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意思による楽観のための読書日記

ルポ 貧困大国アメリカII 堤未果 ****

2010年に本書を読んだ。実録インタビューを中心に、教育ローン問題、社会保障の崩壊、医療保険問題、刑務所問題を取り上げた一冊。内容はそちらを参照してほしい。2009年からのオバマ政権発足で国民健康保険の導入、皆保険制度を謳った「オバマケア」に期待したリベラル派、民主党支持者だったが、保険業界のロビー活動で骨抜きにされ実現しなかった。私自身も1998-2000年に家族4人でカリフォルニアに暮らしたが、医療保険と医療費の高さに驚いた。個人で加入する医療保険は歯科医を除く健康保険掛け金が月額家族4人で900ドルだった。当時の為替レートは135円程度なので、月121500円となり、年額145万8千円。これ以外に歯科医療保険があり、アメリカでは、会社が負担する場合もあるが、年金も健康保険も個人で民間の保険会社と契約するので、保険料は大きな家計負担となる。老後2000万円問題が日本でも話題になったが、アメリカでは2000年当時でもリタイヤ後は夫婦で50万ドルが必要だといわれていた。

そもそも医療費が異常に高騰していて、プライマリーケア(かかりつけ医)の数も不足しているため、無保険者だけではなく保険加入者であってもちょっとした体の不具合程度では医者には掛からない人が多かった。"You Sick、We Quick!"というキャッチフレーズのドラッグストアが増えていて、医者による診断なしに手っ取り早く薬が買える店が増えていた。薬の処方を理解せず子供に飲ませてしまう親も多くて、子供の薬の過剰摂取の問題が表面化していた。それでもがんや大けがでは入院が必要となり、医療費負担で破産宣告者となる家庭が増えていた。ER(救急搬送)者は病院も受け入れ義務があるので、無保険者がERで運び込まれた病院は医療費が払えない患者に代わって費用負担が必要となり、経済的に立ち行かない病院が破綻していた。医療保険を民営化したため、医者と患者の間に民間保険会社が入り込んでしまった結果がアメリカの医療制度の病巣だという指摘である。

ほぼ同じ構図が教育奨学金でも表面化している。大学に進学すると、親は子供に車を買い与え、子供は自立、アルバイトしながら奨学金を借りて卒業。卒業後に数年かけて奨学金を返す、というのが理想的なモデル。1960-70年代までのアメリカではこれが実現していて、親の世代は今でもその通りだと思い込んでいる人が多いというが、現実は大きく変わってしまっている。まず学費が高い。値上がりが激しいが2022年時点で州立大学は州住民なら1万ドル、州外者は2-2.5万ドル。私立大学は4-5万ドル程度が相場。寮がある場合には寮費、アパートを借りるならそれ以外の生活費がこれに加わる。成績優秀者への奨学金と経済的恵まれない学生への奨学金があり返済条件も異なるが、家庭の経済状況と成績が正の相関があるため、経済格差は否応なく拡大する仕組みとなり、返済力が少ない家庭ほど、返済義務は卒業後の学生自身に降りかかってくる。

学費ローンには自己破産制度が適応されないため、学生には逃げ場がない。学費保険の債権は国営機構であったはずのサリーメイが買い取るが、株式が公開され民営化された結果、最長25年にわたり厳しく取り立てる組織となり卒業生を苦しめている。一度でも支払いが滞ると延滞金が課され、利子が膨れ上がる。学資ローン制度は国民が気づかないうちに変質してしまった。リーマンショックで職を失うと、奨学金を返せなくなる人も多く、サブプライムローン問題で注目された住宅ローン地獄でホームレスになる人たちも含めて、経済的分断が大きな問題となっている。借金に苦しんで罪を犯してしまうと、今度は刑務所ビジネスの餌食になる。第三世界に外部委託するよりもはるかに安く文句も言えない刑務所労働者たちは、企業の外注先として便利に使われている。自由市場主義と民営化による組織運営効率化の結果が、アメリカにおける教育、医療の根本をむしばんでいるという本書。2024年時点では実態はもっと進んでいて、日本での民営化の議論でも直視すべき指摘である。
 

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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