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セピア色の想い出。

日々の生活と、其処から生まれる物語の布飾り。

機械仕掛けの神はただ、嗤う

2010-01-26 00:21:33 | ガンダム種シリ―ズ+外伝
とある共同ドックにて。
同じドックコンテナの隣り合ったハンガ―で、劾とセインはいた。
鷹無芙蓉と、傭兵や裏稼業間で呼ばれる少女に見えるセインは、劾と並びの壁際の椅子で舟をこいでいる。
とある依頼にて、共同の形をとることになり、その開始前最後の整備が終わったところ。



機械仕掛けの神はただ、嗤う



「・・・母さん(マドレ)・セイン、寝てしまっていますか。」
飲み物を買ってきたのだろう。
芙蓉よりも濃くとも、同じ白から桃色に移り変わるグラデ髪の十代半ばぐらいの少年。
血色が良くなく、髪を除けば、「青い」印象で、着ているのは、改造した連合の制服だった。
色は、リ-ダ-役に合わせてか、暗い灰色で喪服的である。
そして、何故か、劾の胸中に、『懐かしさ』と『苦さ』の両方の感情が浮かんでくる。
今回の依頼で、初めて顔を合わせたこの少年に。
「お前は、芙蓉のチ-ムか?」
「・・・そう、なりますね。
 俺は、チ-ムでは無いですけれどね、母さん(マドレ)だから着いていっていますし。
 今回は、兄弟(エルマナノス)の為ですから。」
今回の依頼に、ほとんど、とある女ジャンク屋と弟以外の協力者を使わなかった芙蓉が、一人増えるからと断っていた。
そして、この少年がそうだろうと思い、劾は声をかける。
芙蓉の偽名のうちのセインを知っているのだから。
表情筋が弱いのか、感情に乏しいのか、それはわからないが、言葉は満面の笑みなのに、顔は微笑むだけの少年。
「それで、貴方は誰ですか?
 俺は、テ・・・いえ、ディエス・アリアドです。」
「サ―ペントテ-ルの叢雲劾だ。」
「貴方が・・・叢雲劾さん?
 ・・・母さん(マドレ)・セインの言うとおりです。」
積み上げられた箱のうえに、その飲み物のカップを置き、少年-ディエスは、劾に名前を聞いてくる。
名乗ると、噛み締めるように、繰り返す。
そして、劾に半ば突進するように、抱きついた。
「劾の兄ちゃん、会いたかったです!!」
「・・・は?」
突然のことに、劾と言えど、硬直する。
身長差はおよそ、10センチほどなのとディエスはかなり細身なので、ハタから見ればラブシ-ンのようにも見える。
それは、さておき、劾の反応に、ディエスは、ごしょごしょと、耳打ちする。
自分が、劾と同じく、連合に作られた戦闘用コ-ディネ―タ―であることを。
製作時期がずれていても、それは、ある意味で兄弟と言えるだろう。
連合が戦力となり、従順な奴隷の駒になるはずだったと言えば。
「・・・確かに、兄弟と言えなくも無い。」
「兄弟だと思います。
 ・・・計画違い、ですから、従兄のほうが近いんでしょうけど。」
ごろごろと、ネコがじゃれつくように、劾に甘えているディエス。
劾は、自分らしくないと思いつつも、抱き返すことこそしなかったものの、背中をぽんぽんとやる。
「劾に何やってる、お前!!」
「ただいま、言われたの買ってきたよ。
・・・って、あなた誰?」
劾のおつかいだろうか、それを済ませてきたイライジャと風花。
少々叩きつけるようにイライジャが。
ただ、聞くだけのように、風花が。
それぞれ、誰何する。
「ディエス・アリアド。
 今回、母さん(マドレ)・セイン側のメンバ―です。
 傭兵(メルセナリオ)イライジャ、お嬢さん(セニョリ-タ)・風花。」
『・・・騒ぎ起こすなって言ったんだけど。
 まだ、結構、ホットだけど、ルピナスの為だからって、押し通したの貴方。』
「あ、母さん(マドレ)セイン。」
『言うことは、ディエス。
 ・・・後、母さん呼ばないでって言ったわよ。』
この騒ぎに目を覚ましたのか、起き抜け特有の気だるげな様子で、芙蓉は言う。
懐かれて悪い気はしないのだろうが、それでも、『母』と呼ばれるのは勘弁したいのだろう。
劾に、ディエスが抱きついたまま、会話は進む。
「・・・あの件か?」
『そうなるわ・・・まぁ、保護したのは、地上でだけどね。』
「兄弟(エルマノス)ルピナスも一緒でした。」
「無茶は無茶だと思っては居たが、悪名を増やす仕事をよく受けれるな。」
『・・・甘いだけよ。
拾える命なら、拾うだけ・・・どんな命でも生きたいと思えば、手を差し伸べるものじゃないかしら?』
「・・・それは、優しいというと思うが?」
『ありがと、劾。』
お互い、劾の事情を知っていることを知っている劾と芙蓉は、ディエスのことも含め、2人だけで、通じ合う。
それを、抱きついたまま、見ていたディエスは、ぽつりと一言。
いや、ぽつりと爆弾投下した。
「劾の兄ちゃん、そうやってると、母さん(マドレ)セインと夫婦(パレハ)みたいですね。」
『ぇう?』
「パレハって、何、劾?」
「スペイン語で、夫婦だな。」
『・・・ディエス、後から、お説教ね。』
「え、母さん(マドレ)セイン、しどい!!」
と、そんなこんなで、依頼に突入した。
途中、誤射に見せかけた、イライジャからディエスへの攻撃があったりしたが、概ね何も無かった。
そして、依頼後の依頼人への説明の後、渡された報酬は、劾達と芙蓉達では違っていた。
劾達は、現金のみ。
芙蓉達は、劾達の半分ほどの現金と一抱えほどの白い包みであった。






そして、劾は、個人としても、サ―ペントテ-ルとしても、仕事が入ってなかったのか、ディオギア郊外の芙蓉の屋敷にきていた。
ディエスのことを聞く為だ。
小さな森のほど広い敷地に伸びる道とその中央にある屋敷。
エントランスを挟んで、真正面から裏まで部屋挟んで通り抜けれる中庭があり、その両脇に、部屋がある構造。
真裏で繋がっていて・・・そうHを縦に幾つかくっつけたようなそんな構造をしている。
その玄関から向かって右にある居間部分に通された。
『ディエス、これと、いつものヤツをルピナスにお願いね。』
「解かりました、えっと、あれも加えますか?」
『・・・そうね、お願い。』
すぐに、芙蓉は、ディエスにそんな指示を出す。
それに対し、打ち合わせしてあったのか、確認すると、ディエスも別室へ行く。
向かった先が、奥のほうであるしその薬が必要な人物がいるのは、寝室なのだろうか。
芙蓉も、コ-ヒ-でも入れてくるわ、と断り、台所へと消える。
そして、劾は、通された居間をさっと見回す。
天井と床は、黒、壁は白。
家具も、基本的に、金属製で銀色をしているか、モノクロでまとめられている。
何処か、硬質ながらも温もりあるそんな居間だ。
それを見て、劾は思考する。
芙蓉・・・通称・鷹無芙蓉は、『情報屋』兼『傭兵』というイリ-ガルな世界でも、稀有と言うか異端な人物だ。
そのどちらも、一流の上に『超』をつけても遜色の無い。
むしろ、彼女より腕利きを見つけろ、という方が難しいだろう。
少なくとも、単独でという条件なら、MSやMAの扱いでは、自分でも機体相性次第では結果はわからないだろう。
他にも、『ホリィ・ロ-タス』として、プラントの要人と知り合いであったり、『セイン・エステ-ト』として、劾がアストレイブル-フレ―ムと出会った時は、そのヘリオポリスで学生をしていたり、と謎が多い。
しかし、サ―ペントテ-ル以上に、彼女を快く思わない傭兵が多いのに、襲撃される回数は少ない。
それは、二十年程前まで本格的にやっていた宙賊関係での仲間が、この近くに街を作り、にらみを効かせているからだと聞く。
5年近く前に、自分を拾った時に、そんな話をしていたし、彼女の弟であるセ-ヤもそう話していた。
『・・・遅くなったわね。
 砂糖と、ミルクはいる?』
コ-ヒ-と焼きたてのパウンドケ―キをお盆に載せている。
お湯を沸かしている間に、着替えたのだろう。
仕事中のシンプルなゴスロリよりも更にシンプルな黒いワンピ-ス姿の芙蓉。
装飾は、襟元の白いレ―スとリボンと腰部分のプリ―ツぐらいなハイネックの喪服だ。
「甘い物は・・・」
『大丈夫よ・・・、これは、甘くないヤツ。
 ピスタチオとクリ-ムチ-ズの・・・ルピナスが、甘いのさほど好きじゃないみたいだから。』
そんな風に言いながら、芙蓉は笑う。
寂しげ、でもあり、哀しげでもある。
少なくとも、笑顔から連想される嬉しそうなどというのは遠い。
「・・・それで、あいつは何だ?」
『・・・聞いていると思うけれど、貴方と同じ。
 最近、実装予定だったシリ―ズのよ。」
「実装予定だった?」
『そう、予定だった。
 キラ・ヤマトの名前は知っている?』
「AAに乗っている民間人でGシリ―ズ、ストライクのパイロットだったか?」
『そう、そのヤマトくん。
今は、壊れかけているみたいだけれど。
もうすぐ、もっと壊れるような出来事があるわね。』
「・・・」
『知り合いだったの。
 ・・・セイン=エステ-トとしては、とっても好きだった。
 バレンタインに、義理でも少し他の人と違うのをあげたりするぐらいにはね。』
劾の無言の指摘に、苦笑混じりに、芙蓉は・・・いや、セインとして芙蓉はいう。
哀しげで、もう戻れないあの頃をどこまでも懐かしむような老婆のようだ。
あえて、『セイン=エステ-トとして』と断っているのは、ニセモノでも、キモチは、『セイン』としては本物だったということなのだろうか。
一つ、息をついて、芙蓉は再び、語る。
『・・・彼が、今、オ―ブで開発しているナチュラル用のOS。
 Gシリ―ズに使用されているOSの改良系ね。
 そのせいで、まだ、実験段階だったナチュラルの強化タイプ。
 ・・・生体CPUね、それの現行タイプの実装が決まった。
 配備され始めていたその戦闘用コ-ディネ―タ―・・・ソキウスがいたのよ。
 順次、その前のソキウスは廃棄される予定・・・になっていると聞くけど。
 ・・・あの子ともう一人は違うわ。』
「ルピナスと言うヤツか?」
『そう。』
「・・・クロ―ンか?」
『・・・っ。』
半ば、関係のない言葉を連ねる芙蓉。
しかし、劾には無用の駆け引きであったようで。
もう一人の・・・ルピナスのことを見抜かれたようだ。
思わず、言葉を失う。
それでも、苦笑して、芙蓉は言葉を継ぐ。
どこまでも、その様相は、年上の女性のそれで、十代前半のその容貌には似合わないはずなのに、不思議と違和感は無かった。
『・・・そうよ。
 ルピナスは、クロ―ン。
 貴方のことだから、誰のクロ―ンか見当ついてるでしょ?
 ドレッドノ-トを知っている貴方なら。』
「・・・ドラグ―ン、空間認識能力か。」
『正解。
 あれは遺伝する・・・あの家系で実証済みだから。』
「・・・・・・」
『怖い顔しない、殺気出さない。
 あの子、神経細いというか、同じ屋敷で殺気出されただけで、数日は寝込むんだから。』
「・・・・・・わかった。
しかし、大丈夫なのか?」
『何が?』
「そのルピナスが、だ。」
『・・・良くないわ。』
劾の問いかけに、言いにくそうに、しかし、はっきりと、芙蓉は解答する。
即ち、彼がもうすぐやってくる夏を越すことが難しいということを。
つまりは、長くはないと言うこと。
「・・・」
『それで、知り合いの紹介で、下請けに遺伝子工学研究所を持っているあの会社の依頼受けたの。』
「テロメア剤の延長か?」
『そう、ね。
 雰囲気はそんな感じで、オ-ダ―メイドで。
 ・・・漢方の方式で、ケミカルの効果って所よ。』
「正規ではないな。」
『常識と言うよりも、ウィア-ドな技術よ。』
それ以上聞いたら、貴方でもただじゃ済まさないわ、とでも言うように言葉を切る。
劾は、もちろん、この業界で、数年を過ごしているのだ、それ以上は聞かない。
必要以上の情報を聞かないことも、傭兵や情報屋として長生きするコツだ。
「・・・お客さま、セイン?」
『ルピナス、寝てなくて・・・というか、ディエスがそっち向かったはずなんだけど?』
その時、癖のある金髪と空色の蒼い瞳の十代後半の少年と青年との端境の男の子が、入ってきた。
体調を崩している訳ではなさそうなのだが、顔色がやや悪い。
そして、連合の仕事も受ける劾には、その顔が、誰か解かった。
約一年前の開戦当初、グリマルディ戦役にて、華々しい戦果をあげ、一人帰還したあの大尉によく似ていた。
少なくとも、血の繋がりを否定する要素を探す方が難しい。
劾を見た彼・・・ルピナスは、自分が出てきてはいけない相手-芙蓉の弟や知り合いだと出てもいい-のだと悟り、踵を返す。
『ルピナス!!大丈夫、劾は仕事仲間だから・・・。
 それより、ちゃんと挨拶。』
芙蓉が呼び止めて、しぶりながらも彼は戻ってきて、彼女の後ろに立つ。
その一連の動きが、どうも、外見の長身さ・・・劾は大体、180センチだ。
・・・彼はおそらく、それに五センチも低くない。
ないはずなのに、どうしても、動作のせいか、か弱さというか儚さがどうしても先立つ。
「ルピナス・ソリタリオ。
 セインにつけてもらった名前だ。
 ・・・それに、貴方も、私と?」
「・・・そうだ。」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
『・・・・2人で分かり合うのは、私も意味解かるからいいとして・・・無言で会話しない。
 というか、無言で、見つめ・・・』
「母さん(マドレ)セイン、兄弟(エルマノス)ルピナスが・・・。
 あ-、ルピナス、何見詰め合ってるんですか、劾の兄ちゃんと!!」
「いや、その、そうじゃない、ディエス。」
同じ組織に生み出されたということを確認した後、ルピナスと劾は、視線を合わせたまま、言葉を無くす。
ルピナスは言葉にしたいことが多すぎて、劾は反応を待って、言葉がない。
理由はわかっているが、男同士で見つめ合われては少々気まずい芙蓉。
そこへ、ルピナス探して三千里・・・もとい、彼を探して、屋敷をうろうろしていたディエス。
最後に、だろう、この居間に来て見たのが、熱く(ディエス視点)見詰め合う2人で。
ディエスが思わず制止の声をいれる。
わたわたと、慌てるへタレ系兄貴・・・もとい、ルピナス。
製造年齢からすれば、一応、辛うじてディエスが上なのだが、外見年齢と落ち着いた雰囲気からか、ルピナスが年上に見えるのだ。
「・・・いいわね、本当の兄弟みたい。」
劾も巻き込んだ三人のやりとりを見て、芙蓉は、少々羨ましげに呟いた。
思わず、ぽつりと、珍しく、肉声で。
血縁ではない。
肌の色も、黄色、白、蒼白と、それぞれ違う。
似ているパ-ツは、無いに等しい。
だけれど、兄弟だと、芙蓉は思う。
連邦の、ブル-コスモスの意図の元で生まれようとも、どうしようもなく、兄弟だと思う。




その後、六時を柱時計が告げるまで、芙蓉はその光景を見ていた。
正確には、それまで、ついつい、見惚れてしまったと言う所だろう。
見れるはずも無い、一幕の一つだったからだ。
とてもとても、懐かしそうに、彼らに、自分と弟、死んだラファエルを当て嵌めて見ているかのように、優しいまなざしだった。
その後、少々渋る劾を押し切り、彼が泊まっていく事を決め、一時間。
食堂にて、四人は食卓を囲んでいた。
オ―ブ的なチキンカレ―(といいつつ、海老が入っていたりするが)と、チ―ズささみカツ。
マカロニとツナのものと二色のアスパラガスのもののキッシュとグリ-ンサラダ。
元々、ルピナスが、帰ってくる芙蓉とディエスの為に、用意していたものに、手を加えたものだ。
生来の機能なのか、ディエスだけがそうなのかは、芙蓉は知らないが、元々、軽く三人前を食べるディエス。
なので、キッシュを少々多めに作るだけで済んだ。
キッシュの生地を、パセリを混ぜたものにしたり、ミックスペッパ-、シ-ドミックス、乾燥トマトとバジルをそれぞれ混ぜたもの、プレ―ンなものにしたりとバラエティだ。
乾燥トマトとバジルとプレ―ン以外のは、暇な時に大量に作って冷凍しておくそうだ。
手間のかかる小さなサイズなあたり、本当に暇つぶしの産物なのだろう。
ディエスが言うには、パイ生地とクッキ-生地も冷凍して、ある程度作ってあるそうだ。
夕食は、歓談を交え、静々と終る。
まぁ、劾も、ディエス同様に、カレ―にソ-ス派ということに、ルピナスが驚くシ-ンがあったりはしたが。
客室として、掃除はしてある部屋に、劾を案内する。
そして、シャワ-も浴び、寝ようか、という段階になって、ノックされる。
返答する前に、芙蓉が入ってきた。
グラスとク-ラ-、何種類かのツマミを持って。
「・・・話しておきたことがある。」
この時、劾は数年ぶりに、意識的に彼女の肉声を聞いた。
――『無駄に害したくない』という彼女の意思を知っている。
今の声とて、囁くような微かなものだ。
無言で、この部屋の応接セットに彼女は劾を誘う。
「なんだ?」
「・・・今、オ―ブで、ア―クエンジェルの修理を行なわれているのは知っているわね?」
「ああ、そのせいで、未だ未完成の生体CPUが実践配備されることになったと聞いたが?
夕方、お前自身も話していた。」
「うん。
 ・・・ねぇ、劾、作られた者が・・・運命を自分で選ぼうとするのは間違っていると思う?
 強要されて、それしか無くても、反抗した末で、それを選びたいと思うのは。」
いつもの会話と同じく滑らかな言葉であったが、その声には、哀しいまでの静けさが混ざっていた。
しかし、その言葉は外見に比しても、更に幼子のようなそんな響きが混じる。
何かを知ってしまったが故のそんな響きである。
強すぎる力故に、存在故に、動けないのだろう。
「・・・何故、俺に聞く。」
「劾が関わるから。
 これから、関わってしまうから、聞いたの。
 ・・・貴方は、『自分』を見つけたわ。」
会話の間に、テ-ブル持ってきたものをおき、グラスにストレ-トのウィスキ-を注ぎ、一息で飲む芙蓉。
少なくとも、小腹が空いた状況であっても、ストレ-トで飲むには、ウィスキ-はキツい。
されとて、シラフで語るには、重いのだろう。
空にしたグラスを、トンとテ-ブルと置いてから、芙蓉は言葉を紡ぐ。
劾が、返答しないことを・・・沈黙を持って先を示したから。
「・・・トウェンティ、ディエスに習うなら、ベインテになるかな。
 その子と接触できたの、・・・結局は彼は助からなかった。
だけど、ソキウスシリ―ズで新しい子だったから色々わかったの。
 あのシリ―ズも連合としては、ある種の完成品ながら、試作品でね。
 強力な心理コントロ-ルではあるけれど、個体ごとに微妙にその強さ、とでもいうのかしらね。
 それが、違うことがわかったの。
 ディエスの時に、わかっていれば、まだやりようもあったのだけどね。」
悔恨を過分に交えながらも、感情を押さえるように、芙蓉は語る。
だけれど、ひとつまみの塩が、料理を引き立てるように。
その声音に僅かに滲む悲哀が、その意味を濃くする。
どうしようもない理(ことわり)に、そう、運命とでも言うべきものに、徹底的に叩きのめされ尽くした者しか持ちえぬ声音だった。
「それが、どうして俺に話すことになる?」
「理由はいえない。」
「・・・言葉にして、確定するのが怖い、だったか?」
「・・・・・・わかっていて、言葉にするのは、悪い癖だよ、劾。
 ともかく、今、私が言えるのは、そうだね。
 哀しい鎖から、解放してあげて欲しい、ということぐらいだ。」
微笑みすらも、淡く淡く、溶け消えてしまいそうで。
五年以上前のあの時に、叢雲劾としての自分を助けた頃から変わらぬような微笑だ。
普段は、表情のせいか、十代半ばぐらいには、見える。
時折見せる戦闘モ―ドに移行すれば、年齢は解らなくなるけれども。
「・・・私に、母親、という気分を少しでも味あわせてくれたあの子達に連なる者にも、幸せになって欲しいと想うの。」
そう言って、芙蓉は締めくくり。
この後は完全に、飲み会になった。
それまでの会話を無かったことにしたいかのように。
どこそこのコロニ-のなんとかという料理が美味しかったとか。
地上のどこそこの夕日が綺麗だったとか。
傭兵の誰それが、サ―ペントテ―ルを狙っているとか。
そんな他愛の無い会話だった。
日付が変わって少々経った頃には、芙蓉は完全に眠っていた。
このままにして、風邪でも引かせたことがバレれば、彼女の弟が五月蝿いと思ったのか、劾は彼女を抱き上げる。
芙蓉の部屋まで送ろうとも思ったが、場所を聞いていない。
空調も聞いているし、彼女をベッドに転がして、自分はソファで寝ればいいと思ったのだろう。
しかし、ベッドに彼女を転がして、離れようとした時だった。
シャツの袖を芙蓉の小さな手が掴んで離さない。
引き剥がせば、確実に起きるだろうというほどに、しっかと、掴んでいる。
幸い、と言うべきにか、大の大人が横に五人並んでも大丈夫なほどの大きなサイズのベッドだ。
劾は、無言で溜息をつくと、最大限に離れた上で同じベッドにもぐりこむ。




そして、更に一時間。
ディエスが、ちょっとした用事で、芙蓉の部屋を訪れたが、いなかった。
少々探した後、劾の部屋に彼女を見つける。
悪戯心を起こしたディエスが、芙蓉を劾の方に寄せ、自分も同じベッドに入る。
そうして、眠りにつく。
(えへへ~、変則的だけど、川の字だよね、これも。)
普通の親子、なそんなことをして。
或いは、体験し得なかったそんな幼子のようなことをして。


翌朝。
劾に朝食のタマゴをどうするか、ルピナスが部屋を訪れた時。
すぴよすぴよと、眠る三人を見つけた。
「・・・もう一品追加するか。」
起こすのが面倒だったのか、そう呟くと出て行く。



更に、30分後。
ミニミ-トパイとエッグタルトにしたのだろう。
その香ばしい香りがし始めたころ。
絹を裂くような悲鳴が上がった。
「いきゃああぁぁぁ~!???
え、あ、な、なんで、こ、こんなことに~!?」
「お前が袖を掴んで離さなかったから、一緒のベッドに入ったんだが。
 こんなに近くではない。」
「母さん(マドレ)セインと劾の兄ちゃんですけど、川の字っぽいなぁって思って。」
「・・・先に言って欲しい。」
「言ったら、母さん(マドレ)セイン、却下するでしょ?」



オ―ブにて、金網越しの再会が行なわれ、ア―クエンジェルに僅かな休息が訪れている頃の一幕。

これより、一ヵ月後。
劾は、ソキウス達と戦った。
そして、その二ヶ月後のNJCを巡る争いにも劾と芙蓉達はそれぞれの立場で関わった。

まだ、一度目の大戦の最中の。
ちょっとした休息の一幕。




+++++++++++++++++++++++++++++++++++

はい、ある日の会話より、二ヶ月ほど。
結構難産でした。
新たな資料でてんやわんやとも言います。

イライジャが、何故、ディエスをヴェイアと見まちがえなかったのかは。
劾イラな設定で、ディエスに嫉妬したから・・・ではないです、流石に。
一応、表情豊か過ぎて、同一視出来なかったというべきでしょう。



「劾は、お父さん!!」を合言葉にしたら、こうなりました。
恐らく、現存する連合作品の戦闘用コ-ディとしては最年長でしょうし。
イライジャも、どっか、「父」を見ている思うですから。

ともあれ、次の物語にて。

*作中の会話は、英語で行なわれたと想定しています。





Idea +捨てきれないキモチ+ 後編 

2009-12-05 23:50:12 | ガンダム種シリ―ズ+外伝

硝煙と血煙、死臭、錆色の・・・。
そんなのが、充満する世界で、さ。
ムウやネオ、或いは、劾のような優しさっていうのは。
とてつもなく、嬉しい。
だけど、同時にとてつもなく哀しい。
ああ、力ある故に、この身の無力さが身に染みる・・・。



Idea +捨てきれないキモチ+ 後編



備え付けの机に、朝食のトレ―を置き、ネオに私は向き直る。
制御装置をつけているから大丈夫だと思うけれど。
無意識のままに、私は、首の装置に触れる。
・・・無駄に殺したいわけじゃない。
だけど、『鷹無芙蓉/セイン・ロ―タス』としてではなく、『セイン・メンティラ』として最後まで話せるかしらね。
黒い手錠がある以外は、普通に寝ている。
・・・寝顔は、ルピナスとそっくりなんだね。
そう思うと、何故か、胸に痛みが生まれる。
過去のムウだった頃にはなかった顔の傷に触れる。
それでも寝ている時は、前と何も変わらない。
私が触ったことにより起きたのか、それでも寝惚けしているのか。
嫌な位に優しく、触れてきた。
「ん――――・・・。
 どうしたァ、ステラ・・・」
ステラ・・・。
そうか、やはり、ネオなのか。
どうしようもない、感情が千々入り乱れる。
それは、私と同じ様なステラ達を救えなかった。
・・・些細な日常さえ、守れなかったことに対する罪悪感からなのか。
それとも、ムウとネオの違いを見つけていく度に、嫌いではなかった・・・むしろ、好きだった連合のムウを失うことの痛みからなのか。
心中はどうであれ、無駄に歳を食っていない。
動揺を表に出さずに、こう返す。
「違う、ステラじゃない。」
「・・・ガトのお嬢ちゃん、としてきたわけじゃなさそうだな。」
「そうなるね。」
起きたのか、身を起こしながら、ネオは、そう訊ねてくる。
セイン・メンティラとして、答える。
彼女は、私を知っている人物からでも、そっくりさんで済むよう、同じ無愛想系でも、男の子のような子として、作っている。
無愛想だけど、眠そうなネコのようで、シンには懐いてる・・・そう言ったのは、ルナマリアだったか。
・・・なんにせよ、正確には、意識干渉能力で、擬似的に、存在させることが出来るもう一人の私と言うべきだろうか。
身を引きながら、私は、扉の外に、誰かが居ることに気付いた。
誰か、ではなく、ヤマトくんだろう。
「・・・朝食を持ってきた。
 少し待っていてくれない?
 ちょっと、外に誰か居るからさ。」
そう言うと、同時に外の誰かは、走り去ったようだ。
・・・後から、発破かけとくか。
少なくとも、若い内は、恋愛ごとに血道をあげるぐらいが丁度良い。
「居なくなったみたいだ。
 ・・・扉を閉じてくるね、邪魔はされたくないからさ。」
PDAのような端末をコ-トの隠しから取り出し、モジュラ―で、扉の機構部分に繋げる。
ロックと、ここの監視カメラと盗聴器も沈黙させた。
邪魔はされたくないし、この格好の説明も面倒だ。
「・・・さて、軽い部分から話す。
 食べながらでいい、聞いてくれ。」
一緒に持ってきた魔法瓶から、コ-ヒ-を2人分、注ぎながら、私はそういう。
アンデスマウンテンとコナのオリジナルブレンドだ。
安くて、美味いとなれば、この組み合わせ以外はないだろう。
もちろん、値段を気にしなければ、もっと良い組み合わせはある。
それに、砂糖を少しだけ加え、私は話し始める。
正確には、まず、コ-トを脱いだ。
つまりは、セイン・メンティラとして・・・ザフトの赤服姿だ。
何の改造もしていない。
強いて言えば、首から、黒い革紐に、一円玉サイズの水晶二つに、十字架の形の青瑪瑙のペンダントが服務規程に引っ掛かる程度だ。
「解かっていると思うけれど、僕は、セイン・メンティラだ。
 ・・・ステラ・ル―シュをお前に返したシンと一緒に、いたザフトだ。」
「つまりは、スパイか?」
「違う、セイン・メンティラはちゃんと存在しているし。
 僕と鷹無芙蓉・・・ガト・フラネルは、別人になるのさ。
 ・・・少なくとも、僕がプラントに居る頃の記録もあるしね。
 デ-タ上は、別人だ。」
そう、デ-タ上は別人だ。
同時に違う場所に居た目撃証言も複数あげれるが。
だけども、同一人物だ。
どうしようもなく、同一人物。
・・・甘いと言うよりも、くだらないそう一蹴されそうな理由で、前の大戦が始まる前に作成したカヴァ―パ-ソンの一人。
そして、一つ目の大戦が終わった後に、役割りを大きく変えたそんな役柄の子。
「本題ではないから、それ以上は触れないでくれ、説明しきれるほど時間がない。」
「では、何故明かした?」
「・・・少なくとも、『ガト・フラネル』では信用すらされないだろう。
 しかし、僕が・・・いや、鷹無芙蓉が集めた情報から見えてくる『ネオ・ロノア―ク』は、まだ、僕なら、信用するだろう。
 ステラ・ル-シュを逃した一人ならば、ザフトと言えどな。」
「・・・」
「お前は、少なくとも、ロドニアなんかのラボの連中のように、彼女達を道具とみなしていないのだろう?」
「そうだ。」
「・・・いいなぁ。
 家族じゃないのに・・・部下なのに、そう見てくれた相手があの子達にはいて。」
思わず、セイン・メンティラとしてではなく、芙蓉としてそう言ってしまう。
正確には、鷹旡永聖/小鳥遊 聖としてだ。
思わず、泣きたくなってしまう。
更木隊長だって、私が、鷹旡だって知ったら、道具扱いはないにせよ、距離を置くだろうし。
知ってて、態度変えないの、十四朗と春水ぐらいだもの。
「・・・・・・こ、子ども扱いは、僕としても、鷹無芙蓉にしても不本意なんだけれど?」
ちょっと沈黙すると、頭を撫でられた。
ナデナデという擬音がつくよりも、グリグリとでも着けたほうが似合う感じに少し荒っぽく。
ちょっと懐かしかった。
過日の元ちゃんや、最近の一角を思い出させる。
涙を堪えるのに、私は、少し、黙ってしまう。
「なんであれ、人間だろう。
 お前も、あいつらも。」
「ネオ・ロノア―ク。
 それは、僕にも、そして、彼等には、最大に嬉しい言葉だ。
 ・・・アイテム扱いしないというだけでも、ね。
 僕にしても、正体を隠して、此処にいるから尚更嬉しい。」
「当たり前のことだ。」
「・・・お前は、あいつ等だけ逝かせる気はないのだろうけれどね。
 それでも、言わせて貰うよ。
 あいつ等とは、系統や意味さえ違うけれど、それでも、同じ管理された命だ。
 『お前はお前の歩むべき道を歩いてくれ。俺達の為にその道から眼を背けないでくれ。』ってね。」
「それで、何の話をしにきた。」
「・・・やれやれ、せっかちな男は、嫌われるよ、ネオ・ロノア―ク。
 お前は、軍人だ。
 二年前の大戦以前の記憶がない、連合の大佐。」
「それがどうした?」
「・・・連合に不信感を持ったことはないのかな?」
泣きそうになる。
どうしようもなく、泣きたくなる。
恥も外聞も関係ない。
泣き叫べたらどんなにいいだろう。
・・・もう遅いか、1800年前の後の時から、兄を唯一の肉親を殺した時から、私に、そんな資格はないのかもしれない。
一角や、十一番隊の面々は違うといってくれるのかもしれないけれど、それでも・・・ね。
そして、回り道を経て、本題に入る。
・・・せめてね、いつ帰るか、わからないのなら、誰か、拠り所を見つけれるならば、ルピナスには見つけて欲しい。
ディエスと違って、その可能性はまだ、あの子にはあるから。
私は、そんな感情を押し隠して、余裕綽々にいう。
「・・・・・・・・・」
「そこで、沈黙されると、あると、肯定しているも同然だよ。」
「ステラ達以外にもあるのか?」
「ある、と言って置こうか。
 いや、ステラ達など、まだ、序の口だ。
 少なくとも、一番安定した成功作だった。
 勝ちつづけていれば、処分されることはなかっただろうから。」
「・・・知っていることを話せ。」
「そうだね、僕が鷹無芙蓉から、聞いたのは・・・」
あくまでも、私と・・・セイン・メンティラと鷹無芙蓉と切り離して話す。
そして、語ったのは、次のような話。


ことの始まりは、C.E.16年のジョ―ジ・グレンの宣言から始まった。
そう、コ-ディネ―タ―という存在が、表に出た頃から始まったのだ。
言い換えれば、優秀なコ-ディネ―タ―と言うのは、兵器だから。
それを知らしめたのは、ジョ―ジ・グレンの妻であり、SPのジェラルダイン・グレンだった。
彼女は、銃を持たないSPで、サ―ベル一本で、ジョ―ジを護ったのだ。
もしもだ。
彼女のような戦闘能力に秀でたコ-ディネ―タ-を思うが侭に扱えれば、優秀な兵器を作れるのではないか。
そう思ったのが、当時の大西洋連邦のお偉方だ。
まぁ、そのメンバ―のほとんどは、≪ブル-コスモス≫のメンバ-でもあるけれどね。
戦闘用コ-ディネ―タ―の従順な駒を作成すること。
その時点では、まだ、『やれるかもしれないからやってみよう』そんな程度だったんだけどね。
まだ、コ-ディネ―タ―達も、宇宙開発に役に立つ、道具程度だったから。
そのうち、≪黄道同盟≫が生まれた。
当然の帰結だろうね。
古くは、黒人が解放を求めたように、虐げられた人と言うのは、いつかは立ち上がる。
その≪黄道同盟≫の党勢が拡大するにつれ、連邦・・・いや、その頃には、寄り集まって、≪地球連合≫になっていたね。
≪地球連合≫は、危機感を高めていった。
だから、戦闘用コ-ディネ―タ―の開発もそれまで以上に、進められた。
とある時期までは、コ-ディネ―タ―を作っては育てて・・・と言うようなまどろっこしい方法を取られていた。
まぁ、それに、制御方法も、心理コントロ-ルがメインだったから。
それが不完全で、逃げ出せた個体もいたね。
だけど、とある時期から、ある程度、培養してから、外に出して調整すると言う方式に変わった。
・・・また、彼等は、ある意味で、生体CPUの前身というモノに手を出し始めていた。
それは、今から、十年以上前のこと。
とある新兵が、当時の実験機の部隊に配属され、コ-ディネ―タ―相手に、多くの戦果をあげたこと。
その実験機の発展型の名前を『メビウス・ゼロ』という。
扱うには、特殊な才能が必要で、その能力を十二分に持っているのは、≪地球連合≫の豊富な人材を当たっても、わずかに、十五人だった。
減っては増え、減っては増え。
それでも、三小隊以上にはならなかった。
・・・だけど、当時は、数に頼らない、と言う前提ならば、連合が唯一、ザフト達と渡り合えた数少ない戦力だった。
メビウスが、生まれるきっかけでも在ったしね。
有用、しかし、数が少ない、じゃあどうする?
少なければ、増やせば良い。
詳しくは、後から、レポ-ト渡す。
それで理解してくれ、口に出したくもない。
前の大戦の三年四年、もう少し前かな、それくらいから、増やす(インクル―ス)ではなく、復活させる(リボンズ)、計画になったけれどね。
だけど、前の大戦の開戦初期・・・その月面エンデミュオンのグリマルディ戦役において、一人を除いて、全滅した。
その少し前に、生まれた実験体に少しだけ話を聞いたけれどね。
・・・・・・死んだ方が、マシだ、あんなこと・・・っ。
あんなこと、マトモな人間が・・・ッ。
・・・悪い、少し感情的になりすぎた。
そのリボンズ・ゼロ計画と平行して、優秀な戦闘用コ-ディネ―タ―を遺伝子から、ナチュラルに拘束すると言う方式で、1グル-プ作られた。
リボンズ・ゼロ計画とそのソキウス達の一人づつは、保護できたからね、少しは詳しい。
・・・リボンズのほうの一人はね、調整がかなり甘かった。
保護したはいいけれど、色々と調整を加えないと、明日にでも死ぬかも知れないそんな状況。
・・・それは、置いておいても、ソキウス達は、見ていて哀れと言うか・・・ナチュラルに尽くす以外道がないそんな子達。
『ナチュラルに尽くす』為に、連合を逃げ出した子もいた。
精神を焼き消された子もいた。


「・・・それでも、どのソキウスであっても、ナチュラルの為に動くのを至上の幸福としているのだよ。
 それに対して、心が無い、そう評するのなら、心と言うのは、なんなんだろうね。」
「・・・本当なんだな。
連合が、やったということは。」
「おや、僕に嘘をついて何の利益があるのかな?
セイン・メンティラとしては、ともかく、鷹無芙蓉として調べた内容だ。」
「『鷹無芙蓉は、自身の人格と知性、知識に誓って、情報は真実である』か?」
「そう、正確には、事実だ。」
心外だ、とネオの私的に大して、せせら笑い返す。
少なくとも、自分とセ-ヤの情報屋としての矜持だ。
最低限のあえて、隠すこともある。
あるが、少なくとも、明かす情報に関しては、感情を交えようと、事実である。
「・・・誰かと言うフィルタ-を通せば、真実を掴んでいても、事実に成り下がってしまうと言うことさ。
 少なくとも、明かす情報で嘘をつこうとは思わない。
「・・・まだ、あるんだろう?」
「ほう、何があると?」
「ステラ達のような存在についてお前は触れていない。」
ネオの指摘に、私は、芙蓉として眼を細め笑う。
うん、いいねぇ、その頭はぼやけちゃいないようだ。


ステラ・ル―シェ、スティング・オ―クレ―、アウル・ニ-ダは、生体CPUとしては、エクステッドと呼ばれるタイプになる。
情報屋達は、後期型とも称していたね。
前期型・・・通称、ブ―ステッドの改良型ということになるのかな。
その最大の違いは、前期型の兵器としての欠点、情緒不安定さを取り除いたこと。
元々、素体になるような子の場合、人間だった頃の記憶はないからね。
身分も、記憶も全部、削除されてる。
更に、『揺り籠』で、記憶の取捨選択を・・・ストレスを除去すれば、精神的に安定する。
そもそもが、前期型にしても、実験の1タイプという意味合いが大きかったのに、前の大戦で、馬鹿げた物を作った少年が居たせいで、実用化に回されたクチだよ。
ナチュラル用のMSOS(モビルス-ツオペレ-ションシステム)。
・・・あれは、救いも齎したけれどね。
僕や、僕の家族には、悲劇にしかならなかった。
結局の所、僕が仕込んだとは言え、ブ―ステッドの三人と交流を深めてしまった冬の娘は、その別れに心を壊しかけた。
そのOSが無ければ、ソキウス達は、廃棄されなかった。
・・・悪いね、少し話がずれた。
結局、コ-ディネ―タ―を殲滅するのに、同じナチュラルを使い潰すのが、正しいのか、ということだ。
確かに、効率面から言えば、子供を弄繰り回して、壊して、兵器にするのが一番いい。


「・・・だけれど、お前はそれを兵器として扱いきれなかった。
 だからこそ、あれらは、お前についていったのだろうね。」
「・・・お前は・・・」
「平気ではないよ、平気に見えるか、いや、見えるからこそ、聞いているのだろうな。」
正直、甘い、と言われるだろうが。
ガキは、子どもは、少なくとも、高校生までは、無条件に愛されて護られる存在だと思う。
コ-ディネ―タ―だろうと、そんなの関係ない。
子どもに、その手を赤く染めさせるぐらいなら、私がやったほうがマシだ。
甘いかも知れない、弱さかも知れない。
それでも、私は、そう思う。
無意識のうちに、手を握りこんでいたのだろう。
手の平に爪の跡ができてた。
・・・痛い。
血が出るまで握りこんだのは、どれくらいぶりだ?
「・・・どうし・・・・・・こんなになるまで握りこむなよ。」
「・・・ふん、痛みなど、ろくに死ねない身に意味は無い。」
「痛みなどはってことは痛いもんだろう?」
「・・・・・・・・・」
黙っている間に、ベッド脇のチェストにあったのだろう。
簡易救急箱にあった消毒薬とガ―ゼ、紙バン・・・が無かったのか、包帯で固定された。
ちょっと大袈裟かもしれない。
「・・・ありがとう、と言っておくべきだろうな。」
「勝手にやったことだしな。
 ・・・それで、何故、俺にそんな話をした?」
「これから、お前が選ばなくてはいけない道の一つの指針ということ。
 ・・・知っていても、これ以上は、僕が語るべきではないことさ。」
「此処をお前は出るんだな。」
このやりとりだけで、私の意図は見抜かれしまった。
否定しても意味が無いことだったから、私は、頷き肯定した。
「・・・なら、尚更、意味がわからん。」
「本人が居る場所じゃ言えないけれどね。
 ・・・私が、息子と呼べる一人に貴方を・・・・・・合わせたい・・・そう思ったのよ。
 ・・・・・・戦争が区切り・・・それまで生き延びてもらわなくちゃいけないから。」
そして、その後、私がネオの部屋を出る間際に、彼に言われたのは、こんな言葉。
「お前さんも、生き延びろよ。」
そんな言葉。
部屋を出た後、私は、こう一人ごちた。
「やっぱり、人間って良いなぁ。」




それから、数日して、私とカナ―ドが、AAを去る日の朝。
たまたま、ヤマトくんと二人きりになってしまった。
どうにも、踏ん切りがつかなくて、しり込みしてたのだった。
『・・・ヤマトくん。
 最期になるかもしれないから、これだけ言わせてね。』
「・・・何を?」
『我慢したからって偉いわけじゃないの。
 ・・・特に、恋はそう・・・みっともないぐらいに足掻くのが、いいの。』
「もういいんだ。
 ムウさんは・・・」
『あのね、ヤマトくん。
 ムウは、ネオとして今を生きているのかもしれないけれど。
 今、此処で、生きているのでしょう。』
「・・・っ。」
『相手が生きてるって最高に幸福なことよ?』
「母さん(マドレ)セイン、兄弟(エルマノス)カナ―ドも、もう準備して出発できますよ。」
『わかった、ディエスも先に乗ってて。
 私も直ぐ行くから。』
ヤマトくんが、押し黙った所に、ディエスがやってきた。
そして、直ぐに行くといい、その場を去らせた。
私も、行く為に、コ-トを羽織り、最後にこう言った。
『どういうことでも、諦めないで。
 ・・・それじゃね、ヤマトくん、生きて終戦を迎えましょう、お互いね。』





++++++++++++++++++++++++++++++++++

一応、ムウ×キラな話の予定でしたよ?な一編でした。
書きあがってみれば、どこがやねんとセルフツッコミします。
ですが、種説明話のネタフリになったので、ヨシとします。
しないと、ベッコベコに凹みそうです。


さて、やっと、セイン・メンティラが出てきました。
うちのOOP二次での金髪のブランカ・エリフォ―ルとネ―ヴェ・シェネ―ドみたいなものです。
セイン・メンティラは、彼女は彼女で存在していまして。
文中にあるとおり、ミネルバ乗艦のザフト赤服だったりします。
下のある日の会話にあるとおり、この話の前後に、MIA(戦中行方不明)になっていますです。
一応、鷹無芙蓉/セイン・ロ-タスとして、ネオに話をしなかったのは、『ガト・フラネル一味』として、その名前が売れすぎているからです。
顔はともかく、シンも知っていますでしたし。


また、セイン・メンティラとして、ネオに語った内容(後編参照)は、基本は原作より汲み上げました。
ジョ―ジ・グレンの宣言の直後に、ナチュラルがコ-ディネ―タ―の軍事利用を決めたこと。
その戦闘用コ-ディネ―タ―の初期から中期の制御方法が、心理コントロ-ルだったこと。
後期にあたるソキウスシリ―ズの制御法方は、遺伝子操作であること。
プレアが、空間認識能力/メビウス・ゼロを目的としたクロ―ンであること。
ライブラリアンのこと。
ガンダムシリ-ズOSのこと。
生体CPUのこと。
その他、諸々は、基本的に、漫画や小説群や、原作アニメからです。
或いは、そっから思考発展させました。
しかし、ジェラルダイン・グレンなどは、捏造です。
その上で宣言します。
ジョ―ジ・グレンの功績をひっくり返しても、兵器転用する理由が見つからないのです。
幾ら優秀でも、宇宙開発の道具にする以上に、使用するとは考えにくいのです。
例えでいうなら、黒人がいくら陸上選手として有能でも、黒人だけの特殊部隊を作らないようなもんです。
一応、下層としても、コ-ディネ―タ―にも人権認めちゃってますから。
それを兵器転用するなら、それなりに、平気として役に立つ目処がなければ、人間を平気にしようなどと考えないものです。
例えば、少年兵の場合、盲信的な捨て駒兵士にしやすいとか。
なので、一応、ジェラルダインを設定しました。
妻、云々は、年齢とか、その立場とか考えると、すっきり行くので。
もちろん、それだけではないのです。


長々、語りましたが、今回は、これにて。
では、次の物語に。


ちなみに、タイトルの「Idea」は、『想い』だろうと、『理想』だろうと、どっちにとってもいいです。
お好きな方に。




Idea +捨てきれないキモチ+ 前編

2009-12-05 23:44:40 | ガンダム種シリ―ズ+外伝

*注意
一応、ヌルいですが、BL的にムウ(ネオ?)×キラ要素ありますです。
ヌルかろうとBLはいらん、と言う方、ムウ×キラは嫌だ、ト言う方。
プラウザバック推奨します。




硝煙と血煙、死臭、錆色の・・・。
そんなのが、充満する世界で、さ。
死にたくなる程、不幸な奴は、それこそ。
呆れるほど、いるよ、掃いて捨てるぐらいにね。
こんな時代に、「幸せ」だって、笑える奴の方が、
よほど、『鬼畜』に見えるのは、事実。
だけど、嘘でも、そう思わないとやってけないよね。



Idea +捨てきれないキモチ+ 前編



ベルリン攻防戦の後、収容され捕虜となった男がいた。
空色の瞳と金色の髪、顔に仰々しく残る傷。
それは、前の大戦の最後を飾った第二次ヤキン・ドゥ―エでMIAになったムウ・ラ・フラガと同一人物であった。
少なくとも、その生体デ-タは一致した。
しかし、彼は、記憶を失っていた。
地球連合のネオ・ロノア―ク大佐だという。
そして、今のア-クエンジェルでは、彼は憎悪の対象でもあるのだった。
艦内を出歩いていた所を、オ―ブ軍人たちに見咎められ、追い詰められる。
脇腹の傷も開き、顔には油汗がにじむ。
「そこを退いてください、ガト・フラネル・・・いえ、セイン・ロ-タス様。」
『・・・落ち着け、そう言っても、無駄そうね。
 大人数で、追い詰めてんだから・・・言いたいことがあれば言いなさいな、オ-ブ軍人。
それとも、大人数でも、暴力に頼らなきゃ何も出来ないのかしらね、オ-ブ軍人は!!』
その彼を庇うように立つのは、ネオよりも、30センチは小柄な、黒づくめで、薄桃色の髪の少女。
軍服の連中に囲まれた中で、白いブラウスと濃赤のカ-ネ-ション以外は黒くシンプルなゴスロリ系の彼女はとても、浮いている。
彼女は口を開かずに、そう言った。
服装とその奇妙な意思伝達を抜いても、彼女が十代前半の幼い少女であることが更にその違和感を強くする。
呼ばれた名前は、通称で、『葬式猫』という具合だろう。
その後のも、偽名だ。
この艦の主戦力のキラ・ヤマト・・・その義兄のカナ―ドの義母であり、この服装では、連邦軍・ザフト共に、宜しくない方向で、名前が売れている少女だった。
いや、外見どおりの年齢ですらない。
一応、オ―ブの客分としても、いるから、手を出すに出せないオ―ブ軍人。
それ以上に、浮いていることも、無視せざるえないような、雰囲気がある。
敢えて言えば、親戚で一番年寄りだが、かくしゃくとした老人を相手にしているようなものか。
「ガトのお嬢ちゃん、危ないから横に退いてな。」
『イ・ヤ・よ。
 ・・・一応、これも、とある人からの依頼の内でもあるの。
 それに、貴方も・・・こうなるのを望んで、わざと、うろついていたでしょ?』
あきれ果てたように、溜息をつく。
まるで、『自罰したいなら、ハンストでもなさい』とでも付け加えたいような溜息だった。
この場にいる誰よりも、幼い容貌ではあるが、誰よりも老練とした雰囲気だ。
今の溜息にしても、中学生がするよりも、三十代の女性が酒を飲みながら・・・というのが、似あうだろう。
老練とした・・・そんな雰囲気故に、十数人のオ―ブ軍人を押し留めれている。
「・・な、なら、言わせて貰うが。」
年若いが、それでもまだ経験をつんでいるであろう、オ-ブ軍人が、口を開く。
ガト・・・芙蓉かセインが、とりあえずの本名の少女は、溜息を隠しながら、思う。
或いは、オ-ブ軍人が呼ぶところにいうセインとしての少女ですら強く思うのだ。
ああ、茶番だと。
意味のない、あっても傷つけることにしかならない茶番。
戦争という大演劇における意味の無いコント。
「俺たちは、アンタが、艦内をうろつかれるのは不愉快なんだよ。」
「無茶な作戦を利用したアンタのせいで、俺達の艦長は死んだんだ。」
「これ以上、追い掛け回されたくなかったら、捕虜らしく、部屋で大人しくしていてくれ。」
しかしだ、あまりのことに、芙蓉は、切れかけた。
まがりなりにも、軍人だろう。
嘘でも、戦場で死ぬのは、最高の誉れだ。
そういうべきだ。
ここで、戦場で、そういう事を虚勢ですら言えない軍人ならば、戦場に立つ資格すらない。
軍人とは、暴力とそれによる損失を受け入れなければ、行けないのだ。
何か言ってやろうと、芙蓉が口を開こうとした瞬間。
ネオが、思い切り拳を壁に叩きつける。
大きな音と、壁がたわむ音がする。
「ふざけんな!!
 判断を誤った無能なお前等の上官を恨めよ・・・。」
そして、つかみ合い、もみ合いになる。
芙蓉は、思う。
死んだあの子達にしてみれば、今のネオは・・・何もかも失ったネオの方が、無能な上官かもしれない。
だけど、芙蓉には、わかった。
ネオが、もしも、彼等に言葉を届けれるとしたら。
――『お前達だけを逝かせるつもりは無かった。』
そう、言うのだろう。
ああいう、人の手で捻じ曲げられた命にとっても、最大に嬉しい言葉だろう。
内心では、あの子達も、『自分達は道具』、それで諦めてただろう部分も多いだろうけれど。
その一言だけでも、それどおりに、彼岸に来なくても、嬉しすぎる言葉だろう。
道具扱いしないだけでも、自分達には過ぎた扱いだから。
だからこそ、ステラは元より、アウルやスティングは、ネオについていったのだろうと、芙蓉は思うのだ。
ネオは・・・いや、ムウは軍人として優秀でもあるけれど。
人間としても、誰よりも優しい、と。
「使える作戦を利用して、何が悪い。
 生き残る為にやった、部下を守る為だった。
 お前等と何が、違う!!
 それが、戦争だろうが!!」
「こ、このお!!」
もみ合いの最中、ネオの胸倉を掴んでいたオ―ブ軍人が、彼を殴る為に、腕を振りかぶった。
そして、殴られたのは、芙蓉/セインだった。
小さなその体が、吹き飛ぶ。
思わず、ネオとそのこぶしの間に身を躍らせたのだった。
体重が乗ったその一撃に、軽いその体は、木の枝のように吹き飛んだのだ。
「・・・何をしている。」
「いや、あの、それは。」
「母さんに、何をしたと、聞いている。」
そこへ、タイミング良く、(オ―ブ軍人には、タイミング悪く)、黒い長髪のカナ―ドがやってくる。
正確には、芙蓉を彼が受け止める。
芙蓉がやってきていると聞き、探していたのだろう。
理由は、どうであれ、母が殴られたのには、違いない。
『落ち着きなさいな・・・ドクタ―呼んでくれないかな。
 ・・・たぶん、彼、倒れる。』
息子を宥めながら、一つお願いをする。
それにあわせるかのように、ネオは倒れ、整備士のコジロ-が割ってはいる。
正確には、カナ―ドと芙蓉を殴ったオ-ブ軍人の間にだ。
『・・・・・・やりきれないな。』
「母さん?」
『なんでもない。』
「なら、いい。
 ・・・ちゃんと、治療するから、医務室に行こう。』
『カナ―ドがしてね。
 ・・・その後、マリュ-さんに報告も一緒に行こう。』
芙蓉の小さな呟きは、誰にも届かず、ただ、空気に解け消えたのだった。



「・・・ということだ。
 母さん、とりあえず、これを外せ。」
『ダメ、放したら・・・仕返しに行くでしょう?』
「キラくんが目を離した隙に、部屋を抜け出して、オ―ブの方と揉めたというわけね。
 ・・・頭の痛い話ね。」
『戦力的にも・・・頭痛いと思うよ?
 中立主義国家だって言っても、軍人がああなら、オ-ブに未来はないね。』
あの後、ネオを医務室に運び、芙蓉も手当てを終えた後、マリュ―艦長に報告をしていた。
カナ―ドと芙蓉も、報告を済ませる頃には、カガリとキラも来ている。
コジロ-は報告を済ませ、とうに仕事に戻っていた。
そして、芙蓉の言葉ももっともだ。
昔々の話では歩けれど、世界で、一番勇敢な傭兵と言われたのは、中立国のスイス出身の傭兵だった。
・・・少なくとも、同じ中立国といえど、あの軍人では未来は無いだろう。
そして、彼にしては最大限に迷うと、キラは訊ねた。
義兄と、元同級生の今の状況を。
「・・・それで、カナ―ドと、エステ-トさんのそれ何?」
『エステ-トは止めてね、ヤマトくん。
 ・・・放したら、私の仕返しに行きそうだから。』
キラが訊ねたのは、カナ―ドと芙蓉の手首の手錠である。
ご丁寧に、コ-ディネイタ―でも千切るのに、苦労するように、金属糸と無重力炭素の糸を丁寧に編んだワイヤ―で繋がれている。
行動するのに、支障が無いように、なのか、その長さは、数メ―トル程の長さになっているが、それでも、異様だ。
左頬がはれていて、湿布薬が貼ってある時点で答えは半分わかっていた。
即ち。
「・・・仕返しって、その顔の?」
『勝手に私が割り込んだって言っても・・・納得してくれなくて。』
「母さんを殴ったことには変りない。」
『だから・・・私が割り込んだだけよ。』
「・・・知るか。
 軍人の腐ったようなこと抜かしているんだ、母さんを殴った奴ぐらい、殴らせろ。」
『それは、ともかく、マリュ―さん、どうしますか?』
「・・確執はあるだろうとは持っていたけれど、こんな表だって問題にるとは思っていなかったわ。
 オ-ブの方にしてみれば、彼は完全に敵なのね・・・複雑だわ。」
『確執・・・当然だけど・・・・・・死にたがるのどうにかしなきゃね。
あの行動は、自責だろうし。』
「どういうこと?」
『言えない。
 ・・・ネオ・ロノア―クとしての彼と何度か、接触したから言えるけど、仕事がらみだから、ダメ。』
オ―ブ軍人達にしてみれば、ネオは敵なのだ。
それでも、マリュ-達にしてみれば、ネオは、ムウなのだ。
芙蓉にしてみても、生きているのなら、保護しているルピナスに会わせたいと思うのだ。
それが、自分の自己満足であることは理解していても、だ。
とりあえず、一旦、その場は解散することになる。
その後、カナ―ドを引き摺ったまま、廊下に出る芙蓉。
『・・・・・・カナ―ド、ヤマトくんお願いね。
 あの子、前と同じく・・・ううん、前よりもちょっとイヤな方向に壊れ始めてる。』
「キラが?何故だ?」
『・・・あの子ね・・・前の時からそうだけど。
 ハ-ドは確かに、最高のコ-ディネイタ―よ。
 だけど、ソフトがグダグダなの。
 ・・・総合力で、劾や貴方が上なぐらいにね。』
呆れるように、芙蓉は淡々と言う。
前の大戦の時は、ほとんど、ロウ達と行動を共にしていたせいか、あまり関わらなかった。
ヘリオポリスまでは、キラや、他の友人だったフレイ達とも、悪くない関係だった。
少なくとも、胸を張って、『友人』と言えるぐらいには。
しかし、その後は、関わっていない。
ア―クエンジェルに乗っていた情報屋をしている通信手を通じてのかすかな情報しか知らない。
実際に会ったのは、数度だけ。
キラがバルトフェルトと出会った前後。
まだ、フレイが、AAにいた頃に、マリュ-に対して、連合としている契約の関係で少し訪れた。
その後に、キラの様子が気になり、数度関わったが。
あの頃、彼は壊れかけていた。
それを芙蓉は、見て見ない振りして、ジャンク屋側の物語に関わっていた。
元々、人との諍いすら忌避する少年だ。
沈黙を苦としない性質故に、『セイン・エステ-ト』としての芙蓉はよく共にいた。
自習室で一緒になり、お昼ご飯を忘れた彼に、祖父役のエステ-トが作りすぎた昼食を分けてあげたのも、一度や二度ではない。
今となっては遠すぎる、だけれど、それ故に、懐かしさを飛び越え、痛みしか残らぬような記憶だ。
フレイとト―ルは、もう居ない。
ミリアリアは、今はジャ-ナリストだ。
行方も知れないあの頃の友人も居る。
もう、戻ることが無い故に、痛みしか残らない。
そして、キラ穏やか過ぎて・・・だけど、能力故にストライクを駆り、望まぬ戦いに臨んだ。
しかし、それは、親友との争いを意味し・・・その親友の仲間を殺してしまったが故に、親友から敵と呼ばれ・・・。
『・・・事実、ロウが助けた後、戦意を失っていたみたい・・・。
 シ-ゲルが教えてくれたわ・・・その後、戦線復帰したけれど。
 ・・・アスランに殺されることを望んで・・・或いは死ぬ為に、いたようなものだもの。』
「・・・優秀なばかりが、幸福と言うわけではないわけか。」
『そういうこと。
 ・・・自分を追い詰めやすいところは、兄弟よね、本当。』
「ぐっ。」
『ふふ・・・。
 どっちにしても、ネオに死なれては困るわ、ルピナスの為にもね。』
「何故だ?」
『・・・一応、組成上の父親だ。
組成上の母親は死んでいるし、唯一の血縁だから、戦争が終わったら会わせてあげたいのよ。』





そして、眠れぬ夜を過ごす少年・・・キラ。
与えられた士官用のそれなりに広い部屋。
ベッドと備え付けのデスクなど、設備は、戦艦の中にしては、広く整っている。
しかし、それは今の彼には、何の慰めにもならない。
(マリュ―さんや、エステ―トさんが言う以上に、もっともっと、僕の気持ちは複雑だ。
 あの人も、ムウさんも魂は一緒なのに。
 ・・・ネオ=ロノア―クにとっては、僕達は敵だって改めて思い知った。)
過去。
あの時のア-クエンジェルにおいて、キラとムウは思いを深く交し合った仲だった。
好きや愛してる、そんな言葉で、片付けたくないぐらいに、大切だった。
だけど、男同士。
不自然な関係が続くとは思って居なかった。
だから、マリュ―と彼のその関係がわかった時、自分は身を引いた。
―『普通』を手にしようとしていたのだ。
だから、諦めたのだ。
「ムウさん・・・・・・会いたい。」
そうキラは呟く。
身を引いたのに、それでも、あの声に名前を呼ばれるととても嬉しかった。
・・・そのまま、キラは意識を沈めるのであった。
その想いを告げたい相手は、諦めた相手のことも、自分のことも、忘れていた。
されとて、キラが想ったムウ、その人なのだ。





-『頭をぶつけてみるとか。
  ・・・ああ、もう一度爆発させてみるのも、手かも知れませんね。
  それとも、芙蓉さん、貴女の高機動ジンサ―ド蓮天カスタムで、殴ってみますか?』
などと、悲喜交々・・・もとい、盛大に、不穏なノイマンの言葉を受けて、芙蓉は、AAの廊下を歩いていた。
服装は、今までのツナギやパンツスタイルではない。
黒いハイネックの足首丈のコ-ト、太腿付近のスリットから見えるのは、軍服ではあるが、オ-ブでも連合の物でもないもの。
赤い上着の裾とズボン、白いロングブ-ツだ。
そして、髪も、いつもは、うなじあたりで三つ編みにしているのに、その三つ編みも、きつめに結び、ポニ-テ-ルのようにしている。
三つ編みの先を結ぶのは、いつもの蓮の髪飾りではなく、黒地に凄艶なまでに鮮やかな桜模様の布である。
鷹無芙蓉としての扮装ではなく、セイン・メンティラとしての服装だ。
そんな彼女が、向かうのは、ネオ・ロノア-クの部屋だ。
一応、ネオの朝食を持ってだ。
分厚いト―ストにベ―コンエッグ、付け合せにポテトと温野菜、副菜にブロッコリ-と海老の中華炒めと、なかなかのボリュ―ムだ。
そして、もう一つ目的が。
もうすぐ、始まる傭兵達の戦いのため、自分とカナ―ドはAAを去る。
最終決戦であるメサイア攻防戦にまで戻れれば、御の字だろう。
昨日、芙蓉を母と呼ぶ、ディエスから、情報が入った。
それが入らなければ、最後までこの艦にいただろう。
しかし、あの情報が入っては、後十日、いることすら難しい状況だ。
-『死せる兄弟(エストレリャ・エルマノス)のコピ-など複数作成確認。』
-『ライブラリアンを組織し、動き始めた。』
少なくとも、芙蓉は、一度目の大戦をジャンク屋として関わった。
カナ―ドとて、その最中で知り合い、殺し合い、そして、助けた子どもだ。
同じく、ジャンク屋として、知り合い、そして、死んだ友人もいる。
ディエス達、ソキウスもその1グル-プ。
「・・・さて、どうするべきかしらね。」
芙蓉は、そう呟く。
彼女がこの場所に居るのは、今は亡きサ-・マティアスからの依頼だ。
彼が、共に暮らしたプレア・レヴェリ-の心を汲んでの依頼だ。
・・・ムウ・ラ・フラガとしての彼の息子に当たる少年からの依頼と言うよりも、願い。
それを、サ―・マティアスは、私に依頼した。
別段、中断しようとも、金を返す相手ももういない。
だから、ではないが、ムウの・・・ネオのことは最後まで見守りたいとは思う。
「でも、あの子達の最後を観なくてはいけないかしらね。」
しかし、ディエスが齎した情報は、過去に出会い、別れた面々が、甦ってきたというモノだ。
誰の意図であれ、許したくない。
・・・ソキウスや、プレアは、もう、芙蓉にとっても他人ではないのだから。
そうこうする内に、ネオの部屋の前に来る。



後編に続く