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セピア色の想い出。

日々の生活と、其処から生まれる物語の布飾り。

Day’s3 独り言?弐り言?

2007-11-25 02:05:22 | 凍結


『ディスティア、至和子お姉様のトコ行ってくるね。』
「あ、はい、解りました。
 これを、手みやげに持っていってください。」
『今日は何?』
「ドーナツ二種とビターチョコのクッキーです。
 あと、少しですが、抹茶とプレーンの二色クッキーも入れておきました。」
『わぁ、美味しそー。
 至和子お姉様のお茶と一緒に食べたら、幸せだわ!!』
「あまり、乾様に、ご迷惑をかけてはダメですよ?」
『うん、解ってる。
 ・・・ねぇ、ディスティアも行かないの?』
ある日、のことだ。
私がこの街に来て、一週間も過ぎた頃だ。
数日前から、ケレルは、乾という神父の元へ行くようになった。
彼に会うのが目的ではなく、その神父のパートナーであり、ケレルと同じ、シワコワトル種の至和子という女性龍に会いに行く事が、目的なのだ。
姉と、彼女をケレルは慕っているのだ。
ある意味で、「S」なのだろう。
サドではない意味の隠語の方でだ。
『ディスティア?』
「ああ、すいません。
 色々とする事があるのですよ?」
『ふーん、あ、でも、五時位には、顔を出すんでしょ?』
「ええ。」
『待ってるね。
 ・・・・・・あ、もうこんな時間。
 じゃあ、ディスティア行ってくるね。』
そう言って、ケレルは88番地を出ていった。
さて、昼ご飯の片付けと、洗濯しようか。





Day‘s3  弐り言? 独り言?





「ふう、終わった。
 ・・・・・・あ、もう三時か。」
『お疲れ様。』
「あ、ラルか。ありがと。
 紅茶でも入れるかな。」
誰もいないから、本来の砕けたと言うか、男のようなあっさりとした口調で独り言を洩らす。
家事を終え、一息ついたとき、私自身の口から、私のハスキーなアルトではなく、明らかに、男性声が、洩れ出た。
正直少し驚いた。
今までは、先に、テレパシー?で、先に断ってから話しかけてくるのに。
それでも、私は内心の動揺を顔に出さないで、答えた。
彼は、ややこしい経緯で、私の中にいる「存在」のうち、一番古くからいるヤツだ。
たぶん、私の淡い青紫色の瞳は、片方だけ、完全に紫よりの赤紫になっているだろう。
アメジストのような、私の瞳よりも、更に人にあってはいけない色に。
ふと、気になった事を私は、ラルに聞く。
「そういえば、ラル。
 私の時間は、どのくらい残っているかな?」
『とりあえず、もう少し残っているよ。
 どうした?』
紅茶を入れながら、彼に私は話しかけた。
すると、するすると、闇色の光の帯が集まり、一つの影を作り出した。
机の上に、一つの闇が収束し、形を作る。
それは、輝く銀を糸にして髪の毛にしたような見事な銀髪で、赤紫色の切れ長の涼しい瞳。
髪は、私よりも短く、肩口で乱暴に切りそろえられている。
真っ黒なフードマントに、濃い藍色のベスト・ワイシャツ・スラックスの男性の姿をしている。
まぁ、美人な青年だ。
美男ではないのは、そういうには、少し女性のような造形もあるのだろうけど。
便宜上、「ラルディアス=トラインクルメイカー」と、こう呼ばれている。
服装の趣味も何もかも違うけれど、顔の造形だけは、アル兄様に似た印象だ。
紅茶を入れ、キッチンの椅子に座る私を、ふよふよとついてきた。
そして、同じくキッチンの机の上に、座る動作をする。
本当に座っているわけではなく、そう見えるように、画像を調整していると言うべきだろうか。
「行儀悪いぞ、ラル。」
『精神体に、行儀もクソも無いだろうけどねー。』
「うん、一応、習慣的にだよ。」
『んで、何でいきなり、《時間》を訊ねたの?
 キサが居なくなってからですら、一回も聞かなかっただろう?』
「・・・・・・無くしたくないから,かな。
 今の生活をさ。
 復讐が目的だっていっても、こんなに、穏やかな生活は、エリファス師匠のトコに板以来だしね。」
『ああ、確かに。
 アイツのトコに居る時は、修行は滅茶苦茶厳しいけど、アイツは優しかったし、穏やかな生活だったもんな。』
「うん、師匠、元気かな。」
私が、傭兵を始めたのは、二年半ほど前だ。
本来なら、三年ほどで、師匠のところから、卒業するのはありえない。
ありえないのだけれど、兄弟子達の影響を考えたら、アレが限度だったように思う。
修行は厳しかったけど、師匠は優しかったし、目的を終えても、生きていれたら、一回位は、会いに行きたいな。
そんな事を考えてしまう。
目的以外を考えては行けないとは思うのだけれど。
つらつらと考えながら、私はラルと話す。
ラルは、此処に居る。
触れられるし、体温もある。
だけど、それでも、ラルは此処に居ない。
それに、私の中に、居はするが、決して味方ではない。
ある種の、『監視役』に近い。
或いは、『観察者』か。
私が「終わる」まで、側にいると言う意味ではね。
だけれど、私にとっては、故郷をでて、この街に落ち着くまでは、数少ない話し相手だったし。
特に、キサを失った後は、顕著にね。
そうじゃ無いのは、依頼人か、同じ仕事の傭兵位だし。
嫌いになることは出来ない。
それに、『視占人(シーヤー)』の方が恐ろしい。
七年前の私が、完全な人間でなくなった時に、『預言』を残した時以外、会いはしていないが、ラルの言葉を借りれば、私の中に居るらしいし。
『あれは、殺しても死ねないタイプだし、生きてるだろうさ。』
「でも、もう、百歳過ぎだよ?」
『精霊の祝福と言うか・・・・・・ま、呪いだわな。
 それがあるから、生きてんだろうよ。
 ディスが行ったら喜ぶと思うぜ?』
師匠―エリファスさんも、そんな事情在るんだ。と初めて知った。
ラルって、時々こんな変な事知ってるけど、どうしてだろうと、毎回思う。
結局はぐらかされてしまうけれど。
つらつらと、ある意味で、自分の過去の傷を抉るような会話を続ける。
ケレルは、帰って来ないだろうし、他の人もこないだろうから。
聞かれても,困らないだろうけど、だけど、弁明をするのも、少し面倒だし。
「そうね。
 ・・・・・・・ともかくね、ケレルも、乾さんも、この街の誰も、私の目的を知らないわけだけど。」
『だよなー。
 色々と、臑に傷が多いヤツが多いってか、そうじゃ無いのが少ない街だけど、ね。
 だけど、今もそれを持ち越してるのは居ないよな。』
「うん。
 今さ、すごく幸せだよ、本当に。」
『なら、このまま、幸せになっちまえば?』
「なれないよ。」
『どうして?』
「なれないよ。
 だってさ、本当の家族は、家族らしくなくて。
 アルとミーネだけが、本当の家族みたいで。
 ・・・・・・・・・・・・その二人が居なくなって。
 特に、アルは私自身が、殺したんだし。
 故郷を捨てては行けない立場だったのに、私は故郷を捨てたんだもん。
 ・・・・・・・・・もう何年だろうね。」
思い出すように、噛み締めるように、私は呟く。
会話中だったけれど、ラルに言ったわけではない。
自戒というのが、しっくり来るような気がする。
私は、少なくとも、故郷での私は、こういう風に、「故郷」を「捨てる」ことは許される立場じゃなかった。
良くも悪くも、故郷での私の立場は、ある意味で、「故郷」の為に、「死ぬ」為に、あるような存在だったし。
『五年と三百三十六日と十四時間と三十七分ぐらいだな。』
「・・・・・・そこで、正確に言えるのも、すごいね。」
『微睡むか、思考するか、覚えていることぐらいしか出来ないからね。
 自発的にできることがそれくらいしか無いんじゃ、覚えているさ。』
「本当に長いね。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
 私は、幸せだ。
 あの二人がいなくなって、私には、大切なものを作る資格が無いと思った。
 ・・・・・・自分を粗末にもしたね。」
『・・・・・・君は、粗末にしたね。
 普通は、四人位でするような仕事も、一人で受けて。』
「・・・・・・あれから、五年だけどね。
 ラルがいて本当に良かった。
 特に、一年以上前のあのデキゴトの時は、ラルが居なかったら、立ち上がれなかったのかもね。」
『・・・・・・・・・・・・・』
私が、ラルに微笑みながら、そう言うと、茹で蛸でもそこまでならないだろうと言う位、急激に真っ赤になる。
そんなに、妙な事を私入っただろうかと,思わず自問してしまう。
確かに、私は、感謝の言葉はそう口にしないタイプなのだけれど。
一応、実体がないけれど、今の身体は精神の影響を直接受ける。
耳まで赤くなっているから、ものすごく照れていると言う状況なのかもしれない。
にしても、何でそんなに赤くなるんだ?
『・・・・ディス、お前の笑顔は、心臓に悪い。』
「心臓無いのに?」
『この場合は比喩だっつの。』
「・・・・・・・・・ぶぅ、そんなにヘチャムクレですか?」
『へちゃむ?』
「不美人ってことよ。」
『いや、そうじゃ無くて、逆だ、逆。』
「逆?」
『そう。
 ともかくな、もっと幸せになって良いんだよ。』
そういって、ラルは、私の頭をぽんぽんと子どもにするかのように、する。
正直言って、少し、こういう子ども扱いと言うのは、気恥ずかしいし、嫌だとは思う。
だけど、あまり悪い気分じゃない。
たぶん、まだ、仲の良かったフェリクス兄様や、ラインホルト異母兄様によくやられていたからだと思う。
・・・・・・そういえば、故郷から追っ手が来るとすれば、その二人だろうな。
殺してしまうわけにも行かないだろうから、あの二人なら、私が、「説得」されるだろうと言う思惑が在るのだろう。
なんにせよ、幸せはそれがくれば終わるようなちゃちなモノなのだと私は思う。
「今も、充分幸せだよ。
 どうしたの、ラル。
 普段は,其処まで言わないのに。」
『別に。
 今日は特に幸せそうだったから。 
 別にな、故郷を捨てたんだ。
 フツーに恋して、結婚して、子ども作ったりして、そんな幸せを得て良いんだぜ。』
「今は、考えられないかな。」
『終わったら、どうなるか考えれないで、復讐を考えるなよ。
 そんなヤツは、大抵抜け殻になっちまうから。』
「・・・・・でも、子どもが出来たら、その子にまで、故郷の重荷を背負わせちゃう。
 『アレ』は、私の分が解けても、血に依ってなされている部分が多いから。」
『んなの、確率論だろが。』
「確率論でも、ある以上は、作りたくないかな。
 幸せなって、大切な人が出来て結婚したら、子どもが欲しくなるわ。
 でも、子どもが『アレ』を受け継いでしまえば、故郷に奪われてしまう。」
『・・・・・・解った、俺が悪かった。』
何人か、故郷を捨てた先祖が居るらしい。
それでも、その子どもに「アレ」が開花してしまったケースもある。
だから、作れないのだと思う。
ラルが言う意味での、大切な人が。
それを察したラルは素直に謝ってくれた。
『・・・・んで、もうそろそろ、四時半過ぎて、五時になっちまうぞ?』
「え、マズい。
 ケレル、迎えにいかなきゃ。」
ラルに指摘されて、やっと気付いた。
もう、五時まで、十五分位しか無かった。
急いで、外出用のマントを羽織り、出掛けようとした。
『あ、こら、剣忘れんな。
 一応、殺人強盗okな街なんだぞ。』
「ありがとう、助かった。」
少々、慌ただしいが、そうやって私は、一路乾さんの教会に向かった。








「今日の夕ご飯、リクエストありますか?」
『チキトマ煮込みがいいな。
 堅焼きパンと一緒に。』
「そうですか。
 では、ポテトのスパイス焼きも一緒に作りましょうか。」
『ほんと!!?
 ディスティアのご飯すごく美味しいけど、特にそのポテトスパイス焼き好きだもん。』
「だからこそ、作ってしまうのですよね。」
『・・・・・・・って、あれ?
 道遠回りじゃない?』
乾さんの教会からの帰り道、ケレルと私は、真っ直ぐ、88番地に帰らずに、遠回りをして帰っていた。
その日、前日までのドラゴンズテンペストで、ドラゴンマスターレベルが、2レベルになっていた。
もう一人、龍を入れようと言う事にしたのだ。
「昨日の、ドラテンで、ドラマスレベルが上がったので、もう一人、龍を入れようと思うのですよ。」
『ほんと?
 私の、弟ってことになるのかな!?』
「ええ、そうですね。」
『何龍にするの?』
「そうですね。」
しかし、私は、ケレルと会話しながら、半分上の空だった。
原因は、乾さん宅の水龍・アイトラのお嬢さん、もとい、タイガさんのせいだった。
この間の遣り取りも、原因だけれど、かなり、警戒されてるね。
なんか、近いうちに、やり合いそうな気がする。
・・・・・・よりによって、軍人タイプの水龍とは、運が悪い。
『楽しみ、どんな子が来るのかな?』
「そうですね、お手伝いもおねがいしますよ。」
『うん、頑張るね。』
ケセラケセラ、なるようにしかならないんだろうけどね。




この日、光龍のシャイニング種が、私のうちに来た。
名前は、輝(てる)=ヴァイスと名付けた。
・・・・・壊れるかもしれない幸せも、なるべく、続くように。
家族に成れると良いと思った。







コメント
二ヶ月ぶりの更新です。
いろいろと、話が動き始めてます。
次は、「輝くん」、その次は、「ラル」が、語り部予定です。
よろしくですね。



Days.2 過去との再会

2007-09-15 21:00:08 | 凍結
『ディスティア、何処行くの?』
「引っ越しの挨拶、ですよ。」
『誰?』
「142番地の乾様と言う方にです。」
この街にきて次の朝、私は、朝飯を簡単に食べた後、とりあえず、身だしなみを整えていた。
紫がかった黒髪と瞳の少女・・・・の形態をとった羽堂様からもらったシワコワトル種のケレルと名付けた・・・・・は、そういうと、パタパタと上着を来た。
付いてくるようだった。
・・・・・・・・それにしても、よく疑問に思わないものだと思う。
いくら、そう言う勉強をしても、龍を半ば強制的に、人化させることは純粋な人には、難しいだろう。
・・・忌まわしくも、喜ばしい。とでも言うべきなんだろうか?
『ディスティア?』
「申し訳ないです。
 少し、思考が飛躍していました。」
『?・・・・・で、誰んとこ行くの?』
「そうですね・・・・・・・」


Days.2 過去との再会


教会か、あの時のひとのイメージには、少し合うないような合うような。
そんな事を思いながら、住居部分の玄関ドアを開ける。
「お邪魔いたします。こちらに乾様はいらっしゃいますでしょうか?」
座っていた女性が、立ち上がりこちらに歩いてくる。
私より、頭二個分に少し足りないくらいの人化した・・・ケレルと同じシワコワトル種の龍の女性だ。
彼女は、手紙を片手に、こう訊ねて来た。
「・・・・・・・あの、ひょっとして昨日の手紙にあった新しくこの町に来はったと言う方でっしゃろか?」
「はい、ディスティア・グレイと申します。
 故郷を捨て旅を重ね、つい昨夕この街にたどり着きました。
 宜しくお願いいたします。」
その女性龍は、濃い暗紫色地に、緋色の花と銀の蝶が、裾に舞う衣装を着ていた。
この大陸の東の果ての更に果ての方の民族衣装で、『キモノ』と言う名前だったかと思う。
はんなりというか、穏やかなそうにみえて、少し怖いかもしれない。
そうこうしているうちに、私とケレルのお茶の用意をし始める。
「そうですか。それは、大変でしたやろ。
 乾はんはまだ帰ってきいへんけど、お茶でも一杯飲んでいきなはるのは如何ですやろか?」
「お心遣い感謝いたします。しかし、せっかくですがあまり気を使わせてしまう訳にも行きませんので・・・・・・」
妙な予感というか、何故かいてはいけない気をしてしまい、少し不自然かと思ったが、そう断ろうとした時だった。
お茶のお盆を持ったまま、彼女は固まってしまった。
凍った空気の中、突然大きな明るい声がそれを溶かした。
「あれ?どうしたの。じっと固まって。
 お姉ちゃんもわたしと同じシワコワトル種でしょ?わたしケレル。宜しくね。」
ケレルは、そう明るく話しかける。
同じシワコワトル種だとはいえ、髪と瞳の色が同系等だと言う以外は、似ていない。
まぁ、人間でも、兄弟だとしても、違うから、納得できる範囲だ。
キサや、他の家族の従者龍以外、人化した龍を見た事が無いので、少し心配だった。
「はあ、つい考え事をして棒になってまいましたたわ。いけませんなあ。」
至和子さんは苦笑いをしながら、ケレルの頬を撫でる。
頬を撫でられた彼女は、顔を軽く赤らめて至和子さんの方をじっと見返しはった。
微笑ましいと思う。
それでも、一応、ダメな事はそう言わないとね。
「ケレル、あまり人をからかってはいけませんよ。至和子さん。
 乾様がいらっしゃられないのでしたら、また日を改めてお伺いしようと思っているのですが・・・・・・・・」
私は、そう言って、帰ろうと玄関ドアの方に向かった。
それとほぼ同時に、私の目の前に、乾さんが立っていた。
というか、このタイミング、後少し速かったら、正面衝突な感じだ。
「ただいま?。あれ、お客さん?」
「こんにちは、乾様。
 以前ラグワイトの町で嵐に会ったときに相部屋をさせて頂いたディスティア・グレイと申します。覚えていらっしゃいますでしょうか?」
挨拶とお辞儀を返すと、彼もつられて、かえしてくれた。
くれたのだが、反応を見るに、すぐには思い出せないと言うような感じだ。
「え?っと・・・・・・・ああ!思い出しました。あの時の!覚えてますよ。僕の方こそお世話になりました。」
やっとと言うように、彼はそうかぶりをふった。
・・・・・どうやら、あの事は、覚えていないようだ。
正直言って助かる。
とりあえず、挨拶をすることにした。
「実は、この度この町の88番地に流れ着くことになりました。
 それで、乾様に引越しの挨拶をしようと思いまして・・・・・・」
「そうだったんですか。大歓迎ですよ!
 そうだ、せっかく一緒の町に住む事になったんだから今度一緒にお酒でも飲みませんか?」
そう、乾さんは、お酒に誘って来た。
一応、というか、かなり嬉しい事ではある。
「え?お酒ですか。も、申し訳ありません。
 お酒はいずれ先の事にして頂いてもよろしいでしょうか・・・・・・?
 私はあまり酒癖が良くないので・・・・・・。」
あるのだが、普通、男の人が下心無しに、そう言うのに誘うのって、同性が多いような。
というか、忘れられてると言う事?
思考を止めかけたとき、
「な?んか、ちょっと頼りない感じだよね。
 あれがディスティアのお世話になった人?」
横から、見ていたケレル横からそう感想を言う。。
まるで、大した事なさそうな人じゃない。・・・・・と言っているようだった。
・・・・・・まぁね、確かに、少し美化っていうか欲目が入ってたかもしれないけど。
でも、かっこ良かったのには、違いないんだけどな。
「頼りないって・・・・・・・」
「ケレル、よしなさい。」
さすがに、顔の引きつった乾さんを見れば、たしなめないわけにもいかない。
ケレルは少し頬を風船のように膨らませながら、
「だってさ、わたしディスティアのお世話になった人って言うからもっとカッコいい人を想像してたんだよ。
 何か頼り無さそうなんだもん。」
それでも、毒舌を吐くケレル。
一応、マスターの私を慕う感情から来る嫉妬のようなモノだと思う。
なんか、キサみたいだな。そんなことを考えながら私はちょっと苦笑した。
キサも、そんな感じだった。
今は、傍に居るけど傍に居ない、相方龍を思い出していた。
「マスター、帰って来てらしたのですか?・・・・・・・・その方は?」
上の階から凛とした良く通る声が響いて来た。
ふと、奥の方に目をやると白い詰襟の軍服風の服に、金の髪を後ろで無造作にまとめ、腰にレイピアを挿した17?8歳くらいの年の少女の外見をした龍が降りてくるところやった。
たぶん、水龍の一種、アイトラ種だろう。
キサと同じ、水龍。
それだけで、少し心が揺れた。
「こんにちは、ディスティア・グレイと申します。
 この度この町に住む事になりました。
 宜しくお願いします。」
私の挨拶に対して軽く頭を下げて礼を返す水龍の女の子。
だけども、その彼女は、瞬間全身から殺気立ったような刃のような感覚を出して、軽く身構える。
「失礼ですけど、貴女はどこの出身ですか?」
彼女は、ゆっくりと階段を降りながら警戒してそう聞いて来た。
・・・・これだから、『水龍』は、苦手だ。
難易度に、関わらず、気付く確率が高い。
「ここから、大陸の西の端の方ですよ。もっとも、5、6年ほど前に捨てましたが・・・・・・」
私は、その彼女の質問に、感情を抑えながら静かに、答える。
何度も、されて来た質問だ。
それでも、ケレルには、突然の不躾な質問に少しそわそわしている。
「その二振りの刀と外套は?妙な雰囲気ですが・・・・・・」
「月姫と火輪と、この外套ですか?故郷の実家の倉庫から持ってきました。
 結構古いものの様ですね。」
水龍の彼女は、更に質問を重ねる。
私は、鉄仮面なポーカーフェイスで答える。
ただし、少しだけ微笑むのがコツだ。
その態度に、彼女は警戒心を丸出しにしたままで、仔犬のような雰囲気で質問を続けた。
大きな犬に吠えかかる小さな犬のような。
「それでは、そのペンダント、アンクレット、アームレットはかなり強い制御能力を持った封印具ですね。
 それを5つも付けていると言う事は、同族から人間扱いされてない事に等しい筈です。
 一つでも、異端と言う烙印を押されたに等しいはずですし。」
彼女は、それが『何』のための封印具なのか、解っているのかな?
解っていないだろう。
龍としての本能が、今の質問にせき立てているのだろう。
「正確には、封印と言うより制御です。
 母方の一族の血もあって、精霊が騒ぎやす過ぎて、最下級の呪文でも、中級程度になるのです。
 それでは、色々と不都合があるので。
 それに半分は自分で精製したものですよ。」
少なくとも、『ウソ』ではない。少なくともね。
私の視界の端に、腕輪の宝玉が入る。
淡い青紫で、半透明な制御玉だ。
正確に言えば、アミュレットでもない宝玉だ。
故郷を出て、その隣国の魔術都市で、マジックスミスを過労死させるほど急がせて、作ったものだ。
これが、かろうじて、私を人間のように見せている。
髪の銀色の輝きを押さえ、瞳の赤みをぼやかし、やや尖っている耳を普通の耳に。
「では・・・・・・・その髪は?その色は人には異端です。」
「・・・・・・・・・・・」
思わず、黙ってしまった。
マズいとは思ったが、黙ってしまった。
来るとは思ってなかった質問のせいもある。
「おい、タイガ!一体どうしたんだ?」
乾さんが水龍の彼女をたしなめた時、一番マズいことが起こった。
隣かやや後ろに居たはずのケレルが、彼女に向かう。
「マスターをいじめるな!」
牙をむいて彼女の喉元を狙って飛び掛った。
一瞬の間に2人の間の間合いが縮まり、水龍の彼女の首を噛みちぎる前に、私は、滑り込んだ。
マスターと呼んでくれたのは、嬉しいんだけど、それはマズい。
「ディスティアさん・・・・・・」
最初に声を出したのは、他ならぬ貫かれようとした彼女だった。
後一息というところで、ケレルの牙がミスリルの篭手を噛ませて止める。
「ディスティア……なんで?」
止めれて良かった。
『アレ』を少し解放しないといけなかったけれど。
ケレルは、喰い込んだ牙を篭手から放すと私の隣で呆然としていた。
気持ちは、嬉しかったんだけどね。
「ケレル・・・・・・私の為に怒ってくれたのですね。
 でも、貴女が怒りに我を忘れていい事は無いのですよ。」
「ディスティア・・・・・・」
ケレルは、我を戻した後、肩を震わせて、全てを吐き出す様にディスティアの胸にすがり付いて泣き始めた。
ほんとうに、感情豊かだと思う。
「ディスティアさん・・・・・・不躾な質問をして申し訳ありませんでした。
 私の器量が狭すぎました。
 お詫びします。」
水龍の女性はそう言って深く頭を下げる。
この人は、本当に真っ直ぐだと思う。
喪失(うし)ってしまったキサを思い出させる。
「謝ってくれたならそれでいいのです。
 貴女に悪気が無かった事も分かるつもりですから。」
私には、一つの祈りであり、願いがある。。
少なくとも、数ヶ月は、この街に痛いと言う願い。
叶えたいと、切々に、願うことだ。
それでも、水龍の女性は、頭を下げながら申し訳無さそうに唇を噛んでいた。
「ディスティアさん、腕は大丈夫どすか?今から薬箱でも・・・・・・」
「大丈夫ですよ?これでもこの篭手はミスリル製です。」
そう言いつつ、私は少し寂しげに微笑む。
でも、私は、小さな小さな声で「良いですよ、龍から見れば、警戒に値するバケモノには、違いないのかもしれないですから。」と言った。
聞こえないだろうけど、それでいい。
バケモノなのには、変わりない。
ネガティブな思考に嵌りかけていた私にケレルが、こう言って来た。
「嘘だ!鉄の味がしたもん。」
ケレルは、取り乱すように私に縋り付く。
その目は、私に噛み付いた事に対する後悔と自らが傷つく事を軽く済まそうとする私を責める色の両方が浮かんでいた。
実際、篭手の下の傷は、服の袖口を赤く染めつつも、もうほとんど血は止まっている。
「ケレル、もう泣くのはおやめなさい・・・・・・この傷もすぐに癒えます。」
私は、ケレルの頭を優しく撫でた。
ケレルは、涙を拭って顔を伏せる。
嬉しいよ、そのケレルの気持ちは。
キサを思い出してしまうけど、本当に嬉しい。
「本当に申し訳ないことをしました。
 恥知らずなのは分かっていますが、改めてお詫びさせて頂きます。」
水龍の女性が、そう言って私の傍で礼をする。
ほんとうに、真っ直ぐだと思う。
間違っていると思った事は、ちゃんと謝れるのだから。
「いいえ、気にしませんよ。
 そういえば、名前は何ですか?アイトラのお嬢さん。」
「・・・・・・タイガ、良く分かりますね、人型なのに。」
「昔から得意なのですよ。」
そう言って、微笑んだ後、私はは至和子さんと乾さんの方に向き直ってこう挨拶する。
「この通り、少し変わっていますが、これからも宜しくお願いしますね、142番地の司祭、乾様。」
「こっちこそ。分からない事があったら、聞いてね。」
「ケレルはん、同じシワコワトル同士、仲良くやりましょうや。」
「・・・・・・うん、わたしの方こそ宜しく。」
至和子さんとケレルも、同じシワコワトル種同士、意気投合?しているようだった。
そう言って、お辞儀を一つして、ケレルを連れて、乾さんの教会を後にした。
・・・・・・・少しでも長くここで暮らしたいけれど、でも最初からこれでは、難しいだろうか。








その日の晩から、ケレルと私は、別々の部屋に寝る事にした。
今日の事があったからと言うわけではない。
二階の部屋を昨日の時点で、彼女の部屋にする一室を決めていた。
でも、今日の事があったせいか、少し渋っていた。
それでも、自分の部屋に戻っていった。
「優しい・・・優しいですね、ケレル。」
私は呟いた。
一人が、音が無い事が、嫌だったから。
「でも、私に、それは少しまぶしいです。
 私が、6年前のあの日、故郷に捨てていかなくては行けなかった『無垢』さが、まぶしい。」
本当に、昨日の事と言うと少し大げさかもしれないけれど、それでも、近しいかこのように思い出してしまう。
一番大切だった『片翼』を自分のこの手で、喪失(うしな)わせたあの日の事。
その前の、今はもう戻れないあの宝石のような日々。
「・・・・・・時間、あと、どれくらい残ってるのでしょうね。
 本当、もう残っていないかもしれないのですけど。
 それでも、復讐だけは果たさなくてはね。」
そう、そうなのだ。
『復讐』だけは果たさなくては。
この命、終わるまでは。


Days.1こんにちは、朝色の街

2007-09-15 20:34:31 | 凍結


ここか。
あれから二年、探せる場所は探した。
あの時追わせた傷は、吸血鬼でも、十年は活動するのは難しいだろう。
それに、あいつらは、流れる水は渡れないし、闇の大陸を怒らせることもしないだろう。
だから、いるとしたら、この街周辺だろう。
『あの人』を殺した罪がそれで償えるとはいえない。
だけど、私の時間が尽きる前に、滅ぼす・・・・・・・・・。


Days.1  こんにちは、朝色の街


その街は、『朝色』『大空』とか、色々呼ばれている。
住人は、そう多くないと聞く。
一年前のあの神父は、戻るって言っていたけど、どうなんだろう。
「・・・・・・・・・此処ですか。
 意外と、大きいのですね。」
88番地。
そこが私の住処になるらしい。
『剣舞姫』『青銀の魔剣士』『終焉を告げる男』『カラミティ=ブロッサム』、そう呼ばれたこと自体知っている人も少ないだろう。
少なくとも、知っていても気にしなそうだ、と言う雰囲気が、この街にあった。
平穏な生活、少しは送れるかな。
などなど、考えながら、住処を見て回る。
基本は三階建て。
表に、今は何も植えられていない花壇がある。
もう少ししたら、花を植えて、冬越しさせようか。
チューリップ、赤黄のやつか、ピンクか紫、そんな色のが良いな。
ああ、ハーブを植えても良いのかもしれない。
一階の約半分は、居間兼食堂のような作りだ。
向かって右半分が、台所と食堂。
いっぺんに、7人ぐらいは、食べれる広さだ。
左半分が、ソファとかがあって、くつろげるスペースになっている。
右奥半分に、台所以外のトイレや風呂などの水回りや、貯蔵庫がある。
地下スペースも在るようだ。
左奥半分に、三部屋と廊下がある。
そこを抜けると、裏庭に出た。
テラスと物干し台がある。
右奥半分と左奥半分の間は、物置になっているようだった。
奥の部屋をわけるように、階段があった。
其の裏が、物置になっているのだろう。
階段の上、二階は、今は気にしなくても良いだろう。
とりあえず、ドラゴンが来ない限りは、今は見なくてもさしあたり、困らない。
私は、散歩に出ることにした。
ここへ来る途中の広場で、人が集まっていたようだから、そこにでも行ってみようか。
あと、夕飯と細かいモノも、変えれば良いとは思う。






「・・・・・・・良い人たちばかりだね、ほんとうに。」
広場で、和やかと言って良いほどに、楽しく話をし、我が家になった家に戻った。
そこで、68番地の名匠である羽堂さんに、闇龍を一匹貰うと約束をしたのだ。
・・・・・・二階、掃除,と言うかとりあえず寝れるぐらいに掃除しなきゃな。
それにしても、どんな子がくるんだろう。
マニュアルにあるような、難易度1とされている龍なら、私の・・・に、気付かないだろう。
少しでも、長くいたいと考えてしまうから。
『ぴぃ!!』
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
ドラゴンの声がした。
声になる前の、鳴き声と言うモノだろう。
食堂と言うか、台所の机の上に、籠が在った。
そこに、漆黒の鱗と藍水晶の瞳で、蛇のような手足が極端に小さく見えて、サイズは、大きな猫ほどドラゴンが居た。
シワコワトル種だろうか?
その子を抱き上げながら、こう質問した。
「初めまして、チビ龍さん。
 私は、ディスティア=グレイです。
 チビ龍さんは、シワコワトル種ですか?
 それならば、二度鳴いてください。」
『そうよ。』
「おや、話せるのですが。
 では、名前は、ありますか?」
『∞%※∇★◎◆♪だよ。』
「・・・・ええと、ケナレークーセラ、いやケナレイクーシラでしょうか?」
『龍語解るの?』
「ええ、故郷の方の高等学校のカリキュラムに入ってるので。
 外国語のようなモノですね、私に取って。
 流石に、そのまま発音しようと思えば、魔術補助が必要ですが。
 ・・・・・・あと、長いので、ケレル=クルセナで、どうでしょうか?」
『で、いいよ。
 ・・・・・人間形態になった方が良いの?』
「できれば、多分、しばらく誰も住んでなかったので、居間と台所以外は、結構酷いみたいですね。」
『なった事ないから、出来ない。
 っていうか、成れる方が珍しいんだと思うわ。』
「そうですか。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・少し、気持ち悪いかもしれないですが、我慢してくださいね、ケレル。」
抱き上げたままだったケレルを、私はぎゅっと抱き締めた。
・・・・・本意じゃないけど、それでも一人は嫌だから。
だから、やろうと思う。
居場所がバレてしまうかもしれないけど。
私は、意識を集中させ、魔力を身体に纏わせた。
薄い薄い膜を身体の外に張るようなイメージだ。
それを耳の辺りから、二本ほど触覚を作るように動かす
魔力の触覚を、侵入。操作。創造。
少しずつ、少しずつ龍の体が人間の身体になっていく
外見は、14歳ほど。身長は、150センチに少し足りないくらい。
漆黒の直髪をおかっぱ程度に切りそろえて、藍水晶の大きな瞳の褐色の肌。
ハイネックのゆったりとした革製のシャツと足首までの丈で、太ももの半ばまでスリットのあるタイトスカート。
共に、色は黒であった。
結構、可愛かった。
・・・・・・・・でも、妬ましかった。
『・・・・・・何?
 今の、ヤツ。』
「意外と上手く行くモノですね。」
『だからなに?
 気持ち悪くはないけど、人間が使えるもんじゃないでしょ!!』
「・・・・・・・色々とあるのですよ。
 さて、せめて一階だけでも使えるように、しないとね。」
誤摩化すと言うわけではないけれど、触れられたくない事柄だった。
だから、話を変えた。
少なくとも、まだ、引っ越しだけはしたくないから。






こうして、その日は、大急ぎで一階の、続き部屋三部屋を掃除した。
その日は、一緒に寝たのだが性別がバレてしまった。
これから、この街での生活が始まるのに、ちょっと不安だ。
次の日の出来事のほうが、もっと不安になるとはその時は多いもしなかったのだけれど。