意思による楽観のための読書日記

日本の歴史を読み直す(全) 網野善彦 ****

日本歴史を、文字、貨幣、被差別者、女性、天皇、日本という国号などという視点から見てみたらどうなるか、これが前半。百姓とは単純な農民ではなかった、海と文化の伝播、荘園、悪党と海賊、などの切り口から見てみたのが続編である。

文字は漢字が伝わり、平かな、カタカナの混合文が広がっていったのだが、他国に比して日本は識字率の高い国である。江戸時代後期で50-60%程度、車夫、人足、女中であってもヒマがあれば本を読んでいたと明治初期に日本を訪れた外国人が日記に記しているという。仮名交じり文が出てきたのが10世紀あたりで、13世紀には文書の2割が仮名交じり、15世紀には50-60%が仮名交じり文になってきた。カタカナの文章も多くなり、神に誓う起請文、願文、託宣記、裁判での宣命書、落書などがカタカナで書かれてきた。平仮名は女性文字といわれ、古くは枕草子、源氏物語、から13ー14世紀のとはずがたり、竹向が記など女性文学の多くは平仮名である。これが明治になるとまたカタカナが増えてくる。

貨幣では和同開珎が8世紀、その後10世紀頃までは皇朝十二銭という貨幣が造られたが、その後は作られることはなく、宋銭など中国大陸からもたらされた貨幣が流通した。この間の例外は後醍醐天皇だけだったという。そして利息の起こりは農民に種籾を貸しだし、50-100%増しで秋に返済を求めた「出挙(すいこ)」である。ここから、農民を土地に関係づけて利息、そして年貢を集める仕組みが形成されていったという。

被差別の起源とも言われるやは検非違使により管理されていた。12世紀頃には祇園社の宮籠や猿楽なども検非違使による管理対象だったともいう。この時代の寺社の直属していた神人(じにん)や供御人(くごにん)もとされる学説もあるが、こうした人々は神に直属する特権者であったと著者は主張する。8世紀に成立した律令国家は、土地からの逃亡者や病人、弱者などを救済するため悲田院や施薬院を設立、光明皇后の仏教への帰依から救済された、と記録されている。一方的に差別されてきたわけではなくて、国家として土地と農民以外の人々へのガバナンスをなんとか聞かせようとしてきたのではないか、という指摘である。

国家による年貢などの徴税と、仏教による精神的な救済は表裏一体となっていたかもしれない。江戸時代には確立していた士農工商エタ、という差別意識は12ー14世紀頃にはまだ形成されておらず、仏教や神社の行事、布教などと国家統制が絡み合って人々の差別意識は混沌としていた。こうした差別への意識には東西格差が大きく、今でも関東以北にはほとんどが存在しないのは、この時代からの文化の違いが影響しているかもしれない。

ポルトガル人のルイス・フロイスは、戦国時代にキリスト教の宣教師として来日、1562―1597年長崎や京都で布教、その時代の風俗などを膨大な書物にして書き残しており、当時の庶民の結婚についても述べている。フロイスの記述によると、結婚までの女性は自宅で男性の来訪を待ち、それも結婚候補は複数が一般的。男性も訪問する女性が一人だけでは不安なので、数人の女性の家を回っていたと記述している。結構開けっぴろげでおおらかな感覚だったようで、結婚は神との誓いに基づく一生の約束事だ、というキリスト教的倫理観から見たフロイスは驚いている。江戸時代には女性の庄屋はほとんど見られなかったが、それ以前には女性の荘園主や戸主もいて、女性の地位は江戸時代よりも高かったのではないかと推測できる。

天皇と日本という称号と国号が遣われ始めたのは壬申の乱以降、持統天皇以前には天皇も日本という国家認識もなかった。真言宗と天台宗が最澄と空海によりおこされる頃には天皇と仏教が国家支配権力と仕組みとして成立した。しかしその後も平将門の乱、藤原純友の乱に見られるような反乱は続いており、天皇による国家支配は安泰ではなかった。その後も後醍醐天皇の時代とその後の南北朝時代、足利義満の時代、織田信長の時代に危機を迎えたが、義満や信長の死亡で事なきを得たのだという。

百姓とは農民のことである、という思いこみが一般にも学者の間にもあるが、それは間違いだという。漁民、廻船の民、大工、鋳物師、賭博師、女郎、山の民、など様々な人たちがいて、百姓とはそうした武士以外の数多くの人たちを指し示す名前だったのではないかという指摘である。このことを前提に歴史を見直してみると、飢饉や租税徴収、荘園管理と管理対象だった百姓、海の民(海賊)や山の民(悪党なども含む)への捉え方が違ってくる。一遍上人が様々な階層の人々と関わり合ってきたことを示す絵が沢山残っているが、そうした布教活動が宗教の教えを広めるのに有効だったと言うこと、人民とは士農工商だけではなかったという主張である。

日本歴史を様々な視点から見直してみるということ、実に有益なことだと思う。
日本の歴史をよみなおす (全) (ちくま学芸文庫)

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