改正道路交通法が9月19日に一部施行し、飲酒運転や悪質運転等の罰則強化をしたことは、よくご存じのことだと思います。
今年6月に道路交通法が改正されたわけですが、事案により施行にずれがあります。
聴覚障害者に関する改正施行は、6月20日公布後1年以内に施行ということになっており、遅くとも来年(平成20年)の6月19日迄に施行されることになっています。
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では、何が改正になったのだろうかというと、一番大きなことは、自動車免許取得時及び更新時に高度難聴者や聾者も門前払いにならなくなることです。
今までは、10メートル離れたサイレンの音を耳で認知できるのか、どうかで対応が違っていました。補聴器や人工内耳を装用することで聴こえるのであれば、「免許の条件欄」に「補聴器」と記載され取得も更新も可能ですし、補聴器を使用せずとも聴こえていたら、条件なしで可能でした。(この部分は、改正後も変更なしです。)
ところが、補聴器や人工内耳を使用していても、サイレンが鳴っていることが判断できない状態(聞こえない)では免許取得も更新もできません。
改正では、この除外された聴覚障害者に対し、一定条件を課すことによって、免許の取得や更新が可能となりました。(原付免許は付与されない。あくまで普通自動車免許が対象)
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<条件>
①ワイドミラーの義務付け
②聴覚障害者マークの表示の義務付け
これは、緊急車両対策でもあり、「聴覚障害者マーク」表示車両への幅よせ禁止等の安全対策であります。
このあたりの経緯については、このブログですでに取り上げていますので、確認してください。
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国会での審議内容を見ますと、より一層これらのことがわかります。この審議内容を、末尾に添付いたしますので、参考にしてください。
この審議内容を読む限り、これら義務事項だけでなく、坂道での安全確認など今後、免許取得の際、充分に学習する必要がありそうです。
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さて、「聴覚障害者マーク」ですが、9月13日に第1回目の会合があり、次の5項目が選定基準とされました。
1.聴覚障害者が誇りを持てるものであること
2.聴覚障害者を含むすべてのドライバーにとって親しみを感じるものであること
3.夜間や離れた場所からでも見やすいものであること
4.既存の様々なマークと混同を生じないものであること
5.外国人にも認知されるものであること
つまり、道路交通法上で認知されているマークはいずれも植物に関連したものであったが、「聴覚障害者マーク」はそれにこだわらなく、聴覚障害者が運転しているということがはっきり分かるものにするということです。
①初心者マーク・・・・青葉マーク →義務
②高齢運転者マーク・・紅葉マーク →義務
③身体障害者マーク・・クローバーマーク →努力義務
これら3つのマークと違い、植物にこだわらず、今回のマークは、マーク自体により「聴覚障害者」と認知できる要素を鮮明にするという考え方です。
また、外国人にも認知できるということは「耳」とか「みみ」とかの日本語をそのまま使用することはできないということになります。
これらのことに関連するのですが、初心運転者で75歳以上、かつ聴覚障害者である場合、どのようなマークを車に表示しなければならないのかということ、また、この様な条件であれば、聴覚障害者は身体障害者でもあり、努力義務のクローバーマークも表示しなければならないのかということに対し、この会合の事務局は次のようなニュアンスの回答をしています。
まず、義務事項である、①初心者マーク②高齢運転マーク④聴覚障害者マークは、いずれも表示すること。
③の身体障害者マークは、肢体不自由であることで運転に影響があり、操作をするということで身体障害者マークの表示を努力義務化していることが根底にあり、通常は、義務事項である「聴覚障害者マーク」だけで良いが、聴覚障害者で且つ肢体不自由な方であった場合は③の身体障害者マークも表示してほしい・・・という見解です。
ということは、最大4つのマークを表示する聴覚障害者も出てくることになります。(ベタベタと貼ることになってしまう。)
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いずれにしても「聴覚障害者マーク」は次回の会合、10月下旬でデザインの原案を選定することになります。その上でデザイン会社その他から公募をすることになりそうです。
尚、この審議の中で、ある委員から次の興味深い内容の話しもでてきました。
「国際的なマークについてであるが、世界ろう連盟の聴覚障害者を示すマークについて、考え方が変わってきている。マークは、耳を切ったような形になっているため、良いデザインではないという意見が強くなっている。また、耳をモデルにした考え方は、聴覚障害者にとって誇りにはできないという意見がでている。」
タクは、それって、どこの意見なのだろうと思いながらウーンと唸ってしまいました。
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<補足、国会成立時の審議の様子>
では、国会での決議にいたる審議内容です。
6月13日衆議院委員会決議(聴覚障害者部分抜粋)
○矢代政府参考人 申し上げます。
聴覚障害者の方につきましては、現在の制度は、これは欠格条件から外してはおる
わけですけれども、その適性として、一定の聴力があるかどうかというのを検査いた
しまして、それ以下の場合には適性がないということで免許が不合格になる、こうい
うことでございます。
それで、現在制度改正を進めようとしていますのは、聴力に係る適性基準、聞こえ
方の程度でございますが、現在の基準に合致しなくても、ワイドミラーを装着した車
を使うことによりまして慎重に運転してもらえばいいということで、まず、ワイドミ
ラーを装着した車を運転することを条件に、それからもう一つは、今回法律でお願い
しようとしているわけでございますけれども、聴覚障害者が普通自動車を運転すると
きに聴覚障害者標識を表示していただくということを義務づける、そういう条件で免
許を与え、運転していただく、そういうふうになってまいります。
(質問要略)ワイドミラーをつければ大丈夫なのか?
(略)実験いたしました。その結果、ワイドミラーを活用することによりまして慎
重な運転をいたすれば安全に運転できるという結論に達しました。
(略)
○柴山委員 (略)道交法の五十四条では、山道とか見通しの悪い場所、こういうと
ころでは警笛鳴らせという標識が立っていまして、そこに来ると、危険回避のために
警笛を鳴らすことを義務づけているわけですね、法律上。(略)
ぜひ御説明をいただきたいと思っております。
○矢代政府参考人 (略)結論的には、一定の訓練は必要なのでございますけれど
も、それは充足できるということでございます。
それから、一部の公安委員会、地方の公安委員会規則で、確かに、音または声が聞
こえないような状態で運転してはならないという規定がございますが、これは運転者
の遵守事項でございますけれども、これは健聴者の方々について、この方々は通常、
音が聞こえるわけでございまして、音が聞こえない状態というのは通常ない状況にな
るわけでございますが、そういう状況で運転してはならないということでございま
す。聴覚障害者の方々は、通常、音が聞こえない状況で生活しておられますので、実
質的な問題としては、これと同列には評価する必要はないだろうという実質的な判断
がございます。(略)
≪聴覚障害者部分終了≫
○河本委員長 これより討論に入るのでありますが、その申し出がありませんので、
直ちに採決に入ります。
(略)起立総員。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。
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<附帯決議>
一、聴覚障害者が普通自動車を運転する際の標識の表示義務については、周囲の運
転者が聴覚障害者に配慮すべきことを周知徹底させるとともに、今後、聴覚障害者団
体や関係者等の意見に十分留意し、必要に応じ見直しを検討すること。
一、聴覚障害者に対する普通自動車免許の付与条件の妥当性については、諸外国の
状況に配意し、引き続き聴覚障害者団体や関係者等との意見交換を実施し、必要に応
じ見直しを検討すること。
6月14日本会議
○議長(河野洋平君) 日程第三、道路交通法の一部を改正する法律案を議題といた
します。(略)
○河本三郎君 (略)本案の主な内容を申し上げます。(略)
第二は、(略)
また、七十五歳以上の者及び聴覚障害者は、普通自動車を運転する場合において
は、一定の標識を表示しなければならないこと等とするものであります。
○議長(河野洋平君) 採決いたします。(略) 起立多数。よって、本案は委員長
報告のとおり可決いたしました。