レスター・ヤング派と言う言葉があります。文字通りスイング期に活躍した名テナー奏者、レスター・ヤングのスタイルを踏襲するジャズマン達のことで、40~50年代に活躍したテナーマンの主流派だったと言えるでしょう。まろやかな音色とメロディアスなアドリブが最大の特徴で、同じテナー奏者でも激しいブロウを持ち味とするいわゆる”ホンカー”と呼ばれる人達とは一線を画しています。そのためかレスター自体は黒人にも関わらず、どちらかと言うと白人ジャズマンにレスター派が多い印象です。黒人だと例えばジョン・コルトレーンやデクスター・ゴードンも若い頃はレスターに影響を受けたそうですが、長じてからの演奏は全く別物ですし、ソニー・ロリンズはどちらかと言えばコールマン・ホーキンス派です。あえて言うならハンク・モブレーがレスター派に近いですかね。
レスター派の代表格と言えば何と言ってもスタン・ゲッツとズート・シムズが両巨頭ですね。他では東海岸だとアル・コーンやアレン・イーガー、西海岸だとボブ・クーパーに今日ご紹介するリッチー・カミューカとビル・パーキンスあたりがそうですね。マイナーなところだとブリュー・ムーア、チェット・ベイカーの盟友フィル・アーソ、デイヴ・ペル、ボブ・ハーダウェイ等もレスター派に分類されます。
今日ご紹介する「テナーズ・ヘッド・オン」はそんな西海岸のレスター派2人による共演盤です。ジャケット左側がカミューカ、右側がパーキンスですね。カミューカについては本ブログでも先日の「ジャズ・エロティカ」をはじめサイドマンとしてもたびたび取り上げています。ビル・パーキンスはマーティ・ペイチ楽団絡みで何度か言及していますが、きちんと紹介するのは今回が初めてですね。録音年月日は1956年7月。西海岸のリバティ・レコードへの吹き込みです。リーダー2人以外のメンバーはピート・ジョリー(ピアノ)、レッド・ミッチェル(ベース)、スタン・リーヴィ(ドラム)。いずれも西海岸を代表する名手ぞろいです。
全8曲。スタンダード6曲、オリジナル2曲と言う構成です。オープニングトラックはデューク・エリントンの”Cotton Tail”。急速調のテンポでこの曲はテナーバトルと言う感じですね。ソロ1番手はピート・ジョリーで、その後カミューカ→パーキンスの順でソロをリレーし、後半にはテナーチェイスも繰り広げます。2人のテナーの違いですが、ジャケット美女のように目をつぶって聴いてもなかなか違いを見つけるのが難しいかもしれません。あえて言うならカミューカの方がややコクがあり歯切れが良く、パーキンスの方はよりソフトな感じでしょうか?もっとも、CD解説書に全曲のソロオーダーが書いてあるので間違えようがないのですが・・・
2曲目以降はあまりテナーバトル系の熱い演奏はなく、バラードまたはミディアム中心です。優しいバラードの2曲目"I Want A Little Girl"、ミディアムテンポで歌心たっぷりに歌い上げる4曲目”Indian Summer"、シナトラのヒット曲6曲目"Oh! Look At Me Now"と言った歌モノスタンダードを2人がほのぼのと演奏して行きます。こう言ったタイプの演奏を「上品でステキ」と思うか「パンチが足りない!」と思うかは聴く人の好みによりますが、私は若干後者寄りですかね・・・ただ、"Indian Summer"はなかなかの好演と思います。
その他、スタンダード曲の中ではベニー・グッドマン楽団の5曲目"Don't Be That Way"が意外と聴きごたえがあります。ソロはパーキンス→カミューカの順ですが、その間にピート・ジョリーのピアノソロが挟まれ、意外とパーカッシブで力強いタッチです。後半のテナーチェイスもスリリング。7曲目”Spain”は後年のチック・コリアの名曲とはもちろん別曲で、スイング時代のアイシャム・ジョーンズ楽団の曲です。オリジナルの2曲はレッド・ミッチェルが書いたブルースナンバーの3曲目”Blues For Two”、同じレスター派のテナー奏者アル・コーンのカバー8曲目"Pick A Dilly"ですが、演奏的にはどちらも特筆すべきものではないです。以上、ブログにアップしておきながら、そこまで強く薦めるというわけではないですが、”Cotton Tail""Indian Summer""Don't Be That Way"あたりは一聴の価値があると思います。