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セピア色の想い出。

日々の生活と、其処から生まれる物語の布飾り。

黎明 +出遭って別れるだけならば・・・+  第弐抄

2012-03-05 01:58:04 | 薄桜鬼 二次




「とりあえず、15時前・・・と、え-と、昼過ぎには一度帰ってくるから。
 遅くなっても夕方には帰ってくるから、この部屋から出るなよ。
おむすびとお茶、食べてもいいからな。」
玄関口でそう言っても言葉は返ってこない。
慎は溜息をついた。
その隣りで静雄が眉間に皺を寄せて部屋の奥を睨んでいる。
「・・・大丈夫なのか?
部屋に置いてきちまって。」
不満げに聞いてくる静雄の瞳は揺れていて・・・あり大抵にいえば、数時間前に現れた二人への敵意が溢れている。
大丈夫か、と聞かれれば、即答できるほどあの二人を保証できるわけではない。
しかし、今あの二人を外に出すことは得策ではないとは思うし、状況ある程度はっきりするまで部屋に居させた方が安心だと思うのだ。
その旨を伝えたら、渋々ながらも静雄もうなづく。
手に持っていた包みの三つのうち、二つを静雄に渡す。
プラスチックの簡易弁当箱に入ったおむすびと卵焼き、あと小さなお茶のペットボトルが入っている。
上司の田中トムと朝ご飯にしろ、と言うわけだ。
「・・・静雄、悪いけどよ、昼頃・・・一時ぐらいに、時間取れないか?
 あ-、巻き込みたくないっちゃないんだけどよ。
 知り合いに当たってみて待ち合わせするかもしれないから、一緒に話聞いて欲しいんだ。」
口角をかすかにあげ、困ったような苦笑を浮かべた慎は、そう聞いた。
それに、静雄は、うなだれかけていた彼女の頭に手を乗せる。
「・・・最初から、俺はお前に協力するつもりに決まってんだろが。」
子どもをあやすかのようなその仕草。
どちらからでもなく、笑いが零れた。
くすくす笑う彼女に、静雄も昨夜から寄せていた眉間の皺を漸く和らげてつられるようにしてかすかにのどを鳴らして笑う。
「ありがとう。」




黎明 +出遭って別れるだけならば・・・+

          第弐抄 信じたくない場面(ステイツ)



「総司、狸寝入りはいい加減止めたらどうだ。」
斎藤の言葉に促され、沖田は閉じていた瞳を開くと大きく伸びをするように立ち上がる。
そして、飄々とこう肯定した。
「なぁんだ、なぁんだ、やっぱり、はじめくんには分かってたか。
 ・・・ごめん、ちょっと訂正。
 彼女にも分かってたみたいだね。」
くすくすと楽しそうに沖田は笑う。
其れに対して、斎藤は小さく溜息をつき、意見を求めるように視線を向けた。
「・・・此処が僕たちのいた時代じゃないっていうのは認めるしかないみたいだけれど。
 それにしたって、どうして、彼女はこんな怪しい人間を残したまま出て行ったんだろうね。
 昨日も昨日で、無防備な割に、隙がなかったし。」
肩を竦めるようにして呟いた沖田に斎藤は、黙り込んだままだ。
そもそも、自分達はあの女と面識もない。
オマケに昨夜が刀を向けたのだ。
警戒か、下手すれば、敵対されていても仕方のない状況だ。
しかし、未だに斬りかかられる――と言っても、刀が主流ではないような口ぶりであったし、あの女が言った『この時代』ではどんなものが武器とされているのか皆目見当もつかないのだが――事もなく、一晩があけているのは何故か。
無論、切りかかられた所でこちらも応戦するので、そう易々と殺されてやるつもりもない。
・・・同じ事は、あの女にも言えたのかもしれない。
一緒にいた男が同じ部屋に居た時は、戦わずにいることを模索していたのに、居なくなって報告書とやらを書き始めた時には、斬りかかれば、あまり無事に済まない。
そんな予感がした。
「それに結構、強いよね。
 平助ぐらいなら勝てるんじゃないかな、彼女。
もしかしたら、僕にも良い処まで行くと思うよ。」
そう、明らかに戦闘行為に慣れている雰囲気が遭った。
まがりなりにも、女性ならば、自分たちの時代、持つはずのない技術であるのに。
命のやり取りに・・・忍びのように影からではなく、真正面からの戦闘に慣れているような、そんな気配がした。
護身術ならまだしも、それは女性にしては不自然すぎるほどの腕。
自身も達人である2人はそう感じたのである。
「・・・確かに、只ならぬ雰囲気を持っていた。」
「だよね。
 ま、何か怪しい行動起こしたら斬っちゃ言えば良いんだしね.。」
あっけらかん、と言い切る沖田に対し、斎藤は嘆息一つ。
いくら、信用できないと言えど、今この場で頼りにできるのは、その女しかいないのに、そう簡単に切り殺すこともできない。
だが、それを彼に伝えても、自分の言葉に耳を貸さないだろう。
だからこそ、溜息をつくしかないわけである。
「でも、まぁ・・・そうだね。
 話、聞いてからでも良いか。
 僕達が、なんで此処に来たのか、とか状況整理だって必要だし。」
口元は孤を描き呟いた彼の瞳は、昨夜どうように冷め切っていた。
ただ、少しだけ興味を持ったような響きが混ざっていたのだけれど。







時刻は、午前9時半の少し前。 
最後のテストであった『プログラミングⅣ』のテストが開始されて30分も経っていない。
普段は、そうしないのだが、PC言語の穴埋めなど、普段から自作プログラムを組んでいれば、十五分もあれば容易い。
それに、あの教授のテストは優しいのだ。
半分はレポ-トで採点するということもあってか。
そう思うのは、パソコンマニアと呼ばれるレベルの極一部だけなのであろうけど。
ともあれ、慎は開館したばかりの図書館へ足を運んだ。
目的のソレがありそうな書架に足を伸ばす。
まだ、中途半端な時間だ。
2時間眼のテストを受けるような学生もちらほらいるが、大概の生徒は、昨日までにテストを終えているし、レポ-トを出す教務棟は別だから、人気は少ない。
その書架にも、近くには誰も居なかった。
元々、奥まった書架である、待ち合わせに使うロビ-から遠い。
半ば、夏休みであるし、その初日にわざわざ、来るような物好きも少ないのだ。
レポ-トを書く時でなければ、そう人気があるような場所ではないのだ、歴史系統の書架は。
もちろん、歴史系統の学科を取っている生徒は別だけれど。
「幕末に江戸、京を中心に反幕府勢力の弾圧、及び不逞浪士を取り締まる治安維持部隊・・・。
 ・・・やっぱり、そうなんだよなぁ。」
要するに、今で言う警察や非常時の自衛隊に近い組織なのだろう。
あくまでも日記の個人視点でしか、知らなかったが、まぁそんなもんだろうと、慎は納得する。
局長の近藤勇率いる戦闘集団。
慎にとっては、≪楢の絆(バンデ・アイヒェ)≫の仲間達のようなそんな集団なのかもしれない。
血に塗れていようとも、そこに絆があったと言う意味では。
或いは、一種、≪ホ-ム≫のようなモノという意味では。
立ち上げから解散まで様々なエピソ-ドがあったのだろうというのは、検討はつく。
それは、追々調べようと思った慎。
・・・奇しくも、その感覚は間違っていなかったのかもしれない。
この時の慎は知るよしもなかったのだけれど。
資料を一旦、棚に戻し学生用の調べ物室へ向かう。
「・・・ディスティアさん、に言うべきなんだろうな。」
調べ物室の個室・・・二畳もないパソコンとプリンタ-だけがある部屋だ。
手馴れたてつきで、ネットを開き、今朝方聞いた名前を打ち込む。
パソコン、を知らなくても、流石に本人の前で検索するわけには行かないからだ。
大学と言う場所は、そう言った面で楽だと思うも、検索結果にでてきた写真に首を傾げ、思わず、そう呟く。
醜男ではないが、今朝分かれた二人とは似ても似つかない顔が表示されたのだから。
-『もしも、今、何処ででも手に入る情報と違う情報を得たら、連絡して。』
これが、同業であるあの友人のいう違う情報であると、慎は何故か確信していた。
一本のメ-ルを打つ。
ディスティアに、十二時半頃に池袋の駅前近くのデニ-ズに来て欲しい、と。
余計な事は書かない。
書かなくとも、解るだろう、同業者だ。
いや、同類(トリップ帰還者)だ。
そして、別の人に電話をする。
少々引っ掛かったことを検証する為だ。
「もしもし、ドタチン?
 ・・・へいへい、いいじゃん、ドタチンはドタチンなんだし、門田より親しみ安いぜ?
・・・うん、そうそう・・・あのさ、狩沢さんいる?」
同級生でよくワゴンで移動している門田に慎は連絡をする。
いきなりの電話であったが、門田はすぐに返答をした。
「ありがとう。
 ええ、うん、ききたいことあるんだ。」
図書館で得た検索結果の写真はプリントアウトしてある。
確信めいたことが、イヤな意味で実を結びつつあるのを慎は実感しつつ、門田の返答を待つ。
聞けば、直ぐ近くに車を寄せているとのことで、其処へ直ぐに向かった。
「わざわざ、ごめん。」
「いや、構わねぇ。」
門田の言葉に慎は表情を緩ませる。
そうして微笑めば、多少は女性のように見えるのだけれど。
ともあれ、慎はワゴンから降りてきた狩沢に視線を向ける。
「なになに?
 私に聞きたいことあるんだって?
 オススメのアニメ?漫画?あ、もしかして、同人誌?」
楽しそうに笑う狩沢に対して、慎は苦笑をする。
見た目は、カラフルでこそないもののカジュアルな服を着こなす美人であるが、口を開けば、二次元マシンガント-クの狩沢。
慎も、嫌いではないが、流石に今はそう言う場合ではない。
「十日ほどまえに見せてもらった雑誌、あるよな?
 それ、貸してくんない?」
「この間の・・・ええと、これだよね?
 慎ちゃんに見せたのって。」
ワゴンに戻り、目当ての雑誌を慎へ手渡す狩沢。
礼を言い、ぱらぱら捲る。
目的の特集を見つけると、慎の顔には自然、諦念のような笑みが浮かぶ。
自身の当たって欲しくない予測が当たってしまったように。
「わお、慎ちゃんもこう言うの興味出てきたんだ。
 薄桜鬼面白いよ?乙女ゲ-だけど、男の子にもオススメできるな-。
 糖度は低いと思うし、結構、カッコイインだよね。
 千鶴ちゃんも可愛いけど、私は沖斎か、土崎だな-。
もちろん、平助受けもオイシイけどさ。」
肩越しに覗き込む狩沢に、雑誌を借りたいことを告げると、先月号だし返すのいつでもいいよ、と快く貸してくれた。
そして、静雄との待ち合わせまで、その時点であと2時間ほどあるが、早々とむかうことにした。







「どう言ったらいいだろうね。」
「・・・ソイツが、一緒に話し聞くっていう平和島静雄さん?
 カイ、本格的に巻き込む気が無いなら帰って貰ったほうがいいわ。」
静雄も慎に遅れてではあるがほぼ時間どおりに来たが慎は、話あぐねていた。
そこへ、割り込むように一人の女性の声。
青く輝く腰を越える長い髪に、夕焼け色の瞳で更に長身かつ、細身ながらもグラマスな女性だった。
見た目は、慎達と変わらない年齢なのだろう。
いや、若干年上だ。
静雄よりもやや長身な身体を包むのは、深い紫のチャイナ風のトップスと膝丈スリットの鮮やかな刺繍の入った黒いタイトスカ-ト。
黒く形式はギリ-シュ-ズではあったが、細かで色彩豊かな刺繍が施され、女性用の形をした靴を履いている。
シンプルかつ、体のラインに沿った衣装である。
全体の印象としては、旧い映画の中国人ヒロイン辺りのような服装であった。
若干、浮きがちではあるモノの首から、ユリモチ-フのクロスを下げている。
恐らくは、メンズのそれを。
また、耳にある中の小鳥まで細工された片耳だけのピアスも同じく印象的だ。
「ディスティア、それは・・・」
「テメェは誰だ?」
「・・・カイの同業者で、説明役の狂言廻しよ。」
コ-ヒ-を注文した後、彼女は、静かに告げた。
慎からのメ-ルを受け取り、簡単に調べた・・・正確に言えば、心当たりに裏づけを取った情報を。
至極あっさりと、なんでもないことのようなこと。
「結論から言えば、伝えられない歴史からのタイムスリップをしてきたのよ。」
「伝えられない歴史?」
「そう、今残っている歴史なんて勝者の歴史だもの。
勝者に都合の悪いことは隠した歴史ってことよ。」
「・・・ディスティア、これ。」
「・・・どこから、漏れたのかしら。
 もしくは、ご先祖様の冗談とでも思ったのかしら。
まぁ、ゲ-ムとしてなら問題ないかな。」
怪訝な声で答えた静雄にディスティアは、あっさりとしかし、嫌悪を隠さずに説明する。
そして、慎に見せられた雑誌を見て、眉根を寄せる。
狩沢に借りた雑誌である。
ぱらぱらとざっと見るが、ある程度は知っていたのだろう。
なにせ、連雀氷雨として彼らに関わっていたのだから。
とりあえず、状況は把握したようだ。
過去の京には縁があると言っていたから、その筋だろうと、慎は検討をつける。
「時間、どれくらい取れる?
 三時間四時間かかるわ。」
「何に・・・説明にか?」
「もちろん。」
「・・・トムさんに連絡してくる。」
静雄に質問する。
説明するならば、明かせるカ-ドは明かすのが、ディスティアの主義だ。
されとて、明かせても、他人の悲劇は基本的に語らないのだけれど。
この騒動に付き合うならば、聞け、とでもいうような質問。
それに、上司に連絡をする為、一旦外へ向かう静雄。
恋としてかは投げておいて、友人の為に彼は協力すると言ったのだから。
「・・・ディスティア?」
「あの人は、本当にお節介なの。
 ・・・幸せアレルギ-って、勿体無いと思うわ。
私もお節介だけどね、前の自分を過去に送り込んで、過去を改変しちゃうぐらいには。」
「そこまで?」
「うん、知ってしまったからね。
 全てを幸せになんてのは、物語でだけだ。
 せめて、自分の手の中に入るぐらいには、幸せになって欲しい。」
「・・・貴女のは?」
「なれるならね。」
慎の問いに、ディスティアは決して、「なりたい」とは言わなかった。
そう願えるほどにお互い、血に濡れていないわけではないのだから、慎とてそれ以上聞けなかった。
少なくとも、お互い、裏で名前が売れすぎている。
慎などは、こちらでは、まだ極力接触をネットに限っている分、まだマシだが、ディスティアは親の職業とその目立つ髪でそうもいかない。
ただ、日本にいる限り、殺されることはないだろう。
有名人の娘が殺されて、世論がマスコミがその追求を緩めるほど、緩くはない。
それに、彼女の友人達がそれをさせることはないだろう。
「さて、場所移りましょうか。
 此処で話せる内容でもないからね。」

―――しかし、ディスティアは決して、安穏だけを望んでいるわけではない。






途中、隻眼の赤林に会い、報告書を渡して、東急ハンズ池袋店に程近いとある喫茶店に入る。
入り口近くや二階は照明が明るめで、商談や女子高生が喋り場にしているようだ。
奥に行くにつれて、照明が暗くなり、一階奥には個室が並ぶちょっとリッチな店。
ニスを・・・いや、時間を重ねたようなそのテ-ブルと良い、居心地が良さそうだ。
「あらぁ、ディスちゃんに、まこちゃんじゃない?
 ・・・お仕事?」
「半分ね。」
「まぁ、近いかも。」
「そっちの子、静雄ちゃんよね、最近じゃ珍しい組み合わせじゃない?
 高校以来だものね。」
ウェイタ-として動き回っていた桃色に近い赤紫の長髪の彼-月森久遠に声をかけられた。
慎とディスティアの友人で、刀の九十九神で、ゲイでオカマである。
服装もそれ相応ではあるが、申し訳程度のエプロンのせいか、そう違和感を感じるほどではない。
何度か、高校時代、慎と友人達-静雄、新羅などであるが、臨也は静雄とは同席しなかった-は来たことがあるのであった。
「今日はこっちなんだ、久遠さん。」
「そ、本店は今、学園が高等部も大学部もテスト期間中でしょ?
 閑古鳥に近くて近くて、こっちの方にお手伝いなのよ。」
「カマイトさんも?」
「ええ、今買い物に行っているわ。
 ・・・個室、使う?」
「お願い。
 コ-ヒ-と甘いもの、よろしく。」
「はいはい。
 一番奥を使って頂戴ね。」
事情を知っている・・・もっと言えば、数年前に終ったディスティアの物語での彼女の師匠・エイレンの契約使鬼であったのだ、久遠は。
今はいない主人の代わりに、年少組を見守るのだ。
・・・それに、四年ほど前に、エイレンがまだ生きていた頃に頼まれたあの出来事に関わるのだろう。
ならば、協力できる部分は協力しようと思う久遠であった。
「じゃ、行きましょう。」
ディスティアが促し、奥の個室に入る。
六畳ほどの部屋にソファとロウテ-ブル。
照明はやや暗めで、ネット接続の端子とコンセントが少々多いぐらいでそう変な部屋ではなかった。
ただ、鍵がかかるようになっていたのが、少々剣呑なぐらいで。
「さて、今来てるの誰?」
「沖田総司と斎藤一って名乗ってる。」
「ふぅん、あの悪戯小僧みたいなのと無愛想な剣士くんか。」
「はぁい☆アイスコ-ヒ-とお姉さん特製のシフォンケ-キよ☆
 コ-ヒ-は、ピッチャ-で持ってきちゃった。
・・・ディスちゃん、私も同席するわよ?
 一応、直接面識あるんだし?」
「・・・・ややこしいことになるんだけどね。」
ディスティアは、呆れたようにそう呟いた。
目の前のチョコとピスタチオのシフォンケ-キを眺めながら。




「んと、まず結論を言おう。
 彼らは、新撰組のあの斎藤一や沖田総司だよ。」
「・・・は?」
「少し旧い映画になるけれど、バック・トゥ・ザ・フュ-チャ-と言う映画の逆版と言うか。
 とある男が、とある子達のハッピ-エンドが必要だから、トリップさせたらしいと、≪図書館≫にはある。」
「・・・イザヤみてぇに回りくどく言ってねぇで、解りやすく言え。」
「イザヤねぇ、あのある意味情報屋の鏡と一緒にして欲しくないわ。
 辞書で『情報屋のクズ』って引いたら出てくるような奴は、最低だと思うもの。」
にっこりと、砂糖菓子のように甘やかな笑顔ながら、きっぱりとディスティアは、同業者である筈のイザヤを拒絶する。
例え、善人の情報屋は早死にするだの、或いはお人好しの情報屋なんてのは無能な証拠と言って憚らなくても、最低限のポリシ-があってこそ。
そして、カタギの一般人を駒にするなんて言うのは、ディスティアにとって、一番拒絶したいことである。
なぜなら、知らないでいてくれる人がいることこそが、彼女の最大の救いなのだ。
日常(ふつう)があるからこそ、戦える。
そして、過日に死んだ少年も、元々はカタギの普通の少年だった。
養父が少々、裏にコネがあっただけの。
それは、カイを名乗る慎とて同じ事。
養母や弟は、彼女が裏稼業なのを知っている。
だけれど、娘は何も知らない。
知らないままでいて欲しい。
裏(ここ)に近い場所で生まれた子だけれど、それでも、我が子が裏に来る事は望まないのだ。
「・・・何故、萩行さんがそんなのことを?」
「あの男のシンプルかつ最大の願いは、娘や息子と呼んだ人造人間(人の手で産み出された子)達のなんでもない幸せだけだもの。
 ・・・それこそ、そうね、『家族でコ-ヒ-を飲む程度』のささやかな幸せよ。」
「なのよね~。
 だから、エイレンちゃんもドついて止めれなかったもの。」
「それがなんで、慎に厄介事を押し付ける事になってんだよ。」
「例え話になるけれど、西洋医学で癌を見つけた場合、表面的な病巣だけじゃなくて、根幹も取り除いたりするの。
つまりは、萩行の娘だけを幸せにしても意味が無いこと。」
「聞きかじりだけれど、萩行ちゃんの娘さん達って、聖ちゃんの此処二百年で一番不幸だった時に・・・それから立ち直らない内に作成された子が元なのよ。
 だから、なんて言うのかしらね、『自分は幸せになっちゃいけない』って言う強迫観念があるのよ。」
「一応、萩行や私のような一定レベルのスキル使いには、時間は不可逆ではないからね。
 ・・・今からでも、大切な人を作って、『幸せになってもいいんだ』と思わせれれば、それが、萩行の娘達にも波及させることができる。」
例え話に変換したが故に、微妙な差異は生まれていようとも、事実である。
約三百年後を生きる彼の娘達が生まれた経緯にしてみても、この世界で辿れはするが、それは、彼女達のいないフィクションとしてのそれであり、事実ではない。
「・・・嘘じゃねえんだな。」
「ウソをつく必要は無い。
 誤魔化す事や隠す事はあっても、身内には嘘はつかないことにしている。
 平和島は身内じゃないけど、カイは身内だからね、嘘はつかないわ。
・・・それに、私は貴方の実力は認めている。」
「そうね、ディスティアちゃんは、一応、認めているのよ?」
「拳を交わせば、その人間が見えるからね。
 力を持て余していても、それでも捨てようとか、いらないとか心根では思っていない貴方を私はとても好ましく思うの。」
「・・・は?」
「あぁ、あん時か。
その人と≪風舞姫≫が同一だとは当時は思いも依らなかったからな。」
「覚えてないならいい。
 濡れ衣なんぞ、いい気分じゃないだろうからね。」
過日、一度限りの邂逅ではあったが、ディスティアと静雄は面識はあった。
静雄の方は、当時は制服ではあったが、金髪ではあったし、印象は変り無い。
ただ、ディスティアが当時より更に長身なのと、服の印象のせいか、静雄には思いたらないようだ。
というより、特攻服+男装と今のナイスバディなタイト衣装とで印象は欠片も重ならない。
「で、どうする?」
「どう、するって?」
「面倒見るのか、追い出すのか。
 追い出すなら、あの大馬鹿者に連絡ぐらいはとるよ。」
「・・・・・・萩行さんの私への目的って、わかるか?」
「精霊に引っ張られすぎて、誰かを哀しませるのは、いやだろう、カイ?
あの男は、望む結果だけでこれを選んでは居ないんだよ、残念ながら。
規定(ル-ル)は違うが、精霊使いをこの世に引き留めるのは結局は、絆(ロイス)ってこと。」
「お節介だな。」
「ええ、本当に。
引っ張りあげる為に送った世界で選んだ能力があれだから、言わないだろうけど、心配なのさ。」
欠伸をする猫のように目を細め、ディスティアは答える。
彼女とて、彼の少年を失った痛手から立ち直させられる為に、あの世界に飛ばされた。
そして、一人壊してしまったが、今こうして立ち直っているのだから。
慎とて、二人の『ムサシ』を失った。
一人は、自分をこの世界に引きずり込むだけ引きずり込んで逝った先輩である、武蔵春陽(たけくら・はるき)。
もう一人は、その後行った世界で慎を拾った傭兵団・≪楢の絆(バンデ・アイヒェ)≫のムサシ・クラ-ジュ。
残してくれた物は多い、されとて、喪失(うしな)ったモノも多いのだ。
そして、二人のムサシがくれ、そうしたモノは慎を苛む。
彼女が踏み止まっているのは、彼らがくれた物があるからだ。
「・・・まっ、面倒見るさ、何かの縁だしな。」
「そう、・・・時間いいの?
三時ぐらいに帰るって2人に言っていたわよね。」
「・・・マズっ。」
促され、時計を見ると二時半を幾らか回っているようだ。
慌てる慎を制すのは、久遠。
作り置きの惣菜を幾らか持っていきなさい、と言うことらしい。
一緒に、ディスティアも席を立つ。
静雄が、渋面のままである為、とある店で便宜を図る為のお菓子作りの為だ。
二十分ほどして、包み終わり久遠が戻ってくる。
それを受け取り、慎は帰っていった・
静雄がちらりと見た中身は、具沢山の白和えだの、きんぴらだの、和風一色の惣菜である。



一方、ディスティアは、静雄を伴い、池袋から移動して、新宿駅にまで来ていた。
数駅離れていようと多少は、悪名は轟いているのだろう。
金髪にバ-テン服は目立つのだ。
「で、ここまで連れて来てなんもないわけじゃないよな?」
「もちろん。
 まだ、納得したわけじゃないだろう?
 人の悲劇を他人(わたし)が語るのは、礼儀違反だし酒の力でも借りないとやってられないってところだしね。
 知り合いのトコしか、ある程度信頼できて他人を連れて行けるレベルの店を知らないんだ。」
あっさりと、ディスティアは答える。
しかし、最後の一言は、口の中で呟くのみ。
――『それに、あの情報屋に逢えるかもしれないしね。』
東口から離れ、歌舞伎町の方へと2人は歩き出す。




+後書き+

一応、ギリギリ一年経つ前に2話めです。
裏で、慎ちゃんのALFのデ-タ作成したり、色々してましたのです。

とあれ、今回はギリギリ出番ありましたが、次回は、沖田さん斎藤さんの出番はありません。
最後にちびっとあるといいかなぁ、と。
読者向けに、慎ちゃんの過去話メインになります。
語るのは、ディスティアですが。


また、慎ちゃんの属したル-ルは、アルシャ-ドff。
クラスは、エレメンタラ-/スカウト/サムライ辺りになるのかなぁ。
エレメンタラ-とサムライは確定。
無印のエレメンタラ-ライフパスですので、若干、エレメンタラ-としても強いです。
総合レベルは、30前後。
サムライメインのはず、前後の事情で、エレメンタラ-が若干強いですが。
ちなみに、文中のロイスは、ダブルクロスの用語です。
化け物にならない為の楔ですね、大切に思う人をゲ-ム的に表した物。
ディス嬢は、つまるところ、『大切な人がいるなら、居ないよりも持ちこたえられるわ。』と言っているわけです。


とあれ、なるべく早いうちに、3話目で会いましょう。

それでは、次の物語にて。



俺は童子ではない

2011-12-15 23:08:57 | 薄桜鬼 二次
文久三年霜月末日。
とある少女が、新撰組屯所から消え、ほとんどの者がそれに気付かずに数日が過ぎた頃のお話である。
京都の街中にて。
見覚えの無い白に近い淡く青みのある髪だが、見覚えのある顔の人物に声をかけられる斎藤。
身なりからするに、商家の旦那であるらしい。
斉藤は、手振りで隊士達に先に行くように促す。
そうして、やっと旦那は口を開く。
「お久しゅう、斎藤はん」
「誰、だ・・・朱雀屋か?」
「そうどっせ、いつも贔屓にしてもろとる朱雀屋の蓮雀氷雨やわ。」
新選組とも取引をしている薬問屋の朱雀屋のまだ若い旦那であった。
にこにこと真意を見せないところは、斉藤に山南を思い出させる。
斉藤も、何度か顔を会わせているはずだが、どうにも印象が重ならない。
「・・・・・・・」
「髪色はこんが本来なん。
 こな九十九髪でお兄さんらのトコ、何回も行きはったら目立ってあかんやろ?」
「そうだが、何故。」
「誰か、居らんようになって寂しいを思うとるんを隠しとんみたぁてな。」
「・・・・・・思ってなどいない」
「沈黙、長いわ、斎藤はん。
 後、お兄さんらのいう不逞浪士の情報、山崎のお兄さんに渡してぇ言う用事なんよ。」
自身の父とは重ならないが、優しい父と言うのは、こういうものなのだろう。
そう思わせるように、見下すわけでもなく、包み込むようなそんな優しさの籠った口調では合ったが、聞き捨てならない言葉を聞いた。
思わず、殺気を放ってしまう斉藤。
副長を信奉の域で信頼している山崎がそんな軽率な真似をするだろうか、そう思ってしまったのだ。
「・・・」
「山崎のお兄さんは、こっちの事情を承知の上で聞いてきましたん。
 ((小声で)ま、人間として最期まで居るんを覚悟しはったもんなぁ、死神やなく、あくまでも人間として)」
「・・・・・・」
「そないに見つめられたら、お兄さん、照れてまうわ?」
「お兄さん?もう良い歳だろう?」
「違うわ、まだ、現役やから、お兄さんなん。
 旦那、呼ばれとるけど、商売相手やないんちゃから、お兄さんか氷雨で呼んでえ。」
一応、氷雨の名誉の為、少々、補足するが。
お兄さんは男として現役。
お父さんやおじさん、旦那は、あっちがダメダメという意味なのである。
商家や置屋の旦那の場合、年齢に関係なく、お父さんと呼ばれるが、それと実際の感覚は別であるのだ。
「では、氷雨さん。
 情報は?」
「ちいと、こっち来てな、天下の往来でする話違うやろ?」
そして、場所は移って鴨川沿いの船宿。
ようは、連込み宿・・・未来風に言えば、ラブホである。
それは投げておき、密談にはうってつけである。
「・・・ってことやわ。」
「・・・・・・・・・」
「斉藤はん?」
「・・・・・・・・・」
話終えても、斉藤は上の空だった。
年齢を全く感じさせないように、氷雨はこてんと小首を傾げる。
ぽむぽむ、そんな軽い音をするように斉藤の頭に手を置く。
そして、撫でる。
幼子にするようなそんな所作だ。
「・・・俺は、童子ではない!!」
「んー、うちの蓮と千汰が、寂しそうというか、解らない事が解らないって言う時と似たような雰囲気だったから、つい。
 童子じゃないっていうんだったら、こう?」
多少、上背があると入っても、油断していたのだろう。
斉藤は、氷雨に抱きすくめられていた。
落ち着かせるように背中を撫でられながら、こう言われた。
「あんなぁ、先がどうなるか解らんけど。
 斉藤はんには大事な子おったんよ。
 今は、解らんやろけど、それだけ忘れんで。」




その後、斉藤が立ち去り、船宿の部屋で一人、氷雨は呟く。
「なぁ、聖ちゃん。
 欲しいもんは手に入れていいんよ。」













最初は、ある日の会話だったけど、微妙にのびて小話になったよ、な一話。
出てないけど、斉藤×聖前提。
今、一話のみ公開中のお話、聖ちゃんサイドの終了後なので、冒頭にあるように、霜月末日。
この数日後に、沖田と一緒に現代トリップして慎ちゃんと出会う感じです。
なんで、この小話は一応、ハッピーエンドルートになります。
聖ちゃんサイドバッドエンドは、聖ちゃんが本編開始までに戻って来ない版で一応、今、トゥルーエンド的なところまで持って行けるお話を書いてます、アップは未定で。



それでは、次の物語にて。




黎明+絶対に忘れないから+  第壱譚

2011-09-17 23:13:25 | 薄桜鬼 二次


「四席、あれで最後だったみたいッス。」
「わかりました。
 私は一応、確認してから帰投します。
 先に貴方達は帰還しなさい。」
「は、承知したッス、四席。」
なんでもない任務のはずだった。
問題といえば、全休攻撃するような奴だったから、あちこちに細かい傷と太腿に深い傷。
止血はしたけど、ね。
終わった後、いつもの最後の確認をして、自身も護挺に戻ろうとした時。
私・小鳥遊聖の意識は反転した。




黎明+絶対に忘れないから+ 
      第壱譚 又会えるとは、光の欠片ほども思ってなかった





夢を見た。
生まれ育った屋敷の敷地内。
その裏の草原でのこと。
―『待ってよう、宗聖あにさまー。』
いつかの・・・遥か過去の風景だ。
父も母も生きていて、もちろん、兄だって生きていた。
―『こ、こら、走るところ・・・ほら、転んだ。』
―『うぇーん、痛いよー、痛いよー。』
泣きたくなるぐらいに懐かしいあの日々。
だけど、今は無い。
全ていなくなった。
元ちゃんですら、聖の側にはいないのだ。


目覚めた時、見覚えの無い和室だった。
私は、手当てをされ、布団に寝かされていた。
「・・・ここは?」
起き上がろうとしたが、足の傷が痛み動き損ねてしまった。
そして、その時点でやっと、誰かがいるのに気づく。
暗い赤茶をばっくばらんに結んだ青年が横にいるようだ。
座っていても身長なのがよくわかる。
「お、目が醒めたか。」
「・・・・・・はい。」
「ろくに体も動かねぇのに、警戒するなって。」
「しない・・・わけにも行かない・・・・・・くせだもの。」
死覇装を着ていないし、大太刀・蓮華姫と小太刀・鷹眼も側にない。
おまけに、視界の端を掠めるのは、白から暗い桃色へのグラデ髪。
封印具としての役割を持たせた髪留めを二つとも外されて三日以上過ぎている。
怪我をしていたといっても、たいした怪我ではなかった筈。
もしくは、聖弥が一度外に出たのだろうか。
そっちのほうがあるな、全く勝手をする。
「・・・・・・私の刀は・・・」
「お譲ちゃんにはありゃデカくないか?」
「それでも・・・私の相棒・・・・・・」
「で、お譲ちゃん、名前は?
 オレは、原田左之助ってんだ。」
一応、聞いてみるが、はぐらかされた。
名前を聞かれて、答えないのも、失礼だと思うが、それでも、私はどの名前を答えようか、迷った。
名前は、多すぎるのだ。
立場も多いけれど。
結局、一番長く名乗っていて、一番なじんでいる名前を名乗った。
「小鳥遊・・・聖・・・かな。」
「かな、って手前の名前なのにか?」
「・・・私の名前・・・・・・多すぎるもの・・・。
 小鳥遊聖が・・・一番・・・呼ばれる名前だから。」
「そうか、わりぃけど、局長呼んでくっから。」
左之助がそう言って、この部屋を離れると同時に、私は意識と霊力を伸ばし、情報を集める。
鋭い人間には気づかれる・・・その程度ではあるが、最大限に急いで集めた。
そして、知った。
ここが私が元いた世界では数年後に発売されるソフト『薄桜鬼』として残されるの世界―即ち、幕末であることを。
歴史に残らないはずの道筋の上の世界であることを。
いや、正確には全てを残すわけにはいかなかった、残せなかった余剰部分もある世界なのだろう。




さして広くは無いその部屋に集まったのは七人。
他はいないらしい。
正確には、庭と天井裏に更に一人づつ。
身を起こした私の触診と問診するのは、禿げたのか剃ったのかは置いておくとして禿頭の蘭方医・松本良順。
真正面にいるのは、中年に差し掛かった横幅も大きな何処かの朴訥な雰囲気の近藤勇。
彼を挟むように左側に紫紺の髪を緩く結った黒い着流しの寡黙そうな斉藤一。
右側には、黒い髪を高く結い上げた聖にとっては、元ちゃんの若い頃を思い起こさせるような青年・土方歳三。
後は、先ほどいた左之助を含め、てんでバラバラにいる。
肩で切り揃えた髪と眼鏡が父にそして、兄に似ていて、聖には苦い感情を抱かせ、そして、絶対に腹黒属性の山南敬助。
焦げ茶の髪を首と後頭部で纏めている、此処にいる中で一番危なく危うい雰囲気の青年・沖田総司。
茶の髪を高く結い上げたこの中では、聖の次に若いであろう・藤堂平助。
先に、それぞれが名乗り、持って行かれた髪の留め具を返してもらった。
取りに行っている間に良順が退室したのは余談である。
私が、『返してもらわないと話し合いにならない』と断言した為。
編む時間も惜しみ、首筋で蓮を模した止め具を嵌めると、私の髪はグラデ髪から、黒い直髪に変化する。
これで、少なくとも、普通に話す分には殺さなくて済む。
僅かに、起きたざわめきも私は無視をし話を促した。
「君は何かな?」
「話せることはないわね。
 ・・・刀と死覇装・・・着ていた黒い着物を調べたのなら、外見どおりでもないのは分かると思う。
 それに、聖弥に会ってるなら、それ以上は否定することも無いわ。」
近藤さんの質問へ答える術は私にはない。
少なくとも、というレベルで言うならば、死覇装は色を重ねて黒くなったのではなく、朱を劣化させて黒くなったと言うのは分かるだろう。
元々、黒ではあるけれど、血が固まった黒だもの。
また、蓮華姫と鷹眼は、私以外には抜けないのは、怪しい。
斬魂刀というのは、そういうものだけれど、日本刀としては、ね。
それに、短い会話から察するに私が拾われて三日も経っていない。
なのに、こうなっているならば、聖弥が出てきたのだろう。
恐らくは、自身を代価に私の滞在を許可するように、最終的に。
・・・だけどね、聖弥。
私が喜ぶと思う?
貴方を唯一の血縁者を駒にして助かっても。
「勘違い、しないでね。
 ・・・話さないではなく、話せない、どれを話せばいいのか迷ってる。
 聖弥がある程度バラ・・・話しているんでしょうけど。」
そう本当に、ある程度までではあるだろうけど、聖弥は話しているのだろう。
また、裏取り含めての会話なのだろう。
少なくとも、人ではない一人ではなくなった存在・羅刹がいるのは知っているし、鬼もいる世界なのは先ほど知った。
だが、自分のような存在がいてもいいということにはならないことぐらいは、私は識っている。
それに、近藤と斉藤、左之助だったか・・・その三人ともかく、他の面々からは良くて警戒、悪ければというか、山南以外からは殺気が向けられていた。
別段、猫にパンチをされるようなその程度の殺気であったし、受け流すことも容易い。
むしろ、可愛いものだ。
正確には、多少の差があれど、『近藤勇』を慕っている。
その雰囲気が更木隊に良く似ていて、気を張る気にはなれない。
「少なくとも、長州とかの間諜ではないわ。
 ・・・女で刀を持っていて、此処を探ってるなんて『怪しいです』って看板をあげているようなものでしょう?」
「使えるのかな?」
「使えない刀は、ただの鉄屑、ガラクタ。
 少なくとも・・・そうね、近藤さんと土方さん、斉藤さん以外でしたらこれ以上の傷を負わずに勝てるわ。
 三人に勝てないのは、技術よりも心の迷いせい。」
はっきりとした断言。
少なくとも、言いはしないが、これ以上の怪我を負うことを厭わなければ、全員に勝てる。
正確に言えば、違うけど、だけど、同じこと。
近しい人に似ていたか、その技の性質ゆえに勝ちにいくのだ。
次の瞬間、はらり、と一筋二筋、髪が斬られ落ちる。
動いていれば、咽喉が切り裂かれていただろう。
いい動きだ、そしてそれだけに残念でならない。
「話さないなら斬るよ。」
「その前に、腸を抉り出すことくらいできるわ、沖田総司。」
刀が咽元に添えられているのに、眉ひとつ動かささずに、私は返す。
殺すなら、相打ちを覚悟しろ、と。
もしくは、ただでは殺されないぞ、と。
少なくとも、斬られるのと同時に、狙う所を狙われれば、相打ちになる、その部屋にいた面々に思ってもらえればいいんだけど。
それで、事態は硬直した。
一分ニ分、三分。
その静寂を破壊したのは、知り合いの声。
「聖ちゃん、相変わらずねぇ。
情報をお仕事にすると、言葉選んじゃうのは職業病じゃないの?」
私の後ろに立ったのは、長身の原田よりもさらに少々、背の高い男性である。
やや不自然なぐらいの桃色みのある赤毛に、眼帯、派手な着物に公家に近い言葉・・・ようは女言葉。
顔を見なくても、誰かは解かる。
甲高くは無いけれど、作った女声の時点で。
「・・・裏の語部のお使い?」
「そう、ややこしい手順を踏んで最大限の効果の為に、二年後の風舞姫ちゃんからのお願いってエイレンちゃんに頼まれたの。」
「・・・もう少しマトモナ格好できなかったの?」
「何処がまともじゃないのよぅ。」
「婆娑羅者としても酷いと思うわ。」
「風舞姫ちゃんが来るよりマシでしょう?」
それは否定しないが、それでも酷いと思う。
他に口を挟ませないように、だけれど、情報を渡すように私は言葉を続ける。
「それで、用件は?」
「此処の人達が、聖ちゃんを受け入れなっかたら、この時代の風舞姫ちゃん・・・正確には、この時代のは、男性だけど・・・氷雨のトコまで連れて行こうかしら、って」
「・・・御伽噺に巻き込まれるのは、ごめんよ、久遠。」
「大丈夫よぅ、今代歌乙女ちゃんは本筋からはぐれているのよ。
まぁ、寿命は男だから多少外れてて四十路に死ぬけど、今は問題ないでしょ?」
「・・・新しい詩歌を作る方の羅刹の新撰組まで知っている私を殺す殺さないは投げといて、手放すのはありえないと思うけど?
 《チャイルドクラン》が、《ジェム・ブラッド》の保持者を見つけて捕獲しないよりもね。」
「あら、聖ちゃんを殺そうって言うなら、本筋は関係ないわ。
 ちゃんと塵殺し(みなごろし)してあげる、うふふ、わくわくしちゃう。」
ゆるく殺気を広げながら、そう言っても、挑発しているようにしか見えないよ。
というか、バトルジャンキーを交渉役にしないで欲しい。
「・・・久遠、エイレンからも言われてないのかしら。
 歴史に干渉するなって。」
「そんなモノ知るか、阿呆、ってかえすわ。
 エイレンちゃんが身内に入れてる貴方を見殺しにするぐらいだったら、歴史なんてクソ食らえ、よう?」
「君達、僕らを虚仮にしてるの?」
「してないわよう、聖ちゃんなら、その身体でものどを切り裂かれても、そうそう死ねないし・・・そうなってから此処に居るのを塵殺しして処置しても助かるわ。」
繰り返すが、私は沖田総司に刀を突きつけられている。
あと1センチでも刀を動かされれば、楽しい状況にはならない。
一応、久遠との会話のフリをして色々と知っていることを示す。
・・・だけど、久遠。
なんで、そう思考がイケイケなのかな。
わかるけど、解からないでもないけど、一応、此処は私たちが居るべき場所ではないんだよ。
「・・・はて、膠着しておりますなぁ。
 久遠はん、やんちゃしたらあきまへん。
 永聖はん、どないしたらええですやろ?」
そんな呑気な声まで聞こえてきた。
嗚呼、秋だけどまだまだ熱いね、うん。
現実逃避?もう季節と土地柄寒いんじゃないかって?
それぐらいさせて欲しい。





先ほど来たのは、蓮雀氷雨(れんじゃく・ひさめ)である。
私の布団に並ぶように、戸惑いは、近藤さん達と相対するように正座しているのは縹藍の着流しに若草色の羽織姿の青みのある黒髪を三つ編みにした二十後半の青年。
ついでに言うなら、これで二児の父である。
眼鏡をかけ、掴みどころの無い雰囲気で、暗い紫のちりめん生地の刀袋に太刀脇差一振りづつ抱え、庭に現れた。
その後、『人外はんとは言え、おなごに刀を向けはるとは、天下の新撰組も落ちましたなぁ』と、この部屋にあがり、沖田くんの手首を掴んで刀をどけさせた。
・・・一応、此処、八木邸は今の新撰組の屯所だし、多分この部屋、かなりの奥の離れ・・・前川邸より離れてるとは言え・・・裏に回るなら、まずい位置な筈。
私や≪歌乙女≫のような不自然な存在は、元からこの世界に在る同じ不自然な存在を騒がせやすい。
だけど、表側から入ったはない、出入りではあっても、此処まで通してはくれないだろうから・・・。
それに、裏口は裏口でまずい・・・。
「塀でも乗り越えたの?」
「そうですわ。
 若い頃に比べてほんに無理きかんようになってきていますけど、ちいと頑張りましたん。」
はんなりと、京言葉はあの風舞姫としては違和感あるけど、不思議とこの青年には似合うそんな口調だ。
氷雨は、向き直り、刀を脇におき、頭を下げこう挨拶する。
「どうも、私は薬屋の朱雀・参代目、蓮雀氷雨と言いますぅ。
 いつもご贔屓にしてくださってはるようでおおきに、ありがとうございます。
 本日は、ちいと、薬屋の氷雨、としてやなくてこちらのお姫(ひい)さんの知り合いとして来さしていただきましたん。
 ・・・そうは言いましても、私は補足と言うか、永聖はんの言葉の裏付け、という位置付けになりますなぁ。」
「話さなくちゃいけないこと。
・・・弟が話してるのだから・・・・・・話す気はないわ。」
私は、口を引き結ぶ。
これ以上は話さない、という意志表示だ。
気配だけでそれを察したのか、私の後ろに胡座をかいていた久遠が、口を開く。
「やっぱり、エイレンちゃんの言うとおりね。
 ・・・私は、月森久遠、エイレンちゃんの剣よ。
 とりあえず、必要なことってご主人様が判断したことを話させる為にいるんだけど・・・。
 ・・・ごめんね、聖ちゃん。
 上の人の気配、もう少しよく探ってみて。」
促されて、少し眉根がよるのを自覚しつつ、上・・・天井裏に居る人の気配を探る。
男性で・・・・・・あれ、なんで。
ウソ、ウソでしょ。
懐かしいとも言っていいそんな気配だった。
だけど、ありえない、ありえない。
もう、ずっと前に亡くしたのに。
「なんで烝くん・・・!?
・・・なんで、うそ、生きていた・・・なんで・・」
私はそう呟いていた。
あの時に拘流に飲み込まれたのに、なんで。
なんで、生きているの、あの時は百三十年前はなにもわからなかったのに、なんで、どうして。
もう二度と会えないって思っていたのに、生きていた。
思わず、涙が零れそうになる。
だけど、ふわりと、具現化した聖弥が私の眼を覆ってくれた。
見えないけど、多分、いつも通りの藍地に流水模様の着流しなんだろう。
「・・・久遠さん、後から殺すよ、まったく。
 姉さん泣かせたんだから、わかっているよね?」
「うふふ~、ごめんなさいね。
 でも、エイレンちゃんの意思だもの。
 直接此処に関われなかったこの時代の彼を隠して、一心さんが隠れた後、色々考えて柔らかくなった聖ちゃんがこの時代に来ることはね。」
「それは、否定しないけど、姉さんが気付いてないのに、兄さんのことわざわざ言う!?」
「言うわよう。
 貴方が、聖ちゃんの刀であるように、私はエイレンちゃんの刀だもの。
 それにあの娘キチの萩行のアフターサービスよ?」
「あのなぁ、」
「ちょっと待て、本当に山崎とその女は知り合いなのか?」
土方の問いに、言い合っていた久遠と聖弥は、言葉を一旦止め、少し考えてからそれぞれ答える。
受け売りと自身の記憶と言う違いは合ったが、答えは同じ。
「エイレンちゃんから聞いた話だとね。
 昔のエイレンちゃんが、少しだけ接触したらしいから、聖ちゃんと同じ見たい。」
「うん、血は繋がってないけど、便宜的に言えば俺の兄だよ。
 姉さんの義理の弟。」

















+後書き

予定の半分しか終らなかったよ。
一応、区切りついたのでアップ。

何時か呟いていたように、山崎烝は、小鳥遊聖嬢の義弟になりました。
彼を最終的に、原作沿いにするかはなげますが、大好きなので。




では、次の物語にて。











蒼穹+それでも、私達は居た+ 序盤予告

2011-09-05 18:10:22 | 薄桜鬼 二次
 


「連れて帰れ。」
そうして、再び、或いは雪村千鶴にとってはそこから物語は交わった。

「図書館(ライブラリィ)より、或いは、物語達の深淵より此処に我は到る。」
青く輝く髪の女性の来訪。

「それにしても、聖さんの幸せアレルギ―相変わらずだね。
 ≪結び目≫ががちがちだもの。」
瞳を赫く染め、女性は幻視する。
新選組にかけられた記憶の楔の≪結び目≫を

「む、あざみ殿?」
「本当だねぇ、慎の知り合いのあざみちゃんだ。」
未来にて結んだ過去の縁。

「言っておくが、私は人体実験の類が大嫌いだ。
 結果的にとはいえ、特に羅刹はな。」
女性の過去ゆえの忌避。

「姉さん、時間無いのに、無駄話してていいの?」
「そうだね、だけど、時間稼ぎだろう、ママ?」
画面外からの問いかけ。
何故、彼女には時間が無いのか?

「沖田さんと斎藤さんが行方不明になぁた時に言うた約束果たしに来ましたえ、土方さん?」
京の薬屋・蓮雀氷雨が訪れる。

「何故、貴女がここに居るの?」
「最初から、ある程度は予想していたみたいだぜ?」
「本当、悪趣味ね。」
「性格のいい裏稼業なんざ、無能の証明だよ。」
「そうやな、裏側まで善人なんてありえんわ。」
四人の会話。
そのうち、二人は同一人物で、一人は完膚なまでに呆れ果てている。

「本当に、ささやかな幸せの為に私はここに居るだけよ。」
「ささやかな?」
「そう、家族とお茶を飲んで談笑できる程度のね。
 正確には、愛しい人とかしらね。」
愛おしそうに女性は言う。
かけがえの無いものだから。

「どの道このみち、そこの女の子も新選組には欠かせないわよ?
 雪村綱道の娘だし?」
「・・・それに、(私の曽々々祖母さんなんだよなぁ。)」
雪村千鶴にまつわる抑止の言葉。
慎の言葉は胸に飲み込まれる、

「さてな、世界が歪もうと三人集まりゃどうにかなんじゃね?
 オレ達≪歌乙女≫、原初の魔法使いクラスがどうにかすりゃな。」
一番組の新人隊士である少年がそう言った。

「・・・ともかく、その封印を解けば、欠落した一ヶ月の記憶が戻るわ。
 斎藤さんと沖田さん、その二人だけの感触だけど、解かないとマズイレベルよ、聖さん。
 いつかは、二年以内にクルクルパーになる可能性は、私たちの理に抵触するので無くて?」
同じく物語を流浪(さすら)う者同士の感想。

「さて、氷雨さんとこたちゃんは、祝詞よろしく。
 結局、時間を越えるなら力を借りなきゃいけないのよね。
 それに、芹沢さんの縁の橘弟媛からのお願いでもあるし。」
「ん、了解。」
「ほな、行きましょか。」
在り得るはずも無い三人の≪歌乙女≫の共演。

「ふん、いい男だったよ、芹沢鴨は。
 若返っていたし、此処に居た時よりも数段剣呑な目的を持っていたけれどね。
 たぶん、そっちが知っている彼とは、同一人物で同一人物ではないわ。」
橘弟媛-芹沢鴨の妻の実家の祭神らしい。
青銀の髪の女性は、過去の彼と少し縁があったらしい。



「さてね、聖さん。
 Good luck、You may free from control。」
その言葉と共に女性は掻き消えた。
-『幸運を。貴女は管理から自由になってもいい』と祝福を残して。








一話分というよりは、序盤の千鶴ちゃん居候決定まであたり数話分の予告。
あえて、原作サイド、新選組サイドの台詞は極力削ってあります。
正確に言うなら、青く輝く髪の女性以外の台詞をですが。
正直言って、設定上の関係か、青く輝く髪の女性・ディスティアは、新撰組は嫌いです。
物語上繋がってる演出で、薄桜鬼の羅刹が、≪クラン≫とかに技術が受け継がれていますので、仕方ないといえば、仕方ない。
とりあえず、『黎明』二本の一話めそれぞれあげたら、多分これも。
今現在鋭意奮闘中。


後、ディスティアが芹沢鴨と知り合い云々言ってますが、似て非なる同一人物の芹沢鴨と知り合いであって、薄桜鬼の熊みたいな芹沢鴨との面識はありません。
いや、だって、かっこ良かったんだもん、妖異暗躍譚の芹沢鴨。
ディスティアは、理を崩すような願いの為に色々世界を回っていますので、その中で、です。

ちなみに、薄桜鬼二次長編は、黎明二本(原作本編前)→蒼穹一本(原作本編)→黄昏二本(ED後のお話)になります。
黎明と蒼穹は半分は同時進行でいけたらいいなぁと。



とあれ、本編にて出会いましょう。





黎明 +出逢って別れるだけならば、・・・+ 第壱抄

2011-05-16 17:36:25 | 薄桜鬼 二次

私は、今の生活で満足していた。
茉里歌の成長を楽しみにして。
情報屋の仕事にせいを出して、
タメの静雄や臨也とつるんで。
仕事相手との交渉でドンパチやって。
新羅達の惚気話を聞いて。
門田達とちょっと酒呑んで。
あの二人の遺影を時たま眺めて。
そんな生活で良かったのに。
・・・どうして、日常って崩れちゃうんだろうね、本当。



黎明 +出逢って別れるだけならば、・・・+
               第壱抄 幕末からの異邦人(ストレンジャー)



どさり、と音を立てて、床に落ちる買い物袋。
持っていた人物・・・緑みの強くクセの無い黒長髪をゆるくまとめたパンツスーツに咥え煙草の女性は、明らかに、眉をひそめた。
ひそめた形良い眉の下にある瞳は、日本人にしては赤みの強い茶色をしている。
あくまで瞳に浮かぶ表情は冷静な色。
ちなみに、そんな彼女が眉をひそめたのは明らかに、タマゴが割れた音がしたからで。
それを思案する前に、直後に頬に痛みが走った為、現れることは無かった。
痛みというには、まだその前ではあったがそれでも、熱をもってそれは頬にあてられた。
なんとも言えない冷汗を女性は背中に感じていたが、動揺を顔には出さずに前方の闇に目を凝らす。
真正面を通る廊下、そして部屋からベランダに出る窓を薄いカーテンで覆っている為、やや薄いが暗闇が広がっている。
闇になれてきたのと玄関から差す明かりが、女性の頬にあてられている物体を照らす。
それは、淡く光を放ち返すもので、長く細身の刃物・・・女性が見知っている物で言うならば、長ドスに鍔がついたような・・・そう
ヤシマ刀のようなもの。
いや、この世界で言うならば、日本刀のようなものである。
しかし、彼女にはヤシマ刀と呼んだ方がよほど馴染む。
彼女が親しんだあの世界ではそう呼ばれていたのだから。
「慎?」
玄関に佇んだまま動こうとしない神楽を怪訝な顔で覗き込んだのは、バーテン服で金髪なこの街で一番名前負けしている平和島静雄。
壁に手をつくことで留める、慎と呼ばれた女性。
眼を逸らさずに、言葉を発さずに、静雄を止める。
その行動にもう一度、静雄が問い掛けるよりも早く、前方から響く声があった。
「君達、誰?」
言葉自体は、軽い。
幼児が、「これなーに?」と聞くほどに軽い問い掛けだ。
しかし、それが故に声色に潜む殺気が際立って印象につく。
眉をひそめ、徐々に怒りを溜めていく静雄に対し、静かに声のしたほうをみやる慎の首には研ぎ澄まされた刀剣の切っ先が宛がわれている。
あと数ミリ進められれば、この世とサヨナラできる体勢だ。
その体勢のまま、慎は頭脳をフル回転させ状況を整理する。
まず、第一に自分たちは何に襲われているか。
順当に考えれば、目的は金か情報かは投げておいて、強盗だろう。
しかし、それならば、部屋へと足を踏み入れた時点で殺されるか、慎が『カイ』であることを見抜かれていなくてはいけない。
それに、声を発したのは一人ではあるけれど、気配から察するには二人。
眼を凝らして、前を見つめれば先ほど声を発していたと思われる男が切っ先を向けているのだと理解する。
そして、そのすぐ後ろには腰にある恐らくは刀の柄に手を掛け静観する男の姿が見えた。
恐らくは、居合だろう。
慎のこちらでの師匠クラスの腕前なのがわかる。
母方の伯母並の腕前なんて、この時代に居る筈無いと思っていたのに。
いや、左利きで居合いの名手なんてムサシ以外で出会うことは無いはずなのに。
相手二人が獲物を持っているのに対して、慎が腕時計型のワイヤーウィップをもっているぐらいでほぼ無手の慎と静雄。
ワイヤーウィップを引き出す前に腕ごと切り落とされるだろう。
いくら、人並みはずれた怪力の静雄であろうと刀を持つ相手にはその場へと踏み止まるほかに無く、また、部屋に幾つか武器はあるがそれを出すことは出来ない。
それとこの状況を打破する方法はあるが、慎はそれを選ばなかった。
静雄に拒絶されるかも知れないという恐怖から。
臨也や新羅にはとうの昔にバレてはいるが、どうしてか、静雄には話せないのだ。
「一つ、いいかな。
アンタ達は、強盗?」
それに解からなければ聞けばいい。
武器を向けられてはいるが、始末しようというならば、既に斬られている。
慎にただで切られる趣味は無いから、相討ち覚悟で、手首ぐらいはワイヤーで切断してやろうとは思う。
だけども、行動を起こしていないのなら、話は通じるのかも知れない。
そう、咄嗟に判断して口を開けば、僅かな沈黙の後に返答が還って来る。
「物取りなんかをするつもりなら君がそうやって訊ねる前に斬り捨ててるよ。」
くつくつと楽しそうな笑いを洩らす相手の言葉を考えれば、つまりは強盗の類いではないのだろう。
・・・とは言っても、見ず知らずの侵入者の話を信用するというのもおかしい話ではあるが。
半歩後ろに居る静雄へと視線を向ければ、額と言わず顔のそこかしこに青筋を浮かべ、今にでも乗り込んでいきそうな勢いで睨みつけている。
一応、止められたこともあり、やや自重しているのだろう。
前方へと視線を戻せば、刀剣の切っ先は慎に向けられている。
その事実に溜息どころか、肩を落としたくなるのを慎は必死に抑え、とにかく目の前にいる相手の姿をはっきりと認識せぬばと、玄関の照明スイッチに手を伸ばす。
ついでに、靴箱の上の灰皿に随分と短くなった煙草を押し付ける。
「下手に動くと君を殺さなくちゃいけなくなるよ?」
「悪いね、電気をつけるだけだ。」
忠告とも、本気とも取れる言葉にそう返すと目の前の男は僅かに首を傾げる。
それでなんとなく、詳細はともかく、慎は彼らが異邪人であることに思い至った。
同じ日本人であるにしても。
正確に言うならば、曽々々祖父一蘭木慎は、公式には残せない彼の来孫にあたるのだーが残した日記の人物にどこか印象がダブる。
また、自分がミッドガルドへ飛んだ時の自分とムサシ達のようなそんな空気を感じていた。
つまりは、命のやり取りが日常的なサムライに。
「生憎と、アンタ達みたいに夜目が聞くわけじゃないんだ。
 灯りの一つも無いとよく見えないんだよ。」
内心を隠し、慎はその言葉とともに、照明のスイッチを入れる。
二つの意図を以って。
玄関を照らす照明の下、視線の先にいたのは、急に着いた照明と慎の顔に驚きを隠せずと言った青年二人。
慎とそう変わらない年齢だろう。
やや若いぐらいだ。
刀を突きつけているほうが、焦げ茶の髪に翡翠色の瞳。
後ろに居るのが、黒に近い藍の髪に、淡藍の瞳。
それぞれ、二十歳かそこらの年齢だろう。
「おい、慎・・・こいつらの格好。」
小さく呟かれた言葉に促されずとも、二人の装いは、慎の予想をある程度裏づけていた。
和装に、揃いの浅葱色のダンダラ羽織。
ヤシマ刀・・・ではなく、日本刀は突きつけられていたし、他に脇差も見える。
少なくとも、今の日本では、京都のなんちゃって仮装屋か、日光江戸村でしか見ない。
和装だけなら、ともかく、その羽織まで含めるならば。
「・・・ねぇ、もう一度聞くけど、君・・・誰?
 土方さんに似ているけど、親戚?」
すっと細められた瞳には、未だに強い殺気が込められていた。
しかし、強盗でないなら、多少は強行手段に出ても問題ないだろう。
そう思い、実行に移そうとした彼女の頭には今の状況とはまったく、掛け離れた別のことが思い浮かんでいた。
まぁ、一種の現実逃避だろう。
「・・・なぁ、静雄。
 今日って、木曜の3日だっけ?」
小さく呟かれた言葉に、首を傾げつつ、静雄は肯定した。
何か、あったのだろう。
「つまりは、明日は金曜で4日ってことだよな。」
確かめるようなその物言いに静雄は、頷き再び肯定した。
途端、慎は頭を抱えてその場へとしゃがみこむ。
世界の終焉や、神の死亡を知った聖職者も画やと言うような苦悩具合だ。
「お、おい・・・慎?」
彼女の肩に、手を掛けようとした直前にそれまで向けられる事が無かった切っ先が静雄の首元に宛がわれる。
名前のように平和には暮らせず、頭に血が上りやすいとは言えだ。
日本刀に太刀打ちできないことぐらいはわかる。
「ちょっと、質問に答えてくれない?」
口元には笑みを浮かべてそう言う相手。
しかし、その瞳は笑っていない。
キリ、と静雄が奥歯を噛み締めると同時に、しゃがみこんだ慎が声を発した。
「とりあいず、不法侵入で刀を振り回した不作法者で、自分の名前を名乗る前に名乗れなんていう大馬鹿者に名乗る名前は無い。
 相手の名前を聞く時は、自分から名乗れって母ちゃんから言われなかったか?
 そんでもって、私は大学のレポートと仕事の報告書の締め切り迫ってんだ。
 静雄を誘っても、報告書がなければ、どうにかなったのに、ちくしょう、忘れて居たったぜ。
 とにかく、早くパソコンを立ち上げなきゃならねえの。
 それから、たっぷりと話でも何で聞いてやる、私は恐らくなんでお前等が此処に居るのか知っている。
 とにかく、レポートを書かせろ、大戯け者。」
息継ぎをろくにせず、一息に淡々と吐き出された言葉に呆然と慎を見詰める男二人と静雄。
音量以上の小波のような迫力におしきられたからでもある。
しばらく後、静雄に向けられた切っ先は僅かとは言え、下を指す。
ふらりと立ち上がり、静雄の手を取り部屋へと脚を伸ばそうとする慎にそれまで黙りきりだった二人目が口を開いた。
「俺達がみすみすあんた達を見逃すとでも。」
「女を斬るほど、クズじゃないだろうが、お前等。」
「は?嘘でしょ」
「私は女だよ、少なくとも生まれてから今までずっとな。」
依然、腰の得物に左手をかけたまま問われ、慎は憮然と言葉を返す。
そして、女であることを示すと、一人目の男から驚愕の声が上がる。
二人目も、僅かに眼を見開き、驚きを示した。
確かに、慎は背が高い。
刀を向けてきた青年とそう変わらない・・・正確には、少し高い170センチを少し超える辺りの身長。
また、やや大きめのダークスーツに身を包めば、胸は防刃ベストを兼ねたナベベストで解からなくなる程度にささやかな形良い胸。
護身術を含めて、剣術体術をしてきた為、そこそこ筋肉もある。
あまり、女性らしいともいえない。
裸体になればまた違うのだろうけど、服装も手伝い女性らしい柔らかさに薄いのだ。
手足がひょろりとした印象の青年と言った所である。
その二人の反応に、慎は盛大な溜息をついた。
「私の考えが正しければ、お前等に有用な情報を渡せる。
 一応、全くお前等を知らないわけじゃない。
 それに、物腰からしてコスプレじゃあるまいし、どうせあの男の仕業だろう。
 今後の行動を起こすにしても、一先ず私に、レポートを書かせてくれ。」
「根拠は。」
低く呟かれたその言葉に慎は、二人が共通して羽織る浅葱色のそれに視線を向ける。
自身にとっても決して縁は無いわけではないそれに。
「裏づけがない以上、稼業の仁義として何も言う気は無い。
 無いけれど、私はその羽織を知っている。」
つい、先日。友人から勧められた雑誌にそれはあった。
或いは前のGWに伯母の家に帰った時に虫干ししたそれに似ている。
また、或いは時代劇で幕末を扱うならば、主役端役は投げおいて、必ず扱われ、見かける羽織だ。
――――即ち、新選組。
そう、彼らのまとうそれは、幕末の京に江戸を闊歩した集団を表す羽織。
慎にとっては、ある意味で、馴染みあるそれだった。
(ああ、嫌なもんだよ。)
混乱した胸中を悟られないようにし、新しい煙草に慎は火をつけた。
「悪いが、そこに座っててくれれば助かる。
 静雄は、私のベットを使え、明日もそれなりに早いんだろ?
 呑むなんて雰囲気じゃなくなったかr・・・あん?シーツは変えたばっかだよ、いちいち初心い真似するほどの仲でもねぇだろうが。
 クソ蟲にあってけたくそ悪いからってそんなに夜更かしできないんじゃないか?
 ああ、枕元の長物、廊下出しといてくれ。」
後に付いてきた二人に、ソファーを勧め。
その流れで渋る静雄を自室へと押し込めた。
自身は、割れた卵を含め、1パック分を全て割り、調味して冷蔵庫に入れる。
ついでに、炊飯器に六合を朝の六時に炊き上がるようにセットした。
慎は、分かっていた。
静雄が何故渋ったのか。
自分の心配をしているのが解かるからこそ、慎も気遣って部屋に押し込めた。
どちらかといえば、この状況は慎の領分であるが、それ以上に心配だったから。
グレーに居ようと彼は、カタギなのだし、幼馴染みだ、怪我をして気分が良いわけではない。
幾ら、刀向けられる事が無くなったとはいえ、未だに二人の警戒は解けていない、その状態だからこそ、静雄を遠ざけた。
居なかったら居なかったで、万が一の場合は、シャードに眠るルヴィにも手を貸してもらえる。
炊飯器のセットまで終えると、スーツの上着を脱ぎ、台所のスツールに適当に置く。
ついで、廊下に出されていた自身の相棒を手にとり、二人に投げ渡す。
抜かずとも業物と解かり、そして、慎の友であるとわかるだろう。
使い込まれているのだから。
銘は、『陽炎』。
刃文が、薄紅くぼんやりと立ち上がって見えるから、だと聞いた。
かつての師匠で相棒で、そして大切な人だったムサシから貰った業物だ。
もう一本の『蒼鶴』と小太刀の『鳴神』は、慎はたまの手入れ以外、押入れに仕舞いっぱなしではあるが、これ一本で此処を生き抜くなら充分だ。
「私の相棒だ。
 今夜は預けるから、大人しくしててくれ。」
「君って、馬鹿?」
「馬鹿、ねぇ。
 信頼と取ってくれないかな。
 お前達の武士の魂・・・言うのと違うけど、私の相棒には違いないんだから。」
「・・・・・・」
実際、その刀が無くとも、相打ち程度ならば持っていける。
右腕にある群青色の立方体の石・・・シャードが填まった腕輪もある、ルヴィもいるのだ。
負ける道理などない。
それはそれとして、時間的にかなりまずい。
レポートはいい。
明日の朝までが締め切りだったのだし、静雄と呑んでからでも、少し締めを書くだけで終る。
しかし、稼業の情報屋として報告書は、明後日締め切り・・・受け渡し日だと思っていたそれは、粟楠会の赤木に渡す物なのだ。
戦えば、勝てる。
勝てるが、それでもそう言う練習を敵に回して、茉里歌が無事とは限らない。
むしろ、人質として利用してくるだろう。
父方の叔母の由布子も昔は、色々とやんちゃをしていたが、今は一般人であることだし。
いらぬ種を撒かないほうがいい。
室温にうんざりしつつ、エアコンを入れ、パソコンを起動する慎。
背後から感じる刺すような視線のせいか、あまり暑くは無いが、それでも、『いつも』は大切だと、慎は思うのだ。
USBを差し込み、デスクトップからワードを開き、書きかけの文章を開く。
もう、まとめと締めを書けばいい段階だ。
あと二十分もあれば、終わるだろう。
数行書いては保存していく。
案の定、すぐにそれは終わった。
日付を入れて、大学の課題提出用のページを開いて、送信する。
念のために、2度・・・担当の教授が恐い人なのだ。
多少、単位には余裕があるが、一度留年して、一年休学しているのだ。
せめて、今年は卒業したいーこの時はそう思っていた。
とあれ、次の報告書に取り掛かる。
別のUSBを差し込み、ネットプラウザをいくつも開く。
依頼された内容を順序立てて、纏めていくのだが、そこに、慎の意思は存在しない。
あくまでも≪カイ≫としての報告書だ。
それに、得た情報から類推できる情報は極力避ける。
しばらく作業を続けていれば不意にデスクトップがスクリーンセイバーになっていたのに、気づく。
慌てて、傍に置いてあった置時計を見れば、時刻は既に午前五時近くを指していた。
最後の日付が打ち込まれた状態でそのままになっていた。
慎は胸を撫で下ろし、印刷機にそれを掛ける。
もちろん、印刷機はありきたり一量販店で店員にパソコンと一緒に薦められるようなーなもので、紙もインクもお徳用のなんちゃら、封筒も同様に。
真新しいUSBも取り出しておく。
それらは足がつかないように、そんなありきたりな代物である。
紙を足そうとして、彼女はやっと気づいた。
台所のスツールにかけてあったジャケットが肩にかかっている。
「おや、かけてくれたのか?」
振り返り、ソファーの傍に佇む青年に聞けば、浅く頷き返された。
その直ぐ傍らでは慎に刀を向けた青年が床に胡座をかき、刀を抱き枕にして寝入っているのが見える。
おそらく、交代で番をしていたのだろう、と結論付け、椅子を完全に向き直らせた。
にっこと、とだけれど、男にしかできないような男前さで笑みを浮かべ、慎はこう尋ねる。
「それじゃ、自己紹介。
 私は、蘭に木、慎重の慎で、蘭木慎(あららぎ・まこと)。
 さっきのは、ダチの平和島静雄。
 お前達の名前、聞かせてくれない?」
視線で促せば、僅かの逡巡。
そして、躊躇いの後に紡がれる名前。
「斉藤一。」
「・・・斉藤くん、ね。
 そっちのは?」
「・・・沖田、総司だ。」
斉藤くんに、沖田くんか、と教えられた名前を覚えるように口に出し覚えるかのように呟く。
それに、斉藤は訝しげに、眉根を寄せ首を傾げた。
その仕草に苦笑を浮かべ、そして、羽織を見てからずっと頭にあった組織名を口に出す。
「二人は、新選組の隊士、違う?」
その名前を聞いた途端、僅かに目を見開く斉藤。
慎は、沈黙こそ肯定、と言わんばかりに満足したようにうなづいた。
「・・・何故、俺達のことを知っている。」
腰の刀に手をかけつつ、そう聞くのは斉藤のその眼は射抜けそうなほどに鋭い。
沖田が数時間前に向けたソレと同じだった。
肩を竦め、嘆息する慎に先を視線で促す斉藤。
「話せる事は少ないとは言え、全て話すとものすごく長くなる。
今は、時間も無いし、私の流儀に反するけど、結論から言おう。
・・・私の経験知識からするに、此処はお前達が生きていただろう幕末より100年と50年先ほど未来だ。
お前達が生きていたのが正確に何年なのか、日本史の時間寝ていた私に聞かれても困る。
調べないと解からないが、大体それくらいのはずだ。
黒船が来てから三十年ほどはバタバタしていたらしいからな、大体それくらい。」
あっさりと告げられた言葉は如何に衝撃を与えたのか、慎には痛いほどに解かる。
自身の常識が打ち砕かれるのだ。
それは、過去と未来、或いは異世界間であろうと、どれだけ違うと言うのだろうか。
慎は、じっと見つめてくる斉藤の瞳から視線を外さずに見つめ返す。
彼の瞳には疑心と戸惑い、そして僅かな憂いがふくまれているように見える。
しばらくそうした後に和らぐ表情に驚いたのか、瞬き一つ。
伏せられた睫毛は微かに震えていた。
叱られた子どもが、泣きそうで、でも泣けないそんな雰囲気のようで。
娘がいる身としては、つい放っておけず慎は、手を伸ばしそっと撫でる。
「・・・ああと、悪い。
 つい、な・・・」
「構わぬ。」
緩く首を振り、じっと慎を見つめる瞳にはすでに先程のような迷いは無い。
上手く隠したのかもしれないし、そうではないのかもしれない。
慎は前者かもしれないと思った。
ムサシも、そうだったし、サムライと言うのは、そういう生き物なのかもしれない。
真実は、彼女にはわからなかったし、斉藤としても悟らせるつもりは無いと思われた。
「ともかく、このままって訳にもいかないしね。
 私もあの時はただ受動的に経験しただけだし、知り合いなんかのツテを辿って調べてみる。
 お前等だって、そうそう私の言葉を信用すらできないだろ?
 私自身、とある経験が無ければ、そういう確信はない。」
「・・・副長、土方さんに似ているのは?」
「うーん、それは後で、だ。
 沖田くんも目を開けてる時にね。
 ふ、あー・・・ねむ、」
そう、息を吐き告げると同時に欠伸を一つ。
置時計は既に六時過ぎを示していた。
「・・・と、そろそろ、静雄を起こさないとまずいな。
斉藤くん、私は大学に行かなきゃダメだし、今後の事を沖田くんと話しておけ。
 うちを開けるから此処を好きに使っていい。
 夜にでもそっちの考え、聞かせてくれればありがたい。」
そう言って、台所の魚焼き機に鮭の粕漬けを4切れセットして、換気扇をつける。
動作も、言動も、一切合財が女性特有の柔らかさが無いが、どこかその面倒見よさがそれに繋がるような不思議な慎を斉藤は静かに見守っていた。
慎がドアを開けると、彼はもう起きていた。
「・・・静雄、起きろって・・・やっぱり聞いていたんだな。」
唇の端を微かに吊り上げ、目を細める慎に、静雄はバツが悪そうに眼を泳がせる。
しかし、すぐに真剣な眼で彼女を見つめた。
「本当なのか?」
「何が?私が行方不明になっていた間に異世界旅行したってこと?
 そういうツテがあるってこと?」
「両方だ。」
「・・・言えないんだ、ってより言いたくない。
 ともかく、聞いてたんなら解るよな。
 私は、テストが終わったらあいつらに調べてみるさ。
 流石に、何年も前に詰め込んだ知識を明確に覚えてられるほどじゃないからね。
・・・最悪、母さんの実家にも連絡しなきゃいけないかもしれなしいな。」
慎と弟・千裟(ちさ)が、まだ小学生の頃に、父・千早と母・美奈津は交通事故でこの世を去っている。
父方の叔母であり、資産家だった旦那の財産をもつ、蘭木由布子が育ててくれた。
叔母が子ども好きで、自分と弟以外にも双子の後見人をしていると言う事も聞いた事がある。
しかし、その叔母であっても、母の生家・風間とは連絡が無いわけではないが、そう仲が良いわけではない状況なのだ。
現当主で、伯父に言わせれば、『今更、そっちと交わってもね。』ということらしい。
それでも、何か記録が残っているかもしれないのだから。
慎に気鬱そうな静雄は、元気付けるように優しく笑いこういった。
「慎がそういうんなら、俺は何も言わねぇ。
お前は、ああいう連中を見捨てられないような性分だしな。
「まぁね。」
「しかし、おばさんの実家に頼らないといけないってのは?」
「・・・昔、あっちのひいじいさまに見せてもらった日記に関係あるような気がするんだわ。
あと、ひいひいじいさまの8ミリも残ってるから、そっちも。
こっちに五代前じいさんのはどうにかなるんだけどね。」
「情報屋、としてのか?」
「・・・・・・ま、ね。」
「そうか。」
その後に、ただし、と続く言葉はソレは、慎の身を案じるもので。
ふうと、息を洩らす静雄に礼を言う。
とりあえず、着替えて洗顔ぐらいはしたいのだ。
その準備をする。
「・・・焦げてねぇか?」
「マズっ。」


その後、超特急で炊いたご飯をおむすび(具は適当にほぐした粕漬け鮭)にして、タマゴを出汁巻き卵にする。
まぁ、そんな光景が繰り広げられるまで後、五分。


一つの追記。
「もちろん、どす。
 知らんのやあたら、とりなしまへん。
沖田たちが、未来へ行った等露知らず。
土方は、一人の男性を問いつめていた。
相対するように正座しているのは縹藍の着流しに若草色の羽織姿で青みのある黒髪を三つ編みにした二十代後半の青年。
眼鏡の奥に隠し事をしているが、笑顔でそれを隠す人物だ。
「・・・戻ってくるんだな。」
「そうどす。
 一人、えらい剣士はん連れて還って来ますわ。
・・・そう、どすなぁ、十一月、十一月終わりまで、やわ
あれが十二月ぐらいのことやろから。」
土方の低い恫喝にも、ころころと笑い、そう断言する。
情報元は明かせない、と断られているが、どう説得するか。
「何が、目的だ。」
「お兄はんの・・・ちゃうわな、お兄さんらののうなってもうた記憶のお姫(ひい)さんの為やわ。
・・幸せになって欲しいんどす、あん人も覚えてないけど、前に助けてもろてん、返な。」
「わかった。
俺から、近藤さんに話しておく。」
「ほな、よろしゅう。
 その剣士はんを新選組に勧誘しに行ったとでも言えばええどっしゃろ、平隊士はんらには。」
そんな会話がされていた。
覚えていない一ヶ月。
もう一度、取り戻させる為の布石なのだろう、沖田と斉藤の失踪は。
そう静かに、眼鏡の青年は、思うのだ。




+後書き+
はい、薄桜鬼の逆トリこと、『黎明 +出遭って別れるだけならば・・・+』1話めです。
一応、デュラララ世界へ、薄桜鬼から沖田さんと斉藤さんが、こんにちは、な序章的なお話です。


慎嬢は、元々割合、ハードな設定でしたが、薄桜鬼と絡ませるにあたって結構設定加えました。
同じ未来人でも、聖嬢と対立できる位置にしたかった、と言うのもあります。
また、この薄桜鬼が絡まるバージョンでは、静雄とは友人です。
異性の友人と言うよりは、まだ、同性の友人的な、幼馴染み二人です。


23歳にして、3歳の子持ちで、刀(など拳銃や徒手)での戦闘に慣れている謎のお姉さんです。
公式・・・史実の彼らの年齢からすれば、二つ三つ年上ですが、お姉さんというより、お兄さんかもしれません。
また、副長・・・土方さんに似ている云々は、記録に残せる範囲内でごまかしが聞く理由がありますので悪しからず。


また、最後の会話メインのは、土方さんとオリキャラの薄桜鬼・・・幕末での会話。
一方その頃、と言う奴です。
もう一つの『黎明』の最初に出演予定ですが、正式に本編で合流いたしますので、その前フリです。


それでは、次の物語で。