2019年5月30日(木)、トランプ大統領は、メキシコがアメリカへの不法移民流入を止めなければ6月10日から同国からの輸入に5%の関税を発動するとツイートした。
不法移民流入抑制ができなければ関税は1か月ごとに5%引き上げられ、10月には最高の25%まで引き上げられる予定。
メキシコ・カナダとの貿易協定交渉は山を越えたとほとんどの人が思っていたため、このちゃぶ台がえしのニュースは世界中に大きな衝撃を与えている。
そこで、いったいどうして今この時期にメキシコの関税引き上げなのか調べてみた。
すると、この数か月、メキシコからアメリカへの不法入国者がこの10年なかった勢いで増加していることがわかった。
出所:U.S. Customs and Border Protection
上は、アメリカの南部国境地域で拘束された不法入国者の推移。
リーマンショックの少し前から拘束された不法入国者が減少し、2011年以降は年40万人前後で安定していたことがわかる。
アメリカ国土安全保障省は、国境警備の効率化・強化により年々、不法入国者の拘束率が上がっているとしている。
このことを考えると、実際に不法入国した者の数(拘束されなかった人を含む)はむしろ減少していた可能性が高いと思われる。
ところがこの数か月に大きな変化が起きていた。
出所:同上
上は月単位でみた拘束された不法入国者数である。
直近のグラフが急に立ち上がっていることがわかる。
拘束者数は2019年1月までは5万人前後だったのが、2月は6.7万人、3月は9.3万人、4月は9.9万人とわずか3か月で拘束者が倍増している。
今回の関税引き上げの背景には、こうした不法移民の急増があったのではと思われる。
ところで、どうして今年の2月から急にアメリカへの不法入国が増えたのであろうか?
ニューヨークタイムズはこの問題について、トランプ大統領が「不法入国が減らなければメキシコとの国境を閉鎖する」との発言を繰り返したため、駆け込みで入国しようとした人が増えた可能性を指摘している。
ちなみに、メキシコはトランプ大統領の批判とは少し違って直近数か月は不法入国者抑制にかじを切っている。
すなわち、2018年12月にメキシコ大統領に就任したロペス・オブラドール大統領は就任当初、人道的立場からホンジュラス、グアテマラ、エルサルバドルなどメキシコの南に位置する国々からアメリカを目指す人々のメキシコ入国(通過)を黙認した。
しかし、これをトランプ大統領が強く批判。また押し寄せた移民によって財政負担が大きくなった国境沿いの地方自治体から不満が噴出するようになった。
このためロペス・オブラドール大統領は路線修正を余儀なくされ、この数か月は中米からの入国者の強制送還を増やすなど不法入国者の抑制をはかっていた。
ただし、先に述べた背景などからアメリカへの不法入国は減らず、それが今回の関税引き上げ宣言につながったと考えられる(メキシコ政府による強制送還が逆に急いでアメリカに向かう人々を増やした可能性もある)。
この問題は、貿易問題というよりは不法移民・不法入国の問題であり、これからはじまる大統領選挙の戦略上、トランプ氏が譲歩することの難しい問題である。
今後の推移を引き続き注意してみていきたい。
2019/6/2追記
ニューヨークタイムズ(2019/6/1)によれば、2019年5月30日(木)、ホワイトハウスのマルバニー氏は「我々は国境を超える人数で判断する。そして、その人数はただちに顕著なレベルで減少を始めなければならない」と発言した。
2019/6/6追記
2019年6月5日(水)、米税関・国境取締局(CBP)は5月に南部国境で拘束された不法入国者が132,887人になったと公表した。