ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ウィルバー・ハーデン/メインストリーム1958

2024-05-31 21:10:22 | ジャズ(ハードバップ)

本日は謎のフリューゲルホルン奏者ウィルバー・ハーデンを取り上げたいと思います。フリューゲルホルンはトランペットを一回り大きくした楽器で、トランペットに比べてソフトで温もりのある音が出るのが特徴です。ジャズの世界では60年代以降にアート・ファーマーが愛用したことでよく知られています。他にはマイルスやチェット・ベイカーも作品によって使用していますが、ハードバップ期にフリューゲルホルンを主楽器にしていたのはこのハーデンぐらいでしょうか?

さてこのハーデン、リーダー作はサヴォイに4枚あるのみで、サイドマンの作品も数えるほどしかないマイナーアーティストなのですが、なぜかジョン・コルトレーンとの関係が深いことで知られています。本作「メインストリーム1958」をはじめ、「ジャズ・ウェイ・アウト」「タンガニーカ・ストラット」の3作品でコルトレーンと共演。一方、同時期に吹き込まれたコルトレーンのリーダー作(「スタンダード・コルトレーン」「スターダスト」「バイーア」)にはお返しとばかりにハーデンがサイドマンとして参加しています。どういう交友関係だったのか分かりませんが、一時的にせよ強いパートナーシップを築いていたようです。本作「メインストリーム1958」はコルトレーンの参加だけでなく、他のメンバーも豪華でトミー・フラナガン(ピアノ)、ダグ・ワトキンス(ベース)、ルイス・ヘイズ(ドラム)のデトロイトトリオがリズムセクションを努めています。ジャケットには特にリーダーの記載はないのでこの時期よくあるリーダー不在のオールスターセッションととらえることもできますが、収録曲全5曲をハーデンが作曲しているためやはり彼の作品として扱うのがフェアと思います。

曲は全てミディアムテンポのハードバップ。アップテンポもバラードもなく、どれも似たような感じと言われればそうですが、リラックスした雰囲気の中で快適な演奏が繰り広げられます。注目のハーデンのソロはフリューゲルホルンの音の特徴を活かした伸びやかなトーンです。一方のコルトレーンは一発で彼とわかる独特の"シーツ・オヴ・サウンド"で吹きまくります。一見全く異なるスタイルの2人ですが、聴いていてそんなに違和感はないですね。私のフェイバリット・ピアニストであるトミー・フラナガンもいつもながら素晴らしい。的確なバッキングでフロントの2人を盛り立てるだけでなく、ソロに回った時はいつもの玉を転がすようなタッチで華麗なソロを紡いでいきます。全5曲、どれも平均点以上の出来ですが、おススメはメランコリックな旋律が印象的な"West 42nd St."、ラテンリズムの"E.F.F.P.H"(何かの頭文字?)、3分にわたるフラナガンの素晴らしいソロが堪能できる”Snuffy"でしょうか?結局、ハーデンとコルトレーンの蜜月関係は1年も経たずに終わり、ジャズジャイアントの道を突き進むコルトレーンを傍目にハーデンはひっそりとシーンから姿を消します。その後1969年に44歳で亡くなったそうですが、晩年のことはよくわかっていないようです。

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ポール・チェンバース・クインテット

2024-05-30 20:53:20 | ジャズ(ハードバップ)

本日はモダンジャズを代表するベース奏者ポール・チェンバースのブルーノート盤を取り上げたいと思います。チェンバースについてはリーダー作をご紹介するのは本ブログでは初めてですが、サイドマンとしてはこれまで数えきれないほど取り上げてきました。特に50年代のハードバップシーンにおけるチェンバースの活躍は群を抜いており、ジャズ名盤の中にも実はチェンバースがベースを弾いている作品がたくさんあります。一番有名なのは50年代半ばのマイルス・デイヴィス・クインテットですが、それ以外にもざっと挙げただけでもコルトレーン、ロリンズ、ジョニー・グリフィン、ハンク・モブレー、デクスター・ゴードン、ベニー・ゴルソン、スタンリー・タレンタイン、キャノンボール・アダレイ、ジャッキー・マクリーン、リー・モーガン、フレディ・ハバード、ドナルド・バード、ケニー・ドーハム、J・J・ジョンソン、カーティス・フラー、ウェス・モンゴメリー、ケニー・バレル、セロニアス・モンク、バド・パウエル、レッド・ガーランド、ソニー・クラーク、ウィントン・ケリー、ケニー・ドリュー、ミルト・ジャクソン、さらには西海岸のチェット・ベイカーやアート・ペッパーの作品にもサイドマンとして参加しています。チェンバースの出演した作品を聴くだけでハードバップの概要がわかると言っても過言ではないでしょうね。残念ながら1969年に33歳の若さで病死したため、活動期間は長くないですが、チェンバース自身はモードやフリージャズ等60年代以降の新しいジャズにはあまり興味がなく、活躍の機会も減っていたので短くも燃え尽きた一生だったのかもしれません。

本作「ポール・チェンバース・クインテット」は「ウィムズ・オヴ・チェンバース」「ベース・オン・トップ」と並ぶブルーノート3部作の1つです。そもそもベーシストでありながら天下のブルーノートに3枚もリーダー作を残している時点でチェンバースがいかに傑出した存在だったかがよくわかります。録音年月日は1957年5月19日、メンバーはドナルド・バード(トランペット)、クリフ・ジョーダン(テナー)、トミー・フラナガン(ピアノ)、エルヴィン・ジョーンズ(ドラム)とさすがブルーノートと言った豪華メンバーです。ちなみにジョーダン以外は全員デトロイト出身でこの時期よくあったデトロイト・セッションの1つとも言えます。

1曲目はベニー・ゴルソンの"Minor Run-Down"。冒頭から2分間にわたってチェンバースがピチカートでソロを取り、その後ジョーダン→バード→フラナガンと続きます。2曲目はチェンバースの自作曲”The Hands Of Love"。思わず歌詞を付けて歌いたくなるような魅力的な旋律を持った曲です。チェンバースのピチカートの後、フラナガンの目の覚めるようなソロを挟み、ジョーダン、バードも卓越したプレイを聴かせます。ズバリ名曲・名演と言って良いでしょう。3曲目は定番スタンダードの”Softly, As In A Morning Sunrise”(朝日のようにさわやかに)。ここではホーン陣がお休みで途中でフラナガンが短いソロを挟む以外はチェンバースの独壇場です。4曲目”Four Strings"は再びゴルソン作となっていますが、実は同時期に吹き込まれたミルト・ジャクソンの「バグス&フルート」収録の”Midget Rod"とほぼ同じ曲です。そちらはミルトの自作曲とされているのですが、一体どちらがオリジナルなんでしょうか?演奏の方ですが、チェンバースがここではアルコ(弓弾き)でソロを取っています。ただ、個人的にはアルコのギコギコした音はあまり好きではないんですよね。ジョーダン→バード→フラナガンのソロは素晴らしいです。”What's New"は再び定番スタンダードですが、この曲ではチェンバースも短いソロを取るものの、ドナルド・バードのブリリアントなトランペットが主役ですね。ラストの"Beauteous"は再びチェンバースの自作曲ですが、この曲も香り高き良質のハードバップで、全員が軽快にソロをリレーしていきます。”The Hands Of Love"と言いこの曲と言い、チェンバースの作曲センスの高さに驚かされます。以上、チェンバースのベースソロが十二分に堪能できるだけでなく、バード、ジョーダン、フラナガンのソロもたっぷりフィーチャーされているので、特にベース好きの人でなくても楽しめる上質のハードパップ作品と思います。

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ペッパー・アダムス・クインテット

2024-05-29 18:11:53 | ジャズ(ウェストコースト)

本日はバリトン奏者ペッパー・アダムスの初リーダー作を取り上げたいと思います。アダムスについては以前「アウト・オヴ・ジス・ワールド」で述べたようにデトロイト出身で同郷のドナルド・バードとのコンビでよく知られています。基本は東海岸のハードバップシーンで活躍していましたが、1956年から57年にかけては一時的に西海岸で活動していたようです。本作は1957年7月にLAで吹き込まれたもので、先日のエディ・コスタと同じくモード・レーベルから発売されました。例の水彩画のジャケットが採用されていますが、手前がリーダーのアダムスで、奥がトランペットのステュ・ウィリアムソンでしょう。ちなみに残りのメンバーはカール・パーキンス(ピアノ)、リロイ・ヴィネガー(ベース)、メル・ルイス(ドラム)です。

1曲目はナット・キング・コールのヒット曲"Unforgettable"。後に娘のナタリー・コールがカバーしてグラミー賞も取った名曲ですが、インストゥルメンタルのバージョンは珍しいですね。ミディアムテンポでリラックスした雰囲気の演奏です。2曲目は"Baubles, Bangles & Beads"。「キスメット」と言うミュージカルの曲ですが、ロシアの作曲家ボロディンの弦楽四重奏曲第2番からメロディを借用したそうです。演奏自体はバリバリのハードバップで、序盤からアダムスがブリブリとソロを吹き鳴らします。後を受けるパーキンス、ウィリアムソンのソロも快調ですね。続く"Freddie Froo"はアダムスのオリジナルとなっていますが、ほぼパーカーの”Moose The Mooche"です。4曲目は定番スタンダードの”My One And Only Love"。この曲はアダムスのワンホーンによるバラードです。5曲目は再びアダムスのオリジナルでマイナーキーのバップ”Muezzin'"です。全体的にハードバップ色強めですが、アダムスはデトロイト時代からバード、ケニー・バレル、トミー・フラナガンら黒人バッパーの中でプレイしてきましたのでそれも納得です。クロード・ウィリアムソンの弟ステュ(彼については以前のブログ参照)やカール・パーキンスのプレイもなかなか良いですよ。

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ソニー・ロリンズ・プラス4

2024-05-28 21:09:21 | ジャズ(ハードバップ)

本日はソニー・ロリンズのプレスティッジ盤「ソニー・ロリンズ・プラス4」を取り上げたいと思います。ただし、聴いていただければわかると思うのですが、実際はクリフォード・ブラウン=マックス・ローチ・クインテットの作品です。テナーにハロルド・ランドを擁し、西海岸を拠点にプレイしていたブラウン=ローチ・クインテットですが、1955年にニューヨークに帰ってきます(もともとはブラウンもローチも東海岸の出身)。ただし、ランドが引き続き西海岸での活動を継続したために、代わりにロリンズがクインテットに加わったというわけです。メンバーはクリフォード・ブラウン(トランペット)、ロリンズ、リッチー・パウエル(ピアノ)、ジョージ・モロウ(ベース)、マックス・ローチ(ドラム)。このメンバーでまず彼らが専属契約を結んでいたエマーシーに名盤「アット・ベイズン・ストリート」を吹き込みます。録音時期は1956年1月から2月にかけてで、クインテット名義ではこれが最後のスタジオ録音となります。ただ、実は3月22日にもプレスティッジにも吹き込みが行われており、それが本作です。実態はブラウン=ローチ・クインテットですが、契約上の問題からプレスティッジと契約していたロリンズがリーダーとなったというのが経緯です。なお、後年になってブラウンが6月26日に事故死する直前のライヴを収めたという「ザ・ビギニング・アンド・ジ・エンド」という作品がコロンビアから発売されましたが、最近の定説では前年の1955年5月の録音だそうです。と言うわけで本作がブラウン最後のスタジオ録音となります。

上述のとおりジャズ史的に見て価値の高い作品ですが、そんなものを一切抜きにして純粋な音楽的観点から見ても素晴らしい作品だと思います。アルバムはまずロリンズの自作曲"Valse Hot"で始まります。3/4拍子という変則リズムのワルツですが、メロディ自体はとても優しく心温まる名曲です。ロリンズもローチもよほどこの曲を気に入ったのか、翌年にローチのリーダー作「ジャズ・イン・3/4タイム」(ロリンズも参加)でも再演しています。2曲目から4曲目は歌モノですが、いわゆる定番曲ではなくサム・コスロー作の”Kiss And Run"、ジミー・マクヒューのミュージカル曲"I Feel A Song Coming On"とあまり他では聴いたことのない曲です。ただ、メロディ自体はとても親しみやすいですし、何より演奏が素晴らしいですね。ノリにノってブロウするロリンズ、唯一無二の超絶技巧を次々と繰り出すブラウン、そしてバンド全体をコントロールするローチのドラミング、そして彼らの影に隠れがちなリッチー・パウエルのピアノも良いです。アーヴィング・バーリンの”Count Your Blessings Instead Of Sheep"は2分半しかない箸休め的バラードで、ここではブラウンがお休みしてロリンズのワンホーンです。ラストは再びロリンズの自作曲”Pent-Up House"。チェット・ベイカーはじめ多くのジャズメンにカバーされた名曲ですが、初演は本作です。2管の力強いテーマ演奏の後、ブラウンが輝かしいソロを繰り広げ、続くロリンズは出だしこそ手探りなものの途中から閃きに満ちたアドリブを聴かせます。結局、この録音がブラウンにとって遺作となるのですが、当たり前のことながら演奏にはそんな悲劇の前兆など微塵も感じられず、ジャズをプレイする喜びが聴いているこちらにも伝わって来ます。

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ジョー・ゴードン/ルッキン・グッド

2024-05-27 18:40:28 | ジャズ(ハードバップ)

本日は過小評価されたトランペッター、ジョー・ゴードンの作品をご紹介します。ゴードンは元々ボストンの出身で東海岸でプレイしていました。その頃の作品にはドナルド・バード「バーズ・アイ・ヴュー」、ホレス・シルヴァー「シルヴァーズ・ブルー」等があります。また、同郷のハーブ・ポメロイのビッグバンドにも在籍していました。ただ、当時の東海岸は群雄割拠の時代。確かな腕を持ったゴードンですが、リー・モーガンやドナルド・バードなどの若武者たちに押され、あまり活躍の機会は回ってきませんでした。そこで、活路を求めたのが西海岸。1958年頃にロサンゼルスに移住して活動を始め、本ブログでも紹介したシェリー・マンの「アット・ザ・ブラックホーク」はじめ、ハロルド・ランドやバーニー・ケッセルらの作品に参加しています。ただ、それでもリーダー作の機会はなかなかなく、ようやく巡ってきたのが、1961年7月6日録音のこのコンテンポラリー盤というわけです。共演メンバーはジミー・ウッズ(アルト)、ディック・ウィッティントン(ピアノ)、ジミー・ボンド(ベース)、ミルト・ターナー(ドラム)です。なお、ゴードンは東海岸時代にもエマーシーに1枚だけリーダー作を残していますが、内容的にはこちらの方が断然上と思います。

全8曲。スタンダードや他人の曲は1曲もなく、全てゴードンのオリジナルという意欲的な構成です。失礼ながらメンバーもかなり地味ですし、知ってる曲が1曲もないとなれば、聴く前は正直身構えてしまいますが、これがなかなかの充実した内容で、ジャズの奥深さを感じさせてくれます。西海岸録音ですが、ピアノのウィッティントン以外は全員黒人ということで、基本的にはハードバップです。ただし、1961年録音とあって、少しモーダルな雰囲気も漂わせています。特にアルトのジミー・ウッズのプレイは明らかに60年代っぽいですね。ピアノのウィッティントンは本作以外で見かけたことがないですが、シャープなソロを聴かせてくれます。

アルバムはデューク・ピアソンの”Jeannine"に少し似たキャッチーなメロディの"Terra Firma Irma"で始まります。こういう事前情報の少ない作品は1曲目がショボいと聴く気をなくしますが、つかみはOK!って感じですね。続く"A Song For Richard"はマイナー調のミディアムナンバーで、ゴードンがマイルスばりのミュートプレイを聴かせてくれます。この曲と4曲目"You're The Only Girl In The Next World For Me"、6曲目のラテンリズムの"Mariana"あたりはモード色強めです。3曲目"Non-Viennese Waltz Blues"と5曲目"Co-Op Blues"は文字通りファンキーなブルースですが、出来はまあまあと言ったところ。7曲目"Heleen"は本作のもう1つのハイライトとも言える美しいバラード。ゴードンの情感たっぷりのトランペットとウィッティントンの透明感あふれるピアノソロが素晴らしいです。ラストは軽快なドライブ感たっぷりの"Diminishing"で締めくくります。念願のリーダー作も発表したゴードンですが2年後の1963年11月4日に自宅の火事により35歳の生涯を閉じます。同じく早死にしたクリフォード・ブラウンやリー・モーガンと比べて語られることもほとんどないゴードンですが、その才能は確かだったことは残された本作を聴けば分かります。

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