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ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ソニー・スティット・アット・ザ・DJラウンジ

2025-04-15 18:54:22 | ジャズ(ソウルジャズ)

本ブログでも常連のソニー・スティットですが、彼の最大の特徴はその多作ぶりです。以前の記事でも書きましたが、モダンジャズ全盛期の50年代後半から60年代前半にかけてスティットが残した作品はなんと50枚を超えます。同時代のマイルスやコルトレーンがメンバーを固定したレギュラーコンボで活動していたのに対し、スティットはレーベルもメンバーもバラバラでとにかく仕事があれば何でも受ける、みたいなスタンスだったようです。今日ご紹介する「ソニー・スティット・アット・ザ・DJラウンジ」は1961年6月にシカゴのマッキーズ・ディスク・ジョッキー・ラウンジと言うクラブで行われたライブの模様をアーゴ・レコードに吹き込んだもの。この頃のスティットはニューヨークを拠点にヴァーヴやルーストに多くの録音を残していますが、アーゴにもちょくちょくアルバムを吹き込んでおり、仕事の依頼があればシカゴに飛んで行ったようです。

メンバーですがスティット以外は全員誰やねん!と言いたくなるような顔ぶれです。まずテナーのジョン・ボード。ググってもほとんど情報が出てきませんでしたが、シカゴを拠点に活動していた黒人テナー奏者のようです。次いでオルガンのエドワード・バスター。彼も情報が少ないですが、一応他にジーン・アモンズとの共演作があります。ドラムのジョー・シェルトンは検索しても全くヒットしませんでしたが、おそらくシカゴの地元ミュージシャンでしょう。当時のスティットはジャズサックス奏者の中では一応大物だったはずですが、それにも関わらずシカゴの小さなクラブで無名の地元ジャズマン達と嬉々として演奏しているあたりにスティットの"呼ばれればどこにでも行きまっせ!"的な仕事のスタンスが伺えます。

さて、スティット以外は未知数のメンバーによる演奏ですが、これが悪くないです。特にスティットとフロントラインを組むジョン・ボードが良いですね。本作でのスティットは2曲を除いてアルトではなくテナーを吹いていますが、ボードとのテナーバトルはジーン・アモンズとの"ボス・テナーズ"と比べても決して劣ってはいないと思います。おそらく当時のアメリカには全米各地に彼のような実力者がいたのでしょうね。2人のテナーの聴き分けは比較的容易でいつもながら音数が多くフレーズをこねくり回すスティットに対し、ボードの方はより太い音色でストレートに吹く感じです。

全6曲。スティットのオリジナルが3曲、スタンダードが3曲と言う構成です。オリジナル曲の方はいかにもスティットらしいバップorブルースですがどの曲もオルガンが入っているのでソウルジャズの空気も濃厚に感じられます。オープニングの"McKie's"はクラブの名前を冠したシンプルなブルース、4曲目”Jay Tee”は出だしがパーカーの"Steeplechase"に似ているバップナンバーで後半に白熱のテナーバトルが繰り広げられます。ラストの”Free Chicken”はアップテンポのノリノリの演奏でジャズと言うよりR&Bですね。

スタンダード曲の方は2曲目”It All Depends On You"はフランク・シナトラが好んで取り上げた歌モノで、この曲ではスティットがアルトを吹きます。軽快なミディアムスインガーでスティットはもちろんのことボードのテナーもよく歌います。3曲目”Blue Moon”はエルヴィスも歌ったロジャース&ハートの定番スタンダードですが、オルガンが入っているのでソウルフルな雰囲気です。5曲目"I'm In The Mood For Love"は後にジェイムズ・ムーディの美しいテナーソロを基に”Moody’s Mood For Love"と言う別のスタンダード曲になりました。ここではスティットとボードがムーディとはまた異なるアプローチでバラードを料理しています。以上、スティットは良くも悪くもいつもながらのプレイですが無名のジョン・ボードやエドワード・バスターの健闘が光る1枚です。

 

 

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アーネット・コブ/パーティ・タイム

2025-02-21 19:13:18 | ジャズ(ソウルジャズ)

ジャズファンなら"テキサス・テナー"と言う言葉を聞いたことがあると思います。文字通りテキサス州出身のテナー奏者達のことで、1940年代から活躍するイリノイ・ジャケーを筆頭に、今日ご紹介するアーネット・コブ、そしてバディ・テイトが代表格ですね。少し若い世代だとレイ・チャールズのバンドに在籍していたデイヴィッド・ファットヘッド・ニューマンやアレサ・フランクリンのバックも務めたキング・カーティスらもいます。少し毛色は違いますがブッカー・アーヴィンもそうですね。彼らに共通して言えるのはブルースやR&Bの影響の強いアーシーなテナー。当時ニューヨークで主流だったレスター・ヤング系のクールなテナーとはまた違うスタイルです。本国アメリカでは一定の人気がありますが、残念ながら日本のジャズファンの間ではあまり評価が高いとは言えません。

このアーネット・コブも名門プレスティッジに8枚のリーダー作を残していますが、日本ではあまり人気がないためか唯一私がCDで入手できたのはこの「パーティ・タイム」のみです。1959年5月14日の録音でレイ・ブライアント(ピアノ)、ウェンデル・マーシャル(ベース)、アート・テイラー(ドラム)、レイ・バレト(コンガ)を従えたクインテット作品です。主役はもちろんアーネット・コブのワイルドなテナーですが、レイ・ブライアントのピアノも重要な役割を果たしており、演奏の質を大いに高めています。

全7曲、歌モノスタンダードが3曲、他のジャズマンのカバーが2曲、オリジナルが2曲です。1曲目"When My Dreamboat Comes Home"はビング・クロスビーらが歌ったスタンダード曲。ゆったりしたテンポに乗ってアーネットが朗々と歌い上げます。レイ・ブライアントのゴスペルチックなピアノも良いですね。この曲はイリノイ・ジャケーもアーゴ盤「デザート・ウィンズ」で吹いていましたので、テキサス・テナーの聴き比べも面白いかも。続く”Lonesome Road"もスタンダードですが、一転してノリノリの演奏。ブライアントのドライヴ感抜群のピアノソロに続き、アーネットがワイルドなブロウを聴かせてくれます。途中で興奮したメンバーのyeah!と言う声が入るのがいいですね。3曲目”Blues In The Closet"はオスカー・ペティフォード作のバップ・スタンダード。バド・パウエルらの演奏で有名ですが、通常はアップテンポで演奏されることが多いこの曲をアーネットらはミディアムテンポでソウルフルに演奏します。4曲目”Party Time"はタイトルトラックでアーネット自作のブルース。出だしはやや地味ですが途中から盛り上がって行き、後半はアート・テイラーのドラムとアーネットの掛け合いもあります。

後半1曲目の”Flying Home"はアーネットが1940年代に所属していたライオネル・ハンプトン楽団の代表曲。ノリノリのブローイング大会で最後にヤンキードゥードゥル(日本語だと♪アルプス一万尺~)のメロディを吹くのもご愛嬌。6曲目”The Slow Poke"はアーネット自作のブルースで名前通り超スローな曲。レイ・ブライアントとアーネットの2人でどっぷりとブルースの世界に浸らせてくれます。最後の"Cocktails For Two"は再びスタンダードで陽気なコンガに乗ってアーネットが快調にブロウ。ブライアントのスインギーなソロも最高です。以上、たまにはこってりしたテキサス・テナーの世界を味わうの悪くないと思わせてくれる1枚です。

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アイク・ケベック/ブルー・アンド・センチメンタル

2024-11-08 19:54:59 | ジャズ(ソウルジャズ)

本日は渋好みのテナー奏者アイク・ケベックをご紹介します。彼はブルーノートに縁の深い人物で、同レーベルがまだできて間もなかった1940年代半ばにいくつか吹き込みを残しているようです。また、タレントスカウトのようなこともしていて、無名だったセロニアス・モンクやバド・パウエルをブルーノートに紹介したのも彼だとか。一方で演奏活動の方は50年代に入ると停滞期に入ります。理由はご多分にもれずドラッグで、ヘロイン中毒でたびたび収容されるなどして、50年代前半から中盤にかけては全く録音を残していません。

そんなケベックに復帰の手を差し伸べたのがブルーノート社長のアルフレッド・ライオン。1959年にまずジュークボックス向けのレコードを何枚か録音し、1961年にアルバム「ヘヴィ・ソウル」で本格的にカムバックを果たします。その後「イット・マイト・アズ・ウェル・ビー・スプリング」を経て1961年12月に吹き込んだのがこの「ブルー・アンド・センチメンタル」です。

メンバーはグラント・グリーン(ギター)、ポール・チェンバース(ベース)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ドラム)から成るカルテット編成。ケベックはこれに先立つ2作品でフレディ・ローチのオルガンを起用していますが、ここではオルガンもなければ原則ピアノもなし。ただし、いくつかの曲でグラント・グリーンのギターソロの際にケベック自身がピアノでバッキングしています。ラストトラックの”Count Every Star”だけはリズムセクションがソニー・クラーク(ピアノ)、サム・ジョーンズ(ベース)、ルイス・ヘイズ(ドラム)に代わっていますが、クラークのソロはありません。

全6曲。スタンダードとオリジナルが3曲ずつという構成です。オリジナル曲はマイナーキーの”Minor Impulse"、ジャンプナンバーっぽい”Like"がケベック作で、”Blues For Charlie"がグラント・グリーン作です。中ではグリーンのソウルフルなギターが堪能できる”Blues For Charlie"がおススメです。ちなみにここで言うチャーリーはチャーリー・パーカーではなくモダンジャズギターの開祖チャーリー・クリスチャンのことです。

ただ、このアルバムの聴きどころは何と言ってもスタンダードのバラード3曲でしょう。カウント・ベイシー楽団の名曲”Blue And Sentimental"、コルトレーンも「スタンダード・コルトレーン」で演奏した”Don't Take Your Love From Me"、シャンソンが原曲のロマンチックな”Count Every Star"とどれも絶品です。ケベックは50年代に活動していないせいか、バップ以前の中間派風のスタイルで、コールマン・ホーキンスあたりを想わせる男の色気ムンムンのテナーで悠然とバラードを歌い上げます。グラント・グリーンの良く歌うギターも素晴らしいですね。

ケベックは翌年にボサノバを取り上げた「ソウル・サンバ」を発表。順調な演奏活動を続けているかに思われましたが、肺ガンのため翌1963年1月に44歳で生涯を閉じます。本作はそんな薄幸のテナーマンの短い絶頂期を記録した貴重な1枚です。

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スタンリー・タレンタイン/レット・イット・ゴー

2024-09-18 18:23:36 | ジャズ(ソウルジャズ)

スタンリー・タレンタインとシャーリー・スコットはジャズ界きっての夫婦コンビとして知られています。もともとのデビューはスコットの方が先でプレスティッジ・レコードから女流オルガン奏者として大々的に売り出されていました。一方のタレンタインはマックス・ローチのバンドを経て、ブルーノートと契約したのが1960年。同じ年にスコットと結婚します。

その後の2人は公私ともにアツアツの関係。タレンタインは「ディアリー・ビラヴド」「ネヴァー・レット・ミー・ゴー」「ア・チップ・オフ・ジ・オールド・ブロック」「ハスリン」でオルガンにスコットを起用。お返しとばかりにスコットは「ヒップ・ソウル」「ヒップ・ツイスト」「ザ・ソウル・イズ・ウィリング」「ソウル・シャウティン」「ブルー・フレイムズ」でタレンタインのテナーをフィーチャーします。契約の関係でタレンタインの作品はブルーノート、スコットの作品はプレスティッジから発売されていますが、内容的には大きな違いはなく、一連のシリーズとみなしてよいでしょう。ただ、ブルーノート盤と違い、スコット関連のプレスティッジ盤はCDで全く再発売されないため、youtubeでしか聴けないのが残念なところです。

その後、1963年にスコットはインパルス・レコードに移籍。引き続き「クイーン・オヴ・ジ・オルガン」等でタレンタインと共演しますが、なぜか1枚だけタレンタインをリーダーに冠したアルバムがあり、それが本作です。当時のタレンタインはブルーノートと専属契約中だったと思うのですが、特別に許可されたのでしょうか?録音年月日は1966年4月。メンバーはタレンタイン&スコット夫妻に加え、ロン・カーター(ベース)、マック・シンプキンズ(ドラム)です。

全7曲。うち3曲がタレンタインのオリジナルで、残りがスタンダード等のカバーです。オルガン入りジャズは一般的にソウル・ジャズとジャンル分けされることが多いですが、ここでも冒頭のタイトルトラック"Let It Go"や5曲目"Good Lookin' Out"等の自作曲、サイ・オリヴァー作の4曲目"'Tain't What You Do"あたりはまさにそんな感じのR&B色強めの曲ですね。

ただ、タレンタインに関しては歌モノの方が良いですね。おススメは2曲目の”On A Clear Day You Can See Forever"。1965年の同名のミュージカルのタイトル曲で、この後オスカー・ピーターソン、レッド・ガーランドらもカバーし、新たなスタンダード曲となる名曲です。メロディアスなアドリブを朗々と吹くタレンタインに、スコットもグルーヴィーなオルガンソロで華を添えます。7曲目"Deep Purple"もミディアムテンポのゆったりしたグルーブ感が耳に心地よいナンバーです。ちなみにこの曲、1930年代に書かれたスタンダード曲でジャズではアート・ペッパーの演奏でも知られていますが、伝説的ハードロック・バンド、ディープ・パープルの名前はこの曲から取ったそうです。何でもギターのリッチー・ブラックモアのおばあちゃんのお気に入りの曲だったとか。本筋とは全然関係ないですが、ちょっとしたトリビアです。なお、これだけ濃密なパートナーシップを築いていたタレンタイン&スコットですが、1971年にあっさり離婚します。理由は音楽性の違いとか色々言われていますが、男女の間のことなのでよくわかりません。

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ジミー・スミス/オルガン・グラインダー・スウィング

2024-08-19 18:47:03 | ジャズ(ソウルジャズ)

1956年に「ア・ニュー・サウンド・ア・ニュー・スター」で鮮烈なデビューを飾ったジミー・スミスは、その後5年余りの間に20枚以上ものリーダー作をブルーノートから発表するなど、同レーベル最大の売れっ子スターでした。そんなスミスですが、1962年にヴァーヴ・レコードに新天地を求めます。ブルーノート時代のスミスはスモールコンボでハードバップをベースにした演奏をメインにしていましたが、ヴァーヴではビッグバンドをバックに従えたよりコマーシャルなジャズを追求します。その目論見は成功し、オリヴァー・ネルソンのアレンジによる「ホーボー・フラッツ」はビルボードのアルバムチャートで最高18位、ラロ・シフリンのアレンジによる「ザ・キャット」は最高12位と言うジャズの世界にとどまらない大ヒットを記録します。一例のビッグバンド路線はその後も続くのですが、その中で異色とも呼べる作品が本日ご紹介する「オルガン・グラインダー・スウィング」です。

1965年6月に吹き込まれた本作はジミー・スミスの原点回帰と言って良いオルガン+ギター+ドラムによるトリオ作品。ギターにはスミスとはブルーノート時代からたびたび共演しているケニー・バレル、ドラムには当時まだ新進気鋭のドラマーだったグラディ・テイトが入っています。上述「ザ・キャット」等とは趣向が違いますが、それでも本作も見事にヒットし、ビルボードで最高15位を記録します。基本的にヒットチャートとは無縁のジャズ界において、当時のジミー・スミスがどれほど人気があったかがよくわかります。

アルバムはまずタイトル曲の”Organ Grinder's Swing"で始まります。タイトルからしてまるでジミー・スミスのために作られたかのような曲ですが、実際は1930年代のスイング時代の曲だそうです。ベニー・グッドマン楽団の演奏もyoutubeで聴けるので試しに聴いてみたのですが、まるで別の曲ですね。本作のバージョンはノリノリのファンキージャズで、ケニー・バレルのソウルフルなギターソロ→スミスのオルガンソロと続きます。2曲目”Oh No, Babe”はスミス作のコテコテのスローブルースで、スミスがまさに糸を引くというような表現がぴったりのオルガンを聴かせます。3曲目”Blues For J"も自作のブルースで、スミスが文字通りうなり声を上げながらオルガンを弾きまくります。キース・ジャレットもソロの最中にうなることで有名ですが、あちらが高い声なのに対しスミスのはまるで野獣のような低い声ですね。

4曲目”Greensleeves"はヴォーン=ウィリアムズがクラシック曲にしたことでも知られるイギリスの古い民謡。ジャズでもジョン・コルトレーン等が取り上げています。序盤は原曲のメロディを活かした展開ですが、後半にかけてスミスが縦横無尽にオルガンを弾きまくります。前半のバレルのギター・ソロもカッコいいです。5曲目"I'll Close My Eyes"は歌モノスタンダードで、ハードバップ好きならまずブルー・ミッチェルやディジー・リースの演奏を思い浮かべますが、本作では意表を突いてバラードで料理されています。スミスにせよ、ケニー・バレルにせよバラード表現の美しさも特筆すべきものがありますよね。ラストはエリントン・ナンバーの"Satin Doll"を軽快なミディアムチューンに料理して終わります。前半はコテコテ、後半はポップな構成で、バランスの取れた好盤だと思います。

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