そっと芸術  郷津晴彦のブログ

アーチスト郷津晴彦。展覧会の案内、『平和な小国』、流木作品、絵や彫刻、写真に小説、漂着物、超芸術トマソンなど。

飯村昭彦写真集『芸術状物質の謎』

2010-01-27 12:03:17 | 書評
写真家飯村昭彦の初の写真集が発売された。
『芸術状物質の謎』(雷鳥社刊)だ。

さて題名にある芸術状物質とは何か?
まずは表紙の写真をみてください。

こういうものです。
と簡単にすませてしまうが、勘所は「無作為」と「経年変化(人工の力が自然の力に負けてゆく過程)」だと思う。
誰かが考えずにこしらえてしまったものに、自然が雨風やら紫外線やらで味をととのえて、できてしまった「芸術状」の物。
飯村自身の文章を引く。
「町を歩いていると、時々誰が何のために作って展示しているのかと問いたくなる不思議な美しい物体に遭遇します。そういう目で観ると、世の中はそういう物体にあふれているのです。」
要は「その美しさにに気が付くかどうか」(飯村)だ。
別に気がつかなくても人生に不便はないが、飯村は気がつく。
そして静かに感動し、丁寧に複写する。
飯村の写真は本質的に複写だ。
物件そのものが完成された作品であるという考えから、写真家は、おのれをむなしうして、物件に対峙し鑑賞している。
すばらしい。

本書には、飯村自身による「展覧会場で作品を見ながら話すような文章」(飯村)が各写真ごとに添えられていて、それがまた良い。
抑制が利いた文章で、下卑た面白がり(面白がらせ)とは無縁だ。
大真面目の中にこそ真のユーモアはあることを、飯村は知っている。
読みものとしてもおもしろい、A5版、127ページ、全カラー、1600円+税、は、充分に見応えがあり、納得感がある。

なお本書収録写真のオリジナルプリントは、その多くが大判(4×5)で撮られたもので、その濃密さにおいて印刷の比ではないことを付言しておきます。機会があれば今後の展覧会場に足をはこばれることをおすすめします。

ところで飯村には「煙突男」の異名がある。
それは世間を震撼させた一枚の写真に由来する。
煙突の天辺に立ち(ああ恐ろしい)、一脚に据えた魚眼レンズつきカメラで撮影された写真。(ああ恐ろしい)
赤瀬川原平をして「馬鹿と紙一重の、その紙がほとんど破れかかっている」と言わしめたその記念碑的写真は、赤瀬川原平著『超芸術トマソン』(1985年 白夜書房刊。現在は ちくま文庫)の表紙をかざった。
本書『芸術状物質の謎』の副題が「あの男が煙突から降りてきた」となった所以である。


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2 コメント

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これは買わねば! (石黒敦彦)
2010-01-28 11:34:30
おお! 飯村さん、遂に!
さっそく!ぜひに購入いたします!
雷鳥社って、あんまり聞かない版元さんですね~。けれども、これを出すとは!慧眼!
買いましょう (ごうつ)
2010-02-04 11:49:41
こういう「商業的に成功」しにくいであろう出版物を買うときは、
aマゾンもいいですが、なるべく書店で、それも自分で探して黙ってレジに持って行くんではなく、
(わざと)店員に題名や著者を告げて(店員に印象付けて)、買うようにしたいものです。

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