気のような茫洋としたあいまいな印象しか与えない男が、ここまで行橋を怯えさせること。
ようやく興味が湧いてきたじゃないか。
あの男が普段、授業と図書室以外のどこに出没しているのかは知らんが、・・・もしも見かけるようなことがあれば、この偉大なる俺が遊び相手になってやろう。
どうせ退屈してるんだろう?
こんな、ノーマルだらけの世界に。
――時計台の上で見つけた七ツ森諒鷹は、空のような男だった。
「――ッ…」
彼がグラスを引き寄せるその瞬間、ほんの一瞬、ボクのいる方に視線が投げられた。
ボクが彼に対して怯えていることを、嗤われたような気がした。
実験の結果は―シロ。
納得しない理事長の目の前で何度かサイコロを投げてみせ、彼はただ冷めた顔で軽く部屋を一瞥すると、「授業に遅れてしまいますから」とごく普通に理事長室を後にした。
…普通の時間割なんて知らないけど、少なくとも、昼休みが終わるのはまだまだ先だよ。
彼が居なくなってようやく、ボクの指先の震えが止まった。
怯えていたのかもしれない。
彼が去った後、理事長は十三組の十三人のメンバーに簡単に意見を聞いていたけど、それがまた本当にいつも以上にばらばらで、理事長も困っているようだった。
白と黒と灰色ぐらいならまだ良かったんだけど。
驚いたことに、彼に対してボクと同じような印象を抱いていたのは宗像だった。
彼を危険な人物だと感じたと証言したのは宗像だけで、名瀬は興味がないようだったし、古賀や高千穂も肩透かしを食らった気分だと言っていた。
王土は、まだ何も言わない。
ボクも何も言えなくて、しばらくの間黙っていた。
「行橋。お前は奴をどう思った」
ようやく口を開いた王土がボクに水を向ける。
答えあぐねるボクに対し、珍しいと言った感情を含めた視線が集まる。
ボクはどちらかというとお喋りな方だから、彼に対してなんにも言わないのが珍しいと思われたらしい。
「・・・・・・異常ではないと、思うよ」
「じゃあやっぱり、噂はデマだったってことですか?」
天井からぶら下がったままの古賀がそんな風に言うけれど、ボクはそれに首を振る。
異常(アブノーマル)ではない、けど。
特例(スペシャル)でも通常(ノーマル)でもない。
強いて言えば、どれでもあるし、どれでもないみたいな。
真っ暗闇を覗いているみたいだった。
「ボクは彼を、すごく、怖いと思った」
まるで信じていない古賀達とは違って、宗像が静かに頷いてみせる。
そうだ、彼は殺人衝動の異常を持つ生徒だった。
なら、勿論、七ツ森諒鷹のことだって殺そうとしただろう。
僅かに聞こえる彼の心の声に、ただ、やっぱりとボクは思った。
「僕自身何度も彼を殺そうと思ったけど、僕から見て彼は、」
黙ったままの王土が気になる。
宗像の答えを既に知っているボクは、その言葉を聞きたくないと感じながらも、仮面の奥で彼の言葉を聞いていた。
「絶対に「殺せない」と感じたよ。
それどころか、「殺される」と僕は思ったんだ。」
一応、異常なダイス目は出てました。
解りにくく。
何回振っても合計が期待値。
6Dなら、21とかね。
また、彼の願い空しく、この後、彼は13組に転入。
そして、生徒会にかかわっていくことになります。
では次の物語に。