本日はポール・チェンバースのブルーノート第1弾「ウィムズ・オヴ・チェンバース」を取り上げたいと思います。チェンバースについては少し前に「ポール・チェンバース・クインテット」でご紹介したように、50年代ハードバップの屋台骨を支えたと言って良い存在です。1955年に19歳でデトロイトからニューヨークにやって来るとすぐに頭角を現し、黄金のマイルス・デイヴィス・クインテットのベーシストに抜擢されました。本作が吹き込まれた1956年9月はマイルスの歴史的なマラソン・セッションとほぼ同時期で、共演メンバーにもジョン・コルトレーン(テナー)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ドラム)とマイルス・クインテットの同僚が名を連ねています。それ以外もドナルド・バード(トランペット)、ケニー・バレル(ギター)、ホレス・シルヴァー(ピアノ)とビッグネーム揃いで、チェンバースのリーダー作にかけるブルーノートの意気込みがよくわかります。
全7曲、全てメンバーのオリジナルで、チェンバースが3曲、バードが2曲、コルトレーンが2曲をそれぞれ書き下ろしています。曲によってメンバー構成が異なり、基本的にチェンバース作品は彼のベースにスポットライトが当たるようになっています。2曲目"Whims Of Chambers"はベース、ギター、ピアノ、ドラムによるカルテット演奏で、バレル&チェンバースが弦楽器のユニゾンで奏でるテーマが魅力的。後年アート・ペッパーも「ゲッティン・トゥゲザー」でカバーしました。5曲目"Dear Ann"はチェンバースの妻アンに捧げた美しいバラード。前述のカルテットにバードが加わったクインテット編成で、バードの美しいトランペット演奏が胸に響きます。チェンバースは「ポール・チェンバース・クインテット」の”The Hand Of Love"もそうですが、作曲センスがありますね。6曲目"Tale Of The Fingers"はベース、ピアノ、ドラムのトリオ編成で、チェンバースの必殺アルコ(弓弾き)ソロが炸裂します。私は個人的にアルコのギコギコ音はあまり好きではないのですが、この曲はホレス・シルヴァーとフィリー・ジョーの絶妙のバッキングのおかげできちんとスイングするジャズになっています。途中で挟まれるシルヴァーのソロも最高です。
残りの4曲はバードとコルトレーンも加わったフルメンバーの演奏で、チェンバースももちろんソロを取るものの、どちらかと言うとセクステットの一体となった演奏を楽しむのが正解と思います。オープニングトラックの”Omicron"と4曲目”We Six"はどちらもバード作の熱血ハードバップ。ブリリアントなバードのトランペット、飛翔するコルトレーンのテナー、スインギーなバレルのギター&シルヴァーのピアノとこれぞハードバップ!と言いたくなる熱い演奏が繰り広げられます。コルトレーンも3曲目”Nita”と7曲目”Just For The Love"の2曲を提供しており、前者は当時の妻ファニータ(有名なアリス・コルトレーンは後妻)に捧げたナンバーでなかなか良質なハードバップ。後者はちと地味かな。以上、チェンバースのベースの技を存分に見せつけつつも、バード、コルトレーン、バレルらのプレイも楽しめる内容で、個人的には文句なしの名盤と評価します。