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パウエル派とエヴァンス派2~エヴァンス以降のジャズピアノ~

2005-12-26 22:37:59 | ジャズの話題
長らく放りっぱなしでした。年末なんで忙しいって言えば忙しいんだけど、なんも書かなかったのは単におサボリさんだったのでした。
とりあえず何か書いとかないと人来なくなっちゃうので、何か書きます(笑)。
ええと、どうすっか・・・・・じゃあ以前書いた「パウエル派とエヴァンス派」という記事の続きにあたるものを書くことにする。両方合わせて読んで頂ければより理解が深まる・・・・・ようなものにしたいなぁ(笑)。
前回はバップピアノを結実させたBud Powell(バド・パウエル)と、Powell派を脱してモードイディオムに即したピアノ奏法を定着させたBill Evans(ビル・エヴァンス)、両者がジャズピアノの奏法に及ぼした影響と功績を、大雑把に書いたんだよね。
今回はPowell時代のPowell派以外のピアニストと、Evans以降のEvans派の変遷、そしてほんの最近起きはじめた「脱Evansu派」のピアノ奏法を採りあげてみたいと思う。

40年代から50年代、バップ期におけるPowellの影響力は絶大で、それこそ当時のピアニストはみーんな「Powell派」だったんだ。
Wynton Kelly(ウイントン・ケリー)、Red Garland(レッド・ガーランド)、Tommy Flanagan(トミー・フラナガン)、Mal Waldron(マル・ウォルドロン)、Kenny Drew(ケニー・ドリュー)・・・・・まだまだいるな。ちょっとここでは挙げきれないくらいバップピアニストってたくさんいるけど、この人たちはみんな奏法上はPowellのコピーっつうか猿真似っつうか・・・・・つまり「Powell派」なのね。
別に元祖に価値があるとは思わないし、同じ奏法でも個々人それぞれのパーソナリティが画一化されるわけではないんだから、別に構わないんだけどね。ただGeorge Wallington(ジョージ・ウォーリントン)とかね・・・・・黒人差別が大手を振ってまかり通っていた時代に、白人ピアニストたちまでその影響下に置いてしまったっていうのは・・・・・「Powell派」の一言でジャズピアノの半分以上が括れてしまうのは動かしようのない事実だよね。
Powellの影響力ってのはスゲェなって思う。

で、このように60年代あたまくらいまで圧倒的だったPowell派だけど、それ以外の往き方を採った派閥がないでもなかった。
まずバップ初期のキーパーソンでもあるThelonious Monk(セロニアス・モンク)。
この人はPowellの先輩格に当たり、バップイディオムを踏まえつつも、スタイル的にはそれ以前のストライドやスイング(左手の等間隔のリズムによる伴奏や、4分音符より長い音を多用したメロディなど)を基盤に持っていて、譜面に起こしきれない不均等な譜割りの強引な連符の多用や不協和な2度音程を頻繁に用いるなど、そのスタイルは極めて独自性の高いものだったのね。
多くのピアニストがMonkに捧げる吹込みを残しているけれども、どれもMonkの曲を採り上げたカバーアルバムの域を出ていない。
MKonkは「バップの高僧」って言われるけれども、バップどうのというより「ジャズピアノの高僧」といっていい、ワンアンドオンリーなピアニストだった。
もうひとつの「非パウエル」はLenny Tristano(レニー・トリスターノ)ね。
「Tristano派」とか「Tristano学派」とも呼ばれる一派を形成、クールジャズの一翼を担った盲目のピアニスト。
盲目故に鍵盤からなるべく手を離さずに演奏しようとしたために生まれたという、拍子や楽節を無視するような長めのフレーズ、さらには後のフリージャズにも通じるような試みをするなど、この人も極めて独自の路線を歩んでいた人ね。
ただ僕個人的には、Tristano学派は離れ小島で独自の活動に邁進したけれども最終的にはバップ派に同化していき、それほどの革新や影響は及ぼしていないような印象がある。
まあ、あの時代にPowellの影響の外にいたという点で、稀有な存在だったことは確かでしょう。

ハードバップが廃れていくまで主流を占めたPowell派に対して、モードに基を置いたEvans派はその後のジャズピアノ界の主流になる。
これはもうね、現在のピアノシーンを見ても、みんながみんなEvans派と言っていい。
現代のすべてのジャズピアニストのイマジネーションの源泉になっているHerbie Hancock(ハービー・ハンコック)、Chick Korea(チック・コリア)、Keith Jarrett(キース・ジャレット)の3人、そして現代のすべてのホーン奏者に圧倒的な影響力を持つJohn Coltrane(ジョン・コルトレーン、ts,ss)のグループのレギュラーピアニストだったMcCoy Tyner(マッコイ・タイナー)、99年に亡くなるまで幅広い音楽への対応力を見せシーンをリードし続けたMichel Petrucciani(ミシェル・ペトルチアーニ)、クラシックのテクニックに裏打ちされた耽美的な活動で独自の地位を築いているRichie Beirach(リッチー・バイラーク)、さらにはユーロジャズの最後の大物ピアニストといわれるイタリアのベテランEnrico Pieranunzi(エンリコ・ピエラヌンツィ)・・・・・この人たちはそれぞれ独自性のある活動をしながらも、大雑把に括ってしまえばやっぱりEvans派なのね。

でね、「Powell派とEvans派」という括りで語りつくしてしまえそうなジャズピアノの歴史に、ひさびさに新たな趨勢になりうる一石を投じたピアニストがいるのさ。
Brad Mehldau(ブラッド・メルドー)。
ドイツ系アメリカ人で、Joshua Redman(ジョシュア・レッドマン、ts,as,ss)のグループのレギュラーピアニストだったこの人は、ジャズピアノに新たなノウハウを持ち込み、独自の奏法を確立しつつある。よく書評なんかで書かれているのは「左手がコードを弾かずに自由に動く」とか「対位法的なアドリブ」ってやつね。
これまでのジャズピアノの左手っていうのは、ベースラインとコードを跨ぎ弾きするストライドか、スペースにコードを埋めていくバップピアノが主流、つまりはクラシックでいう「和声法」がベースになってた。これに対してMehldauは右手と左手が別々のフレーズを弾いてそれを対比させるという「対位法」的な演奏をするということね。
和声法と対位法ってのはクラシックの作曲法の技法で、和声法が「和音をいかに連結するか」という発想から成り立っているのに対して、対位法は「旋律をいかに重ねるか」というところから発想されてる。
例えば、等間隔の上昇形の旋律に対して同じ間隔で下降していく旋律を重ねるとか、ひとつの旋律に対して倍テンポの同じフレーズを重ねるとかね、バッハなんかでは4声とか5声のピアノ曲なんかもある。
もちろんクラシックでなくジャズの音楽家でも、作編曲をする人、特にオーケストラやビッグバンドのアレンジをするような人たちなら、和声法も対位法も身に着けていて当たり前なんだ世。だけど、ピアノにおけるアドリブにそれを持ち込んだというのは、それまでのジャズピアノの演奏から考えればもう飛びぬけて革新的なことなんだよね。
Mehldauの「対位法的な演奏」は、まだ2声の留まっているようだけど、彼の演奏には強力なクラシック音楽の素養が感じられるよね。

さて、Mehldauのこのピアノ奏法は、ジャズピアノの新たな スタンダードになりえるでしょうか?、って、これはまだまだ時間の経過を待たなくてはいけないでしょうね。
しかしこれはスゲェぜ。2声以上のフレーズを同時に考えてインプロヴァイズしていくってのは・・・・・これが当たり前になったときに、ジャズはまた新たな可能性の扉を開けるのかもしれないねぇ、なんて。
ちょっと大袈裟かな(笑)。

ずいぶんと散漫な文章になったけれど、今日はこんなところにしておきます。
年内にまたなにか書きます。

ではでは。


6 コメント

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新年おめでとうございます (penkou)
2006-01-01 19:10:39
新年おめでとうございます。

新春早々TBさせていただきましたが、ご挨拶する前に僕のほうにコメントくださってありがとうございます。

暮れに娘がネットでジョシュアの[timeles tales」日本版を手に入れてくれました。店になかったので。

冒頭のサマータイムのアップテンポにはチョット参りましたが、その後からのバラードっぽいプレイはとてもいいですね。

TAROさんの書かれたジョシュアのメッセージは読み返してみると、建築にも通じるとても大切な言葉だと思います。いずれ僕のブログでも考えてみたいと思います。

エバンスとジム・ホールのDUOは、飲みながら聴くと堪えられませんね。これから僕も聴いてみよう。

今年もなにとぞよろしくお願いします。
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>penkouさん (TARO)
2006-01-01 20:30:13
や、おめでとうございます。



休みなのをいいことに飲みながらジャズ・・・・・僕はもうベロベロで、新年早々ダメダメ人間への道を爆走しております。

もうダメダメですなぁ(酔っ払い)。



今年もちょくちょくかまいに来てやってくださいませ。

ういーっ(笑)。
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おひさしぶりです。 (saku)
2006-01-25 14:51:35
一時期、更新がとまってたのでてっきりやめてしまわれたのかと思い遠ざかってました^^;

なんとなく来てみたら、更新されていたのでびっくりしましたよ。

そんなこんなで、またよろしくお願いします。
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>sakuさん (TARO)
2006-01-25 16:59:29
や、おひさしぶりです。

しばらくネットから離れていたんですが、どうにか再開しました。

また好き勝手書いていきますので、お付き合いいただければと思います。

よろしくお願いします。
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TB有り難うございます (狛犬)
2006-02-17 18:25:01
私はピーターソンから入り、当然の如くパウエル派を聞いていました。女々しい友人がエバンスを聞いていたので、毛嫌いして聞きませんでしたが、今ではどちらかと言えばエバンス派になってしまいました。

基本的にピアノ・トリオなら何でもOKの単純人間ですか、よろしくお願いします。

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>狛犬さん (TARO)
2006-02-17 19:20:56
はじめまして、当ブログの管理人をしておりますTAROと申します。

わざわざのご来訪、ありがとうございます。



一般的に流布している、「エヴァンス派は耽美的、糖分多目。パウエル派はリズミックで男らしい」という認識はどこから来ているんですかね?。

エヴァンス派にもMcCoy Tynerとかガガンガガンと鍵盤をぶっ叩くような人もざらにいるし、逆にパウエル派だってMal Waldronのような耽美派もいますよね。

僕はこの「~派」を、音楽の雰囲気ではなく単に奏法上の違いというふうに捉えていたのですが・・・・・一般的な解釈とは少々違っているのでしょうか?。



そちらのブログもちょくちょく覗かせていただきますね。

よろしくお願いします。
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