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セピア色の想い出。

日々の生活と、其処から生まれる物語の布飾り。

AfterGlow  5

2010-11-15 20:35:49 | 凍結

                                                                               

Middle-10 日常の一幕


詠太郎は、廊下を歩いている。
あの後、箒と特殊能力を駆使して、ジュリ達を別れ、二時間後には、ロ-マ聖王庁にいた。
書類上の直属の上司・パトリシア・フィオルツァとの面会を取り付けてだ。
魔法大戦以前から、ウィザ―ドを聖王庁内で認めてきた女傑だ。
金髪に蒼い瞳は年齢不相応なほどに、大変、美しいがされとて、手を出そう何て言うのは、乾の三十年に満たない人生で、天春市楼ぐらいだろう。
天春市楼と言うのは、乾が所属していた出版社の社長で、魔法大戦で死亡した友人の名前だ。
ちなみに、ではないが、聖王庁内部での、ウィザ―ドの地位は低い。
魔法大戦で、多少認められた感はあるものの、やはり非公式だ。
まぁ、過去の魔女狩りなどという遺恨を考えれば、まだマシなのだろうけれど。
「詠太郎=ワトソンです。
 入ります。」
樫の扉をノックして、乾は入る。
此処での登録名・・・表と裏のエクソシストであった祖父の名字を名乗り、だ。
聖王庁で、ウィザ―ドの地位が低かろうと、ギルバ-ド=J=ワトソンを知っていれば、無下にできない、そういう名前だ。
現・聖王の同輩であったからだ。
彼が還俗しなければ・・・という話が今ですら、ちらほら聞こえる程度には、有能だったのだろう。
「遅かったのね、報告をちょうだい。
 ああ、貴方も、扉の前の衛兵も下がるように。」
「し、しかし。」
「もう一度、言うわ。
 貴方も、衛兵も下がるように。」
執務机に座った女性が、何かの報告にきていた司祭と入り口の衛兵を遠ざけ、人払いをする。
ロ-マ聖王庁第十三枢機卿・パトリシア=スフォルツァ。
『聖王庁のアンゼロット』の異名を貰うような人物、彼女を示すのならば、それで済むだろう。
「ごめんなさいね、先の大戦からぴりぴりしっぱなしで。」
「・・・監視と牽制の意味もあるのでしょう。」
「よね、やっぱり。
 あの狂犬・ミリセント以外に、ウィザ―ドを認めてこなかったせいで、どうしても、他の連中に劣ってるもの。」
「そうですね。
 客観的にみて、対エミュレイタ―戦であっても、うちは他の組織の三割がいいとこですから。」
「ギル小父様のようなのをもう少し認めていたら、違っていたのかもしれないわね。」
つらつらと、会話を流す。
一応、書類上云々と言うのは、詠太郎が、聖王直属であるかだ。
出自の『聖剣帝』と詠われたギルバ-ドが祖父なのは、いい。
しかし、あの≪魔毒の王≫ライアの転生体というのが、かなりマズイ。
もちろん、侵魔の転生体というのは、マズイが、魔王・ライアの、と言うのがまずいのだ。
伝承は語る、シャイマ―ルに比肩しうる長大な力の持ち主であると。
今までは、殺される事が多かった。
ウィザ―ドが、いかに世界結界を護る守手だとは言っても、それでも、魔王の転生体と言うのは、あってはならないのだ。
だから、殺された。
しかし、十五世紀あたりからの『常識の崩壊』故に、世界結界は緩んでいった。
詠太郎が生まれた頃にあった第三の喇叭事件で、それに拍車が掛かった。
世界結界を揺るがす、速度が進むごとに、魔王の転生体を許容していった。
いや、せざる得なかった。
手枷足枷首枷をつけてでも、飼って置くほうが有用だから。
実際、詠太郎の三つ前までは、薬漬けの女漬けの半ば、壊されて飼われていたのだ。
それが、どの組織でも、だ。
聖王庁でも。
世界魔術教会でも。
一条家であったとしても。
もちろん、それが面白いと思うほど、侵魔は穏当ではない。
転生を繰り返させ、時の流れにより禊ぎさせた上で、その楔を揺るがそうとしたのだ。
・・・そのせいで、詠太郎の両親と妹は、死んだ、殺された。
皮肉なことに、今の戦闘力の何割かは、そのせいで覚醒したのだ。
「・・・ということです。
 パトリシアさん、質問宜しいですか?」
「何かしら?」
「・・・千年前に何が在りました?」
「それを私に聞くの?
 張本人を身の内に秘めているのに。」
「その本人が、普段は軽口ばかりの癖して、話さないんですよ。
 今回の事件が、その千年前に収束していくと言っているのに。」
「う-ん、話せないわ。」
詠太郎は、上司に質問する。
そして、帰ってきたのは、想像どおりの言葉。
立場故、と言うのを知っているからだ。
それでも、と、詠太郎は思う。
知りたいのだ。
自分も、転生者の端くれだ。
断片的には、とは行かないほどに思い出していても、あの千年前の出来事がある前までのことだ。
肝心の千年前のあの出来事は、思い出せない。
欠片も、粉一つ分すらも、思い出せないのだ、完膚なまでに。
「・・・そうですか。
 では、失礼します、捜査を続行しなくてはいけないので。」
「よろしくね。
 ああ、この本、『子宮(シェオル)』のおじいちゃんに返しておいて。」
「・・・ええ、はい。」


不自然な頼みごとをされた。
正確には、話せないが故に、話せる人物にツナギを繋いだという状況だろう。
廊下を歩いている詠太郎は、思う。
少なくとも、神学系ではあるが、禁書の類いをわざわざ、持ち出して他人に返しに行かせる以上は。
「オゥ、ボ-イ。
 久し振りだね、まだ、任務は終らないのかね?」
くすんだ銀髪に緋色の瞳の堂々とした体格の聖職者-聖王様ともちょっぴりいい関係とも、噂があるグィ―ド=ボルジアだ。
一応、書類上ではなく、事実上の上司が一緒なので、詠太郎とは、同僚に当たる。
そうは言っても、彼が、対ウィザ―ド政策を任ぜられる幹部なのに対し、詠太郎は特務ではあるモノのエクソシストであるのだが。
「ええ、ちょっと、現地で知れべきれないことが出てきまして、一旦戻ってきたんですよ。」
「ふむ、珍しいじゃないか、ボ-イが慎重になるとは。」
「鉄砲玉のような言い方は止してください、目的が在っただけです。
 それに、ボ-イと言うのは止めてもらえます?
 これでも、26歳で、貴方と十歳しか違わないんですけど?」
「ボ-イは、ボ-イだよ。
 若いからね、特に日本人は、若く見える。」
「・・・・・・・」
「まぁ、それはともかく、終ったら少しは時間空くのだろう?」
「ええ。
猊下も、この仕事終わったら、溜まっている有給を消化するように言われていますが。」
つらつら、と会話をする。
なんでもない日常の会話。
聖王庁内で、数少ないウィザ―ドで在るということと同じ部署である。
それに、グィ―ドは職務に対しては忠実な神の僕であるが、基本的に人好きと言うか世話好きというか、とある一点を除けば、とても、友人として、付き合いやすい。
現に今とて、極東の魔剣使いの青年の例を出し、若いのに生き急ぐな、とか、気を抜くことを覚えなさいとか、そんな説教と言うよりは、叱ってくれるそんな話をしている。
父親、と言うほど離れていないが、自分にもしも歳の離れた兄がいればこんな感じだっただろうか、などと詠太郎は思う。
「・・・それで、スフォルツァ枢機卿から本の返却頼まれているんだけど、用件は?」
「せっかちなのは、早いのと同じぐらい嫌われるよ?」
「グィ―ドさん?」
「ようは、酒でも呑まないかね、と言うことだよ。」
「はいはい、僕が、キノコのバタ―醤油パスタと明太子パスタ、コンキリエのクリ-ムソ-スを作ってでしょ?」
たまに・・・大きな任務をどちらかがこなして還って来た時、二人は酒を呑む。
大抵、グィ―ドが少しいいワインを何本かもって、詠太郎が、パスタやサラダの類いを作ってだ。
それも、此処しばらくは、冥魔のことなどで、少々立てこんでいた。
前にその話が出て二週間以上経っているが、未だに果せないほどには。
「で、どうかね?」
「いいよ
 ・・・そうだね、白のクプラマ-トも、持ってきてくれない?
 リクエスト通りだと、それが良く合いそうなんだよね。」
「わかった。
 それじゃ、終って落ち着いたら連絡が欲しい。」
「りょ-かい。
 では、また。」
グィ―ドの言葉に、応じて、詠太郎は、歩き去る。
いつものように、さっさと、躊躇無い様子で。
しかし、グィ―ドは何かを更に話そうとした。
もしかしたら、これが最後かもしれない、そんな予感がしたのだ。

そう、この生き急いでいる後輩が先に逝ってしまうかも知れない、そんな予感がして。

しかし、グィ―ドは何も言えずに、立ち尽くすことなる。

・・・それが、彼を彼としてみた最後であったのに。





Middle-11 秘されし真実の一端


彼の職場は、書庫。。
≪子宮(シェオル)≫と聖王庁で、ただ言えば、この書庫を指す。
本だけではなく、色んなシロモンがあっても、そこは、書庫。
物品と本には一つの共通点がある。
イノセントが読めば、三ペ―ジと読まぬ内に脳が爛れて死ぬ、いや、ウィザ―ドでも一章と読めないようなそんな本や、材料さえどうにかすれば、死者すら生き残るような本。
或いは、ヒッピ-の親玉みたいなヤツの身体を磔にした際の釘だとか。
そういうシロモンが保存されとる部屋だ。
150センチに満たない小柄な身体を緋色の衣を纏った老人がその部屋の主。
若い頃は、エミュレイタ-相手に、鳴らした聖職者だ。
しかし、彼は、198人いるという枢機卿名簿に、記載されていない。
その彼は、ただ、ヒュ-バ-ドと呼ばれる。
或いは、緋衣の老人と。
極東の情報屋からは、緋衣のおじいちゃんとか。
かつて居た異端のエクソシストからは、ヒュ-じいさんとか。
彼が少々厄介な身体になってからは、もっぱら此処だ。
此処五百年ほどは、此処に居ない時間は、聖王への謁見ぐらいというほどに、彼は此処にいる。
「スフォルツァの嬢ちゃんよ、ワシに話せと促すのかのう。
 ギルのボンの孫に、あの魔王とあの嬢ちゃんの顛末を。」
彼は、いかなる秘儀を用いたのか、千年を生きてしまったウィザ-ドだ。
この聖王庁の千年を見守ってきたともいえる。
こんな身体になったのは、偶然であるが、いつの日か、解らないが、彼が知りえた顛末を話す為には、ちょうどいい。
その為だけに、千年を超えた。
聖王庁に知られれば、異端審問をすっ飛ばして、火刑に処されるようなそんな決意。
だけれど、も、と彼は思う。
異世界での自分に、ある少女はこう言ったと聞く。。
-『情報は、知られるべき人に知られてこそ意味がある。』
それを教えたのは、この世界を構成する幻夢神と同格以上の来訪者であったが。

コンコン、

等間隔に二回、ノックがされる。
入っていいぞい、と、緋衣の彼は許可を出す。
懐かしい音でもあったからだ。
かつての当代一異端のエクソシスト、ギルバ-ドのように妙に丁寧なそんな音だ。
もっとも、彼の場合は、少々騒々しいが丁寧、と言うもの。
入ってきたのは、黒に近い紫の髪をおかっぱ程度に適当に切り、左眼は蒼穹、右目は琥珀の青年だ。
年の頃は、二十代半ばか後半ぐらいか。
特務・・・正確には、異端エクソシストになってから、十年ほどの青年。
復讐の為に、全てを捨てて、この世界に入って、その最中に色んなものを拾って奪われてきた、とヒュ-バ-ドは知っている。
「スフォルツァさんからです。」
「おうおう、お嬢からか。
 連絡はもらっておるぞ、ギルの孫・・・詠太郎じゃったな。」
「・・・ギ、・・・祖父をご存知で?」
「知っとるぞい。
 お前さんの父が、彼奴の愛娘関係でガチンコ勝負したというのものう。」
「そ、そうなんですか。」
この青年が知っている父は、温厚篤実を絵に書いたようなサラリ-マンであろう。
それは間違いではないが、かつて父が、十代だった頃、オカジマ技研に入社する前に、陰陽師として名を馳せていて、天春とも付き合いがあったのだ。
紆余曲折、奥さんと知り合い、かつて、オカジマ技研の現副社長の姉を救った縁で、オカジマ技研に就職して、イノセントとして暮らしていた。
それも、十年ほど前に叩き壊されてしまったが。
「さて、何が聞きたいのかね?
 千年前の悲劇を越え、絶望に死んだ魔王・ライア=アフリクシオンの『転生者』よ。」
感傷的な想いを振り払うかのように、老人は、青年に訊ねる。
千年間、自身が待っていた『存在』にだ。
贖罪の為かもしれない、或いは殺してもらう為かも知れない。
そのどちらであれ、待っていたのである、老人は。
「・・・千年前の秘されし真実を。」




緋衣の老人・ヒュ-バ-ドは、千年前の世界魔術協会(厳密にはその原型)に所属しており、監視役のような形で、背信者会議(これまた、その原型ではあるが)に派遣されていた。
当時の会議の長の名前をクロイツ=ロ-ゼンマリアと言う銀髪の吸血鬼だった。
ある日、幼いイノセントを拾って帰り、その少女が十四歳になったある日に吸血鬼に転化させた。
その少女が、今のジュリ=ロ-ゼンマリアだと言う。
クロイツに近しかったエスメラルダやレオンハルトと共に、実の兄弟のように育ったが、それでも、彼女を疎む存在は皆無ではなかった。
当時は、イノセントや人間のウィザ-ドを低く見る風潮が吸血鬼にはあった。
もちろん、今でもあるが、それは当時の十分の一と言っても、大袈裟ではない。
彼らが、教義で悪魔-異端者だとされたのは、その部分もあるのだろう。
もっとも、真には、侵魔に与した今日の落とし子のような吸血鬼は、同族からでも忌避され、滅殺の対象である。
まぁ、穏やかだった。
一つの幸せの形がそこにあったのだから。
少女の側には、養父がいて、その親戚筋の二人の吸血鬼を兄姉のように慕っていた。
なんでもない、普通の。
少しづつ、少しづつ、重ねていく日々。
時計が人間に比べ壊れていようとも、それでも、キラキラの宝石のような日々だ。
それは、人間だったヒュ-バ-ドが、壊れる直前に見た時も同様で。
強大な魔力を持つ吸血鬼ですら、根っ子では変わらないのではないか、と思わせるほどだった。
千と少し前のこと。
そう、それが壊れた。
ジュリが、一人の人間のウィザ-ドを拾ったから。
ライアス=エンプティセット-彼は、クロイツの客分になった。
五年、季節にして二十季だけ。
ただ、それだけで、その一つの幸せの形は終った。
黒く癖のある髪を背中の中ほどまで伸ばし、黒曜石色の瞳のウィザ-ド。
それが、全ての元凶だった。
彼が、侵魔の王・≪死毒の王≫ライア=アフリクシオンだったのだから。



「じゃけどのぅ、悪モンはおらなんだ。」
「・・・?」
「お主にも、おるじゃろう?
 何にも耐えがたい女性(ひと)がのう。」
「ええ。」
老人は、青年に語る。
誰かが、誰かを思ってする行為に、歪んだ形はあれど、それでも、悪意と言う形はないのだから



詳しい経過は省いておく。
しかし、ジュリがあっちの意味で食われていれば、それは糾弾の材料になったが、それはなかった。
触れるだけのキスやせいぜいが添い寝だ。
だけど、元より、侵魔とウィザ-ド。
油と水のように相容れることはない。
異例中の異例。
それ以降は、半年ほど前に終った魔法大戦が終って以降でなければありえないことで解決しようとした。
当時はまだ存在していた侵魔の頂点・シャイマ-ルとアンゼロットがその件に限り手を組んだ。
つまり、侵魔とウィザ-ドが手を組んだということだ。
食う者と食われる者が、共に、その状況を壊す為だけに手をとったのだ。
術式としては簡単だ。
ウィザ-ドの魔力を触媒にし、その封印の構成式を直結すること。
そして、構成式自体は、簡単に敗れるようにしてあったこと。
しかし、それを破れば、触媒にされたウィザ-ドは死亡するということ。
もちろん、封印を突破してくるだろうという仮定の元、そこをアンゼロットとシャイマ-ルが叩く、そういう作戦だった。
そう、作戦だったのだ。
だけど、彼は、ライアは、無言でそれを受け入れた真実など、誰も知らない、知ろうともしなかった。
・・・しかし、彼がかすかに浮かべた晴れやかな笑顔が全てを物語っていたのだ。
千の動作より、万の言葉よりも、ただ一つのその微笑が、哀しいまでに雄弁に表していた。
―――『あの少女を誰よりも自分自身よりも愛している。』
魔力には、それぞれ、固有の波がある。
自分がこの結界を破れば、相手がどうなるかわかっていたのだろう。
封印結界、その魔力の源は、彼が愛した少女・ジュリだったのだ。
それを知ってか知らずか、ライアは封印-今、彼の居城となっているあの城に送られるのを受け入れた。
しかし、それが完全成される-彼が、封印の城へ送られる直前、それが邪魔された。
シャイマ-ルとアンゼロットの両雄が手ずから編んだ術式だ。
そうそう邪魔は出来ないはずだった。
・・・唯一にして、最大の弱点、つまりは、魔力の供給主-月匣で言うならば、コアにあたる-が、抵抗すれば、別ではある。
別では在るが、それを排する為に、ジュリは眠らされているはずだった。
―――『許さないわ・・・私は、絶対に許さない、許したりなんかするもんか。』
いつしか、降って来た雨が、少女を彩り、怨嗟を引き立てる小道具になる。
その場にいてはいけないはずの少女が其処にいた。
邪魔はできても、解除はできない。
更には、大義名分に隠された利益を知る少女。
そんなものの為に、ライアは自分を置いて行く。
彼が居るならば、自分は、クロイツですらいらないのに。
―――『呪われろ、アンゼロット、吸血鬼共!!
    未来永劫、この世界が続く限り、呪われるといい!!』
どうしようもないが故の、絶望と憤りと哀しみに頬を濡らし、恐らく、少女が生まれて初めて心の其処から吐いた呪いの言葉。
そして、ジュリとて、ウィザ-ドの端くれ。
この封印結界の基本が、月匣であることを察していた。
ならば、とでも思ったのだろう。
―――『・・・あの人の縛鎖になるのなら、この命なんていらない。
    大切な人がいない世界なんて意味がないのに。
    ごめんね、せめて、貴方は自由になって・・・でも、最期まで愛してたよ、ライ。』
涙を拭わないまま、少女は晴れやかに笑った。
そして、その胸に短剣を尽き立てたのだった。
・・・実際、短剣・・・刃渡り二十センチに満たなかろうと、胸を刺した以上は助からないはず。
しかし、封印結界の維持を優先したアンゼロットは、運命律を捻じ曲げた。
彼女の時を止めた。
最後に、アンゼロットが見た魔王・ライア。
彼は、泣いていた。
何よりも、無力な自分を笑うかのように。
彼の唇が最後に紡いだのは、ただ一つ。
『なぜかのじょがしななければいけないのだ』




「・・・こんな具合じゃよ。」
「・・・っ。」
「正義などの、それぞれの人の美名じゃ。」
「・・・・・・どうすれば良いんでしょうね。」
「さあのう、ワシが決めることではないのう。
 お前さんが、決めることじゃ。」
緋衣の老人は語り終える。
あくまでも、彼の視点からのあの悲劇を。
終ってしまい、語る人も少ないあの悲劇。
少なくとも、アンゼロットとて、語りがたらぬ、あの悲劇。
当事者の転生者であっても、思い出せなかった出来事だ。
「・・・ありがとうございました。」
「ほっほっほほ。
 礼はお前さんの手料理でいいぞい?」
「はい?」
「グィ-ドの若造から腕は聞いとるからのう。」


さて、詠太郎の胸に刺さったその真実。

それが、どのような結果を導くのか?

今は、まだ・・・闇の中。




+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

予告通り、乾詠太郎氏一色でした。
胃薬の飲みすぎと執筆の重圧で、胃が死にかけの管理人です。

思い切り、アンゼロットが悪役ですが。
ノベライズや数々のリプレイからすれば、割と普通ではないのかな、と。
目的と手段を吐き違えず、行なうのが彼女なのです。
たぶん、一度死んだ時の教訓ゆえに。


では、次の物語で。




AfterGlow  4

2010-09-25 23:20:02 | 凍結

Middle-8 死に至る病と死から蘇生させる焔


「それは、千年前のこと・・・。
 まだ、皆が、私の側にいたあの頃・・・。」
ジュリは、語り始める。
余裕とも取れるだろうが、その深紅の瞳は何処までも澄んでいた。
此処ではなく、もう戻らないそんな日々を見ていた。
ただ、独り言に近いのかもしれない。
彼も、耳をじっと傾ける、珍しく真面目な顔つきで。
「私は・・・。」


私は、生来の吸血鬼ではない。
うん、いい反応をありがとう。
だけど、離れていても、そう叫ばれては私の聴力では頭がガンガンするよ。
・・・昔は、普通の、と言ってもまだ、語弊が在るけれど、魔術師だったんだ。
そうだよ、私の『魔術師』のスキルは其処から来ている。
今じゃ、ほとんど、『吸血鬼』のスキルしか使わないけれど、咄嗟の場合は、そっちも出てしまうんだ。
まぁ、イノセントが、見れば、そういう魔術師、錬金術師っていうのは、胡散臭く見える。
・・・あぁ、錬金術師が、ウィザ-ドとして認められたのは割と最近だね。
それまでは、魔術師や陰陽師の一種としてカテゴライズされていた。
或いは、私達とイノセントの隙間にね。
両親が、イノセントに殺されたのは、私が八歳の頃かな。
焼き討ちされたんだ。
魔女狩りなんて言葉が無かったけれどね。
ちょうどいい生贄だったんだろうさ、きっとね。
私は、父の友人のクロイツに助けられたんだ。
それが、千と二百年ぐらいの前になるね。
・・・偉いヤツかって?
まぁ、そうなると思う。
当時、今の形になり始めた背信者会議、そうこのコミュニティの長だった。
三百歳そこそこで、選ばれたと聞いている。
レオンハルトとエスメラルダは、その親戚筋にあたる吸血鬼だね。
フルネ-ムは、クロイツ=ロ-ゼンマリアと言う。
うん、私の吸血鬼としての親さ。
彼の一族は、名字にロ-ゼンが入ることで有名なのだよ。
所謂、真祖と言うのかな、始まりの吸血鬼に近い血筋、らしい。
そう、レオンハルトも、ロ-ゼンクラウン・・・吸血鬼としては、近いね。
あの子のフルネ-ムは、エスメラルダ=ロ-ゼンヤ-デ。
吸血鬼としては親戚筋になる。
うん、当然いい顔をされなかったさ。
吸血鬼も選民意識まみれだったから、仲間に迎え入れるなんてことは、コミュニティでも許されちゃいなかったのさ。
特に、背信者会議は、数ある吸血鬼コミュニティの中でも、タカ派で、今でも、人間はエサとか普通に発言しているようなトコだから。
少なくとも、公にはね。
昔のオ-ファルコ-トは、ハト派に近いね。
だけど、今、こうしている通り、私は十四歳の年に、吸血鬼の仲間入りをした。
・・・それが大体、千百年前かな。
少なくとも、幸せだったよ。
不幸、ではないと言うべきかな。
一番の幸福・・・正確には、今の私の胸にあいている喪失感、それから推測するに、覚えていないその後の百年が幸せだった。
メルがいて、養父がいて、レオンがいて、アビスがいて。
大切な人がそばにいたからね
そして、覚えていない記憶のあの人がいて、思い出そうとすると泣きたくなる。
少し詩的に言うのなら、そうだね・・・。


「胸を吹きぬける風が、寂しさと知ってから、色々と調べたのだからね。」
「・・・お前が、元人間?」
「意外、というトコロかな。
 ・・・『紅の抱擁』という吸血鬼の特殊能力があるだろう?」
「ええと、一般人に使うと吸血鬼化しちまう可能性のある、やつだよな。」
「本来は、瀕死の味方を助ける、そんな能力なんだけどね。」
ジュリが、目の前で猫のように目を細める彼女が元とは言え、人間であったことに、輪之助は驚きを隠せない。
一応、人間側にいるとは言え、吸血鬼が侵魔に与しやすいというのも、事実なのだ。
公表はされていないが、もちろん、人間から吸血鬼になったのは、そう少なくない。
数十万人、吸血鬼がいたとして、その中の百人も居ないだろう。
その一人が此処にいるのだ。
「・・・相手の実力が圧倒的な場合、低レベルのウィザ-ドもそれに呑まれる。
 そうすることはできる、と言うべきかしらね。」
「・・・優しいね。
 これぐらいで、眉をしかめるならこれ以上は、聞かない方がいい。」
くすくすと、ジュリは笑う。
両親が殺されたこと。
その後、喪失したもの。
大きすぎるだろうに、それを感じさせない。
むしろ、笑みを外さずに、『綺麗な顔が台無しだよ。』と、心配する始末だ。
「いや、最後まで聞かないのは正義じゃない。」
「・・・そっか。」



此処からは、関係者からの態度。
アビスからのほのめかしやなんかの感触。
・・・ああ、アビス、アビスハスは養父の友人の吸血鬼だよ。
後は、記録を徹底的に洗った上で、詠太郎を脅しつけて、組み立てた推測だ。

・・・千年程前、クロイツの養い子、つまり、私が一人の人間のウィザ-ドを拾った。
彼の名前は、ライアス=エンプティセットとして残っている。
それ以上は、記録に残っていない。
ただね、その名前すら、恐らく擬装だろう。
エンプティセット・・・『何者でもない』なんて、名前はさ。
拾われてしばらくは、クロイツの客人のリストに名を連ねていた。
しかし、その五年後に、行方不明になった。
・・・正史、記録には、これぐらいだ。
後は、客人が行方不明になった頃に、世界魔術協会主導で、大きな掃討作戦があったぐらいだ。

ここからは、ほとんど、推測だ。
その私が拾ったという、ウィザ-ドは、ライア=アフリクシオンだと思う。
うん、昨日、こっちに来た侵魔の魔王、だよ。
そして多分、私と彼は恋人だった。
うん、そうだ。
君達が、殺したモッガディ-トと違って、相思相愛だったことは、伝えておこう。
え?何故、それが言えるのかって?
まぁ、待て待て、順序良く話す。
私には、ライアと過ごしたであろう五年とそれを挟んだ間、二十五年の記憶が無い。
今は、思い出したがそれも此処十年ばかりの上に、断片的なもの。
クロイツやレオンハルトが言うには、侵魔の呪いを解呪する為に眠っていたと、ね。
おかしいだろう?
私が、そのウィザ-ドを拾ったとあるのにね。
推測が混じるけれどね、世界魔術協会主導で行なわれた作戦。
抹消されていようと、組織である以上、最低限の記録は必要だ。
それを私は探り当てた。
はっきり、言おう。
当時はまだ辛うじて存在していた、魔王・シャイマ-ル。
それが、親友たるライアを封印したのが、その作戦だ。
・・・そのせいで決定的に弱体化し、事実上消滅、ル-が後を継いだのはこの後だね。
当時は、人間が吸血鬼になる以上に、ウィザ-ドが侵魔に、侵魔にウィザ-ドが恋をするなんて言うのは、愚の骨頂。
正に禁じられた恋というところだね。
それでも、私とライア、吸血鬼と侵魔の王は、愛しあっていた。
肉欲にまみれていれば、公に糾弾できただろうけれどね。
陳腐だけれど、『魔女』として処刑できたと言うことだよ。
アビスの言葉から察するに、せいぜい、キスまでで。
一緒に過ごしたり、眠ったりするのがこの上ない幸せ、と言うような二人・・・だったと思う。


「何故、そう言えるのか、って顔しているね。」
「・・・ああ。
 モッガディ-トは悪いヤツじゃなかったが・・・。」
「だけれど、侵魔だった?」
「そうだ。」
「・・・手を貸して。
 私が、何故、私とライアが相思相愛だったか、それを断言した理由を教える。」
怪訝かつ、苦虫をグロス単位で噛み潰したような顔をしたそんな輪之助。
信じられない、と言うよりも、信じたくないのだろう。
少なくとも、世界魔術虚会を始め、ウィザ-ドは正義だ。
そう信じて、彼は此処まで来ているのだから。
ジュリはそんな彼の様子を見て、手を差し出すように言う。
差し出された手を手に取り、呪を唱える。
そして、輪之助の脳裏にフラッシュのように幾つかの画像が映し出される。
先ほど言っていた断片的に思い出したことだろうか。


-『クロイツ父様、見て見て、レオンに習って作ったの。』
幼い少女が、銀髪赤眼の吸血鬼に、自分で彫金した指輪を差し出している様子。
褒められてとても嬉しそうだ。

-『むぅ、レオンのイジワル-。
  メル姉様、レオンがイジメるの。』
レオンハルトと赤毛の吸血鬼と少女の会話。
よくある、そんな兄弟のやり取り。

-『ん-とね、私は、侵魔だとしても、大好きだよ。
  ずっとずっと一緒にいたいな。』
晴れやかな微笑で、少女が青年に告げた。
相手は、あの陰鬱な魔王に似ていた。
だけど、似てもつかないほどに穏やかな微笑の青年。

-『許さないわ・・・私は、絶対に貴方達を許さない。
  父様も、皆も絶対に許さない、許したりなんかするもんか。』
そぼ降る雨の中、銀髪の少女が、怨嗟の言葉を唸る。
異変に気付いた少女が駆けつけた時には既に遅かった。
魔力の鎖に、その人は戒められていた。

-『呪われろ、アンゼロット、吸血鬼共!!
  未来永劫、この世界が続き続ける限り、呪われるといい!!』
絶望と憤りと哀しみに、頬を濡らし、少女が生まれて始めて吐いた呪いの言葉。
自身の望まぬ呪力が、愛しい人の枷となった。

-『・・・あの人の縛鎖になるなら、この命なんていらない。
  あの人のいない世界なんか、色が無いのに・・・。
  ごめんね、貴方は自由になって・・・でも、最期まで愛してたよ、ライ。』
涙を拭わずに、少女は笑い、そしてその自らの胸に短剣を突き立てた。
・・・もっとも、少女のその願いは叶わずに、愛した人は封印に囚われた。


-『あれ?私、どうしたの?』
-『侵魔の呪いを解くのに、眠っていたんだ。』
-『そうなの?』
再び目覚めた少女は、全てを忘れていた。
愛した人のことも、その人と過ごした日々も。
全ては、記憶の闇の彼方に。


「・・・というわけだ。」
「・・・・・・っ。」
画像の中の少女-ジュリに声をかけられ、輪之助は我に帰った。
あくまで、ジュリの表情は涼しげだ。
だけれども、今のフラッシュをみた後では、激情を無理に押さえ込んでいる、そんな印象さえも、受ける。
「・・・事実なのか?」
「私が嘘をつく道理が無い。
 利は無いのだから。」
「騙して、利用しようって腹じゃ・・・。」
「ないね、それなら、黙ってあの魔王を殺させればいい。」
あくまでも、静かに、事実を述べていく。
少なくとも、隠していること-話していないことはいくつかあるが、嘘はついていないのだ。
「私を信じなくても、あの魔王は、彼女はどうだった?」
「・・・・・・」
「それが、答えだよ。
 あの子も、私と同じ道を歩んだ結果があれだから。」
「はい?」
「あの子も、侵魔との恋愛をした。
 結果、ああなった。
 君は知っているはずだよ、夜見トオルと言う形で、見ている。」
「・・・まさか!!」
脳みそスライムと呼ばれ様と、此処数ヶ月の間にあったことを忘れるほどではない。
何よりも、あの哀しい魔王を忘れてはいけないとは思うのだ。
「・・・残念、タイムリミットだ。」
「え?」
更に問い詰めようとした輪之助が口を開く前に、窓に駆け寄る。
テラスに出たジュリは、プラ-ナを解放し、≪ヴォ-ティカルショット≫を編む。
数十に達する闇色の礫が浮く。
「何を?」
「空、上。
 落ちてくる、受け止めて。」
輪之助の問いの答えに短く、言うと、漆黒の翼を生やしたジュリは空へ飛び立つ。
あわせて、闇色の礫もついていく。
此処に至って、やっと状況がつかめた。
空から黒と赤の塊が落ちてきて、それを数匹の侵魔が追って来たという状況だ。
なおに近付けば、それが、血塗れのナハトだと解る。
「ぬお・・・っ。」
このまま無防備に落ちれば、人外でも、死ぬ。
そう思った輪之助は一瞬で、リンカイザ-へ変身。
テラスから外へ、自身をナハトの下へ潜り込ませる。
「・・・橘輪之助か?」
「そうだ。」
「ツィア達が危ない・・・早く、・・・。」
受け止めた彼は、黒づくめでもわかるほどに、血塗れで、腕も曲がってはいけない方向に曲がっていた。
人間ではなく、天使だとしても、重傷、此処まで飛んでこれたのが奇跡なほどだ。
ナハトの気絶に少し遅れて、闇色の閃光がほとばしる。
≪ヴォ-ティカルショット≫と少し遅れ、≪ヴォ-テックストライデント≫の三叉の光だ。
侵魔だった肉槐が庭に落ちる。
「・・・MP食ったかな、結構。」
数撃受けたのだろう、口の端に血をこびり付かせつつ、ジュリが降りてきた。
言葉から察するに、魔法の威力をあげる能力も使用したのかもしれない。
蝙蝠の翼を消しつつ、ナハト達に駆け寄る。
「橘輪之助、ナハトは?」
「気絶した。」
「ヒ-ラ-貸そうか?」
「・・・背信者会議はこの事件に消極的だったんじゃないの?」
「本部への防衛の礼も含めた僕自身の好意、とは思わないのかな?」
「・・・思えないさ。
 その『好意』で、ライアは封印されたのだから。」
自身でも、ナハトの怪我を確認して、断片的にでも聞いていたのであろう、レティ-達の状況に加勢できないことを悟るジュリ。
そこへ、医者を伴いレオンハルトがやってくる。
睨みつけるように・・・より正確に言うならば、射ぬかんばかりに、と形容詞がつきそうなほどに強く睨み、着けながらジュリは相対する。
「いいのかい、そういう状況なら、僕もそういわないよ。」
「解った、借りる。」
ジュリの承諾を受け、後ろの白衣フ-ドにレオンは指示を出す。
輪之助を借り、彼は、ナハトの手当てをしていく。
代わりに、ではないのかもしれないが、≪マスタ-ヴァンパイア≫と≪凍れる樹姫≫は、微笑み、見詰め合う。
まぁ、甘い雰囲気だろう、客観的に見るならば。
ただし、背景に、暗黒と雷が踊り、龍と虎が睨みあってなければ、だが。
「・・・レオン、今回のこれは貴方達のツケよ?」
「否定はしないよ。」
「決着、つけるから、手出しはしないでね。」
「・・・いいのかい?」
「いいわけないでしょ。
 だけど、あの子が、何かをしようとしたのは、ああなってから始めてだもの。」
「そうか。」
睨みあってはいる。
睨みあっては居たが、千年前のことに疑問を持ち、そして袂を別けてから数百年ぶりに、和やかな時間だった。
それは、ほんの少しだけだったけれど、それでも、あの日々のように。
もう戻らないがゆえに、渇望する、そんな時間のように。


その後、レオンハルトは、かなり高価そうなハイHPポ-ションとハイMPポ-ションを数個譲ってくれた。
取って返すように、三人は、東京は秋葉原へと舞い戻る。




Middle-9 過日の甘き果実



ジュリ達を送り出して、しばらく。
自ら淹れた紅茶に手をつけずに、レオンハルトは、古い絵を見つめつづけている。
ここは、背信者会議の本部、その盟主である彼の私室だ。
分厚いカ-テンに覆われ、陽光は入ってこない。
灯された灯りも数個の大きなランプだけだ。
掛けられた古い絵は、もう千年以上前の絵だった。
白銀のボブカットに、十代前半の生意気そう・・・実年齢風ならば、尊大そうな、レオンハルト。
銀色の腰までのストレ-トに深紅の瞳の穏やかそうな、その実、腹黒そうなそんな青年、クロイツ。
まだ、焦げ茶の髪に、青い瞳の快活で聡明そうな十歳ぐらいの少女、ジュリ。
赤くウェ-ブのかかった髪の綺麗よりも可愛い系統の女性と少女の端境の、エスメラルダ。
濃い銀色のウェ-ブの掛かった髪をリボンでまとめた、飄々とした表情の読めない褐色の肌の青年、アビスハス。
懐かしい絵だ。
もう、自分の側には誰もいない。
クロイツは、イノセントに殺された。
ジュリは、数百年前の誘拐と暗殺を契機に此処を去った。
エスメラルダは、八百年前に誘拐され、五百年前に死んだ。
少なくとも、吸血鬼だった彼女は死んでいる。
辛うじて、アビスがいるがそれはあくまでも、『敵ではない』だけだ。
所属も、フリ-に近い世界魔術協会所属で、背信者会議の担当らしい。
らしいと言うのは、あれが唯一、敬意を示すのが、その長、アンゼロットだからだ。
「もう、戻らない、か。」
落ちてしまった果実を嘆くように、レオンハルトは呟いた。
そう、もう、戻らないのだ。
どんなに嘆いても、取り戻したいと願っても。
時が流転する以上は、巻き戻らない。
「・・・だよねぇ、レオン?」
「アビスハス=ロ-ゼンシェピアか。」
「やだねぇ、お兄さんは、今は、アビス=マリンル―だよ?
 その名前で呼ばないでよね。」
いきなり現れたのは、≪ポ-タル≫を使用していたからなのだろうか。
現れたのは、絵の中とも、一寸たりとも変わらない青年だ。
唯一違うのは、絵では背中まであった髪を肩のあたりに不揃いに切り、オ―ルバックにして黒い細いヘアバンドで止めている所だろうか。
千年前のあの後に、ロ-ゼンの中でも古い・・・『ロ-ゼンシュペア』の名前を捨てた友人であり、兄であり、父でもあった存在だ。
今は亡き、クロイツの友人でもあった。
「で、アンゼロットが何か言って来たのかい?」
「いんや、今回は完全にプライベ-トさ。
お仕事なら、仮面をつけないと、良心が押し潰されちゃうからね。」
「養う相手も、いないだろうに。」
「いやいや、一応、俺には、アンゼロットからの押し付けの監視役っても、可愛い可愛い弟分いるのよ?」
「・・・あの人造人間が、可愛いと?
 アビス、君も歳なんだから、眼科か脳外科の受診をオススメするよ。」
「あのね・・・」
時折、こうやって、アビスはやってくる。
なんでもないように・・・ただのレオンハルトに会いに。
この男だけは、千年経とうと、変わらない。
次の千年を生きたとしても、たぶんそのままだ。
「ま、ともかく、色々と大変な状況みたいだね。」
「違いない。」
「・・・千年前のこと、今回が終って、ジュリちゃんが生き残ったら、話してあげたら?」
「話せないさ。」
「あのね、レオン。
 あの子は、真実を知っても君から離れないと思うよ?」
「・・・其処まで冷たくない、から?」
「と言うか、優しいというか、甘いと言うか。」
「・・・だけれどね、アビス。
 裏切ったことには変り無い。」
「あの子を裏切ったねぇ。
 命を助けて、心を殺した、というトコロだろう?
少なくとも、悪いことじゃないよ。」
つらつらと語る。
クロイツとて、悩んだ。
愛娘を見殺したくない。
しかし、愛娘から笑顔を奪いたくない、と。
だけど、見殺しにする事は尚のこと出来なかった。
それを、この二人は知っていた。
レオンも、アビスも、友人を失いたくはなかったのだから。
だけれど、彼らはジュリから、愛する人を奪い、その記憶すら奪ったのだ。
『透明化』さえできれば、なかったことになるのだから。
しかし、それが、八百年前の誘拐と五百年前の暗殺を生んだのだ。
少なくとも、彼の魔王が希望を抱くことはなかった。
「・・・ともかくさ、ジュリちゃん。
 あの魔王の転生者と巡り会って、色々と知ったし。
 ・・・少なくとも、そうだね、俺達の状況を知れば、完全に補完できるってとこまできているかな。」
推測、だけど、とアビスは笑って付け加える。
それは、どこか苦笑交じりで・・・真実を知られては困るけれど、あの小さな女の子の成長を喜ぶようなそんな笑みだった。
「・・・そうか。」
「決断しなよ、もう、千年迷いつづけてるレオンくん?」
「・・・」
苦笑よりも、苦虫を噛み潰したような笑みで、レオンとアビスは笑い合う。
そして、そこにまた、一人の少年が現れる。
色素の薄い青白い髪に、それよりも尚白い頬、感情の無い緑の瞳。
黒いハンチング帽子とサスペンダ―で吊った半ズボン、白いワイシャツ、それに缶バッジをあしらった服装の少年。
これで、ランドセルでも担がせれば、普通の小学生だろう。
しかし、そうではない事を証明するかのように、ロンギヌスの紋章の腕章をつけている。
「・・・アビス=マリンル―。
 緊急事態だ、ロンギヌス00から、アンゼロット城に戻れと、指示だ。」
静謐、という概念すら騒々しいと思うほど、彼の言葉は静かだった。
電子音が、告げるようにそう言う。
「はいはい、タキ、何あった?」
「・・・アキハバラで、大規模な戦闘が行なわれている。
 それに呼応するように、宮殿にも、侵魔の集団が襲撃している。」
「了解。
 それじゃ、まだね、レオン。」
無言で、それに応じる。
独りになったレオンハルトは迷っていた。
「・・・どうすればいいのかな、クロイツ。」



++++++++++++++++++++++++++++++


はい、少々、ペ―スあげての四つ目です。
どこかで読んだことある人もいますが、かなり昔、私が断筆したオリジナルの吸血鬼物語から引っ張ってきました。
その時は、NWのライア役は別のキャラを担当してましたが、その別キャラとジンを足して2で割ったのが、この話しのライアだったりします。


ミドル8は、過去語り。
あくまでも、ジュリ視点の物語ではあります。
そして、少なくとも、アンゼロット(シャイマ―ル、ゲイザ―含み)達はともかく、クロイツ達が願ったことに何の罪も無い。
少なくとも、アンゼロット達ですら、悪意はなかったが故の悲劇でしょう。
・・・千年前の、とはつきますが。
しかし、八百年前に始まり、五百年前に終った流れに関しては・・・アンゼロットには、義務感にも似た悪意は合ったのでしょう。
ついでに言うなら、わかりにくいですが、輪之助に甘えているジュリです。


後半の戦闘は、レギュレ-ションとしては、瀕死状態(≒戦闘に参加できない)のナハトを庇いつつ、追っ手を撃退、な一幕。
ナハトに1ポイントでもダメ―ジ通れば、即座に死亡状態に移行する、と言う中の戦闘でした。
基本的に、ディフェンダ―として、かなり優秀なリンカイザ―がいれば、そっちは問題なくても、近付かれてはヤバイということで、キャスタ-としては、ちょいと危険なバトル。
最近は、同調者の登場で、接近戦型のキャスタ-もいますが。



ミドル9は、レオンハルト側の逡巡です。
現在、生き残っていて、尚且つ、ジュリに近しく、千年前の真実を知るのは、彼とアビスハスの二人だけなのです。
もしも、背信者会議に、意見役の長老がいて、千年前の真実を知っていても、盟主を敵に回してまでジュリに話そうとしないので、この二人だけが知ることに。
親的なアビスハスは、沈黙をはっきりと選んでいますが、レオンハルトはあくまで状況で沈黙を選んでいるしまっているので、今になって逡巡しているのです。

もう、ジュリ自身が思い出しかけてしまっているせいで、昔のままではないけれど、昔の関係を断絶してしまうのが怖くて、話せないのです。


次は、変則的に、連続して、乾詠太郎氏メインなそんな一本になります。
1st、引っ張り出したり、色々混乱してますが。
グィ―ドはともかく、パトリシア・フォルツァなんて誰が知ってるんだろうか。


とあれ、次回。



AfterGlow 3 説明

2010-09-19 23:46:47 | 凍結






5と6、7は並行して。
正確には、8、9、10、11もかな。
数字はズレますが、しばらくは同じ様な時間で。
変則ですが、それぞれ、戦闘挟みます。
一応、その後に合流と情報確認。
んで、クライマックス、の予定です。
できれば、アッシェンサイドと、ナハトが、トオルか輪之助に懐くシ-ンは作りたい。
エンディングまでには絶対。
ナハトが、輪之助かな、個人的には。
意見あったら聞きますよん。
或いは、異物を取り入れてしまった者同士で、トオルとナハトでも楽しいのかもしれません。
恋する乙男(おとめ)同士でもありますしね(笑)



とりあえず、5は今明かされている主八界の現状と、天使の説明。
ちょっと駆け足気味ですが、多分間違ってない。
NW最新ソ-スブック『ファ―・ジ・ア―ス』の情報は入ってないですが。
ミもフタもないけど、一部。
尚且つ、私設定で補ってる部分あります。
レベルで劣る分をちょっと異世界アイテムで補充、そして、ミドルでの戦闘。
一応、レベル14の詠太郎氏でも、苦戦するだろう、というレベルのボスと脇をそろえてます。
脇でも、レベル4のトオル達にはキツイだろうと思うんで。
元々は、エルクラムでのレティ-と親交のあった面々、サンプルキャラの『精霊を喚ぶ者』と『精霊と共にある者』を名前と性格つけてやってみようかな、と思ってましたが。
しかし、ラスティア-ンにノックダウンされ、『小竜の介添人』と『竜拳士』をチョイスして色々と改造。
具体的には、『介添人』にクラス:ぷちを足したり、レベルアップさせたり。
種族を弄ったりもしましたし。
一応、ほぼフルスクラッチに近い二人です。
後、本人初登場です、萩行幹久。
ガンダムか、奪還屋で初登場かと思っていたら、です。
一応、主八界の外に、アルシャ-ドのミッドガルドという形で、外に世界があるというのを示されましたし、ありかな?と。
後、久遠など、萩行の元々生まれた世界にも同じ様な人たちが居ますが、偶然のようなものと言うことで。
或いは、同位異相体みたいなものとして。
ちなみに、萩行は、半形の掛け言葉で、半分の異形の意味合い。
今は、某狐仮面よろしく、『因果律』から拒絶されて、別物ですが。



6は、海砦にて、シェディが好みだったので。
なおかつ、ロンギヌスのメンバ-なんですよね、彼。
ラ-ス=フェリアにおける顧問みたいなもの、とソ-スブックにありますが。
ぷらす、海砦時のナティノが、彼に生意気だとか言ったシ-ンに、もう一人、銀髪のソ-ドマスタ-、サンプルキャラの『剣の申し子』のような女性がいて、尚且つ、シェディ達のレベルが+4ぐらいされてたとして、話が展開していた、みたいな設定です。
ついでに言うなら、闇砦と森砦、十年ほど空いてますし。
海砦の時と、メビウス開始(幻砦の約二年後)時のナティノの年齢を考えると、ほぼ十数年~二十年ほどなんですよね、海砦~空砦って。
空白の数年がありますけど、十六王朝末期と今の暦の年数からそこは計算できます。
ナティノは年齢明言してますしね、海砦時とメビウス開始時で。
つか、あれで四十歳には見えないのです、若いです、ナティノ。


7は、マスタ-シ-ン。
失いたくないものがあるから、二人は二人の立場にある、という話。
理解は求めていない、そんな関係。
だけど、立場意味違えど、理解できる部分もある、みたいな。
一応、TISは知っていて、外からの来訪者を招いた、と言う状況です。
ゲイザ-が干渉できない今だからこそ、出来ることなのです。
(一時的に干渉できなくなった、みたいな認識してます。)

さて、次回分は、丸々一本、ジュリの過去話になると思うのです。
決着してしまってはいても、それでも、今の問題の一つの答えだと思う、そんなノリなはずです。
尚且つ、八百年前の断片を。
-「恋をする相手を選べれば、悲劇の9割はない」、正にそんな話し。
余裕があれば、マスタ-シ-ン一個。
昔書いたヤツのナイトウィザ―ド版とも取れるかもしれません。
そうなると、レオンハルトの立ち位置は、オカマ吸血鬼のサラディンになってしまうのですが(笑)


とあれ、次回にて。


AfterGlow  3

2010-09-19 23:44:00 | 凍結

Middle-5 現状と和解と襲撃の円舞曲


「ええとですね、天使って言うのは、その。
 トオルさんは、主八界って、知っていますか?」


情報収集に他の面々が出てしばらく。
久遠の指示で、そのテレビゲ-ムのような・・・所謂、ファンタジ-ファンタジ-した服装から、レティ-ツィアとナハトは着替えるように言われた。
彼(女?)が言うには、「今は休んでちょうだい、それじゃ寛げないだろうから、これに着替えてね。」ということらしい。
レティ-は、白地に濃い青紫色で丸と十字をデザインした僧侶戦士(らしい)の衣装から、深緑のロングスカ-トとベストの司書風の衣装に変わり。
ナハトは、黒づくめの暗殺者風の衣装から、黒いティ-シャツとダメ-ジ加工のジ-ンズとなった。
お嬢さまと、バンド少年と言った風情。
そして、久遠の自宅-その書斎にて、レティ―とトオルが、ソファ-にて顔をつき合わせていた。
レティ-が一人がけに、トオルが三人掛けにだ。
ちなみに、もう一つの三人がけには、適当な本を開き顔に伏せ寝転がっているナハトがいる。
寝ているわけではなかろうが、話に参加する気はないらしい。
そして、トオルの『昨日のあれは、天使なのか?』という問いに対して、レティ-が、言いよどみながら、答えたのが、先の言葉。
ただ、迷っている、と言うよりも、どこまで話していいのか解らない、そんな迷い方だ。
「いや、知らない。」
「・・・う-、」
「全部、話せばいい。
 話さずに、不信を生まれさせ、足でまといになるよりはマシだ。
重い話だが、知っていて損はあるまい。」
「ナハト!!」
「それに、あの奇妙な下がる男の知り合いだと、久遠が言っていただろう。
 多少は、第一世界についての知識は得ているはずだ。」
「ええと、その、ヒイラギ・レンジと言う方は、ご存知ですよね。」
「ああ、先輩で幼馴染みだけど?」
寝転がったまま、助け舟を出すナハト。
それを受け、レティ-は話をすることにした。
曰く―――。

この世界珠で、人間が住む世界は、八つ。
その他の精霊界などを浮かんでいるのを図式化すると球体に表せるらしいので、便宜的に、世界珠と言う。
第一世界・『魔砦』のラ-ス=フェリア。
第二世界・『鋼騎』のエルスゴ-ラ
第三世界・『神姫』のエル=ネイシア
第四世界・『精霊』のエルクラム
弟五世界・『天使』のエルフレア
第六世界・『海洋』のエルキュリア
第七世界・『領域』のラスティア-ン
第八世界・『夜闇』のファ-=ジ=ア-ス
特色と言うか、来る冥魔などの古代神達との戦いに備えた違いがあるということ。
レティ―ツィアは、壊滅的な方向音痴の為、生まれ故郷である第一世界以外に、弟五世界、第四世界、第六世界、第七世界を知っている。
それぞれ、綺麗なまでに、対立する勢力があり、どれかの勢力に、必ず冥魔が混ざっている。
或いは、異世界での勢力争いが、第八世界にまでもつれこんでいる。
曰く、アンゼロットと侵魔・イクスィムなどは大きいが、多少なりとも、それ以前から、あるらしい。
それでも、宝玉大戦(マジカル・ウォ-フェア)までは、そうではなかったらしい。
一応は、敵は敵同士であったこと。
第一世界での、七紋章記・007年までも同じく、敵の敵は味方、と言うのは少なかった。
その年に、ラ-ス戦役があり、その末期に、勇者・シェルジュが魔王と相打ちになり、世界は闇に沈んだ。
ヒイラギ・レンジが、フレイス地方にて、魔王・ディングレイを討ち果たしてから、おおよそ半年後のことだったと言う。


「・・・そのあとは、酷いものでした。
 森は枯れ、或いは闇に寝食され亜空間と化しました。
 人々から、希望を奪うように、冥魔はその力を振るいました。
 ・・・パ-ティを組んでいた勇、者のフォルティスも、メイジのソフィアも、ナイトのハッティナも・・・。
 多くの同胞の亡骸が、ただ、無慈悲に、積み上がっ、ていきましたから。
 それから、約一年半後、フレイ、ス地方で、炎の守、護者が復活し、そのおかげで多少は、マシになりました。」
「あくまで、多少は、の話だな。
 希望のきの字、どころか、Kの字が辛うじて見えるって段階だ。」
「・・・確かに、世界各地から、フレイスを目指しても、百人のうち、一人が到達できるかできないか、そんな有り様です。」
事実として、レティ-は、話していく。
哀しくないわけではないのだろう。
始めは淡々と話していたが、途中から、何度もつっかえ、つっかえ、話しているのだ。
まだ、思い出にするには、生々しすぎる記憶。
未だに進行する話なのだ。
それに、一ウィザ-ドには、少々重い話でもある。
振り払うように、レティ-は微笑み、話を再会する。


それでも、数ヶ月前、ヒイラギ・レンジがフレイスに再臨した。
それにより、冥魔王・エンダ-スが追い払われた。
冥嵐王・ベ-グラ-、冥宮王・パペロスも討伐されたと、私が此処に立つ直前にそう報告がある。
希望がやっと、見えてきたというところだが、未だ、組織だって対抗できているのは、フレイスの異世界連合だけ、だと言う


とりあえず、第一世界はどうにかなったが、他の第三世界、第四世界も、予断は許さない。
他の世界も、同様ではあるという。
第三世界では、月女王・アンゼロット様が再臨したと聞くが戦況は芳しくない。
現在は、膠着状況であると情報がきている、それが、三ヶ月前の状況。
弟五世界では、ものすごくややこしいことになっている。
五つの勢力。
エイサ-王国、ドラグテイル王国、ヴァルキュリオス帝国、テラ共和国、反エイサ-連合A.E.U.。
そこに、第一世界にて、MIAになっていた空導王が第六勢力・・・事実上、A.E.U.連合に近い立場で、動いているようである。
・・・他の、四つは、概ね平和。
少なくとも、冥魔に対抗する、と言う意味合いでは慣れてしまって、日常になっているから。
第七世界に至っては、守護者が織るべき、機織機が、黒と白の対立のまま動かないのだから。



「・・・此処までは、いいですか?」
「柊先輩が、行方不明なのは、そっちに行ってたからなのか。」
「はい。
 ガ-ネット様や、リュ-ナ様もよく話してくださいましたわ。
そんな方が、こっちに来ましたから、嬉しかったです。」
一つの希望であったかのように、或いは、辛い日々の中での小さな楽しみのように、レティ-は話す。
辛うじて、フレイスと、その北方の小島だけが、人間の砦だったのだ。
幾つかの物語を終え、どうにか持ち直し始めたといっても、未だに、冥魔にその命脈を握られていることには変り無い。
あの暗黒期の再来とも言われているのだから。
「・・・強さだけなら、先輩よりもアンタ達のほうが強くないか?」
「う~ん、とですね、これは、幻導王様の受け売りになりますけれど。
 曰く、『世界を救うという運命に必要なのは、実力などといった強さではありません。その運命を背負った者が死力を尽くして初めてなされるのです。』とのこと。
 私は、そういう運命を背負わなかったわけですから、そういう事以外で道を開く為に、この依頼を受けましたの。」
「・・・そのヒイラギってヤツも同じだろうが。
 駆け出しペ-ペ-で、『星を継ぐ者』事件とか、こっちのフレイスでの一連の事件。
 或いは、『黒き星の皇子』事件、後は、こっちの大魔王のル-・サイファ-とやらも倒しているんだろう?
 あの魔器に刻まれた『刻印』も関係してんだろうが、そもそもが、あの月女王に気にいられてる時点で長生きできるはずねぇだろう?」
納得しないトオルに、畳み掛けるように、ナハトが抑揚無くつらつらつらつらと流す。
好感のKすら見えない、完全に棒読みだ。
ビジネスライクな口調の方が、余程感情的だというぐらいに。
レティ-もその態度をもう窘めるのを諦めたのか、その言葉を継ぐ形で話を続ける。
「・・・まぁ、確かに、フォ-ラのヒュウガ様を例に取らずとも、そういう運命を持った人って・・・。
 ええと、そのともかく、私達は確かに強いですが、それだけなんですよ。」
「・・・・・・・では、天使と言うのは?」
レティ-に、これ以上聞いても無理だと思ったのか最初の質問に戻る。
「簡潔に言えば、ナハトを含めた第三期型とその前期型のエンジェルは、兵器ですわ。
 エンジェルシ-ドという宝石を埋め込んで、その身に黒い羽根を宿した人がそういわれますの。
 第一期型は、オリジナルと同じく白い羽だったと聞いていますが。」
「・・・???」
「少し、長くなりますが、聞きますか?」
レティ-の話をまとめると次のような話である。
オリジナルの第一天使であったセラが、男と結婚したいが為に、神に反旗を翻し、弟五世界を混乱の渦に陥れた。
オリジナルから抜かれたエンジェルシ-ドを埋め込んだ第二期のオリジナル天使が、其れを収め。
以後、別れた世界で、それを制すために、オルタナティブエンジェルが生まれたり、A-Kが造られたりした。
その後、ラ-ス戦役・・・ラ-ス=フェリアに攻め込むという号令で、皮肉にも収まった、ということ。
「ナハトはそういう流れと関係ない、天使ですけれど。」
「はい?」
「ですから、ナハトは、エル=フレア出身ではないのです。
 どれかと言えば、『黒き星の皇子』事件のソルトレ-ジュさんに近いでしょう。」
「なるほど、な。
アイテムを・・・ええと、エンジェルシ-ドを埋め込まれた、だけの天使か。」
「・・・そろそろ、お昼ですね。
 美味しいお店、知っていますか?」
「はい?」
「せっかくですから、外に食べに行きたいのです。」
シリアスな雰囲気からして一転。
食事の話になった。
確かに、そろそろ昼ご飯の時間ではあるのだが。
そして、聞くに。
フレイスでの一連の事件間に、リュ-ナ達がこちらに来た際の話を聞いていたようだ。
だから、彼女達が食べていないこちらの食べ物を食べてみたい、ということらしい。
そういうわけで、彼女の要望を聞き入れ、秋葉原駅近くのケンタッキ-で食事をとった。
レティ-が、『ヒゲの白い人形がいい匂いと聞きましたの。』という言葉からだ。
此処に来て、やっと、トオルは、彼らが異世界の存在で人外でも、『同じ』なんだ、ということに、実感をもったようである。
腹も空けば、仲間を失えば哀しい、そんな『同じ』であることに。
「れ、レッドホットは・・・口から火がでそう、でした。」
「そうか、結構、美味かった。」
「・・・大丈夫か?」
サンドセットとオリジナルチキン、限定チキン、ビスケットをぺろりと食べた二人、だが、限定チキンのジョロキアチキンが辛かったのか、レティ-は涙目である。
反面、ナハトはけろりとしていた。
ちなみに、トオルは、ツイスタ-セットとオリジナルチキンである。
そして、ナハトの背中のコントラバスケ-スに、彼女達の武器を隠してあることを追記しておく。
「・・・囲まれているな。
 おい、夜見トオル、月匣だ。」
「いえ、向こうが張ってくれましたわ。」
三人を囲むように、真っ赤な月が昇り、月匣が張られる。
「アッシェンテンペス様は、ああ、言われたが・・・。」
どうやら、吸血鬼のようで。
昨日の襲撃者のうち、二人と。
見慣れぬ魔物が十数体。
絶体絶命だ。
如何に、レティ-とナハトが強かろうと多勢に無勢。
見たところ、魔法攻撃に弱そうなゴ-レムのような物も見えるが、レティ-は回復で手一杯になるだろう。
「やらせっかよ!!」
「あぶない、レティお姉ちゃん!!」
その時、二つの声が、割って入る。
同時に、月匣に、三つの人影が降りる。
深紅の闘龍胴着姿で、灰色の一本のお下げをきりりと革紐で結んだ年若い少女に見える褐色の肌の女性。
白地に青いラインが幾つも入る領域魔術師の衣装を来た小学生になったばかりぐらいの黒髪の少年に見える男の子。
その二人が着地すると同時に、レティ-達に駆け寄る。
「・・・エリザ、それに、カイル!?」
「やれやれ、やはりか。
 さて、僕はこれ以上物語には関われない。
 それでも、一つだけ断言しよう、この二人は強いよ?
サブリナとエルジュの信頼を得ているんだ。」
レティ-の声を無視し、そう呟いたのは、黒外套の青年。
ナハ達二人を連れて来た張本人だった。
「はいぃ、あの森の魔女と守護者様から!?」
レティ-の悲鳴が上がるが、とりあえず、戦闘は始まる。




Middle-6 再会と襲撃と祈りと。


「遅くなってごめんね-、ちょっと仕事が立て込んじゃたんだ。」
「やっぱり、第三世界に、戻っちゃったのね。」
「はわ、久遠さんは、其処まで知ってるんだね。
 なら、隠せないな-、うん、確かにアンゼロット様はこの世界にはいないよ。」
アンゼロット宮殿の応接室。
広く取られた空間を彩るのは大理石に似た素材。
毛足の長い絨毯の上に、応接セットが並び、壁には大きな絵画が掛けられている。
そこに通され、目の前に座るくれはの言葉に対して、久遠が一言。
ちなみにくれはは、やっと二十歳に到達したかしないかぐらいの年若い少女。
外見どおりの年齢の陰陽師である。
「お姉さんは、無駄に顔が広いから。」
「年の功ですね-。」
「・・・くれはちゃん、女性に年齢の話題は禁物よ?」
「え、だって、久遠さん・・・」
「くれはちゃん、女性に年齢の話題は禁物よ。」
「は-い。」
一種、決まり通りに会話を交わした所に、ロンギヌスの一人、おかっぱのDr.鈴がお茶を持ってきた。
くれはの後輩にあたる為、世話役のようなものをしているのだ。
元々、魔法大戦争の折、若干十四歳にして、その治療技術でロンギヌス入りをした少年。
故に、前線に赴くことは少ない。
「・・・くれは先輩、氷導王から通信が入っています。」
「シェディさんから?」
「あら、あの子、生きてるのね。
 状況が難しいって、レティ-ちゃんが言ってたのに。」
鈴の言葉に、くれはと同時に、久遠が言葉を洩らす。
どこか、『もう二度と会うはずの無い』知己の行方を知ったかのように。
一応は、レティ-達から、シェディとシェイラは生きていると教えられていたのだけれど。
あの暗黒期を生き抜き、今は三十代半ばだと聞く。
「・・・久遠さん?」
「な、なんでもないのよ。」
『誰だ、貴様?』
くれはの指摘に、意せずして漏れてしまった声に、久遠は動揺する。
確かに、もう二度と会うことは無いはずなのだ。
オクタヘドロンのエ-ジェントにでもならない限り、故郷のラ-ス=フェリアに戻れないのだ。
戻ったとしても、もう知己はろくに生きていないだろう。
サライも逝った。
アンブレアスや、フィルナは行方不明と聞く。
ユ-フェリアや、アルバ-トは生きているらしいとは聞く。
もう、遠い。
久遠が、久遠である前に最初の主だったイリスと駆け抜けたあの千年はもう遠いのだ。
思い出されるのは、アルセイルから始まり終わりつづけている、勇者・ミドリ達の物語。
それからのフレイスまでの物語だ。
フレイスにて、最初の主・イリスは死んだのだから。
向こうでは参年も過ぎていないけれど。最後の主である永蓮を弔い続ける久遠には戻る意味はないし戻る気はないのだけれど。
そこへ、壁の絵画・・・だと思っていたプロジェクタ-に、銀糸の髪に青い瞳の凍りつくような美貌の男性が映し出される。
件の氷導王・シェディ=イクスティムである。
その氷のような声も懐かしい。
最後に聞いたのは、彼がまだ若い頃だ。
「あら、女は秘密を纏って、美しくなるの。
 無粋な質問はよして頂戴。
 ハナタレ小僧が、立派になったのは嬉しいけれどね。」
『・・・ハナタレ小僧だとっ!?』
「だって、私と貴方が出会った頃は、まだ、ライムちゃんが人間として過ごしていた頃よ?
 生意気な小僧って、ナティノちゃんに言われていたでしょう?」
『嘘をつくな。
 貴様のようなヤツとは、あの頃に出会っていない。』
「確かに、ね。
 私のような『ニンゲン』には出会っていないでしょうね。」
「はいはいはい、そこまで。
 シェディさん、わざわざ、通信してきたぐらいだから、何か用があるんでしょう?」
久遠が久し振りに出会った年下の従兄弟をからかうように、シェディの言葉を交わす。
一応、思い出せるように、ヒントは与えているが、答えを言う気は全くないようだ。
『・・・すまなかった、守護者代行。
 こちらの冒険者が、二人。
 また、第七世界の守護者からの伝言になりますが、第七世界より二人、出身世界不明で一人。
 渡航者が、あるようです。』
「はわわっ、色々とややこしい時に、侵入者(エミュレイタ-)?」
「って、久遠さん、あの二人のこと、連絡していなんですか?」
「あら、此処にはしたわよ。
 到達、しているかは知らないけれど。」
『お前の手引きか?』
「う~ん、ちょっと違うわ。
 とある八大神レベルのトラブルメイカ-な死にたがりのカミサマモドキからの依頼で、私は動いているし。
 そのラ-ス=フェリアの冒険者二人・・・レティ-ちゃんとナハトちゃんもその人の依頼でこの世界に来たのよ。」
「鈴。すぐに調べて。
 平行して、久遠さんからの報告書もあるか、どうか。」
「はい、了解したよ、くれは先輩。」
久遠の発言ににわか、騒がしくなる。
ばたばたと、くれはも含め人が行き来するようになり、麒麟は落ち着かない。
しかし、その爆弾を投下した本人はというと涼しい顔で、茶をすすっていた。
「ん-、美味しいお茶だけど、もう少し蒸らした方がいいわよねぇ?」とでも言いたそうな雰囲気だ。
ここで、撃ち殺されるかもしれない、と一瞬、麒麟は思う。
くれはがそうしなくとも、周りのロンギヌスを含めたウィザ―ドはそう思わないだろう。
「マズったわね、アンゼちゃん不在は少し痛いわ。
・・・麒麟ちゃん、顔色悪いけど、大丈夫?」
「え、あ、はい、大丈夫です。」
「ちょっと、お姉さんの情報で踊ってるけど、麒麟ちゃん達の命はどうにかするわよ?」
「久遠さん達のは・・・。」
「私もだけど、ジュリちゃんも、詠太郎ちゃんも・・・世界は違うけれど、レティ-ちゃん達もそういうの込みでお仕事なの。」
「・・・生き残る気がないってことですか?」
「違う違う。
 そういう、始末されるってこと込みでいるの。」
久遠の心配げな言葉に、麒麟は少し送れて返答する。
そして、意外なことに自分が始末されることを認識していたようだ。
しかしそれは、生き残ることではない、と言うように聞こえた。
即座に久遠は否定する。
「それにねぇ、私もだけど、ジュリちゃん達も、ウィザ-ドでも非合法な所にいるのは、復讐の為だもの。」
「・・・人呪わば、穴二つですか?」
「そういうようなところね。」
「ふむ、ならば、撃たれることも、やむ無しとでもいうのかな?」
「・・・あら、伊衛門ちゃんじゃないの。」
その時だった、ジャキっという微妙に現実味が薄い音と共に、久遠にハンドガンを突きつける人物が居た。
男にしては長い金髪に白ス―ツ、そして仮面。
アンゼロット宮殿の名代・・・現場レベルでの統率者・ロンギヌスOO、もとい、三ツ矢伊衛門であった。
「はわ、伊衛門、何をするの?」
「くれは様。
 これは、危険です。それに、侵略者(エミュレイタ-)を招いた。」
「・・・いいのよう。
 私は、これじゃ、死ねないもの。
 知ってて、伊衛門ちゃんも突きつけてるのよ。」
一切、動じないで、久遠は麒麟を安心させるように、微笑んだ。
事実、少なくとも、魔法弾であろうとも、器(ハ-ド)的にはともかく、人格(ソフト)的には死ねないのは事実なのだから。
それに・・・。
「・・・それに、もうすぐだもの?」
「なにが・・・」
久遠が断言するように呟くが、それに問い返す前に、慌てた様子で、まだ制服に着られた少年-ロンギヌスの見習いだろうか-が、入って来た。
「守護者代行、大変です。
 秋葉原にて、月匣が張られた模様。
 士爵魔王級のエネルギ-二体、複数のエミュレイタ-反応を関知しました。」
「・・・それで、トオルちゃん達三人の他に、ウィザ-ドのような反応が三人分あるってとこでしょう?」
「・・・!!」
「続けて。」
「は、はい。
 月匣反応より、遅れて、その月匣内に3人のエミュレイタ-反応がありました。
 同時に、第七世界の守護者様より伝言が来ました。
 ・・・ええと。」
「・・・そうね、エルなら。
 『アハ、こっちから、三人ほどそっち行くからヨロシクね。』ってとこでしょう?」
「え、あ、久遠さん、どういうことですか?」
「・・・MMOで同じパ-ティ組んでる、メイジのエルが、その守護者さんなの。」
「はわ-っ?」
「・・・あはははは。」
全てを予測していたかのような久遠の言葉に、ただ、くれはの悲鳴が響いた。
そして、宮殿が揺れた。





Middle-7 夢望む神と死望む神。


第八世界、その何処かの夜景。
ビルの屋上にて。
周りの建物の明かりがまるで星のように瞬いていた。
「ども、一応、初めまして。」
「・・・・・・」
「これは、プレゼント、ということで。」
少女-TISと、この同じ時間に、日本の秋葉原にいるはずの黒外套の青年。
青年-萩行幹久は、少女に小さなクマのぬいぐるみを渡す。
それを受け取りながらも、疑問を込めた視線を返す。
「因果応報、ということです。
 私が、欲しい結果への過程に、この八界のこの世界で今の私の行動が必要だった、ということだけ。」
TISの視線に応じ、言葉を返す青年。
「・・・黒き皇子事件と、同じ?」
「そういうことになります。」
「・・・何故、外から?」
「それも、必要だった。
 ・・・私は、あの子達が幸せになるのなら、世界の敵にでもなるつもりです。」
「・・・・・・訳がわからない。」
「そういうものですよ。
 私にしてみれば、貴方のオリジナルが力をほとんど使い果たしてまで、本来の裏界である表界を護りたいのか、理解出来ないのですから。」
「・・・・・・」
何処まで知っているのか、と思うと、TISは言葉を途絶えさせた。
読めない、と言うのではない。
この男は解り易い。
ただ、義理の子達の為なのだ、どこまでも。
娘の為に、心臓を抉り出せ、と、言われれば躊躇なく行なうだろう。
TISが、ゆうかとしての生活を護りたかったのと同じく。
「私があの子達に入れ込むのは、貴方にとっての真行寺命や、柊連司との時間のようなものです。
或いは、今の都市伝説のような生活、と言ってもいい。」
「・・・亡くしたくない想い出の残り香?」
「ええ、良い齢して恥かしいですが。」
「恥かしくない。」
「ありがとうございます。」
「・・・・・・」
「では、終った後にでも、お茶に誘わせてくださいね、TIS。」
「・・・わかった。」
そんな言葉を交わす。
見た目だけなら、親子としてもいい、そんな二人。
最後に視線を合わせると、微笑み会った・

次の瞬間には誰もいなかった。
ただ、月だけがそれを知っていたのである。


AfterGlow 2

2010-03-24 22:09:03 | 凍結
割と急展開ですが、次回以降は、わりかしゆるゆる進みます。
ともあれ、『AfterGlow』のミドル二話目いきます。


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Middle-3 明日無き暴走   

明けて翌朝。
「・・・確かに、合理的なんでしょうけど、ね。」
明け方に三人は帰っていった。
そして、寝入り始のトオルと麒麟の携帯に、それぞれ連絡が。
曰く、『ユリ(葵)ちゃんを知らないか?』という、行方を問う電話が入った。
今の2人は、ただのイノセントだ。
少なくとも、葵のほうは目覚めつつ、あるとはいえ、それでも、今はイノセント。
一般人であることに変り無い。
ユリのほうも、豊富なプラ-ナがなく、まったくの一般人だ。
尚且つ、デザ-トスト―ムのマスタ―・都築淳も姿を消していた。
久遠や、養母のジュリ曰く、レベル9の人狼でまだ若いけれど腕が立つウィザ-トであるのに。
何の抵抗の後も無く、姿を消していたのである。
そして、その連絡を受けた久遠が洩らしたのが、先ほどの呟き。
納得は出来ない、しかし、効率面では・・・と言うヤツだ。
人間のウィザ-ドでは、恐らく出ない言葉なのかもしれない、久遠の呟きは。
吸血鬼や、使徒のような、そんな言葉のようであった。
長く生き過ぎて、人間らしい思考が磨耗したかのような・・・。
「淳が、淳が・・・」
「ジュリさん、はい、ち-んして。」
「ち-ん・・・って子ども扱いするな、詠太郎。」
「とにかく、落ち着こう、ジュリさん。」
「だけど、淳は何も言わずに居なくなるやつじゃない。」
等と、ジュリも年甲斐も無く、慌てている。
何時の頃も、子を思う母と言うのは、こういうモノなのかもしれない。
まぁ、ちょっと長い依頼に行った時も同じであるし、淳とて、もう二十歳を超えている。
少々、過保護なのかも知れない。
そして、九時前に、昨夜集まった面々は全員集合する。
久遠が連絡したのだろう。
顔が広い彼のことだ、何処からか、ユリと葵も行方不明なのも掴んだのだろう。
「アッシェンテンペスが、なりふり構わないとは。
 ・・・下手すれば、裏界の勢力図変わるわね。」
「あの魔王に攫われたということか?」
「簡潔に言えばね。
 ・・・淳君は、月匣張りに関しては、一流どころとだから、ユリちゃん達は命の心配はないだろうけど。」
「どうして・・・っ。」
「・・・ユリや葵先輩は、今はイノセントなのに。」
「貴方達の・・・モッがディ-トを滅ぼした関係者だからでしょう?
ユリちゃんは、彼が滅ぶ原因でもあったのだし。」
「・・・復讐に凝った存在に、そういう意味を求めても、意味は無いんですから、哀しいことに。」
「にしても、猶予は無いわね。
 ・・・急いでなければ、ユリちゃん誕生日ぐらいは普通に過ごさせてあげれたのに。」
「・・・はい?」
「あら、ユリちゃんとトオルちゃんは付き合ってるんじゃないの?」
「・・・ま、まだだって。」
「この間、喫茶店の方に、ユリちゃんとお友達がそういう話をしていたから、てっきりそうかと思っちゃった。」
「なんだって、今、その話をするんですか!!」
久遠が、冗談混じりに明るくそう言うと、トオルからは、もごもごと曖昧な言葉を返すのみ。
魔王に誘拐された、という状況ではあるが、青春ディスタンス。
あの二つの事件があり、しっかっと、自分の気持ちを自覚したのなら、そこは健全な高校生。
多少、進展させたいのだろう。
それが、誕生日というイベントなれば。
しかしだ、繰り返すが、今は、ユリと葵、淳の三人が誘拐されたのだ。
もちろん、アッシェンテンペスがやったという証拠は無い
それでも、同時に三人がいなくなれば、そう考えるだろう。
このメンバ―共通の大切な人間なのだから。
麒麟が、叩きつけるようにそう返した。
例え、意味合いが違えど、三人が三人、大切な日常の象徴なのだ。
「日常が、大切だからだ。」
何処に行っていたのか、サンドイッチの大皿を持ったナハトと、お茶セットを持ったレティ-がやってきた。
見ないと思ったら、久遠の指示で、朝ご飯を作っていたらしい。
どうでもいいが、異世界の人間に、台所はともかく、食材を扱わせて大丈夫なのだろうか。
それ以上、ナハトは何もいわず、皿を置くと、レティ―の分も受け取り、お茶の準備を始めてしまう。
「ええと、ですね、ナハトが言いたかったのは、その、あの。
 ・・・貴方達が、夜闇の魔術師(ナイトウィザ―ド)であるように、私達も、冒険者(シ-カ―)なんです。
 そういう、非日常にいても、日常を忘れないでいてくださいってことで・・・」
「・・・つまりは、足元を忘れるな。
 冷静さを失えば、救えるものも救えない。」
レティ―が穏便に、フォロ-しようとするが、ナハトは気にせずに、そう断言する。
一気に、空気が重くなるが、払拭するように、2度、久遠は手を叩く。
「ほらほら、とりあえず、朝ご飯食べながら、方針話し合いましょう。
慌ててて、ご飯も食べてないでしょう?」



           *   *   *



「・・・というわけで、イノセントでも、淳ちゃんが居る限り、大丈夫よう。
 少なくとも、後、4日は、ね。」
サンドイッチをつまみつつ、久遠は確実なことと明かせることを話した。
ちなみに、サンドイッチは、ハムと野菜、ツナなどのスタンダ-トから、チビエビマヨ和えなどの珍しいものなど、種々とりどりだ。
それと、紅茶か、コ-ヒ-。
イモをフライして、クレイジ-ソルトを振ったものなど。
久遠の分は、インスタントのブラックドロコ-ヒ-な辺り、朝に弱いのだろうか。
ともあれ、彼は、簡潔にとりあえずの安全に着いて話す。
アタッカ-の人狼である、都築淳。
彼は、まだ歳若い上に、本来は向かないが、月匣を・・・場所を区切ることに関しては、若手随一らしい。
「詳しい原理は置いておくけど、亡霊系のエミュレイタ-とか、幽霊が顕現していても、私たちに触れないのと、一緒なのよ、つまりつまるならね。」
月匣や、魔道結界、月衣(かぐや)にしても、『世界結界』という一切に非常識を否定するこの世界のル-ルを誤魔化すものだ。
一種の別世界を作るもの。
今回、裏界と表界の狭間にある、アッシェンテンペスの空間に連れて行かれたそうだが、そこは、恐らく、裏界に近い環境なのだろう。
イノセントならば、一時間と生き延びることは出来ない裏界。
しかし、久遠が言うには、位相をずらすことがメイン・・・直接その空間の影響を受けない月匣を作り出すことに特化したウィザ-ドが、淳らしい。
そして、4日と言うのは、彼が集中力を持続させることができるその時間の限界だ。
「・・・とりあえず、情報収集だ。
 息子の命はもとより、イノセントの命を守らないのなら、1000年前、私を生き延びさせたことを後悔させてやろう。」
「・・・という事は、ジュリちゃんは、レオンちゃんの所ね。
 あとは、魔術師協会・・・アンゼちゃんはいないから、くれはちゃんの所。
アンゼロット宮殿にいるでしょうから、そこね。」
「ちょっと単独で調べたいことがあるから。
僕は、単独行動させてもらうよ。」
「はいはい。
 トオルちゃん達はどうするかしら?」
「そこの2人は?」
「ちょっとややこしいから、此処に居てもらうことになるわね。
 だけど、それを見逃すほど、甘くはないのよねぇ、あの子。」
そして、情報収集をすることになる。
話し合った結果、
ジュリの情報収集に、輪之助が。
久遠の情報収集に、麒麟が。
待機組に、トオルが。
それぞれ、一緒に行動することになった。
戦力的には、輪之助が待機組にいて、トオルがジュリについていくほうが、バランスが取れるのだが・・・。
なにやら、知りたいことが、あるようで。






Middle-4 空虚な再会

移動に特化した箒-イ-ジィブル-ムのタンデムシ-トに、乗せられ、輪之助が訪れたのは、結界に護られた優美な城。
その前に、寄り道をした白亜の屋敷よりも、大きく・・・そして、気味悪かった。
白亜の屋敷で、何かを取り、この城にやってきた。
トランシルヴァニアの森奥深くにあるその城に。
「ここは?」
「背教者会議の本部だよ。
 ・・・30年ぶりかな、ジュリ。」
「そうなるわね、レオンハルト・ロ-ゼンクラウン。
 此処に積極的に、足を向けたいと思うほど、耄碌しちゃいないさ。
 その程度は、覚えている。」
輪之助の問いに、答えたのは、ジュリではなかった。
答えたのは、少年。
肩で切り揃えた銀髪と底冷えのする深紅の瞳、人形のように精緻なそんなジュリとさして年齢の変わらない外見をしている。
そう外見だけは。
2人は、齢千年を超える数少ない吸血鬼なのだ。
「・・・で、人間をわざわざ、連れて来たのは?
 魔術協会や、魔法学校の連中でさえも、ボクの城にはともかく、此処には来ないのだけれどね。」
「不躾なのをお前が好まないのを知っているけれど。
 状況が状況だ、全部吐け。」
「何を・・・というのは、ジョ-クだよ。
 今から、会議だ、なんのかは分かっているだろうけれどね。」
「悪趣味。
 先に言っておく、直接、判断した者が出席しないのに、滅殺を含めた極刑を決めるならば、私は、ここから離脱するぞ。
 先代の血を受けた私に、何割着いて行くだろうな?」
「・・・わかったよ、今回の件が終るまで、押し留めてみよう。
 突き当たりの小部屋が、空いている、そこに茶を運ばせるから、待っていてくれたまえ。」
「わかった。」
輪之助の知らない事情があるのだろう。
ただ、『血を継いだ』ではなく、『血を受けた』と表現するあたり、何かあるのだろうが。
輪之助は、知らないが、生粋の吸血鬼であるはずのジュリは、何故か、「魔術師」のスキルを使うところを目撃されている奇妙な吸血鬼なのだ。
少なくとも、今現在、吸血鬼に、他のクラスのスキルを使えるスキルは存在しない。
していても、個人スキルであり、体質のようなものだ。
そして、その体質のリストには、ジュリの名前はない。
流れるように、二人はそんな会話をする。
言われた小部屋に、行くと、城に見合うシンプルながら豪奢な調度品がある。
中央のソファに、ジュリは崩れるように、座る。
「大丈夫か?」
「・・・一応、ね。」
「あいつ、吸血鬼・・・だよな?」
「そう、背教者会議の今のトップ。」
「襲撃の時の連中のことを聞くつもり、なんだな。」
「半分はね。」
「・・・・・・難しい事はわからんぞ?」
「ことは、ややこしいの。
 始まりは、800年前の誘拐と、500年前の暗殺だけれど、だけど、発端は1000年前の私の空白が原因なんでしょうね。」
顔色が悪いジュリを気遣う、輪之助。
彼よりは、事の次第とその原因を知っているせいか、少々言葉には躊躇いが見られる。
欠けてはいるが、断片を組み合わせた上で、仮とは言え真実に近付いているのだろう。
しばらくして、お茶が運ばれ、その持ってきた吸血鬼が去った後、ジュリは一つの質問を彼にする。
あの時・・・モッガディ-トが、自分達にした質問でもある。
「・・・侵魔とウィザ-ド、人間の恋愛はあると思う?」
つまりは、その両者、或いは、片思いだろうと、『好き』になるのは、ありなのか、という質問。
懐かしげとも、哀しげとも、或いは、後悔ともとれるように、その質問をジュリはした。
そして、輪之助にしてみても、それは、あの出来事の後に考えたことだった。
確かに、侵魔は、ウィザ-ド・・・輪之助の認識を借りるならば、すごい力を手に入れた自分にとって、倒すべき存在だ。
だけれど、人間が一人一人違うように、侵魔の一言で、括ってもいいのだろうか。
あのモッガディ-トは、人間には冷酷であった。
・・・それでも、確かに、彼も、ユリを愛していた。
その上で答えた。
「わからん。」
「・・・・・・は?」
「わからん。
 俺は脳みそスライムだぜ?」
輪之助は、そうは答えたが、どこか肯定しているようなそんな笑みであった。
いっそ小気味良く、『認めない』などと否定が返って来ると思っていた。
ジュリは、ぽかんとする。
そして、しばらく、するとお腹を押さえて笑う。
「はははっ、なるほど、運命とはよく言ったものだね。
 モッガディ-トの最期を次の世代に見せるか、侵魔との関係は変わっているということか。」
嬉しそうだった。
そして、ジュリは、養子の淳や詠太郎にすら話したことの無い話をしよう、と言う気になった。
自身の記憶から消され。
記録からも削除され。
生き残りが口を噤み。
そして、今では、関わったのは、自身とレオンハルト、今のアッシェンテンペス以外の三人以外は、死んでしまった。
時の流れに、吸血鬼とて、勝てなかった。
そう、あの時から、1000年以上経っているのだ。
無論、齢1000年を超える吸血鬼はいても、事件のことは少ない。
それ以外で、唯一、知っているであろう、エミュレイタ-達は沈黙している。
≪死毒の王≫ライア=アフリクシオンも。
≪蝿の女王≫ベ-ル=ゼファ-も。
≪金色の魔王≫ル-=サイファ-も。
何かを知っているのは、確かであるのに、それを黙して語ろうとはしない。
遠すぎるほどに遠い、あの頃の記憶。
少なくとも、何かが合ったのは確実なのだ。
当時、交流が無いはずの異世界の技術が使われていた痕跡がある以上は、エミュレイタ-が、関わっていた。
もしくは、『神』が関わっていたと考えるほうが、筋は通るのだ。
「どうぜ、会議が終るまで、あと数時間はある。
 今回の大元でもあるし、昔話をしようか。
私にしても、推測が多いけれどね、それでも、悪くない線の昔話だ。」
「・・・昔話?」
「そう、盛大に滑稽さ。
 アンゼロットとル-が、ウィザ-ドの指導者とエミュレイタ-達のリ-ダ-が手を組んだらしいのだからね。」
「は?」
確かに、今は、ウィザ-ドとエミュレイタ-が手を組んでいるが、それは、冥魔という共通の敵がいてこそだ。
しかし、目の前の少女はなんと言った?
1000年前に、その二つが手を組んだと言ったようだ。
「昔々の話さ・・・。」
そして、話し始める。
真実と思ってしまえば、明けない夜のような、そんな哀しい物語を。


さぁ、語ろう?
終っているけれど、終らないお話を。
ロミオとジュリエットのように、悲劇的だけれど、一つで終れなかった。
そんな悲劇を。


「それは、1000年前のこと・・・。
まだ、エスメラルダも、レオンハルトも、クロイツも、私のそばにいたあの頃・・・。」






Middle-5 小さな願い



裏界のライアの居城にて。
その封印された城の主・ライアが日がな一日過ごし、少し前に、ベルと会話した書庫ではない。
別の部屋に、彼らは居た。
敢えて言うなら、研究室、だろうか。
ただし、『怪しげ』と『魔法使い』のとか、形容詞がつくような。
そこも、青白い光と本で満ちていた。
書庫との違いは、部屋の中央にある、水鏡と何かの実験道具の乗った机だろう。
一緒に、お気に入りなのか、書庫にあった安楽椅子と同じ椅子が、あった。
其処に座っているのが、ライアだ。
もう一つ、人影がある。
灰色のショ-トカットに、おどおどした灰茶の瞳、蒼白なほどに真白い肌の十代半ばほどの少女。
これで、古式ゆかしいロ-ブや、シンプルなワンピ-スならば、一枚の絵のように、填まっていただろう。
或いは、今風のガ-リッシュな服や、ブレザ-系の制服でも、今の彼女ほど浮かない。
その少女は、黒い包帯を素肌に巻いていた。
滑らかなその裸体に、要所要所を覆うような形で。
スレンダ-ながら、決して、貧相ではないせいか、少々扇情的だ。
・・・ただし、彼女がおどおどびくびく、今にも物陰に隠れそうでなければ、とつくのだけれど。
彼女は、≪荒廃の魔王≫アゼル・イヴリスという。
そして、彼女は覗き込むように水鏡の側に立っていた。
「中々、面白い状況のようだ。
 詠太郎が、単独行動を取るとわね。」
「・・・・・・」
「可能性としては、ともかく、今のあの坊やなら、ジュリについていくだろうに。」
「・・・・・・」
「どうしたかな、アゼル。」
「・・・動くの?」
「ああ、おそらく、などと曖昧ではなく、確実に動くね。
本を読むのに飽いた訳ではないが、此処に居るのには飽きた。」
「ベル、困りそう。」
「大丈夫。
 ル―が復活したとは言え、ベルが勢力一位には、違いない。」
「・・・おと、・・・ライアが、獣の欠片を押さえているから?」
水鏡に映る何かを知るかのように、ライアは独白めいた言葉を漏らす。
事実、それは、アゼルに語りかけるものではなかった。
しかし、アゼルは突き動かされるように、そう訊ねたのだ。
「そう。
 ル-が在り処を掴んでいる獣の欠片の内、大が3つと、小は10は、私が見つけた物に重なる。
 それぞれのサイズでも、力の大きい・・・正確には純度が高い、と言うべきかな、その欠片を取り出せないように細工をした。」
「・・・・・・」
「ル-=サイファ-は、不在の時間を作るべきではなかった。
 シャイマ-ルの流れを利用して、私を留めさせた、ならば、一時にしろ、流れを途絶えさせたから私にもチャンスができた。。」
「・・・お、・・・ライアは、ル-を憎んでいるの?」
「憎んでいるさ。
 あの時の僕が居なくなれば、ジュリが死ぬことがわかっていただろうね。
 少なくとも、あの小賢しいル-にはね。」
肯定する。
そして、ライアは、自身が虎視眈々と此処から逃れることを狙っていたと。
アゼルとて、知っていた。
・・・500年前に、喪失ったはずのジュリが生きていた頃から。
欠片を人の魂に埋め込み、情報を集め、自身も此処から抜け出したがっていた。
そして、アゼルは羨ましかった。
造り出された者とオリジナルという違いはあれど、同じ吸魔の破滅の能力を持っていても、大切な人を作れたということが。
初めは、ベルとて、道具としてだったし。
造ったル-は、言うまでもなくだ。
今は、ベルは少し違うとは思うけれど。
最初から、何の気負いもなく、触ってきたのは、彼が初めてだった様に思う。
その同じだった彼だけが、大切な人を作れたのは・・・。
「・・・羨ましい。」
「どうしたのかね、アゼル。」
いつの間にか、ライアがアゼルの目の前にいた。
こうして、立たれると、彼はそれなりに身長がある。
靴は、カカトの無いものを好んでいるせいか、さほど、実身長と変り無い。
アゼルが、おおよそ、150半ば~後半ほどだから、170後半は超えているのだろう。
彼女が答えないでいると、幼子にするように、彼はアゼルの髪を撫でる。
「君は、どうするのかね?
 ル-派は、傍観。ベル派も、基本的に傍観だ。
 まぁ、パ-ルは動くのかも知れないけれどね。」
「・・・お父さ・・・あの、ライアは何で、そこまでするの。
自分が滅ぶかも知れないのに。」
「愛する・・・ううん、違うね。
 僕が生きる、生きていると実感するならば、此処には居たくないのだよ。」
待ち過ぎるほどに待った。
相手が自分のことを覚えていないかもしれないことを承知の上で。
それでも、ライアは言う。
生きながらに死ぬのは、ごめんだと。
「・・・アゼル、何処に、属していても、決めるのは、君自身だ。」
「・・・わたし自身。」
「そう。」
「・・・っっ。」
アゼルが、迷っていると、ライアは、彼女を横抱き・・・花嫁抱っこで抱き上げ、安楽椅子にそのまま腰掛ける。
そして、ぎゅっと抱き締める。
「ねぇ、アゼル。
 僕や、君のこの能力は、ろくに制御できやしない。
 ・・・究極的に、僕らは、孤独だ。
 恋人じゃなくとも、一人でもいい、誰か大切な人を作ればいいさ、アゼル。」
血を吐くような、そんな呟きだった。
抱き締めたのは、この時の顔を見せたくないからだろうか。
アゼルは、恥かしくて逃げ出したいほどであったけれど、それでも、自身も一度は考えたことのあること。
黙って、されるままにしている。


そして、少しだけ。
アゼルも、アゼルの意思で動くことに決めた。






+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


『AfterGlow』のミドル二話目です。
キャラが、予定外な行動を起こしたので、シ-ンが前後しました。

某占い札戦争のルシュファ-、もしくは、『恋射ち』の『私』と変わらないのです。
彼女、アッシェンは。
大切な誰かを失って、そうそう生きたいと思うほど、世界は温かくないのです。


そして、裏で色々うごめいています。
1000年ぶりに、800年ぶりに、500年ぶりに。

いろいろと、捏造してますが・・・。
TRPGというのは、その辺り、結構融通が聞いたりします。
というよりですね、公式で、アスタロトが出たり、ル-が復活するなんて一年前は思わなかったのよ。

次のまとまり分は、恐らく。
待機組と魔術協会組になるはずです。
もしくは、乾単独のマスタ-シ-ン的な話か。
うふふ、予定は未定ですが。
少なくとも、ジュリの過去話編ではないのです。

いろいろと、ゴ-ルデンル-ルを拡大解釈していますが。
久遠が、魔剣使いなのに、長寿っぽいのも。
ジュリのスキル構成も。
既存ル-ル・・・正確には、PC側のル-ルで説明がつくようにしています。
そのあたりの解説は、終了後の後書きにて、語りましょう。


ともあれ、また次の物語に。

アゼル大好きな十叶でした。




AfterGlow 1

2010-02-10 22:53:24 | 凍結

Middle-1 忘れられた青から滲む感情(いろ)


月匣に、深紅の色さえ視認できるほどに濃い殺気が満ちる。
呼応するように、夜会服姿の年頃の妖艶なる男女の四人。
そして、ねじくれた角と蝙蝠の角を持つ怪物も、雄叫び魔力を吹き上げる。
魔王とトオル達の間に立ち塞がった。
狂おしいほどまでに濃密な魔力と瘴気。
ウィザ―ドとして、幾ら経験をつもうとも、人であるが故にヘビに睨まれたカエルよろしく動けなくなる。
「準備、なさいな。
 それくらいは、待ってあげるわ。」
余裕、ではなく、全力の貴方達を殺さないと意味が無い、と言わんばかりに彼は準備を促す。
本能的な恐怖をトオル達は振り払う。
理由はともかく、何故という疑念は振り払えないが,各々に死ねない理由がある。
トオルは愛する少女が為に。
麒麟は愛しの親友が為に。
輪之助は己が成すべきヒロイズムの為に。
ならば、それが、戦う理由だろう。
トオルは、ウィッチブレ―ドを抜き払い、姿を銀色の髪、闇の深淵色の瞳の青年・・・即ち、モッガディ-トの姿に変じる。
輪之助は、リンカイザ―に変身した。
麒麟は、破魔矢を月衣より抜き、符を構える。
そして、戦端が切り開かれようとするその刹那。
「疾く走れ、『雷光矢(バルティル)』」
月匣に人が抜けれるほどの穴が空き、そこから、五人が入ってくる。
そして、トオル達とアッシェン側を引き離すかのように、雷光の矢が通り過ぎる。
桃色に近いほどの赤紫色の波打つ髪で、身丈ほどの大剣を携えたゆったりとした服の青年。
黒い髪を肩ほどに切り揃え、ハンドガンを構えるカソックとトレンチ姿の青年。
闇にも負けない銀色の長髪を背中に流し、棍を帯びた輝明学園高等部の制服姿の少女。
漆黒の闇色の髪を尻尾にし、二本の剣を構える、RPGにでてきそうな暗殺者風の少年。
淡く緑に輝く髪をお下げにした、暗殺者風の少年と同じくRPGの僧侶風味で槍を携えた少女。
そして、五人の中央にいた僧侶のような少女が、今の雷光を放ったのだろう。
「・・・やっぱりか。
 アッシェンの動きを察知した途端、行方不明になっていた四人。
 マデュ―姉妹に、ヤン=アメルン、アルヴィン=イェルム。
そして、やっぱり・・・背任行為を許すほど≪背信者会議≫は甘くは無いぞ。」
夜会服の四人と『アッシェン』を見て、泣きそうに、輝明学園制服姿の少女は、呟いた。
≪背信者会議≫・・・吸血鬼達の最大コミュニティの名前が出たことで、夜会服の4人に動揺が走る。
知らない顔、ではなく、むしろ、尊敬する相手だったのだ制服の少女は。
「ジュリちゃん!!」
「大丈夫だ、久遠。」
「・・・無茶はいけないわよう。
 ともかく、トオルくん達、一応、加勢に来たわ。」
「あの喫茶店の!?
 何故?」
「うふふふ、お姉さんには、秘密の情報源があるのよ。
 ともかく、来るわよ!!」
素早く、トオル達側に駆けより、臨戦体制をとる五人。
泣きそうな制服姿の少女-ジュリに、赤紫色の髪の青年-久遠は、声をかけるが一蹴されてしまった。
久遠はめげずに、顔見知りの若いウィザ―ド達に声をかける。
彼の喫茶店『デザ-トスト―ム』や、裏側のウィザ-トアイテムショップ『デザ-トファントム』で、何度か、言葉を交わしたことがあるのだ。
友人と言うほど親しくないものの、非日常(ウィザ―ド)の知り合い、であるのだろう。
そして、そのオカマ口調で、彼が月森久遠であることを三人は確信する。
「・・・オレはオマエを守る。」
「さて、私にこの姿(ほんき)を出させたのだから、ただじゃ帰さないわ。」
四人の吸血鬼とア-クデ―モンが、アッシェンテンペスの戦術指揮を受け、向かってくる。
それが交錯するまでの刹那。
暗殺者風の少年と、ジュリの姿が変わる。
否、元に戻ったのだ。
少年の背には、禍々しいまでに黒き一対の翼、その身に宿るは黒き光。
少女の背には、節くれだった蝙蝠の漆黒の翼、その瞳に宿るは紅き光。
魔力は塗り変わる。
本来の・・・魔力行使が一番しやすい姿に戻ったのだ
「詠太郎、今は、回復より、攻撃だ。
 あいつに、変われ。
 私が、時間を稼ぐ。」
棍を構えたジュリが、カソックの青年に、そう指示を出す。
自身は、翼はためかせ、一足に、群に向かって行く。
それに見かねたのか、それとも、モッガディ-トがそうさせたのか、トオルもウィッチブレ―ドに飛び乗り、後に続く。
純粋に時間稼ぎなのだろう。
キャスタ-やヒ-ラ―向きの吸血鬼が白兵戦を挑む辺り。
ある程度レベルが無ければ、同じ吸血鬼ならまだしも、ア―クデ―モン相手には、自殺以外のなにものでもない。
そして、一方、残った六人のうち、天使化した少年は待機・・・というよりも、僧侶少女の側にいる。
庇う為だろうか。
「・・・・・・特殊能力、使いますから、ちょっと離れますね。」
「そんなに、危ないもんなのか?」
「アゼル・イヴリスと同じ、と取って貰っても構いませんよ。
 正確には、それは副産物なのですが。」
詠太郎は、そう短く会話をして、5sq×5sqの端の真ん中のほうにいた面々から、少し離れ、呪を唱え始める。
参十秒ほどのそれが唱え終わると同時に、そこにいたのは、カソック姿の青年ではなく、別の人物。
淡い藤色のゆるいウェ―ブの髪を背中に流し、蒼穹色の瞳で、左目に片眼鏡をかけていて、何処となく裏のありそうな青年だ。
着ている物は古式ゆかしい魔王のようなロ-ブにマント。
そして、撒き散らすのは、破滅の瘴気。
「相変わらず、せっかちだねぇ、詠太郎。
 まぁ、愛しのジュリの為だから、僕にしても、否応もないのだけれど。」
「魔王っ!!
こんな時に・・・ッ」
「一応、味方だから大丈夫、でも、魔力取られるのは勘弁して。
 離れてる分、ちょっとだけマシだと思うのだけれど。」
麒麟の言葉に、久遠がフォロ-をいれる。
それどおりに、魔力-MPが、一人あたり、15ポイント削られる。
仕方ないね、とでも言うように、彼は、前方の反対側へ4sqへと即座に移動する。
その移動で、効果圏内にいるのは、アッシェンのみとなる。
雄たけび上げて、トオルとジュリをすり抜け、ア―クデ―モンが、こちらに来る。
そして、闇のような口腔に、黒い魔方陣が展開される。
ディメッションホ-ルだろう。
スッと前に出たのは、久遠。
「くす、ワタシにそれは野暮よねぇ。」
全員分のそれを受けたのに・・・それも、相手の表情?からしても、的確な魔法攻撃だったのだろう。
ミリ単位ですら、揺らいでいない。
輪之助と十歳程度も変わらないはずなのに、老齢の龍使いのウィザ―ドを思わせる練度だ。
事実、これは、ジュリと先ほどのロ-ブの男しか知らないのだが、久遠は永い時を生きている。
そのせいもあるのだろう。
しかし、一見して、新宿歌舞伎町のおにね-さんがそうだ、というのは、少々、意外だろう。
「ねぇ、輪之助ちゃん。
 麒麟ちゃんとそっちの僧侶っぽい子・・・レティ―ちゃん、お願いしていいかしら?」
何か考えがあるのか、久遠は、魔物使いの青年にそう言葉をかける。
無言でそれに頷き、即座に庇える体制に入る。
「じゃ、ナハトちゃん、逝くわよ?」
「・・・字が違う気がする。」
「細かいこと気にしない。
 たぶん、あの子の性格考えると、ア―クデ―モンはともかく、身内が倒れてまで自分の目的果そうとはしないでしょうし、ね。」
「ツィアのナイト役を取られたくなければ、とっと終らせろ、と言う所か?」
「そう。」
半ば、引き摺るように、ナハトと同じく、2人がいるスクエアに移動する。
2sq先で乱戦しているトオルと、その1sq横で、彼に支援を打ちつつ、棍を繰り出すジュリ。
既に、男女1組の吸血鬼は、討ち果たされている。
血を流してはいるが、死んでは居らず、気絶しているようだ。
「集まったわね。
 風よ、なぎ倒せ、≪ハリケ―ン≫。」
アッシェンがそう宣言すると、風が巻き上がり、暴風となる。
暴風がトオルがいるsqを中心にして、四人だけを飲み込む。
四人の吸血鬼とア-クデ―モンは、その魔法の効果に居ない。
的確に、味方を効果から外している。
それに・・・
「ふうむ、僕の能力を受けながら、そこまで、行動できるとは・・・。」
ライアが、呟くように、魔力を削られ続けているのに、魔力行使の集中力を失わないのは、元々の素地が良い、と言うのも、あるだろう。
魔王ではなく、ウィザ-ドとしての。
「ともあれ、私が、受けるわよ!!
・・・だけど、お姉さん、魔防は低いのよぅ。」
「では、一応。
≪プリズムアップ≫」
「必要、無いかも知れないけれど。
 同じく、≪プリズムアップ≫。」
カバ―リングする久遠を、呆れながらも、魔法防アップの魔法をかける2人。
アッシェンテンペスの方が、強いからだろうか。


この後、攻勢に出たアタッカ―2人と、高レベルの2名を相手にしては、吸血鬼は無力化され、ア-クデ―モンは霧散した。
尚且つ、アッシェンテンペスは、ライアの特殊能力・終焉の鎌により、魔力を根こそぎ削り取られた。
少なくとも、今現在、表界に干渉している分に関しては、という注釈がつくけれど。
「・・・さあ、どうする、エスメラルダ。」
ジュリは、アッシェンを、『アッシェンテンペス』ではなく、『エスメラルダ』と呼ぶ。
それに対して、彼の瞳と気配は揺れる。
もう、呼ばれることが無いはずの・・・モッガディ-トや、アスデモ-トが滅んだ今となっては、呼ばれることが無いはずの『自分』の名前だからだ。
「お、・・・おだ、まり、ください・・・ジュリ様。」
会話から察するに、≪背信者会議≫に所属しているという、女吸血鬼が、身を起こすことは愚か、声すら途切れ途切れで、話す。
確かに、一条家など、エミュレイタ―に与するウィザ―ドはいる。
いるが、≪背信者会議≫を始め、『エサ』とは断言しているとは言え、人間に敵対する同胞に厳罰を科す吸血鬼や、人狼のコミュニティは多い。
その上で、この四人の吸血鬼は、この魔王についている。
「退くわ。
 ・・・だけれど、覚えていなさい。
 理由はどうであれ、モッガディ-トを滅ぼす一助をした夜見トオルとその仲間よ。
 私は、貴方達を必ず、殺すわ。
 ・・・私の魔力を使い尽くしてもね。」
ジュリに促されたからではないだろう。
どちらかと言えば、久遠の予想通りに、吸血鬼達の命を優先したのだろう。
≪ポ―タル≫を起動しつつ、アッシェンテンペスと呼ばれた魔王は、そう言って、掻き消えた。
「・・・・・・これで、ヤツが動くかな。
 それだけは、止めないと。」
ジュリの呟きと、ライアが乾に戻るのを合図にしたかのように、月匣が閉じられた。




Middle-2 ×××は時空を越えて


その後、事情を説明しろ、と言うトオル達を連れて、≪デザ-トスト―ム≫へと、向かう。
流石に、9人が、一同に、集まれるほど、リンカイザ―ハウスは、広くはない。
そういうわけで、だ。
灯りはついているものの、≪CLOSE≫の札が掛かっている。
構わず、久遠は扉を開ける。
「あ、すいません、もうおわ・・・久遠さんに、マム!?
 ・・・なんか、面倒事のようですね、学生ウィザ―ドまで、いると言うことは。」
扉を開けると、ドアベルと共に出迎えたのは、焦げ茶の髪にこれと言って特徴の無い風貌の青年。
室内なのに、帽子をかぶって居るのが、特徴らしい唯一の特徴ではあるが。
彼は、店主の都築淳と言う。
そして、微妙に衝撃的なことをいうが、久遠は無視して、二階の書斎を借りると宣言して、さっさと8人を先導していってしまう。
ジュリは、お茶と菓子を淳にそうお願いして言った。
仕切りなおして、二階の書斎。
ドアのある壁以外、三方が本棚になっていて、部屋の中央に、重厚なデスクセットと応接セットがある。
それぞれ、座り、淳がお茶セットを置いていった後。
「さあて、何聞きたい、シュガ―ボ-イズ?」
「とりあえず、久遠さん以外の名前、聞いて良いですか?」
自己紹介すらしておらず、あの戦闘を行なったのだ。
麒麟の指摘と言うか質問はもっともである。
「ジュリ=ロ-ゼンマリア、或いは、都築樹里(つづき・じゅり)になる。
 一応、≪背信者会議≫所属・・・籍だけだけどね。」
そう、棒読みに、輝明学園の制服の少女は、最初に答える。
「僕は、乾詠太郎(いぬい・えいたろう)。
 ロ-マ聖王庁所属のウィザ-トになるよ。
 後、僕もだけど、ジュリさんもできれば、名前で呼んであげて。
 名字で呼ばれるのは慣れていないから。」
続いて、カソック姿の青年が、ちょっと困ったような微笑で、自己紹介をする。
付け足しの言葉から思うに、人のよい性格らしい。
「・・・・・・レティ―ちゃん?」
「え、えう、あ、はい。
 レティ―ツィア=ヴァ―ルハイドです。
 あの、久遠さん、どこまで喋って良いですか?」
「何処から、来たのか、までね。
 どうやっては、この後の情報収集シ-ンで。」
「メタなことは言わないの、久遠。」
どぎまぎしながら答えたのは、エルフのように、耳の尖った僧侶のような少女。
服装から、多少予想できていたものの、別の世界から来ていたようで。
かなり、メタなことを久遠が言ったのを、机の上のクラッカ-を投げ、ジュリはツッこむが、それを彼は口で受け止める、という芸をやる。
「・・・ええと、その、ラ―ス=フェリアっていう、第一世界からやってきました。
 シェロ-ティアの探索者協会の所属でしたが、今は、フレイスの異世界連合に身を置いています。
 こっちのナハト=トワイライトは、私の仲間です。」
それに困りつつも、とりあえず、僧侶の少女-レティ―はそう言った。
同じ世界から来たであろう、少女より若干年上に・・・輪之助と同じぐらいかすぐ下ぐらいの少年は、少女の言葉に、頷き肯定する。
喋る気は更々無いらしい。
正確には、無口なのだろう。
しかし、次の瞬間、口を開いた。
「月森久遠。
 オレとツィアは、休ませて貰うぞ。」
「ナハト?」
「・・・ツィア、無駄打ち過ぎだ。
此処は、魔力が薄い。」
「そ、それは、ナハトも同じでしょう?」
「・・・オレはまだいい。
 そこの神父みたいなのいる分マシだ。」
「うう~っ、でも・・・」
「いいわ、レティ―ちゃん、休んでちょうだい。
 お姉さんが、知ってる分は、話しておくから。
 部屋は、さっきのだから。」
久遠が、苦笑混じりに、許可を出すと、レティ―は席を立つ。
そして、何も無い所で、どんがらがらと、すっ転ぶ。
絨毯が敷いてあるとは言え、下は固い床。
「・・・ちゃんと足元も注意しろ。」
床とキスする前に、掬いあげるようにナハトは、レティ―を支え、そのまま、お姫さま抱っこして、部屋を出て行く。
滑るように、滑らかでありながら、同時に物音を立てない動き・・・エンジェルになる前の出自を見せるかのような。
それを見送ってから、久遠は改めて、説明を始める。
「とりあえず、お姉さんの認識間違ってないと思うけど。
 トオルくん達が襲われた理由わかってるかしら?」
「モッガディ-トとのことか?」
「そうなる。
 では、私と久遠達がそれを助太刀した理由はわかるか、若いの。」
トオルの回答に、外見上は、一番幼いジュリがそう訊ねる。
真意を掴ませない、老人特有の透明な色の瞳だ。
何かを隠しなれた、そんな。
「・・・少なくとも、貴女とあの魔王の配下は知り合いでしょう。」
「ついでに言うなら、アッシェンテンペスの・・・。
 いや、正確ではないな、『今』のアッシェンテンペスの『中身』とも知り合いだ。」
「・・・?」
「・・・あの月女王の失策さ。
 自身の指揮でああなったのだからね。
 世界の敵を一人増やして、侵魔よりの私を創ってしまったというべきだろう。」
奇妙な物言いに、歳若いウィザ―ド達に困惑が混じる。
それに、唇の端を吊り上げる皮肉な笑みで、月女王-即ち、『真昼の月』と呼ばれる世界魔術協会の長・アンゼロットのことを揶揄するジュリ。
逆らう人間/ウィザ―ドなどほとんど居ないし、悪く言うことすらほとんど無い。
しかし、今、ジュリははっきりと、かつて、アンゼロットの指揮で行なわれた作戦が、今の状況の遠因であると断言する。
「今、私に、言えるのは、それぐらいだ。」
「・・・ともかくね、私とジュリちゃん、詠太郎ちゃんとさっきの2人は、とある人の仲介で、対アッシェンテンペスの依頼を受けたの。
 ジュリちゃんは、特に、あの子を滅ぼさせるわけにはいかないから。」
「・・・侵魔の味方なら、俺は止めるぜ?
 正義の味方が、そんなヤツとつるめないからな。」
「安心しろ、リンカイザ―。
 私は、一応、人間側だ。
 アンゼロットや、レオン兄様が、何を企もうとも、私は私を仲間と言ってくれた天春(あまかす)の恩に報いる為にも、侵魔を利用することはあっても、侵魔の味方になることはない。
 ・・・あの哀れな幼女以外はな。」
輪之助の言葉に、断言するように、ジュリは返す。
彼女が言う『天春(あまかす)』は、昨年の春から、今年の春までの一年間にあったマジカルウォ―フェアの最中に、倒れた龍使いだ。
そのもういない彼の事に触れるジュリには、もう還らない者に対する青色がある。
また、今現在の『ル―の転生体』候補は、幼い少女だ。
「・・・それよりも、一ついいですか、久遠さん。」
ある意味居た堪れない、この雰囲気を払拭する為ではないのだろうが、麒麟が、そう切り出した。
それに対して、無言で久遠は続きを促した。
「途中で現れた魔王は、なんですか?
 そこの詠太郎さんと、同一人物です、よね?」
「・・・ジュリちゃん、何処までは話す?」
「話せることは話せ。
 隠すようなことではないし、アッシェンテンペスの件が終るまでは、即席とは言えパ-ティだからな。」
久遠の問いに、あっさりとジュリは許可を出す。
そして、久遠が語ったのは、次のような話。


詠太郎は、今は聖職者であるが、元々、転生者であること。
更に言うなら、特殊すぎる転生者だった。
現在も、裏界に存在している魔王の一柱の転生体。
マジカルウォ―フェア以前の記録上、その封印に、ウィザ―ドと侵魔がその封印に手を貸した唯一の魔王の転生者。
それが、千と数百年前。
しかし、その魔王の転聖者を確認できたのは、四百年ほど前のつい最近だ。
裏界に月女王が、当時のロンギヌスを送った直後のことだと言う。
その転生者の特徴は三つ。
対侵魔・・・最近で言うなら、冥魔に対して、強い影響力をもつこと。
ようは、ダメ-ジを与えやすい性質/特殊能力を持つこと。
その転生者の持つ、遺産武器は、武器であるよりも、守りとしての性質が強いこと。
そして、ジュリ=ロ-ゼンマリアに遠い縁があること。


「強い影響を受けた、何人かは、詠太郎ちゃんみたいに、裏界の本体と交替する能力を持つのよ。」
「・・・難しいことはわかんねェけど、侵魔なのか?」
「いや、橘先輩、たぶん、俺と同じ、落とし子じゃないかな。」
「正解よ、トオルちゃん。」
「あくまで、性質などのと言うレベルだ。
 一昔前までは、侵魔と共闘など愚の骨頂だったからね。」
「少なくとも、今の僕は、それでも、僕は聖職者だからね。」
概略ではあるが、つらつらと久遠は話す。
いくつかを隠した上で。
しかし、脳みそスライムと呼ばれようとも、歴戦のウィザ―ドで在る事に変り無い。
輪之助は、こう聞く。
久遠にしてみても、うっかりな一言だったのだろう。
「ジュリって子に、関係あるって言うのは?」
「・・・ちょっとぉ、輪之助ちゃんが、脳みそスライムって言ったの誰よ!!」
「久遠、落ち着け。
 それに関しては、私は覚えていない、と断言しておこう。
 知っているのは、長寿で石頭の長老どもの中でも、レオンハルトと私の養父ぐらいだ。
 養父は人間に討たれたし、アイツは話してくれないがな。」
思わず、テンパった久遠その言葉に、ジュリは、窘めつつ、フォロ-をいれる。
詠太郎は、そのジュリの失われた記憶の断片を知っていながら、黙っていた。

そして、話は進み、夜は更ける・・・。

紅き月の導きがままに・・・・。




+後書きめいた補足+

というわけで、ミドル突入です。
一応、補足いれていきます。
ミドル終盤までに気付かれてないとキツイ伏線もありますので。


Middle-1は、のっけから、戦闘です。
その親玉、アッシェンテンペス/エスメラルダは、まず、名前ありきでした。
アスタロト/アスタロスをモチ―フにして。
はい、公式のアステ-トより、前に一応設定したのですよ?
そして、敵のレベルとしては、トオル達・・・レベル3では、勝つのは難しいレベルと構成にしています。
吸血鬼四人も、個人デ-タのある敵として設定してあります。

・・・後、この変則パ-ティ、全員が全員人外か、その関係ってどうなんだろうか。
一応、リプレイや公式設定の解釈と特殊能力曲解でですが。

また、「ある日の会話」などで、あるように、NWを含む主八界では、神様レベルとして、『萩行幹久』が糸引きしてます。

『Middle-1 忘れられた青から滲む感情(いろ)』は、悲劇は忘れ去られても、いつか、何かが芽吹いてしまう、ということで。

ちなみに、『雷光矢(バルティル)』は、セブンフォ―トレス準拠の魔術です。


Middle-2は、一応、本来的なオ―プニング。
ホットスタ-トでなければ、この終わりに、月匣張られて・・・なのでしょうが。
ともあれ、先にアッシェンの決意を見せておきたかったと。
尚且つ、直接的な脅威として、先に、Middle-1を演出。

また、ライアと詠太郎の関係は、以前、何処かのリプレイで見たNPCとPCの関係です。
味方が実は、敵の重鎮だった!!という関係。
本来ならば、序盤で明かすべきではないのでしょうけど、こっちのほうが、楽しいので明かしました。
侵魔と人間、種ではともかく、個で分かり合うことは難しくは無い。
それを、アンゼロットや、ゲイザ―が許すかどうかは置いておいて。

尚且つ、レティ―ツィアとナハトは、味方であっても、トオル達側の人間ではないので、ちょっと線引きも。
と言うより、この2人は、とある人の依頼で動いているのであって、レティ―ツィアはともかく、ナハトには、トオル達を助けなきゃという意気込みがありません。
情報収集以外に、仲良くなるシ-ンを演出して、どうにかしたいとは思いますが。
・・・黒ひよこが、誰に懐くのか、どうなるか、未だに不明。

『Middle-2 ×××は時空を越えて』の『×××』は好きな単語を。
個人的には、おまけで投稿予定のライアとして、『キモチ』辺りを思考しています。




さてさて、次からは、情報収集の開始です。
惚れた病に薬無しというわけで。
誰に惚れれるか選べれば、この世の不幸の九割は無いでしょう。
・・・とか言いつつ、Middle入れたいシ-ンだけで、10つ・・・一応、15ぐらいで切上げれるように頑張りますですよ?
シナリオ上は、6つでいいのですけれどね。
うち、二つは、マスタ―シ-ンって、どうなんだろうね。


ともあれ、次の物語で。


AfterGlow オ―プニング

2010-01-13 23:22:42 | 凍結
幾百年も昔のこと。
一つの悲劇があった。
その悲劇は、終れども。
物語は、未だに終らず。

そして、現在(いま)。
魔王・モッガディ-トが倒れ数ヶ月。
親交が故に、一人の魔王が表界に降り立った。

望むは、親しき輩(ともがら)の敵討ちなのか・・・・?
それとも、自身の終焉なるか・・・?


ナイトウィザ―ド
『AfterGlow』
紅き月が昇る時、異界の門が開かれる。





Opening 1 『通じる何か・・・』

「初めまして、リンカイザ―・・・いいえ、橘輪之助。
 夜見トオルの先輩の、って聞いているけれど、間違いかしら?
 彼のところに、大人しく案内してくれない?」
ある日の事。
詳しく言えば、ビック・ザ・陳老師との闘いを終えた約一ヶ月後のことだ。
冷え込みも激しく、この街では大変珍しいことに、雪もちらついた日の黄昏も終り頃の時刻。
秋葉原の路地裏で、リンカイザ―こと、橘輪之介が、いつものように、冥魔などと戦っていた時のこと。
正確に言うならば、それが、終わる直前の事だ。
そう、いつものように、しょっぱい終わり方を迎えようとしていた時だった。
じたばたはしていても、こちらへの交戦意欲を失っていなかった冥魔が、脱兎の如く逃げてしまったのだ。
無論、いつものことではない。
呆然としているリンカイザ-に声がかけられた。
男にしては高く感じるものの、口調の女性と断じるには、少々低いそんな声音だった。
それが、先ほどの声だ。
また、同時に、別の月匣が張られる。
現れた声の主は、腰ぐらいまでで光の加減で銀に見える淡い金髪に、右が蒼穹、左が翡翠色のオッドアイ。
リンカイザ-と同じぐらいの背丈だが、男性にしては、やや華奢な体つき。
彼と並ぶと、今の服装でも、女性で通るだろう。
いやに、完成されすぎて、現実味のない美人だった。
・・・そして、印象に残りにくい。
美人なせいもあるけれど、生きているという気配・・・覇気がない。
いつぞや、相手にした幽霊のような茫洋としている。
着ているのが、今のワイシャツにベスト、スラックスなどではなく、古式ゆかしい魔術師の黒い法衣でも、違和感がないどころか、しっくりと来るだろう。
口調が、今の女性言葉ではなく、厳かな男性口調ならば尚更だ。
「・・・アンタ、侵魔でさらに魔王級だろう?
 何の用だ。」
「言ったわよ、橘輪之介。
 魔王だからといって、ウエットな感情が無いわけじゃないわ。
 そうね、名前は、アッシェンと呼べばいいわ。」
「・・・あの?」
「そう、魔王で、アッシェンとつくのは私しか居ないと思うけれど?」
リンカイザ-が、気付いたとおり、目の前の青年は侵魔としては、割と知られている魔王だ。
しかし、その「アッシェン」が、つく魔王は、・・・≪傍観享楽≫、≪双享伯爵≫と仇名されるアッシェンテンペスぐらいである。
彼は、裏界は、から出てこないので有名なのだ。
この間のマジカルウォ―フェアも、観戦はしても、参戦はしてこなかったはずだ。
配下の侵魔を派遣はしていたらしいが、他の魔王と違い、本人は出てこなかった。
物覚えが壊滅している輪之助とて、辛うじて、記憶の端っこに引っ掛かっている程度には知られている。
裏界から出てくる時も無いわけではないが、他の魔王のように侵略目的ではないようだ。
しかし、それに対して、裏界での地位がそう低くは無い魔王だった。
少なくとも、輪之助一人では叶う相手ではない。
「・・・?」
「・・・・・・話ぐらい、聞いてくれないかしら?
 それとも、エミュレイタ-だからって、あの無慈悲な月女王みたいに無差別に滅ぼすのかしら、リンカイザ―さん?」
アッシェンは、愉しげにそう言う。
ディフェンタ-に自分を倒す攻撃力はないし、貴方には用はないと言うように。
それでもだ。
言葉は、戦闘へ誘っている。
しかし、その自分と視線を交わすその瞳は、大事なヤツがいなくなった人と同じ色をしていたのだ。
まるで、滅ぶ為に、誘っているかのように。
「・・・俺のトコの離れまで来てくれるか?」
「あら、いいの?」
リンカイザ―は、魔装を解き、赤茶の髪の青年の姿にもどった。
その上で、自宅へとその魔王を誘ったのだった。
礼儀としてか、侵気を抑制してくれたようだ。
・・・まるで、ウィザ―ドのように。




Opening  『返して欲しい』

場所は移って、リンカイザ-ハウス。
橘家の離れである。
時刻は、夜半近く。
あれから三時間ほど経っている。
丁度、輪之介の両親は、旅行に行っているようだ。
聞くに、結婚記念日らしい。
息子が、二十歳前後だと言うのに、熱々である。
アッシェンが材料を持ち込み、カップケ-キを作り、それが、焼き上がり完全に冷める頃になって、連絡を受けた、夜見トオルと鳳凰寺麒麟が、来た。
ちなみに、それは、手作りとしては、野郎が作ったことを想像しなければ、幸せな味だったという。
のんきそうに、お茶をすすっているアッシェンとカップケ-キを食べる輪之介とは、対象的に、2人は、目を白黒させている。
夜見トオルは、茶味のある髪のどこにでもいそうな中肉中背といった風情の唯一マントが奇異に見える少年である。
鳳凰寺麒麟は、黒髪ツインテ-ルがチャ-ミングな中国の技法を含む陰陽師の少女である。
まあ、当然だろう。
今は、そう積極的に発散していないとは言え、侵魔特有の黒い気配・・・瘴気を発散している魔王がその場にいるのだ。
そして、何故か、
2人が、リンカイザ-ハウスに訪れてから、時計の針が数週する頃になって、アッシェンが、口を開く。
「・・・うん、モッガディ-トが、認めただけはあるわね。
 そして、あのアモ―レが利用しようとしただけの執着の強さも。」
懐かしそうに、そういえる程度には、無感情気味に懐かしげにそう口にした。
しかし、彼から漂う魔王と呼ばれるだけに値する威圧感と瘴気によって硬直したままの2人。
輪之介は、この数時間で慣れたのか、とりあえず、傍観しているようだ。
「・・・ふむ、どうしたのかしら?」
「いえ、貴方のいうモッガディ-トとは、あのモッガディ-ト?」
「・・・そうよ。
それ以外に、魔王・モッガディ-トはいないわ。」
「それで、用件は?」
「せっかちな男は、嫌われるわよ、トオルくん?
 モガッディ-トと競ったんだから、もう少し穏やかにね。
 ・・・それに、気付いているのでなくて?」
言葉を数言話したことで、確信したのか、
そう言った瞬間に、月匣が張られる。
途端、闇色の空間に、リンカイザ―ハウスは置き換わる。
そして、昇るは紅い紅い月。
「!!」
「さあ、大人しく殺されて頂戴。」
赤黒い瘴気が、アッシェンの華奢な身体から立ち上る。
そして、現れるのは、黒いタキシ-ドとイブニングドレスヴァンパイアが二体づつ、ア-クデ―モン三体。
さあ、どうなる、ナイトウィザ―ド達!!





Opening 3 『襲撃の裏側』

数時間前、成田空港。
カソックに、黒いトレンチコ-トに身を包んだ一人の青年がいた。
黒に近い紫色の髪を無造作に切り、白いマフラ―を垂らしている、寂しげな焦げ茶と蒼穹色の瞳が印象的な二十代半ばの容貌だ。
彼は、何処かから帰ったのだろうか、大きな旅行カバンをからころと引きながら、空港の駐車場へと向かう。
そこに、バイクに擬装したオラシオンがあるのだろう。
「・・・接触したね。。」
『急がないと、マズイと、僕は思うけれど、詠太郎。』
「うるさい、黙れ、ライア。」
脳裏に突然聞こえた声にも、眉一つ動かさず、カソックの青年-乾 詠太郎は、言葉を返す。
その言葉に気圧されるでもなく、声の主は楽しげに、からからと笑い、こう言い返す。
『詠太郎、彼女は、或る意味、僕らの大事な大事なジュリの行き着いたかもしれないもう一つの形だよ?
 殺させるわけにも、手を汚させるわけにも行かないんだ。』
「わかってるよ、ライア。
 ・・・それに、もしも人間を殺せば、彼女も抹殺リストに名前が載る。」
『そうだね、アンゼロットも、あれの暴走は2度目だ、最優先で抹殺しようと、ロンギヌスをよこすだろうさ。
おっと、今は、赤羽くれはが代行か?』
「誰が、代行でも、それを承認させるだろうね、ロンギヌスの古株は。
・・・・・・それだけは止めなきゃ。」
『急ぐよ、詠太郎。
後、二時間以内にアキバに入らなかったら・・・』
「あ-、はいはい、解かってますよ。」
あくまでも、ひとり言の範疇の音量だが、少々剣呑な話である。
ライア、と呼ばれる声の主は、ウィザ―ドの詠太郎と相反するエミュレイタ―に属する存在ではあった。
しかし、条件付きにこっちに出てきて、ナイトウィザ-トとしているようであった。


―――数分後、駐車場から、側車付のバイクが出る。
乾詠太郎は、向かう。
一つの悲劇を引き起こさない為に。
深夜近い首都高を夜闇の魔術師のバイクがひた走る。





Opening 4 『急いで、急いで、間に合わない』


「目立ってますわよね?」
「んもう、大丈夫よ。
 格好で目立ってるんじゃなくて、走っているから目立ってるのよ。」
「・・・久遠、こっちで間違いないんだろう、その輪之助の自宅は。」
「・・・・・・」
夜の秋葉原をひた走る四人組。
一人は、緑みのある銀髪を二本のお下げにし、不安げな紫色の瞳をした、FFの僧侶のような格好をした十代後半の少女。
一人は、ピンクに近い赤紫色のウェ―ブのかかった髪を適当に縛り、片目を眼帯で覆っている女物の様式の服装を着た青年と言ってもいい年齢の男性。
一人は、銀色のストレ-トを適当に流し、冷たい印象の瞳は紅、輝明学園の高等部冬服を着た、十代前半の少女。
最後の人は、青みのある黒い髪をビ-ズ紐でまとめ、無感情な瞳は暗い紫の、ファンタジ―物の暗殺者のような服装の二十歳ほどの青年。
そんな奇妙な。
少なくとも、服装から推測できる限り、なんの接点も無さそうなそんな四人である。
MMOや、その他のオフ会にしても何らかの共通の印象があるものだ。
それに、僧侶のような女の子と、暗殺者のような青年はリアリティのたっぷりの十字槍と数本の刃物を持っている。
真夜中近くで、人が少なくなっているとは言え、天下の往来にそれを持ち出すのは、ル-ル違反だ。
正確に言うなら、コスプレイヤ―は、1メ―トル以上の長物は持ってはいけないのだ。
「とりあえず、今、月匣が張られたということは、前段階が終わるのに、五分としても、十分以内につかないとマズい。」
「そうよね、一応、ミッキ―ちゃんが、回りくどい方法を使って。
わざわざ、前もって、高レベルの私達に依頼しておいた意味無くなるわ。
 ・・・それに、今回の件が面に出れば、進行しているあのことに大きな影響よう。」
「・・・俺達のところと違い、プラ―ナが薄いがその分、神の力も弱い。
 世界結界が無くなれば、手に入れやすい林檎に早変わりか?」
「・・・冥魔達だけではなく、他の世界の方々が進行してきそうですね。
エルフレアや、エルスゴ―ラあたりが特に。」
「それに、ラ―スは、連司ちゃんがどうにかするけど。
 ・・・エルフレアは難しいわよね。」
「ともかく、急ぐぞ。
 考えてみれば、神田川攻防戦で、麒麟嬢には支援を貰っていたからね、借りは返さなくては。」
話が、ファ―ジ・ア―スから他の主八界の話に広がりかけたが、ジュリがそれに制動を掛ける。
あまり、したくない類いの話なのだろう。
妹のように思っていた彼女を探し、アンゼロットを脅してまで、探し歩いたあの日々を思い出すのだから。
或いは、過去に失った幻のような誰かを思い出すからか。
「・・・そうねぇ。
 詠太郎ちゃんは?」
「ここに。」
4人に並ぶように、カソックにトレンチ姿の青年が、横並びに走る。
この近くの自宅にバイクを置いてきたようだ。
それに対し、抑揚は無いものの、やや嬉しそうに、ジュリはこう言う。
「遅かったな、乾。
 ・・・突入するぞ、ここか、久遠?」
「そうよ。」
「突破する。」
そして、リンカイザ―ハウスのあった場所まで来ると、その離れはそのままに、周囲の空間がかすかに歪んでいる。
場所を確認すると月衣(かぐや)から、数本の水晶で飾られたナイフを取り出す。
宙に浮かんだそれが五芒星を描くように、何も無い中空に突き刺さる。
そして、硝子が砕けるような音と共に、人が通れるほどの穴が開く。
5人は、飛び込んだ。






Opening 5 『揺籃の傍観者』


裏界・某所。
その封印された城の主がいる場所を一言で示すならば、『本屋』『書庫』のどちらかで済む。
多少、他の色々と道具が雑多に転がっているが、それでも、せいぜいが、研究室の域には行かない程度。
青白い光が、満ちたその空間は、床から数メ―トル上の天井までびっしりと本か、道具が詰まったそんな本棚と、床に山と積まれた本。
そして、主が座る安楽椅子。
酷く、現実くさいのに、現実味を欠いたそんな場所だ。
この封印された城のどこもそこも、大体は、本で埋め尽くされている・・・そんな城。
「・・・暇人だねぇ、ベル。
 僕ら、魔王達は、確かに仲間だよ・・・だけど、同時に、ライバル。
 この間の宝玉の件にしても、そうだろう?」
安楽椅子に座り、珍しい来客に対して、そう言ったのは、年の頃、二十代後半の一人の男性。
淡い紫色の髪を大雑把な三つ編みにして、瞳は蒼穹の蒼。
着ているのは、古式ゆかしい魔法使いが着るような古ぼけたミスリル製の肩当てと黒いロ-ブ。
その下に、ベストと黒いスラックスが覗く。
古き時のメイジウォ―リアを何処か思わせる姿をしていた。
名前を、≪死毒の王≫ライア・アフリクシオンという。
片眼鏡ゆえにか、少々、うさんくささが目立つ青年の姿をしている。
彼は、目の前の少女にそう、面倒そうに答える。
「だけれど、ウィザ―ドになるのは、裏切り行為よ、ライア=アフリクシオン?」
その彼に、言葉を返すのは、中学生ほどの少女。
ふわふわの銀髪を紅いリボンで結い、輝明学園高等部の制服にポンチョ姿をしている。
あどけない、と言ってもいい容貌で、街を歩いていても、そう違和感はないだろう。
名前を、≪蝿の女王≫ベ―ル=ゼファ―と言う。
ル―=サイファ―が倒れたあのマジカルウォ―フェア以後、裏界・・・本来の第八世界の覇権を握った第一位勢力の魔王だ。
「ふうむ、おかしな話だねぇ。
 ・・・僕は、この城に封印されている。
 君達風に言えば、ここから、外・・・裏界に出るのですら、君達が表界に出る以上の制約がある。
 更に表界に出れば、レベル∞の僕ですら、数値化できるほどになるからね。
 君とて、アゼルといても、平気ではないのだろう?」
「・・・質問しているのは、私よ?」
「簡潔に言えば、どうでもいいことだね。
 ・・・ジュリが生きて幸せに笑ってくれてさえ、いるのなら、裏切者を呼ばれようとも、ね?
 僕自身は裏切る気は更々ない。
ジュリをどうこうしようとしない限りね。
・・・もちろん、この幽囚の身にも、喜んで甘んじ様ではないか」
「・・・・・・」
「出来ないだろう?
 アゼルですら、ああだ。
 ・・・ここは、裏界、表と違って力を振るうのに制約はないよ。」
「死ぬ気?」
「言ったろう、君が邪魔することで、あの子が笑えなくなるなら、実力行使・・・しようか?」
あくまでも、ライアは淡々としすぎるぐらいに、穏やかで。
少々、芝居がかった言葉を流すその様は、自分の命などどうでもいい、そうはっきりと言っている。
ベルは、それが面白くない。
もちろん、ベルは強い。
そこらのウィザ―ドや魔王が束になろうと負けないだろう。
実力的には、その市井の魔王に比べても、目の前の魔王は強い。
自分と同じく、古代神を源流に持つ魔王だ。
負けはしないだろうが、決して楽しい展開にはならないだろう。
実力以上に、彼が持つ体質故にだ。
如何な長大な力を誇ろうと、捨て身で能力を使おうとする彼を相手にしては、数百年は干渉できないだろう。
「どうする気?」
「ん?アッシェンに、あのウィザ―ド達を殺させないし、逆もない。
 ジュリが哀しむからね。」
「・・・・・・」
「・・・少なくとも、ベル?
 侵魔は減らないよ?」
「だけれど、どう説明するのかしら?」
「・・・ふふ、そうだね。
 あの金色女の欠片・・・獣の欠片だっけ?
 ・・・それを僕が、この場所から知覚した。
 ル―が居ない以上、此処に居たくなかった僕が、それを手に入れるために、数百年前から因果を操作していた。
 ・・・こんな筋書きは?」
少なくとも、変に反対しつづけるよりは楽しいことになりそうだと思ったベルはどう誤魔化すのかを訊ねた。
返って来たのは、獣の欠片・・・ル―=サイファ―の欠片のことだ。
数週間前のクリスマスに、テスラが所有していた五つのその欠片を利用して、ル―=サイファ―は復活した。
そんな特殊な欠片だ。
欠片の一つ一つが、ル―=サイファ―であるといっても過言ではない。
「場所を知っていたの?」
「とりあえず、大きなのを3つと小さなのを15個の場所は、知っているよ?
 あの女が、完全復活するのは楽しくないからね。」
そして、それが全て揃えば、ル―=サイファ―が復活する・・・それが面白くないのは、2人に共通した話。
ベルにしてみれば、いけ好かない女である。
それ以上に、ライアにしてみれば、あの神子と巫女の件のように、裏から糸を引いた金色の魔王を心の底から憎んでいる。
本さえ、読んで過ごせればいい・・・というような、侵魔にあるまじき、彼が心の奥底から憎むのが、彼女なのだ。
心から愛するジュリに向ける親愛以上に、深く憎んでいるのかも知れない、そんな相手。
「ああ、そうだ。
 大きなの1つと、小さなの10個の場所は教えてあげるよ。
 モ-リ-に教えるより、君に教える方が楽しくなりそうだ。」
「あいつ、来たの?
 ル―の腰巾着。」
「もちろん。
僕が探すだろうことは、知っていたからね。
・・・まぁ、ともかく、大きなのを一個餌にして、言い逃れが出来るようにしておくよ。」
「・・・面白くないわ、誰かに踊らされるのは。」
「欲張りすぎると、録なめにあわないよ、ベル=フライ?
 もうすぐ、撮影の時間じゃないのかい?
 君の可愛い可愛い崇拝者達へのご褒美の。」
「・・・・・・・・・・」
図星であったのか、それはさておき、ライアの言葉に、嫌そうに顔をしかめると、姿を消した。
それに視線をやることすらなく、彼は笑う。
くつりくつり、楽しげに楽しげに。







+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

というわけで、ナイトウィザ―ド二次『AfterGlow』の今回予告とオ―プニングです。
一応、小説ですが、リプレイ的な雰囲気の為、フェイズ表示をしていきますです。


この作品は、ナイトウィザ―ド2ndリプレイ『愛はさだめ さだめは死』の二話を下敷きにしております。
二話目の更に一ヶ月後から物語は始まります。
・・・このリプレイが出た頃は、ラ―ス・フェリアとか、主八界なんて関係ないないなノリだったんですけど、最近のを推察すると、この事件は、そのごたごたが色々あった頃なのです。
なので、『聖なる夜に小さな願いを』の数週間後になります。
文中のイラストや単語から、10月以降なのは、確実な物語になりますので。


『好きになれる相手が選べれば、この世の悲劇の9割は存在しない』という物語になります。
メインにしろ、脇の面々にしろ、ワンフレ―ズのこの言葉で片がつきますから。


では、『AfterGlow』開幕になります。
終幕までお付き合いください。



*『ナイトウィザ―ド 2nd』『セブンフォ―トレスメビウス』及び、ソ-スブックを参照にデ-タを組みました。






『AfterGlow』関係キャラ

2010-01-13 23:20:40 | 凍結
こっちサイドのキャラ設定。
一応、PC番号を付けてみる。


PC1 『ジュリ・ロ-ゼンマリア』

総合レベル :31 
クラス   :吸血鬼 / キャスタ-
履歴    :魔術師
第一属性  :冥
第二属性  :虚
ワ-クス  :凍れる樹姫
ライフパス :出自・記憶喪失/特徴・封印された記憶
       生活・リビングレジェンド/特徴・名声
コネクション:『マスタ―・ヴァンパイア』レオンハルト・ロ-ゼンクラウン/関係・貸し
容貌    :銀髪の直髪を膝裏まで伸ばしている。
       酷薄なまでに鮮烈な深紅の瞳と似合わぬ幼い容貌。
設定    :吸血鬼としての生活の中で、妹のように思う同胞を探して、世界を放浪していた。
       ・・・その最中、不本意ながら、名前は売れてしまったのだ。
       そして、数百年、秋葉原を安住の地と決め、日々を送る。。
       彼の魔王が、輝明学園に『夜見トオル』として通っていたのを私は知っていた。
       ・・・どんな存在でも、光に憧れないはずがないと、私自身実感していたから。


PC2 『乾 詠太郎』

総合レベル :14
クラス   :聖職者 / ヒ-ラ―
履歴    :転生者
第一属性  :天
第二属性  :地
ワ-クス  :ブラッディ・カタリナ 
ライフパス :出自・魔の仇敵/特徴・不退転の決意
       生活・結社の一員/特徴・組織の力
コネクション:
容貌    :常に寂しげなオッドアイが印象的な美人。
       年齢に対して、やや老練ともいえる雰囲気を持つ。
設定    :『ウィザ―ド』、それは俺にとって、退屈な『普通』のスパイス。
       ちょっとだけ特別で、スリリングな日常だった。
       だけど、今は、ただ一つの目的の為に、聖王庁に身を置いている。
       人間とエミュレイタ―の恋、そんなもの認められるはずが無い。
       聖職者としても、ウィザ―ドとしても、断固として。
       ・・・しかし、俺は、どこかでそれを認めている。


PC3 『ナハト・トワイライト』

総合レベル :19
クラス   :エンジェル / アタッカ―
履歴    :サイレントウォ―リア、ライトウォ―リア。
第一属性  :闇
第二属性  :氷
ワ-クス  :背中を刺す刃 
ライフパス :出自・記憶喪失/特徴・封印された記憶
       生活・運命の出会い!/特徴・誓い
コネクション:探索者協会代表・アルバ-ト=コ-スト / 関係・保護者
容貌    :黒い髪と暗い紫の瞳の線の細い、十代半ばで時を止めてしまった少年。
       氷のような暗く冷たい気配だが、主人だけには、微笑を見せる。
設定    :自分が、組織に飼われた暗殺者まがいの探索者だったことは覚えている。
       しかし、何故、エンジェルになったかは覚えてない。
       眠り起きたら、そうだった・・・寂しくは無い。
       最愛の主人であり、女性である、ツィアに出会えたのだから。
       第一世界より、主人の受けた依頼の為、世界を渡り、ファ―・ジ・ア―スにやって来たのだ。
       ちなみに、主人のツィアとは、ちょっぴりいい関係


PC4  『レティ―ツィア・ヴァ―ルハイド』

総合レベル :22
クラス   :プリ―ストウォ―リア / ヒ-ラ―
履歴    :フェイ、バ-ド、精霊使い、デヴァインウォ―リア
第一属性  :空
第二属性  :森
ワ-クス  :運命の導き手(フェイト・コンダクタ―)
ライフパス :出自・探索者/特徴・冒険譚
生活・超☆方向音痴/特徴・偶然
コネクション:人造天使・グルス=デギス / 関係 友人
容貌   :風を絃にしたような緑に輝く髪をお下げにした小動物めいた紫色の瞳の少女。
      人見知りはしないが、第一印象の九割が『怯えている』と言われるぐらいおどおどしている。
設定   :人間で探索者だった父の話を聞いて育ったせいか。
      風のフェイだった母の影響か、私は、旅から旅への根無し草。
      ・・・だけど、方向音痴なせいで、しばしば、世界を渡っていた。
      なかでも、それなりに長くいたエルクラムでは、転職もした。
      そんな旅の中で、恩ある存在からの依頼に、私は、第八世界に飛んだ。
      自分と、ナハトのような恋人の結末を見届ける為に。


PC 5  『月森 久遠』

総合レベル :19
クラス   :魔剣使い / ディフェンダ―
履歴    :無し
第一属性  :虚
第二属性  :火
ワ-クス  :紅き死神
ライフパス :出自・天涯孤独/特徴・鋼の心
生活・ディレタント/特徴・博覧強記
コネクション:絶滅社上司・京上司郎/関係・ビジネス
容貌    :ピンクに近い赤紫色の波打つロングヘアと黒革の眼帯と大変目立つ&お近づきになりたくない容貌。
       しかし、気さくな性格ゆえにか、受け入れられている。
設定    :秋葉原の表通りよりも、ちょっと外れた場所に喫茶店『デザ-トスト―ム』を開いている。
       ウィザ-トや、輝明学園の生徒から、初老の男性まで幅広い客層のシックな喫茶店だ。
       それは、あくまで趣味。
       可愛い子や、気にいった子の為に、日々動いている。
       そして、師走のある日、少し気になる話しを友人から聞いた。
       これは、『愛の人』としては、立ち上がらねばならないだろう。



PC6?  『ライア・アフリクシオン』

Coming soon





こんな感じ。
曖昧かつ難しい役割のライアに関しては、もう少し物語が進んでから後悔します。





月の静寂(しじま) En.13 運命の糸車は廻る 下

2009-07-21 21:20:21 | 凍結


「もったいない、真似しましたね。」
「赤バラを倒す、誓いだ。」
「逆に、髪を切らないという選択はなかったの?」
「その前段階なのだがな。」
「・・・くすくす、綺麗でしたのに、本当にもったいない。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・(慌&赤)」
「可愛いですねー。」
そんな会話。
或る意味、いつもの日常の会話。



月の静寂(しじま) En.13 運命の糸車は廻る 下




「う、そ、だろ・・・。」
「それは無いだろう、エア。
 日記等で、僕を知って、演じていると言う可能性を持っているようだけれど。」
強いて言えば、雰囲気に、男性のようなモノが混じり。
風舞姫が、中性的に、見えてるようになったこと。
それと、優しそうに見えた様相が、今は、小悪魔めいたものに変化したぐらいだ。
顔のパーツは一切変わっていないのだ。
「それでも、死に際を知るはず無いモノねぇ、クレマン。」
「ブラーヴォ、察しが良いのは、君の数少ない美点だ。」
「・・・《風舞姫》サン、いエ、クレマン。
 《先代憑依法(プリディセサー・ポゼッション)》は、使エないンじゃなイかったですカ?」
「んー、それは正確じゃないね、シオン坊や。
 使えないと言うより、今代殿は、使いたく無いというところだろうね。
 僕も、同じだったから、ね。」
「それは、どうイうことですカ?」
「恋をした女の子が、一番変わるのは、君も知っているだろう、シオン坊や。」
「・・・あの時、死んだはずだ、クレマンは。」
否定したいかのように、エアは断言する。
覚えているのだろう、あの冷たくなっていく様を見た上で、今ここに「居る」と言われても、信じ難いのだろう。
元々、エアは、リアリストだ。
自身が、自身故に、見た事しか信じない。
しかし、今の状況は、見た事であっても、否定したいのだろう。
「あのねぇ、見た事を信用するのは、君の数少ない美点の一つだったと思うのだけれど、エア。
 僕が、死んだのも、今ここにいる事も、両方、真実だ。
 嘘でもなく、むろん、作り事では無い。」
「・・・それで、なんの協力依頼なのかな?」
「うん、じゃ、仕事の話を先にしよう。
 ・・・シオン坊や、写真。」
「はイ。」
エアは、とりあえず、「クレマン」の追求を止め、ビジネスに徹することに決めたらしい。
となると、クレマンは、後ろに立っていた《ルリイロ》・・・紫苑に、写真を出させる。
----鋼のような濃い銀髪の優男な青年。
----赤みのある髪の和装の少女。
----焦げ茶の髪のパンク風な服装の女性。
----藍色みを帯びた髪の白衣姿の女性。
最後の写真以外は、隠し撮りをしたようなアングルで、最後のは履歴書に使えそうなそんな写真だ。
そして、最後の写真の女性が、先ほど、クレマンが出る以前の雑談で出て来たプログラマーだろう。
ふんわりと、「お嬢様」と言う言葉がしっくりくる、楚々とした美人だ。
「一応、今代殿から聞いている残りを話すと。
 一枚目の優男風味が、通称「赤バラ王」。
 二名目の和装少女が、通称「黒鳥」
 三枚目の女性が、通称「情報屋・木蓮」
 四名目の女性が、ターゲットのアンジェリア=ヴァイサス。
 裏稼業としてのあだ名は、『ブランシェ・アンジェ』
 ターゲットは、元々アメリカ系だったんだけど、三年前に、仮面御前に引き抜かれたわけだ。」
「まだ、弾道ミサイルの使用ハ、決定じゃないデス。
 しかシ、そうなル前に、誘拐したイと言う事だそうデスヨ。」
「だから、俺の所に、そもそも来るのがおかしいと思うのだけれど?」
「・・・ターゲットが、君の妹だから、でしょ?
 一応、死んだ身とは言え、惚れたこともある女性を忘れるほど、阿呆じゃないのだけれど、ね?」
「・・・何を証拠に?
 俺が知らない、としらばっくれるとか、考えないわけ?」
そこで、クレマンは、風舞姫の顔で、にぃと笑う。
悪巧みを考える策士家というよりは、イタズラを考えた子どものようなそんな笑みだ。
エアも、少なくとも、「彼女」を自分のこの稼業に関わらせたくないようなのだ。
「・・・考えるけれどねぇ。
 でも、エア。
 今代殿は、優秀な萬屋だということは、忘れてないかい?」
「あーはいはい。
 俺とアイツが、毎年、クリスマスとお互いの誕生日に、カードとプレゼントを送っている事をつかんでるだろ?
 それくらいしか、少なくとも、ここ二十年の生活で、俺とアンジェを繋ぐモノはない。
 加えるなら、それ以前のは、辿れないように、「アンジェリア=ヴァイサス」を作っているからね。」
クレマンの言葉に、エアはあっさりと認める.。
必要が在れば、隠すが、隠す事によって、状況が悪くなるなら、手札は晒す。
それが、負けに繋がらないのが、エアの強みでもある。
しかしだ、裏稼業とカタギの境界に近い裏稼業のエアは、深淵の裏稼業の・・・しかも、十年近くやっている古参のことは、知らなかった。
「うん、そういうトコも愛しているよ、エア。
 この身体じゃなかったら、惚れ直している所だよ。」
「・・・冗談でもよしてくれ。
 それで、何をしろって?」
「もちろん、殺せ。とか言うのじゃないし。
 連れ出してくれれば良いのだよ。
 ・・・だよね、ルリイロ?」
「ええ、そうデス。」
「へぇへぇ。
 わかりましたよ。」
「では、名残惜しいけれど、又何時か、ね。」
エアが、其処まで言うと、毛糸編み人形が、ほどけるように。
或いは、夕焼けから、夜に変わるように。
鮮やかに、髪と瞳が、白銀と翠から、青銀と橙に、変化した。
そして、瞬き一つで、クレマンと風舞姫は、交代したのだった。
「ありがとうございました、カプリコーン。」
「よく言うよ、脅し付けといて。」
「あれくらいは、脅し付けたうちに、入らないよ。
 それに、《死風舞の風舞姫》の名前にすら、ビビらなかったんだもの。
 たまたま、8代前の《歌乙女》が、貴方の知り合いだったから、利用しただけで。」
「・・・・・・・・・・・・」
「さて、これから、用事が入ってないのなら、こっちの験担ぎに付き合って。」
「・・・はい?」
「験担ぎ。
 なんか、食べたい物が在るなら、大抵の物作れるわよ。」
「いや、用事は無いけど。」
「・・・あと、ディスティア=ヴァリード。
 そっちは、竜胆紫苑よ。」
「へ?」
「ディスティアサンなりの礼儀デス。
 一緒に、仕事する人、本名を名乗る。」
「そう、んで、験担ぎに、付き合える?」
「つきあえるけど。」
「なら、リクエスト。
 大体、何でも作れるわ。」
「えーっと、じゃ。
 四川料理っていうのかな、この間、そこの中国人のやってるとこで、食べて、美味しかったし。」
「ふーん。
 なら、回鍋肉に、麻婆豆腐、腰果鶏丁、あと、玉米羮に、中華粥かな。
 少し待っててね。」
そういうと、ルリイロー紫苑を残して、財布と上着を掴んで、その部屋を出ていった。
ルリイロさえいなかったら、それこそ、彼女が、彼氏に料理を作る為に、買物に行ったと言う風情で。
流されるように、応じてしまったエアは、しばらく、ほうけてしまった。
「エアサン、大口開けてたら、埃食べマスヨ?」




回鍋肉に、麻婆豆腐、腰果鶏丁や、玉米羮に、中華粥。
他にも、数品並び、烏龍茶等々。
ご馳走か並んでいた。
ゴミ溜めまではいかないが、そこそこ散らばっていた応接場所兼食事場所の部屋。
少なくとも、ご飯を食べるに向いていなかったそこは、紫苑が主人の支度の間に、掃除をしたのだった。
「さて、食べますか。」
いただきます、と手が合わされ、食事は進む。
半ばまで、進むと、エアは質問をして来た。
「なんで、あの仕事を受けた?」
「・・・一年、いや、八ヶ月前かな、それくらいに妹が私と義弟関連で暴走族に攫われた。
 それ関連で、とある人物からの情報を受けた。
 代金代わりに、動かして欲しいんだとさ、何をとは聞かなかったけれどね。」
「ミッキー=オーフェン関連デス。」
「ははぁ、なるほど、あの人のか。
 なら、仕方ないね。」
「何にせよ、あまり、私も乗り気ではない。」
「なんで?」
「違う物語世界に、積極的に関わる者では無いから。」
エアの質問に答えながらも、箸を進め、お茶を入れたり、こまごまと動くディスティア。
あくまで、其処に居るのは、友人に夕飯をご馳走している大学生と言った風情の女性だ。
だけど、違う物語世界と口にした当たりから、空気が明らかに凍る。
夏というほどの季節では無い。
しかし、部屋の中で暖房無しで居ても、寒く無いはずの季節だ。
「・・・一応ね、私のほうの物語は終った。
 それを見計らうように、あの男から、連絡があったわけだ。」
紫苑は気にしていないようだが、エアは流石にそういう場所で食事をしたくは無い。
更に言うなら、それが美味しいなら、尚更だ。
だから、話を無理矢理だろうと不自然だろうと、変えた。
「さっき、作ってもらっている時に、調べたけど。
 『星が落ちる』のいつ?」
「・・・そうね、この空気なら、明日の夕方かしら。
 この国の時間でだけど。」
「んで、それから、いつ襲撃するの?」
「早い方が良いけど、ちょっと下準備もいるから三日後、とりあえず、日本まで行ってそこから船ね。
 星が落ちても、島には、すぐに黒鳥も、赤バラ王も、いないかもしれないからね。」
「ふむふむ。
 なら、俺が気をつける事は?」
「警備員だろうと、目撃者だろうと殺すな。」
「はい?」
「殺すな。」
「甘く無い?」
「甘かろうと、なんだろうと、結局、私がリーダーだ。」
「・・・へいへい。」
こうして、時間は過ぎる。
こうして、隠されし一つのイレギュラーが物語の核心へ近づく。
ディスティアは、思う。
言葉にせずに。
(ああ、茶番だ。
 初めから、バラせば良いのに。)






*************************************

はい、全部オリジナルパートでした。
一応、可能性としては、ありなんじゃないかなぁと、いう設定で、エアくんを投入です。
別作品から、ディスティアと紫苑も登場です。
あくまで、脇役狂言回し。
さて、彼女達の役割がどう物語に救いと別の哀しみを迎えさせるのでしょうか?






月の静寂(しじま) En.12 運命の糸車は廻る 上

2009-07-10 23:13:35 | 凍結
「いいんですね、テレサさん。」
「今更、何を?
 エレノア様、たっての願いです。」
「いえ、発狂してしまう可能性があると聞かされていると思いますが?」
「それでもですよ。
 あの方が、貴方様以外に何かを願われる事は、無いのですから。」
「すいません。」
「何故、貴方が?」
「いえ、黒鳥と言えど、そういう危険は私が止めるべき立場ですから」
「・・・・・・エレノア様をお願いします。」
「言われなくとも。」
黒鳥17代目・テレサ=カルヴァードが、正気だった時の最後の会話。
本当、人って解りません。
だからこそ、見捨て切ることができないのでしょうけれど。



月の静寂(しじま) En.12 運命の糸車は廻る 上






南洋の孤島―。
ヤシの木と豊かな自然。
そして、不自然な人工建造物。
カテゴリ分けをするなら、研究所というようなそんな建物だ。
その1棟の屋上に、女性二人と男性一人が、いた。
女性のうち、一人は、横座りで、日本人ではないようだ。
横座りの女性は、藍色みを帯びた黒色の背中を隠すぐらいのウェーブヘアを三つ編みし、金色に近い色素の薄い茶色の瞳とやや童顔で、外見年齢は二十歳そこそこだ。
淡い水色のブラウスとタイトなロングスカートと、白衣姿で、板状のイヤリングシルバーブルーの細い縁の楕円形の眼鏡をかけていている。
もう一人の女性は、黒髪を流したままのセミロングにし、黒い瞳の日本人女性だ。
中華風のハイネックのシャツと黒のミニスカと、白衣で、イヤリングが印象的な快活そうな印象である。
男性は、短めの黒髪と黒い瞳のアジア系の男性である。
モスグリーンのワイシャツにスラックス、黒縁眼鏡の女性陣二人よりもやや年長そうな、気弱な印象だった。
「それでは、かんぱーい。」
日本人の方の女性が、そう音頭をとって、銀地に黒の文字で「Asahi」と書かれたビールで、三人は乾杯する。
景気良く、女性二人は、ビールを空けるが、男性はとがめると言うか、怖じけついたかのように、こう訊ねた。
「あのさ、僕らこんな事してていいのかな?」
「いいの、いいの。
 カタい事言いっこ無しだって、今日ぐらい。
 リア、貴女もそう思うでしょ?」
「そうですよ、リーさん。
 メディカル班は待機状態なのですし、私もリーさんも、プログラム確認終りましたし。」
女性二人が、日本人の方が、にかっと言う具合に、外国人のほうが、ふんわりと言う具合に、それぞれ、対称的に微笑み、乾杯を促す。
二人が言うように、今日は・・・少なくとも、必ずやらなきゃいけないそんな仕事は無いのである。
「う・・・うん。」
「なら、景気付けに飲みましょ。
 ようやく待ちに待ったモンが、来たんだしね。」
音頭をとった女性が、指を指し、視線をやる先には、ビックモーラが空に浮かんでいる。
そう、ここは、対ビックモーラの研究島だ。
「そう?私は乾杯したいわ。」
「三年前・・・でしたっけ、有人ロケットの研究ができるって、なずなさん達は、この島に来て。
 私は、プログラミングの腕を買われて、この島に来たら、以後、一応一切外部連絡を絶たれてしまって、研究三昧でしたね。」
「なのよね、その上、月の裏側にいる宇宙船の母船に到達できるロケットを造れって言われてさ。
 何度、誰かの妄想に付き合わされているとか、思った事か。」
「仕事自体は楽しかったですけれど、島詰めで、エアに会えないのは、キツかったです。」
「そうそう、こうなったら、隔離しとく必要も無いから、本土に帰れるってモンよ。」
しみじみと、なずなと、リアと呼ばれた女性が、打ち合わせをしていたように、そういう。
そう、ここは、対ビックモーラの為の有人ロケット研究の研究島なのだ。
なずなは、設備関連の技術者で、フルネームを萩なずなと言う。
リーとリアは、プログラミング系の技術者で、フルネームをそれぞれ、李紅飛(リー・ホンフェイ)とアンジェリア=ヴァイサスという。
嬉しげに、「ねー」と、言い合っているなずなとリアであったが、それに、水を差すように、リーが、こう言う。
「喜んでる場合じゃないよ。」
「月の後ろに、敵の親玉が居て、「人間」が、滅亡の危機に瀕していても。
 早ければ、一年ほどで、皆殺しでも、私達の研究と上の人材で、どうにかなりますわ。」
「そうそう、良い事言うねー、リア。
 「ツクヨミ号」が、殴り込みに行くんだし大丈夫よう。」
「でも、二人とも、その「ツクヨミ号」には、武器が付いていないんだよ?」
リーのその言葉に、リアとなずなは、全力で、抗弁する。
そして、ビールの缶は、更に空く。
「有人ロケットとしては、「ツクヨミ号」は、多分一番、優秀ですね。」
「それでも、乗員六人を行って帰ってくるだけが精一杯。
 戦闘なんて無理だし、生半可な武器じゃビックモーラに勝てないんだよ?」
なずなが、まだしらふのリーと半ばふわふわとした口調のリアが、「ツクヨミ号」をつらつら語る。
リーは、まだしも、リアは、もう真っ赤になって、へろへろになっている。
彼女を手込めにするならば、今、この時が、お似合いだろう。
安全の為の柵に、なずなは寄っかかりながら、無言で考えている。
「どーも、気味悪いのよ、その六人。」
やっと、そう呟いた。
ビニールシートに座り直し、更に言葉を重ねる、なずな。」
「なずなさんが、各種訓練とかで、データ持っているんでしたね。」
「うんそう、まず、三人は、問題無い。
 各国の宇宙局から、選抜された連中だしね、まず文句は無い。
 でも、その次に並んでいるのが、比良坂花雪っていう謎の美少女。」
「・・・美少女?
 ああ、あの着物姿の?」
「日本人形みたいなお嬢さんですね。
 何故か、物理的に自由に出入りできるんですよね。」
「うん、そうなの。
 しかも、あの子、あのなりで、チョモランマ頂上並みの低酸素環境でーけろりと、一時間以上時速15キロで、走っちゃうのよ。
 おまけに、20Gにも、軽々耐えちゃうし。」
「・・・・・・その子、本当に人間かい?」
「・・・・・・流石、お母さんですね。」
「え?なんか、言った、リア?」
「いえ、なんでもないです。」
リーが、人間かどうか、疑問の呟きと同時に、小声で、リアは確かに、花雪をさして、「お母さん」と言っていた。
それは、まだ、今は、意味を持たないのだ。










ここは、モンマトルの一角。
更に言うなら、そのとあるアパートの一室だ。
近代風とは言え、このモンマトルには、不似合いなスパコンまでを含めたパソコン機器が、並んでいる。
そこ一室で、唯一まともな人としての生活空間の居間に、三人の男女が居た。
ここと、台所、寝室が辛うじて、此処が倉庫ではなく、ちゃんと人が対峙できる場所と言う程度の意味だ。
年齢は、いずれも、二十代である。
男性二人と、女性が一人である。
男性のうち、一人は、三人の中で、一番年長に見える。
大体、二十代後半だろう。
砂色の髪と瞳で、身長も、三人の中で一番高く、2メートル弱ぐらいだ。
髪を腰の近くまで伸ばしており、黒いヘアゴムで止めていた。
黒いスラックスとワイシャツと言うシンプルな服装をしていた。
もう一人の男性は、恐らく年齢は二十代前半ぐらいだろう。
金色の髪と海色の青の瞳が印象的な、癖のあるハンサム青年だ
女性は、三人の中では、一番年少で、二十代前半だろう。
鈍く青に輝く長い髪をカチューシャで軽く抑え、そのまま後ろに流している。
瞳は、夕焼けの沈みきる前の紫めいたオレンジ色をしている。
白い肩の開いた半袖と、濃いワインレッドのフレアスカートに、同色のスカーフを首にあしらっていた。
部屋のソファに、女性と金髪の青年は、向かい合うように座る。
もう一人の男性は、女性を守るように、その後ろに立っている。
形ばかりに、インスタントのコーヒーのカップから、湯気を揺らしていた。
「・・・というわけなの。
 プログラマーを一人、奪取するのに、貴方の手を貸して欲しいのよ。
 私と《ルリイロ》が、その島の最高戦力の《赤薔薇王》と《黒鳥》を止めている間にね。
 《身代わりの羊》カプリコーン?」
「へぇへぇ・・・って言いたい所だけどね。
 それを受けるのが、何故俺なのか、必然性も無いよね?」
「おまけに付け加えるのなら、専門外でしょ、《身代わりの羊》?」
「分かっているのなら、何故かな?
 他人に依頼するなら、専門を見極めろって、エリスやレイティスに言われなかった?」
「そりゃね。
 萬屋もいるけれど、カプリコーンの専門は、仲介屋メインの情報屋だと聞いたわ。
 どちらかと言えば、レイティス寄りね。」
「ええ、しかも、まだ受けるとも言っていないのに、情報をバラすのは、裏稼業歴十年近い《風舞姫》とは思えないねぇ?」
静かだが、十分すぎるほどに、丁々発止と、カプリコーンと風舞姫の言葉は交わされる。
その中で、微風程度にしか、ルリイロの表情は動かない。
しかし、その青年は、そもそも、無表情なので、微風程度でも動いていると言う事は、普通の人間の尺度に直せば、それなりに表情が動いているとの事だろう。
「・・・カプリコーンサン、いエ、エア=メリンフィルサンでしたヨネ、《風舞姫》サン。」
「そうね。
 一応、やろうと思えば、「エア=メリンフィル」としての貴方を破滅に追い込めるわ。」
「おや、何の事なのか?
 俺の名前は、《身代わり羊》のカプリコーンで。
 アンタらは、風舞姫とルリイロ、それでいいんじゃないの?」
「確かにね、身元は調べない、それが、裏の不文律ね、基本は。」
「そもそも、どこから、そのガゼ、手に入れたの?
 ・・・あの《風舞姫》サマとあろうお人が。」
「・・・ルリイロ、殺しちゃダメよ、怒らせるのが、この人の狙いなのだし?
 ガゼとは、酷いわね。
 《万象知悉の書棚》、《破暁天の宝物庫》、《神託Dの図書館》、この三つと、もう一つ、秘密のデータベースを付き合わせたのよ。」
「ハハア、あの三人と言うか、二人と一組織の情報なら仕方ないねぇ。
 バレるとは、思ってなかったんだけどね。」
ルリイロの指摘にも、眉一つ、動かさず、微笑みのポーカーフェイスを崩さない。
風舞姫の指摘には、しらばっくれさえした。
それで、微妙にの領域を超え、ルリイロが、袖口に仕込んでいる手裏剣を投じる前に、風舞姫が制止し、証拠・・・正確には、状況証拠を並べる。
ただの状況証拠では無い。
裏稼業にカジっていて、この三つのうち、どれかを知らないというのは、モグリどころか、その稼業を止めた方が良いという、証しだと言われるのだ。
8年前に、殺された《破暁天》・エリス・モトハル=クローリックの《破暁天の宝物庫》
5年前に、殺された《万象知悉》・レイティス=アイルテの《万象知悉の書棚》
四年前に、完全に代替わりした至高の白亜図書館、《神託Dの図書館》。
その三つで、照合された情報は、どんなに馬鹿馬鹿しくても、「真実」だというのも、また噂の域を超えない真実なのだ。
主無き、書棚と宝物庫を受け継いだのは、《ブラック・ウィドー》と目の前の《風舞姫》なのだ。
そして、《神託Dの図書館》の今代の二人とも、《風舞姫》は、懇意なのだ。
それなら、まぁ、仕方ないと、カプリコーン・・・エアは、そう思い認めた。
「・・・それで、何の協力依頼で?
 俺を名指しで、呼びかけるっていうのなら、俺に関係あるの?」
言外に、情報屋のコミュニティ掲示版で、「身代わり羊」相手に、半ば脅しのような呼びかけに対して、非難するように、そう呟く。
風舞姫は、向けられたにしろ、向けたにしろ、そこから、巻き寄せるぞ、とでも言うように、艶然と微笑む。
「日本近海に、宇宙開発系の研究島があるのは、ご存知で?」
「・・・そりゃ、噂ぐらいは。」
「では、近日・・・そうですね、数ヶ月以内に、そこを巡航ミサイルが、襲撃されると言う話は?」
「・・・ハァ?
 どこが、そんな真似するさ?
 表向きはともかく、御前の持ち物に、手を出そうっていうの。」
「・・・私も、あの人が関わってないなら、いくらでも、断ったわよ。
 緋衣のおじいちゃん経由で、入って来たの。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・西の大国ね、コリアを北と南にわけたあの国が、スポンサー。」
「・・・なるほどねぇ、すると、「星が落ちる」ことに関係してるわけ?」
「そ、御前の計画の乗るよりも、半分渡して、様子見ようって言うのよ。」
「・・・半分ヲ許せバ、残りもとられルというのハ、自明の理なのデスが。」
「ハハア、その三年前に引き抜かれた研究者の何人かを連れて来いって言うヤツか?」
「ノリとすればね。
 正確に言えば、その中の一人、アンジェリア=ヴァイサスって言う子を連れて来て欲しいのよ、そういう依頼。」
つらつらと、とりあえず、明かしても支障のない部分の依頼内容を明かす。
一方的に話すと言うよりも、情報屋としてのカプリコーン・エアを試すように、答え合わせのように、話して行く。
その中で、「アンジェリア=ヴァイサス」の名前が出たとき、不自然な・・・考えていて、間が空いたと言うより、別の事で空いたかのような間が空いた。
「・・・へぇ、女の子をタラシて来いって?」
「・・・・・・そこは、変わらないのね、エア=ヴァイサス。」
「俺は、メリンフィルなんだけど?」
「・・・覚えてないのかな、クレマンド=ティリエを、さ。
 君を庇って、死んだ僕の事を?」
「・・・は?
 どういう戯言を言っ・・・嘘だろう?」
ディスティアの腕の一振り・・・目を数秒、その繊手と言って良いほどの手をかざした後、カプリコーンは、絶句する。
ただ、それだけだ。
なのに、明らかに、顔色を失う。
そう、まるで、もう見る事が無いはずのモノを、見る事が出来ないモノを見たかのように。
同時に、風舞姫の鈍く青に輝いていた髪色が、青みを失う。
更に、カプリコーン・・・いや、エアは、顔色を失った。
瞳の色と髪の毛の色が変わっただけだ。
それ以外は、顔かたちも、ボリュームのある姿態も変わっていない。
だけれど、その風舞姫に、「誰か」の面影を見いだしたようだ。。