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ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ビル・パーキンス&リッチー・カミューカ/テナーズ・ヘッドオン

2025-05-01 17:44:50 | ジャズ(ウェストコースト)

レスター・ヤング派と言う言葉があります。文字通りスイング期に活躍した名テナー奏者、レスター・ヤングのスタイルを踏襲するジャズマン達のことで、40~50年代に活躍したテナーマンの主流派だったと言えるでしょう。まろやかな音色とメロディアスなアドリブが最大の特徴で、同じテナー奏者でも激しいブロウを持ち味とするいわゆる”ホンカー”と呼ばれる人達とは一線を画しています。そのためかレスター自体は黒人にも関わらず、どちらかと言うと白人ジャズマンにレスター派が多い印象です。黒人だと例えばジョン・コルトレーンやデクスター・ゴードンも若い頃はレスターに影響を受けたそうですが、長じてからの演奏は全く別物ですし、ソニー・ロリンズはどちらかと言えばコールマン・ホーキンス派です。あえて言うならハンク・モブレーがレスター派に近いですかね。

レスター派の代表格と言えば何と言ってもスタン・ゲッツとズート・シムズが両巨頭ですね。他では東海岸だとアル・コーンやアレン・イーガー、西海岸だとボブ・クーパーに今日ご紹介するリッチー・カミューカとビル・パーキンスあたりがそうですね。マイナーなところだとブリュー・ムーア、チェット・ベイカーの盟友フィル・アーソ、デイヴ・ペル、ボブ・ハーダウェイ等もレスター派に分類されます。

今日ご紹介する「テナーズ・ヘッド・オン」はそんな西海岸のレスター派2人による共演盤です。ジャケット左側がカミューカ、右側がパーキンスですね。カミューカについては本ブログでも先日の「ジャズ・エロティカ」をはじめサイドマンとしてもたびたび取り上げています。ビル・パーキンスはマーティ・ペイチ楽団絡みで何度か言及していますが、きちんと紹介するのは今回が初めてですね。録音年月日は1956年7月。西海岸のリバティ・レコードへの吹き込みです。リーダー2人以外のメンバーはピート・ジョリー(ピアノ)、レッド・ミッチェル(ベース)、スタン・リーヴィ(ドラム)。いずれも西海岸を代表する名手ぞろいです。

全8曲。スタンダード6曲、オリジナル2曲と言う構成です。オープニングトラックはデューク・エリントンの”Cotton Tail”。急速調のテンポでこの曲はテナーバトルと言う感じですね。ソロ1番手はピート・ジョリーで、その後カミューカ→パーキンスの順でソロをリレーし、後半にはテナーチェイスも繰り広げます。2人のテナーの違いですが、ジャケット美女のように目をつぶって聴いてもなかなか違いを見つけるのが難しいかもしれません。あえて言うならカミューカの方がややコクがあり歯切れが良く、パーキンスの方はよりソフトな感じでしょうか?もっとも、CD解説書に全曲のソロオーダーが書いてあるので間違えようがないのですが・・・

2曲目以降はあまりテナーバトル系の熱い演奏はなく、バラードまたはミディアム中心です。優しいバラードの2曲目"I Want A Little Girl"、ミディアムテンポで歌心たっぷりに歌い上げる4曲目”Indian Summer"、シナトラのヒット曲6曲目"Oh! Look At Me Now"と言った歌モノスタンダードを2人がほのぼのと演奏して行きます。こう言ったタイプの演奏を「上品でステキ」と思うか「パンチが足りない!」と思うかは聴く人の好みによりますが、私は若干後者寄りですかね・・・ただ、"Indian Summer"はなかなかの好演と思います。

その他、スタンダード曲の中ではベニー・グッドマン楽団の5曲目"Don't Be That Way"が意外と聴きごたえがあります。ソロはパーキンス→カミューカの順ですが、その間にピート・ジョリーのピアノソロが挟まれ、意外とパーカッシブで力強いタッチです。後半のテナーチェイスもスリリング。7曲目”Spain”は後年のチック・コリアの名曲とはもちろん別曲で、スイング時代のアイシャム・ジョーンズ楽団の曲です。オリジナルの2曲はレッド・ミッチェルが書いたブルースナンバーの3曲目”Blues For Two”、同じレスター派のテナー奏者アル・コーンのカバー8曲目"Pick A Dilly"ですが、演奏的にはどちらも特筆すべきものではないです。以上、ブログにアップしておきながら、そこまで強く薦めるというわけではないですが、”Cotton Tail""Indian Summer""Don't Be That Way"あたりは一聴の価値があると思います。

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リッチー・カミューカ/ジャズ・エロティカ

2025-03-25 20:56:22 | ジャズ(ウェストコースト)

本日はリッチー・カミューカの「ジャズ・エロティカ」です。随分意味深なタイトルが付いていて、一体どんな音楽が展開されるのかと思いますが、中身はいたって正統派のウェストコーストジャズです。確かにジャケットにはおっぱい丸出しの全裸の女性が描かれていますが、そもそも写真ではなくてイラストですしポーズも「あ~ぐっすり寝ちゃったわ」的な感じでそんなにエロいと言う感じはないですね。(とは言えレジに持って行く時は若干恥ずかしかったですが・・・)

リッチー・カミューカはウェストコーストを代表する白人テナー奏者としてジャズファンの間ではそれなりに人気があります。他には例のモード・レコードにカルテット作品を残していますし、ビル・パーキンスとのツインテナー「テナーズ・ヘッド・オン」等もあります。本ブログでは過去に紹介したシェリー・マンの「アット・ザ・ブラックホーク」やスタン・リーヴィ「グランド・スタン」、デンプシー・ライト「ザ・ライト・アプローチ」にサイドマンとして参加していました。スタイル的にはバリバリのレスター・ヤング派で、ズート・シムズから少しアーシーさを抜いた感じと言えばしっくり来るでしょうか?まろやかで歌心溢れるテナーは紛れもなく一級品です。

本作は全10曲の構成で、うち6曲がビル・ホルマンがアレンジを手掛けた8人編成の小型ビッグバンド、残りの4曲がワンホーンカルテットとなっています。基本となるメンバーはカミュ―カにヴィンス・グワラルディ(ピアノ)、モンティ・バドウィグ(ベース)、スタン・リーヴィ(ドラム)の4人で、さらにそこにコンテ・カンドリ&エド・レディ(トランペット)、フランク・ロソリーノ(トロンボーン)、アレンジャーと兼任のホルマン(バリトン)と言うラインナップです。ウェストコーストらしく全員が白人ですが、名手揃いなので演奏のクオリティに全く問題はありません。発売元はハイファイ・レコードと言う全く聞いたことのないレコード会社です。

曲の紹介ですが、楽器構成毎が分かりやすいので今回もその方式でやります。まずは8人編成から。1曲目”Way Down Under"はビル・ホルマンのオリジナル曲。このホルマンと言う人は自身もサックス奏者としてそこそこ活躍しましたが、作曲や編曲も手掛けるマルチタレントだったようですね。この曲もスイング感に溢れた素晴らしい曲で、本作の中でもベストトラックと言って良いぐらいの出来です。快調なホーンアンサンブルをバックに絶好調のテナーソロを取るカミューカが最高ですね。

残りの5曲は全て歌モノスタンダード。それも”Angel Eyes"”Star Eyes"”I Hadn't Anyone Till You""The Things We Did Last Summer""Indiana"とどれも良く知られた曲ばかりです。これらの曲ではカミューカだけではなくコンテ・カンドリやフランク・ロソリーノ、ホルマンもソロを取り、彼ら西海岸を代表する名手達のプレイにも注目です。ただ、惜しむらくはビル・ホルマンのアレンジがちょっと凝りすぎてやや鼻に突くきらいはありますね。有名スタンダード揃いなだけに自分の色を出そうと思ったのでしょうが、ちょっとアレンジ過多の気がします。唯一ラストの"Indiana"はシンプルなアレンジで、疾走感溢れるホーンアレンジに乗ってロソリーノ→ホルマン→カンドリ→カミューカ→グワラルディと切れ味鋭いソロをリレーします。

一方、ワンホーンカルテットの方ですが、こちらも2曲目”Blue Jazz"を除いて有名スタンダード中心。”Blue Jazz”はカミューカの自作曲でおそらく彼流のブルースでしょうが、ウェストコーストらしくあまり泥臭さはありません。4曲目”Stella By Starlight"はアップテンポな演奏で、カミューカ→グワラルディに続きスタン・リーヴィのドラムソロも聴けます。7曲目”Linger Awhile"はあまり他では聞いたことのない曲ですが、サラ・ヴォーンらも歌った曲で、ここではドライブ感たっぷりの演奏に仕上げられています。ヴィンス・グワラルディのピアノソロも素晴らしいです。9曲目はなぜか"If You Were No One"と言うタイトルでビル・ホルマンの自作曲となっていますが、誰がどう聴いてもジュール・スタインの名曲”It's You Or No One"です。なぜ見え透いたウソをつく?演奏自体はアップテンポの申し分ない好演奏です。以上、ジャケットとタイトルはともかく、中身はウェストコーストジャズが好きな人なら気に入ること間違いなしの好盤です。

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マーティ・ペイチ/アイ・ゲット・ア・ブート・アウト・オヴ・ユー

2025-01-18 17:08:04 | ジャズ(ウェストコースト)

先日マーティ・ペイチ「ブロードウェイ・ビット」で予告したとおり、本日はその姉妹盤である”お風呂のペイチ”こと「アイ・ゲット・ア・ブート・アウト・オヴ・ユー」をご紹介します。前作の2ヶ月後の1959年7月に録音されたもので、内容もほぼ同じで西海岸のオールスターを集めたビッグバンドによるスタンダード曲集です。さてこの作品、昔からジャケットが話題ですよね。お風呂上がりの女性の裸がガラス越しに見えそうで見えない、というあたりが男性諸氏に受けたのでしょうか?ただ、私はこのジャケットあまり好きではないです。モデル女性の顔があまりタイプではないと言うのもありますし、何より肝心の音楽の素晴らしさが俗っぽいお色気ジャケットのせいで伝わっていないような気がします。

メンバーですが「ブロードウェイ・ビット」と半分以上かぶります。総勢13人のうちビル・パーキンス(テナー)、アート・ペッパー(アルト)、ボブ・エネヴォルセン(ヴァルヴトロンボーン)、ジョージ・ロバーツ(バストロンボーン)、ヴィンス・デローザ(フレンチホルン)、ヴィクター・フェルドマン(ヴァイブ)、メル・ルイス(ドラム)が引き続き参加のメンバーです。ただ、トランペットはコンテ・カンドリ、ジャック・シェルドン、アル・ポーシノと3人とも入れ替わっており、その他にバリトンサックスにビル・フードが参加。ピアノも前作はペイチが兼務していましたが、今回はアレンジャーに専念したためラス・フリーマンが入り、その他ベースにジョー・モンドラゴンが起用されています。

全8曲。内容も前回と同じくスタンダード中心、ペイチのシャープなアレンジに乗って、各楽器がソロを取ると言う趣向です。ただ、違いは前回がミュージカル曲ばかりだったのに対し、ジャズ曲、特にエリントン楽団絡みの曲が多いのと、特定のソリストにスポットライトを当てた曲が多いのが特徴ですね。エリントン・ナンバーは"It Don't Mean A Thing""What Am I Here For/Cotton Tail""Warm Valley""Things Ain't What They Used To Be"と半分の4曲もあり、ペイチのエリントンへの傾倒ぶりが伺えます。

ただ、ここで特にご紹介したいのは特定のソリストをフィーチャーした曲の方です。まずは2曲目"No More"。ビリー・ホリデイの歌で有名な曲らしいですが、トランペットを大々的にフィーチャーした美しいバラードに仕上がっています。前作同様に曲毎のソリストの記載がないのですが、哀愁漂うトランペットを吹くのはおそらくジャック・シェルドンではないかと推測します。コンテ・カンドリはリーダー作を何枚か持っていますが、こんな乾いた音色ではないはず(アル・ポーシノはよくわからないので除外)。7曲目のエリントン作のバラード"Warm Valley"も素晴らしいですね。ここでダンディズム溢れるバリトンサックスを披露するのはビル・フード。正直あまり馴染みがないミュージシャンですが、なかなか良いソロを聴かせてくれます。"Warm Valley"はジェローム・リチャードソンも「ローミン」で取り上げていましたのでバリトンサックスと相性の良い曲なのかもしれません。

そして何より素晴らしいのがアート・ペッパー絡みの2曲。まずは4曲目、ボビー・ティモンズの"Moanin'"。前年にジャズ・メッセンジャーズがヒットさせた黒人ファンキージャズの聖典をウェストコーストの白人達が取り上げているのが面白いですが、演奏の方も悪くない、どころか良いです。まずはラス・フリーマンの意外とソウルフルなピアノとホーンアンサンブルによるコール & レスポンスの後、ペッパーが独創的なアドリブを披露します。原曲とは全然違うアプローチですがこれがまた様になっています。続く高らかに鳴るトランペットはおそらくコンテ・カンドリでしょう。その後のホーン陣のアレンジも洒落ていてなかなかの名演です。続く"Violets For Your Furs"は歌手のマット・デニスが書いた名バラードでズート・シムズコルトレーンも名演を残していますが、ここでのペッパーのプレイはそれらをも凌駕する素晴らしさ。澄み切ったアルトの音色と紡ぎ出されるフレーズの美しさに思わず涙が出そうになります。その他の曲はビル・パーキンス、ボブ・エネヴォルセン、ヴィクター・フェルドマンらも加わり、各人が短いソロをつないでいく展開ですが、それらのソロの中でもペッパーのソロは一際輝きを放っており、ウェストコーストの俊英達の中でも傑出した存在だったことがわかります。本作はペイチのアレンジャーとしての手腕を堪能できるだけでなく、ペッパーの天才ぶりをあらためて実感できる1枚です。

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マーティ・ペイチ/ブロードウェイ・ビット

2025-01-07 19:23:58 | ジャズ(ウェストコースト)

本日はマーティ・ペイチです。彼については当ブログでもたびたび取り上げてきましたが、本職はピアニストでモード・レコードにトリオ盤を残したりもしていますが、どちらかと言うとアレンジャーとしての活躍の方が目立ちますね。特に歌伴には定評があり、メル・トーメの名盤「シューバート・アレイ」やエラ・フィッツジェラルドの「エラ・スウィングス・ライトリー」等で洒落たアレンジを施しています。ペイチの率いるバンドにはウェストコーストで活躍していたジャズマンが多数起用されており、アンサンブルの間に挟まれる各プレイヤーのソロも聴きモノですね。今日ご紹介する「ブロードウェイ・ビット」はそんなペイチが1959年5月にワーナーブラザースに吹き込んだ作品。ジャズマニアの間では昔から”踊り子”の通称で親しまれている1枚です。内容的には上述のヴォーカル作品群から歌を抜いたような演奏、と言えばイメージがしやすいでしょうか?歌がない分、各楽器にもソロパートがより多く割り当てられており、西海岸の名手達のプレイを存分に味わうことができます。

メンバーは総勢12人で、ステュ・ウィリアムソン&フランク・ビーチ(トランペット)、ビル・パーキンス(テナー)、アート・ペッパー(アルト)、ジミー・ジュフリー(バリトン&クラリネット)、ボブ・エネヴォルセン(ヴァルヴトロンボーン)、ジョージ・ロバーツ(バストロンボーン)、ヴィンス・デローザ(フレンチホルン)、ヴィクター・フェルドマン(ヴァイブ)、ペイチ(ピアノ)、スコット・ラファロ(ベース)、メル・ルイス(ドラム)です。注目はやはりアート・ペッパーですね。彼はペイチ作品の常連でタンパには共同リーダー作も残していますし、ペイチの手掛ける歌伴にもかなりの割合で参加しています。ビッグバンドなので一つ一つのソロは短いですが、フレーズの美しさが一頭抜きん出ていますね。

全9曲。タイトルどおり全てブロードウェイのミュージカルナンバーを集めたものですが、ほとんどの曲がスタンダード曲として定着しており、聴きなじみのある曲ばかりです。1曲目はコール・ポーターの"It's All Right With Me"。テーマ部分の重低音トロンボーンはジョージ・ロバーツでしょうか?その後はフェルドマン→エネヴォルセンらが軽快にソロをリレーします。2曲目の"I've Grown Accustomed To Her Face"は有名な「マイ・フェア・レディ」の曲ですね。たゆたうようなホーンアンサンプルをバックに、ジミー・ジュフリーのクラリネット→ペッパーと美しいソロを取ります。3曲目は"I've Never Been In Love Before"で、様々な楽器がソロを取りますが、何と言ってもペッパーのきらめきに満ちたソロが最高です。続く"I Love Paris"は少し変わったアレンジで、ホーン陣の重低音アンサンブルとクラリネット→ミュートトランペットの掛け合いで曲が進行します。

後半(B面)1曲目は"Too Close For Comfort"。この曲はペッパーが何度も演奏した得意曲で、ここでも彼のきらめきに満ちたソロで始まり、ウィリアムソン→フェルドマン→ジュフリーとソロをリレーします。6曲目はメドレーで前半は”Younger Than Spring Time"でジュフリー→ペッパー→ウィリアムソンのミュートとつなぎますが、途中で"The Surrey With The Fringe On Top"に変わり、ラストは2つの曲がミックスされる凝った作りです。7曲目"If I Were A Bell"はマイルス・デイヴィスで有名ですが、ここでは実際に鐘の音が鳴ります。ソロはジュフリー→ウィリアムソン→パーキンス→フェルドマン→エネヴォルセン→ペッパーの順でしょうか?8曲目"Lazy Afternoon"はフレンチホルンが主旋律を奏でる幻想的な曲でペッパーとフェルドマンのソロが挟まれます。ラストトラックの"Just In Time”はパーキンスがテーマメロディーと最初のソロを吹き、ウィリアムソン→エネヴォルセン→ペッパー→ジュフリーとソロをリレーして締めくくり。

なお、ジャケットにはソリストの記載はないので、全て私の推測です。トランペットはステュ・ウィリアムソンではなくフランク・ビーチかもしれませんが、そもそも誰それ?って感じですし、まあ大体合っているでしょう。なお、ワーナーには本作の姉妹盤としてシャワー中の美女がジャケットになった通称”お風呂のペイチ”がありますが、それについても近日中にご紹介します。

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アート・ペッパー・プラス・イレヴン

2024-12-10 19:39:31 | ジャズ(ウェストコースト)

50年代のジャズシーンを語る時、東海岸では黒人中心のハードバップが隆盛を極め、西海岸では白人中心のウェストコーストジャズが花開いた、と言うような解説がよくなされます。ただ、実際にウェストコーストの作品群を深掘りすると、意外と黒人ジャズマンがたくさん活躍していたこともわかりますし、白人ジャズマン達も大なり小なりビバップ~ハードバップの影響を受けていることがわかります。本ブログでも過去に取り上げたハーブ・ゲラーやチャーリー・マリアーノは自他ともに認めるパーカー派でしたし、”白いパウエル”と呼ばれたクロード・ウィリアムソン、チャーリー・クリスチャンの後継者バーニー・ケッセル等がその代表でしょう。ただ、ウェストコーストジャズの”顔”と目されるアート・ペッパーについては彼のキャリアが40年代前半のビバップ誕生前まで遡ることもあり、スタイル的にはバップの影響はそこまで受けていないように思えます。少なくとも彼をパーカー派の括りに入れることはないですね。

今日ご紹介するコンテンポラリー盤「アート・ペッパー・プラス・イレヴン」はそんなバップとは無縁に思えるペッパーがバップ・スタンダードばかりを取り上げた珍しい企画です。全12曲のうち、ジェリー・マリガンやウディ・ハーマン楽団ら白人ジャズマンの曲は3曲だけで、後はパーカー、ガレスピー、モンク、マイルスらの定番曲に加え、ソニー・ロリンズやホレス・シルヴァーら同時代の黒人バッパーの曲も取り上げており、ペッパー自身の希望なのかレコード会社の選曲なのかわかりませんが、実にユニークな試みですね。

タイトル通りペッパー以外に11人のジャズマンを加えたミニビッグバンド編成で、指揮するのはマーティ・ペイチ。この人はピアニストとしても活躍しており、タンパにペッパーとの共演盤も残していますが、メル・トーメやエラ・フィッツジェラルドのヴォーカル作品等で巧みなビッグバンドアレンジを施しており、個人的にはアレンジャーとしての才能の方をより評価しています。録音は1959年3月から5月にかけて3回のセッションに分けて行われ、メンバーは多少入れ替わるのですがジャック・シェルドン、ピート・カンドリorアル・ポーシノ(トランペット)、ディック・ナッシュ、ボブ・エネヴォルセン(トロンボーン)、ヴィンセント・デローザ(フレンチホルン)、ハーブ・ゲラーorバド・シャンクorチャーリー・ケネディ(アルト)、ビル・パーキンスorリッチー・カミューカ(テナー)、メッド・フローリー(バリトン)、ラス・フリーマン(ピアノ)、ジョー・モンドラゴン(ベース)、メル・ルイス(ドラム)と西海岸を代表する白人ジャズマン達がズラリと集結しています。

曲はパーカー関連が2曲"Anthropology""Donna Lee”、ガレスピーが2曲”Groovin' High""Shaw 'Nuff"、マイルス関連が2曲"Move""Walkin'"、モンク”’Round Midnight"、ロリンズ”Airegin"、シルヴァー”Opus De Funk"が各1曲ずつと計9曲が黒人バッパーによる作品。残りの3曲がジェリー・マリガン関連の”Bernie's Tune""Walkin’ Shoes"とウディ・ハーマン楽団の”Four Brothers"です。

ほとんどの曲が3~4分程度の短い演奏で、ペイチが指揮するウェストコーストらしい洗練されたホーン・アンサンブルにペッパーの創造性豊かなソロが絡むという展開。どの曲もさすがのクオリティですが、中でも素晴らしいのは”Shaw 'Nuff"で、ペッパーの切れ味鋭い高速アドリブに思わずブラボー!と叫ばずにいられません。アルトではなくテナーで演奏した”Move""Four Brothers"”Walkin'"もなかなか味わいがありますね。”Anthropology”では珍しくクラリネットを披露しています。ペッパー以外のメンバーはほぼアンサンブル要員に徹していますが、ジャック・シェルドンだけは”Move"”Groovin' High"”Shaw 'Nuff"”Airegin"と4曲でトランペットソロを、ボブ・エネヴォルセンが"Move"で短いトロンボーンソロを取ります。以上、ビッグバンドでバップナンバーを吹きまくるペッパーと言う新たな魅力を発見できる1枚です。

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