碧空の下で

人生の第四コーナーをまわって

走り雨にぬれながら7

2017-06-26 21:52:58 | 日記風雑感
雨の影響でとうとうバスが欠行になったらしいと住職がニコニコ顔で告げた。
「その情報は本当ですか、また騙すつもりではないでしょうね」
「いやいや、本当です。疑うのならバスの事務所へ行って聞いてみたらいい。やはり仏の導きですねこれは、宿命には逆らえませんよ・・」住職はこの知らせを喜んでいるのを隠そうとしないで、また話し始めた。
「私はここへ出家してもう30年近くなります。最初は1か月ぐらいのつもりだったのですそれが3か月になり、1年になりそして30年経ちました。会社にいたらもう定年の年です。長い時間であったようで一瞬の時間でもあったように思います。若いころは、いろいろ悩みがありました。この寺へ出家したのも半分は、やけっぱちになっていたからです。それがいけなかったのか、いまだに悩みはつきません。仏は悩みに執着するのを戒めていますが、正直私の修行ではまだまだ心は平安になりません。この長い時間曲がりなりにも精進したつもりではあるのですが。・・心の中にある悩みの種がこの年になってまた芽をだしていましてな、つまり、なにか大切なことをやり残しているのではないかと思ったりしています。あなたに種馬の話をしたのもそのことに関係しているのです。つまり、仏の道は世俗の人々の中にいてこそ値があると思うようになりましてな、世俗を離れて経文を読んでいるだけで仏の道を歩んだことにはならないと思うようになったのです。今更そんなことを考えてももう後戻りはできません。残りわずかの命を思えば、悩む暇さえ無いことに思いあったわけです。・・たとえ仏の道から外れているかもしれないが思い通りの行動をとろうと思っています。あなたにとってはご迷惑な話かもしれませんが、この私に付き合って下さい。お願いします。」
「あなたの気持ちのほどはよくわかりましたが、疑問があるのです。それは、相手の女性はその話に納得しているのですか、いったいどうゆう境遇のひとなんですか」
「もちろん、納得している。まさか無理やり結びつけることなどできるわけがないでしょう。その人の詳しい情報はいえません。あなたもそれを聞かないでいたほうがいいです。顔さえ見ない方がいい。顔を見れば情が移ります。情が移れば未練がでます。それは悩みの種になります。知らない方がいいのです。」
「顔さえ見ないで、その・・結びつくというのですか」
「そうです。あなたには目隠しをしてもらいます。相手の方はあなたがしやすいようにしてくれます。なんの心配もいりません。ちょっとした大人のゲームみたいに楽しんでもらえればいいのです。かんたんなことです。自信はおありでしょ。yes you can !」
「これは、ほんとに種馬ですね、なぜかロッキーのテーマ音楽が頭に浮かびました。」
「だんだんやる気になってきましたね。その調子です。ついでに絶世の美女をイメージしてください。もちろんあなたの奥さんでも構いませんよ」
「それはいけません。種馬になれません。」
「はっ、はっ、はっは・・余計なことを言いました」
「それでは、あなたはOKしてくださったと理解してよろしいですな。良かった。どうぞ今日はこの寺の宿坊でお泊り下さい。準備させますから。そして、今夜はどこにも出かけないでくださいね。おわかりでしょ。」
そういうと住職は、部屋からでて、庫裡のほうへ姿を消した。内心少し不安はあったが、なるようにしかならないと、開き直った気持ちで、住職の言葉を反芻しているのだった。なんだか滑稽な気もしてきたが、バカバカしい人生よりバカバカしいひと時がいいという言葉を思い出していた。しばらくすると小坊主がやってきて、宿坊のほうへ案内してくれた。宿坊と言っても小さな個室でベッドが部屋の壁に沿っておかれ机と椅子以外家具らしい家具はない殺風景な部屋だった。電灯のスイッチの場所を示し、電気を入れて確認すると天井の明かりが明滅したのを確認して、小坊主はワイをして出ていった。そしてラジオもねえテレビもねえ、もちろんビールもねえ、ことに気が付いた。やはりどこか宿屋に泊まる方が気が楽だったと後で後悔した。



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