ケガレの起源と銅鐸の意味 岩戸神話の読み方と被差別民の起源 餅なし正月の意味と起源

ケガレの起源は射日・招日神話由来の余った危険な太陽であり、それを象徴するのが銅鐸です。銅鐸はアマテラスに置換わりました。

俳句のヒヨドリ

2007年09月24日 20時33分24秒 | いろんな疑問について考える
俳句のヒヨドリ
2001年8月4日

 奥多摩支部報「多摩の鳥」の特集でヒヨドリを取り上げることになった。それで以前から少しずつヒヨドリを詠んだ俳句を集めていたので、この機会に俳句のなかでヒヨドリがどう詠われているのかについてまとめてみることにした。これまでに66句が集まっている。まだまだ調べればあるが、一応これで傾向はつかめるだろう。
 そのまえに、なぜヒヨドリの俳句を集めることになったのか。それはたまたま読んでいた歳時記にヒヨドリの渡りを詠んだ句のあることに気づいたからだった。「俳人はよく見ている、よく自然に気づいているもんだ」とその時思ったのがきっかけだった。ただ、その句がどれだったのか、もう忘れている。
 66句の内容を大雑把に分けてみると、その声に気づいて、あるいは声に感じて詠んだものが25句、ヒヨドリの来ている植物、花、実などとの関係や連想を詠んだものが17句、渡りを詠んだものが8句、その他に16句となった。では、それぞれの俳句をみていこう。

ヒヨドリの渡り
鵯わたる空に起伏のあるごとく    中村明子
鵯の雲や渡りて日和山        各務支考
鵯渡り青つづらふじ実を垂りぬ    山谷春潮
海の鵯環る一樹を岬もてり     加倉井秋を
鵯海をわたらむとして木に射たる   山口誓子
裏佐世保ひよどりの鳴きわたりけり    巨江
鵯や霜の梢に鳴渡り         広瀬惟然
飛び鳴きの鵯や山川晴るゝ空    松根東洋城

 東洋城の句は渡りを詠んだものではないかもしれないが、山川晴るゝ空、というところがヒヨドリの秋の渡りの景によく合っているので、渡りということにした。加倉井秋をと山口誓子は海に出るヒヨドリを詠んでいるが、どこで詠んだ句だろう。もしかすると伊良湖岬かもしれない。そうすると支考の日和山というのもどこの日和山か気になるところだ。和船の時代、安全な航海のためには観天望気が欠かせなかった。その日和見をするのが日和山だから、全国各地にある。

ヒヨドリと植物
鵯や昼の朝顔花細し         正岡子規
樟多き田辺の町や鵯の秋         三山
椎の木や枝移りする鵯を見る     高浜虚子
鵯の南天につく小庭かな         泉石
鵯のこぼし去りたる実の赤き     与謝蕪村
鵯や紅玉紫玉食みこぼし       川端茅舎
ひよどりのかぶりてにぐ迯る椿かな      正秀
鵯こぼれ椿落ちしに非ざりし     高浜虚子
鵯が来てほたりと椿枝しなふ     高浜虚子
鵯来るや少くなりし花椿       高浜虚子
鵯の言葉わかりて椿落つ      阿波野青畝
わらはべ童のごとく鵯居る椿かな     阿波野青畝
鵯の矢を右往左往よ椿谷      阿波野青畝
椿に来る鵯にも会はず朝寝して    石田波郷
梅もどき日に日に鵯が実をこぼす    須美礼
鵯なくや山茶花のしべ蕋きいろなる      南草
柚照るやその葉がくれに鵯群れて   山谷春潮
ひよの来て鬨の声張る蜜柑山    久保田秋耕(伊万里市)朝日俳壇
鵯の声松籟松を離れ澄む       川端茅舎
鵯谺高杉の穂を逆落し        川端茅舎

 登場した植物は11種類で、朝顔、楠、椎の木、南天、椿、梅もどき、山茶花、柚、蜜柑、松、杉となった。なかでも椿が8句あって、ヒヨドリとの相性のよさ、縁の強さを示している。気がついたのは楠、椎の木、南天、椿、山茶花、柚、蜜柑はみな常緑広葉樹だということ。南天は秋から冬に紅葉するが葉は落ちない。
 わからないのは最初の正岡子規「鵯や昼の朝顔花細し」。朝顔は秋の季語だから朝顔とヒヨドリでどちらも秋でいいのだが、実際には朝顔は夏の花だし、ヒヨドリは秋になって、9月の末か10月はじめにやってくる。今でこそヒヨドリは留鳥だが、子規のころの明治なら冬鳥だったはずだ。でも、特集でヒヨドリのことを調べていて、まったく夏場に平野部で見られなかったわけでもなかったようなので、たまたまいたヒヨドリを子規が詠んだと解釈すればいいのだろうか。しかし、わざわざそんなヒヨドリと朝顔を取りあわせたりするだろうか。もっとも、朝顔だってけっこう秋になっても、いつまでも咲いている。こんな句があった。
  朝顔のつひ終の一花は誰も知らず     福田蓼汀
咲き終わりころの朝顔など、もうだれも見ていない。形をうしなって支柱にだらしなくからみついて、葉はすでに黄ばんだものもある。それでもせっせと朝な朝な咲いているのに気づいたことがあるが、でも最後の一花はどうだったか。

ヒヨドリの声を詠む
 ヒヨドリの声を詠んだ句は22句あり、「ヒヨドリと植物」の中にも、声を詠んだのがあるので、その中の3句を入れて25句になる。これらをさて、どう並べてみようか、と考える。声の種類を分けながら詠んでいくと、絶叫だの、けたたましだの、声の強さ、激しさを表現している句がある。そこで、声の大きさ、強さという珍妙な基準で並べてみることにした。もちろん客観的なものさしなどないから、筆者の感覚による独断である。

人のする絶叫なるを鵯もせる   相生垣瓜人
鵯のけたたましさはいつも不意   名越夜潮(広島市)朝日俳壇
鵯啼いてゐしとのみ他は想起せず  安住 敦
鵯の声ばかり也箱根山       正岡子規
鵯谺高杉の穂を逆落し       川端茅舎
ひよの来て鬨の声張る蜜柑山   久保田秋耕(伊万里市)朝日俳壇
鵯鳴いて山の静けさはじまりぬ     寒子
庭にゐる鵯山へ返事かな       みづほ
暮れてゆくひととき鵯の声の中     富治
鵯の声松籟松を離れ澄む      川端茅舎
この林泉の大きしづけさに鵯のこゑ   鬼灯
鵯の大きな口に鳴きにけり     星野立子
我なりを見かけて鵯のなくらしき  正岡子規
山葡萄含みて憩へば鵯鳴けり      遷子
このあしたまぶしき雪に鵯の声    悌二郎
大菩薩嶺ひよどり鳴ける朝は見ゆ 水原秋桜子
霜晴れの朝の目覚めに鵯の声      蕉影
鵯鳴いて時間できざむ朝始まる  星川木葛子
海荒れて見ゆる木の間や鵯の声     一轉
鵯鳴けり目から疲れてくる時刻   渡辺禎子
鵯なくは人のまがきか雪ふかし     皓二
鵯鳴くは紅葉の風のあなたなる    由多花
裏住のうら淋しさよ鵯の声       青々
鵯のことばここでは分り法隆寺   森 澄雄
鵯来鳴き水も落葉をうかべけり  水原秋桜子

その他のヒヨドリ俳句
  ほかに16句あるので、紹介だけしておこう。

水浴びし鵯すでに天翔ける     山口誓子
ひよが来た目白が来たと老夫婦   武内歌子(津市)朝日俳壇
霜凪ぎのそのしづけさを鵯ゆき来   悌二郎
林泉の雪鵯来て跡をとどめたり    たか女
黒潮の沖透くまゝに鵯の木々     まもる
鵯のしきりに来る日遠海鳴り    中村苑子
鵯の木の間伝ひて現れず      高浜虚子
鵯の来てとまる枝きまりをり    高浜虚子
鵯に立別れゆく行脚坊         正秀
彼岸会の鵯一羽来て二羽となる   角川照子
枯山のひよどり翔けて日の真空  百合山羽公
鵯もとまり惑ふか風の色      広瀬惟然
立冬や窓搏つて透く鵯の羽根    石田波郷
鵯の遊び仕事の山路かな        浪花
鵯や赤子の頬を吸ふ時に      榎本其角
鵯に急かれじんぐりを打つ童らか 村上しゆら

 いろいろ自分勝手に分けたり寄せたりしてきた。つまり、こんなことができるだけの材料がヒヨドリにはあるということか。それだけヒヨドリは身近な鳥なのだ。同じ身近な鳥でも、ムクドリだとまた少しちがう俳句になりそうだ。たとえば、よく群れる鳥だから群れをどんなふうに詠んでいるか、などということを考えるのかもしれない。カラスやスズメも俳人の注目する点はヒヨドリ、ムクドリとまたちがうはずだ。それぞれの鳥の特徴や目立ちやすさ、季節との関係などによって、集めた句をどう鑑賞するかがちがってきそうだ。鳥ごとにそんなことをやってみるのも、おもしろいかもしれない。


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