本日は通好みの黒人テナー奏者、セルダン・パウエルをご紹介したいと思います。1928年生まれでプロとして活動を始めたのは40年代後半。この頃のジャズシーンはビバップ最盛期で、若い黒人ジャズマンはこぞってビバップスタイルを身に付けましたが、このパウエルに関しては残されたレコードを聴く限りではスイング~中間派風のスタイルですね。人種は違いますがズート・シムズとかに似ているかもしれません。
リーダー作はもともと数枚しかなく、日本でCD発売されたのはルースト・レコードの2枚と、エピック・レコードのチャーリー・ラウズとの分割リーダー作1枚のみです。今日取り上げる「セルダン・パウエル・セクステット」はそのうち1956年録音のルースト盤です。タイトル通りセクステット編成で、ジミー・クリーヴランド(トロンボーン)、フレディ・グリーン(ギター)、ローランド・ハナ(ピアノ)、アーロン・ベル(ベース)、オシー・ジョンソンまたはガス・ジョンソン(ドラム)と言うラインナップです。リズムギターにカウント・ベイシー楽団の”心臓”と呼ばれたグリーンが加わっているあたり、ハードバップとは違うパウエルの音楽的志向がうかがえます。
曲は全12曲。なかなかのボリュームに思えますが、演奏時間はほとんどが2~3分台と短くサラッと聴ける内容です。収録曲は主に3つのタイプに分かれ、1つ目が”Woodyn' You"や"Undecided"等のスイング~バップの名曲のカバー、2つ目がパウエルがワンホーンで奏でるバラード曲、3つ目がパウエル自作のスイングナンバーです。以下、タイプごとに見ていきましょう。
まずはタイプ1ですが、最大の聴きどころは何といってもオープニングトラックの"Woodyn' You"でしょう。ディジー・ガレスピーのお馴染みの名曲をパウエルが素晴らしいテナーソロで料理します。短いフレーズを積み重ねていくような独特の奏法で、メロディアスなアドリブを矢継ぎ早に繰り出す様が圧巻ですね。クリーヴランドのトロンボーンソロ、ズンズンとリズムを刻むグリーンのギターも良いです。7曲目”Undecided”はスイング期の名トランぺッター、チャーリー・シェイヴァースの曲で、インストゥルメンタルではカーティス・フラーやレッド・ガーランドも名演を残しています。ここでもパウエルのノリノリのテナーが炸裂し、クリーヴランド→ローランド・ハナもソロで華を添えます。他では9曲目"It's A Cryin' Shame"もそうでしょうか?他では聞かない曲ですが、スタンダードの"Tangerine"に似ていますね。
次いでバラード演奏ですが、これらの曲はクリーヴランドは参加せず、全てパウエルのワンホーンです。2曲目"She's Funny That Way"はシナトラやビリー・ホリデイも歌った曲。女性歌手が歌うときは"He's Funny That Way"になるようです。5曲目"I'll Close My Eyes"はブルー・ミッチェルやディジー・リースの名演で知られていますが、ミディアムスイングのそれらの演奏と違いここではスローバラードで料理されています。8曲目"A Flower Is A Lonesome Thing"はデューク・エリントン楽団御用達の作曲家ビリー・ストレイホーンが書いた官能的なバラード。10曲目"Sleepy Time Down South"はルイ・アームストロングのヒット曲。どの曲もパウエルが変なひねりも入れずにストレートにメロディを歌い上げますが、どれも素晴らしい。テナーの音色の美しさに陶然とするばかりです。
それ以外はパウエルのオリジナル曲ですが、どの曲も30年代の香りのするスインギー&ブルージーな演奏です。中ではソウルフルなテナーが味わえる"11th Hour Blues"が秀逸ですが、他は可もなく不可もなくと言ったところ。聴きどころは何と言っても"Woodyn' You"と"Undecided"、そして渾身のバラード4曲でしょう。ジャズ界の隠れダンディここにあり!と言った感じの1枚です。
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