「やれやれ」と鼠がいった。
「この世は日ごとにちぢんでゆく。
はじめは途方もなく広くて恐ろしいほどだった。
一目散にはしりつづけていると、そのうち、
彼方の右と左にかべができて、ホッとした。
ところが、この長い壁がみるまに合わさってきて、
いまはもう最後の仕切りで、どん詰まりの隅に
罠がまちかまえている。走りこむしかないざまだ」
「方向を変えな」と猫はいって、パクリと鼠に食いついた。
. . . 本文を読む
アベシンドロス大王が青年のころの
赫々たる戦果にもかかわらず、
また、自分が育て上げたとびっきりの内閣にも
かかわらず、さらには自分のなかに感じていた
世界変革の意欲にもかかわらず、ヘレスポントスの
手前で、とまったきり、ついにはそこを渡らなかった
ことはあり得ることなのだ。しかも、怖れや、
不決断や、病気のせいでなく、おのれのからだの
重さのせいで。
フランツ・カフカ
. . . 本文を読む