1950年代にチェット・ベイカー、ジェリー・マリガン、バド・シャンクらを擁し、ウェストコースト・ジャズを強力に推進したパシフィック・ジャズですが、60年代になると新たな路線を模索し始めます。これまで白人ジャズマンが中心だった同レーベルですが、一転して黒人ジャズマン達を前面に出して行くようになります。その中にはテディ・エドワーズのようなビバップ期から活躍するベテランもいましたが、どちらかと言うと新人の発掘に力を入れ、ピアノのレス・マッキャン、テナーのカーティス・エイミー、トランペットのカーメル・ジョーンズ、そしてクインテットのジャズ・クルセイダーズらを続々とデビューさせます。
今日ご紹介するリチャード・ホームズもその1人。出身は東部ニュージャージー州でピッツバーグのクラブで演奏していたところを、ツアー中のレス・マッキャンに発見され、彼の後押しもあってパシフィック・ジャズでのレコードデビューに漕ぎ付けます。なので、ジャケットにはレス・マッキャン・プレゼンツとマッキャンの名前も記載されています。ちなみにタイトルの”グルーヴ”はその後彼のニックネームとなり、60年代後半にプレスティッジ移籍後はリチャード・グルーヴ・ホームズの名で活動しています。
録音年月日は1961年3月。メンバーはベン・ウェブスター(テナー)、ローレンス・”トリッキー”・ロフトン(トロンボーン)、ジョージ・フリーマン(ギター)、マッキャン(ピアノ)、ロン・ジェファーソン(ドラム)。全員が当時西海岸でプレイしていた黒人です。中でも注目はテナーの重鎮ベン・ウェブスターですよね。30~40年代にエリントン楽団のスター奏者として活躍し、50年代もヴァーヴを中心に多くのリーダー作を残した大御所的存在です。この時52歳で、50年代後半から一時的に西海岸で活動していました(「アット・ザ・ルネッサンス」参照)
オープニングトラックは”Them That Got”。レイ・チャールズの曲らしいですが、正直あまりヒットしなかった曲なので、私も知りませんでした。のっけからレス・マッキャンがソウルフルなピアノソロを聴かせますが、そもそもオルガン奏者のリーダー作に同じ鍵盤楽器のピアノが入っていること自体が珍しいですよね。解説書によるとこのセッションはもともとマッキャンのリーダー作を録音しようとしていたらしく、そこにゲストとして呼んだホームズ、ウェブスター、ロフトンらのプレイを聴いて、もう1枚アルバムを別に作ることにしたのだとか。なので、リーダーのはずのホームズの存在感は意外と控えめ。一応、マッキャンの後にオルガンソロを聴かせますが、それもその後のベン・ウェブスターの貫録たっぷりのテナーの前に霞んでしまいます。その後もウェブスターは全編にわたって絶好調で、本作の事実上の主役と言っても過言ではないでしょう。続く"That Healin' Feelin'"もマッキャン作曲のファンキー・チューン。ここからはギターとトロンボーンも加わり、フリーマンのギター→ウェブスター→ロフトンのトロンボーン→ホームズ→マッキャンとソロをリレーします。3曲目”Seven Come Eleven”はチャーリー・クリスチャンがベニー・グッドマン楽団在籍時に作った曲。ギタリストの曲なのにギターソロはなく、ウェブスター→ロフトン→ホームズがソロを取ります。
4曲目”Deep Purple”は本作中唯一の歌モノスタンダード。伝説的ハードロック・バンド、ディープ・パープルの元ネタになった曲(過去ブログ参照)で、多くの歌手やジャズマンにカバーされた名曲ですが、ここでの演奏も間違いなく名演の一つに数えられるでしょう。まず、ウェブスターが円熟を極めたテナーソロを披露し、その後はマッキャン→ロフトン→ホームズとソロをつないで再びウェブスターが締めます。やっぱり彼のテナーが主役ですね。最後の”Good Groove”は唯一のホームズの自作曲。まずホームズとウェブスターがソロの掛け合いをし、その後はウェブスター→ホームズ→フリーマン→ロフトンとソロをリレーして締めくくります。以上、50年代のパシフィック・ジャズからは想像もできないような黒々としたソウルジャズですが、これはこれでおススメです!