本日もアーゴ・レーベルからの1枚で、カウント・ベイシー楽団のテナー奏者フランク・フォスターが1963年に発表した「ベイシー・イズ・アワ・ボス」を紹介します。タイトル通りベイシー楽団の仲間が集まっており、ジャケットの中央前列がフォスター、左がドラムのバディ・キャトレット、中央後列がフルートのエリック・ディクソン、右がトランペットのアル・アーロンズです。御大ベイシーはさすがに参加していませんが、代わりに当時シカゴ随一の人気ピアニストだったジョン・ヤングが自身のトリオからドラムのフィル・トーマスを引き連れて参加しています。
内容ですがタイトルとは裏腹にあえてベイシー・ナンバーを演奏せず、スモールコンボならではの特徴を出そうとしています。ジョン・ヤングの粘っこいピアノから始まる“Vested Interest”や痛快ハードバップ“May We”はどちらもフォスターのオリジナル。ウィントン・ケリーの人気曲“Kelly Blue”も原曲と同じ編成で再現しているところがチャレンジングですね。最初はディクソンのフルートがやや調子っぱずれに聞こえますが何度も聴くと味が出てきます。サンバだかジャズ・ロックだかよくわからない“Samba Blues”はいただけませんが・・・
しかし、最大のお薦めは“Why Try To Change Me Now”と“I've Got A Lot Of Living To Do”でしょう。この2曲ではフルートもトランペットもソロを取らず、実質フォスターのワンホーンと言ってよい内容。ビッグバンドではアンサンブル重視のプレイに徹するフォスターですが、ここではソニー・ロリンズばりの雄大なテナーを聴かせてくれます。特に前者のダンディズム薫るバラード演奏には惚れ惚れします。
2人のうちボブ・クランショーはソニー・ロリンズの「橋」や60年代のブルーノート作品に多く名を連ねているので名前を目にしたことのある方は多いのではと思います。ただ、片割れのパーキンスの方はよほどのジャズ通じゃない限り誰それ?って感じなのでは?残りの3人はもっと無名です。ポール・セラーノ(トランペット)、ニッキー・ヒル(テナー)、リチャード・エイブラムス(ピアノ)。3人ともシカゴをベースに活躍していたジャズメンらしいですが、見事に誰も聞いたことありません。果たしてどんな音楽が展開されるのか期待と不安が相半ばするところです。

結論から言って演奏の方は大したことありません。スタンダードが“My One And Only Love”と“They Can't Take That Away From Me”の2曲収録されていますが、テクニックもアドリブも平々凡々です。ただ、オリジナル曲が意外といいんですな。ピアニストのリチャード・エイブラムスが6曲を書き下ろしているんですが、どれも魅力的なメロディを持った香り高きハードバップです。特に“End Of The Line”と“No Name”の2曲はズバリ名曲と言っていいでしょう。何でもエイブラムスはその後前衛音楽の世界で名を馳せるそうですが、そんな要素は微塵も感じられません。以上、決して名盤と言う訳ではありませんが、当時のシカゴのジャズシーンがよくわかる貴重な1枚と言えるのではないでしょうか?

本作は帯ではクリフォード・ブラウン・オールスターズの作品となっていますが、ライナーノーツを読む限り特定のリーダーはおらず、文字通り当時のウェストコーストの「ベスト」な面々のジャムセッション形式の作品です。パーソネルは上述のクリフォード・ブラウン(トランペット)に加え、ウォルター・ベントン(テナー)、ジョー・マイニ(アルト)、ハーブ・ゲラー(アルト)、ケニー・ドリュー(ピアノ)、カーティス・カウンス(ベース)、マックス・ローチ(ドラム)の7名です。不世出の天才トランペッター、ブラウンの参加が一番の目玉なのは言わずもがなですが、マイニ&ゲラーという2人の白人アルト奏者の参加も興味深いところです。特にマイニは録音数が少ないので貴重ですね。
曲はたった2曲のみ。ただ、20分弱と17分強の長尺の演奏で、両曲とも各メンバーのソロがたっぷり聴けるのでボリューム的には申し分なしです。1曲目“Coronado”は典型的なバップナンバー。強烈なブラウンのトランペットソロ、後半のローチの3分超にわたるドラムソロも迫力満点ですが、白人2人(マイニ&ゲラー)もチャーリー・パーカー直系の熱いプレイを聴かせてくれます。続くスタンダード“You Go To My Head”は一転してじっくり聴かせるバラード。イントロのドリューの華麗なピアノソロに続き、マイニが溜息の出るような美しいアルトを聴かせ、男性的なベントンのテナー、クールなゲラーのアルトと続き、11分過ぎから満を持したようにブラウンが登場。そのままエンディングまで6分近いソロを聴かせてくれます。これがまた素晴らしい出来で、ブリリアントなラッパの音色と奔放でいながらメロディアスなアドリブにあらためて彼の天才ぶりを実感させられます。以上、クリフォード・ブラウンはやっぱり凄い!という結論とともに他のメンバー、特にマイニの知られざる魅力にも開眼させられる1枚です。

この「ア・シンプル・マター・オヴ・コンヴィクション」もエヴァンスの数ある名盤の中では地味な部類に属しますが、演奏のクオリティはいつも通りの素晴らしさです。サポートメンバーはプエルトリコ出身のベーシスト、エディ・ゴメスと、西海岸屈指の名ドラマーであるシェリー・マンです。注目すべきは弱冠22歳のゴメスが本作で初めて起用されたことで、スコット・ラファロの事故死後なかなかベーシストを固定できなかったエヴァンス・トリオに加入し、この後10年にわたって行動をともにすることになります。
曲目はスタンダードが5曲とエヴァンスの自作曲が4曲。スタンダードは“Stella By Starlight”“Laura”“Star Eyes”など誰もが知ってる超有名曲ばかりですが、エヴァンス・トリオの鮮やかな演奏により新たな生命を吹き込まれています。原曲をかなり大胆に崩しながらもメロディの美しさを損なわない絶妙のアドリブ演奏はまさにエヴァンスならではですね。3者のスリリングなインタープレイが聴ける“A Simple Matter Of Conviction”や優しい旋律の“Only Child”など自作曲もなかなかの出来。エヴァンスのトリオ作品にハズレなし!をあらためて実感させてくれる1枚です。
本日取り上げるのは白人ギタリスト、ジョー・パスが1970年に発表した「インターコンチネンタル」です。1960年代に遅咲きの天才ギタリストとして登場し、「コール・ミー」「フォー・ジャンゴ」などの名盤を発表した彼ですが、その後は人気が逆に災いしてボサノバやポップス曲を取り上げた売れ線狙いのアルバムが続きました。当時はモダンジャズそのものが行き詰まり、方向性を模索していた時代ですからそれも仕方ありません。
そんな中で発表された「インターコンチネンタル」はパスのギターの妙技を、ベースとドラムというシンプルなトリオで表現したストレートアヘッドな作品。録音したのはドイツのMPSというレーベルで、本場アメリカのジャズシーンがやれフリーだのやれ新主流派だのやれフュージョンだのと激動期を迎える中でひたすらオーソドックスなジャズを録音し続けたことで知られています。オスカー・ピーターソンの諸作品が特に有名ですね。他にハンプトン・ホーズ、レッド・ガーランド、デクスター・ゴードンらも作品を残しています。
曲は全10曲で歌モノスタンダードから、ボサノバ“Meditation”、フレンチポップス“Watch What Happens”、ベイシーナンバー“Lil' Darlin”、パスのオリジナル“Joe's Blues”、果ては当時のヒット曲“Ode To Billie Joe”まで多種多様ですが、どれも奇を衒わないアレンジでパスの温かみのあるギタープレイが心ゆくまで味わえます。個人的お薦めは冒頭のスタンダード“Chloe”、そして「シェルブールの雨傘」の収録曲“Watch What Happens”ですね。この曲はウェス・モンゴメリーのバージョンも有名ですから聴き比べてみるのもいいかもしれません。共演はベースがドイツ人のエバーハルト・ウェーバー、ドラムがイギリス人のケニー・クレアです。2人ともあまりよく知りませんが堅実なプレーでパスを盛り立てています。