ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

スクリャービン/法悦の詩、ピアノ協奏曲

2019-06-24 23:58:41 | クラシック(協奏曲)
本日はアレクサンドル・スクリャービンをご紹介します。19世紀から20世紀初頭にかけて活躍したロシアの作曲家で、作品自体は決して多くはないですが今日取り上げる「法悦の詩」やピアノ協奏曲は演奏機会も多いです。スクリャービンは音楽史的には「神秘和音」と呼ばれる独特のコードを生み出したことで知られており、現代音楽の先駆者の1人ともされています。とは言え、現代の我々からするとそこまでアヴァンギャルドな感じはありません。後期の代表作である「プロメテウス」なんかは調性もだいぶ崩れつつありますが、それより前に書かれた「法悦の詩」は普通に幻想的なクラシック音楽として楽しめます。ただ、当時としてはいろいろ異例の作品だったようです。まず、この曲は交響曲第4番として書かれたものですが、単一楽章で20分弱しかなく、伝統的な交響曲の形式を一切とどめていません。題名も刺激的で、日本語名は「法悦」などという固くるしい訳がされていますが、英語にするとエクスタシー、つまり性的な絶頂のことです。曲はけだるい中にも幻想的な美しさを帯びた独特の旋律が繰り返され、序盤は静かだったのが徐々に盛り上がり、金管楽器も加えながら最後はフルオーケストラで感動的なエンディングを迎えます。何度も聴くうちにクセになる名曲と言っていいでしょう。



ピアノ協奏曲の方は「法悦の詩」より10年前の1898年、スクリャービンが26歳の時に書かれた曲で、こちらの方は例の神秘和音もまだ登場せず、構成も伝統的な3楽章形式です。旋律も後期ロマン派の王道を行くもので、ややベタなぐらい抒情的な旋律の第1楽章、素朴な緩徐楽章の第2楽章、最後は情熱的なフィナーレの第3楽章で幕を閉じます。同時代のラフマニノフにも通じるものがあり、彼のピアノ協奏曲が好きな人はかなりの確率で本曲も気に入るでしょう。CDはデンオンの廉価版シリーズでリボル・ペシェク指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団、ピアノ独奏はギャリック・オールソンのものです。この2曲がセットになったCDは意外と少なく、スクリャービン初心者には最適の1枚と言えるでしょう。
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パガニーニ/ヴァイオリン協奏曲第1番&第2番

2019-06-20 00:06:35 | クラシック(協奏曲)
本日はニッコロ・パガニーニのヴァイオリン協奏曲をご紹介します。パガニーニは19世紀前半に活躍した作曲家ですが、生前はむしろヴァイオリニストとして一世を風靡する存在でした。その人間離れした超絶的な技巧は悪魔に魂を売り渡して手に入れたと噂され、酒・女・博打に溺れたスキャンダラスな私生活と相まって、まさに「鬼才」と呼ぶにふさわしい人物だったようです。作品についてはほとんどが自分の演奏会用に書かれたヴァイオリンのための曲で、協奏曲も6曲が現存していますがそのうち演奏される機会が多いのは今日取り上げる1番と2番だけです。

パガニーニのヴァイオリン協奏曲の特徴は超絶技巧があちこちに散りばめられていること。時に不協和音とまで言えるほどの高音や気忙しくなるほどの速弾きが多用されます。これもパガニーニが自らのテクニックを誇示するためのものでやや「やり過ぎ」感もなくはないです。ただ、旋律はイタリア人らしくオペラのアリアを思わせるような歌心あふれるもので、特に第1番はロッシーニを思わせる陽気な第1楽章、悲劇的な序奏から静かに燃え上がる第2楽章、超絶技巧満載の第3楽章ロンドとエンターテイメント感あふれる作品に仕上がっています。

第2番は「ラ・カンパネッラ」の愛称がついていますが、これは第3楽章を後にリストがピアノ曲用に編曲し、「ラ・カンパネッラ」の題で一躍有名になったため。今ではパガニーニ原曲よりそちらの方が有名かもしれませんね。聴きどころはもちろん情熱的な第3楽章ですが、オペラ風旋律の第1楽章も捨て難いです。



CDですが、パガニーニの第1番に関してはほとんどのヴァイオリニストが録音を残していますが、第2番もセットになっているのは意外と少ないです。そんな中で購入したのはフランスの名ヴァイオリニスト、ジャン=ジャック・カントロフがオーヴェルニュ管弦楽団を弾き振りしたもの。デンオンのクレスト・シリーズで廉価なのが最大の魅力ですが、演奏も一級品でパガニーニ特有の超絶技巧パートも見事に弾きこなしています。
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ブラームス/セレナーデ第1番&第2番

2019-06-16 00:24:14 | クラシック(管弦楽作品)
本日はブラームスのセレナーデ2曲です。セレナーデは日本語で小夜曲とも訳され、もともとは恋人を前に楽器を弾きながら愛を語らうスタイルの楽曲のことを指します。その後、クラシック音楽の世界でもセレナーデと題される曲がたくさん作られますが、特に明確な定義があるわけではなく、交響曲に比べると楽器編成も小さめで演奏時間もやや短めの曲が多いです。モーツァルトの有名な「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」、チャイコフスキーやドヴォルザークの「弦楽セレナーデ」がよく知られていますが、いずれも彼らの作品群の中では軽めの曲です。一方、ブラームスの「セレナーデ第1番」は6楽章で約40分と規模的にも大きく、旋律も交響曲を思わせる堂々としたものです。以前紹介したピアノ協奏曲第1番とともにブラームスのキャリアの中でも初期の作品ですが、重厚で風格さえ感じられる曲作りはこの時点で完成されています。ブラームスは完璧主義者で交響曲第1番を完成させるのに20年以上の月日をかけたことはよく知られていますが、個人的にはこのセレナード第1番を交響曲第0番と呼んでもよいぐらいの完成度を誇っていると思います。特に第1楽章と第5楽章のスケルツォ、第6楽章フィナーレは素晴らしいですね。



セレナーデ第2番は第1番とほぼ同じ時期に書かれたものですが、こちらは5楽章26分弱と第1番に比べると短めの曲です。曲調的にもそこまで重厚な感じはなく、本来のセレナーデの雰囲気があります。軽快な旋律の第5楽章がお薦めです。CDですがセレナーデ第1番は比較的多くの録音があるものの、第2番も収録されているものとなるとガクッと減り、現状国内盤で出回っているのはリッカルド・シャイー指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団ぐらいでしょうか?シャイーのブラームス全集の中の1枚です。
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チャイコフスキー/組曲第3番&第4番

2019-06-08 00:18:31 | クラシック(管弦楽作品)
本日はひさびさにチャイコフスキーです。交響曲、バレエ音楽、協奏曲と数多くの有名曲を残しているチャイコフスキーですが、単に「組曲」と題された作品を4曲残しています。時期的には交響曲第4番と第5番の間、30代後半から40台にかけての円熟期に書かれたものですが、一般的にはあまり知られていませんね。特に今日取り上げる第3番と第4番は内容的にも傑作と思うのですが、CDの数も限られていますし、名曲一覧で紹介されることもありません。以前にブログにアップしたピアノ協奏曲第2番もそうですが、チャイコフスキーの作品の中にはなぜかスルーされる名曲がありますね。なぜでしょうね?



まず組曲第3番から。この曲は当初は交響曲を意識して書き始められたようで、4曲計42分とスケール的にもかなり大きな曲です。中でもお薦めは第1曲の「エレジー」と第4曲の「主題と変奏曲」。「エレジー」はやや哀調を帯びた旋律で始まり、続いて弦楽アンサンブルが奏でる第2主題が何とも切なくロマンチックです。「主題と変奏曲」は文字通り前半部分は変奏曲で、目まぐるしく色々な変奏が現れますが、14分過ぎから曲の雰囲気がガラリと変わり、華やかなポロネーズの旋律に変わります。最後はフルオーケストラが鳴り響くド派手なフィナーレです。

続く組曲第4番には「モーツァルティアーナ」という副題が付いています。文字通りモーツァルトへのオマージュとして書かれたもので、彼のピアノ作品をチャイコフスキーがオーケストラ用に編曲したものです。チャイコフスキーの他の曲を聴いているとモーツァルトの直接的な影響はあまり感じられませんが、やはり前世紀の偉大な作曲家としてモーツァルトのことを尊敬していたようです。第3番と同じく4曲構成ですが、1曲目「ジーグ」、2曲目「メヌエット」、3曲目「祈り」はどれも2~4分程度の小品です。ハイライトは第4曲「主題と変奏」でこちらは14分以上もあります。ここで取り上げられている主題はもともとグルックのオペラ中の曲をモーツァルトがピアノ曲に編曲したもので、それをさらにチャイコフスキーがオーケストラ用に編曲するといういわば二重に手が加えられた構成です。とても明快で親しみやすい主題が序盤からさまざまな変奏で演奏されますが、8分過ぎから4分近くヴァイオリン独奏も入り、曲にアクセントを加えています。普段の作風とはかなり違いますが、モーツァルト風チャイコフスキーもなかなか魅力的です。CDはナクソス盤でシュテファン・ザンデルリンク指揮アイルランド国立交響楽団のものです。ジャケットのセンスのなさは相変わらずですが、演奏の方は文句なしと思います。
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ロドリーゴ/アランフェス協奏曲&アンダルシア協奏曲

2019-06-03 23:11:29 | クラシック(協奏曲)
本日はスペインの作曲家ホアキン・ロドリーゴの「アランフェス協奏曲」と「アンダルシア協奏曲」をご紹介します。どちらもクラシックでは珍しいギターのための協奏曲で、クラシックギタリストにとっては定番となっています。ロドリーゴは他にも「ある貴紳のための幻想曲」と言うギターとオーケストラのための作品を残しており、いかにもギター専門の作曲家のようですが、本人はピアノが専門でギターは弾けなかったそうです。

まず紹介するのは「アランフェス協奏曲」から。この曲の第2楽章は今さら説明の必要もないぐらい有名ですね。マイルス・デイヴィスも「スケッチ・オヴ・スペイン」で取り上げるなどさまざまなジャンルでカバーされています。日本人だと「必殺仕事人」のテーマを思い浮かべますが、あれは一応オリジナル曲とのこと(ほぼパクリですが)。哀愁を帯びた主題が印象的ですが、一方でメロディがややベタすぎる気もします。個人的には第1楽章の方が好きですね。ギターの軽やかな調べと明るく開放的なオーケストラサウンドが心が浮き立つようなメロディを奏でて行きます。



「アンダルシア協奏曲」は「アランフェス協奏曲」の30年ほどに書かれた作品で、作曲年は1967年。完全に現代の作品です。ちなみにロドリーゴは世紀末の1999年まで生きて、村治佳織さんなんかとも面識があったようです。意外と最近の人なんですね。作風的には「アランフェス協奏曲」とほぼ同じ。ソロギターのみの「アランフェス」に対し、4本のギターアンサンブルのために書かれたという違いはあれど、明るい第1楽章、哀愁を帯びた第2楽章、そして再び陽気な第3楽章と構成まで一緒です。とは言え、単なる二番煎じではなく旋律も魅力的です。「アランフェス」に比べるとマイナーですが、一聴の価値のある作品と思います。CDはネヴィル・マリナー指揮アカデミー・オヴ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズのものです。ソリストはスペインが生んだ世界的ギタリスとであるペペ・ロメロ、「アンダルシア」にはその父親のセレドニオ・ロメロと2人の兄弟(セリン&アンヘル)が加わっています。
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