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名曲はなぜ時代を超えられるか

2005-12-03 18:00:10 | 音楽一般
「Joshua Redman(ジョシュア・レッドマン、ts,as,ss)はジャズの後継者である」一時期よく言われていたキャッチコピーだよね。
これ、その通りだと思う。
この人はジャズの革新者ではなく、また牽引者でもないと思うけれど、これまでのジャズの後継者で、これからのジャズの推進者であることは間違いないと思う。
この人がジャズの伝統を色濃く踏襲して、その基盤の上に今日的でフレッシュな感覚を反映した演奏活動を行っていっているというのが、一般に「ジャズの後継者」なんて言われる理由でしょう。ただ、僕がこのキャッチコピーに諸手を挙げて賛成する理由はそれだけじゃない。
この人が「ジャズの後継者」で「推進者」である理由は、この人が「名曲が名曲である所以」をきちんと理解していて、それを「ジャズのフォームで語る」ことが彼の音楽だからだ。
この「名曲が名曲たる所以」が今回のテーマね。

名曲は時代を超える。
決して色褪せずに、いつまでも新鮮な感動を与え続ける、そういうものだ。
どんなジャンルでも、凡百の佳曲は一時的な感動は与えてくれるかもしれないけれど、いずれは愛着や思い出になって記憶に埋もれていく。
「懐かしいねぇ」とか思われてるような半端な佳作なんて目じゃない。本当の名曲は語り継がれるのではなく懐かしまれるものでもない。時間の経過に関わらず常に聴き手自身と共にあって、その時代におけるリアルタイムな感動を与えてくれるものだと思う。何十年経とうが、いつ聴こうが関係ない。常にリアルタイムで生き続ける。
文字通り「時代を超える」んだ。
そんな「佳曲」と本当の「名曲」のあいだに横たわる差って一体なんなのか、名曲はなぜ名曲なのか、どうして時代を超えることができるのか。
そんな、言葉にできそうでできなかったことを、はっきりと言葉にして僕に知らしめてくれたのがJoshua Redmanだったのさ。
ちょっとながーい引用になるよ。



君に物語を語る歌がある。それは、君をある情趣で覆い、旅へと誘う。君の前に像を描き、情景を設定する。主人公たちが形成され、台詞が書かれ、筋が設定される。そしてそれが良ければ、すなわち、巧みに構築され、万全に練習され、細かに演じられれば、もしも的がすべて外れていなければ、それは強烈で圧倒的なインパクトを達せられる。強力な印象を君に与え、魅了し、興奮し、楽しませる。だが、思いはつかの間。インパクトは儚い。その物語は、いかに効力があろうとも、ある時間、場所、はたまたスタイル的時代や文化的空間に帰属する。それは過度に書き込まれ、その字義通りさ故に滅してしまう。歌は廃れ、ノスタルジアに行き着かざるをえない。どんなにそれが当初君を感動させようと、いずれは遅かれ早かれ、君は前に進む。そうする時、君は歌を置いていく。

かと思えば、君自身の物語を語らせる歌もある。この歌は、君にどう感じるかを問う。君が行きたいところへと君に案内させる。それは、カンバスを、色のパレットを、事によれば仮のスケッチまでをも用意するが、絵筆は君に託す。それは、君の周りに舞台を作り出す。
~中略~
物語は君自身の想像力の発揮する余地をたくさん残している。君を関与させている。それは、許容するばかりか要求する、君のさらなる参加を。そしてそれが良ければ--強力であれば、創造的であれば、魅惑的であれば--その情動的体験は、より一層深いものになる。なぜなら、君がその創造において重要な役割を果たしたからだ。その感動は長く続く。なぜなら、それは内側から発せられ支えられているからだ。物語には永続性がある。なぜなら、それは君がどこにあろうと、どこで語ろうと、君自身の中を流れているからだ。その歌は永遠だ。不滅だ。それは常に君とある。なぜなら「歌はあなた」だからだ。

これが、正にジャズミュージシャンが求める歌である。ジャズミュージシャンはただ演奏する歌を探しているのではない。彼は”共に演奏する歌”を探している。彼は演奏する素材を探しているのではなく、”解釈を施す素材”を探している。ジャズミュージシャンを惹きつける歌は、不老の美しさと無限の可能性を持った歌だ。答えをくれると同じくらい問いかける、決定する以上にほのめかす歌。ジャズミュージシャンにとっては、歌がよい物語を語るだけでは決して足りない。なぜなら、ジャズミュージシャンにとって最も価値あること、そして最大の閃きを与えてくれるものは、物語ではなく、物語を語るという行為そのものだからだ。



以上。
これはJoshuaが、自身のアルバムに寄せてライナーに書いた文章の一部分を、ほぼそのまんま抜粋したものね。
これ読んだとき、俺ハッとしたよ。
ああそうか、だから名曲は名曲なんだ、時代を超えられるんだ、って思った。
物語を語るだけの曲は、その物語が克明に語られれば語られるほど、時代の世情や世相、風俗を反映してしまうがために(過度に書き込まれ、その字義通りさ故に)時代に縛られる。
それがいかに美しく繊細な描写であろうと、時代に縛られた感性はいつかは色褪せてしまう。
対して名曲は縛られるものが無い。
「描写する」のではないからだ。
名曲って、聴き手に「描かせる」ってことなんだね。
「解釈を施す素材」であること。「答えをくれると同じくらい問いかける」ものであること。「決定する以上にほのめかす」ものであること。
そういうことなんだね。
名曲は、解釈するのは聴き手自身であるが故に、問いに対する答えを出すのは常に聴き手自身であるが故に、聴き手に対してなにも決定せずにほのめかすにとどまる故に、常に聴き手の「その時点での感性」を反映した物語を思い描かせる。
描く、語る、創るのが聴き手自身である以上、その情動は常に聴き手の生きる時間、生きている時代と共にある。
つまり「いつの時代でも普遍」なんだ。

この「普遍性」を「ジャズのフォームで歌うこと」がJoshuaの音楽だということ。
「普遍性をジャズのフォームで歌う」という姿勢でいる限り、Joshua Redmanは「ジャズの後継者」であり、「ジャズの推進者」であり続けるはずだ。というより、それ以外ではありえないでしょう。
上記引用の文章はアルバム「Timeless Tales」のライナーのもの。
聴け!、みんなこのアルバムを聴け!。
Joshua Redmanを聴け!!!。


4 コメント

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聴かずばなるまい (penkou)
2005-12-08 13:11:19
TAROさん。恥ずかしながらJoshua Redmanって知りませんでした。でも論考?を読んでたらこりゃ聴かずばなるまいと、これ聴かなくっちゃJAZZを語れないのではないかと・・・そこでちょっと教えていただきたいのですが、一枚といったら「Timeless Tales」でしょうか。
返信する
penkouさん (TARO)
2005-12-08 18:32:10
Joshua RedmanはDewey Redman(デューイ・レッドマン、as,ts)の息子ですね。

お父さんもOrnette ColemanやKeith Jarrettと活動を共にしたりそれなりに有名な人ですが、今では息子の方がメジャーになってしまいました。

この人を聴かないとジャズを語れないなんていうことはまったくもってありませんが、こういう新世代のアーティストがメインストリームを張っていくというのは、ジャズファンとしてはうれしい限りです。

お勧めのアルバムを1枚に絞るのはちょっと難しいでしょうか・・・・・最近はリズムマシーンや打ち込みなどエレキ方面へと傾倒し始めているので、近作にまっすぐなジャズを期待するとがっかりされるかもしれません。



本文で紹介した98年の「Timeless Tales」は、純アコースティック路線の今のところ最後のアルバムで、今までオリジナルを中心としてきたところを、ジャンルにこだわらず演りたい曲をカバーするというコンセプトのものです。

この人の「モロジャズ」路線をお聴きになりたいのならば、やはりキャリアを積んだ分、このアルバムが一番洗練されているかもしれません。ジャズピアノの改革者(になれるか?)、Brad Mehldau(ブラッド・メルドー、p)も参加してますしね。実はMehldauはJoshuaのレギュラーグループ出身なんですね。



エレキ路線はまだ試行錯誤の実験段階という感じですし、また僕個人もエレキより圧倒的にアコースティック志向なので、あまり心からお勧めはできないのですが、近作の「Momentum」を挙げておきます。



個人的によく聴くのが、デビューしてこれは3作目になるのかな?、93年の「Whish」です。

まだ24歳だったJoshuaが、Pat MethenyやCharlie Hadenといった、当時のジャズ界の巨匠(今でも巨匠ですが)たちとのピアノレスカルテットで、がっぷり四つで渡りあう名盤です。

リズムに対する反応が緩慢なところがあり、まだまだ「若い」演奏ですが、もともとあまり感情に任せてハードブロウしたりせず知的にメロディを綴っていくタイプなので、落ち着き払った堂々たる演奏ですよ。



まあこんなところでしょうか・・・・・「一枚」と言われて3枚も紹介してしまいましたね・・・・・なにやってんだろな僕は(笑)。



ではでは。
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よし聴いてみよう! (penkou)
2005-12-09 17:08:40
TAROさん。ありがとうございます。

まず「Timeless Tales」を聴いてみますね。僕もアコースティック志向なので、どうやらその次は「Whish」になるのでしょうね。名盤といわれるとどうしてもね・・・ピアノがすきで、ビル・エバンスは勿論ですが、気がついてみるとやはりキースジャレットをよくかけています。でもピアノレスといわれると、それもまた面白そうで、よし!聴いてみようという気になってしまいます。

それにしても凄いなあ、TAROさんは。これからもどうか宜しくお願いします。

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>penkouさん (TARO)
2005-12-09 17:29:29
こんにちは。



僕もやはりピアノが大好きです。

楽器の中で一番洗練されているのがピアノだと思っています。

ジャズに関して言えば、ピアノは遅れて入ってきた文化ですが、やはり表現力は他の追随を許さない幅広さがありますね。



>キースジャレットをよくかけています。



僕もKeith好きですよ。

KeithとHerbieとChickが、現代のジャズピアノシーンの中核、発端になっていると思いますが、3人ともすこぶる強力なクラシック音楽の素養をベースに持っているのが窺えますよね。

ピアノそのものがクラシック音楽の粋を集めたような楽器ですし、その底知れないポテンシャルをもっともっとジャズに生かして欲しいと、切に思いますね。



そちらもちょくちょく覗かせていただいています。

これからも宜しくお願いします。

ではでは。
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