一応、基本的に会話は英語で行われている前提で。
正確には銀河共通語とかなんだろうけど。
そもそもな話、(恐らく)数千年経ってるのに、色々おかしい点はあるけども。
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「スクトラバ元帥殿。
勘違いされておられるようだから、改めて言おう。
先代の情報部部長がいなければ、現情報部部長がいなければ・・・いや、彼らと交わした言葉が無ければ、銀河連邦軍に従う理由などない。
あの人の居場所が解らぬし、彼らの人柄故に、銀河連邦軍に身を寄せているにすぎない。
フィラル人のグループだろうと、テロリストの方だろうと、何処についても私は構わないの。
白氏族のやりくちはね、私が一番嫌いな類よ、オスカーの方が余程、『人間』だもの。
・・・・・・まぁ、報酬を頂いている以上は観察をしたければすればいい。」
巡る物語に涙一粒を。
「ちょっと、貴女、しっかりして。」
「おねえさん、だぁれ?」
とある日の事。
準夜勤を終わらせた通信科中隊長・メリッサ=ラングレー大尉。
赤毛の彼女は、茂みから女性物のパンプス・・・正確に言えば、その付属の足も一緒に見えていたのを見て慌てて駆け寄った。
そして、淡く銀色に色づいた髪の女性が倒れているのを見つけたのである。
一緒にいるのは、波打つ金髪の三歳ぐらいの子どもだった。
これが、ディスティア=ヴァリードとルキウス=ヴァリードが、この時代に来た日の事。
一緒にあった荷物に銀河連邦宇宙軍の緑色の軍服と技術科とはいえ、中将の階級章があることをまだ、誰も知らなかった。
「ブレッチャー大佐殿。
これ以上、話せる事はありません。
と言うよりも、どういうことかは、スクトラバ大元帥殿が御存じかと。
恐らくそちらに、娘大好き大ボケ野郎から連絡言っていると思いますので。」
数日後、目覚めた彼女が、とりあえずの説明を終え、慇懃にそう答える。
いきなり呼び出されたのだから、機嫌がいいわけもないが。
薄く青に色づく銀色の髪の彼女はさして機嫌も良くない。
このカーマイン基地は、惑星・バーミリオンの首都カーマイン市に存在する銀河連邦宇宙軍の陸軍基地であり、所属は惑星セラドンに本部を置くヴァンダイク方面軍。
定期的に貨物船などが到着する宇宙港が併設されているが、ここに着任すること自体が左遷を意味していて、都市警察からは「宇宙港の警備代行業者」と認識されている節もあり、衝突が絶えない。
一言で言えば、兵士たちの墓場だ。
話す事はしないが、一兵士から司令官まで、何かしらのトラブルの末にこの基地にいる。
退役年金がもらえるその日まで。
そんな基地に併設される軍病院。
とりあえず、内科に入院していたディスティアが、荷物に入っていた技術科の中将の階級章だけをつけて、白衣姿で司令官の前にいた。
ちなみに、ルキウスは内科のナースに面倒を見られ、彼女達のアイドルになっている。
若干、幻視の術で青味を消している為、ほぼ真っ白に近い、わずかに青いだけの銀髪にオレンジ色の瞳。
これで多少髪がウェーブを描いていれば、白氏族さながらだろう。
多少、能力者としては中程度の外見に見えるかもしれないが。
「はじめまして、一応、所属を銀河連邦本部の技術科に籍を置いております。
・・・以前より、なんで階級上がってんだか。」
小声でそう呟いてから、ディスティアは続きを口にする。
まぁ、外面だけはいいのだ。
「中将のディスティア=エンデファングと申します。
身元引受人は、オスカー・・・すみません、氏名を失念しておりますが、現情報部部長殿かと思います。
また、・・・・・・」
そして、冒頭の台詞に戻る。
実際、私にはそれしか言いようがない。
軍の記録にはあえて、残っているかもしれない。
少なくとも、今は先代の情報部部長の性格からして残しておくだろう。
長命種族が珍しくない時代だ。
現情報部部長は、確か、90歳程度でその3分の1ほどの外見だと聞く。
ウサギのようなあの内科主任は150歳ほどなのに高校生ほどの外見だし。
60年ほど前から記録にあっても、そう違和感のないことだろう。
「では、証明できるのかな。」
「・・・解りました。
『システム起動。権限者《風舞姫》メレディアーナ=ペシュテルが命じる。
いと遠けき場所時より命じる望む実行せよ。
白氏族は、スクトラバ大元帥へとつなげ。』」
密約の一つ。
銀河連邦軍基地のある惑星・・・即ち、加盟惑星であるかぎり、その基地の司令官の机に仕込んである装置。
それは、《イヴル》の思惑に呑まれかけているこの惑星でも残っていたようだ。
・・・そもそも、スクトラバのじいさんは放置しているけれど。
まぁ、MMシリーズの原型であり隠されたそれは、《図書館》だ。
マナブ=モリはユーザーであったというわけだ。
そちらからでも、アクセスはできたけれどね。
とりあえず、日本語で私はシステムに命令する。
一応、それ自体がコマンドワードだ。
それに応じるように、私の前にパソコンのデスクトップ程度の画面とキーボードが現れた。
命令に応じて、白いクセのある髪とオレンジ色の瞳の年若い少年を映し出す。
まぁ、外見通りの少年ではないけれども。
「お久しぶりです、お元気そうでなによりです。と一応、社交辞令として言いましょうか、スクトラバ大元帥殿。
本音を言えば、まだ生きて居やがったか因業ジジイ、とっととくたばれ、というところです。」
『連絡だけならば、29年。
こうやって話すのなら、61年ぶりかな。』
「そうなりますね、お元気そうでなによりです、因業老人。
ヴィーヴの行方は知れましたか?」
『知っているのなら、孫娘を心配する哀れな老人に教えとくれ。と言うところかな。』
「情報屋にとっての飯のタネ。
それに、その情報自体は、そちらのデータベース内の《図書館》にいれてあると言いましたよ。
・・・・・・それに、家畜のように番い合わされた二人が哀れで哀れで・・・」
『お前に何が解る。』
「では、貴方に何が解ると?
異端であるのに頂点に在れる王者たる貴方が。
あの人の孤独は、彼女達にしか解らなかったけれどね。
異端である故の孤独など親しみ過ぎているわ。
それに罪は購うべきよ、彼女はあの人の同族の恋人を殺した、それが私が教えない理由。」
あくまでも、穏やかな微笑みで答える。
目は笑っていないけれどね。
それに、私とスクトラバはあくまでも、ビジネス相手。
最低限以外に優しくする理由など無いのだから。
ブレッチャー大佐とラクロワ中佐が、目を丸くして硬直しているけれど、それは丸無視しよう。
とりあえず、この言葉と言葉で斬り合う戦いを制してからだ、全ては。
ちなみに、台詞の一つ目の『あの人』はO2。
二つ目の『あの人』はマリリア-ドのことだ。
解っているだろうから、私は敢えて区別していない。
そもそも、白氏族がラフェール人を嫌っていること、そして80年前にシタン病をラフェール星に打ち込んだことなど、公然の秘密だ。
敢えて、口にはしないけれど。
私は、知っているし、銀河系中に広めようと思えば広めれる。
今も生き残っている最初期からのメンバーに連絡すれば、だけど。
まぁ、80年前のフィラル人の離反を止めれなかった時点で、積んでるかもしれないけどね、それ周辺は。
『・・・・・・何が望みだ。』
「あの男から、連絡が行っている筈でしょう、それでその台詞なら直接行って縊りましょうか。
それなら、何故、階級上がってます?
前回は少将だった筈ですが、何かきっかけがあったとするならば、あの弩阿呆からの連絡がなければ昇進させる理由はないでしょう?」
オスカーやマリリン、もしくはその息子でなければ笑顔を作って話す必要も覚えないのだけど。
まぁ、あの内科の小さなドクターは別だけれど、弟の高校生時分に良く似ている。
あの子も白氏なんだけどさ。
私は一息ついてから、断罪するようにきっぱりと言う。
「・・・スクトラバ元帥殿。
勘違いされておられるようだから、改めて言おう。
先代の情報部部長がいなければ、現情報部部長がいなければ・・・いや、彼らと交わした言葉が無ければ、銀河連邦軍に貴殿に従う理由など何一つない。
仲間達の居場所が解らぬし、情報部長殿達の人柄故に、銀河連邦軍に身を寄せているにすぎない。
フィラル人のグループだろうと、テロリストの方だろうと、何処についても私は構わないの。
白氏族(あなたたち)のやりくちはね、私が一番嫌いな類よ、オスカーの方が余程、『人間』だもの。
・・・・・・まぁ、報酬を頂いている以上は観察をしたければすればいい。
それに、言いたくはないけれど、急がないとMMシリーズ崩壊するかもしれないわ、私に会いたい私の子が暴れて。」
半分は、ブラフだ。
でも、私に会いたがっている私の子・・・私が製作したロボットプログラムがいるのはアイツから聞いていた。
一人は全く覚えがない・・・未来の私が作ることになる子だろうけれど。
『わかった、基準時刻の本日中にまとめて送る。』
「ん、ありがとう。
・・・・・・・・・今、何年の何月何日?」
ふと気になって、今の日付を確認する。
帰ってきたのは、『あの』大尉がくる数ヶ月前の日付だった。
「・・・わお、コロニーも落ちてないし、パーヘブ襲撃事件も起きてない時期なわけだ。
後、二週間ほどか、襲撃の方は。」
『は?』
「今は秘密だ。
口にしてしまえば、確定してしまう。
そんな未来などつまらないだろう?」
『変われないな、我らは。』
「変われるほど、短い生でもなかっただろう?」
『では、情報部長殿に変わろう、この時間ならば、まだデスクに居よう。』
「ありがとうございます。
会う時が来ないといいのですけど。」
『それは、私も同意しよう。』
色々言いたそうな眼で視線を貰っているが、それは無視だ無視。
答える義務はないのだから。
彼らの忠義など私は知らないのだから。
しばらくして、懐かしいというか、まぁ、そんな顔が現れる。
銀髪のオールバックにいつも通りのミラーシェード。
無表情と言うか、無愛想なのも29年ぶりになる。
「久しぶり、オスカー、あの惑星以来かな。
相変わらずだね、もう少し愛想良くすれば、女には困らないだろうに。」
『私にそんな事を言うのは君ぐらいなものだ。
アイツでさえ、そこまでは言わなかったものだがな。』
「相変わらずの、ドMよね。
彼女の事気に行った理由も、マリリンと同じく、貴方への発言にSッ気満載だったから、だったわよね。
それに、Ms.フェアフェックスとも昵懇だったじゃないの、可愛いルーシーに見られてたわよ。」
無言の悲鳴が副司令官殿から上がるがそれは投げとく。
関わりは今は、藪の中で良いのだから。
簡単に教える気も喋る気もしないけれど。
言葉こそ、淡々としているが、私と彼の雰囲気は柔らかい、とだけ言っておこう。
『ほう、君が来たのはそれが関係するのか。』
「たぶんね、今回は昔の借りを返す代わりに関わらせられたから、ね。
先視もあの人も同じ内容を見ているのでしょう?」
『・・・・・・』
「この場合の沈黙は、肯定にしかならないよ、オスカー?
最低限の悲劇にするのと、あの坊やのフォローよ。
能力の枷で薄いとは言っても、ないわけじゃないでしょう、感情。」
『解らぬ者に恐れを抱くのが、人であろう。』
「まぁね。
能力者は能力者しか解りえない、寂しいことだけれど。
・・・ああ、そうそう。
ややこしい弟と一緒に来てるから、フォローよろしく。」
無関心と言うか、声の調子で線を書いたら、見事にフラットラインを描きそうな調子で言葉を重ねている。
音声だけ聞かせたら、事務会話にしか聞こえないだろう。
まぁ、私的には楽しい会話なのだけれど。
『ややこしい、弟?
エヴァンスか、アルトとかいったか?』
「いや、その後に拾ってね。
戦闘力だけなら、私と同程度かそれ以上ね。
私は遠距離メインだけど、あの人は近距離も私以上だもの。」
『・・・・・・は?』
「私と同じなの。
まだ、三歳四歳なんだけどね。
記憶も技能も完全覚醒済み、昔の貴方以上に怖いわ。」
『・・・・・・』
「それに、あの人から聞いているでしょうし、そっちの先視も視ているでしょう?」
『わかった。
可能な限り、支援しよう。』
「うん、ありがとう。
大好きよ、オスカー。」
自分の顔の良さを自覚したうえで、オスカーに微笑む。
さて、どうなるやら。
本来の物語にはない、私達。
その存在が、物語に何をもたらすのだろうね。
考えながら、私の頬に涙一筋。
ああ、ちなみにこれ以上情報は渡さなかったけどね。
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補足するならば、カラワンギと喪神の時も、ディス嬢は関わってたので、スクトラバ元帥と知り合い。
また、この物語の半月後に、パーヘブ襲撃があり、実行犯兼被害者が左遷されて、更に二か月後『三千世界の鴉を殺し』が始まる、みたいな。
後、ディスティアは先をある程度知っているので、友人を失うことに涙を一筋なわけです。
次はどうするか不明ですが。
では、次の物語で。