セピア色の想い出。

日々の生活と、其処から生まれる物語の布飾り。

月の静寂(しじま) En.11Falling down all's

2009-06-27 23:30:18 | 凍結

「どうも、陛下。
 ・・・貴方が、今の立場を選んでいるのは、何故です?」
「なんのことかな?」
「エルが、17代目黒鳥からの、精神捜査(サイコ・リーディング)で、確証を得ましたので。」
「なるほど。
 ブリジットのコミュニティに所属する君は、どうするのかな?」
「黙っておきます。
 この情報は、諸刃の剣というにも、あまりにも、鋭過ぎますので。」
「懸命な、判断だ。」
「・・・それに、赤バラ王、貴方に殺されると言うエンディングも、ゴメンですので。」
「・・・・・・・流石は、エルの養い子と言うところだな。」
「お褒めに預かり、至極恐悦光栄です。」
八百年ぐらい前の赤バラ王との会話。
うん、腹の探り合いとしては、申したく無い部類だ。





月の静寂(しじま) En.11Falling down all's






「もう、そろそろ、ですかね。」
私は、『遠視』と『遠耳』を接続したまま、そう呟いた。
それは、両方の意味だ。
赤バラ王と蓮火さんの戦いが終わると言う意味でも、エルやブリジットが来ると言う意味合いでも、だ。
うん、蓮火さん、負けを認めると言うのも、一つの強さ、なのですけれどね。
―「くっ」
―「ダメだな。これで、二十二。」
―「くあっ」
認めない事も、同時に、強さではあります。
蓮火さんのスピードは、確かに、赤バラ王に勝ります。
ですが、今の状況では逆に、相手に手札を与える事になります。
速さは、多少のフェイントがあってこそ生かされます。
ですが、今の蓮火さんにそれを望むべくもありません。
というか、私のように、武術系の技でも、速さでも、力でも劣る者でも、十分すぎるほどの勝機が見えるほどです。
そうつらつら、考えていると、『二十四』手目が、蓮火さんに、入れられます。
右の二の腕を剣で、刺し貫かれ、そのまま、水平に引かれます。
確かに、蓮火さんは、「剣」で遅れを取りません。
「・・・ですが、その身に、背負っているモノで、勝てますか?」
そう呟きながら、私は、ブリジットの近づくのを感じ、そちらにも、『遠視』と『遠耳』を振り分けます。
どうやら、レティシアさんは、赤バラ王が剣術を使うのを見た事が無いようです。
そもそも、魔力が十分であれば、私達ダムピールを倒すのに、技は要りません。
有り余る魔力をぶつければ、それで十分なのです。
ですが、今のように、魔力が不足しているのなら、剣技に専念する事になる。
となれば、蓮火さん如きに、というとしつれいかもしれませんが、勝てる余地はないのでしょう。
関係ないですが、レティシアさんが、飛行が下手だからと言って、ブリジットの本気の飛行に付き合わせると、死にますよ?
ああ、エルも、スピードをあげましたか、負けず嫌いなのでしょうね。
「・・・・・・赤バラが、かように、剣術だけで、蓮火を圧倒するとは。
 それも、稽古をつけるように。
 不合理過ぎる。赤バラに、これほどの剣術が備わっているのは。」
風伯さんが、そう思わずと言ったように、呟く。
対する花雪さんは、泰然としていた。
「そうですか?
 風伯さん、噂から推測も出来ませんでしたか?」
「・・・リト、何を隠している?」
「隠しては、そう隠してはいませんよ。
 少なくとも、ブリジットさんほどには。
 でも、解りやすいようには、言っていません。
 風伯さん、考えても見て下さいよ。」
「・・・なるほど、剣の腕が無ければ、千年も生き残れぬと言うわけか?」
風伯さんの呟きに私は、珍しく解りやすく解答を・・・正確に言うならば、その解答の一つに誘導しました。
全てを私の口から言ってしまえば、楽なのでしょうが、それでは、エルの決意はもとより、赤バラ王の決意まで、無かった事にしていまいそうです。
だから、風伯さんには、自分から誤回答ではないけれど、正解答でもない答えに行き着いてもらいました。
そうこうしているうちに、蓮火さんの「弧龍」「金妖」は、打ち砕かれ、近くのビルで、赤バラ王と彼は、対峙しています。
彼は、怯えているのでしょうか?
彼は、気圧されているのでしょうか?
確かに、彼と赤バラ王には、差があります。
魔力の優劣の差?
ヴァンパイアとダムピールであることの差?
才能の優劣の差?
修練の長さの違いの差?
生きて来た長さの違いからの差?
そんなものではないのは、蓮火さんも、解っているんでしょうね。
貴方と赤バラ王との差は、「背負っているモノの差」ですよ。
ユキさんが、軽いとは言いません。
ですが、その何千倍も、赤バラ王は背負っています。
―『認めねぇ、認められっかよ。
  お前が、背負っているもんが、俺よりも重いはずが無い!!』
自分を客観的に見る事も、必要だと、基本の武術訓練の時に、教えましたが。
全く無駄ったようですね。
後から、また、稽古をつける必要があるのかもしれませんね。
そう考えているうちに、赤バラ王と蓮火さんは、交錯します。
―「俺は・・・この50年間、ずっと地獄をみて来た・・・
  お前に、一番大切なモノを奪われ、何度もこの身を砕かれて来た。」
ギリギリと霊刀と剣が、交わります。
離れたこの場所に置いてすら、その熱は届きます。
そう、大火が、対岸をも焦がすように。
ー「挙句、その復讐すら完膚なまでに否定され、お前が俺と同じ闘う価値さえ否定されたんだ。
  最後に残った・・・お前を殺すしか使えない俺の剣が。
  お前なんかに怯えるわけがねぇ、折れるわけねぇんだよ!!!」
ー「大事なモノを失ったのがどうした?
  這い回ったのがどうした?
  復讐を否定されたのがどうした?」
それでも、対岸の大火が、対岸の建物を燃やさないように。
蓮火さんは、赤バラ王を超えれません。
霊刀に、ひびが入ります。
赤バラ王の剣との打ち合い・・・正確に言うなら、赤バラ王の魔力に晒されて、劣化してしまったのでしょう。
私は、あくまで、冷ややかにそれを見つめます。。
ブリジットの言葉を借りるのならば、茶番(ファルス)そのもの、なのですから。
ー「それくらい、私だってみたぞ?
  いや、それ以上のものさえ、私はみているぞ?
  地獄であっても、お前は、ずっとましな場所に居るのだぞ?
  そんなものに、支えられた剣で、私に誇るな。」
そうして、霊刀が砕き折られると同時に、蓮火さんの心も、折られます。
実際、復讐に、特にそれだけで、支えられた剣を誇るのは、或る意味で、剣術自体に対する侮辱なのですがね。
ー「私を殺したいのならば、私以上の地獄を見つけろ。
  そんな生温い地獄で、殺されるわけにも行かないのだ。」
蓮火さんは、更に十数カ所切り裂かれ、屋上から堕ちていきます。
赤バラ王が、何をみたのか、それに対して、これまで以上の疑問を見つめながら。
それを知っても、どうしようもないのですが。
これが、人間サイド・・・御前サイドに広がれば、あの「森島」は、気付くでしょうね。
腐っても、あのレディの息子ですし。
「赤バラ王、蓮火さんの怪我、怪我自体は、すぐでしょうが、本来の力が戻るのに、半月程度でしょうか。
 すぐに、治療したとしても。」
「・・・そうだな。
 総身の霊力と魔力の流れを破壊しただけだからな。
 その見立ては、《魔法薬師(メディスン・ホイール)》のエレノア譲りだな。」
「どうも。
 風伯さん、この辺だと、あの病院ですよね。」
「ああ、そうだが。」
「ちょっと、応急処置しておきます。
 放っておける傷ではないですし、止めるのと止めないのでは、また違いますので。」
赤バラ王に、蓮火さんの傷の状況を確認して、風伯さんに病院の確認をします。
すぐには、運べないですし。
花雪さんが、なにやら、困惑していますが、放っておいて、私もビルから飛び降ります。
魔力制御をして、落下スピードを緩めます。
私が、蓮火さんの身体から、赤バラ王の剣を抜き、防御結界を応用して、時間を止めると言うか、「止まった」と誤解させる術を編み始めたときでした。
妙に強い、ですが、空虚なプレッシャーがかかります。
もう、ですか。
早過ぎます、「星が堕ちる」のは。
ビルの谷間から、空を見上げれば、大きな石臼のような本体と大小様々な個体が、空に浮かびます。
私は、内心の動揺を押し殺して、術を編み込み、蓮火さんにかけます。
これで、人で言う止血を終えた事になります。
・・・そういうややこしい術が出来るのなら、治せるんじゃないですかって?
私は、回復呪文が苦手なんですよ。
血管を塞いで縫い止めて、滅菌してとか、やるんですよ。
・・・それに、回復呪文でダメージ増加なんて笑えないでしょう?
後は、病院に連絡して、ですかね。
どのみち、結局、話はブリジットさん側に、通りきらなかったようですね。
そう思うと、自然に溜息が漏れたのだった。






「なかなか、愉快な面白い眺めだか、あれは何だ?」
「一言で申し上げるならば、宇宙からの侵略者ですね。」
「なるほど、そういうこともあるのか・・・」
「驚かないのですね。」
「まず、予想の範囲内だからな。
 ・・・長年争って来たモノが、手を組まねばならないのは、厄介な第三者が現れた時だけだ。
 何かが、攻めてくる事ぐらいは、考えていたさ。
 それに、エレノアが、『ダムピール』関連なのに、人間についている事も不審と言えば、不審だ。」
ストラウスも、花雪達のいる屋上にもどって、その『星が落ちた』情景を眺め、見上げていた。
恐らく、上空から、近づいている私に気付いているのだろう。
その上での、その言葉なのだろう。
・・・小さい時は、あんなに可愛かったのにな。
そう考えつつ、私は屋上に降りた。
「ご名答、ストラウス。
 今、君の娘二人は、こっちに向かっているわ。」
「・・・娘、ですか?」
私の言葉に、花雪は怪訝な声を上げる。
ま、慣例的と言うか、そう言えば、ブリジットとレティは、娘だろう。
花雪の疑問は、「女王との娘ではないのかもしれないですが、側室の方の娘ですか?」の要な物だろう。
だから、それに答える。
「うん、ストラウスが、あの時代に育てた娘とこの五十年間に育てた娘。
 血縁的な娘は、『今』はいないわ、養女的な意味合いの娘になるわね、ブリジットとレティは。」
「・・・なるほど。」
「それで、二人はどうした?
 御前の護衛として、いたのだろう?」
「ああ、今、ブリジットに抱えられて、レティも来るし。
 御前達は、更にその後ろ、まだしばらくはかかるかもしれないわ。」
それにしても、美観を損ねるというか、不快だね。
あの『星々』は。
どういう理由であっても、侵略者を喜んで迎えろと言う方が、おかしいけれど。
「・・・それで、あれは本体ではないのだろう?
 正確に言えば、実体ではない、と言うところか。
 見かけは、ともかく質量が感じられない。」
「その通りだ。
 周りに浮かんでいるのは、ともかく、あのばかでかいのは、立体映像と言ったところだろう。」
「空間を歪ませて、塵を利用はしてるみたい。
 だけど、3D以上にくっきりしてるわね。」
ブリジットが、レティを抱えた上で、上空に到着したようだ。
ちょいと、イライラと言うか、そんなところだろう。
今、リトが蓮火の面倒を見ているのだろうけれど、今来るとヤバいかしら。
一応、正式にコミュニティに所属している身だもんな。
ブリジット公認の戦闘を止めてないと言う問題よりも、知っていて、黙っていた部分がヤバいだろうし。
できれば、ブリジットが去るまで、上に戻らないで欲しいかも。
・・・それ以前に、顔、微妙に腫れちゃってるから、その関係上、顔を合わせたら、自分で病院に運んだ・・・運ぶ手配をした蓮火の息の根を止めそうだ。
冗談でもなく、四十と数年前に、それで数ヶ月まるきり蓮火を使い物にならなくしたからな。
ああ、心配だ。
でも、そうのは、無理なのだろうけれど。
ブリジットとストラウスの言葉は、もう耳に入らない。
聞こえて入るけれど、思考の糸に引っかからないのだ。
そうこうするうちに、軍用ヘリが・・・御前と森島が到着したようだった。
「私としても、詳しい説明をしてほしいところだからな。」
こうして、或る意味で、最終的になって欲しいダムピール&人間&ヴァンパイアの会談が、奇しくも、千年ぶりに行なわれる事となった。
この後の文章は、蛇足になるけれど。
ブリジットが、御前邸に移る間際・・・蓮火の移送を手配し終わったリトが、ちょうどこっちにきたのだ。
「風伯さん、ブリジ・・・・・・ットさんは、いるようですね。」
どうやら、風伯にブリジットの状況を聞きに来たようだが、実際は傍にいたようで。
そして、或る意味で、リトが会いたく無かった彼女から、怒号じみた声が響く。
「どうして、ここにいるのだ、レンネルド=ヤードルード!!」
「・・・どうしてかと言われれば、偶然としか言いようがありませんよ?
 エルが、仕事だと言うので、ラーメンを食べようと風伯さんの屋台にいたわけで。」
リト・・・フルネーム、レンネルド=ヤードルードは、私の義理の息子だ。
私のようにはぐれダムピールと言うわけではなく、コミュニティの一員だ。
或る意味での、ブリジットのブレイン的立場でもある。





そんな、蓮火VSストラウスの幕引き。
たぶん、ストラウスのあの言葉を聞いた以上、『真実』へ近づいてしまうであろうそんな一幕。





余談―。
「エル、その頬は?
 結構腫れてますね。」
「え、あ・・・・」
「・・・蓮火ですか。
 仕方ないですねぇ・・・・・」
「リ、リト、意識の無い蓮火を殴ったら、嫌いになるからね。」
「ええ、ちゃんと、意識が戻ってから、ぶちのめしますよ。」
「・・・そういうことじゃなくて。」






タイトルは、「星が落ちる」と「結末へ転げ落ちる」の意味で。」





死神5題 (Ver.OOP&OOF) 03 つまらない感情

2009-06-25 23:14:38 | ガンダムOO 二次創作


「泣けないのか?」
それは、残酷な言葉だよ、グラ‐べ。



死んで欲しくないだけ +叶わない願い+



ここは、月のCBラボファクトリ‐『クルンテ-プ』。
その一室のグラ‐べ=ヴィオレントの部屋だ。
時は、武力介入の始まる四年五年前。
シド=リ-ヴァスが死んで3ヶ月ほどが経った頃のお話し。
今、この部屋には、机に向かい、報告書作成などをしているグラ‐べと、彼のベッドの上で、モバイルを扱い、情報収集をしているブランカが居た。
グラ‐べは、ガンダムラジエルのマイスタ‐兼スカウト兼エ-ジェント。
ブランカは、メカニック兼情報収集係兼ガンダムエレシュキガルのマイスタ‐。
グラ‐べは、黒い髪をMSのパイロットには珍しく腰まで伸ばした成人男性だ。
ブランカは、ふわふわの金髪を革紐で器用に纏めている、童顔の二十歳ほどの少女だ。
二人の関係を二人に問えば、グラ‐べは友人か同僚、ブランカは同僚か兄と答えるだろう。
血縁関係ではなく、少女が、そう慕っていると言う程度だ。
今は、標準時刻で、午後十時半を過ぎたところだ。
時間を示すように、ブランカの髪はやや湿っていた。
風呂に入った後に、此処に来たのだろう。
それでも、いつものような、ブラウスにベスト、裾をリボンで纏めたスカ-トという部屋着ではない服装なのである。
夕食後、風呂に入り、九時近くになれば、こんな風に過ごすのが此処数ヶ月のだいたい風景だ。
大体というのは、ヒクサ‐の部屋に、ブランカが行くこともあるからで。
「・・・ギリギリまで、待たないなら、リ-サ=クジョウが適当だろうな。」
唐突に、ブランカが口を開いた。
親しい人とのプライベ-トだけにしか、見せない口調だ。
いつもの、「『そうだ』と、断言するように、私は貴方に言った」と言うような口調ではなく。
男性のような口調だが、彼女にとってかなり、リラックスしたような口調だった。
彼女が上げた名前は、数ヶ月前、彼女の一番長く側にいた『兄』のシドが死んだあの事故の原因の一人。
人革連に奪われたAEUの要塞。
その作戦に、一応、ユニオン所属の傭兵部隊も参加した。
結果、その傭兵部隊を含む、AEUに多大な犠牲が出た。
その作戦の指揮をしていた戦術予報士の一人が、リ-サ=クジョウだった。
読者の方は、ご存知、後の『スメラギ=李=ノリエガ』である。
彼女は、その最中に、最愛のエミリオ=リビシを亡くしている。
そこから、戦争根絶に意識が向くのではないか、というのが、グラ‐べの着眼点だ。
しかし、それに関する情報収集をブランカに頼んだ覚えは無い。
「・・・・・・」
「・・・ん?どうした、グラ‐べ兄様。」
「・・・泣けないのか?」
「何に対して?」
「シドが死んだ件でだ。」
「部屋で、一人で泣いているとは考えないのかな?」
「いや、目を赤くして来たこともない。
それに、一人で泣くのは辛いからと、カ‐ティスの時は、シドのところへ行っていただろう。」
「・・・残酷だな、グラ‐べ兄様。」
視線を交わさずに、会話する二人。
一瞬たりとも、画面からそれぞれ、目を離さないのだ。
しかし、グラ‐ベにはブランカが拗ねたようなのを、ブランカには少々苦笑したのをそれぞれ理解していた。
「・・・それで、いいのか?」
「僕の感情を挟めることではないだろう?」
「・・・お前も、その指揮下に入る可能性が合ってもか。」
「ないね。
 多分、もうすぐ、エレシュがロ-ルアウトするだろう?
 そしたら、僕は用済みになる。
 ・・・殺されるかな。」
「・・・っ!!」
「此処が、いや、ちがうか。
 ≪ヴェ-ダ≫が其処まで甘いなんて期待してない。
それに、僕は戦術予報士の資格を持っているけど、実戦経験がない。あれが僕を選ぶことは無い。」
「・・・・」
「母様が居なくなっているとは言え、実戦に耐えれるほどの能力が無い僕をそのまま利用しないだろう。
 それに、ロ-ルアウトすれば、火星にあれを隠すように言われている。
 ・・・かなり特殊な金属でふたをするらしいし、僕は用済みだ。」
淡々と、ブランカは、決まっている台詞を読むように、言う。
なんでもないような口調だ。
それこそ、「テストの点数悪かったし、お母さん怒らないはず無いよ」とか、女学生が普通にいうようなニュアンスだ。
しかし、自身の命すら、いらないということに他ならない言葉にグラ‐べは言葉をつまらせる。
そうだ。
グラ‐ベには、≪ヴェ-ダ≫ならば、そうするだろうという確信が彼には合ったから、尚更口篭もる。。
「・・・死にたいのか?」
「死にたいよ・・・だけど、死にたくないというのなら、死にたくない。
 レンがいるからね。
 死ねない、のが近いか。」
グラ‐べの質問に、とある少年がいるからだ、と答えるブランカ。
シドが死ぬ前後、人革連から二人のパイロットが、ソレスタルビ-イングをかぎ回っていた。
デルフィ‐ヌ=べデリアとレナ‐ド=ファインスの二人だ。
結果だけを言えば、デルフィ‐ヌを殺したのは、ブランカだ。
そして、レナ‐ドの助命を≪ヴェ-ダ≫に願ったのも、ブランカだ。
同類だから、とグラ‐べとヒクサ‐にだけ、言っていた。
多くは話さないが、超兵機関と呼ばれる場所にいたらしいというのは、グラ‐ベには見当がついた。
彼は今、超兵機関で使用された薬の影響を抜く治療中だ。
「・・・そうか。
 レナ‐ドは今日は?」
「一昨日から、ドクタ‐のトコ。
 薬の影響を薄める治療の最中。
 明後日、明々後日まで、カプセルの中だ。」
「だから、ここに来ているわけか?」
「?」
本人に、さほど自覚が無いが、シドが死んだ直後から、彼女は、不眠症だ。
薬も、体質的にそれほど効かない。
何日も、眠ることが出来ずに、フラフラになった挙句、倒れる。
或いは、浅い睡眠を日に1時間程度だ。
それも、同じ部屋に誰かがいれば、醒めるようなそれくらいに浅い眠り。
しかし、レナ‐ドが来てからそれが改善されつつある。
どうやら、体温が側にあると眠れるらしい。
しかし、レナ‐ドは一週間のうち半分以上は、検査や治療に専念している為、それが難しい。
かといって、他のメンバ‐にそれは無理だろう。
理由はさておいて。
「・・・確かに、3ヶ月経った今でも、シド兄様のことは、思い出に出来ない。
 それを知っている人間と一緒にいたいというのも嘘ではない。」
「・・・そうか。」
「・・・それに、死ぬつもりは無い。
 ≪ヴェ-ダ≫が、グラ‐べ兄様達を追っ手にしても、ここから脱走するつもりだ。」
「私が、報告するとは考えないのだな。」
「もちろんだよ、グラ‐べ兄様。
 僕の発言しか、証拠が無い状況で、それをするほど、愚かではないと思っているよ。
 強いて言えば、最近、株を始めたからそれで増やした金ぐらいだが、それすら、ビギナ‐ズラックの範疇だろう。」
暗に、貴方たちが追手でも、殺して逃げるぞ、と発言されたのにも、関わらず、グラ‐べは質問を重ねる。
あっさりと、脱走の準備は進んでいると、返答された。
元々、イレギュラ-として、此処に入っている少女だ。
名前すら、偽ってこの場所に居る。
グラ‐ベは気付いていても、それは胸にしまっている。
「・・・シドの最期の通信はなんと書いてあった?」
「酷い言葉だったよ。
 いつもなら、長々書いて、「これが冗談になるように生きて帰りますよ。」だったのに。
 今回のは、『私とカ-トの分も生きてください。愛していましたよ、可愛い妹』だけだったんだ。
本当に、最後に急いで送ったような言葉だった。」
「そうか。」
「・・・あはははっは、その台詞があるから生きている、生きていられるよ。
 だけど・・・・・・一番残酷な台詞だ。」
「生きたいと願ったやつが居ないから?」
「うん、そう。
 ここのメンバ‐もそういうわけじゃないけど、シドやカ-トほどじゃない。」
そこで、言葉を切るブランカ。
迷うように、何度か、言葉を口にしようとするが、それが言葉になる前に、また迷い口篭もってしまう。
しばらく、そんな奇妙な沈黙が部屋を満たしていた。
「ここは、すごく心地いい。
 本当の意味で、そうじゃないのをわかっていても、僕に『普通』をくれた。
 嫌なことはしなくても良かったし。
 ・・・すんごく楽しかった、他のどんな日々よりも、変えたくないそんな日々だったよ。
 ・・・・・・・・・グラ‐べ、僕たちの滅びまで、計画に入ってるのかな。」
やっと、ブランカが口にした言葉は、とても、静かで、グラ‐ベに言っているというよりは、独白に近かった。
とてもとても、懐かしげで嬉しそうで、幸せそうだった。
だけど、短い沈黙のあと、呟いた言葉は、その真逆。
とてもとても、絶望しきり哀しそうで、泣きそうだった。
それでも、それが確信であるかのように・・・その上で、否定したいように、呟いた。
「・・・そうだ、と言ったら。」
「ねぇ、グラ‐ベ兄様。
 兄様は、もう十年近く前のあの人革連の軌道エレベ‐タ‐の失敗したミッションのこと調べてるとシド兄様から聞いた。
 ・・・もちろん、証拠はないさ。
 だけど、これだけは言わせて欲しい。」
「なんだ?」
「知って後悔こともあるのだぞ、グラ‐ベ兄様。」
「・・・」
その答えを聞きたくないように、数年前の・・・まだあの二人が生きていた頃の・・・あの小さくなった事件の時でも、見せなかった、幼児のような或いは、死に急ぐ様な、性急さで、話を変えた。
ブランカが、暗に示唆した事件・・・通称・≪プルト-ネの悲劇≫とは、この時より数えて、十年近く前のこと。
当時は、まだ第三世代開発の最初期の頃の話だ。
まだ、ラジエルすら形になり始めたばかりのころ。
そのときに、軌道エレベ-タのテロをプルト-ネのGNコンデサ-を暴走させるというミッションが失敗したのだ。
突発的で、第二世代マイスタ‐達からの提案であったとしても、≪ヴェ-ダ≫が推奨したミッションが。
それはあってはならないことだ。
だから、グラ‐ベは調べようと思ったのだ。
「・・・悪いけれど、兄様。
 計画はどうしようもなく、歪んでしまうものだよ。
 歪つな伝言ゲ-ムのようなもの。」
「どうしてそのようなことをいう?」
「・・・知ってしまったから。
 シャル姉様から聞かなかったけれど、それでも、答えであろう答えに到達してしまったから。」
グラ‐ベはそこでやっと、画面から視線を外し、ブランカを見る。
モバイルを、彼のベッドに放り出し、壁に寄りかかり、こっちを向いていた。
足も投げ出し、どうでもいい、とでも、言いたげにしている。
こっちを向いているといっても、グラ‐ベを見ているわけではない。
映すのは、観てしまった未来に、或いは、推測してしまった明日にか、絶望だけだった。
往々にして、戦術予報士の職業としての寿命は短いか、長いか。
どちらか極端なのが多い。
短ければ、一度の実戦で、長ければ、その命が終わるまで、そんな極端な寿命だ。
戦術予報とは、言ってしまえば、未来を予知予測してしまうことだ。
つまりは、「未来」を知ってしまうということ。
そのせいで、自分が親しくしていた仲間が死んでしまったら?
それで、心が折れたら。
或いは、その死んでいった友人の為にと心を誤魔化すのか。
それ次第で、予報士の寿命は決まるのかも知れない
だけれど、偶に心が折れたのに、予報を続けてしまう予報士もいる。
今、この時から、約八年後にスメラギが酒精におぼれる日々を再び作ることになるあの出来事など、折れた内に入らない。
彼女は、まだ立ち直れたのだから。
しかし、実戦をどういう意味であれ、経験していないはずのブランカが見せるその表情は、何度も、何度も、大きな犠牲の元で勝利を得過ぎた予報士のそれだ。
あの掃討作戦を得意とするあの男のような開き直れれば、それでいい。
優しすぎる予報士は、折れるのだ、遅かれ早かれ、心が。
今の彼女は、そんな様相だった。
正確には、心が折れそうなのを必死に堪えているような。
「・・・ブランカ?」
「グラ‐ベ兄様、もう調べないで。
 死んで欲しくない、居なくならないで欲しい。
 ・・・シド兄様も、カ-ト兄様が死んだ時も、夢を見た。
 同じような夢を、今度は、グラ‐ベ兄様とヒクサ‐兄様で見るんだ。
 眠るのが、怖い、だけど、それ以上に二人が、カ-ト兄様達のようにいなくなるのが怖いんだ。
僕らしくないのは・・・」
名前を呼べば、噛み付くように、まくしたてるように言葉を発するブランカ。
いつもの・・・グラ‐ベが知る彼女とは、まったく違う。
ブランカは、基本的に、無表情で、必要最低限しか、喋らなくて。
でも、態度や雰囲気で、甘えてきたりはした。
特に、数年前に小さくなって戻ってからは、それが顕著で。
自分の病気で幼い頃に死んだ妹が生きていたら、こんなのではないかと、思うようになれて。
そんな彼にしては、かなり、珍しい現実逃避をしていた。
その間にも、彼女の言葉は続く。
ついには、泣き出してしまった。
ぼろぼろと大粒の涙が頬を伝うが、拭おうともしない。
カ-トが死んだ後、このラボに戻ってきた時のことを思い出す。
ここの一番外・・・宇宙に近い廊下の隅でで、泣いていた時は、拒絶された。
誰にも構われたくないけど、独りで部屋にも居たくなかったのだろう。
その後に、ヒクサ‐も慰めに行って、気絶するぐらいに殴り飛ばされていた。
懲りずに何度も、訪れていたようだ。
そう対応するぐらいに、泣き顔を見られたくない少女だった。
「・・・とにかく、お願いだ、グラ‐ベ兄様。
 真実・・・なんて・・・・・・知ろうとしないで。」
ちょっとつつくだけで壊れてしまいそうなそんな様相だ。
冷たい雨の中で、震える仔猫のようで。
思わず、グラ‐ベは、抱き上げ、そのまま、腕に収め抱き締めた。
あの時のように、抵抗はなかった。
むしろ、グラ‐ベのベストの肩をタオルにする勢いで泣いていた。
身長差と年齢を考えれば、男女のそういう光景だろう。
しかし、もう、五年程前のあの出会いから、どちらかといえば、妹や後輩に対するような。
庇護する対象というほうが、近い。
あの時から、組織・・・ソレスタルビ-イングの為に、果てると誓ったはずなのに、その決意をこの少女は崩してしまう。
年齢よりも、強固そうなのに、年齢以上に脆い心のこの少女に。
「・・・真実なんて・・・知ろうとしないでよ。
 知れば・・・グラ‐ベ兄様居なくなってしまうわ。」
恐らくは、本来の・・・カ-トが擬装した少女ではない口調でか、ブランカは、更に言い募る。
それでも、と、グラ‐ベは思うのだ。
≪ヴェ-ダ≫がどういう経緯であれ認めたミッションが、失敗すると言うことはあってはならないことなのだ。
だから、知りたいのだ。
何があっても。
それこそ、命に変えても。
「・・・何を知っている?」
「秘密、父様関連でもあるんだ。
 喋れば、確定してしまう。
 今なら、まだ引き返せるかもしれないと、思っただけだ。」
泣いたまま、でも、声音は何処までも、冷たいぐらいに静寂に満ちた、そうブランカは言った。
吐き出せば、楽になれるだろうに、この少女はそれをしないだろう。
あまり、普段なら、すれば振り払われてしまうだろうが、今は、彼女の髪を撫でる。
何か・・・それこそ、慰めか、何かを言おうとした。
そう、言おうとしたのだが。
「グラ-ベちゃん、起きてる?
 ちょっとここんの・・・・・・・ごめん、明日出直してくるから。」
そこへタイミング悪く(よく?)、ヒクサ-がグラ‐ベルの部屋を訪れた、
しかし、もう一度いうが、ぱっと見、そう言う現場にしか、今の状況は見えない。
つまりは、ことに及ぼうとしている所に遭遇したと、ヒクサ‐は勘違いをした。
シュン、と音を立て、扉が閉まってしばらくして、二人は反応を取り戻す。
「ちょ、待て、ヒクサ‐兄様。」
そして、すぐに、ブランカは涙を拭くのも、そこそこに、部屋を飛び出す。
十数秒後に、何かを殴るような。
数分後に、隣り-ヒクサ‐の部屋に何かを放り込むようなそんな音がした。
妙に清々しい顔で、ブランカが戻ってきた。
「・・・とりあえず、記憶が吹き飛ぶように殴ってきた。」
「・・・・・・生きてるのか?」
「とりあえず。
 ・・・グラ‐べ兄様、話は変わるけれどね。
 レンの調整が終了する頃に、アレちゃんが、正式に候補になるだろう。
 正確には、保護されるだろうね。
 そうだね、キュリオスあたりのマイスタ‐候補だね、アレちゃんの特性を考えれば。
 ・・・彼が、来る前に私は、地上に降りるよ。
 この間、≪ヴェ-ダ≫にミッションプランを出したから、多分受理される。
 同じようなのを同じ場所において置くよりも、違う環境に置いたほうが別のデ-タが取れるだろうと、いうことで。」
「・・・アレちゃん?」
「被検体E-0057だよ。
 彼の本名ではないが、僕はそう呼んでいた。
 名付け親は別に居るがな。」
「・・・何故、知っている。」
「言ったろ、同じ処にいた。
 懐かしい相手だ。
 今、会うわけにも、レンにあわせるわけにも行かないのがとても寂しいけれど。
 そういうことだよ、グラ‐べ兄様。」
「・・・言葉のことはどうする?」
「ああ、そう言えば、ロシア語と中国語の混じったの通訳できるの、そう居ないしね。
 刹那坊やのクルジス語混じりでも、英語ができるより大変だ。
 そのあたりは、どうにでもなるさ。
 考えていないわけじゃない。」
武力介入の四年五年前のこの時に、既に、刹那と後に、呼ばれる少年はCBにいた。
まだ、パイロット候補ですら無かったが、この時のブランカに、言葉や習慣を教えていた。
懐かれてはいたが、まだ、警戒が刹那には残っていた。
「ドミニクに頼むのか?」
「ああ、どのみち、あの国家軍で諜報部調整役というのは、ほとんど閑職だし。
この前の刹那坊やの時も、かなり助けてもらった。」
つらつら、言葉を流す。
意味のあるような無いようなそんな言葉だ。
少なくとも、今子の場では、殆ど無意味に近い言葉だ。
「なんにせよ、おやすみなさい、グラ‐ベ兄様。
 ・・・まだ、少しだけ時間があるから。」
そう言って、ブランカは退室した。
まるで、それ以上の言葉を避けるかのように。
いつもなら、この部屋で寝て、その後に抱き上げられ、自室に連れて行かれるのが通常なのに。
自室に戻る廊下の道すがら、ブランカはぽつりぽつりと呟く。
「つまらない感情だ。
 僕の感情などで、計画が動くはずがないのに。」
(それでも、願っちまうんだよな。
 生きて、あの日を向かえて欲しいって。)
「後、一週間もしないうちに、グラ‐べ兄様はスカウトから、降ろされる。」
(一歩、死に近付いたわけだな。)
「・・・叶わないのを何よりも、知っているのにね。」
(泣きてぇなら、泣けよ、ネ-ヴェ。)
「泣けないよ、ビアンカ姉様。」




叶わないと解かっても、
解かり切っていたけれど、
それでも願ったことがあった。
それでも変えたいと駆けたことがあった。

月が欲しいと泣き喚く子どものように。

だけど、叶わないと解かったのは、
読み解いてしまったのは、僕。
だから、その残酷な真実を。
いつか来るその悲劇を。
僕は、ちゃんと受け止めるんだ。
それが、どんなに哀しくて泣き叫びたいことでも。
僕のつまらない感情なんかで受け止めることを拒否なんかしない。


『-未明、グラ‐ベ=ヴィオレントとヒクサ‐=フェルミの両名は死亡。』
「嘘だ、なんで。
 いや、やっぱり・・・あぁあぁあああああああああ―――――――。」
「ネ―ヴェ姉さん!!?」


解かっていても、やっぱり変えたかった。
寂しいよ、哀しいよ・・・やっぱり死にたいよ。



++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

ザ☆ネガティブな一本です。(☆を入れても、変わりません。/むしろ、悪化です)

と言うわけで、『死神5題 Ver.OOP&OOF 03 つまらない感情』です。
感情自体は、つまらなくないんですけどね、ブランカもとい、彼女の人格主成分であるネ―ヴェが諦めちゃってるというか、そういう部分があるので、ここかなぁと。
たぶん、ですけど、OOP二部の一冊め現時点で、グラ―ベの処分・・・具体的には事故死による削除を≪ヴェ-ダ≫は狙っている節あるんですよね。
なので、それも含めた不吉さをブランカ/ビアンカ&ネ―ヴェは感づいているんです。

また、本編・・・最後の詩のような未来を嘆く独白の前までの続編というか、時間軸的にとお話がくっついているのが、『Ver.OOP&OOF 04 弔い紫煙』になります。
アレルヤが、CBラボファクトリ―に入る数日前のお話予定です。
ブランカが、地上へ降りて行方不明になる直前のお話です。

そして、単行本マガジンではまだ明らかになっていない、デルフィ‐ヌの生死ですが。
このブログの私の設定では、ブランカ・・・ビアンカ/ネ‐ヴェが殺害しました。

ともあれ、またいつか。

*雑誌最新話を受けて、微妙に加筆修正しました。(09/07/05)



Cogito,ergo,sum +コッペリアの娘達+

2009-06-24 23:10:51 | ガンダムOO 二次創作

作られた物が、感情を持っちゃいけないなら。
始めから、人格を与えないことだ。
そうじゃなきゃ、生まれちまうもんだからな。
心っていうのは、交流から生まれちゃうんだ。



Cogito,ergo,sum +コッペリアの娘達+



『恐らく、人間以外の人間が、マイスタ‐になるのでしょう。』
十年ぐらい前のある日、874は、そう呟いた。
ひとり言のはずだったが、すぐに、誰かが応えた。
そちらの方に874は、意識を振り分ける。
場所は、その応えた主の部屋だった。
鏡台と兼用のモニタ‐に自分はいる。
目の前にいるのは、黒い直髪を流すままにした深紅の瞳の少女だった。
寝間着姿なのは、就寝前だったのだろうかと、874は思考する。
彼女は、今は、リアクト=レビュ‐と呼ばれる、人間以外の人間だ。
自分と彼女の外見には、年齢差は殆どない。
十代始めの頃の可愛らしい頃合。
しかし、中身は別物だろうと思う。
874は、淡い藍色の髪に、同じ深紅の瞳の無表情な少女だ。
リアクトは、黒髪に深紅の瞳の感情豊かな少女。
されど、同じ人工物だ。
女の腹を経ずして、生まれた。
正確には、874には、肉体がないのでそう言いきれないのだが。
「だって、ロボットに、感情は無い。
 計画は、ただ実行すればいいってモンじゃないわよ?」
『ですが、問題なく支障なく、計画を実行するには、その方がいいのでは?
 それに、貴女を原型にした人造人間の計画が進行していたと思いますが。
 確か、先日で十年以上結果が出ていない計画ですが。』
「ああ、あれ。
 別に一個計画進んでたでしょう、ええと、イノベイタ‐を模した集団、イノベイドの。」
『ええ、十五年前に、初めの一人が作られ、次々とマイスタ‐になるべく、作られ教育されていると聞きました。
 貴女も教育をしているのでしょう。』
「それが、正式に、マイスタ‐候補になった。
 正確には、第一世代のマイスタ‐だったリボと染色タイプ0988の兄の方・・・リジェネ、とりあえず、第三世代マイスタ‐候補にとりあえず、あがってるわ。」
『つまりは、貴女を原型にした計画は終わったと?』
つらつらとなんでもないように、リアクトは流す。
この外見でなければ、煙草を喫し、酒を呷りながらいうのが、余程似合うような疲れた声音だ。
彼女の外見相応で、感情が乗ると、途端、外見年齢にそぐわないのに、妙に似合ってしまう。
彼女も、874も、≪ヴェ-ダ≫に作られた。
リアクトは、元々は≪ジル≫シリ‐ズとして保存されていたとある卵子を生体培養し、そこに色々と手を加え、イノベイドとして作製された奇妙なケ-ス。
874は、今はデ-タだけの存在だ。
しかし、このまま、計画が進めば、第三世代ガンダムマイスタ‐となる、そのために、肉体を与えられる予定だ。
肉体と言っても、リアクトのように、誰か母親がいる肉体ではなく。
生体部品を一つ一つ積み重ねた人工の肉体なのだろうと。
「そうだね、あっちの在庫も少ないのに、もう、無駄には出来ないのだろうさ。
 ル‐シェも終わったし、私の役割は宙に浮いちまってる。
・・・私も、十年持たないだろうし。」
『それで、何故、人間ではない人間がマイスタ‐になることはないと?』
「ん?
 当たり前だろう?
 人の為の計画が、人で無い者に任せれるかい?」
『・・・・・・』
「それに、人に造られた者が人を超えられるはずが無い。
 いくら、それを親である科学者が望もうともね。」
『自己否定ですか?』
「半分は。
 私やジルシリ‐ズは、本来的に、計画には必要ない。
 ただ、あのグランパが、虚構でも失いたくなかったあの風景が為の私達だもの。」
『・・・感傷的な理由なのですか、それは?』
「恐らくは。
 死んで欲しくなくて、一緒に見たかった風景があって。
 そのための、私だし・・・計画も第二段階以降は、イオリアがスポンサ‐の為のものだとつぶやいていたこともある。」
『・・・貴方は危険です。』
「君もだよ、874。
 数年前の不必要な記憶に踊らされ、あの≪ヴェ-ダ≫の意図せぬ方向へ感情を育てているであろう君。」
つらつらと、流される会話。
874は、自分にはプログラミングされていないはずの、薄ら寒さ・・・人の身ならば、「恐怖」とでも、いうような波に攫われそうになる。
自分も、リアクトも、理由や意味は違っても、イオリア=シュヘンベルグの計画の為に生み出された。
つまりは、それ以外の・・・≪ヴェ‐タ≫が意図する以外の感情すら抱くことは、自己否定であり、削除の理由にもなるのだ。
いくら、≪ヴェ-ダ≫が、感情による計画外の出来事を認めてはいても、それでも、作成物の反逆を許してはいない。
「・・・私はね、対の名前を継ごうと思うんだ。」
『計画から、外れるのですか?』
「そういうつもりはない。
 今の計画は、本来の計画からずれているからね。」
『・・・・・・どういうことですか?』
「秘密、としかいえないね。
 言葉にしてしまえば、そうだね、あのミッキ‐の言葉を借りれば、それが筋として固定される。
 だから、言葉にはしない。』
『しかし、それでも、対の名前を継ぐと言う事は、反逆者になるということでは。』
「ねぇ、874。
 聖書知ってるわよね。
 あれで、なんで、善悪の概念が生まれたのかしら?
 なんで、完全なる主から生まれたはずのルシュファ‐は何故、堕天したの?
 なんで、アベルはカインに殺されたのかしら?」
『・・・・・・・・・・・』
「神が真に全知全能と言うならば、生まれてはならないもののはず。
 アンチテーゼというかもしれないけれどね。
 ・・・・・・イオリア=シュヘンベルグは、善人ではないよ、悪人でもないが。
 人が生み出した計画だ、長い年月を経れば、偽物になってしまうということではないのかな?」
『・・・・・・・・貴女は危険です。』
イオリア計画を聖書になぞらえ、つらつら流すリアクト。
確かに、イオリア=シュヘンベルグは、ただの人だった。
普通に女性に恋をして、結婚なんかを普通に考えた。
子どもが三人と、犬猫を飼って、赤い屋根の家に住むとまで考えていたのかは分からない。
だけど、彼が元々考えていた将来は普通の、ごく普通の幸せだったのだろう。
イオリアが思い描いたのは、それこそ、そのうち、子どもが成長して、孫が生まれて、さらに曾孫も生まれて。
そして、その子たちに囲まれて、生涯を終えるというありきたりな、だけど、一番幸せな終わり方だったのだろう。
だけど、それは、叶わなかったことをリアクトは知っている。
二つの理由だ。
一つは、この計画の大本になったこと。
つまりは、イオリア最愛の『ジルネシア』と名前が残る存在が死んだことからだ。
その時のテロで、ジルネシアは死んだ。
お腹の子ども、もろとも。
戦争/紛争根絶という、計画の第一段階は大きくここに起因している。
もう一つは、そのジルネシアが、異世界の者だったから。
これは、リアクト以外に知るのは、せいぜい、古き姉のジルぐらいだろう。
他のジルシリ-ズや、リベリオンは知らない。
死ねるか・・・終われるかどうか、わからないのに、そんな普通の幸せが手に入るのだろうか。
ともかく、そんな心配をするまでもなく、ジルネシアの死後に、イオリアが、太陽光システムの基礎理論を発表したり、宇宙開発に興味を持ったりした。
そして、行方不明になり、2107年に、ソレスタルビ-イングが始動する頃に、成功を夢見て、冷凍睡眠に入った。
大それたことを・・・もう後、十年もしないうちに、武力介入-世界相手に喧嘩を売ることが始まる・・・しようという割には、イオリアは普通の男だった。
何処にでも居るような、多少頭脳が天才の域に入っていても、それでも、普通の男だった。
最愛の人が亡くなり、それが病気でも事故でも、どちらかであれば、多少、無茶はしたかもしれないけれど、イオリア計画なんて生まれなかった。
ただ、どういう形であれ、戦争のない世界で、ジルネシアともう一度、暮らすことを夢見ていた。
だけど、それも、時間が経つに連れ歪んでいった。
今は、表立って手が出せないが、コ-ナ-家の動きも気になる。
リアクトは動けないのだ。
そして、874は彼女にしては長い沈黙で、もう一度、リアクトを危険視する。
なにがどうと、長い間稼動してきた彼女でもわからない。
マレ-ネの闇のようでも、ない。
自分に比べれば、生まれたばかり、とまでは行かなくても、子どもと大人ぐらいの年齢差があるはずなのに、それでも、それを感じさせない。
むしろ、ただ、純粋な心自体が危険なのかも知れない。
「それでもね、私は、対の名前を継ぐ。
 何があっても、計画が本格的に始まるまで終わらないで生き抜いてやる。」
『・・・可能ではない目標ですね。
 ≪ヴェ-ダ≫が、許すと思えません。』
「許すだろうさ。
 数年前のあの事故のミッションを受け入れた件からしてもね。」
『・・・『消極的結論の選択』ですか。』
≪ヴェ-ダ≫は突き詰めれば、ハイスペックな機械だ。
そして、多少計画外で、人間なら認めないようなプランも、可能性を拾うために許可することが多いのだ。
ただ、『監視者』という制度がそれを阻む場合があるが。
「そう、だから。」
『・・・・・・』
「ああ、『Cogito,ergo,sum』ってことさ。
 道具だろうとなんだろうと、感情を思考を与えられれば、成長してしまう。
 それを阻むなら、最初から与えるなってことだよ。」
『・・・『我思う故に我あり』ですか。』
「そういうこと。
 なんにせよ、君もいつかは自分の意思で選択するのかもないね。」
『ありえません。』
「さあね。
 さてね、私は寝るわ。」
『おやすみなさい、リアクト=レビュ‐』
「ええ、またね、874。」


それは、リアクトが機能停止する二年前のこと。
何も為せずに、終わったと874は思っていた。
だけど、それから七年後にこの日の出来事のように何かを変える出会いがあったのは。
今は、まだ遠い未来で。
その時は、ただ、胸に穴が空いたような感覚を874に齎しただけだった。




++++++++++++++++++++++++++++++++++

厳密には、OOPとは言いにくい話になりました。
一応、時間軸は、OOP一部終了後一年後ぐらいです。
第三世代ガンダムマイスタ‐候補 874とリアクトの会話です。

874は、≪ヴェ-ダ≫によって作成された人格プログラムです。
推定・・・OOPの記述から察するに100歳以上の古株になります。
ただ、本当の意味で心が芽生え始めたのは、第二世代ガンダムマイスタ‐のフェルトの両親が志望した後。
そして、それが心になったのは、OO本編時のOOFの時です。
だから、今の話の彼女は、悪く言えば、≪ヴェ-ダ≫の道具。
1stシ-ズン時のティエリアのように、盲信までは行ってないけれど、≪ヴェ-ダ≫のすることが当たり前なっているわけです。

そして、OO二次では、あの映像-『地球に生まれた全ての~』以外では、ろくすっぽ、人格もなにもわからないイオリア=シュヘンベルグの人物像がちょいと出てきました。
2ndのオフィシャルガイドブックで、『イオリアは、聖人でも悪人ではない』というのを一ヶ月前に見まして。
すとんと、パズルがハマるようにこの人物像が降りてきました。
もちろん、こっちの裏設定に合わせてごたごたとなっていますが。
それこそ、最愛の人とつまらなくて平凡だけど、それこそ普通の一生を終えたかったんだろうな、と。
交通事故や病気なら、まだ、憎める存在がある。
だけど、戦争とか大きくなると憎めなくなる、いや、憎んでもどうしようもなくなってしまう。
なんていうか、本当に、頭脳は天才だったかも知れないですが、イオリアさんは普通の人間だったんだな、と思います。
感情的で、他人の評価よりも自分の欲求に生きたのですから。

タイトルも副題の「コッペリアの娘達」も割合ストレ-トです。
メインタイトルは、何処からが心の定義なのでしょう?
認知心理学のDr.イライザに・・・回答パタ‐ンの集合体の彼女に人間は知性を心を認めました。
だから、「考える」ということを他者に感じさせれれば、人に近づけるのかもしれません。
副題は、コッペリア・・・人形娘、作られた娘と言う意味合いで。
本来的には、コッペリウスなんでしょうけど、そこは語呂で。


ともあれ、またいつか。
パソ子が許せば、明日にでも。





ある日の電話(戯言×OO/人識と夢織)

2009-06-24 02:43:14 | 携帯からの投稿
アレルヤが来て数日。
夢織の電話が鳴る。

「はい、黒哀です。」
『ユメ姉ちゃん、つれなくないか、おとーと相手に。』
「ひとちゃんですか。
 普段、姉扱いしてないのはそっちでしょう?」
『かはははっは、確かにな。』
「それで何の用ですか?」
『愛しの姉上に用が無ければ電話しちゃダメなわけ?』
「では無いですが、双兄様が死んだ時ですら、外国にいたとは言えすぐに電話しなかったでは無いですか。」
『んじゃ、単刀直入に言うぜ?』
「どうぞ。」
『数日前から、居候いるみたいだが、新しい零崎か?』
「…恐らく、違います、零崎では家賊では無いです。
 家族のようには思ってますが」
『へぇ』
「三年前に、家賊を失って、新しい家賊すら拒否し続けてたユメ姉ちゃんの台詞とは思えないと言いたいのでしょう?」
『せーかい。
 良くも悪くも死ぬ為に生きてたようなユメ姉ちゃんが自主的に面倒見てんだもん。』
「…ゆみちゃんに似てたというのも一つです。
 それに見捨てれなかったのです。」
『なるほどな』
「とりあえず、心配はありません、ひとちゃん」
『わかった。』
「まいちゃんとはどうですか?」
『あいつとはそんなんじゃないって』
「素直では無いですね、ひとちゃん」
『う、うっせーよ』
「くすくす」
『またな、ユメ姉ちゃん』
「ええ、また」



例えば、こんな電話

ささやかな夢の日々 (アレルヤ、戯れ言逆トリップ)

2009-06-23 22:31:57 | ガンダムOO 二次創作




夜遅く、それなりに大口の仕事を終えて。
夢織は、疲労感と眠気に襲われながらも、帰宅した。
その街で、自宅にしているマンションにだ。
しかし、部屋の中に、人の気配を感じて、溜め息を付く。
「・・・昨日の今日ですか?」
大方、いつものように、弟の人識が、彼女の居ない間に上がり込んだのだろうと、夢織は判断した。
既に、昨日、ここに、彼は来ていた。
ちょっと、調子が良過ぎるとは、思うが、何を作ってあげようか、と思考する自分も居る事に、夢織は、苦笑した。



ささやかな夢の逢瀬 1
     初めまして、アレルヤ/有り得ない邂逅




白に近い銀色の髪を流し、黒いパンツスタイルに、白いトレンチコート姿の夢織は、中にいるであろう人物に、呼びかけた。
「ひとちゃん?」
夢織が、人識が来るたびに、少し凝ったご飯を食べさせてあげていることを、いいことに、けっこうそれなりな頻度で、彼は来ていた。
兄の双識が生きていたら怒られるかもしれないですね、と思いつつも、夢織は、人識の名前を呼びながら、部屋の玄関を開けた。
実際、もう、彼はもう居ないのですが、と述懐した。
「ひとちゃん?来るのなら、れん・・・・はい?」
全く見当違いな人物が居て、夢織は、拍子抜けした。
灯は外の街灯やネオンだけの真っ暗な部屋に居たのは、見知らぬ子どもだった。
暗い中でも、尚映える黒髪と浅黒い肌、そして、印象的なのは、金と銀のオッドアイ。
患者のきるような白い服を、所々返り血で、赤く染めた姿。
身体が、僅かに震えており、両手にしっかりとにぎられたのは、黒い拳銃。
子どもは、ゆらゆらと、揺れる瞳で彼女を見上げていた。
その瞳に、宿っているのは、怯えや恐怖、警戒と言った所だ。
子どもらしく無い。
それが、夢織の感想だ。
しかし、裏の世界では、珍しく無い、とも思った。
自分も、自分の意志で、零崎したのはこの少年ぐらいの齢だ。
「参りましたね。
 これは、放置できないではないですか。」
夢織は、心底そう思い呟いた。
まるで、彼女の方が、異端者であるかのように、怯えた瞳で見続ける子どもを一瞥し、呟いた。
突然の訪問者は、まだまだ、彼女を休ませてはくれないようだ。
とりあえず、名前を名乗る。
少なくとも、裏の世界の流儀では、絶対の自信か、或いは、ここまで明かしますよ的な白旗の証しだ。
「私は、零崎夢織、もしくは、黒哀水穂と言います。
 少年、貴方の名前は?」
「・・・・・・・」
「別に私は、お前を捕って食べたりしませんよ?
 そんなに、怖がらないで。
 名前を教えてもらえませんと、少年とか、貴方で、通す事になりますが。」
「・・・・・・・アレ、ルヤ・・・・・・。」
「アレルヤ。
 良い名前ですね、カミサマに、感謝を示す言葉ですか。」
戸惑いながらも、自分の名前を言ったアレルヤの頭を、よくで来ました、というように、優しく撫でた。
そう言えば、「ゆみちゃんが来たのも、この子ぐらいの時でしたね」と、懐かしさも覚え。
ともあれ、夢織も言葉が、嬉しかったのか、撫でられるのがくすぐったいのか、アレルヤは、わずかにだが、嬉しそうに目を細めた様に見えた。
「さて、アレルヤ。
 その服のままだと、寝れませんし、お風呂入りましょうか。」
「・・・あ?え?」
アレルヤの握っていた銃を夢織は、自然に取り、適当な引き出しにしまった。
一応、弾倉を抜く事を忘れずに。
もの言いたげな視線をアレルヤは、夢織に向ける。
夢織は、彼に目線を合わせ、こう言う。
「誰にも話したく無い事情というのは、あるものでしょう?
 私は、無闇には聞きません。
 貴方が話したくなったら聞きます。
 仕事関係や、実家の関係で、物騒な事には、もう慣れっこなんですよ。」
「・・・あり、がと・・・」
「どういたしまして。」
照れくさそうに、お礼を言ったアレルヤ。
夢織は、そんな彼の頭を優しく撫でる。
彼女の今の格好と相まって、どこか、父親と息子のような光景だ。
一応、ベストで胸を潰してるし。
やくざで、ホストな父親と外国人との間の息子な図。
しっくり来過ぎて笑えない。
「ほら、風呂場に行きますよ。」
「わぁ・・・、」
座ったままのアレルヤの両脇に、手を入れて夢織は、その身体をひょいと持ち上げた。
思ったよりも・・・正確には、外見の年齢に対して、やや軽い身体に、夢織は無言で驚く。
13か、そこらにしては軽過ぎたのだ。
あと、10キロは欲しいですね、と言葉に出さすに苦笑する夢織。
その彼女の肩に、しがみつく形で抱えて、アレルヤを風呂場まで運んで行く。
『はい、バンザイして。』とか、慣れた様子で、血塗れの服を脱がせ、ゴミ箱に捨てる。
例え、あんなのものを上手く血抜きできたとしても、来たいと思わないだろうし、着せたいとも夢織は、思わない。
ただ、シリコンのバングルだけは、彼がものすごく渋ったので、捨てずに残した。
『E―0057』と刻まれたそれが、何を意味するのか分からない。
だけど、とても忌まわしいと共に、大切な想い出なのかもしれない。
夢織にとっての、あのピアスのように。
世話をしてくれた零崎の・・・今は死んだ零崎との想い出が残るピアスのような。
ともかく、夢織も、今日一日の疲れを取ろうと、コートとシャツを脱いだ。
「え、女?!」
「こういう格好をしていると、間違われますが。
 歴とした性別女性です。」
夢織をすっかり、男性だと思い込んでいたアレルヤ。
名前で気付く可能性もあったが、名前の馴染みの無い言語圏だった為か、分からなかったようだ。
目をこぼし落とさんばかりに、目を見開いているが、彼女の言葉と身に付けている女性用の下着を見て、女性と意識しだしたアレルヤは、途端に真っ赤になった。
「・・・これくらいで、真っ赤になるとは。
 可愛いですね、でも、それでは好きな子とキスも出来ないですよ。」
夢織が、からかうとアレルヤは、ますます顔を赤らめた。
まだ、お風呂にも入っていないのに、茹で蛸のようになって。
耳の端まで真っ赤だ。
子供用の服は、このマンションに無いので、とりあえず、夢織のTシャツと未使用の少年用のパンツを着せる。
人識か、弓識が、忘れて行ったものらしい。
どことなく、危ないが、無いモノは無い。
ついでに、弓識に電話をして、明日、自分の13歳ぐらいの時の古い服あれば、もってくるように、電話する。
風呂場で、十分に温まったら、眠気が押し寄せて来たのか、アレルヤはうとうとしていた。
このまま、放置したいぐらい可愛かったが。
兄の双識なら、写真を撮りまくるだろうと言うぐらい。
実際、昔そうだったなぁと、夢織は、懐かしく思う。
「いけませんね。」
そう、誰に言うでもなく呟く。
最近、どうにも、昔を思い出してしまう。
(もう、あれから、三年ほど経つのに、こう頻繁に思い出してしまっては、心配を掛けてしまうではないですか。)
夢織は、そう、思いながら、声をかける。
「其処で寝ないで下さい、アレルヤ。
 ベッドに行きますよ。」
「・・・・・・ん・・・、わかっ、た・・・。」
今にも、ソファに沈みそうな彼を見かねて、夢織は、アレルヤを抱えて、自分のベッドに連れて行った。
寝かせ、掛け布をかける。
「可愛いですね。
 うふふ、ゆみちゃんや、ひとちゃんの小さい頃を思い出しますね。」
直ぐに聞こえて来たアレルヤの寝息に、夢織は優しく微笑んだ。
頬をつつけば、むにゃむにゃと、可愛い寝言が帰ってくる。
ぷにぷにと、その感触をしばらく、楽しむ。
頬も、いつもの彼女の30%増しに緩む。
しかし、ぴたりと、それを止め、表情が消える。
感情が無いのではない、消えたのだ。
「・・・ですが、アレルヤ。
 貴方は、何を抱え込んでいるんですか?」
アレルヤぐらいの子どもが、血塗れになるなんて言うのは、裏の世界じゃありふれている。
むしろ、そこぐらいしか、心当たりは無い。
夢織も、六歳の時に、血にまみれた。
当時は、虐げられてはいても、家族と思っていた親戚達を。
愛してくれていた父母と一緒に、皆殺しにした。
だけど、裏の人間にしては、纏う雰囲気が、あまりに無垢で純粋で無防備で、らしくないのだ。
僅かな可能性としては、一番当てはまりそうだけど、一番起こりえなさそうなのが、あった。
「・・・カミサマ、のイタズラですか。」
そう呟いて、ベッドサイドのライトも消し、布団を引き上げる。
明日、萩行さんに連絡とる必要がありますね、と思いつつ。







************************************************


はい、一応、OOのアレルヤ逆トリです。
ちまちま、更新して行きます。
全部終ったら、まとめてコメントいきますです。



むげんの幸せ +本当じゃない本当のモノ+

2009-06-23 15:56:12 | ガンダムOO 二次創作
「父の日ってなぁに、グラ‐べ兄様。」
「は?」
その年の父の日は違っていた。



むげんの幸せ +本当じゃない本当のモノ+



それは、父の日が近い・・・その年の六月の頭に起きた。
いつもどおり、標準時刻の七時半過ぎのことだ。
その時は、CBラボファトリ-『クルンテ-プ』に、カ-トとシドも珍しく揃って居た。
いつも通り-彼らとブランカにとって-、朝ご飯食べに行くぞ-にカ-ト達が、ブランカの部屋に迎えに行く。
しかし、応答はない。
彼女は、時間どおり動くことを好むから、基本的に六時半には起きて、着替えているはずだ。
それは、ブランカであっても、ビアンカやネ‐ヴェでも変わらない。
昨夜に、情報屋としての大仕事がありそのせいであっても、寝過ごすことは少ない。
ちゃんと、六時半に起き、朝ご飯の後に、寝るのだ。
今日は、試験運転もあるから、パンツスタイルだろう、とかは思っていても、体調不良とは考えない。
少なくとも、自分やドクタ‐モレノには、最低限度いうし、昨日が丁度週一回の検診の日だったのだ。
自分で、あの能力抑制剤を作るとは言え、そこで何かが異常あれば、モレノが何か気付くはずだ。
「ブランカ、兄ちゃん達、入るぞ。」
カ-トが、パスコ-ドを打ち込んで、中に入るとそこには、確かに、ブランカが居た。
ただし、外見が幼稚園ほどで、なおかつ、髪の毛が、猫毛で白に近い銀髪色のと形容詞が尽く。
いわゆる、幼女化である。
「ありぇ?
 兄様たちだれ?」
「え-と・・・。」
「・・・とりあえず、ドクタ‐に診せましょうか、カ-ト。」
「パパとママは、おしごとなの?」
記憶も無いようで、ベッドの中で、ぶかぶかのパジャマ姿のブランカが、不思議そうに、二人を見上げていた。
ブランカの・・・正確には、ビアンカ/ネ‐ヴェの実父母は研究者だった為、彼女がこれくらいの年齢でも、友人に預けている事が多かった。
実際、カ-トの義父のエドの所に預けていた為、この頃のブランカも知っている。
だから、自分がここにいるのも、寝ている間に父母が預けていった、程度の認識なのだろう、と推測が着く。
「みたいだな。
 ちょっと、お前がこんこんしてたから、医者に連れてってくれって言われてるから、行くぞ-。」
「うん、わかったなの。
あ、お名前教えて、わたし、ネ-ヴェって呼ばれてるの。
雪の妖精さんの名前なの。」
「俺が、カ-トで、こっちの黒髪のが、シドだ。」
服は、少し前、地上に降りた際、昔、実父母に買ってもらった服に似ていたからと買った幼児服があったから、それを着せる。
可愛らしい濃いピンクの夏用ワンピ-スだ。
今の彼女ならば、間違いなく着ない優しい色合いだ。
先日、その色の今のお前にも似合いそうなデザイン買ってやろうかと言われ、長々と毒舌で返された。
ブランカとしてだったから、長い毒舌だったのだろうが、ネ-ヴェとビアンカとしては、『普通の幸せ』の象徴みたいで、今の自分に似合わないと思ったのだろう。
或いは、懐かしすぎて、もう得れないことを決め付けてしまっていることだからだろうか。
それを手早く、着せると、抱っこをせがまれ、カ-トは、それに応じる。
「えへへ~、カ-ト兄様のだっこ、高いねぇ。」
「そうか、お父さんのよりか?」
「ううん、父様のは、もう少し高いよ?」
などと、会話をしながら、メディカルル‐ムに行く。
この時間でも、ほとんどあの部屋に住んでいるモレノはいるだろうと、見当をつけて。
そして、やはりいた。
金髪を当時は長く伸ばし、髭を蓄えていたモレノが。
朝食後なのだろうが、コ-ヒ-を飲んでいたのだが、噴出しかけた。
「・・・誰だ、その子。」
やっとのことで、その言葉を絞り出す、ドクタ‐。
色々と、短時間ながらも、考えた末だろう。
シドか、カ-トの隠し子だろうか、とか。
イアンの娘がおなじぐらいだったとか。
「・・・いや、ブランカだ。」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「ブランカ=エリフォ‐ル、ここのメカニック兼情報収集係のあの子です。
 ドク、とりあえず、血液検査でしょう。
 この子の性格からして、いつもの能力抑制剤以外の薬品を摂取すれば、私たちに報告するでしょうから。
 何か、変わったことはありませんでしたか?」
「わかった。
 確か、無痛針は・・・」
とりあえず、今の異常事態よりも、医師としての職務を優先しようと、モレノは動いた。
小さい子・・・3歳ぐらいの子も診たことあるのか、無痛針の注射器を探す。
数は少ないが、在庫としてもっていたらしい。
そして、案の定、無痛針といえど、ブランカは泣いて暴れた。
注射器数本分の血を採取するのに、十五分以上かかったといえば、些少也とも、その苦労に想像がつくだろう。
「朝ご飯食べてないだろう?
 行って来い。
その間に、血液検査して、その結果も含めた上で、≪ヴェ-ダ≫に、指示を仰いでおく。」」




「あ-、父様だ!!」
食堂に着くなり、奥に一人で居たグラ‐ベに、ブランカは駆け出し、飛びついた。
低血圧で、ドロコ-ヒ-の助けを借りても、ここ数日の深夜までの書類纏めの為か、すぐには反応できない。
視線を小さなブランカに合わせたまま、たっぷり数十秒。
その間も、カ-ト達は、口出しできない。
正確に言えば、ブランカの「父様」発言で脳味噌がフリ‐ズしている。
「ええと、ブランカ?
 父様ってのは?」
「・・・カ-ト、知り合いでしょう。
 実父のアリョ‐シャとグラ‐べは、印象がそっくりですし、そこからでしょう。」
「確かに、髪色もそっくしで、無口無愛想だけど、仲間思いなのは、そっくりだな。
 アリョ‐シャは、数年行方不明だったエドがいきなり行っても歓迎してたし。」
「ですよね。
 愛想のよさはともかく、あの人の良さは、ブランカも受け継いでいますけれど。」
「・・・父様?」
「私は、お前の父ではない。」
「父様だもん!!」
「・・・・・・」
「はいはいはいはい。
 とりあえず、低血圧だからってお子様居ること以前に、先に父さん発言に反論しない。
 妙な所で、沸点低いな‐グラ‐べ。」
飛びついた、ブランカを受けとめもせず、返答もせず、しばらく様子を見るグラ‐ベ。
しばらくして、不安げに問うブランカの言葉に、冷たく応じる彼に、彼女は泣きそうになりながら、反論する。
しかし、考えて欲しい。
推定三十路・・・近いとは言え、三歳ぐらいとは言え、いきなり、父或いは母と呼ばれれば、どうだろうか?
同じく三十路近い二人の内、カ‐トはとりあえず、ブランカを抱き上げ、止める。
「・・・むぅ。」
「説明しとくから、シド、飯食わしててくれ。」
「はいはい。
 後、言葉遣い、ブランカに移ったらどうします?」
「シド兄様、ネ-ヴェ、フレンチト‐スト食べたい!!」
「わかりました。
 作りますから、席に座っていてくださいね。
 他に食べたい物は?」
「んとね、たくさん焼いたべ‐コンさんとミルクがいいな。」
ほのぼのと、兄と歳の離れた妹といった風情の会話を交わし、足が床に着かない椅子の上で、ブランカは、にこにこと待っている。
そんな幸せそうな情景に、カ-トは押し黙る。
昔々の話だ。
まだ、CBに入る前の話だ。
カ‐トの二人目の養父、エドワ‐ド=バルフォアは、当時からCBにいたらしいし、シドと妹の両親は忙しく世界を飛び回っていた。
カ-トの三つ上の先輩が、シドで、三つ下の後輩が、シドの妹だった。
だから、今のような風景も当たり前だった。
今は、もう無い。
十数年前のあのテロで、それを亡くした。
そして、二人は、第二世代ガンダムマイスタ‐になったのだ。
だから、二人は、第二世代ガンダムマイスタ‐であるのだった。
その情景と感情を振り払うかのように、頭を振る。
「ともかく、話は聞いてくれよ、グラ‐べ。」
簡単に、かつ、アリョ‐シャとその妻・・・アレクセイ=スミノルフと、エヴェリ-ナ=スミノルフのことを話した。
つまりは、ブランカの両親のことをだ。
正確には、ネ-ヴェの両親のことだ。
ちなみに、セルゲイ=スミノルフとは、親戚ではないが、知り合いである。
母親同士が、知り合いだった縁であることだけは、ここに記しておこう。
髪色が、決定的に違うことを話すには、そこから話すしかなかったのだった。
ただし、核心の核心は話さない。
嘘ではないけど、真実全てではない。
グラ‐べ相手にバレない筈がない。
あのグラ‐べ相手にそうではないと断言できないほど、知らない相手ではないからだ。
だけど、誤魔化した言葉に関して追究はしてこないから、そこは信頼できる。
「つまり、ブランカがなんらかの事情で小さくなったというわけか。」
「そう、ドクタ‐が今、検査及び、報告中。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかった。
 だが、せめて、父以外で呼んでくれと、伝えろ。」
「おっけ。
 シドは、ツテ頼って、色々探すらしいし、俺達で、面倒見ような、グ・ラ―・ベ・パ・パ。」
「・・・カ-ト。」
「ジョ―クジョ―ク。」
現実主義者の永久凍土男・・・そう呼ばれることもあるグラ‐ベ=ヴィオレント。
彼の過去は、その当時のCBの中でも、謎に包まれている。
シャル=アクスティカのように、元々高校生で、パワ-ロ-ダ‐の技術を買われて第二世代マイスタ‐になったとか。
イアン=ヴァスティは、従軍整備士だったとか。
JB=モレノは、国境無き医師団の一員だったとか。
カ‐ティスとシドは、家族をテロで失ったとか。
マレ-ネ=ブラディは、その優しさ故に、犯罪者になったとか。
ブランカ=エリフォ‐ルは、両親を両親の同僚だった研究員に殺されているとか。
それくらいのきっかけだとか、なんだとかは、はっきりとしなくても、やはり聞こえる物なのだ。
守秘義務というものがあるとはいえ、過去からは逃れられないとでもいうように。
だけど、彼に関しては、叔父に妹と育てられたことと、その妹が幼い頃に病死したとか、少なくとも、CBに入った直接きっかけらしきものが一切聞こえてこない。
叔父云々にしても、カ-トと、シド、ヒクサ‐が結託して、泥酔させて聞き出したぐらいで。
それがなければ、謎の一言で、済んでしまう。
当時のティエリアと並ぶ、謎のコ-ルドビュ-ティ。
それが、グラ‐ベ=ヴィオレントだった。




「グラ‐ベ兄様、大好き。」
「はい、これ、グラ‐ベ兄様の分。」
「グラ‐ベ兄様、だっこ。」
等々。
呼び方は、元のままの兄様呼びなのだが。
時々、「グラ‐ベパパ」と呼ばれたり、普段の彼女とは違い、感情全開で接してくる。
ちなみに、一番目の台詞は抱きつきながら、二番目の台詞は自分のおやつのマドレ‐ヌを半分倉―ベに渡しながら、三番目は抱っこをせがみながらの台詞であった。
それに、だいたい、危険な場所-ドッグに降りるとか。-に行く時以外は、ちまちまと、彼の後を着いてくるのだった。
いつも通りに彼が歩けば、追いつこうとして、転ぶ。
そして、泣く。
繰り返されれば、グラ‐ベとて、合わせて歩くか、抱き上げることが多くなる。
なんというか、普段、イアンが親ばかで、何故娘のの話の時はでれでれしているのが、独身で理解し始めているグラ‐ベ。
-『アヒルの親子、みたいで可愛いですね。』とシドに言われたり。
-『ズルいよ、グラ‐ベちゃん独り占め?』と、ヒクサ‐に羨ましがられたり。
-『似合ってるよ、グラ‐ベ』と、カ‐ティスに言われたり。
-『戻るまでの間、任務を減らすように、ヴェ-ダに進言しましょうか?』と、874に心配されたり。
等々、きっちり、グラ‐べと小さなブランカは一人ワンセットになっている模様。
そして、シドが、丸二日間に及ぶ不眠の努力により、ミッキ‐との連絡は取れた。
『その年齢よりも上の記憶が戻ってくれば、三日ほどで戻るよ。
 ・・・そうだね、あの子の場合、父の日とか、イベント事から思い出すんじゃないかな』
と言うことらしい。
しかし、今日で5日目。
父の日は明後日だ。
戻る気配である矛盾した記憶もまだ現れる気配すらない。
「グラ‐べ兄様?」
「どうした?」
「グラ‐べ兄様、げんきない、ネ-ヴェ思う。」
「そうか?」
「うん、初めて会った時よりも、がいこつさんみたい。
 それに、髪の毛もジャンプしてる。」
と、ブランカに心配されるほど、目に見えて、グラ‐ベはやつれていた。
慣れて、気持ちがわかったと言っても、それでも育児は大変で。
ちなみに、ブランカの言う「がいこつさんみたい/髪の毛がジャンプ」は、「やつれて/髪の毛がはねてる」ということである。
「大丈夫だ。」
「・・・無茶しちゃダメだからね。
 パパみたいに、倒れたら、ネーヴェ、とっても泣くよ。」
「ああ、わかってる。」
「えへへ、やくそく、だよ、グラーベ兄様。」
と、そんな一幕。
なんというか、普通に、仲良くなっている。
そして、次の日・・・つまりは、父の日前日。
たまたま、その時は、元の自分の端末を持っていたネ‐ヴェ/ブランカ。
グラ‐べは、地上に行っているため、居なかった。
ヒクサ‐が面倒を見ていたときだった
自動再生されたメッセ-ジを見たブランカは、端末を放り出して、リンダ=ヴァスティに会いに行く。
「ネ-ヴェちゃん!?」
突然のことに、ヒクサ―は、追いかけることも出来なかった。
その場には、自動再生のままの端末とヒクサ‐が残される。
-『父の日には、グラ‐べ兄様に、ピンク色の薔薇をリンダ姉様から貰う
  忘れちゃダメだぞ、ブランカ=エリフォ‐ル。』




そして、その日の内に、ブランカは元の姿に戻った。
正確には、バラを貰いに行った瞬間に戻ったのだ。
追いついてきたヒクサ‐をリンダが慌てて、締め出さなければいけないほど、僅差だった。
着替えるものも着替えず、ブランカが知っている、ミッキ‐ホットラインに連絡をいれ問いつめれば、『ま、一応目安だし。なんかのきっかけで、一気に戻る可能性もあったし。』と軽く流された。
色々、思うことも合ったが、それでも、初志貫徹にと、ジ-パン生地の上下に着替え、ラジエルのドックの前の扉の側に座り込んでいる。
もう、時刻は、標準時刻の父の日当日になって、数時間が経過している。
一応、帰投時間は、その日の・・・慣例的に記せば、父の日前日の25時になっている。
しかし、少々遅れている。
艦橋というか、管制室のようなところに言付ければ、帰った時に連絡はもらえるだろうが、そうではなく、最初に話したかった。
だから、ブランカは、待っている。
傍らに、硝子ケ-スに入った優しいピンク色のバラがある。
それに、あれから急いで焼いたあまり甘くない・・・その代わり、スパイスをふんだんに使用した辛いクッキ-もそばにある。
「・・・ブランカか?」
「・・・・・・『グラ‐べ兄様か、やっと、戻れたよ、このとおりね。』と。眠さを堪え、グラ‐ベに報告します。
 『はい、ハッピ‐ファザ‐ズデイだ。』と、バラを渡しながら、グラ-ベに言います。」
それから、数時間後に・・・標準時刻なら、朝日が昇るぐらいの時刻に、グラ‐べは帰還した。
眠り込んでいたブランカに、彼が声をかけると、目をしばたたかせながら、ブランカはいつもの調子で、返す。
バラと、クッキ-の包みをグラ‐ベに手渡す。
「・・・ありがとう。」
「『ちゃんと、グラ‐べ兄様の嗜好に合わせて、あまり甘くないクッキ-だ。』と、包みをさして、私は、グラ‐べに言います。
 『ちなみに、ヒクサ‐兄様達は、食べた後、水をがぶ飲みしていたけどな。』と、苦笑しながら、私は、その光景を思い出します。」
「ひとつ、聞きたいのだが?」
「『どうした?クッキ-は味見してちゃんと美味しく出来てるぞ?』と、質問を促すように、私はグラ‐べに返答します。」
「何故、毎年、私に父の日を渡す?
 モレノや、イアンなど、もっと適しているのが居ると思うが?」
確かに、外見や実年齢のつりあいを考えれば、グラ‐べは若すぎる。
モレノやイアンぐらいに、実父の代わりにプレゼントをするほうが、よほど適している。
それに対して、ブランカはこう答える。
「『父の日は、自分の父親以外にあげるなら、自分が父親だと思う相手に渡せと、教えられた。』と、カ-ト兄様達に教えてもらった話をします。
 『この場所で父親とは、私にとって、安心できて、無表情なのに、暖かい君しか思い当らない。』と、率直に、私は、グラ‐べ以外を父と見れない、と断言します。
 『パパは、もういない。だけど、グラ‐べ兄様に似てるのは覚えている。』と、同一視していることを気まずく思いながら、告白します。」
「・・・わかった。」
「『・・・カ-ト兄様達に、制裁したら、泣くぞ?』と、半ば脅しながら、グラ‐べに伝えます。」
「何故、わかる?」
「『一応、一般的な考えとは違うと最近思うようになった。』と、言い訳のように、私はグラ‐べに伝えます。
 『しかし、それでも、父親だと思えるのは、グラ‐べ兄様だけだ。』と、断言して、私はグラ‐べに言い切ります。」
「わかった。」
半ば、苦笑しながらも、グラ‐べは、それを受け入れた。
この少女は、わかりにくいながらも、自分に甘えてきていると感じたからでも合った。


その優しいピンク色のバラは
花言葉を「ささやかな幸せ」という種類だった。

たとえば、そんな日常。



*********************************

えっと、アップするのが、父の日過ぎてるわ。
内容が、微妙に父の日じゃないわ、な一話です。

前半に、筆が滑って、カ-ト達のCB参加理由が出てきたりしました。
一応、その他、公式キャラの場合、ちゃんと、設定から引っ張ってきてます。

そして、もう一度大切なことなので言います。
セルゲイ=スミノルフと、ブランカ(ネ‐ヴェ/ビアンカ)と面識があります。
ブランカの本名が、○○○=スミノルフですが、血縁関係はないです。
母親同士が知り合いだったというだけです。
一応、元を辿れば、親戚関係ぐらいにはなるのかもしれないですが、少なくとも、曽々祖父ぐらいまでさかのぼっても、血縁関係はおろか、縁戚関係すらないです。

ブランカの裏設定の一部が出ていますが、いつか明かすその日まで、心に留め置くだけにお願いします。
その辺を詳しく書くと、かなり、長くなりそうですので。
また、今回彼女が、幼女化したのは、能力抑制剤の調合時に、くしゃみをして、混ぜる薬液を少々多く入れてしまった故の結果です。

ちなみに、某ネットワ-ク型電脳辞書からの引用ですが。
父の日に渡すバラは、生きている父には赤バラを、死んでいる父には白バラを渡すのが、一応の慣例らしいです。
んで、作中で渡したのは、ピンク色の薔薇。
一応、花言葉で選びましたが、絵の具で、白と赤は混ぜるとピンクなので、そこから。
実父ではないけれど、グラ‐べに、あげるなら、さりげなくそれだろうなと、思いました。

某日、タイトル改題。
新タイトルの方の「むげん」は、「無限/無間/夢幻」など好きなのを当てはめてください。

グラ‐べ=紅龍説があると聞いて、ぐるぐるな、夕海でした。
たぶん、ないと思いますです、黒執事と骸が同一人物なくらい。
ともあれ、ありがとうございました。



小説って

2009-06-21 00:55:58 | 携帯からの投稿
小説って書いてると、筆が滑る…もとい、キャラが勝手に動いてくれたり、或いは、このキャラで、書きたいという話が生まれたりしません?


今、現在、OO1Stの空白の4ヶ月の時間軸…七話八話以降九話以前のオリ話。
フェレシュテとも関わるお祭り話(私のオリキャラ系クラッカー勢揃い)を書いています。
その中で、ビアンカの(藍髪の身体)カバー、ユニオンのアリア=フェルニシアを書いていて思ったんです。
同じ大佐のカティ=マネキン大佐と比較しても、彼女と違う意味で、女性じゃないんです。
カティさんの場合は、軍属らしいと言うか、女傑とか鉄の女系な感じです。
アリアとしてのビアンカは、男まさりという意味では、女傑です。
だけど、整備畑な分、帰る場所というかあっちの意味で女臭くないので、そういう意味で女性じゃないんです。
ふと、思いまして



完全にビアンカとしての意識を切った上で…つまり、完全に身も心もアリアとして、ロックオンに出会っていたら?と思いまして。
時間軸は、もちろん、「抱き締めたいな、ガンダム!」もとい、三軍合同演習時。
一応、ロックオンはロカクされます。
色々あって、脱出します。
その色々で、「女」なアリアを書きたい思うのです。
仮ですがタイトルが出るぐらいに。
「眠り姫への思慕」とか?


とりあえず、色々、ぐるぐるな夕海でした

ジョジョと某所連載クロスオーバー会話

2009-06-20 21:27:26 | ジョジョ二次創作



「ちょうど良かったです。
 仕事を頼みたいのですが。」
『ああ、すまないね、ドン・ジョルノ。
 しばらく、イタリアを離れるのだよ。』
ここは、ネアポリスの《パッショーネ》本部・・・のボスの執務室だ。
今、部屋に居るのは、二人。
金色の髪のボス・ジョルノ。
その右腕のミスタ。
ジョルノは、電話を受けたのだ。
その相手は、五年以上前からの知己・ヴィット=リージであった。
「長期ですか?
 裏の有名人が死んだとも聞かないので。」
『そう、降誕節ぐらいまで、どう足掻いても帰れない長期の仕事が入ってね。
 昔の義理と借りで、断れないのだよ、ドン・ジョルノ。
 今空港だ。フィウミチーノ空港だよ。』
「ああ、この間のローマの仕事の帰りですか?
 昨日、終了の連絡が来ていましたね。
 それから、すぐ、ですか?
 もうすぐ、共和国祭りだと言うのに、大変ですね。」
そう今は、イタリアの祝日・共和国祭の数日前だ。
日本で言う建国記念日なのだが、首都ローマでは、パレードが出るなど、正にお祭りなのだ。
そのパレードの見物客を狙って、ヴィットが占いの出店を出すと言うので、ジョルノも、見回りがてら見物に行こうとしていたのだった。
しかし、そこに、今のヴィットの言葉。
正に、寝耳に水だった。
『そうそう、君のところの仕事だよ。
 売れっ子は辛いもんだね。』
「ヴィット、貴女が、占い屋の出店を出すと言うので、僕としても。
 もちろん、ミスタだって、楽しみにしていたのですよ。
 それに、久しぶりに、チレスにも会えるとも思っていたのに。」
『仕方ないだろう。
 ・・・・・・・そうだ、と言うわけでないけどね、一応、今日そっちに届く荷物。
 その中に、ディオ兄様の十字架が入っている、しばらく預かってくれ。
 大切にな。』
「はい?
 一週間前に、まだ、一人前じゃないって渡してくれなかったアレですよね。
 ちょっと、ヴィット、事情を・・・・・!!
 ・・・・切られました。」
ヴィットが、届くと言っていたその荷物・・・ディオの十字架とは、ジョルノの父親の十字架だ。
それは、良いにしても、五年前、ヴィットとディオの関係が明らかになった後、『一人前になったら、私がそう思ったら、渡すよ。』と言われた物で。
一週間前も、顔見せに来た彼女に『まだ、渡せるほどじゃないね、ジョルノ坊や。』と言われたのだ。
「ヴィットさん、か?
 話からすっと、あの十字架、こっちに送ったみたいだな。」
「ええ、いつでも持ち歩いていたあの十字架を、正式渡すわけではなく、『預ける』と行くとは。」
「・・・なんか、戦場に行く恋人に、「俺が死んだら、形見にしてくれ」って渡してくみてぇだな。」
「・・・ッミスタ!!」
「みてぇ、だっつったろ。」
電話を終った頃を見計らって、書類を眺めていたミスタがそう話しかける。
冗談めかして、死亡フラグっぽく無いか?と、いったのだが、それをマジにとったジョルノは、ミスタを静かに責める。
もちろん、ジョークだということは分かっていても、それでも、妙にイヤな感が頭をよぎるのだ。
まるで、五年前に、ブチャラティを失った時のような。
「あの時と同じ感じがするんですよ。」
「そうか。
 こう言うとき、組織に居ると、不便だよな。」
「・・・否定できませんね。
 あの組織絡みで、動くのでしょうし。」
「あれこれ考えてても仕方ないわな。
 ちょっと、早いけど、昼飯にすっか、ジョルノ。
 どこにする?」
「確かにそうですね。
 じゃあ、と言うわけではないですが、「ロッソ」のパニーニサンド、久しぶりに食べたいですね。」
「だよな、あこのカプチーノ、絶品だしな。」
まだ、絡めない。
だけれど、微妙に搦むそんな運命の織布の糸。











『結構雇ってるってなわけ。
 そうそう、もうすぐ、時期だけど、ヴィットは戻って来れないんだよね?』
「秋が深くなるまでは帰れないね。
 遅くなる事はあっても、早くなる事は無いね。」
『そっか、あいつらの墓もォ、僕がついでに参っておこうか?』
とりあえず、起きてるだろうな、起きていなくても、大丈夫だろうと言う時間に、メローネは、ロンドンの某所に電話をかける。
彼は、緑みのある金色の髪と目元を隠し、露出のある衣装が印象的な青年だ。
もうすぐ、小父さんと言う年齢では在るのだ。
ヴィットに頼まれた最近になって、《C.C.》に雇われた徹夜で、刺客を調べ、その報告をしたのだ。
彼は、本来は暗殺者だ。
情報屋ではないのだが、この件に関して、ヴィットが、昔の知り合いを頼れないから、組織の白髪身があまり無いメローネを頼って来たのだろう。
それに、予想していた通り、もうすぐ、五年前に、メローネの仲間とそれを的としていた・・・今の彼の上司の仲間の命日が近いのだが、それにも帰って来れないらしい。
「よろしく頼むよ。」
『あぁ、忘れてたよォ。
 ヴィット、《イレイザー》って、知ってる?』
「・・・・・・・あぁ、知ってる。
 欧米をメインに活動している古式ゆかしき映画のような暗殺専門の殺し屋だろう?」
『そうそう、五年前のあのデキゴトの後に、デビューしたぴちぴちの子。
 ええと、本名じゃないだろうけど、名前は『オルクス=ローゼンクランツ』だっけ?
 その子もォ、そっちに雇われたみたいだよォ。』
「そうか。
 また、電話する、死なないようにしていろよ。」
『モッチロン、まだ、ヴィットとヤって無いもん。』
電話の終わり際、一応、彼女の心の『柔らかい』部分を切り裂くと承知で、蛇足として、
《イライザー》オルクス=ローゼンクランツのコトを伝える。
彼女には言っていないが、メローネは、その《イレイザー》が、彼女の息子だと言う事を知っている。
どうやら、随分昔のイザコザで、出来た子どもで、完全な人間のはずだ。
吸血鬼の息子が、人間と言うのもおかしいが、イザコザの産物だろう。
「さてと、サンドイッチで、朝ご飯の後は、寝ちゃおうかなァ。
 ああ、もう食パン、無いんだっけね、なら、オレンジもついでに買って来よ。
 ボスからは、任務も無いしねぇ?」
そう言いつつ、上着を羽織り、財布を掴むと、カフェと朝市にメローネは繰り出したのだった。
少なくとも、自分には、関われないのだ。
《パッショーネ》にいる以上は、動けない。
それなら、いっそ、いつも通りに、過ごそう、と思うのだった。








『書き殴り』でやらして頂いている連載のジョジョサイド。
該当部分は、一年以上前に投稿。
機会逃してました。



ゲームに関するバトン

2009-06-20 21:25:50 | バトン など

面白そうなので、拾いました。
『ゲームに関するバトン』です。


Q1 一番最初にした記憶のあるゲームは?
A1 スーパーマリオ(無印)か、ドラクエ3
  両方とも、ファミコン版

Q2 そのゲームはクリアしましたか?
A2 ファミコン版ではしてないです。
  スーファミ版でクリアです。

Q3 一番最近したゲームは?
A3 『牧場物語 風のバザールへようこそ』と『わがままファッション』
  後者は、半分、小説のオリキャラの服装のためです。

Q4 攻略本は最初から見る?見ない?
A4 場合によりけり。
  RPGの場合は、割に見る。
  シュミレーション系はあんまし見ない。

Q5 何系が好き?アクション?RPG?シュミレーション?
A5 アクションと付くの以外。
  強いて言えば、シュミュレーション系。
  特に、プリンセスメーカーとか、育て系が特に。

Q6 最高何周した事ある? そのゲームは?
A6 スーファミのそれで、ええと、十五週?
  エンディングフルコンプ出来てないです。

Q7 途中で止めたゲームある? そのゲームは?
A7 『FF』のDSのとか、『ブリーチ』のDSのとか。
  両方とも、アクションなのです。

Q8 持ってるゲーム機は?
A8 PS2、NDS。それ以外は使わないです。
  SFCとかWSとかあるけど。

Q9 持ってるソフト数は?
A9 PS2:23、NDS:15、SFC:26。
  自分で買ったり貰ったのは。
  あと家にあるのは妹が買ったもの。

Q10 今までやったゲーム数は?
A10 ・・・50は言っているはず。
  児童館で結構やってたし。

Q11 ゲームソフト、終わったら売っちゃう?とっとく?
A11 とっとく。
  涙も、笑顔も共にあった戦友なのです。

Q12 今までで一番好きだったゲームは?
A12 ドラクエシリーズ。
   その中でも、6と4が好きだ。

Q13 今までで一番苦戦したゲームは?
A13 『真・聖刻』ってゲーム。
   選択肢見つけるまで、ぐるぐる通算15時間。

Q14 今までで一番プレイ時間が長いゲームは?
A14 ポケモン。
  あの時は、相性関係なく、ジムリーダー戦でもお気に入りで挑んでましたしね。

Q15 ゲームを選ぶ時って、何で選ぶ?絵?シリーズ?他?
A15 基本、シリーズか、興味持ったら買う。
  ただし、デビルサバイバーだけは、ジャケ買いです。
  好きなイラストレーターさん。


Q16 一日で最高何時間ゲームした事ある?
A16 九時間?
  途中に、風呂と夕飯入りましたが。

Q17 最短クリア。やり込みクリア。やるならどっち?どっちも嫌?
A17 ゲームによりけり。
  推理系は、最短。
  RPGは、やり込み。でしょうか。

Q18 ゲームダコとかマメとか水ぶくれとか作った事ある?
A18 無い、筈。

Q19 ゲームで財布が寂しくなった事ある?
A19 ないです。
  無理の無い範囲でやります。

Q20 エンディングが何個かあるゲーム。全部見る?好きなのだけ見る?
A20 全部見たいので、がんばります。
  スチル埋まらない場合もありますけどね、全部見ても。

Q21 主人公の名前が変えられるゲーム、名前変える?変えない?
A21 変える。
  感情移入しにくいので。

Q22 コントローラー壊した事ある?
A22  ないです。

Q23 今、発売前のゲームで気になるのある?
A23 ドラクエ9とか?

Q24 まだまだ、ゲームをやり続ける?
A24 もちろん。

Q25 最後に、ゲーム好きッスかぁ!!?
A25 大好きです。

Q26 自分の周りのゲーム好きさんを4人ほど!!
A26 御好きな方、どうぞー。


でした。


Hello、PTOLEMAIOS? 7

2009-06-17 21:35:16 | ガンダムOO 二次創作


死んで欲しくない。
仲間が、死ぬのは、もう嫌。
それ以上でもそれ以下でもない。



Hello、PTOLEMAIOS? 7
         無くしたくなかった日々への憧憬



言い過ぎました、という気持ちは無いわけではないんですの。
それでも、言わなければ、いけないことなのですわ。
本心からそう思うことでしたから。
確かに、個人の技量は必要です。
たった、一機の力が、逆転を促すこともありますの。
先輩達のように。
だけど、彼らの場合は、長い間の熟練度があればこそのなのですわ。
知っています、機体や己の力を過信し、単独行動をとる恐ろしさを。
私達の優位条件は世界にガンダムを持っているのが、自分達だけということ、それだけです。
裏切者から情報が流れでもしたら、世界はガンダムだらけになってしまうということ。
リボンズ兄様が狙うのは、そのあたりでしょう。
拮抗した機体性能に、統率された訓練を受けた軍人。
そうなれば、数で劣るこちらに、勝利はなくなります。
あまりに、辛いことですわ。
あれだけの思いがあるからこそ、戦争根絶という苦行を為し遂げたいのに。
優しい人たちが、煩悶と絶望に沈むなどということはさせたくないのです。
私とて、終わらせたいことがあるのですから。
・・・私の生まれからすれば、狂気の沙汰でしょう。
イオリア計画を止めたいのですから。
・・・お祖母様の意図の元に。
「姉様?」
姉と慕うビアンカに、話し掛けるが、寝てしまっているようです。
先刻の模擬戦に疲れたのでしょうか。
その疲れが、関係ないはず私にも、感じられ、眩暈を覚えます。
ふらりと、壁にもたれかかり、目を閉じましたわ。
しばらく歩くと、壁に、昔馴染みのアレちゃんが凭れていました。
壁に片手をつき、唇の片端を吊り上げて、鋭いですが、目つきで私を見ています。
「よう、ネ-ヴェ。」
「ハレちゃん?
 貴殿(あなた)が出てくるなんて珍しいですわね。
 先刻の模擬戦の最中なら、まだしも。」
アレちゃんの中に、眠るもう1人の彼・ハレルヤ。
同じ超人機関の出身です。
姉様と同じく、実験の結果から産まれた人格だと聞きます。
ビアンカ姉様と違い、普段の生活に出てくることは大変珍しいことですわ。
ハレちゃんは、アレちゃんが忌避する『殺戮』を買って出る人格なのです。
正確には、違うのでしょうが、私が嫌いな殺人を好んでいる点では変わりありません。
私にとっての姉様のような立ち位置であったとしても。
先刻の模擬戦で姿を現さなかったので、訝しく思っていましたが、今出てくるなんて。
「模擬戦に貴殿が出てくると思っていました。」
「ああ、アレは、いいチャンスだったな。
 てめぇごと、ビアンカを殺す、絶好のな。
 だが、命のやりとりがメインじゃねぇのなら、興味はねぇ。
 てめぇの今の力量を知るために、アレルヤに花をもたせたんだよ。」
「・・何故、戦いますの?
 殺しに何故、悦楽を見出すのですか?」
「それもあるな。
 死ぬ時に聞く叫び声、殺した瞬間の達成感と俺自身が生きている事実。
 これ以上の楽しみなんざ、ねぇだろ?
 生きるために、何かを犠牲にするってのは、最高に人間してるだろ。」
「ハレちゃん・・・確かに、生きていることは、誰かを傷つけることですわ。
 ですが、楽しみを覚えることは・・・。」
それ以上いう資格は、生憎と私には無いということを嫌というほど知っていたから。
いうには、血にまみれすぎていたから。
生まれた時から、そうなのですから。
だけど、同時に知っていることもあります。
生きるということは、決して独りではできないことなのです。
人という存在が、当たり前のように昔から行なってきたこと思えば。
「アレルヤのヤツ、一人前に傷ついてたぜぇ?
 お前の言葉がぐっさり、刺さったんだろよ。
 ・・・お優しいのアレルヤにはいい薬だったって点じゃ、俺様も感謝してんだ。」
「・・・・・・言葉が足りなかったのでしょうね。
 仲間となるのですから、死ぬ為に戦って欲しくなかっただけですのに。」
「ああ?あに甘っちょろいこと言ってんだ。
 そもそもよ、死ぬ為にとかいつか罰を受けるためにとか考えるほうがどうかしてんだ。」
「・・・」
「ここが、掲げる戦争根絶からして、ここの奴らのエゴでしかねぇんだよ。
 自分のエゴで引き金を引くんだったらな、とことん自分の為だけに戦う。
 正義だの平和だの、そんなもんごまかしだ。」
「哀しいことを言わないで、ハレちゃん。
 優しい世界を望むのは、望んだのは・・・人間の永遠の願いですわ。」
誰かが他の誰かをほんの少しでも理解して、受け入れてくれれば、世界は変わって行くのです。
それだけ、哀しい擦れ違いが多いということなのですが。
一人一人が自分以外のことを少し考えられれば、世界から争いはなくなるはずなのでしょう。
それに、優しい世界というよりも、なんでもない普通の幸せのほうが、近いのかもしれません。
私達が望んでいる世界と言うのは。
なんでもない生活という、『平和』が崩されたからこそ、この組織に居るのでしょう、メンバ-は。
・・・兄を死なせたあの事件をトラウマに思っていようとも、私は、スメラギさんを許すことはないのですが。
それは、あの人も解っているのでしょう。
酒に逃げていても。
「言ってんじゃねぇよ!!」
「・・・つっ。」
狂気に染まった笑みを浮かべた彼の腕が私の肩を掴み、壁に叩きつけます。
力の加減など一切考えていない彼の行為に、私の息は詰まります。
超兵としての改造を受けてはいても、呼吸が出来ないぐらいの衝撃でした。
苦痛に顔を歪め、彼をゆっくりと視線で辿ります。
呼吸を静かに整えれない程度に、ダメ―ジがあることを自覚しながら。
「優しい世界だぁ?
 俺もお前も一番似合わねぇ世界じゃないか、なあ!?」
「・・・・・・・」
「勘違いすんじゃねぇぞ?
 俺もてめえも、ここの連中も全員だ。
 優しい世界なんかにゃ、生きられねぇのさ。
 俺達は皆、戦う為に生まれ、戦う為に生き、戦いしか知ることが出来ず、戦いの中で果てることしかできね生き物なんだよ。
ここの連中も、戦争撲滅を掲げた時点で、同じムジナの穴だ。」
すう、と右手の人差し指が、私の白い頬を撫でます。
いっそ、残酷なまでに優しく。
そこだけ切り取れば、どんな女性でも落ちるのではないかと思うほどに、優しく・・・そして、危険な香りをさせていました。
顔に掛かっている藍色の細い髪を指先で弄られると、私は眼をそっと伏せます。
返す言葉がないと言うのもありますが、怖かったからです。
「本能に準じろって言っただろうが。
 戦いと殺戮には抗えないんだよ、人間ってのは。
 特に、俺やお前みたいな脳味噌も身体も弄くられたバケモンはそうなんだよ。」
「・・・違いますわ、わたくしは・・・争いが、大嫌いですっ。」
「なら、どうして戦うことを選んだ?
 本来なら入る必要がねぇっていうお前が、なんで戦う為にここに入ってんだ?」
「な、流れが来たのでしたら、わたくし達は、組み込まれなくては行けないのですわ。
・・・それに・・・わたくしは・・・わたくしは、誰かが傷付くのが、嫌ですから。」
「嘘だな、てめえは求めてんだよ。
 戦いを戦場をな!!だから、戦うことを選んだんだろ。」
「・・・イヤ、わたくしは・・・。」
顔の前で、拒絶の意味をこめ、片腕を斜めに掲げます。
多分、私は蒼白になっているのでしょう。
ハレルヤは、くっくっと愉しげにのどを鳴らすと唇を私の米神に寄せました。
ある意味で、私が、血よりも色濃く、押し付けられたその意図を知るかのような、言葉を告げるために。
「戦うことしか知らねぇ奴は、根っからの殺戮主義者なんだよ。」
「・・・・・・・!!」
菫色の瞳を思い切り見開き、硬直してしまう私。
ハレルヤは、その放心したわたくしをとても満足そうに、眺めると肩をぽんと叩きます。
親しげに、或いは、同じ場所に来たことを歓迎するかのように。
それでも、私は、何よりも認めていても、認めたくないのです。
認めれば、それは、人間であることを、あの日々を捨てることなのですから。
だけれど、殺戮(それ)を持って、計画を成すのが、マイスタ-タイプの・・・。
「その方が、よほどいい女に見えるぜ、ネ-ヴェ。」
動けません。
答えられないのです。
前が、見えないのです。
人形が、その役を抜けて、何かをしたいというのは、おもあがりなのでしょうか?
平和を何よりも願っていたカ-ト達を信じて、大切な二人やそれ以外の友人を守りたいから、失いたくないから、戦ってきました。
だけど、それさえも、自分を誤魔化す為の建前だったのでしょうか。
本当は、ハレルヤの言うとおり、本当は争いと殺戮を望んでいたのでしょうか。
わかりません。
『実験動物のバケモンの癖に』
「・・・・・・・っ!!」
両耳をふさいでも、響く声は過去からの解答だとでも言うのでしょうか。
決して逃れ得ないそんな勧告にすら聞こえます。
その間に、ハレちゃんは、立ち去ったようでした。
しばらく、立ち尽くすことしか出来なかった私に声をかける人が。
「おい、どうかしたのか・・・えっと、ネ-ヴェ。」
優しい声に振り向けば、そこにはロックオンさんがいました。
いつの間にか、私は泣いています・・・。
そんな肩を抱く彼に、亡き兄を重ねながら。




招かれて入るロックオンさんの部屋は、自分と姉様の部屋と基本的に、同じ造りなのに、何処か違う気がいたしました。
落ち着いた独特の空気。
恐らくは、彼だけが持つものだと思います。
暗くは無く、むしろ、陽気なそんな静謐さが満ちていましたわ。
一見矛盾しているようで、でも、彼の特有の気配。
ロックオン・ストラトス。
いえ、ニ-ル・ディランディ。
普通のなんでも幸せを知っているからでしょうか。
彼は、ともかく、他人への対応が上手いのです。
気遣いがこまやかで、機微に鋭くて。
私のように、極度の人見知りでも、とりあえず接することが出来て。
あの稼業を過ごしても、無くならなかった温もり・・・。
それが、泣いていた顔を見られても、同じ部屋に居ることが出来ます。
「落ち着いたか?」
白いカップを手渡されます。
暖かい飲み物のようで、それで指先を温めます。
稀有、でしょう。
あの稼業を過ごせば、闇を見て、染まり、失う温もりですから。
まだ、落ち着いてはいませんが、ゆっくりと息を吐いて、精一杯落ち着いて聞こえるように、言葉を紡ぎます。
「ご迷惑をおかけして申し訳ございませんわ。
 ロックオンさん・・・もう大丈夫です。」
「生憎と、俺の辞書には、『女性の平気は信じるな』ってのがあるんでね。
 ・・・抱え込むもんじゃねぇぜ、泣くほどのことならな。」
「ごめんなさい、ロックオンさん。
 わたくしは、『自身の苦しみ哀しみを、他人に押し付ける』ということはできませんの。
 ・・・その、あの、気遣いはとても嬉しいのですけれど、今度は貴殿(あなた)が何も言えなくなってしまいますわ。」
ロックオンさんは、あの頃と変わらず、優しい人だと私は感じました。
誰かの痛みを知るということは、確実にその誰かを救います。
だけど、その痛みを理解してしまう人は、確実に、元々痛みを持ってしまっている人なのです
誰かの痛みを背負うというのは、同時に自分の弱さを吐き出せなくなってしまうことなのだと思います。
兄達がそうだったように。
何でも相談できる人が、誰かに相談するところを見ないように。
私は知ってしまっていますわ。
そう言う人こそが、誰よりも、辛く苦しい想いを抱えていることを。
だから、何も言わないのです。
この痛みも、苦しみも、全て胸にしまって生きていこうと思います。
幾つかの始まりを背負ってしまったという以上に、誰かに、知ってもらおうとしても、理解してもらえないのを私は知っていましたから。
「馬鹿なことを言うな。」
「・・・ふえ?」
大きな手の平が、私の頭の天辺にのせられ、ぐりぐりと揺さぶられます。
女性と言うよりは、女の子に、それも小さな子どもにやるようなそんな撫で方。
荒くも優しく、そして、懐かしい感覚に、泣いてしまいそうになります。
昔、カ-ト兄様達がしてくれていたような、そんな感触に。
今は、無くしてしまったそんな温もりを思い出して、尚更に。
私は堪えて、少し困ったように、立ったままのロックオンさんを見上げます。
「聖の言葉を信じるなら、だが、まだがきんちょがいっちょまえに背伸びするなって。
 刹那とお前さんは、さほど変わらないんだろう?
頼れよ、仲間だろうが、俺達は。」
「・・・わ、わたくし・・・先程・・・酷いことを言いましたのに。」
「確かに、あれは効いた効いた。だけど、それは今の俺達の弱さだ。
 他の奴らがどう思ったのかは知らんが、少なくとも、お前の変わらない優しさに思えたぞ。」
笑みの仮面に全てを隠して、当り障りなく接することはできますわ。
だけれど、その生き方はとても寂しいと思います。
ロックオンさんの言葉に、私の眼からまた、涙が零れます。
大切なことは、誰の為を思うからこそ、言えるということを思い出させてくれたからでも在りました。
それが、耳障りであったとしても。
しかし、予想外ですが、ニクスと私が同じだということを気付かれてしまいました。
「お前らは強いな、ネ-ヴェ
 俺達は、まだ弱くてお前らの目には頼りなく見えっかもしれねぇけど、これからもよろしく頼む。」
「・・・・・・優しすぎますわ。
 優しすぎるぐらいに優しすぎますわ、ロックオンさんは。」
「別に、優しいわけじゃないさ。
 ただ、お前さんらより少しだけ周りが見えるだけだ。」
その言葉に、止まりかけていた涙が溢れて、私の頬を濡らします。
少しづつ、視界が広くなれば、見たくないものまで、見えてしまいます。
逃げられない物で、それが年を正常にとるということなのでしょう。
それは、きっと、わたくしが、得ることが難しいと感じているものだからなのでしょう。
≪ヴェ-ダ≫の意図で、半分生み出された以上は。
だけれども、そういう心を得たいと思ってしまうのです。
「・・・ロックオンさん。」
「どうした?」
「・・・・・・・わたくし達は、戦闘を楽しんでいましたか?」
涙をろくに拭わずに、問うたのは、私やビアンカ姉様が、『戦闘狂であるか?』ということ。
少なくとも、今の泣きはらした私がするには、場違いなほどにそぐわない質問だろうとは想います。
まだ、『私は人間ですか?』と聞いたほうが、よほど似合うでしょう。
わたくしの真剣な眼差しに応えたのか、ロックオンさんは、その顔から微笑を消します。
そして、部屋に据え付けの端末のモニタ‐のスイッチを入れます。
「見えるか?
 これが、2306年現在の世界情勢。
 それから、国家間の力関係だ。」
片手だけで、器用に操作し世界地図を出します。
右上に、最近の紛争の映像。
世界地図は、ユニオン、AEU、人類革新連盟、そして、アザスティンなどの中東諸国。
ほぼ、前者の三国家群で成り立ってしまう世界です。
ミスタ・シュヘンベルグが、そうなるようにと仕向けたと言い換えても、間違いではないのでしょう。
あの人のMSや太陽光発電の基礎理論がなければ、こうはならなかったでしょうから。
白い空白が何処か物悲しかったです。
どこにも入れないのに、何処かへ入らなきゃいけないこどものように見えて。
「今日も、明日も、どっかで紛争がおきて、誰かが誰かを殺し、誰かが死ぬ。
 これが、イオリアの爺さんが死んで、200年経とうと変わらない現実だ。
 お前は、これをどう思う?」
「・・・?」
「テロとか、殺人、宗教戦争。
 それに、心惹かれるか?
 同じことをやりたいと想うか?」
「いえ、思えません。
 ・・・少なくとも、仕事以外では。
 こんな哀しいことは、終わらせたいと、願ってしまいますわ。」
私は、情報屋とは言え、裏稼業のトップクラスです。
傲慢でなく、自負として、そう思います。
普通は、ありえないように、情報屋でありながら、私は、血で染まっているのです。
「俺もだ。
 これ以上、誰かが紛争なんかで哀しむ世界にしていたくないから、俺達は戦争根絶を目指して闘うことにしたんだ。」
思い出します。
あの灰色の研究所で、消えていった弟妹・・・いえ、息子娘達を。
思い出します。
あの曇天の下で、紅蓮に染まり、燃え尽きていった街を。
思い出します。
私が、放った銃弾で、夥しく流れ地面を濡らした赤を。
あの時々、叫び、嘆き、流した涙。
あの頃から、夢のように、御伽噺のように願ってしまっている。
叶うことは、人形の箱庭を作ることに等しいのに、それでも・・・。
「俺は、ネ-ヴェやビアンカが戦いを楽しんでいる様には見えん。
 見えんが、しがみついているようには思った。」
「・・・そうですか?」
「ああ、しがみついてるってか・・・そうだな、執着、執着だ。
 闘わなきゃダメだってそんなふうにな。」
「・・・だって・・・・・・だって、兵器は闘うものでしょう?」
頭を思い切り殴られたような鈍い感覚。
ロックオンさんの言葉に、私は意識せずその言葉を出してしまいました。
・・・この十年間忘れようとしていた。
今から、五年前に逃げたあの場所のことを。
本当なら、私は今、二十歳で、その十五年前に奪われた一つの形。
この身体を作った父と母は、そういう研究者だった。
だけど、あの人の『記憶』のクロ‐ンとして生まれ私を愛してくれました。
そのせいで、死んで・・・殺されてしまいました。
その後の十年間は、実験動物でしかありませんでした。
彼らの目指す目的の為の。
その内に、超人機関が設立されてしまいました。
アレちゃんやマリ-さん達を、・・・弟妹たちを巻き込んでしまいました。
レナ‐ドもその一人です。
姉様が生まれてしまったのも、私の能力の制御の為で。
カ-ト兄様や、シド兄様に会えて忘れようとしてしまっていました。
「・・・つかえないどうぐは・・・こわされるべきでしょう?
 たたかえないへいきは・・・しななきゃいけないんだもん。」
「・・・ネ‐ヴェ?」
「か-とにいさまとしどにいさまと・・・やくそくしたもん。
 ・・・ちゃんと・・・するって、だからたたかうんだもん。」
「・・・ネ‐ヴェ!!
 お前は人間だ。
 そんなに優しい穏やかなことで悩めるヤツが、兵器なはずがあるか。」
「・・・・・・」
結局、思い切り、私は泣きました。
そのお互いの外見を後々考えると赤面して、転げまわりたいぐらいに恥かしかったのですが。
ロックオンさんに、すがり付いて泣きました。
ええと、その、勢いでと、思い浮かべてしまっていたせいで、カ-ト兄様と、ロックオンさんのことを呼んでしまいました
その後、落ち着きを取り戻した私に、気になっていたのでしょうか。
「それ、タグとピアスだよな?」
胸から下がるへこみのあるドックタグと、私の耳にあるピアスを刺して、そう言いました。
苦笑しながら、私は、ピアスのある右耳にかかる髪を掻き揚げます。
片方だけのピアスは、銀に十字架を掘り込み、赤い塗料を流し込んだカフスタイプのもの。
もう片方は、シド兄様の肉体と一緒に消えたものです。
きらきらと、変わらずに輝きます。
タグも、赤茶けていない部分は昔のように。
「・・・兄達のか?」
神妙な顔で問い掛けてくるロックオンさん。
言わなくとも、亡き者を悼むものであることを理解したのでしょう。
実際にそうなのです。
「・・・そう、なりますわ。
 2人の義兄のモノになりますの。」
「・・・・・・テロでか?」
「はい、カ-ト兄様はそうですわ。
 シド兄様は、MSの事故で、殺されました。」
「殺された?」
「・・・とある軍の作戦で、故意に引き起こされた情報錯綜で。」
「そうか。」
「・・・遺品は、全て二人の故郷に返しましたわ。
 わたくしには、これらがあれば充分なのです。
 ・・・これがあれば、わたくしはどのような戦場にいても、彼らと在る事ができますわ。」
ロックオンには、その表情が充分に満たされているとは到底思えなかった。
未だに遠い過去に彷徨っているそれに見えた。
決して、癒えぬ傷を持つのはロックオンとて同じだ。
意外、それでも、ちゃんと今も思えるのは、幸せなのだろうと、思う。
しばらく、沈黙が場を支配する。
それを打ち破る為ではないけれど、ネ-ヴェはもじもじと恥かしそうにこういって来た。
どうでもいいが、ロックオンには、ここ十日接してきたビアンカと違いすぎていてどうにもやりづらく感じていた。
ビアンカは、同性として接しても、違和感の無いというか、そうする方が気が楽な人だった。
ネ‐ヴェは、トレミ‐クル‐の女性ともまたタイプの違う小動物というか、可憐な少女な中身なわけで。
そういう中身かつ、今聞いた話で、そう言われて、返答に困った。
「・・・・・・ロックオンさん、これから、兄様と呼んではダメですか?」
「はい?」
理由を聞くと、カ‐ティスから、昔こう言われたそうだ。
曰く、『仲良くしたいな-と思う、年上の人がいたら、兄様って呼ぶと、イチコロだぜ?』と。
ロックオンは、そこから、必死で、二人だけの時にと約束を取り付けたという。
そのカ‐ティスというマイスタ‐が言ったのは、この子に手を出す男性の牽制なのだろうということを彼は気付いていた。





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とりあえず、一区切りです。
一応、Intermissionが後、一話ありますが。
時間軸がかなり飛びますんで、とりあえず、一区切りです。
本編ネタや、本編パラレルなんかをやっていきますです。

当座、というか、次回とその次回は、00は00でも、OOPのお話更新に行きます。
とりあえず、父の日イベ話(になってなさげな話)をアップして、尚且つ、昔答えた「死神5題」のOOPとOOFの混合で一回分、OOで一回分、計10本書きたいなぁと。
アップするのは、たぶん、一本で、『03 つまらない感情』になる思うです。


ともあれ、今回の話しですが。
ちょっと、私のハレルヤ観よりも、やや一般的な彼です。
サドというか、女性だから、優しくすることはないという思考は原作の、ソ-マとの関係でも、立証済みなわけです。
ですけど、二重人格として云々をいれて、私が持つハレルヤ観は、根底はアレルヤと同じなのかなぁと、ばりばりに、書きたい話で、それを書いていきます。
1stの原作はさほど、変えないと言いましたが、考察を元に、書きます。



そして、ロックオン兄貴。
ごめんなさい、最後の方。
やっぱり、貴方は苦労人が似合います。
後、基本的に、恋愛感情云々は、ネ‐ヴェ&ブランカは、かなり鈍いです。
それこそ、告白されて、キスでもされないと、気付きません。
ある意味は、ブレ‐キをかけているんじゃないか?と友人に指摘されましたが。
ともあれ、今の・・・本格武力介入開始一年前の時点では、ロックオンを兄様と呼ぶ、ネ-ヴェです。


では、次で。



                (10年3月某日改稿)