ジャズファンの楽しみの一つにマイナーレーベルの名盤探しと言うものがあります。ブルーノート、プレスティッジ、リヴァーサイド、ヴァーヴ等に名盤が多いのはまごうことなき事実ですが、一方で聞いたことのないようなマイナーなレコード会社に意外な名盤が隠れていたりします。50年代のロサンゼルスに短期間存在したイントロ・レコードもその一つで、このレーベルはアート・ペッパーの「モダン・アート」によってのみ存在を知られているレーベルと言っても過言ではないでしょう。
この「モダン・アート」は後にブルーノートに版権が買い取られ、CD化もされたことから比較的一般のジャズファンにも入手しやすく、ペッパーの代表作として昔から親しまれています。一方でイントロ・レコードにもう1枚ペッパー絡みの作品があることはコアなジャズファンにしか知られていません。それが今日ご紹介する「コレクションズ」です。ただし、ペッパーのリーダー作ではなく、彼の参加は10曲中半分の5曲のみ。リーダーはデイヴ・ブルーベック・カルテットのドラマーとしてかの有名な”Take Five”にも参加したジョー・モレロです。
録音は1957年1月3日の1日で行われたようですが、2つのセッションに分かれており、1つはペッパー入りのクインテットで、ペッパー、レッド・ノーヴォ(ヴァイブ)、ジェラルド・ウィギンス(ピアノ)、ベン・タッカー(ベース)、モレロと言う布陣。残りのセッションがペッパーの代わりに白人ギタリストのハワード・ロバーツが入っています。レッド・ノーヴォは30年代のスイング時代から活躍する白人ヴァイブ奏者でベニー・グッドマン楽団にも在籍していた大ベテラン。ジェラルド・ウィギンスはジェリー・ウィギンスの別名でも知られ、黒人でありながらもっぱらウェストコーストのジャズシーンで活躍した名ピアニストです。
アルバムはペッパーの自作曲"Tenor Blooz"で始まります。タイトル通りペッパーがテナーで吹くブルースで、レッド・ノーヴォのヴァイブ→ペッパーのテナー→ウィギンスのソロと続きます。ペッパーのテナーソロはアルトを吹く時のような鋭さこそないものの、レスター・ヤング風のコクを感じさせるソロを吹きますね。後半にモレロのドラムとテナー、ヴァイブの掛け合いもあります。2曲目は歌モノスタンダードの"You're Drivin' Me Crazy"。ペッパーはこの曲以降はアルトを吹きますが、やはりテナーよりアルトの方がいいですね。曲は典型的なさわやかウェストコースト・ジャズで、ペッパー→ウィギンス→ノーヴォ→ペッパーとモレロの掛け合いと軽快なソロをリレーします。3曲目と4曲目はペッパー抜きのセッションでハワード・ロバーツのギターが入ります。スタンダードの”Sweet Georgia Brown”は急速調の演奏で、各人の短いソロとモレロのドラムが絡み合うような展開です。4曲目”Little Girl”はあまりよく知らない歌モノですがなかなか良い曲です。この曲はロバーツのギターにスポットライトが当たり、彼が主役のような感じですね。このロバーツも日本ではあまり人気がないですが、ヴァーヴやキャピトルに多くのリーダー作を残す実力者です。5曲目は再びペッパーが戻り、自作曲の"Pepper Steak"を演奏します。哀愁漂うマイナーキーの曲でペッパー→ウィギンス→タッカーと味のあるソロをリレーします。
続いて後半(B面)。"Have You Met Miss Jones"はペッパー抜きで、お馴染みのスタンダードをウィギンス→ロバーツ→ノーヴォ→モレロと各楽器のソロ交換とドライブ感溢れる演奏を展開します。7曲目はチャーリー・パーカーの"Yardbird Suite"。東のパーカーに西のペッパー、アルトの天才として並び称された者同士ですが、ここではペッパーが目の覚めるような素晴らしいソロでパーカーの代表曲を料理します。後に続くウィギンスのソロ→ペッパーとモレロのソロ交換も良いです。8曲目"I Don't Stand A Ghost Of A Chance"と9曲目"I've Got The World On A String"はどちらもスタンダード。ペッパーは参加していませんが、ノーヴォ、ウィギンス、ロバーツらが充実したソロを聴かせます。ラストはペッパーの"Straight Life"。ペッパーのテーマ曲のような曲で「サーフ・ライド」や「ミーツ・ザ・リズム・セクション」に収録されているだけでなく、彼の自叙伝のタイトルにもなっています。のっけからペッパーが閃きに満ちた圧巻のアルトソロでぐいぐい引っ張ります。後に続くウィギンスのソロ、モレロとペッパーの掛け合いも最高です!
以上、10曲中5曲の参加ながらやはりアート・ペッパーの存在感は圧倒的で、その輝きに満ちたプレイは50年代の彼の全作品の中でも指折りの出来だと思います。もちろんリーダーのモレロも随所でソロを披露して存在感を見せますし、過小評価されたジェラルド・ウィギンスのピアノも見事です。ずばりウェストコースト・ジャズ屈指の隠れ名盤です。