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ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ジョン・ハンディ/ノー・コースト・ジャズ

2025-08-28 07:58:25 | ジャズ(その他)

本日はジョン・ハンディです。と言われても誰じゃいそれ?と思う人も多いのではないでしょうか?50年代末から60年代前半にかけてチャールズ・ミンガスのバンドに在籍し「ミンガス・アー・アム」「ブルース&ルーツ」でサックスを吹いていた人と言えばミンガス好きの人ならピンと来るかもしれません。ただ、それらの作品でもハンディは何人もいるサックス奏者の1人で、どちらかと言えばブッカー・アーヴィンの陰に隠れている印象です。そもそもミンガスサウンドは特定の奏者のソロにスポットライトを当てるのではなく、管楽器による複雑なアンサンブルを特徴としているので正直そこでのハンディのプレイに強い印象はありません。

今日ご紹介する「ノー・コースト・ジャズ」はそんなハンディが1960年にルーレット・レコードに残したソロ・リーダー作。前年にも「イン・ザ・ヴァーナキュラー」という作品を発表しており、本作が2作目です。ワンホーンカルテットでリズムセクションはドン・フリードマン(ピアノ)、ビル・リー(ベース)、レックス・ハンフリーズ(ドラム)と言うラインナップ。タイトルの「ノー・コースト・ジャズ」はイーストコーストでもウェストコーストでもない新しい形のジャズを意図したものだそうです。一体どんな音楽なのか期待と不安が半々と言ったところですね。

全6曲、全てハンディのオリジナルです。普通は安全策としてスタンダード曲を1~2曲入れるのが定番ですが、そうやってお茶を濁さないあたりに彼の意欲が感じられます。1曲目”To Randy”はピアニストのランディ・ウェストン(彼については過去ブログ参照)に捧げた曲。5/4拍子という変則的なリズムで書かれた曲で、まずドン・フリードマンが長めのソロを取り、ハンディのアルトソロに繋げます。少しモーダルな感じもしますがそんなにクセも強くなくつかみはまずまずと言ったところ。2曲目”Tales Of Paradise”は一転して静謐で美しいバラード。コルトレーンの”Central Park West”を思い起こさるような曲で、ハンディの叙情的なアルトソロ、フリードマンのピアノソロも絶品ですね。ハンディやるじゃん!良い意味で期待を裏切ってくれる曲です。3曲目”Boo’s Ups And Downs"は正直掴みどころのない曲。組曲風の構成で序盤の静かで物哀しい旋律から、中盤はハンディ→フリードマンとかなりアグレッシブなソロを繰り広げます。このフリードマンは「サークル・ワルツ」が有名ですが、エヴァンス風のピアノを弾いたかと思えば前衛ジャズまでカバーできる人で本作にぴったりの人選かもしれません。

続いて後半(B面)4曲目"Hi Number"は実にキャッチーで思わず口ずさんでしまうようなメロディアスなハードバップ。ハンディ→フリードマンと軽快にソロをリレーします。5曲目”Pretty Side Avenue”もメロディアスな曲でこちらは哀愁を帯びたバラード。ハンディ→ベースソロ→フリードマンと哀愁たっぷりに歌い上げます。ラストトラックは”No Coast”で完全にアグレッシブな演奏。ただしメロディは一応あるのでフリージャズではないです。ここまで美しいバラードからハードで難解な曲までいろんな曲がありましたが、この曲がアルバムタイトルにもなっていることを考えるとやはりこれが彼の本質なのでしょうか?以上、難解な曲とメロディアスな曲と落差が激しいですが、個人的にはやっぱり"Tales Of Paradise"と"Hi Number"のような曲が好きですね。その2曲を聴くだけでも価値はあると思います。

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バド・シャンク/風のささやき

2025-08-18 18:55:38 | ジャズ(その他)

本日はバド・シャンクです。彼については以前に「バド・シャンク・カルテット」を取り上げましたね。西海岸のアルト奏者ではアート・ペッパーに次ぐ存在で、チェット・ベイカー及びジェリー・マリガンと並ぶパシフィック・ジャズの顔として活躍しました。その後、50年代後半にウェストコースト・ジャズが下火になると、チェット・ベイカーはリヴァーサイドに、ジェリー・マリガンはヴァーヴにそれぞれ移籍しますが、シャンクだけはパシフィック・ジャズに残り続けました。ただ、音楽の内容は変化しており、60年代以降ブラジル音楽を積極的に取り上げたり、サーフィン映画のサントラを手掛けたりとオーソドックスなジャズとは少し異なる路線を歩んでいます。

本日取り上げる「風のささやき(Windmills Of Your Mind)」は1969年の作品でフランスの作曲家ミシェル・ルグランの楽曲を全面的に取り上げたものです。ルグランについては以前「ルグラン・ジャズ」をご紹介しました。その作品でのルグランはアメリカの大物ジャズマン達をゲストに迎え、アレンジャーとして腕をふるっていますが、彼の本領はどちらかと言うと映画音楽の作曲ですよね。一番有名なのはカトリーヌ・ドヌーヴ主演の「シェルブールの雨傘(Les Parapluies De Cherbourg)」で、1964年に公開されて世界中でヒットしました。哀愁漂う主題歌”I Will Wait For You"と”Watch What Happens”はスタンダード曲として多くのアーティストにカバーされています。その他にも同じくドヌーヴ主演で1967年公開の「ロシュフォールの恋人たち(Les Demoiselles De Rochefort)」、1968年公開のアメリカ映画「華麗なる賭け(The Thomas Crown Affair)」でも音楽を手掛けています。ちなみに本作のタイトルはこの「華麗なる賭け」の収録曲から取っています。

メンバーは合計11人から成る小型ビッグバンドで、作曲者のルグランがアレンジも手掛けています。リーダーのシャンクはアルトが主楽器ですが、曲によってはフルートやテナーも吹いています。他はトランペットがゲイリー・バローネ、コンテ・カンドリ、バド・ブリスボワの3人、トロンボーンがビリー・バイヤース、テナーサックスがアーニー・ワッツ、オルガンがアーティ・ケイン、ギターがハワード・ロバーツ、ベースがレイ・ブラウン、ドラムがシェリー・マン、そしてルグランがピアノとチェンバロを弾いています。

全10曲。2曲を除いて上記3つの映画の挿入曲です。聴きどころは何と言ってもルグランのペンによる名曲の数々ですね。曲順はバラバラですが、ややこしいので映画ごとにまとめましょう。オープニングはアルバムタイトルにもなった"The Windmills Of Your Mind(風のささやき)"で、上述の「華麗なる賭け」の主題歌です。この映画は私は見たことはないのですが、スティーヴ・マックイーン主演のサスペンス映画だそうです。哀愁漂う歌謡曲チックなメロディの曲で、ミシェル・ルグランの奏でる古風なチェンバロの響きに乗ってシャンクがメランコリックなアルトを聴かせます。他では8曲目の”His Eyes, Her Eyes"も「華麗なる賭け」の収録曲。この曲はゲイリー・バローネのフリューゲルホルンも大きくフィーチャーされており、シャンクとバローネが交互にテーマメロディを奏でます。

続いては「シェルブールの雨傘」の挿入曲で、有名な2曲目”Watch What Happens”と7曲目”I Will Wait For You”です。前者はジャズではウェス・モンゴメリー「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」のバージョンが有名ですが、本作ではルグランの美しいピアノ演奏をバックにシャンクが見事なアルトソロを繰り広げます。トランペットソロもありますが誰かはわかりません。バローネ?カンドリ?後者の"I Will Wait For You"は有名な割に私は辛気臭くてあまり好きではないのですが、ここでもシャンクが哀愁たっぷりに歌い上げます。バックのオルガンもアクセントになっています。その2曲ほど有名ではないですが、3曲目"Theme d'Elise"も同映画の挿入曲。ホーンアンサンブルとシャンクが絡みながらメロディを歌い上げ、途中でビリー・バイヤーズのトロンボーンソロも挟まれます。

個人的には「ロシュフォールの恋人たち」からの3曲(5曲目"Chanson De Solange"、6曲目”De Delphine A Lancien”、10曲目"Chansons Des Jumelles")を強くおススメしたいです。この映画はソランジュとデルフィーヌという双子の姉妹の役を実際に姉妹であるフランソワーズ・ドルレアックとカトリーヌ・ドヌーヴが演じており、youtubeで検索すると彼女らの歌うシーンが出てきますがこれがたまらなく素敵です。耳に残るキャッチーなメロディに洗練されたアレンジ、そして美女2人が歌うフランス語の独特の響きに魅了されます。本アルバムの演奏ももちろん素晴らしく、シャンクの情熱的なソロとルグランのダイナミックなビッグバンドアレンジによって素晴らしいクオリティの演奏に仕上がっています。なお、"De Delphine A Lancien"ではシャンクはフルートを吹いています。ヴァイブのソロも聴こえますが一体誰でしょうか?

映画以外の曲も2曲ありますが、これがまた良い。4曲目"One Day"は美しいバラードでストリングスとルグランのピアノをバックに、シャンクがロマンチックなアルトソロをたっぷり聴かせます。この曲もヴァイブソロがありますがメンバーには記載がなく謎です。9曲目"Once Upon A Summertime"はブロッサム・ディアリーが同名のアルバムで歌ったバラード。いかにもルグランらしいメランコリックな旋律でストリングスをバックにしたムーディな演奏です。以上、ミシェル・ルグランの卓越した作編曲とシャンクをはじめメンバーの素晴らしい演奏とが融合した文句なしの名盤です!

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エディ・コスタ・メモリアル・コンサート

2025-08-07 21:09:48 | ジャズ(その他)

エディ・コスタについてはこれまで当ブログでも何度か取り上げてきました。ピアノ兼ヴァイブ奏者として50年代のジャズシーンで存在感を発揮した才人で、リーダー作としてはコーラル盤の「ガイズ・アンド・ドールズ・ライク・ヴァイブス」、モード盤の「エディ・コスタ・クインテット」を当ブログでも取り上げています。サイドマンとしても多くの作品に参加しており、特にタル・ファーロウの「タル」「ザ・スウィンギング・ギター」等で聴かせるうねうねとしたピアノソロは彼ならではのワン&オンリーの個性ですね。

ただ、今日ご紹介する「エディ・コスタ・メモリアル・コンサート」はコスタ自身のリーダー作ではなく、31歳の若さで急死した彼を追悼するコンサートの模様を収録したものです。コスタの死因は自動車事故。この時期のジャズマンには早死にが多いですが、薬物の過剰摂取の次に多いのがこの交通事故で、有名なクリフォード・ブラウン(享年25)をはじめ、スコット・ラファロ(享年25)、ダグ・ワトキンス(享年27)、白人バリトン奏者のボブ・ゴードン(享年27)も若くして事故死しています。ジャズマンにはスピード狂が多かったのか、それとも当時の自動車の安全機能が今より著しく劣っていたのか。おそらく両方が原因でしょうね。

コスタが亡くなったのは1962年7月28日。本コンサートはその2か月半後の10月9日にニューヨークの名門クラブ、ヴィレッジ・ゲイトで行われています。参加メンバーは総勢11名。前半と後半の2部構成で前半がクラーク・テリー(トランペット)、ウィリー・デニス(トロンボーン)、ディック・ハイマン(ピアノ)、アート・デイヴィス(ベース)、オシー・ジョンソン(ドラム)から成るクインテット。後半がコールマン・ホーキンス(テナー)、マーキー・マーコウィッツ(トランペット)、アービー・グリーン(トロンボーン)、ソニー・クラーク(ピアノ)、チャック・イスラエルズ(ベース)、ロイ・ヘインズ(ドラム)から成るセクステットです。ジャズファン的には意外なところでソニー・クラークの名前を発見してびっくりですね。実は彼自身も翌年1月に薬物の過剰摂取で早世するのですが・・・

アルバムは司会者のMCの後、クラーク・テリー自作の"The Simple Waltz"で始まります。文字通りワルツ調のリズムでテリーが独特の乾いた音色のトランペットでたっぷりソロを取ります。2曲目はデューク・エリントン楽団の定番曲"Things Ain't What They Used To Be"で、同楽団出身のテリーがカッブをつけたやや古風なプレイを披露。ウィリー・デニスのトロンボーン→ディック・ハイマンのピアノとつないだ後、テリーが再びソロを取るのですが、まるで2人のトランペッターがいるかのごとくミュートとオープン交互で吹き鳴らし、聴衆からやんやの喝采を浴びます。

後半(B面)最初は歌モノスタンダードの"I'm Confessin' That I Love You"。この曲はコールマン・ホーキンスの独壇場で、彼のダンディズム溢れるバラードプレイが存分に堪能できます。ソニー・クラークもここでは伴奏に徹し、ホーキンスの圧倒的なソロを的確に盛り立てています。ラストもスタンダードの"Just You, Just Me"。この曲だけで15分超もあり、ホーキンス以外のメンバーもソロを取ります。ここでも1番手は御大ホーキンスで貫禄たっぷりのワイルドなテナーを披露。続くトランペットのマーキー・マーコウィッツとトロンボーンのアービー・グリーンはどちらも白人で、普段はビッグバンドで名前を見かけることが多いですが、ここでは存分にソロを披露しています。9分40秒あたりで満を持してソニー・クラークが登場し、3分近くにわたってスインギーなピアノソロを取り、チャック・イスラエルズのベースソロ→ピアノとロイ・ヘインズのドラムとの掛け合いと続きます。以上、エディ・コスタの追悼と言いながら、コスタの自作曲は1曲もなく、単にコスタの旧知のジャズマン達が好きな曲を演奏しただけですが、それでも演奏の方は充実の内容で、特にコールマン・ホーキンス絡みの2曲が最高です。

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ランディ・ウェストン/ライヴ・アット・ザ・ファイヴ・スポット

2025-08-04 17:48:09 | ジャズ(その他)

ランディ・ウェストンと言うピアニストがいます。生涯に残したリーダー作は50枚以上。特に50年代はリヴァーサイドやユナイテッド・アーティスツに多くのリーダー作を残しており、それなりに重要人物だったことが伺えます。ただ、その割に一般的なジャズファンの人気度は高いとは言えません。彼の場合、ピアニストとは言え、華麗なタッチのピアノとは無縁で、どちらかと言うとゴツゴツした感じの個性派ピアノ。セロニアス・モンクに少し似ていますが、一方でモンクが持つ強烈なカリスマのようなものはなく、どことなく中途半端な印象は否めません。

かく言う私も所有しているのは今日ご紹介するユナイテッド・アーティスツ(UA)盤「ライヴ・アット・ザ・ファイヴ・スポット」のみです。同じUA盤の「リトル・ナイルス」「デストリー・ライズ・アゲイン」も購入したものの、そこまで聴かず中古屋に売り払ってしまいました。本作の魅力は何と言っても共演陣ですね。1959年10月26日、ニューヨークの名門ファイヴ・スポット・カフェのライブ録音で、ケニー・ドーハム(トランペット)、コールマン・ホーキンス(テナー)、ウィルバー・リトル(ベース)、ロイ・ヘインズ(ドラム)と言う豪華メンバーが脇を固めています。

オープニングトラックは"Hi Fly"。ランディ・ウェストンの自作曲の中で最も有名な曲で、キャノンボール・アダレイやジャズ・メッセンジャーズ、エリック・ドルフィーらの名演で知られています。初出は前年のメトロジャズ盤でそこではトリオ演奏だったようですが、ここでは御大ホーキンスのテナー、ドーハムのトランペットを加えた力強い演奏です。2曲目も自作曲で"Beef Blues Stew"。変なタイトルの曲ですが、ミディアムテンポのブルースナンバーでドーハム→ホーキンス→ウェストンとソロをリレーします。3曲目"Where"もウェストン作のバラードですが、いきなりブロック・ピーターズとか言う男性歌手が渋いバリトンボイスで歌い始めてびっくりします。ハードバップ以降のセッションで歌手がフィーチャーされることはまずないですが、エリントン楽団やベイシー楽団には専属歌手がいてライブの最中に歌が挟まれることは珍しくありませんでした。ウェストンはデューク・エリントンを敬愛していたようなのでおそらくその影響でしょう。ただ、個人的にはこのおっちゃん(本業は俳優だったらしい)の歌声はあまり好きではないです。

ウェストンのエリントン愛は続く4曲目"Star-Crossed Lovers"でも存分に発露されます。エリントン御用達の作曲家ビリー・ストレイホーンが書いた美しい曲で、ここではバラードの名手ホーキンスが情感たっぷりに歌い上げます。ドーハムは出番なしです。ちなみに私の持っている国内版CDではなぜか4曲目がウェストン自作の"Spot Five Blues"で5曲目が"Star-Crossed Lovers"になっていますが、明らかに誤りですね。解説の岩浪洋三氏も間違いに気付かず曲の解説をしていて、有名な評論家なのに大丈夫か?と言いたくなります。それはさておき、"Spot Five Blues"はなかなかエネルギッシュなナンバーで本作でもハイライトと言って良い出来です。ソロ1番手はドーハムで短いながらもファンキーなトランペットを聴かせ、次にウェストンのソロが来るのですがこれがなかなか素晴らしい。ウェストンと言えば最初に書いたようにモンクの影響が強く、普段はわりと打楽器的な響きのピアノを聴かせるのですが、ここでは興が乗ったのかかなりノリノリのピアノソロを披露してくれます。ただのモンクもどきではなかったようです。続くホーキンスのテナーソロも圧巻の出来。その後ウィルバー・リトルのベースソロを挟んで、後半はホーン陣とロイ・ヘインズのドラムとの掛け合いもあり、10分を超える長尺の演奏ながら充実の内容です。ラストもウェストン作の"Lisa Lovely"。この曲だけヘインズに加えてクリフォード・ジャーヴィスが加わり、ツインドラム体制です。テーマ演奏はピアノ+2管ですが、ソロ部分でかなり長めのドラムソロがフィーチャーされます。叩いているのはヘインズかジャーヴィスか、それとも両方なのかはわかりません。以上、代表曲”Hi Fly”も悪くないですが、個人的には”Spot Five Blues”がおススメです。

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バーニー・ケッセル/お熱いのがお好き

2025-07-14 14:15:48 | ジャズ(その他)

50~60年代のモダンジャズをこよなく愛する私ですが、この時期の古い映画も結構好きで、それこそ一連のヒッチコック作品やオードリー・ヘップバーンの主演映画はあらかた見ています。ビリー・ワイルダー監督の映画も好きで、「サンセット大通り」「情婦」のようなシリアスな作品から「麗しのサブリナ」「アパートの鍵貸します」と言ったコメディまで代表作は全て見ました。「お熱いのがお好き(Some Like It Hot)」もそんなワイルダーの代表作で、トニー・カーティス&ジャック・レモンのコンビにセクシー女優の代表格マリリン・モンローがドタバタ劇を繰り広げる傑作コメディ映画です。

今日ご紹介するアルバムはそんな「お熱いのがお好き」の映画公開とほぼ同時期の1959年3月にコンテンポラリー・レコードからリリースされた作品です。映画のサウンドトラックは別に存在するようで、この作品はあくまで映画収録曲をモチーフにしたジャズ作品という扱いです。リーダーはバーニー・ケッセル。西海岸を代表する名ギタリストでコンテンポラリーの稼ぎ頭的存在でもありました。共演者には同じくコンテンポラリーの顔だったアート・ペッパー。本作では本職のアルトに加え、テナーやクラリネットも吹いています。フロントにはもう1人黒人トランぺッターのジョー・ゴードンが加わり、リズムセクションはジミー・ロウルズ(ピアノ)、モンティ・バドウィグ(ベース)、シェリー・マン(ドラム)。さらにケッセルとは別にリズムギター専門でジャック・マーシャルが参加し、バックでひたすらズンズンとリズムを刻んでいます。

全10曲。全て映画の収録曲と思いますが、この映画のために新たに作られたのはオープニングトラックの”Some Like It Hot”のみ。後は元々知られている有名スタンダード曲や古いポップソングが中心です。まず、唯一の新曲である"Some Like It Hot"はベイシー風のスインギーなナンバー。ペッパーの珍しいテナーソロで始まり、ジョー・ゴードンのミュート・トランペット→ロウルズ→ケッセルとソロをリレーします。続く"I Wanna Be Loved By You"はマリリン・モンローのセクシーな歌声であまりにも有名な曲ですが、ジャズのインストゥルメンタル演奏は珍しいですね。この曲もオールドファッションなスイングジャズでここではペッパーはクラリネットを吹いています。3曲目"Stairway To The Stars"は「星へのきざはし」の邦題で知られるおなじみのスタンダード。この曲はソロはケッセルのみで、美しいバラード演奏です。4曲目"Sweet Sue"はヴィクター・ヤング作曲のスタンダード。この曲も30年代風のスイングジャズで、ケッセル→ペッパーのクラリネット→ロウルズ→ゴードンのカップミュートとリレーします。5曲目"Runnin' Wild"はアップテンポの曲で劇中でもマリリン・モンローがバンドをバックにウクレレを弾きながら歌うシーンが印象的です。メンバー全員でノリに乗った演奏を繰り広げますが、満を持してアルトでソロを取るペッパーが中でも輝いていますね。

後半(B面)最初の"Sweet Georgia Brown"も同じくノリの良いアップテンポの曲。ゴードン→ロウルズ→ペッパーのアルト→ケッセルと軽快にソロをリレーします。7曲目"Down Among The Sheltering Palms"と8曲目"Sugar Blues"は他ではあまり聞いたことない曲ですが、1910年代のポピュラーソングだそうです。前者はのどかなスローミディアム、後者はオールドファッションなスイングジャズでメンバー全員が小刻みにソロを繋ぎます。なお、ペッパーは前者はテナー、後者はクラリネットを吹いています。9曲目"I'm Thru With Love"は再びケッセルのギターソロのみをフィーチャーしたバラード。ラストの"By The Beautiful Sea"は賑やかな曲でゴードン→ペッパーのアルト→ロウルズ→ケッセルと鮮やかにソロをリレーして終わり。映画の舞台が禁酒法時代と言うことで20〜30年代風のややオールドスタイルの演奏ですが、その中でも西海岸の名手達が繰り広げるプレイはクオリティが高く、リーダーのバーニー・ケッセルはもちろんのこと、限られた出番で存在感を放っているアート・ペッパーはさすがの一言です。

 

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