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セピア色の想い出。

日々の生活と、其処から生まれる物語の布飾り。

少なくとも、この時は、興味はなかったんです。

2012-05-21 17:28:52 | めだかボックス 二次創作


side:七ツ森諒鷹

どういうわけか理事長室に呼び出されました。
入学早々・・・五月半ばで、会長選の公示がされる少し前のことです。
流石に頭髪で呼び出されないでしょうし、裏の仕事がバレたというわけでもなさそうです。
・・・呼び出しの理由はわかりませんが、謝ったら許してもらえますか、いえ、無理でしょうね。
なんて考えてる間に私の混乱もなんのその、平然と本題を切りだす理事長先生。
「七つ森晤鷹くん。
 実は君に、十三組への移籍推薦が出ていましてね」
「お断りします」
・・・・・・あほですか、まったく私の正体に近づいていないんですね。
反射的にですが、断ってよかったです、はい。
・・・苦労したんですけどね、特例(スペシャル)の体育科とはいえ、十三組に入らないように。
実雪みたいにお人よしではないんですよ。
あの世界に戻る代わりの三年間、無駄なことに関わりたくないんです。
青色にしろ、橙色にしろ、赤色にしろ、そういうのを思い出す連中とはね。
結局、フラスコ計画なんてのは、それの人工繁殖じゃないですか。
「まあ、そう言わずに。
 君の評判はかねがねうかがっています」
どんな評判ですかね。
お昼は、食堂か由良のお弁当ですし。
そう目立ってないはずなんですが。
私が唖然としている間にも、この爺様は喋る喋るよく喋ります。
私が恐らく異常―アブノーマル―だとか、十一組のカリキュラムでは勿体ないだとかなんだとか、特例組ですらもったいない、クラスをうつることを考えてみないかだとか。
ちゃんと、自分のことですから、気付いていますよ、異常(アブノーマル)だって。
いや、過負荷(マイナス)だってこともです。
両方ですしね、そんなの珍しくも無いでしょう?
あの不平等(ノットイコール)とも繋がっているんでしょうから。
まぁ、由良との友人付き合いが原因でもあるんでしょうが。
「あの日之影くんとも、知り合いと聞いていますよ。」
「それが、どうしましたか?」
あの気の良いおっちゃん、もとい、年齢的には年下である巨漢で先代の生徒会長・日之影空洞です。
一応、この学校の生徒です。
いえ、人間です。
図書館の奥の書架でよく会うんですよ、由良さんとクラスメイトらしいですし。
まぁ、その後も、つらつら、この爺様は喋ります喋ります。
いい加減空きましたから、断ち切るように、こう一言。
「私はただの一生徒です。
 少なくとも、此処の生徒であるうちは、特例(スペシャル)です。」
いつまでも続きそうな話をぶち切って発言でした。
少しだけ、零崎としての気配を出します。
幾らなんでも、西と事を構えることはしないでしょう。
解かり易く置いた部分に触れれなくとも、裏を探れば私の正体の片鱗にぐらいはたどり着くでしょう。
でも無理ですね。
さっきからうっすらと感じる室内の姿が見えないけどいるっぽい誰かさん達の気配とかぴりぴり来てる殺気とか殺意とか敵意とかよくわかんない電波(キチガイじみた思考)とかにどうも苛立ってしまいます。。
・・・殺しちゃダメですかね、流石に。
「まずはちょっとした実験に付き合ってくれませんか?
 君には自覚がないと見えます」
いやあります。
自分が、人間としては規格外のバケモノだってことにはとうの昔に。
虐待していたとは言え、自分の両親と自分を庇ってくれていた姉を殺した時から、自覚しています。
にこにこと笑う爺様に差し出されたのは、サイコロが突っ込まれたひとつのグラス。
「こちらのサイコロをまとめて振ってみてください。君が「異常」たる由縁がわかりますよ。」
化け物であることになれてるんですよ。
抑えることも、可能なんです。
「無駄だと思いますよ」
引き寄せたグラスから手のひらにサイコロを移す。
いっぺんに握るのは十二分にきつい。
かちかちと手の中でぶつかり合うサイコロにため息を零して、適当にテーブルの上に放り投げた。
結果は言わずもがな。
普通に普通な結果でしたよ?












行橋未造side ―とある一年生への印象―


彼は、とても冷たくて、冬の夜のような目をしていた。

黒神めだか、そして、七ツ森諒鷹と浜武実雪。
今期で最もめぼしい生徒としてよく名前があげられるこの三人のうち、とうとう一人が理事長室に呼び出されることになった。
将来的には黒神めだかも、理事長室を訪れることになるだろう。
ボクとしては何の興味もなかったけれど、収集されたこともあって王土と一緒に出席。
集まったのはいつも通りの面子で、誰もが好き勝手に身を隠し、新入りを観察しようと面白がっているのわかる。
十三組の十三人に欠員が出たわけでもないのに、今回の生徒― 七ツ森諒鷹が呼びだされる理由は、彼が十一組に在籍しているからだ。
彼がボクらと同じ異常である証拠は、経歴の嘘しかないらしいんだ。
その嘘がわかっても、本当の?経歴は出てこない。
だけど、存在感、気配、異質さからいって、十三組に属するべき生徒であるに間違いないだろうというのが教師陣の判断。
確かに、その空手の腕は、十一組に相応しいけれど、それ以上にボク達よりみたい。
七ツ森諒鷹に興味を抱いている奴もいれば、あまり感心のない―ボクみたいなのもいたと思う。
十三組の浜武実雪は、家族みたいに接してるけど、養親が一緒らしいかららしい。
相変わらず自分のことしか考えてない王土が彼に興味を抱いているかどうかはよくわからなかったけど、どちらかと言うとまだ判断しかねている感じではあった。
即決ばっかの彼が珍しいなと、その時はあまり気にせず考えていたんだ。
王土が興味を抱く、抱かないの判断をしかねている時点で、ボクはこの収集に応じないべきだった。


七ツ森諒鷹の心が、あんなにも怖いものだなんて知らなかったから。



理事長室にやってきたのは、大人びた雰囲気の綺麗な顔をした一年生。
振る舞いや外見はまともだなって思った。
顔が綺麗なのは確かだけど、ただそれだけで、特質すべき点が無いと言うか。
存在感が物凄いと聞いていたのに・・・どこか、ケモノが自分の気配を隠しているような、そんな感じに気配が薄かったんだ。
だから、拍子抜けした。
彼は小さく一礼して、理事長の前に腰掛けた。
ボクらに視線も意識も向けない所を見ると、ボクらが隠れていることにも気付いていないのかもしれない。
・・・もしかしなくても、見当違いだったってことなのかな。
王土のおかげで周囲の声はうまく読めなくないけど、最初から落胆したっぽい空気が周囲に漂っていて、ボクもそれに同意した。
せめてボクらに気付いてくれるくらいの反応は欲しいよね。
噂の一年生なんだから。
「七つ森晤鷹くん。
 実は君に、十三組への移籍推薦が出ていましてね」
シンプルに単刀直入に本題を切りだした理事長。
彼、七ツ森諒鷹は、顔色変えずぴしゃりと一言。
「お断りします」
・・・意外に意志が強い性格なのかもしれない。
まるで最初からこの言葉以外を口にしないと、決めてたみたいな速さだった。
上手く読めないから、彼がいまどんなことを考えているのか、よくわからないな・・・。
とにかく今の返事は早かった。
理事長も流石に驚いたんだろう。
ちょっとあっけに取られた顔をしている。
大抵の生徒は、十三組移籍なんて聞いたら喜ぶところだけど。
異常だって自覚している生徒だったらね。
というと、七ツ森諒鷹は異常じゃないんじゃないかなあ。
王土とか、名瀬の判断が聞きたい。
出鼻をくじかれた理事長はというと、世間話らしいことを口にして何とか間を繋いでいた。
暇つぶし半分の興味で理事長の口から出てくる彼の評判について聞いてみるけど、どちらかというと噂どまりなふわふわした内容のものばかりで、確かな情報は何一つない。
……って、ちょっと待てよ。
それって結構、大したことなんじゃないかな。
生徒の自主性を重んじる箱庭学園だけど、生徒の管理には物凄く余念がない。
だって、計画の被験者や、僕らみたいな協力者を確保する為にも必要だもの。
彼が異常たりえる確固たる証拠、異常ではない確固たる証拠、どちらもないというのは、おかしい。
「あの日之影くんとも交流があるとか。
 それだけでも十二分に、君が十三組に移る理由になるんですよ」
――日之影?
もしかしてそれって、あの日之影空洞?前生徒会長の?
言われてようやく存在を思い出す程度。
理事長室を出た瞬間、また忘れてしまいそうなくらいに虚ろな響き。
ボクでも王土とは違う意味で存在を受信しにくい彼と、交流がある?
成程。確固たる証拠もないのに 七ツ森諒鷹が呼びだされた一番の理由は、きっとこれだ。
感知されないを見るという点で何かしらの異常を持っているのかもしれない。
もしかするとボクに似たタイプなのかな。
・・・でも、やっぱり、そんな風にはあまり見えない。
ぴりりと、皮膚がひりつくような感じがした。
はっとして顔を上げる。
一組のカリキュラムと十三組の重要性なんかについて語る理事長に、冷たくて闇みたいな瞳を向けている彼の顔を、ボクは見た。
苛立ちに、近い。でも、なんだろう。わからない。怖い。
「私はただの一生徒です。
 少なくとも、此処の生徒であるうちは、特例(スペシャル)です。」
理事長の言葉を遮るようにして、彼はきっぱりと言い放った。。
その瞬間、ぞくりと肌が泡立つ。
何かに包まれるような、違う、首筋にナイフを突き付けられたみたいな感覚に、ボクは息を呑んだ。
指先が引きつって不自然に強張る。
ボクの様子に気付いたのか、傍にいた王土が訝しげにボクを見た。
送信側の王土は受信に特化したボクとは違い、この部屋の異様な空気に気付かなかったんだろう。
喉の奥が乾く。
嫌だ、怖い。
ここにいたくない。
逃げたい。
覗きこまれているような感覚。
頭の中を確かめられているような感覚。体中に纏わりつくような気配。
探られてる。
気付かれている。
見られている。
・・・そんなはず無いのに、そう思ってしまう。
あんなに――あんなに、ボクらに気付いているような素振りも見せていないのに!
たまらず後ずさった瞬間、ふ、とあたりを包みこんでいた嫌な感覚が消え去った。
誰も気付かない。
・・・気付いていない。
あの異様な空気に気付いていたのはボクだけで、ふと顔を上げると、理事長が彼にグラスを差し出している所だった。
恐ろしく長く感じられたのに、あの「感覚」はほんの一瞬だったらしい。
彼はボクらに気付いている。
気付いているのに、あえて無視をするでもなく、まるでボクらがここにいないような素振りをしてあの場所にいる。そんな確信があった。
いつでも殺せるネズミを放置するみたいに。
差し出されたグラスを一瞥した彼が、つまらないものを見るような目でサイコロに視線を落とす。
十三組の十三人全員がさせられた簡単な実験。ボクもまた、なるべくしてなる結果を持つ一人でもある。
だけど違う。彼は異常なんかじゃない。異常なんかじゃ、ボクらと「同じ」なんかじゃない――。
少なくとも、「異常(それだけ)」じゃない。
だったら彼は何なのか?ボクにはそれがわからない。

ただ、あれはとても「こわいもの」だと、ボクは思う。

震える指先が周りに気付かれていないかと、手袋の中で握りこんだけど。
たぶん王土には気付かれているだろうな。
ほんの少し、視線を感じる。
名瀬はどうだろう。
彼の異質さに気付いただろうか。
どちらかというとあの手の空気には、高千穂や古賀の方が気付けるかもしれない。
本能的な部分として、だけど。
意味のある違和感までは届かないだろう。
「無駄だと思いますよ」
彼の言葉に肩が揺れた。
平常心を保とうとしても忘れてしまったみたいに出来ない。
さっきまではほとんど感じなかった彼の心が、思考が、僅かに流れ込んでくる。
彼の心は妙な膜に覆われているように感じた。
膜って言うほど厚くないけど、そんな風にボクは思った。
ついさっきまで、何も聞こえなかったのに。
苛立っている、のだろうか。
そうだ、だって彼は異常じゃない。ボクらと同じわけがない。
ただ、異質なんだ。
おかしいんだ。異常じゃなくて、違うんだ。ボクらとは違う。
何がどう違うのかは分からないけど、ただ、彼が異常(なかま)ではないことだけは、わかる。
・・・将来、事を構えることになるのかもしれない。








side:七ツ森諒鷹

理事長先生の部屋から内心ダッシュで逃げた後、実雪にメールしときました。
ー『今日の昼ごはん、二人で食べて。』ってね。
ここらには滅多に来ないことだしと適当に散策してみたら気付けばなぜか時計台の真上に辿りついていました。
・・・この学園の研究所の真上ですか
A・Tはいて飛び降りたくなります!壁登りもしたくなります!
ご存じエアギア、A・T。
この世界にも漫画として存在する「エアギア」に出てくる、A・Tというあの漫画のメインアイテム。
キーパーツといってもいい存在だ。
数年、私はその世界にいました。
一ユーザーとしていまいち仕組みは理解しきれていなかったけど。
幸い、妹・実雪のツテで、ああいうものを作るのが得意な人に、記憶力を総動員して、さらにエアギア全巻を渡して、どうにか造ってもらったんです。
その試作A・Tものすごく愛用しています。
ローラーブレードよりも、私達の身体能力を生かせますし。
決まった武器を持たない私にとってそれが武器になりますから。
大体、こっちのアブノーマルさんやマイナスさん達だって、もう正直言ってプレイヤーレべルですし。
学校でぐらいそんな奴らに関わる予定は微塵もないです。
姉さんから、指示されれば別、ですけれどね。
幸いいまんとこ生徒会に知り合いはいないですし・・・喜界島さんは、クラスメイトでけどね。
そもそも、あんまり学校生活に関わる気無いですから、どうでも良いんですが。
生徒会どころか、学園生活にすら関われていない感じですね。知ってます。泣ける。
久々に、A.T.で散歩に出かけましょうか。
うーん、悩ましい。
「調書では暇さえあれば本を読んであると書いてあったが、考え事でもしているのか?」
・・・ええと、振り向くと常識にも重力にも、絶賛反抗期のお兄さん・・・都城王土だったですかね、それがいました。


うっぎゃあああああ!!


と、心の中で叫んでみた。
口のチャック硬くてよかったです。
こんなとこで叫んだらいろんな人に聞こえてしまいますね。
あの世界について悶々と考えてた所為で全然気づいていませんでした。
見るからに人目を引く上にこれだけ尊大な態度の男に気付かないとは相当、私もイカレていますね。
・・・ええ、好きですよ、大好きです。
なんて動揺している間に、いつの間にやら時計台に上って来ていたらしいそちらのお兄さん――都城王土先輩が私に近寄ってきます。
ちなみに、私はフェンスも何もないという、危険なことこの上ない時計台の縁に腰掛けて空中に足を揺らしていました。
よい子は真似しちゃいけないよ!
殺人鬼(ぜろさき)とか、プレイヤーとかm異常とかでないと、落ちたら普通に死ねますからね。!
異常でも大抵の奴は死んでしまいますね。
重力加速度って怖いですね。
・・・というか、何で来たのでしょう、都城王土。
平凡なる俺ならともかく偉大なる俺モードの都城には会いたくなかったのDEATH!
いやさっき会ってたっと言いますか、潜まれていたっというか、同じ空間にいたことにはいたのですが。
振り向いた俺の少し後ろに立って腕組んで仁王立ち。
無駄に輝いているようにも見える奴さんを見上げると、何故か満足げな満面の笑み。
・・・怖いです、というか、生理的にめんどいです。
「…成程。
 行橋の言うとおり、何をしているかはわからんが、貴様に俺や行橋のようなタイプの能力は通じないようだな」
はい!?
微妙に重い肩にうんざりしていた間に人の話を聞く気もない俺様顔で語りだす都城くん。
一応、年上なんですよ、まぁ、馬鹿正直に生徒手帳なんかには示していませんが。
あのそれでも、勘弁してください。
面倒ごとに関わりたくないんです。
日之影先輩とは、無駄にでかい存在感とか似たり寄ったりだけどやっぱり私の先輩は日之影先輩だけで十分です。
顔が怖くても身長でかくても、中身が凶悪なキングよりよっぽどマシです、ええ。
固まったままの俺を前にふふんと肩を竦める都城さん。えーと、なんだこれ。どういう状況なんです?
どこでこいつと関わるフラグ立てました?
時計台いるの毎朝なはずですよね?
・・・なんていつまでも頭の中で混乱している場合じゃありません。
面倒ですが、聞きましょう。
目をつけられたなら、つぶすまでです。
「用件は?」
「別に貴様に用があるわけじゃない。
 これからまた下に戻らなくてはならないからな。そのついでに俺の鏡でも見ておこうかと思ったまでだ」
鏡=太陽でしたねわかります。
お前の鏡、いま真昼間だから真上にいますけどね、首痛くならないんですかね?
・・・・・・じゃ、じゃあ単なる通りすがりってこと、ですかね
私に関係、ないですよね、ええ。
いや別にそんなやましいことないですし・・・。
隠していることはもちろんありますけれどね。
少なくとも、ここではおとなしくしておきたいんです。
そういうことにしておきましょう。。
それにしても、行橋はいないんですか行橋は。
この学園で目立つ人ってでかかったり顔怖かったり中身やばかったりする人がほとんどだから、ああいうちっちゃくてわりと常識ありそうな人は貴重ですよね・・・。
といいますが、顔が可愛いんだよ行橋は。
もちろん、亜紀人のほうがかわいいですが。
行橋と都城で送受信コンビなわけですが、しょっちゅう一緒にいるってわけでもないんですかね。。
だいたいさっきまで理事長室に一緒にいましたよねぇ。
「・・・連れは?」
「行橋のことか?
 あいつなら先に下に戻ったぞ。どうも貴様と関わりたくないらしいから
対面すら果たしていないのに、嫌われました?嫌われたんですね。
・・・ま、まあいいや、昔から子供には何かと怖がられるタイプだでしたしね。
いえ、あの人、俺の先輩ですから子供ではないけど、小さいのでつい。
万が一に備えて構えつつ、都城が私に喧嘩を売ろうってわけでもないのに安心して再び前に視線を向ける。
眼下に広がる学園の施設と視界いっぱいの青空。
空は好きだ。
A・Tで空を飛んだ時に見える空はまた格別で、たぶん俺は読書と同じくらいに空を眺めることが好きなんだと思う。
少なくとも、あの世界にいた時のようだから、
図書室は受付から窓が遠いから、あまり青空鑑賞できませんが。
たまにここに着ますかね。
「ふむ。どうやら貴様にとっての鏡とは、空か本、そのどちらかのようだな」
いや俺の鏡はほんとただの鏡ですけど。
太陽みて身だしなみ揃える予定はありませんけども。
空も本も同じく。
わけがわかりません。
なんかもう突っ込みどころ多すぎて笑いをこらえるのに必死で振りむけないんですが、怖いよ、ママン、じゃなくて、日之影先輩助けて。
「本を己の鏡にするというのも悪くはないが、それでは偉大さに欠ける。
 やはり貴様の鏡は空と言ったところか」
爺さん、理事長の爺さん!
・・・おじいさんの自慢の優等生くんがなんか後ろで怖いこと言ってるから回収してください。
私が、零崎する前に、お願いします。
異常組の皆さんとスムーズに会話出来る気しないんで。
ただでさえ入学して以来日之影先輩と由良さんと実雪以外とまともに口きいてないんです!
俺のコミュニケーション力はほぼゼロないです。
正確にはする気はないんですけれどね。

後ろで喋り続ける都城先輩が(うっかり殺してしまいそう、という意味で)怖いので恐る恐る立ち上がり、階段降りて戻ろうと後ろを振り向きました。。
・・・・・・仁王立ちしてる都城先輩(うっかり殺して以下略)が怖くて進めません。
どうしろっていうんです。
いえ、殺しても良いんです。
殺しても良いんですが、面倒なんですよ。
由良にも泣かれそうですし。
「どうした?そろそろ授業が始まるぞ」
面白がっていらしゃっていやがりますですか、この野郎は!
お、私がお前に(うっかり殺して以下略)ビビッてそっちいけないのをにやにや馬鹿にしていますね、ええ。
そんなことすると日之影先輩に泣きつきましょうか、マシな方法ですと。
いや、実際そんなことしたら、生徒会にかかわりそうですし、辞めたいのですがね。
どう見てもそこから動きそうにない都城先輩。
そして、チャイム鳴る前にちゃんと教室に戻りたい私。
しかし、悩んでいるうちにも刻一刻と授業開始のチャイムが・・・。
・・・待てよ?
そろそろ授業開始ということは、もうほとんどの生徒が教室に入っているということで。
この時計台の上に突っ立ってる男二人にわざわざ気にかけるほど、性格には、お空を気にする余裕はない、はず。
ということはこっから逃げちゃってもいいってこと、ですね。
トン、と後ろに飛ぶように床を蹴ります。
ふわりと浮かぶ身体。
流石にこんなことは想定していなかったのか、少しだけ驚いたようにも見えた都城先輩の顔。
いえいえ、私は貴方みたいに足の裏の握力で壁歩きとかできませんから。
普通に落ちるよ。
ただ、落ちても平気なくらいに身体が頑丈なだけです。
まぁ、本当に何もしないで落ちると痛いので、時々、でっぱりに手をひっかけて減速はします。
あ、良い子はまねしちゃダメですよ、下手にやると手を傷めますから。
そういうわけで無事に時計台の入口の前に飛び降り→着地した私は、授業に遅れないようにといそいそと一年校舎に向かったのでありました。
飛び降り投身自殺に見せかけた必殺脚力着地を見ていた先輩がいたことに気付かずに。
「なんかいま、えらいもん見たような気がすんねんけど・・・目ぇ疲れとんのかな・・・」












都城王土side ―とある一年生への興味―


奴はまるで、空気のような男だった。
もともと俺は七ツ森諒鷹という男に興味などなかった。
黒神めだか同様、見目はいいのだから偉大なる俺の視界に存在することは許してやってもいいが、奴の持つ異常性がフラスコ計画に貢献するようにも思えんからだ。
実際、理事長が設けた実験の場では、奴には何の異常性もない―という結果が出た。
異常であるならそれにふさわしい結果が出る。
サイコロに何の異常もなかったことからして、やはり奴は俺達と同じような「異常(アブノーマル)」に類される人間ではないのだろう。
なら、やはり用はない。
俺が必要としているのは異常(どうるい)だ。
異質でも異様でもない。
毛色の変わった愚民一匹、いちいち偉大なる俺が興味を向けてやる存在ではないだろうと。
行橋が感じた奴の「印象」を聞くまでは、そう思っていた。
十三組の十三人の中で、七ツ森諒鷹に対する印象は様々で、何の興味もわかなかった俺とは違い、全く違った意見を出す者が多発した。
その中で唯一、七ツ森諒鷹に対して危惧にも似た感情を抱いたのが、行橋と宗像だ。
あまり多くを語ろうとしない行橋とは違い、宗像はあの男を「殺せないと感じた」と明言した。
人間を見ればその殺害方法を考えずにはいられない宗像の異常性からは考えられない反応だ。
だが、それはそれで納得できる。
殺すことが出来ないと判断できるほど――奴が異様であるだけだ。
防御に特化した能力か。
はたまたそれ以外の何かか。
やはりその時点では奴に対する興味はなかった。
俺が関わるほどではないと。
理事長に言われて解散した後、俺の後についてきた行橋がやっと口を開く。
俺の傍では受信の精度も落ちるというのに、何やら強烈な印象を奴から受けたらしい。
「ボクも初めのうちはなんとも思ってなかった。
 噂はハズレだったなって、普通の人間だって思ってた。」
先ほどちらりと触れていた言葉を繰り返し、行橋は俯いた。
かすかにその肩が震えていたが、俺が何か言う前に行橋は言葉を続ける。
「王土の傍にいたって、ある程度のことなら受信出来る。
 実際、ボクは彼を探ろうとした。
 だけど、ボクには彼を探ることはできなかった」
「どういうことだ?」
「読めないんだ。・・・・・・彼の心」
行橋の言葉に僅かに眉を上げる。
絶対的な送信を持つ俺の傍にいたとはいえ、何も受信することができないということはあり得ない。
ある程度の情報ならいくらでも拾えるだろう。
少なくとも、その時どう思っていたか程度なら、拾えない筈がない。
俯いたままの仮面を見下ろした。読めもしないほどに意思がないのか?
ならばあれほど噂になるか?

「きっと王土も同じだ。
 ボクらの異常性は彼に通じない。膜みたいなものだよ。
 彼を包む何かの所為で、ボクや王土は彼に干渉できないんだ」
「電磁波を妨害するというわけか?・・・ふむ、それが奴の異常性だというなら肩透かしだが」
「違うよ。彼は異常じゃない」
子供のように首を振った行橋の言葉に、内心同意する。
あの男は異常ではない。
簡単な実験とはいえ、あのサイコロの結果は正直だ。それを誤魔化す術を俺たちは持ち得ていない。
俺達の異質であるという端ではるが、絶対的な結果だ。
なら、何故あれだけ特異でありながら当たり前にあり得るのか。
平然と雑踏に立つことが出来るのか。
それこそ空気のように振る舞えるのか。――俺にとって、奴の印象が空気同然のものだったと同じように。
まるで、幼い頃から、異常(それ)であることに慣れきっていたかのように。
「まあいい。フラスコ計画に関与しないのであれば、俺たちにとっては毒にも薬にもならん」
「・・・・・・彼、やっぱり十一組のままなのかな」
「そうだろう。生徒本人の承諾がなくてはクラス移動は行えんからな」
そう言った俺の言葉に、行橋はどことなく安堵しているように見えた。


――七ツ森諒鷹、か。
・・・・・・面白い。
俺にはまるで空気のような茫洋としたあいまいな印象しか与えない男が、ここまで行橋を怯えさせること。
ようやく興味が湧いてきたじゃないか。
あの男が普段、授業と図書室以外のどこに出没しているのかは知らんが、・・・もしも見かけるようなことがあれば、この偉大なる俺が遊び相手になってやろう。
どうせ退屈してるんだろう?
こんな、ノーマルだらけの世界に。





――時計台の上で見つけた七ツ森諒鷹は、空のような男だった。






「――ッ…」

彼がグラスを引き寄せるその瞬間、ほんの一瞬、ボクのいる方に視線が投げられた。
ボクが彼に対して怯えていることを、嗤われたような気がした。



実験の結果は―シロ。
納得しない理事長の目の前で何度かサイコロを投げてみせ、彼はただ冷めた顔で軽く部屋を一瞥すると、「授業に遅れてしまいますから」とごく普通に理事長室を後にした。
…普通の時間割なんて知らないけど、少なくとも、昼休みが終わるのはまだまだ先だよ。
彼が居なくなってようやく、ボクの指先の震えが止まった。
怯えていたのかもしれない。

彼が去った後、理事長は十三組の十三人のメンバーに簡単に意見を聞いていたけど、それがまた本当にいつも以上にばらばらで、理事長も困っているようだった。
白と黒と灰色ぐらいならまだ良かったんだけど。
驚いたことに、彼に対してボクと同じような印象を抱いていたのは宗像だった。
彼を危険な人物だと感じたと証言したのは宗像だけで、名瀬は興味がないようだったし、古賀や高千穂も肩透かしを食らった気分だと言っていた。
王土は、まだ何も言わない。
ボクも何も言えなくて、しばらくの間黙っていた。
「行橋。お前は奴をどう思った」
ようやく口を開いた王土がボクに水を向ける。
答えあぐねるボクに対し、珍しいと言った感情を含めた視線が集まる。
ボクはどちらかというとお喋りな方だから、彼に対してなんにも言わないのが珍しいと思われたらしい。
「・・・・・・異常ではないと、思うよ」
「じゃあやっぱり、噂はデマだったってことですか?」
天井からぶら下がったままの古賀がそんな風に言うけれど、ボクはそれに首を振る。
異常(アブノーマル)ではない、けど。
特例(スペシャル)でも通常(ノーマル)でもない。
強いて言えば、どれでもあるし、どれでもないみたいな。
真っ暗闇を覗いているみたいだった。
「ボクは彼を、すごく、怖いと思った」
まるで信じていない古賀達とは違って、宗像が静かに頷いてみせる。
そうだ、彼は殺人衝動の異常を持つ生徒だった。
なら、勿論、七ツ森諒鷹のことだって殺そうとしただろう。
僅かに聞こえる彼の心の声に、ただ、やっぱりとボクは思った。
「僕自身何度も彼を殺そうと思ったけど、僕から見て彼は、」
黙ったままの王土が気になる。
宗像の答えを既に知っているボクは、その言葉を聞きたくないと感じながらも、仮面の奥で彼の言葉を聞いていた。
「絶対に「殺せない」と感じたよ。
 それどころか、「殺される」と僕は思ったんだ。」













一応、異常なダイス目は出てました。
解りにくく。
何回振っても合計が期待値。
6Dなら、21とかね。

また、彼の願い空しく、この後、彼は13組に転入。
そして、生徒会にかかわっていくことになります。


では次の物語に。




戯れにも似た何か

2011-12-18 23:21:08 | めだかボックス 二次創作



時刻は夕方。
戦挙戦も終わりしばらく経った頃である。
地下二階の空も赤く染まり始め、もうすぐ夜になるそんな時間だ。
「ん、むぅ・・・」
そんな声が、地下二階にある日本家屋の縁側に面した部屋から聞こえて来た。
声の主は、薄茶の髪を背中似かかる程度に伸ばし、桜の刺繍のあるシュシュで髪をまとめた小柄な少女だ。
どうやら、眠っているようである。
その少女を抱き締めるようにして、同じく眠っているのは、黒い髪で髪を尻尾のように括っている少年である。
二人は、男女の差こそあれど、同じ制服を着ていて、同級生でクラスメイト。
少なくとも、恋人ではないが二人にとってはある種ありふれた光景なのだ。
深い睡眠をあまりできない少年―宗像の為に、少女―由良が抱き枕になると言うのは。
「全く、昼寝をするなら、せめてタオルケットぐらい被って下さいって言っているのに。」
そうぼやくように二人に、タオルケットを掛けたのは、別の少年。
焦げ茶の髪を襟足を刈り上げ、長く残したトップを龍馬ティストのチョンマゲ風に結い上げ、眠たげな印象の空色の瞳で身長に比べ痩躯な印象だった。
「・・・色々とバタバタしていましたし、眠れてないんでしょうね、由良さんも、宗像先輩も。
 仕方ないです、もう少ししたら起こしましょうか。」
「にゅー・・・むにゅ。」
その少年は、そう一人ごち、お茶を入れる為に台所に言ってしまったのであった。








夢を見ているのだと分かった。
どうしてそう思ったのかは分からない。
ただ漠然と、自分は夢を見ているのだと分かった。
今、『立っている』場所のせいなのかもしれない。
妙にふわふわした、ここが何処なのかもよく分からない白い空間の中、宗像形はぼんやりと周囲に視線を向ける。
体が軽い。暗器の類は全てこの夢の中には持ち込んでいないようだ。
元々、うっかり殺してしまわない為の枷ではある。
(ーーーま、夢の中まで重いのはごめんだけどね。)
そんなことを考えていると――唐突に、目の前に人影が現れる。
近付いてきたとか、降ってきたとか、そんな感じではない。
本当に唐突に、そこに『湧いて出た』とでもいうような、そんな出現だった。
そのありえない登場の仕方に・・・非現実的なその出現に、やっぱりここは夢なんだな、と再確認しながら、宗像はその人物に目を向け――その目を、大きく見開いた。
「・・・黒神、真黒・・・?」
思わず、呟いた後で――いや違う、と自分で即座に否定する。
確かに一瞬、宗像に暗器の使い方を叩きこんだ魔法使いの変態かと見間違えたが――目の前の男はそれよりも背が高く、何より年齢も明らかに上に見えた。
黒神真黒よりも短いそれをオールバックにした黒髪を持ち、顔には似合わない銀縁の眼鏡をかけている。背が高いのに加えて手足も驚くほど長く、細く、そのシルエットは針金細工の人形にも見えた。
三つ揃えのスーツをきっちり着た彼は、一見して優男とも見えたが――黒神真黒と間違えたように、その雰囲気はどうにも独特で、ひとクセもふたクセもあるように思える。
少なくとも、普通(ノーマル)には見えないようなそんなクセだ。
そんな針金細工は、宗像の呟きを耳聡く聞き取り――やはり真黒とは異なる声で、ぺらぺらと言葉を紡ぎ出した。
「うん?鮪?
 君は今、あろうことか私をあの海産物、一日二十四時間一年三百六十五日泳いでいなくては生存できない、タタキやステーキにするとそれは絶品でいやしかし寿司も炙りも捨てがたいあの真っ黒な回遊魚と見間違えたのかい?
 いやいや、如何にもそれはないだろう。
 きっと私の聞き間違いか、君の知り合いにその魚と奇しくも同名な人がいるのだろうね。
 いやぁ、しかし何とも数奇な運命だよ。
 よもや私が新しい妹を守ると言う役目を終えても、尚、新たな弟とも呼べる存在に巡り合うことが出来るとはねぇ。
 うふ、うふふ!どうやら人識の方にも可愛い弟が出来たようだがね。
 夢織ちゃんにも、可愛い弟候補が出来たようだがね。
 運命のイタズラとは面白いものだ。そうは思わないかい?」
「・・・・・・・」
そのあまりの饒舌っぷりに、宗像は数歩後退した。
口を挟む気すら起きない。
何だこの男――黒神真黒より性質が悪い気がする。
そんな宗像の心情を知ってか知らずか、背の高い青年は、興味深げに宗像の顔を覗き込む。
「君、名前はなんて言うんだい?」
「・・・宗像、形」
「そうか、形くんか。
 形という字を書くとは、なかなかによい名じゃないか。
 即ち、形あるものというのは目に見えるだけで身近な存在だ。
 誰にでも触れることが出来、見ることが出来る。素晴らしい」
「はぁ・・・?」
苗字にはいっさ触れず、名前のみを異様に褒めちぎる青年。
今まで名を褒められたことなどないこともあってか、宗像はどうにも対応に困ってしまった。
元より、人間と交流していないからか尚更だ。
加えて、その青年に会話をするような気がない為かどうしても反応は出来ない。
そんな宗像を放置し、青年は尚も一方的に話し続ける。
しかし、聞き流そうとしていた宗像は――その口から零れてきた言葉に、思わず意識を固定してしまった。
「うふふ、うふ、しかし、まぁ、君は本当に特殊かつ素晴らしく希有な存在だね。
 奇跡と言ってもいいだろうね・・・・・・それほどに強い殺人衝動を身の内に宿しておきながら、それを自覚しておきながら、現在まで人の一人も殺していないなんてね。
 本当に、貴重な存在だ。」
「・・・っ!?」
どうして、分かった、とか。
何で知ってるんだ、とか。
言わなければならないはずの言葉が、全く出て来ない。
そこでようやく気付いた・・・眼前の青年の身の内から溢れ出る、純粋で生粋の、殺気を。
そしてそれに、少なからず安心してしまっている・・・自分を。
諒鷹と居る時よりも彼の抑えた殺気よりも、遠慮のないそれに安らいでいる・・・自分に。
しかし、それに戦慄する間も、反論する間も与えずに、青年は続けた。
「私は伊織ちゃんが希望であり、人識がそのきっかけになると思っていたんだが、ね。
 ・・・君こそが、本当の希望なんだろうね。
 だって、『素質』を持ち合わせておきながら・・・殺したくないという理由だけで、自分を制御出来ている」
「あ・・・」
「君は、素晴らしいよ。」
そう言って。
青年は、おもむろに手を伸ばし、わしわしと宗像の頭を撫でた。
いまだかつてされたことなどないー少なくとも、幼少時の両親以来のーその扱いに、宗像は驚いて青年を見上げる。
その顔は・・・まるで可愛い弟でも見るかのように、愛おしげに笑っていた。
気を許した家族に向けるような、優しい、暖かい笑顔。
年長者が庇護する幼い家族に向けるような柔らかな笑顔だった。
「君は、殺人鬼にしては不安定で人間にしては不適切だ・・・だけど、君には家賊は必要ないんだろうね。
 自分で、大切な人を家族を捜しているんだから。」
「え・・・あ、の」
「本当は、私は君に『零崎』としての名を上げるつもりでいたんだけど・・・君には、零崎名はいらない。
 人間らしく生きて、笑って、泣いて、怒って・・・私達(バケモノ)じゃない人間として幸せになるといい」
「あな、た・・・」
「お兄ちゃんになれなかった私からの、言葉だ」
「あなた、は」
そこで、ようやく。
宗像は声を絞り出し、どうにか、一つだけ問いかけることが出来た。
「貴方は、誰、ですか?」
「私かい?私は――」






「・・・そう、しき」
「葬式がどうしたんですか、宗像先輩」
呟いた言葉に返る、聞き慣れた声。
それに急速に意識が覚醒し、宗像は目を開いた。
途端飛び込んでくる部屋の明かりービオトープが夕方になる程度には寝ていたらしいーと覗き込んでくる有人以上のなにかである後輩の顔。
「・・・七ツ、森くん」
「寝ぼけてんですか?お茶入れましたけど、飲みます?」
体を起こした宗像に、差し出される湯飲み。
無意識にそれを受け取ると彼は、由良にタオルケットを被せる。
それにようやく、自分がビオトープにある屋敷の縁側で、由良と共に眠っていたことを思い出し、ありがたく茶を啜る。
湯飲みに口を付けると、熱いお茶が喉を通った。
「・・・夢を見たよ」
「へえ。どんなですか?葬式とか言ってましたけど」
「葬式・・・いや、人名だよ。」
「・・・兄の一人が、同名ですけど、その人、オールバックのスーツ姿の針金細工みたいな人でした?」
「そう。」
オウム返しに呟いて、だが違う、と思い思考した。
針金細工のように細く長い、夕刻の影のような青年。
似合わないにもほどがある眼鏡と、スーツを身につけて。
オールバックなんて言う生え際が後退していきそうな髪型をして。
あんなに――優しく、慈しむような笑みを、して。

・・・『―幸せになるといい―』

「七ツ森くん」
「はい?」
「好きだよ」
言って、驚いて振り返った諒鷹の唇に、キスを落とす。
見開いた瞳が閉じられ、そっと湯飲みが傍らに置かれるのを見ながら――宗像は、そっと心中で笑った。

「(――言われなくとも幸せになるよ、『零崎双識』さん・・・)
 (七ツ森くんが、貴方と同じであれね。)」



《殺人鬼から、人を殺せない希望の子へ》


(命尽きても家族を想うは、葬送の名を持つ痩身の鬼)





「(えーと、この子達、私が寝てるとは言え居るの解ってるわよね)」









本編沿いじゃ、無理な壱話。
コミックス未収録ですが、宗像さんが球磨川殺害決着な回で思い切り対立するでしょうし。
球磨川の処置をしながら、諒鷹は廻識は、こう叫びます。
「人を殺したなら、笑え。
 過負荷(マイナス)じゃねぇがな、それが、自分が殺しちまった奴への唯一やって良い事だぜ、素人(アマチュア)!!」
なおかつ、意外に、江迎ちゃんにラブってまして、彼。
一応、宗像ルートの一話でした。
あ、ちなみに、諒鷹×宗像のつもりです。
宗像受け派ですので。
もちろん、殺人衝動をあっちで発散するのも美味しいのですが。





それなりに幸せ、それなりに不幸せ

2011-05-14 02:28:04 | めだかボックス 二次創作


嬉しかったんだよ?
異常(アブノーマル)で、過負荷(マイナス)で。
どちらも多過ぎて、絶望に絶望して更に絶望しても足りないぐらいだったのに。
人間だなんて、自分も思えなかったのに。

ありがとう、形ちゃん。



それなりに幸せ、それなりに不幸せ



二年ほど前のある日の地下二階でのことだ。
春の午後。
自身の異常(アブノーマル)である殺人衝動の関係上で、当時一年だった宗像形は、特別に計画に参加し《十三組の十三人(サーティンパーティ)》に加入した数日後のお話。
当時のリーダー役だった三年生の大淀溜哩が管理していた二階。
もちろん、当時も、環境を調整したピオトープで、擬似的に環境を再現していた。
宗像は、『会わせたいのいるから、』とここに居るように言われ、ココに居る。
しばらくすると、声をかけられた。
少し癖のある薄茶の髪を背中にかかるほどにのばし、黒ちりめんに桜の模様入りのシュシュでまとめた、翡翠色の垂れ目の少女がやって来た。
制服も改造らしい改造をしていなく、せいぜい、腕の数珠のようなブレスレットが校則的に微妙なぐらい。
小柄で華奢で、ちょっと力を入れただけで腕なんて折れそうなぐらいだった。
「はじめまして、貴方が新しい《十三組の十三人(サーティンパーティ)》の宗像くん?」
「おま・・・貴方も、《十三組の十三人(サーティンパーティ)》ですか?」
「敬語じゃなくても良いのよ?
 ・・・質問に関しては、そうね、ちょっと違うわ。
 私は三年十三組の普賢由良って言って、験体名は《治癒者(アクスピレオス)》だけど、《十三組の十三人(サーティンパーティ)》に入らないけれど、データを提供する協力者、かしら?」
「・・・・・・」
「私の殺し方、解らない・・・正確には、殺意が沸かない?」
声をかけられて、顔を上げた。
正確には、声をかけられるまで一切、その存在に気がつかなかった事に、宗像は瞠目する。
自身の異常(アブノーマル)は本能的な殺人衝動。
それ故、接近する人間には・・・その気配には酷く敏感なのに。
目の前の相手にそれを感じる事は出来ない。
正確に言えば、酷く薄い。
「そう、だな。」
「・・・・・・」
困ったように、由良は笑う。
どう答えようか迷っているように。
或いは、答えて拒絶されることを恐怖するように。
「どうしようかしら。」
その思わせぶりな相手に苛立ちを覚えつつも、相手の言う通り、殺意が沸かない。
まさしく、それは、宗像に取って初めての経験だった。
有り得ないと思っていた事に・・・未知の体験をしている彼の戸惑いを考えてか、それとも他の理由か、迷っている少女。
彼女の「普賢由良」と言う名前に宗像は聞き覚えは無い。
聞いたことが合ったとしても、意識に残っていなかった。
何はともあれ、大淀が会わせたい、と言った以上、彼女―大淀―の意思か、少女の意思があってこの場があるのかもしれないが、いまいちその理由が解らない。
多分、目の前の少女が会いたいと言ったのかもしれないが、その理由が解らず、宗像は戸惑うしか無い。
胡乱気な宗像と微笑む普賢。
なんとも対称的な二人は、おおよそ13歩ほどの距離で相対して、視線を絡ませる。
殺意も悪意も善意すらもなく、ただただ対象を庇護し俯瞰するような奇妙な視線。
其処に感じた違和感のままに、制服の下に隠していたナイフを数本投げる。
少女は目を見開きはしたものの、たたき落とすか避けるか、受け止めるか・・・ようは当たらずにやり過ごす。
「わ、わわ、あぶないじゃないの」
二人の感覚はいつの間にか、五歩分となっていた。
後ろに重心をおく形に立つ普賢に一瞬で七歩分の間合いを詰められ、自分の無意識の攻撃を全て往なされたと、状況を把握する宗像。
ジワリと殺意が生まれる。
五歩でやっと感じる普賢の“人間”くささに宗像の本能が「殺せ」と叫び始める。
「・・・でも、この距離で宗像くんは人間扱いしてくれるんだ。
 美雪ちゃん達でも、たまちゃんでも、もっと近づかないと、ダメなのに。
 どんなにたくさんの異常(アブノーマル)で、過負荷(マイナス)でも私は人間なのに。」
無意識なのかもしれないが、泣き出す普賢。
先ほどとは違い、容易く殺せそうだと、宗像は思う。
そして、数本残ったナイフに触れながら、目の前の“人間”を殺す算段を始める。
「意味が分からない。
 だから、殺す。」
しかし、投げナイフにするには、少々大振りなナイフでは無く、小刀を選ぶ。
より投げやすく。
より多く操れる小刀。
「そう、殺気立たないで・・・だって、事実だから。
 《十三組の十三人(サーティンパーティ)》に入れる異常(アブノーマル)でも、本能的に私を人間ではないと判別しちゃう人がほとんどだもの。」
トス、
トストスっ
と、小刀が普賢の身体に突き刺さる。
腹に胸に顔面に。
刺さった衝撃で動く四肢が奇妙なダンスを踊っているように見える。
やり過ぎたと宗像が後悔する中、彼女は気にせずに呟いた。
「宗像くんの異常(アブノーマル)は、殺人衝動だって、大淀さんから聞いてるわ。
 殺人って言うのは、人間を殺したいって衝動よね。
 零崎のあの子に言わせれば、殺し名達や私みたいのは、それに入らないみたいなのに。
 それを私に向けてくれるのね。
 変なのは解ってるけど、嬉しい。」
楽しそうに、そして本当に心の底から嬉しそうに普賢は語る。
血塗れで、ナイフを生やした少女がそう語るのは、シュールを通り越して、ホラー映画の世界だ。
明らかに、致命傷を負っているのにつらつら語る少女を今すぐにでも殺したい。
そんな欲求に彼は小刀から拳銃へと得物を変える。
ちなみに、大淀が《武器屋(スミス)》という験体名であった為、色々と武器は持っているのであった。
未来ほどではないが、殺人の方法を覚えると言う事に武器を隠す事もあるせいか、それなりには隠せていたのである。
「宗像くんが久しぶりに、初めから私を人間扱いしてくれたの。
 ありがとう、大好きよ、宗像くん。」
「刺殺がダメなら、銃殺だ。」
「・・・宗像くん、殺したく無いなら、無理にそう振る舞わなくても良いのよ?」
PDW、人間をミンチにするそれを突きつけられても普賢は平気な顔をしている。
この至近距離で打てば、蜂の巣なんてのを通り越して、ミンチになるそう言う代物だ。
ハンドメイドであるが、そういう特性の銃である事に変わりない。
つまりは・・・
「撃たないの?」
「っ」
引き金を引いたら確実に殺してしまう。
本能が「殺せ」と叫ぶ中、理性が「止めろ」と悲鳴を上げる。
相反する二つの声に宗像の動きは簡単に止まった。
「宗像くんって優しい。
 優し過ぎて、心配・・・本当に心配になっちゃうぐらいに。
 ・・・傍にいてあげるわ、友達になれないかもしれないけれど、一人でいれるほど人間は強く無いもの。」
無造作に歩み寄った普賢は宗像の右手に手を添える。
ゆっくりと銃口を下げさせ、微笑みながら、宗像に抱きついた。
「安心してね。
 私はそう簡単に死ねる身体じゃないから。」
制服に血が付くと思ったが、ついていなかった。
それどころか、傷一つついていない。
ただ、刺さっていたと言う余韻にカラン、と虚しい音を立てて、小刀が落ちた。
そして、宗像に抱きついたまま、顔に唇を寄せ、睦言のように呟かれたその言葉に、宗像は酷く哀しいと感じたのである。
それが、自身ですら人間と認めていない少女にか。
それが、殺したいと思ってしまう彼自身にか。
宗像にもそれは解らなかった。




++++++++++++++++++

由良ちゃん、ヤンデレになったーなお話です。
二年前なので、宗像さん、1年生設定。
経緯からして、たぶんすぐにフラスコ計画に入ったんじゃないかな、と。
尚かつ、二年後―本編時間軸でも、由良・・・正確には雍蘿と書きますが・・・は、三年十三組に在籍しています。

裏設定と言うか、補足。
由良ちゃんは、基本的に人間です。
ですが、異常(アブノーマル)の方々から見ても、本能的な部分で怯えられる存在なんです。
原作の安心院さんの劣化版で類似品、ただし、悪平等では無い感じ。
それを怖がらなかったのは、百年少々の彼女の人生の中でそんなに居ないわけです。
めだかちゃんにとっての善吉くんみたいな立場、と言う感じの人物があんまり居なくて。
この時点で、大淀さんぐらいなのです。
・・・外部の人間ですが、零崎夢織(戯言二次参照)もとりあえず、大丈夫でした。
とりあえず、一人二人は同時期にはいるけど、それ以上は増える事が少ないので、人肌恋しいという感じなのです、たぶん。
その前に、もう一人居たんですが、卒業前に退学しまして、情緒不安定気味になっています。
んで、大淀さんが、異常(アブノーマル)の情報漁ってダメ元セッティングしたのが、上記のお話。
この後は、無条件に懐くと言うか、それなりに付き合いがありますが、友人ではないんです。
書くか不明ですが、「友人って感じじゃない」云々と宗像が言ったからなんです。
もう微かにしか覚えていない温もりに近いと、思ってしまったとかなんとか。


また、宗像先輩の殺人衝動を考察してみると、ですけど。
先輩は、相手を人間と認識しているから殺したく無いんじゃないか、と思うのです。
命あるからと言っても、植物を殺さないのは植物を人間だと思っていないから。
同じく、人間以外の動物を殺さないもそう言う理由。
つまりは、彼が殺人衝動を抱くのは、相手が人間だから。
そして、由良を殺したいのは、彼女をバケモノではなく、人間と認識しているから。


とあれ、次の物語にて。
コレで終るとちょっと後味悪いので、オマケというか、次の短編の予告と言うか、最初の方を演出します。



+オマケ+


時刻は夕方。
戦挙戦も終わりしばらく経った頃である。
地下二階の空も赤く染まり始め、もうすぐ夜になるそんな時間だ。
「ん、むぅ・・・」
そんな声が、地下二階にある日本家屋の縁側に面した部屋から聞こえて来た。
声の主は、薄茶の髪を背中似かかる程度に伸ばし、桜の刺繍のあるシュシュで髪をまとめた小柄な少女だ。
どうやら、眠っているようである。
その少女を抱き締めるようにして、同じく眠っているのは、黒い髪で髪を尻尾のように括っている少年である。
二人は、同じ制服を着ていて、同級生でクラスメイト。
少なくとも、恋人ではないが二人にとってはある種ありふれた光景なのだ。
深い睡眠をあまりできない少年―宗像の為に、少女―由良が抱き枕になると言うのは。
「全く、昼寝をするなら、せめてタオルケットぐらい被って下さいって言っているのに。」
そうぼやくように二人に、タオルケットを掛けたのは、別の少年。
焦げ茶の髪を襟足を刈り上げ、長く残したトップを龍馬ティストのチョンマゲ風に結い上げ、眠たげな印象の空色の瞳で身長に比べ痩躯な印象だった。
「・・・色々とバタバタしていましたし、眠れてないんでしょうね、由良さんも、宗像先輩も。
 仕方ないです、もう少ししたら起こしましょうか。」
「にゅー・・・むにゅ。」
その少年は、そう一人ごち、お茶を入れる為に台所に言ってしまったのであった。





とこんな短編を予定しています。