碧空の下で

人生の第四コーナーをまわって

大きな樹の物語3部2

2023-09-21 12:50:27 | 大きな樹の物語

キャットフィールドカフェで働くようになったジェーンだが、時々は我が家のジェニーの店へ帰ってくるのはやはりここが一番落ち着くし、愛着がある。そして何よりジョンと過ごした日々が今でもそこに在るような気持ちになっていられたので、彼女にとってはいつまでもホームであった。ジョンが好きだったコスモスがいつのまにか繁殖して駐車場の半分近くがコスモスの草むらになって、ジョンといた頃とは様変わりはしていたが、ジェーンのなかではジョンとすごした時間はずうと変わらずそのままの形で残っていた。彼女が店の駐車場から家の裏の勝手口に向かって歩いて行くと、コスモスの草むらのなかで何かが動いたように見えた。それは人影のように見えた。そして彼女は咄嗟につぶやいてた。

「ジョン!ジョンなの。」

そんなはずはないと思い返し、今度は強い声で「誰かいるの」と声をかけた。すると一人の男がコスモスの草むらのなかからぬっと顔を出した。その顔はすこし笑っていた。

「やあ、ジェーン久しぶりだね、元気にやってるかい。」

そう言いながら草むらから出てきたのは黒っぽいジャケットを着たチャックだった。ジェーンはまさかここにチャックがいるとは思わずたいへん驚いた。彼と会うのは何年ぶりか。心の準備がなくて急に現れたチャックを見つめるだけのジェーンだったがすぐに気を取り直して

「まあチャックじゃない、びっくりしたわ・・戻ってきたのね、お久しぶりじゃないわよもう何年振りなの」

いつかこんな時がくるような気もしていたが、よりよって葬儀の日に現れるなんて、できすぎじゃないかと思ったが、彼女にとっては以前と同じような気持ちはなくなっていたし、むしろ今更現れても心が乱れるだけだという気がしたが、そんなことはおかまいなしに、チャックは話し出した。

「君に会えるなんて嬉しいよ。もう会えないんじゃないかと思っていたんだ。以前ここの店に来たらクローズの看板が出ていて、ひと気がないのでどこかへ引っ越したのかと思っていたよ。・・教会で誰かの葬式があったらしいね、通りに車を停められなくてこちらの店の裏のほうに回ってみたら幸運にも君と会うことができた。神の思し召しだね・・」

そう言ってコスモスの草叢から出てきたチャックはジェーンのそばまで近づくと昔のなれなれしい口ぶりで

「実はね、今日は君に相談があって会いに来たんだ。話を聞いてくれないか・・」

そう言ってジェーンの顔を見つめると彼女は待っていた日がやってきたとばかりはっきりした声で

「私も聞いてもらいたい話があるわ、家の中でゆっくり話ましょうか」

ジェーンは他人行儀な顔でチャックを誘った。そして二人が今は営業していないカフェのテーブルに向かい合わせで座って、少しの間お互いの顔を見つめながら、かつての日々の面影をなぞるような視線を感じていたが、ジェーンが思い出したように立ち上がって

「何もないけどコーヒーでも入れようかしら・・」

そう言って厨房に入っていくと

「俺も手伝うよ・・」

そう言って、チャックはジェーンの後について厨房にはいってきた。そしてコーヒーカップなどを探しているふうに見えたが、ジェーンが腰をかがめてコーヒーの粉を冷蔵庫から出そうとするといきなり彼女の後から腰を両手でつかみ、驚いたジェーのうなじに唇を近づけて来た。不意を突かれたジェーンは「まぁ」と小さな声を上げたが、その瞬間忘れていた昔の欲望を思い出していた。後ろ向きのままうなじを這う舌の感覚が全身に走って、そのままされるがままに快楽の淵におぼれてゆきたい欲望に身をこわばらせてしまった。男は拒否されないと分かると腕に力が入って彼女の腰に自分の下半身を擦り付けるようにしながら、腰を動かして彼の欲望に火をつけた。

「あら、もう固くなって」

ジェーンの右手が彼の下半身にふれて、忘れていた彼との肉体の快楽をはっきり思い出していた。彼がインディアンの血すじをもっているのはその硬さでわかるほど白人のジョンと比べて肉体の喜びが違っていたのをはっきりと感じ取っていたことを・・彼女の自制心はもはや溶けて行くような気がした。

「チャック、あなた私と寝たいからわざわざやって来たのじゃなくって」

「ああ、それもある」

チャックはそう言いながら唇をうなじから離すと、手をジェーンの乳房にあてがった。ジェーンはその手を振り切って彼の方に振り返って押し戻すと

「やはりね・・どうこの足のほくろ覚えている」

奥の寝室へ行く段差の上でジェーンは喪服の裾を引き上げて見せた。死者を送ったばかりの彼女は自分の生に興奮していたし生きていることが性欲すら高めていた。黒い喪服に白い肌が一層白く見えてチャックの眼はその白い足にほくろを探した。

「もう忘れたの、もっと奥なのよね。」

そのような露骨な挑発がチャックをいやがおうにも興奮させた。ジェーンもなにかから解放されたように大胆になっていた。寝室のドアを開けると同時に喪服のボタンをはずして肌をあらわにすると、ベッドへ腰を下ろした。男はその前に立ちズボンを降ろしてジェーンに近づいていった。そして欲望に火のついた二人の肉体は、感情のおもむくままベッドに重なり合いお互いの陶酔の深い穴へ落ちていった。そして何かの偶然で二人の波が重なり合って大きな波の頂点でジェーンは声を上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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