2018年2月12日(月)、トランプ政権は2019年度の予算教書を発表した。日本での報道も多いが、備忘録もかねてここに要点をまとめておく。
< 経済見通し >
予算教書では、今後3年間、平均3.1%の経済成長を見込んでいる。
一方、連邦準備制度理事会(FRB)は同期間の経済成長率を2.2%と予想しており、多くの米メディアが政府予想を現実的でないと批判している。
< 予算額と赤字額 >
しめされた2019年度の予算額は4.4兆ドル(480兆円:1ドル=110円)。
それによって生じる2019年度の赤字額は9840億ドル(110兆円)。
また今後10年の赤字総額は7兆ドル(770兆円)と見込まれている。
景気絶好調の時期に、これだけ財政赤字を拡大させるのは珍しい。
事業家時代、トランプ氏は「借金王」という異名をもっていたが、それを彷彿(ほうふつ)とさせる予算案になっている。
< 福祉予算のカット >
アメリカでは昨年末に大規模減税法が成立した。これにより10年で赤字が約1.5兆ドル(160兆円)増加すると見込まれている。
こうした赤字を埋め合わせるため、予算教書では福祉予算の大幅なカットが提言されている。
具体的には、①低所得者向け公的医療保険であるメディケイド、②65歳以上と障がい者が加入する公的医療保険メディケア、③低所得者に対する食費補助制度(通称フードスタンプ)にかかわる予算を10年間に1.8兆ドル(200兆円)削減する。
また福祉給付を抑制するため、フードスタンプの受給や低所得者向け公営住宅への入居条件に「働いていること」を加える(ニューヨーク・タイムズの記事)。
このほか予算教書は環境省予算の大幅カットなどを盛り込んでいる。
< インフラ投資と軍事費の増額 >
このように歳出を大きく削減しながら最終的に赤字が増えるのは、軍事費の大幅増額が盛り込まれているからである。
予算教書は、2年間で軍事予算を1950億ドル(21兆円)増額するとしている。
予算教書はまた、今後10年で2千億ドル(22兆円)のインフラ投資をおこなうとし、2019年度には446億ドル(5兆円)をあてるとしている。
< 予算教書が現実化する可能性 >
アメリカで予算を作るのは議員であり、政府には予算を作成したり、予算を議会に提出する権利は認められていない。
予算教書はあくまで政府の希望を示すにすぎない。
先日、議会の共和党と民主党は、今後2年間に政府の債務上限を3千億ドル(33兆円)引き上げることで合意したが、同時にその内訳つまり使い道についても基本合意している(詳しい説明はこちら)。
今回の予算教書は時間的な制約から、議会の合意を踏まえたものになっていないのであるが、とくに非軍事部門の支出について大きな違いが生じている。
予算教書はインフラ投資を除く徹底した非軍事支出の削減を唱えているが、議会は軍事とともに非軍事部門の歳出を大幅に増加させることで合意している。
今年11月の中間選挙をひかえ、共和党、民主党両方から予算教書への批判がでている(たとえばワシントン・ポストの記事)。
最終的には、さきの議会合意の線でまとまるのではないだろうか。
ただ、そうするとさらに財政赤字が拡大することになる。
長期金利をはじめとした経済への影響をしっかり見ていきたい。