セピア色の想い出。

日々の生活と、其処から生まれる物語の布飾り。

貴方の覚悟を見せて頂戴?(黒曜編 前)

2007-11-27 00:35:37 | 復活 二次創作


【どう生き、どう死ぬのかしらね?】



晩夏のイタリア某所。
「う~ん、足場悪い。
 ムクロ・ロクドウと、仲間二人が、逃げ込んだ・・・・ねぇ。
 二人って、チクサ・カキモトとケン・ジョウシマよね。」
廃墟。
ゴーストタウン。
人のいない街。
呼び方は、さておいて、人気が無く半ば、崩れたビル群。
数十年前までは、栄えていたのだろう。
そこに、金色とモノトーンの女性が。
彼女は、アリアズナ=エメルティーン。
ヴァリアーの先代ボス。
今日は、ヴァリーとしての仕事なのか、黒のロングコートの下にいつもの白の踝丈のワンピースに、黒のピンヒール。
ロングコートは、ヴァリアーの腕章が無ければ、ヴァリアーの物と解らないような俗にいうお嬢様コートである。
荷物を、ほどき、ストールを撒き、レイピアを腰に佩き、いくつかの短剣と爆薬をコートのポケットに、仕込む。
《復讐者(ヴィンディチェ)》の依頼のようだ。
それは、あまり機嫌が良さそうに見えないことから解る。
鞄を適当な廃屋に隠し、
「どうしようかしらね。
 ・・・・・ゴーストタウンなら、いっか。」
しばらく、繁華街を歩くように優美に、でも、静かにアリアズナは、しばらく歩いた後、そう呟く。
この廃墟のかつての中心のビルに、荷物の中にあったプラスチック爆弾と信管をセットしていく。
周りのビルにも、同様に。
「イッツ・ア・ショウタイム。」
起爆ボタンをアリアズナが、押そうとした瞬間。
首筋に三叉の槍と、利き腕の右腕を極められていた。
それをなし得ていたのは、赤と蒼の瞳と髪型が特徴的な15歳ぐらいの少年。
「・・・・・止めてくださいね。
 僕の仲間は、動けないので、それを押されると大変困ります。」
「あらら♪
 若いのに、凄いわね。
 スクアーロでも、貴方の年齢で、そこまで動けないと思うわ。」
「・・・・・・変わった女性ですね。」
「伊達にね、元とはいえ、ヴァリアーのボスをやっていないわ。
 それと、こうやって、会話する余裕があるなら、とっと殺すべきだったわね。」
腕を決められたまま、少年の臑を真横から、蹴る。
向こう脛よりも、マシとは言え、これは痛いだろう。
平たい靴ではなく、ピンヒールでだ。
痛みは推して知るべし。
「くっ!!」
その隙に、アリアズナは、腕を振りほどき、体勢を立て直す。
しかし、右腕は、不自然にぶら下がっている。

ガコン

彼女は、それを無理矢理はめる。
冷や汗をかきつつ、少年に、こう余裕ありげに訊ねる。
実際、冷や汗は、痛みから来る生理現象で、彼女自身は、大変冷静だ。
「さて、どうする?
 ええと、元・エストラーネオファミリーのムクロ・ロクドウ?」
「・・・・・・・何故、僕をムクロだと?」
「私の娘が、嫁いだ先と縁続きのファミリーだったし。
 《赤》の情報網にも、引っかかってたし。
 ・・・・・・・・・なによりも、私と似たような眼だったからね。
 解りやすかったわ。」
「嘘は止めてください。」
「・・・・嘘じゃ、無いわよ。
 ユダヤ人で、元・KGBって言えば、わかる?
 まだ、マシだっただろうけど、貴方達の絶望は、解らない訳じゃないわ。」
あくまで、静かに、寂か(しずか)に、アリアズナは言う。
悲しがる訳でもなく、怒る訳でもなく、ただ、事実として端的に述べる。
「くふふふ、本当に変わった女性だ。」
「・・・・・お姉さんホントに傷つくわよ?
 孫居るって言ったって、養子の子どもだし、マフィア系の裏稼業としては、普通よ。」
「それを言いますか、貴方は。」
「それもそうね。
 生かして・・・心臓さえ動いていれば良い・・・それで捕らえれば良いんだしね。」
そういうと、アリアズナは、レイピアを利き腕ではない、左腕で構え駆け出す。
少年―骸も、三叉槍を構える。
しばし、無言で、打ち合う二人。
アリアズナが、細剣鋭く突き出されれば、三叉槍の柄でそれを受ける、六道骸。
六道骸が、槍を横薙ぎに払えば、ふわりとバックステップで、避けるアリアズナ。
いったん距離を取り、通常の二倍ほどのストールを鞭のようにしならせ、進路を意図するように導き、牽制する、アリアズナ。
それから、約十分。
まだ、少年と女は武器を合わせていた。
(むぅ、なかなか渋といねぇ。
 ホント、末恐ろしいガキよね。
 ・・・・・・・心揺さぶるか、あんまし好きじゃない方法だけどね)
「ねぇ、少年。
 なんで、そんなに一生懸命なのさ?
 なにか、目的でもあるの?
 あるなら、なんで、役立たずになった仲間を見捨てていかない?」
「・・・・っるさいです。
 マフィア如きに、言う必要はありません。
 道具を捨てる捨てないは、僕の勝手です。」
「ふぅん。
 少年は、マフィアを潰すことが、目的で。
 チクサ・カキモトとケン・ジョウシマは、大事な同志ってとこ・・・か。」
この間にも、アリアズナは、刺突撃やストールでの牽制をしたり、六道骸は、槍の間合いを生かし、距離を取ろうとしたり、戦闘は流れていく。
アリアズナは、彼に傷をつけられないように、決定打を出せず。
骸は、彼女を傷つけることと、彼女の言葉に微妙に動揺を受け、また決定打を出せない。
また、アリアズナは無傷だが、かすり傷レベルだが、骸には無数の傷があった。
「・・・・・五月蝿いですよ、貴女。
 六道輪廻 第四の道 修羅道。」
図星を指されたのか、骸は、右目に『四』を浮かび上がらせる。
赤目に、焔の形で、闘気が宿った。
「・・・・シュラドーね。
 戦闘能力向上ってトコね。」
「分析できても、押されてきているようですよ。」
「うふふふ・・・・。
 楽しいわぁ、本気に近いのを出せるのは、テュールと戦って以来だから、本当久しぶり。」
激しく打ち合う二人。
それは、舞踊に似ていた。
己のすべてを引き絞るように、凄艶なまでな、剣舞。
だけれど、二人は、どこまでも、血生臭さよりも。
どこまでもどこまでも、優美さが、優先され見えた剣舞。
しかし、数分後。
「・・・・・・だけど、ダメね。
 そういうのは、最初から出さなくちゃね。
 チェック、おしまいよ。」
「何を・・・・」
『何をふざけたことを。』と続けようとした骸だったが、半ば瞬間移動のように、間合いに入ってきたアリアズナの指突で、彼女に倒れ込むようにして受け止められた。
身体が満足に動かない。
だけど、意識はハッキリしていた。
「ツボよ。
 人体破壊系だから、メジャーじゃないけれどね。
 身体は動かないけど、意識はハッキリしているでしょう?」
片手で器用に、レイピアを鞘に収め、骸にそう話しかける。
そして、骸は肩に担がれ、彼女は歩き出す。
適当に、当たりをつけ・・・・・先ほど、バックを取られたあたりまで戻る。
爆薬を仕掛けたビルを中心に、探索する。
「は、な・・・しなさい。
 ・・・・・な、に・・・が、も、く的で・・・・・すか。」
「・・・・あら、もう喋れるのね。
 ん~、本当は、《復讐者(ヴィンディチェ)》から、生きたまま捕獲して引き渡せって、依頼だったけど。
 なんか、同類の眼してたし、このまま、野放しにして経過を見るのも面白うそうかなと。
 手当と第三国への出国と、逃亡資金も、世話しようかなって。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ば、か・・・・ですか・・・。」
「馬鹿じゃないわよ、甘いの。
 その甘さでも、生き残れるぐらい、弱くはないからね。
 ・・・・それに、ガキは殺したくないのよ。
 育てれなかったティートみたいでね。
 ・・・・・・・・・・・・・さて、ここかしらね。」
そして、とあるビルで、瓦礫の影にいた、薄い茶髪のワイルド?な少年と黒髪で気怠そうな少年を見つける。
二人は逃げようとせず、むしろ、骸を背負ってきたアリアズナを見て、驚く。
『骸(さん)(様)!!』
「・・・・・慕われてるわねぇ、少年。
 あ~、傷つける気はないわ、チクサ・カキモト、ケン・ジョウシマ。」
満足に動けぬ身体であろうに、二人は、骸を奪い返そうと、アリアズナにつかみかかろうとする。
しようとしたが、彼女の言葉で、静止する。







骸を、自身の脱いだコートの上に、寝かせ、三人に向き直り一言。
「さあ、少年達、選びなさい。
 このまま、《復讐者(ヴィンディチェ)》に、引き渡されるか。
 私に利用されて、目的を果たすか。
 ・・・・・・考えるまでもなく、どちらが有益か解ると思うけれど?」
しばしの沈黙。
そして、静寂。
廃墟と言うことを除いても、風の音も、小鳥のさえずりすらもしない。
また、アリアズナは、猫のような曖昧な微笑みを浮かべたまま、一言も発さず、微動だにすらにしない。
痛いほどの沈黙。
ただするのは、骸達の相談する囁きだけ。
彼らにも解っているのだ、彼女を利用するのが一番だと。
しかし、『罠じゃないのか?』 と言う疑念が鎌首をもたげる。
「・・・・・少なくとも、こういう『スィート・ディス』とか、『ハニートラップ』は嫌いなの。
 ・・・・・・・・・・・昔は、希望すら持てなかったからね。
 希望を持たせて、《復讐者(ヴィンディチェ)》に引き渡すなんて、私の親みたいな真似しないわ。」
「・・・・・・・お前、誰?」
「ほんとに、だれだびょん」
「・・・・・・・・・・・・・・・・元・KGB第一総局副局長、アリアズナ=カレルディス。
 ・・・先代、ボンゴレファミリー・暗殺部隊ヴァリアーボス、アリアズナ=エメルティーン。
 どっちでも良いわ。
 貴方達には、アリアズナ=エメルティーンの方が、通りが良いかもしれないわね。」
「・・・・・なる、ほど。」
「ムクロ少年。
 あまり無茶して喋ると、死ぬよ?
 さっきのは筋弛緩剤程度には、効くから。」
自嘲的に、喋っていたアリアズナだったが、骸がはっきりと喋ると一応、阻止した。
そして、あっさりと恐ろしいことを言う。
「・・・・・ラル爺の話じゃ、もうそろそろ、切れても良い頃合いなのに。」
と、その時、携帯電話の着メロが鳴る。
彼女は、ごそごそと、コートを探り、メールを確認した。
そして、一言。
「・・・・・ラル爺、もう少し早く言って欲しかったわ。
 ああとね、少年。
 あと、一時間ほどかな。
 それくらいで、心臓止まるっぽい。
 困ったわね、解除するツボ教えてもらってないし、ラル爺、30分ぐらいで来れるだろうけど。」
と、かなりとんでもないようなことをあっさりと言う。
『さあ、どうする?』とでもいうように、小首をかしげる。
「わ、かりま・・・し、た。
 りよう、しましょう。」
「・・・骸様が言うなら。」
「悪い匂いしねーもん。」
「・・・・・わかったわ。
 ラル爺、呼んで良いかしら?
 ムクロ少年や貴方達の手当もしなくちゃいけないしね。」








ナポリ・某マンション。
ダイニングにて。
「一つ良いかのう、お嬢。
 解っておるかもしれんが、儂にあれだけの獲物を前に我慢しろと言うのかのう?」
「ええ、ラル爺。」
「・・・・・・カルロ坊やの嫁さんじゃなかったら、真っ先に切り裂いておるぞ。」
「あはは、ラル爺怖いわ。」
アリアズナと、内容はともかく、雰囲気は精一杯微笑ましく、会話をしているのは一人の老爺。
白髪まじりの金髪を逃避が透けるほど短く刈り込み、糸のように細い瞳は伺い知れず、外見は、70歳ぐらいの爺である。
彼が、骸のツボの効果を打ち消すツボをうったのだ。
他の二人の手当も、彼がしたのだ。
その横で、千種と犬は、アリアズナ手製のハンバーグを食べていた。
多少、形は不格好でも、彼らの為に一生懸命作ったと言うようなハンバーグ。
ちなみに、骸は、別室でフェンネルの『ヒーリング』で、眠っている。
「どーったの、食べねぇなら、俺が食っていい?」
「・・・・・・・ダメ。」
「どうしたの?
 また、疑ってる?」
「・・・・解らない。」
「ふおふおっほほっ。
 お嬢、この坊は、儂の若い頃に似とるわい。」
「第一次世界大戦だっけ?
 ラル爺のチクサ少年ぐらいだと。」
「もうちっと、あとじゃわい。
 わしゃ、もう100に近いからの。」
「正確には、もう100歳超えてるでしょう?
 ニチロだかニッシン戦争の生まれぐらいだろうし。」
暗くなりかけた雰囲気をラル爺―ラルエル=ストライファーは、そう懐かしげな声で打ち消す。
それに乗っかり、からかうようにするアリアズナ。
しかし、どう反応していいか、解らない二人。
それも、ある種当然だろう。
物心ついたころから、エストラーネオファミリーの実験動物(モルモット)として、過ごしてきたのだ。
或いは、それを抜けてからも、『月』の世界で、暮らし、数年を刑務所で過ごしたのだ。
エストラーネオファミリーから、受けたのは、最低限の知識と言葉。
でも、逃げると言う知恵を持たないように。
法律的には、存在しないその子ども達は、いろいろな実験に使われた。
そこを抜けてからも、決して、お互い以外を信頼できない。
そういう生活だったのだ。
「・・・・・・どうした?
 チクサ少年、ケン少年。
 不味かったか?数年ぶりに作るからね。」
「・・・悪くなかった。」
「ん~ん、美味しかった。
 柿ピー素直じゃねぇもん。
 すんげぇ、美味しかった、おばさん。」
「・・・・・・お、ね、え、さ、ん。
 りぴいとあふたあみい、お姉さん。」
「おねえひゃん。」
「よろしい。
 ムクロ少年も、明日になれば、目を覚ますだろう。
 食べた後、湯を使いたければ、使え。
 服は、適当なのをクローゼットからね。」
でも、千種も犬も、もしかしたら、骸も、アリアズナの前では、ほんの少しだけ。
ほんの少しだけ、『子ども』になれるのだ。





数日後―。
その日は、初秋にしては珍しく霧が立ちこめていた。
近くのターミナル駅の前に、アリアズナと三人がいた。
別れの言葉を交わすのは、もっぱら、アリアズナと骸だ。
「なんかあれば、『暗殺部隊ヴァリアー アリアズナ=エメルティーン』の名前だしなさいな。
 少しは、便宜はかれるわ。」
「くふふ、僕らが、マフィアを頼るとでも?」
「ん~?九代目の《霧》になんか似てるからね。
 もしかしたら、10代目の《霧》になるような気がしてね。」
「どうでしょうね。
世話になりました。」
「どういたしまして。
 次、会うときがあれば、敵かしらね。
 味方かしらね。
 ・・・・・・・一応、addio。」
「それじゃ。
 ・・・・・・・。
 行きますよ、千種、犬。」
三人が、駅の構内へ消えていくのをアリアズナは、黙ってみていた。
「『vederli ancora』・・・・・・・・・か。
 ・・・・・ムクロ少年。
 憎しみからは何も生まれないなんて、コトは言わないけどね。
 だけど、憎しみだけは、寂しい物なんだよ、仲間がいても。
 ・・・・・・・・・・そうおもわない、ラル爺?」
「ふおふおっほほ、バレておったか。
 まぁ、そうじゃのう。
 ・・・・・にしても、『また会いましょう』か。
 素直じゃないのう、あの坊達は。」
アリアズナの呟きに、柱の影から現れたラルエルは、そう応じた。
しばしの逡巡と沈黙。
破ったのは、アリアズナ。
「まるで、小動物だったわ。
 ハリネズミとかの。」
「触れたいのに、躊躇っておったからかの?」
「うん。温もりを欲しがってない訳じゃないのにね。」
「儂らには、何もこれ以上は関われんよ。
 ・・・・・お嬢、バーでいっぱいやってから帰るかのう。」
「あ~、ジャッポネーゼ・居酒屋がいいわ。」
「それなら、此処からなら、『SUKIYAKI』が、オススメじゃの。」
「『SYOUGUN』のほうが・・・・・」
二人は、街へ歩き出す。
骸達と反対の方向へ。
半月後の再会を予想だにもせず。
ただ、その時は、袂の別れを感じ、それを打ち消すかのように他に集中した。









コメント
『addio』は、『もう、会わない』
『vederli ancora』は、『また会いましょう』
と言う意味で取ってください。
命黙様の音楽お題の四つ目『wankend(躊躇って)』から、インスピレーションを戴きました。
最後まで、呼んでくださってありがとうございました。
それでは。





Day’s3 独り言?弐り言?

2007-11-25 02:05:22 | 凍結


『ディスティア、至和子お姉様のトコ行ってくるね。』
「あ、はい、解りました。
 これを、手みやげに持っていってください。」
『今日は何?』
「ドーナツ二種とビターチョコのクッキーです。
 あと、少しですが、抹茶とプレーンの二色クッキーも入れておきました。」
『わぁ、美味しそー。
 至和子お姉様のお茶と一緒に食べたら、幸せだわ!!』
「あまり、乾様に、ご迷惑をかけてはダメですよ?」
『うん、解ってる。
 ・・・ねぇ、ディスティアも行かないの?』
ある日、のことだ。
私がこの街に来て、一週間も過ぎた頃だ。
数日前から、ケレルは、乾という神父の元へ行くようになった。
彼に会うのが目的ではなく、その神父のパートナーであり、ケレルと同じ、シワコワトル種の至和子という女性龍に会いに行く事が、目的なのだ。
姉と、彼女をケレルは慕っているのだ。
ある意味で、「S」なのだろう。
サドではない意味の隠語の方でだ。
『ディスティア?』
「ああ、すいません。
 色々とする事があるのですよ?」
『ふーん、あ、でも、五時位には、顔を出すんでしょ?』
「ええ。」
『待ってるね。
 ・・・・・・あ、もうこんな時間。
 じゃあ、ディスティア行ってくるね。』
そう言って、ケレルは88番地を出ていった。
さて、昼ご飯の片付けと、洗濯しようか。





Day‘s3  弐り言? 独り言?





「ふう、終わった。
 ・・・・・・あ、もう三時か。」
『お疲れ様。』
「あ、ラルか。ありがと。
 紅茶でも入れるかな。」
誰もいないから、本来の砕けたと言うか、男のようなあっさりとした口調で独り言を洩らす。
家事を終え、一息ついたとき、私自身の口から、私のハスキーなアルトではなく、明らかに、男性声が、洩れ出た。
正直少し驚いた。
今までは、先に、テレパシー?で、先に断ってから話しかけてくるのに。
それでも、私は内心の動揺を顔に出さないで、答えた。
彼は、ややこしい経緯で、私の中にいる「存在」のうち、一番古くからいるヤツだ。
たぶん、私の淡い青紫色の瞳は、片方だけ、完全に紫よりの赤紫になっているだろう。
アメジストのような、私の瞳よりも、更に人にあってはいけない色に。
ふと、気になった事を私は、ラルに聞く。
「そういえば、ラル。
 私の時間は、どのくらい残っているかな?」
『とりあえず、もう少し残っているよ。
 どうした?』
紅茶を入れながら、彼に私は話しかけた。
すると、するすると、闇色の光の帯が集まり、一つの影を作り出した。
机の上に、一つの闇が収束し、形を作る。
それは、輝く銀を糸にして髪の毛にしたような見事な銀髪で、赤紫色の切れ長の涼しい瞳。
髪は、私よりも短く、肩口で乱暴に切りそろえられている。
真っ黒なフードマントに、濃い藍色のベスト・ワイシャツ・スラックスの男性の姿をしている。
まぁ、美人な青年だ。
美男ではないのは、そういうには、少し女性のような造形もあるのだろうけど。
便宜上、「ラルディアス=トラインクルメイカー」と、こう呼ばれている。
服装の趣味も何もかも違うけれど、顔の造形だけは、アル兄様に似た印象だ。
紅茶を入れ、キッチンの椅子に座る私を、ふよふよとついてきた。
そして、同じくキッチンの机の上に、座る動作をする。
本当に座っているわけではなく、そう見えるように、画像を調整していると言うべきだろうか。
「行儀悪いぞ、ラル。」
『精神体に、行儀もクソも無いだろうけどねー。』
「うん、一応、習慣的にだよ。」
『んで、何でいきなり、《時間》を訊ねたの?
 キサが居なくなってからですら、一回も聞かなかっただろう?』
「・・・・・・無くしたくないから,かな。
 今の生活をさ。
 復讐が目的だっていっても、こんなに、穏やかな生活は、エリファス師匠のトコに板以来だしね。」
『ああ、確かに。
 アイツのトコに居る時は、修行は滅茶苦茶厳しいけど、アイツは優しかったし、穏やかな生活だったもんな。』
「うん、師匠、元気かな。」
私が、傭兵を始めたのは、二年半ほど前だ。
本来なら、三年ほどで、師匠のところから、卒業するのはありえない。
ありえないのだけれど、兄弟子達の影響を考えたら、アレが限度だったように思う。
修行は厳しかったけど、師匠は優しかったし、目的を終えても、生きていれたら、一回位は、会いに行きたいな。
そんな事を考えてしまう。
目的以外を考えては行けないとは思うのだけれど。
つらつらと考えながら、私はラルと話す。
ラルは、此処に居る。
触れられるし、体温もある。
だけど、それでも、ラルは此処に居ない。
それに、私の中に、居はするが、決して味方ではない。
ある種の、『監視役』に近い。
或いは、『観察者』か。
私が「終わる」まで、側にいると言う意味ではね。
だけれど、私にとっては、故郷をでて、この街に落ち着くまでは、数少ない話し相手だったし。
特に、キサを失った後は、顕著にね。
そうじゃ無いのは、依頼人か、同じ仕事の傭兵位だし。
嫌いになることは出来ない。
それに、『視占人(シーヤー)』の方が恐ろしい。
七年前の私が、完全な人間でなくなった時に、『預言』を残した時以外、会いはしていないが、ラルの言葉を借りれば、私の中に居るらしいし。
『あれは、殺しても死ねないタイプだし、生きてるだろうさ。』
「でも、もう、百歳過ぎだよ?」
『精霊の祝福と言うか・・・・・・ま、呪いだわな。
 それがあるから、生きてんだろうよ。
 ディスが行ったら喜ぶと思うぜ?』
師匠―エリファスさんも、そんな事情在るんだ。と初めて知った。
ラルって、時々こんな変な事知ってるけど、どうしてだろうと、毎回思う。
結局はぐらかされてしまうけれど。
つらつらと、ある意味で、自分の過去の傷を抉るような会話を続ける。
ケレルは、帰って来ないだろうし、他の人もこないだろうから。
聞かれても,困らないだろうけど、だけど、弁明をするのも、少し面倒だし。
「そうね。
 ・・・・・・・ともかくね、ケレルも、乾さんも、この街の誰も、私の目的を知らないわけだけど。」
『だよなー。
 色々と、臑に傷が多いヤツが多いってか、そうじゃ無いのが少ない街だけど、ね。
 だけど、今もそれを持ち越してるのは居ないよな。』
「うん。
 今さ、すごく幸せだよ、本当に。」
『なら、このまま、幸せになっちまえば?』
「なれないよ。」
『どうして?』
「なれないよ。
 だってさ、本当の家族は、家族らしくなくて。
 アルとミーネだけが、本当の家族みたいで。
 ・・・・・・・・・・・・その二人が居なくなって。
 特に、アルは私自身が、殺したんだし。
 故郷を捨てては行けない立場だったのに、私は故郷を捨てたんだもん。
 ・・・・・・・・・もう何年だろうね。」
思い出すように、噛み締めるように、私は呟く。
会話中だったけれど、ラルに言ったわけではない。
自戒というのが、しっくり来るような気がする。
私は、少なくとも、故郷での私は、こういう風に、「故郷」を「捨てる」ことは許される立場じゃなかった。
良くも悪くも、故郷での私の立場は、ある意味で、「故郷」の為に、「死ぬ」為に、あるような存在だったし。
『五年と三百三十六日と十四時間と三十七分ぐらいだな。』
「・・・・・・そこで、正確に言えるのも、すごいね。」
『微睡むか、思考するか、覚えていることぐらいしか出来ないからね。
 自発的にできることがそれくらいしか無いんじゃ、覚えているさ。』
「本当に長いね。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
 私は、幸せだ。
 あの二人がいなくなって、私には、大切なものを作る資格が無いと思った。
 ・・・・・・自分を粗末にもしたね。」
『・・・・・・君は、粗末にしたね。
 普通は、四人位でするような仕事も、一人で受けて。』
「・・・・・・あれから、五年だけどね。
 ラルがいて本当に良かった。
 特に、一年以上前のあのデキゴトの時は、ラルが居なかったら、立ち上がれなかったのかもね。」
『・・・・・・・・・・・・・』
私が、ラルに微笑みながら、そう言うと、茹で蛸でもそこまでならないだろうと言う位、急激に真っ赤になる。
そんなに、妙な事を私入っただろうかと,思わず自問してしまう。
確かに、私は、感謝の言葉はそう口にしないタイプなのだけれど。
一応、実体がないけれど、今の身体は精神の影響を直接受ける。
耳まで赤くなっているから、ものすごく照れていると言う状況なのかもしれない。
にしても、何でそんなに赤くなるんだ?
『・・・・ディス、お前の笑顔は、心臓に悪い。』
「心臓無いのに?」
『この場合は比喩だっつの。』
「・・・・・・・・・ぶぅ、そんなにヘチャムクレですか?」
『へちゃむ?』
「不美人ってことよ。」
『いや、そうじゃ無くて、逆だ、逆。』
「逆?」
『そう。
 ともかくな、もっと幸せになって良いんだよ。』
そういって、ラルは、私の頭をぽんぽんと子どもにするかのように、する。
正直言って、少し、こういう子ども扱いと言うのは、気恥ずかしいし、嫌だとは思う。
だけど、あまり悪い気分じゃない。
たぶん、まだ、仲の良かったフェリクス兄様や、ラインホルト異母兄様によくやられていたからだと思う。
・・・・・・そういえば、故郷から追っ手が来るとすれば、その二人だろうな。
殺してしまうわけにも行かないだろうから、あの二人なら、私が、「説得」されるだろうと言う思惑が在るのだろう。
なんにせよ、幸せはそれがくれば終わるようなちゃちなモノなのだと私は思う。
「今も、充分幸せだよ。
 どうしたの、ラル。
 普段は,其処まで言わないのに。」
『別に。
 今日は特に幸せそうだったから。 
 別にな、故郷を捨てたんだ。
 フツーに恋して、結婚して、子ども作ったりして、そんな幸せを得て良いんだぜ。』
「今は、考えられないかな。」
『終わったら、どうなるか考えれないで、復讐を考えるなよ。
 そんなヤツは、大抵抜け殻になっちまうから。』
「・・・・・でも、子どもが出来たら、その子にまで、故郷の重荷を背負わせちゃう。
 『アレ』は、私の分が解けても、血に依ってなされている部分が多いから。」
『んなの、確率論だろが。』
「確率論でも、ある以上は、作りたくないかな。
 幸せなって、大切な人が出来て結婚したら、子どもが欲しくなるわ。
 でも、子どもが『アレ』を受け継いでしまえば、故郷に奪われてしまう。」
『・・・・・・解った、俺が悪かった。』
何人か、故郷を捨てた先祖が居るらしい。
それでも、その子どもに「アレ」が開花してしまったケースもある。
だから、作れないのだと思う。
ラルが言う意味での、大切な人が。
それを察したラルは素直に謝ってくれた。
『・・・・んで、もうそろそろ、四時半過ぎて、五時になっちまうぞ?』
「え、マズい。
 ケレル、迎えにいかなきゃ。」
ラルに指摘されて、やっと気付いた。
もう、五時まで、十五分位しか無かった。
急いで、外出用のマントを羽織り、出掛けようとした。
『あ、こら、剣忘れんな。
 一応、殺人強盗okな街なんだぞ。』
「ありがとう、助かった。」
少々、慌ただしいが、そうやって私は、一路乾さんの教会に向かった。








「今日の夕ご飯、リクエストありますか?」
『チキトマ煮込みがいいな。
 堅焼きパンと一緒に。』
「そうですか。
 では、ポテトのスパイス焼きも一緒に作りましょうか。」
『ほんと!!?
 ディスティアのご飯すごく美味しいけど、特にそのポテトスパイス焼き好きだもん。』
「だからこそ、作ってしまうのですよね。」
『・・・・・・・って、あれ?
 道遠回りじゃない?』
乾さんの教会からの帰り道、ケレルと私は、真っ直ぐ、88番地に帰らずに、遠回りをして帰っていた。
その日、前日までのドラゴンズテンペストで、ドラゴンマスターレベルが、2レベルになっていた。
もう一人、龍を入れようと言う事にしたのだ。
「昨日の、ドラテンで、ドラマスレベルが上がったので、もう一人、龍を入れようと思うのですよ。」
『ほんと?
 私の、弟ってことになるのかな!?』
「ええ、そうですね。」
『何龍にするの?』
「そうですね。」
しかし、私は、ケレルと会話しながら、半分上の空だった。
原因は、乾さん宅の水龍・アイトラのお嬢さん、もとい、タイガさんのせいだった。
この間の遣り取りも、原因だけれど、かなり、警戒されてるね。
なんか、近いうちに、やり合いそうな気がする。
・・・・・・よりによって、軍人タイプの水龍とは、運が悪い。
『楽しみ、どんな子が来るのかな?』
「そうですね、お手伝いもおねがいしますよ。」
『うん、頑張るね。』
ケセラケセラ、なるようにしかならないんだろうけどね。




この日、光龍のシャイニング種が、私のうちに来た。
名前は、輝(てる)=ヴァイスと名付けた。
・・・・・壊れるかもしれない幸せも、なるべく、続くように。
家族に成れると良いと思った。







コメント
二ヶ月ぶりの更新です。
いろいろと、話が動き始めてます。
次は、「輝くん」、その次は、「ラル」が、語り部予定です。
よろしくですね。



お題のこと

2007-11-24 04:00:03 | お題
お題の事です。

ジャンルは、各お題ともに、不定。
一ジャンルで揃える場合も、あり。

傾向としては、シリアス。
ほんの少し、ほのコメ&ほのぼの。
お話は、各カテゴリに収納。
消化お題は、その都度、お題に提示。
(ジャンル/キャラ/概要)


ちまちまやってきます。
基本、一話完結。

私の二次創作

2007-11-23 23:20:56 | 徒然に
単なる、自己主張?です。
私の二次創作・・・・・・・ってよりは、創作物への感情です。








最近、といっても、此処一年ほどだけれど、二次創作をする事が多くなった。
その前、中学校時分にも、それなりに、二次創作にハマりはしたけれど、書く側になったのは本当に此処一年位の間だ。
少しでも、書いた事がある作品を上げていくなら。
「隠(なばり)の王」
「家庭教師ヒットマン REBON!!」
「スレイヤーズ」
「鋼の錬金術師」
「ジョジョの奇妙な冒険」
「遊戯王」
「ヴァンパイア十字界」
「夏目友人帳」
とこんな感じな訳で。
基本的に、少年漫画が多い形になる。
あと、純然たる現実的な話は少ない。
現実的と言うか、魔法などの超常的な物が関わっていない話が少ないと言う事だ。
それで、私は、どの二次創作だろうと、基本的に、本編には居ないキャラを出す。
そう言う意味では、夢小説と言う分類かもしれない。
だけど、私の二次創作に出すキャラは、良くも悪くも、私の代弁だ。
代弁と言うと大げさと言うか、此処でこのキャラはこう言う背景があったのではないか?
そんな気持ちで作る場合が多い。
「隠の王」の蓮音は、隠の世のスタンダート女性だけれど、現状に不満を持っている。
「復活」のアリアズナは、外見からは想像し難いが、ヴァリアーの面々達の帰る場所。
「スレイヤーズ」のディスティアは、立場はともかく、心情は、リナ側。
「鋼」のリュカは、ややこしい立場ながらもエド達を見守る保護者的な存在。
「ジョジョ」のヴィットは、責任感故に、ジョースターとそれに付随する悲劇を見守り,導いて来た。
「遊戯王」のネフェルトは、過去の亡霊で、3000年前のあの時に、何も出来なかったから、今の立場を選ぶ。
「ヴァンパイア十字界」のエレノアは、知らなかったけれど、知らなかったと言う立場では済まされない存在だった。
「夏目友人帳」の琥月は、人間嫌いだけれど、離れる事も出来ない。だから、夏目に希望を見る。
あと、一応、先を知っているせいか、「先見」能力者が多い。
経験上・・・・・・・というのも、おかしいけれど、占いを嗜む関係上、「運命」と言うのは、本当の意味では変えられない。とは思う。
変えようとすれば、何処かで帳尻が合うと言う物だろうから。
そんな関係上、傍観を選ばざる得ない人が多いような感じです。
あと、性格も、きゃぴきゃぴ(死語)なのを装う人も多いですけれど、基本は寡黙と言うかクールビューティな人が多いですね。
思慮深いと言うか。
良くも悪くも、コメディを望めない難儀な体質と言うか。
せいぜいが、コメほのレベルでしょうか。
私が、コメディを書きなれてないと言うのもある。
せいぜい、くすくす笑いが、限度だ。
大笑なんぞ、望めやしない。
初めて、書いたオリジナルも、(あれをオリジナルと言うかは別だ)、「運命」をテーマにした家族ドラマシリアスだった。
根からの性分と言うか、もう体質だろう(苦笑)
それでも、信じてもらえない事を承知で言うのだが、原作で、報われない形・・・言ってしまえば、不幸な結末になったとしても、原作を曲げない程度に、「幸せにする」。
或いは、原作を曲げてでも「幸せ」にする。
私の数少ない矜持だ。
そこまで、大層な物じゃないにしろ、一つのポリシーだ。
確かに、私の作品で、ハッピーで終わるのは少ない。
だけれど、そのキャラにとっては幸せかもしれないのだ。
そう言う意味では、悲恋でも、当人達とっては・・・・的になるわけだ。
んで、それを原作キャラだけじゃ、廻しきれない。
・・・動かせない話が多いから、こそ代弁者たる存在が、私のオリキャラがいるのだ。




なんにせよ、私の作品は、救いが無いとよく言われる。
だけど、本当の意味での、幸,不幸は
、本人しか決めれない事だと思う。
例えば、相思相愛の恋人を守れて、死ぬなら、悲劇的だけれど、その本人にとっては、幸せなように。



そんな、私のストーリーテラー理論。
ちょっとした暇つぶしになれば、或る意味、至上の幸いです。





追懐の寄す処 1(オリキャラあり)(本編沿い?)(夏目友人帳)

2007-11-22 20:41:49 | その他 二次創作
※本編沿いです。
※三巻十一話~十二話の隙間からです。
※オリキャラが出ます。



 追懐の寄す処 1
     初めまして、と血吸い鬼は嗤う






「こんにちは、夏目少年。
 そろそろ、日が暮れてしまうけれど?
「・・・・っ!!」
とある日の夕方、夏目は、いつも通りと言うか、日課的に友人帳を狙う・・・或いは、名前を返してもらおうとする妖怪に追いかけられていた。
友人帳とは、彼・夏目貴志の祖母・夏目レイコが、その見鬼の能力故に、人との間に溝を創り、妖怪をイビった末に、子分にし、その証しに名前を記したモノである。
それに記された者は、所有者の命令に逆らえない。
持っているだけで、数多くの妖怪を従える事が出来るのだ。
初めの所有者のレイコは、その娘が覚えていないぐらいに、若くしてなくなった。
その娘も、短命だったようだ。
今、友人帳を持っているのは、夏目貴志と言う学生の少年だ。
そして、その少年は、今一人の存在に膝枕にされていた。
少し考えて欲しい、健全な少年が、目が覚めていきなり人の顔が目の前にあった上に、その人に膝枕されていたらどうなるなろうか?
この場合、驚き飛び上がった夏目が、その膝枕をしていた存在と額をかち合わせた。
その存在は、黒く縮れている髪をリボンで纏め、白地に蝶が描かれた口から上を覆う仮面、ハイネックの黒い踝丈のワンピースと言うどこか、現実と乖離した姿をしていた。
「・・・・・痛いねぇ。」
「す、すいません。」
「いや、構わないよ。
 ・・・・・・・・・・にしても、本当、よく似ているね、レイコに。」
「祖母を知っているんですか?」
「うん、友人だった。
 僕の事を知りたいのなら、斑に聞くと良い。
 君の側に居るのだろう、風の噂で聞いた。
 あれも、僕を知っている。」
言葉ほど、痛がっている様子の無い声音で、その妖怪は、ころころと笑う。
仮面越しでも、懐かしがっている様子が、素直に解った。
今までのアヤカシ達とは少し違い、少し人間臭いと、夏目は思う。
どこが、そうとは、言えないのだけれど。
同時に、『人』と確かに違うとも、同じく同とも言えずに思っていた。
「な、名前は。」
「・・・・・・レイコは、琥月(こつき)と呼んでいたよ。
 本名ではないけれど、この中ツ国での名前がそれだよ。
 あァ、これを斑に見せると良い。
 これを見せれば、すぐに思い出すだろうさ。」
そう言って、消え際に、そのアヤカシは、一つのブローチを放り投げた。
淡い白金色の石とセピア色の石と、淡い緑色の石の嵌った古風なモノだった。
受け取る為に、ブローチに夏目が気にとられ、顔を上げた瞬間には、そのアヤカシはもう居なかった。









「おやすみなさい、塔子さん。」
「はい、おやすみなさい、貴志くん。」
その晩の事。
夏目は、養い親の塔子におやすみなさいをした後、自室に戻った。
ニャンコ先生に、あのブローチの事を聞きたかったのだけれど、居なかった。
また、何処かで酒でも飲んでいるのだろうかと、夏目は思う。
ニャンコ先生とは、夏目が死んだら、友人帳を貰い受ける約束をしている大妖・斑という。
普段は、張り子の猫を寄り代にしているが、大きな戌系のアヤカシが本性だ。
「ただいまー。」
「・・・・・・先生、これに見覚えある?」
「うぃー?」
酔ったニャンコ先生が、なんじゃなんじゃと、そのブローチを視界に入れる。
すると、良いが一瞬で冷めたようにシャキンっと擬音が付きそうな位毛を逆立てた。
懐かしいモノを見たと言うよりは、ピーマン嫌いの子どもが、おかずにピーマンを見たときのようなそんな感じの逆立て具合だ。
要するに、苦手なような人を思い出したようだ。
「夏目、つかぬ事を聞くが、これを渡したのは、どんなアヤカシだ?」
「・・・・・・えっと、黒くて長いパーマ髪で、黒い蝶々・・・アゲハかな、が書かれた白地の仮面、あと、黒一色の古風なワンピース姿だったけど。
 先生の知り合い?」
「・・・私の知り合いと言うよりは、レイコの知り合いだ。
 一応、顔位は知っているが、正直、私でも関わり合いたくないぞ?
 嫌いではないが、かといって、関わり合いになるのはまた別だ。」
「何でさ。」
「・・・・・・・・・・少なくとも、この国では異質な存在だからだ。」
「異質とは酷いね、斑。
 確かにそうだけれど、傷つく位の心は残っているのだけれどね。
 一応、源流は、この国なのだけれどね。」
「「うわぁおう」」
いきなり、ニャンコ先生と夏目の間に割り込むように。
或いは、初めから其処に居て、今存在に気付かせたと言う具合に。
その黒装束の存在はいた。
くすくすと楽しげに、琥月は、座り込んで、二人を眺めていた。
短めの煙管を吹かしながら、二人の言葉を待つ。
数度、吹かしても、回答が来ないのを見て、それまで考えていた事を口にする。
「・・・・・・・にしても、斑。
 笑っても良いかな、噂には聞いていたけど、そんなぷりちーな外見になっているなんてね。
 というか、持って帰りたいかもしれないね。」
「ぷりちーは、お前にだけは、言われたくないぞ。」
「でも、可愛いよ。」
「うるさい、うるさい。」
「むー、可愛いモノを可愛いと言って何が悪い?」
しばらく、こんな具合に、琥月とニャンコ先生は、言い合いと言うか、口喧嘩と言うか。
数分、掛け合いが続き、或る意味、堪えきれなくなったのか、琥月は、腹を抱えて笑い出す。
「あははっはははっははははは・・・・・・・。
 何にしても、この土地に、彼の大妖ありと言われた斑の外面ではないだろう?
 受ける、あの斑が、こんなプリティでキュートな招き猫姿になっているとは、受ける。
 ヘチャムクレとまでは言わないが、可愛過ぎて、お前に似合わないよ、斑。」
少なくとも、仮面が無かったらその美人とも取れる外見にしては、馬鹿笑いと言う表現が会うと言うか、外見を差し引いても、かなりの馬鹿笑いで、琥月はしばらく笑い続ける。
夏目は、塔子に聞こえはしないかと思ったけれど。
今の時間なら、風呂か夕飯の後片付けをしているだろうし。
それに、何よりも、止める気力が無かったのだ。
琥月が笑い終わるまで、たっぷり十分ほどまち、『よく息が続いたな。』と思いつつ、こう質問する。
「・・・・・・・あの、祖母と・・・レイコさんとどういう関係なんですか?」
「一言で言うなら、友達だね。
 琥月と言う名前も、彼女から貰ったよ。
 本来の名前が呼び難いと言う、理由でね。
 でも、嬉しかったよ。
 名前を書き込まれ、とられると言うのは強制服従に近いモノだけれどね。
 また、名前を与えられると言うのも、同じようなモノだ。
 だけれど、それでも、尚に嬉しかった。」
夏目に質問に、堰を切ったように、琥月は、つらつらと答える。
懐かしむようでも、何故か悔やむようでも、どちらでもあるような。
形容し難いながらも、それでも、悪意は欠片も無かった。
夏目が、この土地に来て、出会ったアヤカシ達が、「レイコ」に抱いていた感情とも、又違う響きのように、彼には思えた。
どこか、恐れが。
どこか、尊敬が。
どこか、憎悪が。
どこか、崇拝が。
そんな感情を持って、アヤカシは、「レイコ」を語っていた。
でも、琥月の言葉は、にゃんこ先生の言葉よりも、尚、「レイコ」の側に在ったような。
・・・・・・友人の事を話しているかのような響きを深く深く内包していた。
「ねぇ、夏目少年。
 今日の事は、聞かなくて良いのかい?」
「え、あ。」
「夏目、今日の事とは?
 まさか、私の目の無いところで、こやつに喰われかけたか?」
「「誰が、(君)(にゃんこ先生)みたいなことをする(のだろうね)(んだよ。)」」
今日の事を話題にした途端、一応は用心棒のニャンコ先生が、噛み付くように、琥月に問いつめた。
問いつめたのだが、十年前かから漫才コンビやってるのかというぐらいに、びしりと一音もずれずに、琥月と夏目はシンクロして言った。
「・・・その前に、人をたべるタイプですか?」
「イエスかノーなら、イエスだけれど。
 最後に摂取したのは、ひのふのみの・・・・・五十年ほど前かな。
 ただ、存在してるだけなら、普通の人間の食事で事足りるしね。」
「血吸い鬼というところだ。」
「うん、そうだね。」
「血吸い鬼・・・・・・・・・・吸血鬼、えええ!!
 吸血鬼なんですか!!?」
当たり前のように、夏目の質問に、さらりと答える。
あまりにも、さらりと答えたせいで、夏目は、理解した後、思い切り驚いた。
それこそ、夏目のであった「アヤカシ」のように、曖昧な物ではなく、西洋系では一番の有名なモノなのではないかとおもうからだ。
しかし、琥月は、あくまで静かにこう答える。
「まぁ、そうなるね。
 少なくとも、異能の力を振るうには、血を吸わないと行けないけれど。」
「でも、夕方、まだ日が在るうちに出歩いてたじゃないか。」
「日光を弱点にしないタイプだよ。
 古道具屋を再開しようと、一通り、昔なじみの家に、挨拶に行った帰りに、見覚えのある顔が転がっていたからね。
 放っておくわけにも行かないからから、日陰まで運ばせてもらった。」
「あ、そのことはありがとうございました。
 だけど、アヤカシなのに、古道具屋って。」
「唯人にも見えるタイプのアヤカシなのだよ。
 一応、50年ほど前に、買い付けに行ったまま、帰って来ない変わり者の古道具屋の曾孫と言う設定にしてあるしね。
 不審がられては居ない。」
「そう言う問題でもなくて。」
「じゃあ、どういう問題かな?」
「なんで、人にも見えるんですか?
 大体は、依り代が無ければ、見える事すら困難でしょう?」
「依り代なら、在るけれどね?
 あと、叫びっぱなしで疲れないかな、夏目少年。」
「誰のせいですか。」
「君が、叫んでいるのだろう?」
おどろきもあってか、ぽんぽん質問が機関銃のようにまくしたてられるが、その夏目の質問を琥月は、逆に穏やかに答えていく。
そして、とりあえず落ち着く為に数度、深呼吸をする夏目。
「ともかく、夕方はありがとうございました。」
「どういたしまして。
 さて、僕としても話足りないけれど、もう丑三つ時も近い。
 七辻屋という古い和菓子屋があるだろう。
 その三件右隣の《三叉屋》という古道具屋が、僕の店だ。
 話が聞きたければ、来ると良いよ、菓子と茶ぐらいは供せる。」
「・・・・・いきますね。
 でも、俺の年齢が言っても大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だと思うよ。
 古道具屋と言っても、ちょっとした駄菓子や雑貨をおくからね。
 来てもおかしくはないだろう。
 ともかく、もうおやすみ。」
「はい、おやすみなさい、琥月。」
「うん、良い夢と穏やかな眠りを。」
夕方の礼を言った夏目。
そして、時間も遅いので、琥月が、帰ろうとした。
別れの言葉を交わすと、琥月は、窓から出ようとするが、其処に夏目は声をかける。
「あの、琥月。
 貴方の名前、友人帳に在るの?」
「あるよ。
 本名ではないけれど、使役に耐えうる程度の力を持っているよ。」
「・・・・・返しましょうか?」
「いいや、一番最後で良いさ。」
「何故ですか?
 今までのアヤカシは、返してもらおうとばかりしたのに。」
「・・・・・・感傷的かもしれないけれど、レイコが居ない以上、それが、寄す処のようでね。
 だから、最後まで名前は残していて欲しいのだよ。
 おやすみ、夏目。」
そうして、琥月は、来た時同様、音も無く、帰っていった。
ただ、夏目は、少しだけ、祖母・レイコに近づけたような気がした。
それは、ほんの少しだけかもしれないけれど。




闇はたゆたい 宿主に微笑む (遊戯王/ゾーク+貘良)

2007-11-20 19:29:44 | その他 二次創作
注;このブログのゾークは、女性です。
  OKな人のみ、どうぞ。

















(ここ、どこだろう?)
夢にしてはおかしい。
そう思いながらも、獏良了は、街を歩いていた。
寝た時に、着ていたパジャマではなく、いつものボーダーのTシャツとジーパンだった。
疑問に思いながらも、改めて、貘良は当たりを見回す。
何処の街と言うわけではない。
少なくとも、彼の知識の中にはない。
それでも、何処か、問われれば、何故かは解らないが、エジプトだと、思う、貘良。
場所の特定は、出来ないのだけれど、「エジプト」というイメージを集めて、この街の形にしたような感じなのだ。
しかも、現代的なイメージではない。
貘良の亡き妹・天音が、読んでいた少女漫画のような・・・古代とか、そんな枕詞が付きそうな雰囲気なのだ。
どこか、埃っぽく、でも、生気にあふれていなければいけない様相なのに、なのに、不思議と生気はなく。
空も、筆で墨を塗りたくったような黒色で。
少なくとも、闇色という色は、連想できない色だった。
(でも、止まっちゃいけない気がする。)
そう思って、街を何処へもなく、彷徨うように、歩く。
右に曲がり、左に曲がり、真っ直ぐ進み、迷路のような街を彷徨うように。
とある、建物の前に来ると、なんとなく、そうなんとなく、その建物に入った。
入るなり、お香の匂いが鼻についた。
乳香や、伽羅など、の癖のある香りだった。
その香りが強くなる方に、その薄暗い建物を進む。
そして、奥の部屋に、「それ」はいた。
寝台のような、場所に、薄やみでもわかる極彩色のクッションに半ば、埋もれるようにいた。
近くに、煙を上げる香炉があった。
さまざまな色が混ざり、澱んで、「黒」になったようなそんな「闇」色とでも言うような長く艶(あで)やか髪を緩く銀製で赤い石の玉簪で緩く纏め、伏せた瞳は、簪の玉よりも深い赤瞳だった。
褐色に色づいている肌を包むのは、生成り色の貫頭長衣と青色の腰布だった。
身体に起伏から、女性だと言う事が解る。
唇は、紅を差したように、珊瑚のように、艶やかに紅かった。
二十歳半ばほどの年上の女性、そんな外見だった。
そして、貘良は、何故か、何故だかは本当に解らないのだけれど、色も印象も違うのに、友人の海馬瀬人を思い出した。
本当に,何故かは解らない。
「君は誰?」
貘良は、自分とそっくりな、友人の遊戯風に言えば「もう一人の僕」が、寝こけているのを半ば視界に入れながら、そうその女性に訊ねた。
なんで、バクラが、あんなに安らかそうにというか、小さい子どものように身体を丸めて、すやすや寝ているんだろう。
そう、宿主である貘良は思う。
いつも、厚顔不遜で、自信家で、少なくとも、あんな風に寝こけているところは、想像できばかったのに、何故、あの女性には、甘えているように見えるのだろうかとも思う。
女性の膝の上で、薄い織物を掛布にしながら、すやすやと、バクラはそれでも眠り続ける。
「・・・・・・・・」
「どうして、ここにいるの?」
「・・・・・・・・」
「どうして、海馬くんに似た顔をしているの?」
「・・・・・・・・」
「どうして、君はバクラといるの?」
「・・・・・・・・」
「どうして、バクラは、そんなに穏やかそうなの?」
「・・・・・・・・」
「君は、いったいバクラのなんなの!?」
貘良が、問いを重ねても、女性は、黙っている。
黙って、曖昧だけれど、不思議な艶の微笑みを浮かべるだけだ。
そして、バクラの白い髪をゆるりゆるりと撫でるだけだ。
貘良は、少々混乱していた。
彼には珍しく、最後には、少しだけ声を荒上げてしまった。
それでも、女性は、曖昧に笑うだけだ。
貘良の最後の言葉が、完全に空気に解け消え、余韻も無くなったころ。
それまで、その部屋を支配していた沈黙を破ったのは、女性だった。
「私?」
迷うように、口を開いた。
少し、表情に「驚き」の色が出ていた。
「私に、聞いたの、宿主ちゃん」
驚き過ぎて、言葉が出来なかったと言うように。
照れて、「ごめんなさい」とでも、言うように。
「そういえば、こうして会うのは、初めてね、宿主ちゃん。
 ・・・・・では、初めましてってことね。」
女性は、淡く笑みを深くした。
それは、貘良には、「闇」が笑ったように思えた。
同時に、女性が、「闇」で構成されているのだと言う事も、確信した。
「私は、ゾークというの。
 バクラちゃんのご主人様ってことになるわね。」
ちょっと、困ったように微笑む女性―ゾークは、見た目だけならば、見目麗しい年上の優しそうなお姉様と言った風情なのだが、しかし、一度「闇」で構成されていると思ったせいもあるのか、どうにも、背筋が寒い。
氷でできた手で、心臓を掴まれても、こうは思わないだろうとおもうのに、それくらいに、或いはそれ以上に、貘良は、「怖い」と、そう思った。
「やりたい事があって、千年リングに宿ってるの。」
口調も、雰囲気も、やや婀っぽいと言っても、いるところには、いそうなのに、なのに、怖い。
一度、そう思ってしまうと、貘良は、ゾークを怖いと思う事を止めれなかった。
貘良の様子を不信に思ったのか、小首を傾げる。
答えない貘良を不思議に思ったのか、バクラの頭の下から、膝を抜き、クッションを代わりにあてがう。
そして、寝台から、降りた。
素足が、貫頭長衣と腰布の裾から、覗き、ひたりひたりと貘良に近づいてくる。
目の前にたった、彼女は、海馬瀬人よりも、やや高い位置の視線で、貘良は少々見上げなければいけなかった。
近くで、顔を見ると、「闇」とか「破滅」とか、そんな単語は連想も出来ないし、似合わないのだけれど、それでも、それでも、「闇」だと実感できた。
ゾークは、貘良の頬に、触れる。
ひやりとした、手が、それでも少しだけ暖かくて、貘良に彼女が存在している事を教えた。
「怖い、のかな、私のことが。」
「・・・・いえ、そんなことないわけでもないわけなんだけど。
 ゾークって、イメージと違ったから。」
「そりゃね。
 今、と、昔は、別神と言って良いかもしれないわね。」
「・・・・・・」
「ごめんなさいね、宿主ちゃん。」
なにも、貘良が言えないでいると、ゾークはきゅっと貘良を抱き締める。
もう一度言うが、彼女は、貘良より頭一個分少々大きいのだ。
ということは、必然的に、彼女の胸当たりに、貘良の顔があるわけで。
しかし、彼が慌てるよりも、先に耳朶をうった言葉に、出来なくなってしまった。
本当に、申し訳なさそうで。
器として、巻き込んでしまった貘良に、本当に彼女は謝っていた。
「あ、れ・・・・・」
「・・・・・もうすぐ、身体の方が、が起きるみたいね。」
しばらくすると、強烈な眠気が、貘良を支配しだした。
まだ、聞きたい事があるのに、それでも、眠気に抵抗できず、そのまま、ゾークに貘良は、身体を預けてしまった。
そして、抱き上げられた感触がした。
「会いたかったら、また、思い浮かべて、夢に入れば、会えるわ。」
それが、貘良が聞いた最後の言葉だった。
何故か、彼女が、愉しそうに微笑んだのが解った。
これが、貘良と邪神のよく解らない邂逅だった。

「私は、三千年待ったよ。
 王よ、そろそろ、終焉の鎌を振り振り降ろそう。」







―――――――「終焉の夢を願いに、邪神と踊れ・・・・」






+おまけ+
貘良了が、すぴよすぴよと眠っている部屋。
時刻は、当然真夜中だった。
そこに、このマンションの住人ですらない女性と言うか、少女がいた。
亜麻色の髪を、足首近くまで伸ばし、高い位置でポニテにして、青灰色の瞳と白めの日によく焼けた肌で、白いブラウスと黒いタイトなスカートにジャケットと言う外見だ。
手に、つり下げるタイプの円球の香炉を持って、無表情に、ベッドを見ている。
正確に言えば、ベッドの上にいる半透明の女性にだ。
それは、海馬瀬人によく似た印象の背の高い女性の外見をとった邪神・ゾークだった。
「で、これで良いのか?」
「ええ、ありがとう。
 ネフェルトちゃん。」
「別に,構わない。
 ・・・・・・・まさか、邪神・ゾークに協力する事になろうとはね。」
「神官様だったものね。
 ・・・良かったの?」
「うん?それ、協力を願ってきた人の科白じゃないよ。
 ・・・・べつにね、僕はもう、ファラオに使えているわけじゃないし。
 セトやアテム、もちろん、バクラにも幸せなって欲しい、それだけ。」
「それが、「破滅」だとしても?」
「うん、・・・・・・あ、繋がった。
 会えれば、会えるだろうと思う、会えなかったら、また連絡よこせ。
 ・・・・・・・・会えると良いな、ゾーク。」
どうやら、ゾークと貘良を会う算段と言うか、術を組んで、夢とゾークのいる空間、「心の小部屋」をつなげたらしい。
ネフェルトと呼ばれた少女は、そういうと素っ気なく、出ていく。
ゾークと呼ばれた女性は、それを確認せずに、掻き消えた。

どうでもいいが、ネフェルト、不法侵入だと思う。



+コメント+
遊戯王二次創作一本目です。
別の話を書き進めていたんですが、某様のチャットで、パッションを頂いた形になりました。
ありがとうございます、命黙様、いろは様。
最後のネフェルトと呼ばれた少女は、オリキャラです。

+今のところのゾーク様
主に、セトに近い女性の外見をしている。
公式的には、(セト×女性化)+十歳加齢+柔和+優しさ?=ゾークです。
バクラのことを某ノベルの空賊のお母さん的に、こき使いはします。
しかし、やはり、息子的な意味で愛してるのやもな人。
相方曰く、「悪女」。作者的に「オカン」。
基本が、「闇」なので、男性体だろうと、アイシスだろうと、王様だろうと、なれる。
外見は安定していない。
今の外見も、便宜的なもの。
本質的に、負の感情を好むが、最近は昔程美味しく感じてないらしい。
宿主様も、バクラも、猫可愛がりをする。
今回は大人しくしていたが、普段は、↓のような感じ。
「きゃあぁぁぁっん、バクラちゃんも、宿主ちゃんもカワイイカワイイ、カワイイ~。
 んもう、絶対に、お婿になんかさせないわ、特にあの王様には!!」
一人称「私」 結構普通の女性言葉。

+オリキャラ/ネフェルト
フルネーム:ネフェルト=サーチェス。
三千年前と同一人物。
ゾークの事は、過去に敵視していた。
今は、三千年前のあの時の知り合いが、幸せになる事を願っている。
攻撃系の魔術は不得手だが、それ以外を駆使する人物。
今回は、ゾークに依頼されて、貘良を引き合わせた。
ただし、術的に、会える可能性は、40%以下だったらしい。


と言うようなお話。
きゃぴきゃぴ(死語)なゾーク様も書きたいですね.
ともあれ、ありがとうございました。



ジョジョ小説更新ラッシュの理由。

2007-11-20 18:21:27 | 徒然に
はい、この直前の記事まで何故、連続して、ジョジョパロ?小説更新したかと言えば。
以前、少し言いましたが、ジョジョパロに出演している、ヴィットこと、ヴィットーリア=F=リージ(本名ではないです)とチレスこと、チレストリーノ=アルコバレーノ(元・猫ですが)のこの二人。
私が、「書き殴り」様で、連載中の「家族の写真」にスピンオフというか、同一人物として、登場予定で、その投稿に間に合わせる為に、連続投稿とありなりました。
一応、ジョジョ世界と、「家族の写真」世界は、同じ世界上にあると言う感じです。
そのツナギが、オリジナル「さようなら、そんな君が大嫌いだったよ」なのです。
興味ある方は、「書き殴り」の小説2に更新中ですので、よろしくですね。



さようなら、そんな君が大嫌いだったよ(某所オリジナル 番外

2007-11-16 19:21:33 | オリジナル / 混合


「なんで、完全に馴れ合わないかって?」
「ええ、だって、エリスちゃんの時も、今のレイちゃんの時も、葬儀に出て、墓を参るのに。
 協力しないときは一切しない中立な立場をなんで、貫くのかなーって。」
「ふん、哀しくないわけじゃない。」
「間に合わなかったのは、仕事でしょ?」
三年ほど前のあるけぶるような雨の日だ。
正確に言うなら、三月の終わり位だ。
場所は、墓だ。
墓碑銘は、『親愛なる 偉大な情報屋 レイティス=アイルテ が眠る』だ。
まだ、真新しい・・・数日前に、経ったばかりなのだ。
つい二週間ほど前、この墓標の主は、死んだ。
《吸血鬼》と渾名される、親友だった男の手に掛かり。
養い子を一人残して、レイティスは死んだのだ。
そして、そのことは、養い子・アリエスは知らず、レイティスの友人・・・仲間・知り合いしか知らない。
今、墓の前に、性別・年齢不詳の二人が居た
印象はある意味、真逆であった。
片方は、ワイシャツと肌と瞳、装飾品以外が、黒いスーツ姿で、シャツと肌、装飾品は、白や銀でモノートーンで、瞳だけが金茶だった。
彼の髪は、縮れ髪で、それを纏める布も色合いは微妙に違うモノの黒だった。
装飾品が、ゴッシクなイメージのモノが多いせいか、死神を彷彿とさせる。
いつもの彼よりも、三割増で、機嫌が悪そうだ。
もう片方は、ピンクに近い赤紫色の髪をポニーテールにして、前髪で右眼を覆い、左眼は空の蒼で、葬儀には不向きな白地に、裾と袖に血が散ったような模様入りのブラウスと黒のスラックスという格好。
どこか、婀っぽい雰囲気である。
ちなみに、後者は確実に男なので悪しからず。
「うん、君も、中々無為な事を聞いてくる。
 知らないわけではないだろう、錬度が上がりきった「予知」系の能力者こそ、仲間と思っても馴れ合いきれない。
 特に、裏稼業では、いつ死ぬか解っているのは、辛いモノだぞ?」
「・・・・・・・だけど、知ってるわよう。
 チレスちゃんから聞いたけど、ある程度の知り合いが死んだ時には、鎮魂歌を歌うし。
 今、仕事をあんまり受けないのも、チレスちゃんの世話ってよりも、2年前の事件で亡くした人が好きだったから、そのショックだって。」
「・・・・・・・・黙れ、というか、チレス、帰ったら、オシオキだ!!」
「ごめんごめん。
 というか、鬱々とやる位なら、一回お姉さんと殺り合いましょ?」
前者―ヴィットが、後者―久遠の言葉が癇に障ったのか、ナイフを首筋に突きつける。
実際、失った後に、その人が大切だと自覚してしまうと言うのは、大切な人を無くすのと同じ位・・・下手すれば、それよりもキツいのだ。
それを察して尚、久遠は自分の感情を優先した。
一応は、戦って発散すれば良いと思っていたからなのだけれど。
しかし、思い出して欲しい、此処は墓場だ。
生無き眠りを続けるモノ達のある場所だ。
まぁ、一応、格闘ゲームで舞台になる事は珍しくないにせよ、罰当たりだ。
それでも、止める人がいない以上は、バトルに発展してしまうわけで。
久遠が、すらりと腰に固定していた短いけれど、肉厚なナイフを抜けば。
ヴィットが、彼の首から、ナイフを離しバク転で距離を取る。
「勝てない闘いを挑むとは、久遠、君も物好きだね。」
「あら、能力は知ってるわよ?」
「能力を知っていても、勝てる類いではないよ?」
「・・・『思考を読む』のも能力の一つよね。」
「うん、それに、勝てる?
 特殊系とは言え、力の大妖と呼ばれる吸血鬼の僕が得れば、九十九神が、叶わないと思うけれど?」
「え?
 舐めないでちょうだいよ、私は、血と破滅と闘争が好きなのよ。
 その為なら、幾らでも能力は上げるわよ?」
手の平大のナイフを、指の間に八本はさみ、臨戦態勢に入るヴィット。
久遠は、あくまで楽しそうに、ナイフを構え、妙な具合に、カカトを慣らしている。
ヴィットの方は、戦い難そうだが、久遠は100%闘いを楽しんでいる。
「・・・・・・・・エイレンから、文句は受け付けないし。
 他の使鬼から、報復も受けないからな。」
「ええ、そんなの闘争を穢すだけよ?」
その言葉が合図になったのか、久遠は駆け出し、ヴィットは、八本のナイフを投げ放つ。
ひゅい、と、静かに甲高い音を立てて、ナイフは、幾筋もの軌道を描き、久遠に殺到していく。
一本でもかすれば、肉を抉っていきそうな、スピードだ。
しかし,久遠は、臆せず、突っ込んでくる。
ヴィットは、乗り気にならないまま、溜め息一つ、懐から、拳銃を取り出す。
装弾数が、それなりに多く、威力もそこそこあるグロッグだ。
「あ、ヴィットちゃん。
 拳銃変えたの、ワルサーやめたの?」
「力が無いのは嫌だからね。
 かといって、リボルバーは、余計なのを思い出すから、だ。」
気の抜けるような音を立てながら、次々に発砲していく。
進行を邪魔し、決して久遠を近づけさせない弾筋だ。
ちなみに、弾丸は、純銀製で、古代ヘブライ語で、「汝、存在せぬ存在也」と刻まれている。
完全に、殺傷の中でも、殺害ー滅ぼす事に重点を置かれた弾を使用している。
やる気が無いようなことを言っているが、殺害しようとしているというのは、矛盾しているようだ。
しかし、全力を出すのが、ある意味で、相手に対する最低限の礼儀だろう。
殺す気なのも、その一つだ。
しかし、弾丸は、あくまで対象に当たってこそ、意味をなすモノだ。
ヴィットは、久遠に接近を許してしまう。
鋭い中段蹴りを避けた・・・・・はずだったのだが、ヴィットのスーツが、はらりと斬られた。
久遠の靴の先に、短いならも、幅広の刃が覗いている。
「リサールウェポンなのは、変わりないわけか。
 面倒だ、不謹慎だし、とっとと決着をつけさせてもらうよ。
 『虚空に漂いし 我が朋友たる風と水の精霊よ
  我は、ヴィットーリア=F=リージ。
  我が喚びかけに答えよ 汝らよ 汝らが朋友の呼びかけに答えよ。
  凝縮せよ 空の涙を精製せよ 我の遠き御手にならんことを願う
  打ち抜け 打ち砕け 我が意のままに 我と相対せし者を射抜け。』
 行け、風と水の精霊の間の子、よ。」
ヴィットは、早口に、呪文を口にする。
正確に言えば、『』内は、「スート・ベルラナ・ウィン・アッテア・・・・」と異国の響きの言葉なのだけれど、訳すれば、『』内のようになる呪文だ。
その呪文が終わると同時に、無数の氷の礫が、ヴィットの周りに漂う。
そして、発信を命ずると、久遠に多少の時間差をつけて、殺到する。
地面以外のほぼ全方位からだ。
「止めとけ~っての。
 それ以上、続けんだったら、あたしが相手すんぞ。」
しかし、それは、そんな声と突然掛かった重力で、久遠・ヴィット両人と氷の礫は地面に張り付けになる。
正確に言えば、久遠は踏みつぶされたカエルのように。
ヴィットは、膝をついた状態でだ。
礫を避けようと不安定な体勢ならばこそ、久遠はそうなった。
声をかけたのは、焦げ茶の髪を片方だけ結び、動きやすい服装で、右耳のみに白い石のピアスをしている少女だ。
服装で、少々設定年齢より、若く見られがちなエイレンの使鬼で、黒百合姫と言う。
薔薇姫と、姉妹的な位置にいる存在だ。
彼女が、《重圧の魔術師》で、薔薇姫が、《治癒の女教皇》で、エイレンの《占札の使鬼》の中でそんな役割も貰っている。
ちなみに、和名よりも、英語の百合と意味する、リリィの方で呼ばれたがる少女だ。
「はいはい。
 一応、僕は拒否したのだけれどね?」
「うっさい、受けた以上同罪だ。
 レイティスが死んだ後49日位は、静かにできねぇの?
 この戦鬪狂のトンチキども!!」
「もー、リリィちゃん、とっても、良いところだったのにぃー。」
「良くない。」
「え、だって、ヴィットちゃんが魔術を使うこと自体稀でしょ?」
「稀でも、チレスを残していくわけにも行かないから、使っただけだ。」
「もぅ、情無ないわね。
 お姉さん的に、ビンビンだったのに。」
「「お兄さん(だろ?)(だろう?)」」
久遠は、地面に張り付けられたままでも、そんな軽口をたたく。
本当に、残念そうに残念そうに。
真面目に、久遠は、戦闘に決着が付かなかった事を残念がっているのだ。
「ともかく、エイレンが、お茶ぐらいしてけって。
 あたしを迎えに出したんだ。
 んで、なんで、このノータリン野郎共は、墓場でドンパチやってんだよ。」
重圧を解きながら、リリィはそう二人に質問した。
起き上がりながら、あくまで、朗らかにというか。
夜の生活が、最高の美容というセレブのような。
そんな様子で、久遠が言うには、こういう理由だった。
「ヴィットちゃんが、鬱々悩んでるから、それなら、いっそ、やっちゃおっかなって?」
「・・・・・・・あっちの方でなくて良かったと言うべきか?」
「んもう、そっちも、良いと思うけど、お姉さん的に、青○は好みじゃないのよぅ。」
「だ、だだだだだ、誰が、其処まで言えと、言ったこのポンツク女男。」
「あらァ、リリィちゃんそれくらいで、真っ赤になっちゃって可愛い。
 ・・・・・・・・・・・・って、ヴィットちゃんは?」
久遠とリリィの軽口というか、微妙に下品な掛け合いに、いつもなら、実力行使付きか、でなきても、ツッコミが入っているだろうに、いつまでも入って来ない。
怪訝に思った二人が、ヴィットの方に、視線を向けると、ヴィットが、完全に倒れ伏していた。
「ちょ、ちょっと、ヴィットちゃん。
 ・・・・・・・って、熱。」
「おいおいおい、吸血鬼ってのは、死体同然で、低温のはずだろ?」
「そうだけど。」
駆け寄り、久遠が、抱き起こすと、ヴィットの身体は熱かった。
眼は閉じられ、息も、絶え絶えなばかりか、かなり浅い呼吸だ。
人間が、熱にうなされているような状況と言えば、一番近いだろう。
「言ったろ・・・・僕は・・・・仕事を、終えて此処に来たと・・・・・。」
「・・・・・・・・・・は、ということは、魔力が枯渇気味だったの?」
「ああ、・・・でなくて、九十九神に・・・・・・そこ、まで・・・・掛からない。」
「んもう、尚更悔しいわ。」
「悔しがってる場合か、この穀潰し女男。
 ええと、AB型のRHマイナスで、良かったんだよな。」
「うん・・・・、今日採血したモノだったら・・・・・・サイコー・・・・・だけど。」
「無理し過ぎよ、ヴィットちゃん。
 リリィちゃん、私は、彼女をエイレンちゃんのとこに運ぶから、直接、血を貰ってきて頂戴。」
やや、慌ただしく、久遠は、ヴィットをエイレンの家に運んだのだった。






「何回、放った?」
「さぁ、数えていると思っていないからこその、その台詞じゃないかな。」
「だろうが、《凍れる樹姫》からの話からだと、最下級魔法数百発単位で放たなければ、ああはならないはずだぞ?」
「久遠との戦闘で、下上級呪文を使わなければ、そうなら無かった。」
ヴィットは、エイレンの家で、輸血用として採血された血液パックを合計十リットル強を飲み、やっと人心地に付いた。
物足りないぐらいだが、とりあえずは持つだろう。
そこに、エイレンの先ほどの質問だ。
おっくうそうに、ヴィットは、答え、やや沈黙の後にこう付け加える。
「少なくとも、私は、やり残している事があるし、やる事もある。
 でもね、レイティスの葬儀ぐらいは出たかったよ。
 付き合いの悪い私でも、数ヶ月に一度、何かにつけて、メールをくれていた彼の葬儀にはね。」
「それを、普段恨みを買っていた連中が、邪魔して到着に、数週間遅れたわけね。」
「否定できない。」
「・・・・・少し、休め。
 必要なら、もっと貰ってくるが。
 なんにせよ、用事があれば,ベッドサイドのケータイの一番から電話しろ。」
「わかった。
 血液は、もういい。
 ・・・エイレン、僕は、僕也に、レイとエリスの仇を討つよ。
 だけど、君たちとは行動を一緒にしない。」
「うん、解ってる。」
エイレンは、そう言って、部屋を出ていった。
彼女のベッドにみを沈めながら、ヴィットはまた眼を閉じた。
閉じる間際に、こう呟いた。
「さようなら、レイティス。
 自分を省みない、そんな君大嫌いだったよ。」
誰にも、届かず、すぐに声は空気に解け消えた。


黒猫達の夜騒曲(ノクターン) 6 (ジョジョ五部)

2007-11-14 20:02:29 | ジョジョ二次創作
※読んでからの文句は受け入れません。
 オリジナルとのクロスオーバー開始です。



  6 散際×仇花×結末×慟哭×無実×未来へ






それから、カプリ島で、ブチャラティ達は、ポルポの遺産を手に入れ、『パッショーネ』ボスから、直々の指令を受けた。
ボスの娘・トリッシュ・ウナをボスに届けると、いう命令だ。
ヴェネチアまでの旅路であり、暗殺チームにとっては、黄泉路だった。
最初に、ヴィットを女性だと知らないホルマジオが、ナランチャに寄って焼き殺された。
次に、内向的だったイルーゾォは、『パープルヘイズ』のウィルスで跡形も無く、死んだ。
その次に、ビジネスライクにしかヴィットに接して来なかったプロシュートは、瀕死がならも、「覚悟」を見せ、ペッシの成長を見届け、逝った。
また、或る意味姉のようにヴィットを慕っていたペッシも、成長を見せたが、最後は、ブチャラティにトドメを刺された。
次に、屈折しながらもヴィットに想いを向けていたメローネは、スタンドを撃破され、自身のスタンドの残骸から生まれた毒蛇に寄って倒れた。
その次の、ヴィットを警戒していたギアッチョは、ミスタの覚悟とジョルノの後押しに寄って、鉄柱に首を貫かれ、死亡した。
最後の暗殺チームメンバー、リゾットは、ディアブロと闘い、誇り高いまま、死亡した。
これらをヴィットは、知っていた。
忠告もしたけれど、それでも、死んでしまった。
ただ、ただ、本編では・・・皆さんが知る物語では、語られない事がある。
ブチャラティ達が、プロシュート達と対峙しているときだった。
ヴィットは、チレスに強力な睡眠薬を投与して、ネアポリスを離れた。



「・・・・・・これしか、関われないと言うのも、寂しいと言うべきなのだろうかな?
 それにしても、もう、そろそろだろうか。」
ローマのテルミニ駅。
ヴィットは、黒いサマーコートに、淡いベージュのハイネックシャツとジーパンと言うある意味いつも通りながらな、男装姿だった。
旅行者に見えるように、それなりのサイズのキャリーバックを引いていた。
「運命と言うのは、過去と言うのは、変わらない。
 だからこそ、生き残っている人をいつまでも、縛り続けてしまうんだよ。
 忘れて、想い出にして、続けていれば、ボスも代替わりがあれば、自由になれたかもしれないのに。
 寂しいのかもしれない。
 また、友人を失った。」
ぶつぶつと、ヴィットは、ただ呟く。
そのうち、騒がしい声が、プラットホームに響いて来た。
中心まで、ヴィットが行くと、いつも通りの露出の高い仕事着のメローネが倒れていた。
「ったく、久しぶりの休みに旅行しようと言った本人がぶっ倒れてどうする。」
と言いつつ、ヴィットはメローネを抱き起こす。
もちろん、周りへの説明も含めてだ。
「(面倒だったのに、あの人なら持ってるだろうから、譲ってもらえるといいんだけどね。
  私の40年を犠牲にするんだ、助からなかったら、ぶち殺す。)」
ヴィットは、剣呑な事を小声で呟き、赤い雫型のピアスにしていた赤い石を金具から、両方外し、メローネの口にほおり込む。
人外の間に、伝わる精製するのに、材料を集めるのと精製する時間が大変な、「毒」と名のつくものなら、解毒するモノだ。
一応、ヴィットは、彼に限らず、仲間が全滅していて、自分だけが生き残る事を暗殺チームは望まないと言う事を知っている。
それでも、死ぬ人が少ない方がいいと言うのも知っている。
「どうしたんですか?」
「友人が倒れたようなんです。
 手を貸してもらえませんか?」
一旅行者を装い、近づいて来た駅員と会話する。
この後、人生経験か、それとも、生来のモノか、駅員を丸め込み、メローネをネアポリスの自分のビルに連れ帰った。
そして、空き部屋のベッドに彼をほおり込んだ。
多分、彼が眼を覚ます頃には、全てが終わっているだろうと思う
全てが的中するわけでないにしろ、気が重い。
そんな事を思いながら、チレストリーノと共にブチャラティ達から、連絡を待った。







更に、二日が過ぎた。
夜に遅くの事だ。
『もしもし、ヴィットさん、落ち着いて聞いてください。』
「おや、ジョルノか。
 てっきり、ブチャラティがかけてくると思っていたよ。」
電話をとったヴィットは、軽く驚いた。
ブチャラティがかけてくると思っていた・・・正確には思いたかった。
ジョルノがかけて来た事で、「予感」が当たってしまった事をヴィットは感じた。
『・・・・・・・・ブチャラティは、死にました。』
「・・・・・・・・・・・・」
『ナランチャ、アバッキオも、死亡しました。
 ボスのディアブロに、よって。』
「フーゴは、そして裏切ったんだろう?
 ・・・・・・・ほとんど、全的中か、忌々しい能力ね。」
足元が崩れる感覚がヴィットを襲う。
泣きたかった、何も知らないあの頃のまま、只泣きたかった。
それを、今のヴィットは出来ない。
したくても出来ないのだ。
それを声にも出さず、会話を続けた。
少しの間が、あって、ジョルノの震えた声が入って来た
『・・・予め、知っていたんですか!!?
 このデキゴトのあらましを。』
「だと言ったら?」
『・・・・・・・・っっ!!!???』
「私を殺しに来い、ジョルノ=ジョバァーナ。
 お前には、その資格がある。
 ヴィージュ・・・ジョースターの血脈を見届ける者を殺せるのは、その血脈に付随する悲劇に生き残った者だけだ。
 スピードワゴンも、ジョセフも、ポルナレフも、仗助も、私を殺さなかったけれどね。
 それでも、ジョルノ、そして、ミスタ。
 君たちは、僕を殺す資格を持った。
 知っていて、話さなかったドコロか、些少はそうなるように仕組んだのだ、殺せ。」
『・・・・・・・ヴィットさん、貴女はそれでいいんですか?』
ジョルノは、彼女の名前しか、呟けなかった。
たかだか、15歳の自分が何も言えない、そんな強固な意志が其処にあった。
知っていても、口に出さないのは、変わること自体が少な過ぎるからだろう。
それも、同時にジョルノには解った。
「ディアブロが死んだのなら、パッショーネのボスはお前になったのだろう?
 数日は、動けないだろうし、一週間後、待っているよ。
 それまでに、僕を殺すか、どうか決めるんだね、じゃあね、ジョルノ。」
ヴィットは、其処まで言い切ると電話を切る。
まだ、崩れ落ちる事は出来ない。
チレスに、事実を伝えなければ。
別室に居たチレストリーノは、電話があった事を知っていたのか、すぐに駆け寄って来た。
「びっとまま、ぶちゃらていぱぱ、でんわきた?
 ならんちゃとかも、いつかえってくるの?」
「チレス、よく聞いて欲しい。
 ・・・ブチャラティとアバッキオ、ナランチャは死んだよ。」
「びっとまま・・・・うそだよね。
 ぶちゃらていぱぱ、すごくつよいのに。」
「嘘じゃない、嘘じゃないよ。
 任務は成功したけれど、ブチャラティは死んだんだ。」
ヴィットから、話を聞いたチレスは大泣きした。
泣いて泣いて、泣きまくった。
あの小柄な身体から、どうそんな声が出せるのかと思うほどに、泣いて泣きまくった。
そのうち、泣きつかれて、寝てしまったチレストリーノを抱き上げて、ベッドに入れた。
泣きつかれて眠っても、彼は「ぶちゃらていぱぱは、つよいもん。まけないもん、ぜったい、かえってくるよ。」と呟いていた。
でも、ジョルノがそんな冗談を言うタイプでない事は、誰よりも、ヴィットが知っている。
二人の父親のディオとジョナサンが、そう言うタイプであったのだ。
だから、ブチャラティは、生きていないだろうと思う。
「でも、君の事だから、きっと自分が正しいと思う事を成して、逝ったのだろう。」
『マイミストレス。』
「どうした、『トゥルーズ・アイ』?」
『マイミストレス、泣けないのですか?」
居間として使っている部屋に戻り、ソファに座る。
誰もいない空間に、聞かない呟きがソラに帰る前に、誰かが声をかけて来た。
ヴィットは、それが、自分のスタンドだと言う事に気付き、名前を呼び、喚び出した。
それは、中折れ帽に、袖のあるインヴァネス、スーツ、手袋に、白地に左眼の部分に『ウジャトの眼』、右眼に黒と真白のアゲハ蝶を刻んだ口の無い仮面を被っている長身の人型をしていた。
仮面以外に身につけている物は全て黒で、どこか死神を思わせる。
「ああ、泣けないね。
 解りきっている事だろう、『トゥルーズ・アイ』、違うかな?」
『理解はしております、ですが、あのエリザベス=ジョースターですら、愛弟子が亡くなられた時には、涙を流し、崩れ落ちましたが?』
「・・・・・・そうだねぇ。
 でもね、僕は、何度も同じ目にあって慣れきってしまったよ。」
『慣れても、心は何も感じないわけでもないでしょう?』
「いやに、饒舌だね。
 自意識を持っていると言っても、そう話さないのに。」
『マイミストレス、スタンドは、主と繋がっているのは、ご存知ですね。』
「ああ、そうだね。」
『マイミストレスの心は、今、嵐のように荒れ狂いながら、泣きたいと思っていると私は、感じています。』
「・・・・・・・否定、しないよ。
 私はね、知り合いが死んだ事は、ものすごく哀しいよ。
 無く資格が無いのを痛感して、更に哀しい。」
『マイミストレス、もう一度、貴女の心に彼らの意味をお問いかけください。』
「わかった。」
ヴィットが、「消えて」と願うと、彼女のスタンドは消えた。
それから、幾つかの自問自答を繰り返す。
答えが出ないかもしれない、と思ったとき、ある事に、行き着いた。
信じたくない類いの事だった。
少なくとも、スーツで鎧っていたならば気付かなかったかもしれない。
「・・・・・・・・嘘だろう、何で今更、気付くんだろうね。」
認めたくはなかった。
止められない事を知っていても、何も言わなかった自分に、それを認めるわけにはいかなかった。
しかし、ふと昔の・・・14年前に死んだ恋人の言葉が、ヴィットの脳裏に蘇った。
『―――-----どんなに信じたくなくても、
          残った事が、それが真実なんだよ―--------』
口癖のように、そう何時も言っていた。
それで、皮肉にも、ヴィットは、いや、ヴィットーリア=リージは認めてしまった。
「僕は、ブチャラティのことが、好きだったのか?
 皮肉だよ、相手がいなくなってそう気付くなんて、どんな喜劇だよ。」
呟くヴィットの瞳には、確かに、涙があった。
しかし、あまりにも皮肉過ぎるせいか、口元は笑ってしまう。
そうして、彼女は、泣き笑いのまま、いつしか泣き声のまま、朝を迎えた。
「・・・・・・・カミサマってのは、皮肉なラブストーリーが好きだね。」






こうして、ヴィットは、自身の心を見つけた。
数日後、やってきたジョルノは、彼女を殺さなかった。
その代価に、ヴィットは、自分が知っているジョルノの父の事を話した。
付随する百年の悲劇も洩らさずに、伝えた。


その五年後、2006年、ヴィットはとある組織に、協力する事になった。
皮肉な事に、それが、数十年ぶりに、踏んだイギリスの大地だった。
そして、ヴィットは、とある悲喜劇が幕が引かれるところを目撃した。



それらは、まだ、今はまだ、未来の事。




黒猫達の夜騒曲(ノクターン) 5 (ジョジョ五部

2007-11-13 19:36:55 | ジョジョ二次創作


   5  親子×寡黙×仮面×日本人×ささやかな幸せ









(落ち着かない。
 前にスカートは言ったのっていつだ?
 ・・・・・確か、承太郎ちゃんが、高校生で、あの事件の後だから、十年以上着てない事になるのか?)
ヴィットが、チレストリーノに、『ママ』と呼ばれてから約三日。
『何で、スカート着ないの?』とか、『男物着てるのは何で?』とか、チレスに連呼されたせいかスカート姿だ。
かといって、カジュアルと言うわけでもない。
ゴシック風味大人系の衣装だ。
上から行くなら、蝙蝠ノ形の濃い灰色のリボンバレッタで、縮れた黒髪をまとめていて、ハイネックのブラウスの首を燻し銀色の剣と蝙蝠の羽を合わせたデザインのチョーカーで、コルセットのような漆黒の胴長衣で、シルエットをタイトに見せている。
ベルトバックルは、蝶とターンクロイツのモチーフで、ベルトの色は、暗い色。
黒に限りなく近い赤のフレアスカートを胴長衣の下に纏い、黒い編み上げブーツを履いている。
薔薇モチーフのブレスレットなどを付け、黒地に蜘蛛の巣と蜘蛛のシルエットのトートバックを持っている。
というともすれば、浮いてしまいがちだけれど、そうと感じさせない雰囲気がヴィットにはあった。
一緒に居るチレスは、フード付きのパステルカラーのベストとカーキ色の長袖Tシャツとジーパンと言うカジュアルな雰囲気だ。
まるで、真逆なのに一対のように不思議と似合っている。
「さて、ご飯、食べてから、ブチャラティ達のトコに行こうか。」
「うん・・・たのしみ。」
「何か、食べたいものあるかな?」
「えっと・・・、さんどいっち・・・・がいいな。
 おにくのが、いいな。」
「うん、じゃ、確かこの近くに美味しいローストビーフのセサミパニーニサンドを出すカフェがあるんだ。
 其処に行こうか」
「たのしみ、おいしい、たべる。」
ヴィットは、口をきいても、とりあえずこの服装だと、普通のお母さんに見える。
年齢的にも、ヤンママで、チレストリーノと親子に見えなくもない。
やや若い感じもするので、或いは、年の離れた姉弟な雰囲気だ。
さて、そのカフェ『ロッソ』という。
オープンテラスが五席六席ある結構な広さのカフェだ。
一流レストランで、修行したと言う店長のローストビーフサンドは、この街の人気だ。
また、その店長の奥さんが、入れるコーヒーも美味しいと評判なのだ。
その老夫婦が商っているのが、そのカフェだ。
カフェが近づくと、チレスは走り出した。
それを止める間もなく、テラス席にいた人物に、『ぶちゃらていぱぱ』と抱きついた。
抱きついたのだが、もちろん、パパ・・・ブチャラティではない。
銀色の髪を短くまとめ、瞳孔が赤で、白めが黒い、黒いTシャツと色みの違うジャケット姿の30歳に少し足りないぐらいの青年だった。
その青年は、連れがいて、金色のさらさらヘアーを右に流し、顔を半分隠すような髪型の深い緑色の瞳で、妙に露出度のある服の青年だ。
「あれェ?リゾット、その子誰?」
「さぁな。
 俺を誰かと間違えたようだが・・・・・ああ、泣くなよ、お母さんとはぐれたのか?」
「お母さんってよりも、リゾットと間違えたんだし、お父さんなんじゃないのォ?」
「・・・・残念ながら、連れは、私で女性だよ。
 まったく、そう狭くない街とは言え、こんなところで出会うとはね。」
「あ、・・・びっとまま・・・。」
「勝手に離れない方がいいよ、ここはそう治安が良くないんだから。」
「ヴィージュか、いや、情報屋黒猫・ヴィットの方がいいか?」
「おや、やっと通称を探り当てれたか。」
「びっとまま、・・・ごめんなさい。」
「いいよ、でも、今度から一言いってから離れなね。」
「きゃぁ、ヴィット。
 僕と言うモノがありながら、そんなに大きな子どもが居るのさァ?」
「誰が、誰のモノだ、ボケメローネ!!」
その銀髪の方に、抱きついたチレストリーノを金髪は、いいこいいこしてあげていると、ヴィットがチレスの後ろから、そう言って来た。
銀髪の方は、リゾット。金髪の方は、メローネと言う。
チレストリーノにすり寄られているヴィットをみて、メローネはそんな悲鳴と言うか叫びを上げる。
そして、綺麗なグーパンチが、その頬にめり込む。
「すいません、オーダーお願いします。」
よろめくメローネを気にせずに、ヴィットは相席する形で、オーダーを出す。
ローストビーフパニーニセット(パニーニ+コーヒーorオレンジジューズ)とポテトフライを注文し終えると、ヴィットは、改めて、リゾット達に、向き直る。
ちなみに、チレスはリゾットが怖いのとメローネが本能的に怖いのとで、ぎりぎりまでヴィットに椅子を寄せている。
「にしても、珍しいね。
 プロシュート達は、元気かな?」
「ああ、元気に殺ってる。」
「・・・ペッシは、卒業して、誕生できた?」
「出来てないのを知っていての質問だろう?」
「さぁ?でも、もうすぐだろうけどね。
 イルーゾォよりも若いのに、遅いぐらいだけどね。」
「ヴィージュというのは、偽名だったのだな。」
「うん。僕の本名のもじりだよ。
 ヴィット=リージも本名に近いけれどね。」
その能力故に、謎掛けのような形でしかヒントを与えれないが、ヴィットはヴィットなりに、彼ら・・・『パッショーネ』の暗殺チームが好きなのだ。
彼らの最後もある程度、予想はついているのに、言葉では何も言わない。
別れを知っていても、それを見せないのだ、ヴィットは。
チレストリーノは、この間も、びくびくとしている。
暗殺チームと言えど、キャラが濃い以外は普通の人間なのだが、微妙に怖いのだろう。
「ねぇねぇ、ヴィット、それでその子なんなの?
 まさか、本当に、ヴィットの息子ってことは無いよね。」
「・・・・んに?」
「知り合いから預かった子だよ。
 特殊な事情な子だけど、私をママと慕ってくれているよ。」
「・・・・・・・・・ああ、そう言えば、ヴィットは女だったのだったな。」
「・・・リゾット、ホルマジオみたいに、勘違いしているわけでないのに、何故そこで忘れていたような事をいうのだろうね?」
「普段の姿をみていて、女性と判断できる方が稀だろう?
 今日は、女性らしい服装だが、どうした、珍しいな。」
「うん、いつもは、パンツスタイルっていうか、青年系な服装なのにね。」
「チレスに、おねだりされてね。
 慣れないせいか、違和感の方が強い。」
「まま、すかーと・・・にあう、かわいい。」
「・・・・・・っ、何このカワイイ生き物!!?
 お兄さん、襲っちゃうよォ、ってか襲うよん。」
「止めろ、このド変態仮面!!」
チレスが、ほんわとした笑顔を見せると、変態仮面もとい、メローネが抱きつこうとする。
それを手刀の形で、彼を殴り飛ばしたヴィット。
いつもの事なのか、カフェの店員も、リゾットも何も言わない。
「なんにせよね、リゾット。
 ソルベとジェラードのこと、まだ忘れてない?」
「忘れれると思うか?」
「思うほど馬鹿じゃないさ。
 だけどね、暗殺って稼業をしていてもね、しているからこそかな、大事なもん、あるだろう?」「・・・・・・・」
「それが、解らないほど浸かりきっているわけじゃなだろう?
 浸かりきっているなら、チョコラータと何ら変わりない。
 心まで、それに慣れきっちゃ居ないから、彼らの死を嘆く事も、怒る事が出来るんだ。
 それを大切にしなよ。」
「・・・・・・お前は、哀しめないのか?」
「・・・哀しむ資格なんか無い。
 僕の目の前で、僕の方法のせいで、何人を死に誘っていると思う?
 今更だよ。
 ジョナ兄様と、ディオ兄様の二人を見殺しにした時から、ツェペリさんを死地に招いた時から。
 ジョセフから、親友を奪ったことや、ジョージ二世を死なせると解っていて、残党を始末しなかった時も。
 ディオ兄様が還って来た時も、花京院の死がキーだってことも、知っていた。
 ・・・・・・・だから、私に、哀しむ事は許されないからね。」
リゾットに、彼の部下でもあったソルベ達の名前を出して、早まって動くなと言う忠告をする。
無駄になると言う事をわかっていても、ヴィットには言わずにはいられない。
他意は無いであろう、リゾットの問いも、彼女には、誰に聞かせるでも無く・・・・・・或いは、自分自身に突きつけるかのように、ただ小さく答えるだけだ。
彼女は、『生きたくて生きている』のではない。
『死ねない』から、『生きている』だけ、というのが的を射た答えなのかもしれない。
「・・・うぇ、びっとまま・・・・・なかないで。
 まま、なく、ちーもかなしい・・・・・・、なく、だめ。」
「チレス、私は泣いてないよ?」
「ないて・・・るもん・・・・・・・なみだ、ながすないけど、・・・・・ないてるもん。」
ヴィットの様子をみて、チレストリーノの方が、泣き出してしまった。
声こそそれほど出していないが、しゃくりあげている。
メローネですら、その可愛い瞬間を毒牙にかけることを忘れておろおろしている。
ヴィットは、それに少し驚いたようにはっとなり、そして、少し寂しげに微笑む。
「チレス、ごめん。
 どんなに哀しそうでも、泣きそうでも泣けないんだ。
 でもね、チレスの言葉、本当に嬉しいよ。」
「・・・・・・・ひっく。」
「チビを泣かせてまで、泣かないなら、そのチビ・・・チレストリーノの為に、泣けばいいのではないか?」
「・・・・ちょっと、台詞が臭いよォ、リーダー。」
チレスを抱っこして、宥めているヴィットは、リゾットにそう言われた。
メローネは、そのリーダーの台詞に突っ込んでいたが。



このあと、ヴィット達は、リゾット達と別れた。
彼らが、此処を去る前に後何度か会えるか解らなかったけれど。
そして、そこに、ヴィットのケータイにブチャラティから、電話が入った。



「ぱぱ、なんていってた?
 おそいなったから、おこってた?」
「いや、賭場荒らしと銀行強盗が出たらしくてな、リストランテに誰もいないそうだ。
 遅くなりそうなら、又電話するってさ。」
急な仕事が入ったため、ヴィットとチレストリーノには、午後丸々時間が空いてしまった。
さて、どうするか、と思案していたヴィットに後ろから声をかける人が居た。
「あれ、ヴィット・・・さんだよね。
 女性用の服を着ているけど。」
「おや、康一か。
 一応、僕も女性なのだから女装をしても、何の不都合も無いだろう?」
声の主は、トランクケースをカラコロ引いている広瀬康一だった。
ヴィットより、頭半分ほど小柄な体格で、薄い茶髪のなかなか胆力のある日本の高校生だ。
約一年と数ヶ月前に・・・康一にとっての大きな闘いがあった約一年後に、ヴィットが知り合った少年だ。
見慣れない少年に、チレストリーノは、びくびくと怯えたようにヴィットの後ろに張り付いている。
「それは、そうですけど、でも、一年前の滞在の時も、男装でほんとは、男性じゃないかって思ってたから。」
「それは、さり気なく酷くないかな?
 ・・・ああ、そうだ。
 承太郎ちゃんが、一般人の君を巻き込んだ件だけどね、この夏の事件が終わったら、僕がジョルノくんから、ちゃんと採取して送っておくよ。」
「・・・・・・何処でそれを?」
「そもそも、SPW財団が動いた情報は、僕のタレコミだよ。
 総裁に、直報告だったから、承太郎ちゃんが動いたようなモノだし。」
微笑んだヴィットの顔は、寂しげで、でも何処か誇らしげで、康一は、何故かドキリとした。
別に、異性的な魅力を感じたとか言うわけではない。
ただ、日本に居る『母』をどこか、思い出したせいなのかもしれない。
何故か、までは解らないけど。
「悪いね。」
「・・・・・・それはいいんですけど、その子、ヴィットさんの子どもですか?」
「ちーのままは、びっとまま。
 ちーは、ちーなの。」
「この三日で、何回言われたかな、その台詞。
 ・・・・・・この子はチレストリーノ=アルコバレーノ。
 知り合いから、預かってる子だよ。」
「ちー ふぁみりーねーむ にじ?」
「うん、大空の虹って言う意味。」
「ちー このひとしるない。
 だけど わるいひとない。」
「だそうだよ、康一くん。
 ああと、チレス、彼は広瀬康一くん。
 ジャポーネの高校生だよ。」
「・・・じゃぽーね?
 さむらいさん いるない くに?」
「そうだね、昔居たね。
 でも、サムライソウルを持った男達はまだ居るよ。
 ・・・・・・・・・・・・・何か言いたそうだけど、どうした?」
「・・・親子っぽいなぁと。」
チレスとヴィットの会話をみて聞いて、しみじみと康一はそう言った。
実際、見た目的にも、ちょっと年齢のわりには、大きな体格な子どもか、ちょっと若いお母さんか、どっちかに見えるのだ。
それには、ヴィットは、ちょっとげんなりとしたように、こう言った。
「・・・・・・・泣いてもいいかな?
 というのは、ジョークだけれど。
 もうそろそろ、ジャポーネの始業式・・・だったかな、それが始まるよね?」
「ええ、それで、明日帰るんです。」
「お土産、買えた?
 由花子嬢と付き合っているのだろう?」
「・・・ど、どこから、それを?」
「くすくす、この間、仗助に電話したら、話してくれたんだよ。」
「・・・・・・仗助くん達には、買ったんですけど、由花子さんには、何がいいか、解らなくて。」
「なら、僕も、一緒にみていいかな?
 蛇の道は蛇と言うわけではないけれど、女の子のことは、女の子に聞くのが一番だと思うけれど?」
・・・・・・というわけで、でもないけれど、ヴィットが案内したのは、英語風に言えば、「ビューティ&プリティ レディセンター」とでも言うような場所だ。
「女性」か「女の子」のキーワードで集めたら、そんな場所が出来るような場所だ。
服飾から、美食、美容まで。
ここで、揃わないモノはないと言う感じだ。
「康一くん、君にとっての由花子嬢を花と香りに例えると?
 僕にしてみれば、情熱の赤と大輪で真紅の薔薇のように思うけれど?」
「そーですね、僕にとっての由花子さんか。
 ・・・・・・色は、紫かな。それで、香りは鈴蘭とか、ラヴェンダーとか。」
「それは、何故かな?」
「それは、なぜー?」
「由花子さんって、強いですけど、でも弱いところもあって、その二つが合わせて、イメージが紫で。
 香りは、なんとなく、可愛いじゃないですか。」
「・・・・・・・・ベタ惚れだねぇ。
 それじゃ、香水屋とアクセサリー屋、あとは、バスセットかな?」
「ばすせっと?」
「お風呂の入浴剤とか、ボディーソープとか売っている店だよ。」
そして、香水を染み込ませれるラヴェンダーのデザインのチョーカーと鈴蘭のペンダント。
それ用の香水を二本と、別に甘いローズヒップの香水。
以上をヴィットが、由花子嬢のお土産にと、康一に渡した。
それに対して、「うん?プレゼント、君と由花子嬢のことは、気に入っているんだ。」というだけだ。
蝶々を模した銀製の髪留めを康一クンが買った。
そして、ヴィットはバスセットの専門店で、店員に何かを注文したようだ。
それは、真ん中にラヴェンダーと鈴蘭のバスアイテムー入浴剤やボディーソープ、しゃんぷーなどだー周りに、薔薇とハイビスカスのバスアイテムをあしらった一抱えもあるバス籠だ。
「・・・・・・ヴィットさん?」
「どうした?」
「日本に僕が持って帰る事、考えてます?」
「いや、これは、僕から彼女へのプレゼントだしね、僕がジャポーネに送っておくよ。
 ああ、君の家にしておこうか?」
「なんで、そこまで?」
「うん?
 君らには、「コーヒーを家族と飲むくらいの幸せ」を手に入れて欲しいからかな?」
そんな感じで、ヴィットは、夕方には、康一君と別れた。
多分、彼やその友人に会う為に、今年の秋か冬には、杜王町へ行くだろう。
その時までのしばしのお別れだった。
「びっとまま。
 かぞく ほしいの?」
「うん?どうしてそんなことを言うのかな?」
「だって、こーいちのこと、うらやましそうだもん。
 びっとままのかぞく、いないしる。
 だけど ことば、すごくさびしい。」
「くすくす、ま、確かにね。
 夕飯食べたら、ブチャラティのトコに行くか。」
「うん、ぶちゃらていぱぱ あう たのしみ。」



こうして、日々は過ぎていく。
瞬く間に過ぎて、七月に入る頃に、ブチャラティ達は、カプリ島に旅立った。
それを、ヴィットは、やや寂しげに見送ったのだった。