本日はジョン・ハンディです。と言われても誰じゃいそれ?と思う人も多いのではないでしょうか?50年代末から60年代前半にかけてチャールズ・ミンガスのバンドに在籍し「ミンガス・アー・アム」や「ブルース&ルーツ」でサックスを吹いていた人と言えばミンガス好きの人ならピンと来るかもしれません。ただ、それらの作品でもハンディは何人もいるサックス奏者の1人で、どちらかと言えばブッカー・アーヴィンの陰に隠れている印象です。そもそもミンガスサウンドは特定の奏者のソロにスポットライトを当てるのではなく、管楽器による複雑なアンサンブルを特徴としているので正直そこでのハンディのプレイに強い印象はありません。
今日ご紹介する「ノー・コースト・ジャズ」はそんなハンディが1960年にルーレット・レコードに残したソロ・リーダー作。前年にも「イン・ザ・ヴァーナキュラー」という作品を発表しており、本作が2作目です。ワンホーンカルテットでリズムセクションはドン・フリードマン(ピアノ)、ビル・リー(ベース)、レックス・ハンフリーズ(ドラム)と言うラインナップ。タイトルの「ノー・コースト・ジャズ」はイーストコーストでもウェストコーストでもない新しい形のジャズを意図したものだそうです。一体どんな音楽なのか期待と不安が半々と言ったところですね。
全6曲、全てハンディのオリジナルです。普通は安全策としてスタンダード曲を1~2曲入れるのが定番ですが、そうやってお茶を濁さないあたりに彼の意欲が感じられます。1曲目”To Randy”はピアニストのランディ・ウェストン(彼については過去ブログ参照)に捧げた曲。5/4拍子という変則的なリズムで書かれた曲で、まずドン・フリードマンが長めのソロを取り、ハンディのアルトソロに繋げます。少しモーダルな感じもしますがそんなにクセも強くなくつかみはまずまずと言ったところ。2曲目”Tales Of Paradise”は一転して静謐で美しいバラード。コルトレーンの”Central Park West”を思い起こさるような曲で、ハンディの叙情的なアルトソロ、フリードマンのピアノソロも絶品ですね。ハンディやるじゃん!良い意味で期待を裏切ってくれる曲です。3曲目”Boo’s Ups And Downs"は正直掴みどころのない曲。組曲風の構成で序盤の静かで物哀しい旋律から、中盤はハンディ→フリードマンとかなりアグレッシブなソロを繰り広げます。このフリードマンは「サークル・ワルツ」が有名ですが、エヴァンス風のピアノを弾いたかと思えば前衛ジャズまでカバーできる人で本作にぴったりの人選かもしれません。
続いて後半(B面)4曲目"Hi Number"は実にキャッチーで思わず口ずさんでしまうようなメロディアスなハードバップ。ハンディ→フリードマンと軽快にソロをリレーします。5曲目”Pretty Side Avenue”もメロディアスな曲でこちらは哀愁を帯びたバラード。ハンディ→ベースソロ→フリードマンと哀愁たっぷりに歌い上げます。ラストトラックは”No Coast”で完全にアグレッシブな演奏。ただしメロディは一応あるのでフリージャズではないです。ここまで美しいバラードからハードで難解な曲までいろんな曲がありましたが、この曲がアルバムタイトルにもなっていることを考えるとやはりこれが彼の本質なのでしょうか?以上、難解な曲とメロディアスな曲と落差が激しいですが、個人的にはやっぱり"Tales Of Paradise"と"Hi Number"のような曲が好きですね。その2曲を聴くだけでも価値はあると思います。