蓬莱の島通信ブログ別館

「すでに起こったことは、明らかに可能なことがらである」
在台日本語教師の東アジア時事論評あるいはカサンドラの眼差し

高まる沖縄・日本への中国の脅威(前)─エスカレートする「琉球奪還論」と始まった対日開戦論─

2005年12月30日 | 「謀略」に抗するために
 2005年ももうあとわずかとなった。来年を占ううえで、今年は中国と日本との将来に来るべき衝突を予感させる年になった。今年最後に以下の記事をお送りする。

◆今年出た中国政府関係者による三つの「琉球奪還論」
 このところ引き続いて、中華人民共和国のネットでの「琉球奪還論」をお伝えしている。
 2005年12月28日現在、google簡体字の検索で「琉球是中国」を検索すると、14000ヒットがある。
 二ヶ月ほど前の様子は、最初に以下でお伝えした。
中華人民共和国人ブロガーの間で高まる「琉球奪還論」
 今まで見てきた中で、多くのコピーが見つかる「琉球奪還論」の「震源地」となっている記事は、三種類ぐらいあることが分かった。執筆者はすべて中華人民共和国の官僚あるいは国立大学・研究機関関係者である。
(1)中華人民共和国外交官・唐淳風の“東シナ海での中日開戦論”のインタビュー紹介記事
http://bbs.ce.cn/bbs/thread.jsp?forum=139&thread=95566&postsord=0&thstart=0&message=192167
http://bbs.ce.cn/bbs/thread.jsp?forum=139&thread=95566&postsord=0&thstart=0&message=192167
http://www.dongfangtime.com/Article.asp?ArticleId=1208#
など。
 “沖縄を含む東シナ海を奪回するために日本との開戦がありえる”という内容。この唐淳風の紹介と批評は、このブログですでに書いた。以下をご覧いただきたい。
http://blog.goo.ne.jp/tike_hiko2000/e/878e8a4d42a1a96d5d23dd3c1695917f

(2)北京大學歷史學部教授・徐勇「琉球謎案」
http://www.qikan.com/gbqikan/view_article.asp?titleid=sjzs20051522&lanmu=
%EF%BC%BB%E6%B3%9B%E8%AF%BB%E5%9C%B0%E5%B8%A6%EF%BC%BD
全文コピーは以下などに。
http://bbs.cirea.org.cn/read.php?tid=678
このコピーも多数流布している。
 要旨は、“第二次大戦後、沖縄に関してアメリカから日本へ行なわれた施政権の返還を中華民国および中華人民共和国は認めていないから、「琉球」の地位は未確定だ”という内容。この論への批評は、いずれ行う予定であるが、 これと同様な論は、それ以前からネットで流されていた。2004年11月頃、ちょうど中華人民共和国潜水艦の国際法違反事件(領海通過通知義務違反)があった頃に出されたブログの記事で、内容を以下で紹介している。
 http://blog.goo.ne.jp/tike_hiko2000/e/196a8f654f0680588ec8d34e022d75b4

(3)「哥倫比亞大學東亞研究所研究員,中華發展戰略研究所主任(コロンビア大学東アジア研究所研究員・中華発展戦略研究所主任)」巖華:原題は、「從琉球主權到保釣運動(琉球の主権から尖閣諸島奪還運動へ)」である。オリジナルは以下。
http://www.boxun.com/freethinking/freetxt/lishi/ls028.htm
 これも多数のコピーが流布している。歴史面で“琉球はもともと中国領だった”という捏造史を最も体系的に展開しているもの。これについては、今、このブログで翻訳して紹介中である。
http://blog.goo.ne.jp/tike_hiko2000/e/caf437911bc5f8f1716d0ab2d1f566db
http://blog.goo.ne.jp/tike_hiko2000/e/62cc9501556a99173277e62088f872e3

 これらに影響されて、拡大解釈を行っている二流、三流の煽動者の記事が、今回、以下で述べるような記事①から⑤で紹介するように、もはや事実とは言えない荒唐無稽なデマ宣伝となって中華人民共和国のネットで広範囲に流されていることは疑い得ない。

◆中華人民共和国での正確な「琉球」歴史記述は?
 一方、こうした謀略とは無関係な中国での「琉球」関係情報は、今のところ以下ぐらいしかないようである。
■中華人民共和国版Wikipediaの「琉球」の項目
http://zh.wikipedia.org/wiki/%E7%90%89%E7%90%83
この中で、「流求国」の項目を見ると『隋書』の解釈が、各説紹介として書かれている。これが、元々の「琉球史」で、こうした冷静な解釈をしているサイトは、実は、ほとんどない。中国にもまだ専門的知識を持ち冷静で正常な市民が残っていることが分かる。曲学阿世の典型、コロンビア大学東アジア研究所研究員中華発展戦略研究所主任・巖華の捏造『隋書』記事とは、好対照をなしている。
 他の項目を見なければ結論は出せないが、こうした点では、Wikipedia財団などネットの自由を守ろうとするグループを支援することは、今後、日本を守る事につながるに違いない。

◆中国政府関係者の論が引き起こしている波紋
 以下に、例を示す「琉球奪還論」に連動して対日開戦論を説く各ページは、以上のような「震源地」記事の後に書かれ、影響を受けていることがよくわかる。最初にgoogleにヒットしたところから、いくつかを紹介する。
①建議中國人大代表提案《成立琉球回歸委員會》的倡議書http://www.junmeng.org/blog/more.asp?name=charlemagne&id=295
概要は中国人民大会で、琉球奪還を要求するというもの。政府に公式に「琉球奪還」の要求を出せと主張している。ただし、論は、上に紹介した(1)~(3)の抜粋、張り合わせである。

②海權之爭不能手軟
http://www.mlcool.com/html/02191.htm
東シナ海問題のために、琉球の地位未確定を利用せよと提案している「勝利石油管理局渤海固井公司 聞明」のブログ。署名からすれば、中華人民共和国政府職員かそれに準ずる地位の人物と言えるだろう。

③日本正式介入台海衝突的挑戰
http://www.zaobao.com/special/china/taiwan/pages7/taiwan250205d.html
沖縄奪還によって、今後、台湾での戦争が始まったとき、日本の介入をおさえ台湾占領を行えるという提案をしている。

④日本自說自話的東海中間線劃界
http://www.zaobao.com/special/forum/pages2/forum_jp051211c.html
③と同じ趣旨。
 
 2005年12月での情勢分析としては、まず、現段階でいずれも中華人民共和国政府官僚およびそれに準ずる研究者が、事実無根の“琉球は中国の領土だ”という架空の論理を敷衍して、対日開戦論あるいはそれに相当する表現をしていることを、私たち民主国家の国民である日本国民は知らなくてはならない。こうした中国政府関係者による、事実上の中国政府見解ともなる「琉球奪還論」に基づく対日開戦論が、すでに下層では公然と半ば政府の承認済みで流されているのである。
 次に、以上を見てくると、今まで日本のマスコミが報道してきた尖閣諸島とガス田の問題はすでに、中華人民共和国の一部のネット上では台湾占領とそれに連動した沖縄占領の話題に変わっていることが分かる。その先には当然、日本への開戦がある。先に挙げた、中華人民共和国政府関係者(1)~(3)によるネットでの煽動が功を奏しているのは明かで、そうした形で中華人民共和国の本来の目的が、こうして姿を現しつつあると見られる。つまり、<政府関係者による論>+<公安関係者による匿名の煽動(転載・コピー・ブログでの煽動記事)>によって、擬似世論を形成し、“琉球奪還と対日開戦”は世論の声だという、無罪証明工作を今、行ない始めていると見られる。まさに、ナチスドイツが各国の侵略を始める前の「大ドイツ主義」に相当する、典型的な民族主義煽動による謀略戦略である。

◆広がる「対日開戦論」の動向
 直接、「琉球奪還論」とは関わらないが、軍事力を強化して対日開戦を説く、ブログ記事も増えている。一例としては、中国Yahooの新聞検索で「反日」を入れると出てくる、「西陵」というブログサーバーの「東方軍事」http://emas.bbs.xilu.com/で、得体の知れない複数の論主が毎日十数編、関係の新聞記事やレベルの低い中国語ででたらめな資料の「対日開戦論」などを多数掲載している。
一例は以下のとおり。
「中日東海之爭:中國現在是只做不說」
 http://bbs14.xilu.com/cgi-bin/bbs/view?forum=emas&message=133300
 どうしてこれがYahooニュース検索に出るのか理解苦しむ。要旨は、“中国軍は十分強くなった(空母、ロシア製戦闘機、潜水艦、ミサイルなど)ので、問題解決には日本を攻撃するしかない”という、いわゆる国粋主義者の論で、しかも、かなり教育程度の低い人物やそれに類する人物が書いているらしく、ことばの下品さには呆れてしまう。ここまで来ると“東シナ海で人民解放軍が自衛隊を攻撃”という虚偽記事を出すのとレベルは変わらない。民主国家は程度の差はあれ言論の質を重んじる。ニュースと意見あるいは捏造記事を区別しようとする良識はどこかで持っている。しかし、中華人民共和国では、意見が「ニュース」であり、独断と偏見が「事実」を作っている。
 もう一つは、「鉄血」という兵器好きのブログ。
http://bbs.tiexue.net/6/ForumGroup.html
こちらのほうはかなり軍事マニアで、客観的。市民のレベルは高そうだが、日本に対する攻撃を説く論調は同じである。後篇にあげる⑥はここに出ていた。

◆中国における歴史と世論の捏造の論理
 こうした事実と意見が区別できない捏造言論が続くとどうなるか。一つのいい例を見つけた。
⑤沖繩:被中國遺失卻不願意脫離中國 [圖文]
http://blog.hexun.com/lg2005/1283266/viewarticle.html
 概要は、沖縄は古来からずっと中国領であったという「琉球史」捏造の拡大版。
大部分は、先ほどの「震源地」(3)を使用しているが、傑作な部分は以下。
=====================
琉球自古就是中國的屬國,語言主體為閩南語,吸收了一些當地語言。琉球人很多身著明朝的漢服。清朝沒將他割讓給了日本,但日本強佔了去,野蠻的推行日本化,改穿日本式樣的和服。(写真)琉球在歷史上一直通用閩南話,地道的琉球居民97%是近七八百年遷到這些島嶼上的漢人後代,以閩南人居多。(琉球は古来から中国の属国で、言語は閩南語を主として、当地の言語を吸收した。琉球人は多く明朝の中国服を着ている。清朝は琉球を日本に割讓しなかったが、日本は強制的に占拠し、日本化を強行して、日本式の和服に改めさせた。琉球は歴史上ずっと閩南語を話してきた。琉球住民の97%はこの700、800年にこの島々に移住した中国人の子孫で、閩南人が最も多い。)」
=====================
 最後の「日本化を強行して、日本式の和服に改めさせた」は、明治以降の大日本帝国政府による沖縄統治の実態を調べないと分からない。しかし、その他の部分からは、中華人民共和国では、証拠なしに言論を行い、しかもそれが、誇大妄想的に歪曲されていくのがよく分かる。以下に二つ問題点をあげる。
問題点1「言語は閩南語を主として、当地の言語を吸收した」「琉球は歴史上ずっと閩南語を話してきた。琉球住民の97%はこの700、800年にこの島々に移住した中国人の子孫で、閩南人が最も多い」:このページでも紹介した捏造「琉球史」のコロンビア大学東アジア研究所研究員・中華発展戦略研究所主任・巖華の『隋書』解釈をさらに自己流に歪曲して、この論者は、台湾=琉球と理解し、“台湾で閩南語を使っているから、琉球も閩南語を使っている。また、閩南語使用者が、琉球の原住民を吸收した”と、とんでもない推論を行って、こうした説明を生み出したらしい。さらに、自分で出したそうした結論を根拠にして、今も“閩南語を話している”とか“大半は中国大陸からの移住者”という誤謬から出発した誤った推論を繰り返している。台湾への16世紀以降の福建からの移民と話を混同している可能性もある。
 この人物は、明らかに、台湾と沖縄がまったく区別できていないか、あえて、二つを一緒にして、謀略記事として、こうしたとんでもないデタラメをネットで公開しているかのどちらかである。
問題点2「琉球人は多く明朝の中国服を着ている」:このページには、観光用に古俗をまとった沖縄の人の写真が掲載されている。この論者は、こうした風俗を今もしていると錯覚し、明朝の服装=琉球王朝の服装=沖縄人全体の服装という、拡大解釈で、こうした、結論を出したらしい。
 こうした推論をして、“すばらしい”結論を出せる中華人民共和国人は、某朝日新聞や某放送局NHKのいうように、確かに“頭がよく”“優秀で”偉大な民族だろう。こんな結論が出せるとは、さすがに悠久の歴史を持つ民族で、ここまで独創的な論が出せる点は尊敬に値する。ただし、21世紀の環境悪化と社会変動の危機に瀕した地球人類には、こうした“頭の良さ”とか“優秀さ”は、「百害有って一利無し」というだけの話である。
後篇へ続く


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3 コメント

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弱ったもんだ。^^; (kyouji)
2006-01-01 18:39:38
トラックバックとコメント、ありがとうございます。

 年末、ちょっと体調を崩してしまって、レスが遅くなってしまってすいませんでした。m(_ _)m



 とりあえず、阿南さんが更迭らしいですね。

 それにしても中共の人たち、あいかわらず愚民化がすすんでるなあ。^^;
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うちなーんちゅ (北碚ミニラ)
2007-04-24 00:09:42
さきほど、世界のうちなーんちゅの記事を書くつもりで、「重慶」と「沖縄(琉球)」をgoogleや百度で調べていたら、沖縄は中国のものというような内容があまりにも目につくので腹立たしい気持ちでブラウジングしているうちにここまで来ました。
 琉球は日本に占領されたかもしれませんが、「中国に戻りたい」などと考えている沖縄県民は皆無に等しいと思います。多くの台湾人が日本統治を憎んでいないように、沖縄にも大して反日感情はありません。むしろ日本人であると誇りをもっているほどでしょう。国民党に占領された台湾の二の舞になるのだけは勘弁してほしいです。薩摩がきたときも、台湾出兵の際も、何もしてくれなかった中国に比べ、日本は理由はどうであれ、沖縄人のために死んでくれたのは事実です。現在、沖縄の人を軽蔑するどころか豊かな自然を賞賛してくれる人たちでいっぱいです。言語も文化も今は縛られていないので、その保存は我々沖縄人の手にかかっていると思います。それを邪魔するようなことだけは第三国にさせたくないです。
 わたしは台湾も大好きです。このブログをたくさんの人が真剣に閲読してくれることを願います。
 このようなブログを建てていただきありがとうございます。
 
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沖縄人自身のために今こそ自律自立を (蓬莱の島通信ブログ別館)
2007-04-25 09:53:04
ご訪問、ご感想ありがとうございます。ご理解いただけてうれしいです。台湾と沖縄は、「中国」という領土拡張型帝国主義的民族の辺縁にあると同時に、海によって世界にも開かれている、難しく微妙ですが、すばらしい位地にあります。境界であるからこそ生まれる寛容な民族性や開放的な性格は沖縄人にも台湾人にも見られる素晴らしい点だと思います。私は日本では邪魔者、異端者扱いされることが多かったのですが、台湾は私のようなものでも受容し、活躍の場を提供してくれます。台湾も沖縄も中国に占領されれば、住民は中国の奥地(チベットなど)へ強制移住、土地は軍の基地と共産党幹部の保養地にされ、文化も歴史も根こそぎ改竄されてしまうでしょう。中国の「虐殺史」は、中国自身の歴史(たとえば『隋書』)が示しています。沖縄の皆さん自身が、中国や日本の政治家などに身をゆだねず、自身の位地を理解して、世界に文化と思想を発信なさるように、念じてやみません。自分の故郷は自分で守るしかありません。20世紀型の国民国家では、不利だった辺境、境界地域は、21世紀型世界では、交易と交流には有利な地域です。近代国家の枠を超える新しい社会の芽がそこにあると思います。ご活躍、念じております。
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