開始時間のリアルタイム更新に致しましたので、実際のアップ時間とは差がありますのでご了承ください。
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12月31日。
あの決戦の前のの大晦日の日。
師走と呼ばれる月の中でも、主婦業をしている人間には、大変な時期なのだ。
そう、ある意味での、戦争なのだ。
家族の写真 年末年始のとある一幕。
「アルト!!栗キントン食べたでしょ!?」
「ち、違うって。」
「じゃ、その口元の食べカスは?」
「え?」
ヴァリード/雪吹家の台所。
青く輝く髪の女性・ディスティアが、白い髪の少年の弟・アルトを問いつめている。
そして、見事な?誘導尋問によって、少年は、お節のつまみ食いがバレてしまったようだった。
と言うか、思い切り、唇の端に栗きんとんがついてしまっている。
これでバレないのなら、現行犯は存在しないだろう。
「ディス姉さん。
お雑煮、これで良いですか?」
「あー、ちょっと待って。」
「ディス姉さん、そろそろ、俺は行くから。
昼までに戻ってくる。」
「はいはい。
気をつけていってらっしゃい。
私も、後から、《デザートストーム》に行くから。
アークに、よろしく言っといて。」
黒髪の少女な妹のナツメの問いかけを少し待たせ、赤髪の少年で年嵩の弟・エヴァを送り出す。
その隙に、アルトが、逃げようとする。
するが、双子の妹であるナツメに、引き止められていた。
そのしっぽのようにしている白い髪のおさげを引っ張られて。
「ディス姉さん、アルト逃げようとしてる。」
「・・・・・・アルト、『お年玉』無しで良いの?」
「うっ・・・・・・。」
ここでいう、『お年玉』とは、金銭のことではない。
まぁ、一応兄弟で、ディスティアとて、大学生だ。
親からお年玉をもらう年頃である。
ちなみに、大晦日、数日前まで、年末進行で、二月先までの原稿・・・しかも、十誌近く仕上げ、父・レンシェルマと母・ルピナスは、それぞれ寝室で、死んだように眠っている。
一番上の姉・ファランは、明日からの新春大売り出しの準備で、今日も遅くなるだろう。
そんな、ヴァリード/雪吹家の大晦日の午前だった。
それから、お節をお重に詰め、起き出してきた父母と弟と妹の夕食の準備をして、四人が紅白歌合戦を見ているのを確認したディスティア。
水色ののハイネックセーターとダークカラーのデニムの上から、黒の特攻服をひっかけ、彼女は家を出た。
ガレージのバイクの側車に乗っている大量のカレーが入った寸胴鍋と唐揚げ、卵焼きなどのおかずの入ったタッパーだ。
少なく見積もっても、100人前後分はあるだろう。
側車いっぱいになっている為、特別固定をせずとも、動く心配はないだろう。
それに、数日前に、カレーは、《デザートストーム》に、この数倍を作ってある。
他のおかずの類いも、エイレンと紫苑が作っているはずだ。
此処数年・・・・・六年前の大晦日からの習慣だ。
それを習慣化させた男は・・・・エリスはいないし、それを一番に認めて、理解してくれたレイティスもいない。
ただ、それを無くして思い出にしたくないだけだ。
バイクの傍の塀に、寄りかかり、深く溜め息を付き、BlackStoneに火をつけ紫煙を佩きだす。
「どうするべきなんだろうね。」
そして、ディスティアは、さびしげに呟く。
この習慣を・・・・・・・自分のカレーを喜んでくれたエリスはいない。
六年前のあの日に、死んだ。
その二ヶ月前に、そのカレーを一緒に食べたあの男に、殺されて。
この習慣を・・・・・・・この習慣を認めてくれたレイティスはいない。
三年前のあの日に、死んだ。
その二ケ月前に、そのカレーを一緒に食べたあの男に、殺されて。
「計画・・・・・・起こして実行べきなんだろうけど。
その為には、あの子・・・・アリエスに、ある程度情報を渡さなくちゃいけない。
・・・・・・・・・・んで、死んだんだよ、エリス、レイティス。
ただ、生きてくれてるだけで良かったのに。
生きててくれれば・・・・・・・・・・立っていられたよ?」
三年前、レイティスが死んだのは、向こう側に計画がバレたせいだった。
その従妹のアリエスの心も、半ば砕けた。
なのに、自分は彼女から逃げた。
それを償うかのように、無茶な量の依頼もこなした。
だけど、いまだ、彼女に話す決心もない。
だけど、もう決めなくてはいけない。
「ディスティアサン?
もウ、そロそロ、皆サン、出発しまスヨ。」
「そうか、ありがとう、紫苑。
先に、戻って、何人か屈強そうで器用そうな新人と古参を選んでおいてくれ。
そいつらに、このメモの材料をスーパーで買わせておいてくれないか。」
思考の海に、沈みかけていたディスティアを、紫苑が声をかけ、引っ張り上げた。
走ってきた彼は、この冬の寒い時期に、ワイシャツにスラックス、カラシ色のベスト姿だった。
普通に車を使うよりも、彼にとっては走る方が早いし、寒さは意味をなさない。
彼に、ディスティアは、数十万単位のお金が入った財布とメモ書きを渡す。
「ディスティアサン、大丈夫デスカ?」
「大丈夫だよ。
今は、立ち上がれてる。
それじゃ、頼んだよ。」
紫苑が走り去った後、二十分ほどしてから、ディスティアは、バイクを発進させた。
ヘルメットの中で、ディスティアは、呟く。
「私にも、時間がない。
・・・・・そろそろ、決心しなくちゃね。」
その時間がない、は《歌乙女》としてなのか、《風舞姫》としてなのか、ディスティアとしてなのか。
他に聞く人のいない今は、分からない。
「押忍ッ!
三代目、補佐殿に頼まれたメモ書きのモノ、買いそろえておきました。」
そう言ったのは、《芭芙織麻都屠(バフォメット)》の親衛副隊長で、リーゼントで岩をこすり合わせたような声の速水龍三だった。
もうすぐ、次の春にチ-ムから卒業予定だったかと、ディスティアは、思った。
「久しぶり、元気だった?
・・・・あと、龍三さんと弥勒院は、覚えているけど。その他の二人は、誰?
新人かな?」
「よう、姫。
男の方は、《帝車》のトニー=クモリ。
女の方は、《GREED》のレジー=シュタイン。
二人とも、姫の数々の武勇伝に惚れて、入った口だよ。
今年の二月くらいに、纏めて、50人入ったろ?
そんなかで生き残った五人の二人だよ。」
弥勒院蓮二というのは、《薊姫守護衆》の一人だ。
冗談みたいな名前だが、本名だった。
二代目の薬袋大命の幼馴染みでもあるらしい。
実家が寺院関係と言うのは、知っている。
しかし、黒髪にロッカーティストの服装はともかく、頬から首にかけての弥勒菩薩のタトゥが印象的な青年だ。
ちなみに、彫っているのではなく、特殊なシールらしい。
その彼が、紹介したのは、日系らしい外国風のブルネットの少年と赤髪緑眼の少女だった。
少なくとも、『暴走族』と言う単語からは、縁遠そうな二人だった。
まだ、汚れていなさそうな。
「遅かったな、ディスティア。
もう、他の連中は、出発したぞ。
あと、四五時間で、朝焼けだから、七時間もすれば、戻ってくるぞ。」
「了解。
それじゃ、龍三さん、弥勒院、トニー、レジー、紫苑。
豚汁とおむすびも、追加で作るから、野菜の皮むきからやるぞ。」
龍三と蓮二は、『はいはい』という感じで、溜め息をつく。
トニーとレジーは、『姐御の命令なら!!』とでもいうように、行き込んでいる。
・・・空回りしなければいいのだが。
奥の厨房―喫茶店兼スナックにしては、本格的な様式のーに行く前に、カウンターの中のスツールに、座っていたエイレンに、こう一言だけ、ディスティアは言った。
「エイレンさん、《チャイルドクラン》の情報集めておいてください。
もしかしたら、来年動くかもしれないので。」
「解った。」
そして、ディスティア達も、厨房に消えた後。
エイレンは呟く。
「・・・これで、《御伽噺》も終わる。
いや、もう、終わらせないとね、『父』の哀しい思いも。」
里芋、人参、牛蒡、玉葱、馬鈴薯、こんにゃくなど。
豚汁とおむすびー炊き込みご飯用の野菜を黙々と剥き、切っていく。
大玉西瓜が、四つはいるくらいの大きなザルに、それらを積み上げていく。
龍三は、小学生ぐらいが入りそうな寸胴鍋三つに、だし汁を作っていた。
お米も升単位で研がれ、同じくザルにあげられている。
「トニーも、レジーも、私に憧れて、入ったって聞いたけど。
なんで、こういう暴走族、なんてにっちな道に入ったの?
逃げとして、選んだのなら、止めといて。
そういうのは、嫌いだから。」
突き放すような口調で、ディスティアは言う。
まだ、1年目なら、浅いとは言え月の世界に、根ざすことなく、太陽の世界に戻れる。
彼らには、太陽の世界が似合うと思うから。
好き好んで、こちらにいるのは哀しすぎるから。
「逃げじゃないです。
四年前の《魔厭雅裂攬(マ-ガレット)》との抗争ン時に、兄貴と一緒に、あのチームにいました。
負けたから、なにされても、文句言えねえのに、何もしなかったその男気に惚れました。」
「・・・・姉さんを、受け入れてくれたから。
暖かいから、入った。」
「なら、良いけど。
・・・・・・来年の今頃かな、それぐらいになれば、命の保証もできなくなるから、覚悟しといて。」
そんな、気配りがありながらも殺伐として微妙に暖かい会話や。
「そういや、みそ汁とか、カレーとか、唐揚げとか、大丈夫か?
ま、姫さんのは、そう言うの関係なく美味いからな。」
「そウ、でスネ、ディスティアサンのご飯、美味しいデス。」
そんな、ディスティアを歩目ごろス様な会話や。
「トニー、そろそろ、カレーあっため始めて。
レジー、お米の水、白米の方はかって。
アホウ!!強火にするな、中火に近い弱火でだ、差し水か少し牛乳も入れろよ。」
そんな割合普通の会話を交わす。
少なくとも、この場は、平和だった。
月の世界とか、太陽の世界とか、そんなコト関係なく。
ただ、『日常』があったのだ。
数時間後。
豚汁も、おにぎりも、カレーの準備も、終わった頃。
ディスティアは、「全部、配っても良いから。」と言い残し、数人前分を二つ、取り分けバイクにまたがり、何処かへ行った。
「何処に行ったですか?」
「ん~、三年前まで、出入りしていた情報屋の一人んトコと後、《梓瑠媚曾》の二代目んトコ。」
「情報屋、何故関わるの?」
「元々、初代目の頃から、情報屋とか、もっと深いところの月の世界の住人と交流があった。
此処のマスターのエイレンさんだって、深いところのこの世界じゃ、有名人だからな。
初代の総長副長も、裏稼業に関わっているようだしな。」
「んじゃ、なんで、《梓瑠媚曾》も?」
「二代目総長が、姫さんにお熱なわけ、だからってのあるんじゃない?」
弥勒院と新人二人が話しているところに、人数分のおにぎりと豚汁をよそってきた龍三さんが、岩をこすり合わせるような声で話に入ってきた。
配りながら、龍三は、更に呟く・・・此処にいる人物に話しかけているようではないように。
或いは、自分自身がついていけないことを嘆くようにも聞こえた。
「それにな、三代目も、四代目も、ここよりも、もっともっと深いところにどっぷりと浸かっている。
・・・・・・・・・・これ以上は、詮索するな。
薊姫守護衆の連中や上に、消されるぞ。」
しかし、その言葉に、バッと弥勒院―薊姫守護衆の一人に、新人二人は、視線をやる。
それに対して、ニヤリと、意思の読めない・・・・・・・それの不気味さを左頬から首筋にかけての弥勒菩薩の微笑みが、増大させていた。
でも、何故か、龍三の言ったことが、嘘ではない。そう思わせるだけの圧迫感はあった。
「それじゃ、食べよ。
他の皆が戻ってきたら、それどころじゃなくなるしね。」
それを打ち消すかのように、弥勒院は、明るく言う。
正直、新人二人は、ブルブル怯えかけていたが、この後も、《シルフィーダンサー》連合に残り、四代目や五代目の陰の支えになった。
それも、また未来の別のお話。
そして、それもまた、彼らには『日常』のお話。
時乃市市内。
-その一角の≪Bar レジェンド≫、
《梓瑠媚曾》の本拠地、と言うか、タマリ場である。
案の定、ディスティアが入るなり、店内の注目は彼女に集まる。
普通なら、敵対ではないとはいえ、同盟ではないチ-ムの総長が来たのなら、大騒ぎになる。
しかし、騒ぎにはならず、ディスティアが、《月天女》の特攻服姿のまま、扉を開け、
「シヴァ=オルコット、ルガ‐=ドゥルテンはいる?
ディスティア=ヴァリ-ドが来たと伝えろ。」
こんなセリフを吐く前に、一つの言葉・・・と言うか、ディスティアに抱きつく存在があり、言葉にはならなかった。
「我が最愛の君、約束を守ってくれるなんてなんて嬉しいことだろう。
その心遣いは、正に・・・」
まぁ、言葉が紡ぎ終わる前に副長とディスティア、両方に殴り飛ばされてお星さまになった。
「はいはい、シヴァ、鬱陶しいですよ。」
「んじゃ、ルガーさん、これ二人分だから。」
まぁ、こんな具合に、《梓瑠媚曾》の二代目総長は、副長にいなされ、あっさりとディスティアは出ていった。
こんなアレな扱いでも、二代目は至極幸せそうだったのは、まぁ、そのそんな感じである。
隣の旅宮市。
―郊外の一軒家。
「あけましておめでとう、イライアス?」
「ディスティアさんですか?
お久しぶりですね、会えて、嬉しいの・・・・」
「嬉しくても、自殺は止めようね。」
カレー小鍋、豚汁小鍋、オカズタッパー、オムスビタッパーなどを器用に片手で持ち、ディスティアは、イライアスの家の玄関に入る。
出迎えたのは、黒髪に黒水晶の瞳の陰気な雰囲気の青年だった。
彼は、挨拶を交わすなり、ベレッタをこめかみに押し当てるが、それを空いていた方の手で、ディスティアは、ねじり上げるように、逸らす。
妙に軽い音とともに、玄関の天井に、模様がまた一つ増えた。
「お節は、後から持ってくるけど、《デザートストーム》からの分先に渡しにきた。
お年玉の、ベイリーズとチョコパウンドケーキは、まだ、サイドカーの中だ。」
「あら、ディスちゃん?
久しぶりねぇ~。」
台所の方から、パタパタとスリッパを鳴らしながら来たのは、赤紫色の髪の新宿二丁目と表現するのが、一番近く女性にも見えるが、まごうことない男性ー月森久遠であった。
彼は、さっさとディスティアから、鍋などを受け取り、台所に引っ込んだ。
「・・・・イライアちゃん、ちゃんと、解りやすく甘えた方が良いわよ。」
そう言い残して。
彼には色々とバレバレなのだろう。
ともあれ、イライアスは、居間兼ご飯を食べる部屋に、ディスティアを案内した。
久遠は、恐らく料理を温めにいった。
ソファに座り、お互い落ち着いたころ、イライアスは、こう話を切り出す。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・大丈夫ですか?」
「何が?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・二ヶ月半前の拉致監禁強○調●の後遺症、トラウマ、ですよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・まだ、マシになったわね。」
「・・・・・・その長過ぎる間は、なんですか?」
「気のせいよ。」
年末の二ヶ月半前と言うと、10月半ばのことだ。
その頃に、ある意味で、《エータミレアム》・・・闇霧榮太郎に攫われ、少なくとも、成人年齢であっても、大きな声で言うのを憚られるような目にあって、まだそれだけしか経っていないのだ。
普通のそういう暴行事件でも・・・・・・行きずりのモノであっても、トラウマ・・・PTSDを残す場合があるのだ。
彼女の場合、後にエイレンに、『【アイツは、自分の腕の中に留めるためなら、手足を手折り、眼球をくり抜くぐらいは平気でする。】それが、アイツの愛情表現だ』と言わしめるほどのそういう表現を受けた結果の後遺症は、無いのか?そう、イライアスは聞いているのだ。
その答えは、間が空き過ぎるほど、間が空いていたので、彼でも怪しいと思うだろう。
じとーっと、見てくるのに、うんざりしたのか、ディスティアは、おいでおいでと手招きをする。
それに、怪訝に思いながらも、言う通りに、ディスティアの横に座る。
「え、あ、でぃ・・・・・ディスティアさん?」
彼らしくもなく、狼狽したような声音で、彼女に話しかける。
原因は、ディスティアが、行ったことにある。
すなわち、18歳のイライアスを胸に押し付けるような形で、抱き締めているからだ。
「・・・・・・こ、これくらいなら、できる程度には、回復してる。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・声、震えてますよ?」
「・・・とりあえず、日常生活には、支障無い。」
そして、しばらく、落ちる沈黙。
しつこいかもしれないけれど、沈黙が落ちる。
ちょっと暗くて居にくい沈黙だった。
それを破ったのは、久遠。
「あら、あらあらぁ。
お姉さん、あっち行ってるから、ごゆっくり~。
イライアちゃん、やる時は、ベッドじゃないと嫌われるわよ?」
という、ある意味、母親らしい一言だった、
しかし、それは確実に、その場の雰囲気を壊した。
「・・・・ち、違います、久遠さん。」
「そうです、ちょっとしたじゃれ合みたいなもんです。」
「え~、お赤飯炊こうと思ったのに。」
「・・・・・・・炊かなくていいです。」
「ま、いいわ。
食べましょ、ディスちゃんも食べてくんでしょ?」
「え、あ、ああ、はい。」
久遠が、わざわざ、ああ言う台詞を発したのは、雰囲気を変えるため、そう考えるのは、うがち過ぎだろうか。
この後しばらくして、ディスティアは、眠ってしまい、午前四時過ぎに、飛び起きて、自宅に帰ると言う一幕もあった。
ちょっと、『普通』とは言え無いけれど、
彼らのこの前の年末年始は、こんな形。
追記 +アルトのお年玉+
ディスティアが、慌てて、自宅に戻ると、当然ながら、灯は消えていた。
そっと、音を立てないように、玄関に入り、自分の部屋へ移動する。
コルクボードから・・・・三年前からあまり動かしていない・・・・、一枚の写真を取る。
ベールを外した黒い喪服ドレスの自分とその膝の上に座っているアリエスの写真だ。
今は、無くしているだろう『ひまわりのような』笑顔のアリエスが、写っている。
「どうしようかしらね。
本当に、・・・・・・・・・・・また、レイティスみたいな人は作りたくないんだけどね。」
そう言いながら、エヴァンスの部屋を挟んだー写真を『お年玉』として、あげる予定の下の弟・アルトの部屋に、忍び込む。
音を、風で散らしながら、枕元まで、歩み寄る。
「アルト、起きろ。」
「ん~、みゅ、お腹いっぱい、もー食べらんない。」
「・・・・・・アルト、起きろ。
お年玉、渡しにきた。」
「きゅ~・・・・・・あ、ディス姉さん。」
「・・・・・・・・・寝ぼけているようなら、目覚ましに、ディープキスかまそうか?」
「。。。。。お、起きました。」
シュタッと、そんな音がするくらい素早くアルトは跳ね起きた。
普段の彼からすれば、格段に目覚めの良い動作だ。
それでも、目をこするなど、何処か眠たげであったけれど。
「ほら、約束の写真。
あの子が、笑ってるのもう少ないから無くさないようにね。」
「わぁい、ありがと、姉さん。」
しかし、写真を受け取り、その中の名前も知らないーもちろんアリエスのことなのだがー少女を見て、ニコニコ笑顔だ。
それを、微笑ましそうにディスティアは眺めながら、一つ思う。
(もう、会ってるんだけどね。
あの状況じゃ、気付きようも無いか。)
「アルト・・・・・・《魔導師(マジスタ)・ラビ》、もしかしたら、今年その子に会えるかもしれないわ。」
「え?」
「三年前、《チャイルドクラン》潰し、無くなったでしょ、直前で。
そろそろ、再結成しても良いかもしれないと思ったしね。」
「・・・・・・・大丈夫なの?」
アルトは、覚えていた。
三年前、ディスティアが、倒れそうになるまで、自分を追いつめていたこと。
三年前、ディスティアのせいで、一人の人間が死んだこと。
三年前、そうじゃないのに、ディスティアが自分を責めていたこと。
「大丈夫、じゃないわ。
だから、まだ少し迷ってる。
ちゃんと、決めたら、教えるわ。」
それから、二ヶ月後。
三月の半ば、ディスティアから、計画を正式に開始することが伝えられた。
それは、まだ、この時点では、未来のお話。
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某所より再録。
ギャグあり、シリアスあり、ダークあり。
そして、エロ?ありでした。
○と●の中身は、公表しません。
知らないのなら、知らないで、その純粋なまま人生を歩んでください。
ええ、はい、熱烈にそう思います。
また、この物語でのイライアスとディスティアの再会は、『日常』としてであって、『裏稼業』としてではないので、悪しからずご了承ください。
では、次こそ、新作の物語でお会いしましょう。