碧空の下で

人生の第四コーナーをまわって

ネパールへ22

2005-08-26 21:24:12 | ネパール紀行
翌朝、アンナプルナ山群を見渡せるプーンヒルへいくことにした。
家内は、昨日から鼻水が止まらず、小屋で寝ている事にしたので、
私とカンサと二人で行くことになった。私のほうは熱が下がらず
本当は、小屋で寝ていたかったのだけれど、ここは、この旅の
クライマックスと言ってもいい、地点で、せっかくここまできて
これをはずす訳にはいかない、後で一生後悔するかもしれないと
いう思いで、是が非でも行かなければと、決意していた。
カンサは無理に行かなくても、ゴラパニ峠からでも見る事が
できるから、休んでいたほうがいいと、プーンヒルへ行くことを
薦めなかった。しかし、それではくいが残る、展望台といわれる
ピークへ、行かなければならぬ。8000m級の峰には行けないが
せめて、富士山よりは高いところへ登らないと、ネパールへきた
意味がないと、思っていた。
この地点ですでに3000m以上あるのだが、スケールの大きな
ヒマラヤの峰々を見ていると、平地と変らない感覚なのだ。
すこしは山登りをしていかないと、一生に一度のことなのだ。
カンサは先に立った、後ろから、荷物も持たずに、空身で
出発した。歩き始めると、体が本調子でないので、呼吸が速い
集中力がない、段々と傾斜はきつくなり、歩く速度が落ちてくる
そのうち一歩一歩足を運ぶ間隔が長くなる。呼吸も激しくなる
8000mの高地を登るクライマーと同じ事を3000m級のピークで
やっているので、なさけなかったが、気持ちだけは
絶対頂上までいくぞと固い決心は変らなかった。
足が動かなかったら、手で這ってでも、手が使えなかったら
あごで這ってでも頂上へ行くぞと。
かつて、何人のクライマーがこの思いを胸に8000mのピークを前にして
死んでいったか、その思いの何分の一かを感じていた。
休む時間が歩く時間と同じくらいになり、やがて、しばらく動かない
時間が、ふえてきた。カンサは心配そうに、立ち止まりながら
声をかけてきた。
「まだまだ、だいじょうぶだ」
酸素が少ないのか、呼吸が速い、足が重い。
カンサにすれば庭を歩くようなものだろうが、こちらはけっこうしんどい。
「もうすぐ頂上が見えますから」
そんな言葉に励まされて、一歩一歩高度をかせいでいった。
やがて頂上が見えてきた。展望台にふさわしくひときわ
隆起した頂上全体が見えてきた。
手を伸ばせば届くようにみえる頂上だが、ここからが長い登り
の始まりであった。しかし、終わりのない始まりはない。
もう、射程距離だ、あとは、時間をかけても、高度をかせぐのみだ。
つらそうな顔の私を見て、カンサはここでしばらく休憩したらどうかと
言って来たが、ここで休むと、次に登るときの気力がなくなるような気がして
そのまま、急な斜面に足を進めた。負けられない、自分には、
それを見たカンサはもう何も言わなかった。真剣な表情にかわった。
足さえ出せば、いつか必ず頂上だそれが行動の全てだった。
時間が長く感じられた、実際には1時間ぐらいなのだが
記憶が遠い昔のように、何日もこの斜面を登っているように思われた。
それだけ、歩くことだけに集中していたのだろうか、
それとも、熱に浮かされていたのだろうか。やがて
とうとう頂上近くまでたどり着いた。
いままで先に立っていたカンサは、ここでトップを交代した。
「そこが頂上ですよ、あなたのものです」
誰でも登れる、丘なのですが、3000m級の展望台なのですが
敬意を表してくれたので先に頂上に立った。
「ありがとう、ありがとう、すばらしい気分だ」
アンナプルナ山群の峰々が、今まで写真でしかみたことのない
山々が、歓迎するでもなく拒むでもなく、黙して、そこに存在していた
不思議な気持ちだった、岩と雪と空だけの世界、フィクションではないかと
疑いたくなるような、風景があった。
山というより巨大な岩が天空に転がっていた。
{写真はダウラギリ}
ダウラギリ アンナプルナ南峰 マチャプチャレ
確かに見届ける事が出来た。








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