goo blog サービス終了のお知らせ 

「タイムバール」少年探偵団の時代

元少年探偵団、現ダメ社長が「記憶と夢」を語ります。

老人と海

2011年01月28日 | Weblog
「名は体を表す」なら「部屋は素性を表す」・・・毎日の営みの場だけに主(あるじ)の知性や感性だけでなく人生観まで滲み出ているからです。腕の良い営業マンなら部屋を見ただけで商談の可能性を読み取ります。お金があるかどうかよりまずは「気」・・・「陰気」か「陽気」かです。陰気な主はお金があっても使わないし、陽気な主はなくても何とか買いたがるからです。尤もいくら元気でも、巨大な熊手や神棚、家具もないのに何台も電話があるような部屋は何か悪さをしている可能性が高いのでパス。逆に老人の孤独死なんて報道で見る部屋は決まってロクな家具もなく何故か大きな紙袋が目立つ陰湿で生気のない部屋・・・カビと厄病神が好む部屋です。勿論、お金がない高齢者という点では自分も同じ条件下に置かれている訳ですが、少年探偵団60年の経歴はダテではありません。やり手の営業マンや厄病神を騙す方法を知っています。

我が探偵団の「別室」は眺望抜群、視界は360度。広さは無限大、しかも気分次第で毎回違う場所に設営可能です。まあ囲むものがないので「部屋」と言うより「基地」ですが、椅子とカメラとラジオと魔法瓶以外には家具も備品もありません。今回は下の写真、近くの岩場が「オフィス観音崎」です。この椅子に座ると・・・見渡す限りの「海と空」、「雲と風」、「潮の匂いと波の音」に包まれます。やがて日が傾くと海は一日で最も妖艶な時間を迎えます。「昼の青」が「夕日の赤」と混じってトワイライトカラーに染まりながら次第に「夜の青」へ・・・対岸の陸地や建物、航行する船の形が次第にぼやけてくるのと入れ替わるように光の明滅が夜を彩る・・・そんな自然と人工のトワイライトショーで脳は透明で濃密な官能に満たされます。お金はかかりません。だからこんなイジワルな質問をします。



「お金を貯めてどうするの?」「老後の不安に備えたいと思います」・・・こうゆう人は我が探偵団とは縁がありません。「お金を貯めてどうするの?」「幸せになりたいです」・・・少し脈があります。「ではその幸せって何?」「・・・」こんな人は贅沢三昧に暮らしたいなんて露骨に言えない弱さがあるのでお金には縁がありません。「お金を貯めてどうするの?」「気持ちのいい場所に居たいです」・・・おおっ!かなり有望です。「その気持ちのいい場所って?」「・・・」判らない人は「うっとり探偵団」に参加すれば道は拓けます。素人目にはぼんやりと海を眺める痴呆老人に見えても、その実体は国家に重くのしかかる高齢者社会での膨大な医療福祉費を使うことなく気持ちのいい場所でポックリ・・・健康と感受性があれば本人はもとより家族も国家も幸せになれる壮大なプロジェクトなのです。

水底人の夜

2011年01月17日 | Weblog
いい年をして不摂生を止めない老少年も脳梗塞とか動脈瘤なんて言葉を聞くと「明日は我が身か」と神妙な気持ちになりますが、2~3秒後には「それならそれで透明で濃密な官能に身を浸しながらポックリ逝くのさ」と決意も新たに夜の海岸に出かけます。目黒に居た頃も自転車で深夜の住宅街を彷徨って「非日常感」に浸っていたものですが、三浦半島の夜は別次元。何しろ目の前が浦賀湾、少し自転車に乗ればそこは観音崎・・・左手には京浜工業地帯の眩い光の帯、右手には対岸の房総半島の淡い街の光が、その房総半島が切れて暗い太平洋が広がる・・・ここまでは誰でも想像がつきます。しかし本当の「妖し」はここからです。

 

一言で言えば三浦半島から眺める夜の東京湾は光の劇場です。とにかくやたら「光る」のです。臨海工場の高い煙突や鉄塔・・・これは安全上の理由で了解。岬の灯台・・・一般的には暗い波間の果てに明滅(回転)する儚げな光を想像しますが、東京湾にはこんなに灯台があったのかと思うほど沢山あります。しかも光は強烈で電波航行の時代に何の必要があるのか面妖です。空には真夜中だというのに成田と羽田を離着陸する飛行機の点滅灯の群れ。そして沿岸近くに浮かぶ光るブイ・・・水面下には何かの仕掛けがある筈ですが単なる航行注意なら旗でも浮かせておけばいいのに・・・。更に貨物船のくせに「ねぶた祭り」のような光の満艦飾・・・理由は判りませんが、この「ねぶた」が次々に現れて東京湾を出て行きます。そして対岸から送られる怪しげな光信号・・・尤もこれは我が工作員のK君の通信の可能性もあるので疑惑から外します。怪しい極めつけは「水底人」です。

時間は夜中の1時頃、それも目の前の何の変哲もない岸壁です。いつものように怪電波を傍受するために短波放送を聴きながら夜の房総半島を眺めてうっとりしている時でした。右手の暗い浅瀬で何やら光るものが動いています。ブイではありません。街灯が届かないのでよく見えませんが、どうやら大きな一つ目が光る黒い生物です。桟橋の端で何かしているようです。こちらの気配を消すためにラジオを切って動きを止めます。距離は20メートル位でしょうか、やがて生物の足元で何かがピクピクしています。鱗が反射してそれはスズキのような魚であると知れます。それを足で押さえている・・・そして巻尺のようなもので魚の大きさを測ると、そのまま海面へポチャンと落としたかと思うとそのままうずくまっています。

「水底人に違いない!」・・・慌ててカメラを取りに部屋に戻ります。現場に戻ると・・・「水底人」は消えていました。今思うと単なる潜水服にヘッドライトを点けた漁師のおじさんだったような気がしますが、夜中の1時というのが解せない。捕獲が目的なら折角の獲物をなぜ捨てるのか。そもそも夜中に魚のサイズを測る理由は・・・やはり三浦半島は妖しの宝庫でした。尤も夜中に短波受信機を持ち歩いているおじさんも充分怪しいのですが・・・。