Jazzを聴こうぜBLOG版

100の質問配布中。
カテゴリーの「100の質問」からどうぞ。

その曲の「本当の姿」ということ

2006-03-27 20:48:00 | 音楽一般
今回は「その曲がそうあるべき本当の姿」ってことを書こうと思う。
これは僕が信じて疑わないことなんだけど、「音楽をやる人間は、まずはトラディショナルな名曲を追いかけてればそれでいいんだよ」なんていう、ちょっと説教くさい話ね(笑)。

Amazing Graceって曲あるでしょ。
教会音楽、そしてゴスペルソングの定番として、アメリカの黒人たちの間で連綿と歌い継がれてきた名曲だよね。
作詞作曲とも1700年代後半といわれていて、出自に関してはスコットランド民謡とか黒人霊歌とか色々な説があるんだけど、現在ではもう知らない人はいないってくらいポピュラーになってるよね。
もう10年くらい前かな、僕はこの曲が大好きで、色々なアーティストのテイクを集めていた時期があったのね。
「これはこんなリズムでやってんだぜ!、これはこんな編成とこんなアレンジで・・・・カッコイイだろ!」なんて、歌ものからインストまでね、自宅に来た友人に聴かせて自慢したりしてね(笑)。

あるとき友人のミュージシャンの家で、例によって持参したこの曲の音源を聴かせまくってたときに「TAROくんね、ひとつの曲にはその曲が書かれた動機と歌い継がれた理由っていうものがあって、その曲がそうあるべき本当の姿ってものが必ず存在するものなんだよ」って言われたのね。「本当にその曲を深く解釈して、結果としてそのアレンジや編成にたどり着いている演奏って、実は結構少ないもんだよ。どれもお手軽に感じるんだよね」なんて。
そのときはね、「なに偉そうなこと言ってんだ。カッコイイもんはカッコイイだろ」って思った。事実そう言葉を返したし、その友人の言ってることなんて天から信じていなかった。
したらね、その友人は「これ聴いてみて」っていって、1本のビデオテープを再生したのさ。
どこかの素知らぬゴスペルクワイヤが、どこかのボロッちい小さなホールでAmazing Graceを歌っていてね、そのテープはその友人がニューヨークに行ったときに生撮りしてきたものらしくて、映像も音もお世辞にも良いっていえたもんじゃなかったんだけどね。
飾りっ気も何もなくほとんど譜面どおり忠実に演っていて、伴奏もピアノ1台で平均的なゴスペルっぽく6/8で「デデデ・デデデ」って、単純で極めて簡素な演奏。しゃれたアレンジもカッコイイフェイクも何もなし。どっちかっていうと泥臭くてダサめな演奏だったんだけど・・・・・これがね、凄かったんだよ。
痺れた。
あのときの衝撃ってのは、ちょっと言葉では上手くいえないんだけどね・・・・・みんなくだけた感じで気楽に歌っているんだけど、ひとりひとりにどこかすごーく敬虔なところがあって、一本ピンと筋が通ってるのね。全員の声がだんだんとひとつになっていって、3コーラス目の頭だったかな?、転調してエンディングに向かうところなんてね、もう声と気持ちが正面からドカーーン!!!って(笑)、もんのすごく伝わってきてね。
ナニーッ!て圧倒された。仰け反った。こんなスゲェAmazing Graceがあるのか!って思った。
それまでは「音楽に伝統もクソもない。自由に、好きなようにやればいいもんだよ」なんて思ってたんだけど、一瞬で宗旨変え。コロッと説得されちゃった(笑)。
たったひとつのテイクをたった1回聴いただけなんだけど、この有無を言わさぬ説得力。
名曲って凄いなって思った。音楽って凄いなって思った。
また、その友人に対しても素直に尊敬の念を覚えた。1発で人を説得できるってのはね、特に僕みたいな理屈屋を簡単に宗旨変えさせてしまうってのは、それだけ当人がその音楽を深く感じていなければできないことだから。
あのビデオのテイクが、Amazing Graceの「本当の姿」かどうかは僕にはわからない。だけどそれまで僕が聴いてきたテイクより、より近い位置にあるっていうのは確かだと思う。
この経験からね、僕は音楽の奥深さっていうものを信じるようになった。人間の英知っていうか、歴史の重みっていうかね・・・・・以前の自分を省みると、なんだか現金で気恥ずかしいけどね(笑)。
「音楽に理屈はいらない」なんて言ってる人は、まだまだ音楽を深く感じ取っていない証拠なんだよ(笑)。

この曲ね、ジャズからソウル、果てはJ-POPのアーティストまで様々なアレンジで歌ってるけど、今になってみるとやっぱりピンとくるものは少ないような気がするね。
ちょっと前になんとかいう日本のヘタクソな歌手がチャラチャラ歌ってたでしょ。あれはもう本当に不愉快だったね。
お前はなにをどう勘違いしてこの曲を演ろうと思ったわけ?、この曲がなんだかわかってやってんのか?、本当にこの曲を深く感じて、自分で表現したいと思ってんのか?、適当にやってんじゃねぇよ、って(笑)。
アレンジしたりフェイクを入れるのが悪いって言ってるんじゃないよ。ただ、曲を解釈するためには「本当の姿」をきちんと知って、それを深く感じることが絶対に必要だっていうこと。
少なくともその姿勢は持って欲しい。
それがなきゃ上辺だけのチャラついた演奏にしかならないよって話。
ひとつの曲を演るときは、まずは譜面のとおりにやればいいんだよ。その曲の出自を深く探って、ひとつひとつの音符を忠実に追っていくことで、必ず感じるものがあるはずだと思う。
オリジナルなんて音楽を深く深く知ってからで十分。そうでなきゃ大したもん作れるわけないんだって。
だからジャズのミュージシャンはね、新人はまずスタンダードをやってればいいんだよ。
ジャズだけでなくどんなジャンルの音楽でもそう。
まずは古典的な名曲を忠実にやればいい。
凄い保守的で、年寄りくさい考え方だけどもね(笑)。

まあそんなところです。
以上。