ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

チャールズ・ミンガス/ファイヴ・ミンガス

2016-06-30 12:59:44 | ジャズ(その他)
本日も「ジャズの100枚」シリーズからチャールズ・ミンガスの作品をご紹介します。ミンガスについては本ブログでも以前にアトランティック盤「ブルース&ルーツ」を取り上げたましたね。ミンガスの作風というのはとにかく個性的でいわゆる普通のハードバップとは全然違うし、多少エキセントリックなところはあるにせよフリージャズほど難解でもない。黒人音楽に根差したR&Bの要素も感じられるし、一方でデューク・エリントンを思わせるような緻密なアンサンブルの曲もある。そんな色々な要素が入った“ごった煮”のサウンドが彼の魅力です。本作「ファイヴ・ミンガス(原題はMingus, Mingus, Mingus, Mingus, Mingus)」は1963年にインパルスから発表されたもので、そんなミンガス・ワールドがギュッと濃縮されたような作品です。



全7曲ありますが、セッションは2つに分かれています。“I X Love”と“Celia”は1963年1月の録音で、ロルフ・エリクソン&リチャード・ウィリアムズ(トランペット)、クエンティン・ジャクソン(トロンボーン)、ドン・バターフィールド(チューバ)、ジェローム・リチャードソン、ディック・ヘイファー&チャーリー・マリアーノ(サックス)、ジェイ・バーリナー(ギター)、ジャッキー・バイアード(ピアノ)、ミンガス(ベース)、ダニー・リッチモンド(ドラム)の計11人からなるビッグバンド編成。前者は“Duke's Choice”の別名でも知られる美しいバラードで、チャーリー・マリアーノがジョニー・ホッジスを思わせる官能的なアルトを聴かせてくれます。続く“Celia”もマリアーノが全編に渡って活躍します。2曲ともエリントン楽団を強く意識したサウンドですね。

あとの5曲は1963年9月のセッションから。メンバーはだいぶ重なっていますが、トランペットがエリクソンからエディ・プレストンに、トロンボーンがジャクソンからブリット・ウッドマンに代わり、サックスはマリアーノが抜けてブッカー・アーヴィンとエリック・ドルフィーが加わっています。リズムセクションもバーリナーのギターが抜け、ドラムをリッチモンドの代わりにウォルター・パーキンスが叩いています。こちらのセッションは野性味あふれる激しい曲が多く、ホーンセクションが咆哮する“II B.S.(Haitian Fight Song)”、猥雑で賑やかなR&B風の“Better Get Hit In Yo' Soul”、バンド全体が激しく燃えるラストの“Hora Decubitus”とどれも脳天直撃の強烈さです。もちろん全てが激しい曲ではなく、エリントンのバラード“Mood Indigo”が箸休め的に挟まれていますし、“Goodbye Pork Pie Hat”の別名で知られる“Theme For Lester Young”のような哀愁あふれるスローナンバーもあります。ソロでは“Mood Indigo”を除いてブッカー・アービンのテナーが大きくフィーチャーされており、“Better Get Hit in Yo' Soul”ではジェローム・リチャードソンの力強いバリトン、“Hora Decubitus”ではエリック・ドルフィーのキテレツなソロも聴くことができます。ミンガスらしくかなりアクの強い作品ではありますが、ハマるとやみつきになる魅力があります。
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カウント・ベイシー/ベイシー・ビッグ・バンド

2016-06-24 12:32:12 | ジャズ(ビッグバンド)
本日も「ジャズの100枚」シリーズからで、カウント・ベイシー楽団の作品をご紹介します。本ブログでもこれまで50年代後半~60年代前半のルーレット時代を中心に多くのベイシー作品をアップしてきましたが、今回取り上げるのは1975年にパブロ・レーベルから発表した作品です。1930年代から活動するベイシー楽団も結成から40年が経過し、御大ベイシーに至っては71歳の高齢。正直、彼らほどの知名度があれば昔ながらのメンバーで過去の懐メロを演奏するだけで十分に稼いでいけたでしょう。ただ、ベイシーのすごいところはマンネリを潔しとせず、常にメンバーを入れ替え、楽曲も新曲にこだわったこと。本作もサミー・ネスティコをアレンジャーに迎え、全曲彼が書き下ろしたナンバーばかり。メンバーも古参の顔ぶれに加え、若手ミュージシャンも多く起用しています。総勢18名、列挙してみましょう。トランペットがソニー・コーン、ピート・ミンガー、ボビー・ミッチェル、デイヴ・スタール、フランク・サボ、トロンボーンがアル・グレイ、カーティス・フラー、メル・ワンゾ、ビル・ヒューズ、サックスがテナーのジミー・フォレスト、エリック・ディクソン、アルトのボビー・プレイター、ダニー・ターナー、バリトンのチャーリー・フォークス。そしてリズム・セクションが御大ベイシー(ピアノ)、ジョン・デューク(ベース)、ブッチ・マイルス(ドラム)、そして“ミスター・リズム”ことフレディ・グリーン(リズム・ギター)という布陣です。コーン、グレイ、ディクソン、フォークス、グリーンあたりはお馴染みの顔ぶれですが、カーティス・フラーやジミー・フォレストがベイシー楽団に在籍していたとは知りませんでした。いずれにせよメンバーが代わろうとも、ベイシー楽団の真骨頂である重厚なアンサンブルはこのアルバムでも存分に聴くことができます。



それに加えてこの作品はとにかくサミー・ネスティコの書いた曲がどれも素晴らしい。1曲目“Front Burner”はスローなブルースで、ベースソロからベイシーのピアノが入り、ついでホーンセクションも加わって徐々に盛り上がっていきます。ソロはジミー・フォレストで、ソウルフルなテナーでアクセントを付けます。続く“Freckle Face”はバラード。ゆったりしたホーンアンサンブルの後でボビー・ミッチェルが美しいトランペット・ソロを聴かせてくれます。3曲目“Orange Sherbet”はスタンダード曲の“Just Friends”を彷彿とさせるキャッチーなメロディで、トランペット・ソロを挟みながらバンド全体が軽快にスイングします。4曲目“Soft As Velvet”はボビー・プレイターの官能的なアルトを大々的にフィーチャーしたバラード。バックのアンサンブルもため息の出る美しさです。5曲目“The Heat's On”は疾走感あふれるアップテンポの曲でこれまたフォレストが熱いソロを聴かせます。ここまでがレコードのA面ですが、文句のつけようがない素晴らしい出来です。

つづいてB面ですが、6曲目“Midnight Freight”はゆったりしたグルーヴの中、ダニー・ターナーの情熱的なアルト・ソロに続きアル・グレイがお得意のパワフルなプランジャー・ミュートで盛り上げます。続く“Give M' Time”は30年代風の懐かしい香りのする曲で、御大ベイシーの例の音数の少ないイントロの後、再びターナーのアルト・ソロ、ピート・ミンガーのミュート・トランペット・ソロと続きます。8曲目“The Wind Machine”は疾走感あふれるナンバーで、前半はジミー・フォレストが力強いテナー・ソロでぐいぐい引っ張り、後半はホーンセクションが高速テンポをものともしない一糸乱れぬアンサンブルを聴かせてくれます。ラストトラック“Tall Cotton”は何となく“Down By The River Side”を思い起こさせるゴスペル調のメロディで、トロンボーン・ソロ(おそらくアル・グレイ?)→サックス・アンサンブル→短いトランペット・ソロと続き、最後はバンド全体で締めくくります。以上、B面もA面ほどではないにせよ充実の出来で、ずばりベイシー楽団の全作品の中でも上位に入るほどのクオリティではないでしょうか?
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エラ・フィッツジェラルド・アット・ジ・オペラ・ハウス

2016-06-12 22:01:16 | ジャズ(ヴォーカル)

本日は久々に「ジャズの100枚」シリーズからエラ・フィッツジェラルドのライブ盤を取り上げます。エラと言えばサラ・ヴォーンと並ぶ女性ヴォーカルの第一人者で、ジャズの世界にとどまらず20世紀最高の女性歌手の一人と言って良いと思います。1940年代から80年代まで半世紀近いキャリアを誇る彼女ですが、全盛期はヴァーヴ・レコードに所属していた1950年代後半から60年代前半にかけてで、ルイ・アームストロングと共演した「エラ&ルイ」、カウント・ベイシー楽団と共演した「エラ&ベイシー」、そしてロジャース&ハートやガーシュウィン、コール・ポーター等の曲を取り上げたいわゆる「ソングブック」シリーズと多くの名盤を残しています。ただ、エラの真骨頂はやはりライブにあるのではないでしょうか?ストリングオーケストラをバックにしっとり歌うエラも十分魅力的ですが、ライヴでスモールコンボをバックにスキャット等もまじえながらノリノリで歌う姿は最高です。中でも有名なのは伝説の“Mack The Knife”“How High The Moon”を含む「エラ・イン・ベルリン」ですが、今日取り上げる「アット・ジ・オペラ・ハウス」もそれに次ぐ名盤と評価されているようです。録音は1957年9月29日、シカゴのオペラハウスで行われたものです。



全9曲、どれもよく知られたスタンダード曲ばかりですが、エラが抜群の歌唱力でバラードはしっとりと、アップテンポではパワフルなヴォーカルでぐいぐい引っ張っていきます。サポートを務めるのはオスカー・ピーターソン(ピアノ)、ハーブ・エリス(ギター)、レイ・ブラウン(ドラム)、ジョー・ジョーンズ(ドラム)のカルテットです。ジョーンズを除く3人は当時オスカー・ピーターソン・トリオ(60年代のエド・シグペンが入ったトリオとは違い、50年代はハーブ・エリスのギターを入れたドラムレス・トリオだった)として活躍しており、息もピッタリです。とは言え、名手ピーターソンもピアノ・ソロは封印し、ひたすらエラのボーカルの引き立て役に回っていますが。最後の“Stompin' At The Savoy”だけは、さらに8人もの管楽器奏者が加わりますが、このメンバーがまた豪華で、トランペットがロイ・エルドリッジ、トロンボーンがJ・J・ジョンソン、テナーがレスター・ヤング、イリノイ・ジャケー、コールマン・ホーキンス、フリップ・フィリップス、スタン・ゲッツ、アルトがソニー・スティットと凄まじいメンバーです。とは言え、彼らはただ単にバックで伴奏しているだけで、誰もソロを取りません。どうやらこの日はエラ単独のライブではなくヴァーヴの主催するオールスター・メンバーのコンサートの一部で、集まっていた大物ミュージシャン達がゲスト出演したようですね。この曲の聴き所は彼ら8人の演奏ではなく、エラの変幻自在のスキャット。冒頭はしっとりバラード風ですが、1分半頃からスキャットが始まりそこから4分近く♪ドゥビドゥビバッバとと言う声だけを武器に、まるでトランペットやサックスがソロを取るようなアドリブを次々と連発します。声を楽器の代わりにした圧巻のパフォーマンスで、これには豪華ホーン陣も真っ青ですね。

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