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ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

マスターサウンズ・プレイ・ホレス・シルヴァー

2025-09-01 18:07:35 | ジャズ(ハードバップ)

モダンジャズには兄弟プレイヤーがたくさんいますが、3人兄弟となると思い浮かぶのはハンク、サド、エルヴィンのジョーンズ3兄弟、パーシー、ジミー、アルバートのヒース3兄弟でしょうか?この2組は全員がそれぞれの楽器で第一人者として活躍していますよね。一方、同時期に活動したモンゴメリー3兄弟については次兄のウェス・モンゴメリーだけが突出して有名で、他の2人については知る人ぞ知る存在となっています。長兄のモンク・モンゴメリーはウェスの2歳上でベース奏者、末弟のバディ・モンゴメリーはウェスの7歳下でヴァイブ奏者兼ピアニストですが、お世辞にもメジャーとは言えませんよね。

ただ、実はレコードデビューについてはウェスよりも他の2人の方が先なのですね。故郷インディアナポリスを拠点に活動していたウェスがキャノンボール・アダレイの推薦によりリヴァーサイドに初リーダー作「ウェス・モンゴメリー・トリオ」を吹き込んだのが1959年10月のこと。一方、モンクとバディの2人は50年代半ばに西海岸に移住し、1957年に"ザ・マスターサウンズ"としてパシフィックジャズに初リーダー作を吹き込むと、以後60年代初頭までに11枚もの作品を残します。このマスターサウンズには1958年の「キスメット」にウェスがギタリストとして加わっているものの、参加はその1枚だけで、基本はリッチー・クラブトゥリー(ピアノ)とベニー・バース(ドラム)の2人を加えたカルテット編成です。この2人のことはあまり他では見かけたことはありませんが、2人とも白人ジャズマンのようですね。

今日ご紹介する「マスターサウンズ・プレイ・ホレス・シルヴァー」はそんなマスターサウンズが1960年にリリースした作品。題名通り全てホレス・シルヴァーの楽曲ばかりを演奏したものです。この頃のホレス・シルヴァーと言えばブルーノートの顔として次々とヒット作を連発していたところ。ファンキーでポップな自作曲の数々は他のジャズマンも好んで取り上げていましたが、1枚まるごとシルヴァーに捧げるとなると珍しいですね。

1曲目は"Ecaroh"。曲名はHoraceを逆さ読みしたもので「ホレス・シルヴァー・トリオ&アート・ブレイキー、サブー」やジャズ・メッセンジャーズ「ニカズ・ドリーム」でも演奏された痛快ハードバップです。キャッチーなメロディに乗ってバディの軽快なヴァイブ→リッチー・クラブトゥリーのピアノとソロを取り、終盤にはベニー・バースのドラムとの掛け合いもあります。2曲目"Enchantment"は「6ピーシズ・オヴ・シルヴァー」収録曲。原曲はドナルド・バードとハンク・モブレーの2管でしたが、ここではヴァイブとピアノでややミステリアスな感じのバラード調に仕上げています。後半のベニー・バースのドラムソロも何となくエキゾチックです。3曲目"Nica's Dream"は多くのジャズマンのパトロンだったパンノニカ・デ・ケーニヒスヴァルター男爵夫人に捧げた名曲。初演は上述のジャズ・メッセンジャーズ「ニカズ・ドリーム」で、後に「ホレス・スコープ」でも再演しており、他のジャズマンによるカバーも多く、シルヴァーの中でも最も有名な曲かもしれません。

4曲目"Doodlin'"もシルヴァーの代表曲の一つで「ホレス・シルヴァー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ」収録曲です。ディジー・ガレスピーやサラ・ヴォーン、レイ・ブライアントもカバーしたゴスペル風のブルースで、ここではリッチー・クラブトゥリーが白人とは思えないソウルフルなピアノを聴かせてくれます。これまでソロの機会のなかったモンク兄さんもベースソロを聴かせますが、アコースティックではなくエレキベースなんですね。実はモンクはジャズ界におけるエレキベースの先駆者的存在だそうです。5曲目"Moonrays"は「ファーザー・エクスプロレーションズ」収録曲。ファンキーorソウルフルな曲が多いシルヴァーの中では珍しく抒情的で美しい曲で、ここでもヴァイブとピアノによる上品な演奏に仕上がっています。ラストトラックの"Buhaina"は「ホレス・シルヴァー・トリオ&アート・ブレイキー、サブー」やミルト・ジャクソン「MJQ」で演奏された曲。Buhainaとはアート・ブレイキーのムスリム名です。バディ→クラブトゥリー→モンクのエレキベースソロと軽快にリレーして作品を締めます。

この後、マスターサウンズは翌1961年に解散。再びウェスを迎えてモンゴメリー・ブラザーズを結成し、リヴァーサイドに「グルーヴヤード」等を残しますがこちらも短期間で活動を終了。その後、スター街道を驀進するウェスに対し、モンクとバディの2人は結局スポットライトを浴びることこそなかったものの、モンクは70年代、バディは2000年代になるまで活動を続けたようです。

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レス・マッキャン&ザ・ジャズ・クルセイダーズ/ジャズ・ワルツ

2025-08-26 19:10:28 | ジャズ(ハードバップ)

本日はジャズ・クルセイダーズをご紹介します。1960年代から活動するグループですが、1971年に単に”ザ・クルセイダーズ”と改名し、フュージョン・バンドとして成功を収めますので一般的にはそちらの名前の方が通りが良いかもしれません。1974年の「サザン・コンフォート」以降はスタジオアルバムが7枚連続でビルボードでTOP50入りし、中でもランディ・クロフォードをヴォーカルに迎えた1979年の”Street Life”はアーバンソウルの名曲として洋楽ファンにもよく知られています。クエンティン・タランティーノ監督の映画「ジャッキー・ブラウン」のサントラにも収録されていましたね。

ただ、アコースティックなジャズを愛する私としては、あくまで60年代のジャズ・クルセイダーズ時代がコレクションの対象です。西海岸のパシフィック・ジャズからデビューした彼らですが、出身はテキサス州ヒューストンで演奏自体は南部らしいソウルフルでアーシーな黒人ジャズ。この頃のパシフィック・ジャズは従来のウェストコースト・ジャズ路線から一転してレス・マッキャン、カーメル・ジョーンズ、リチャード・グルーヴ・ホームズら黒人ジャズマンを続々とデビューさせており、ジャズ・クルセイダーズもそのうちの一つでした。

彼らを発掘したのもパシフィック・ジャズのスカウト担当もしていたレス・マッキャンで、今日ご紹介する1963年の作品「ジャズ・ワルツ」ではそのマッキャンをコ・リーダーに迎えた共演作です。メンバーはデビュー以来不動のメンバーであるウィルトン・フェルダー(テナー)、ウェイン・ヘンダーソン(トロンボーン)、ジョー・サンプル(ピアノ)、スティクス・フーパー(ドラム)。ベースはちょくちょく入れ代わりますが、この頃はボビー・ヘインズが務めています。なお、レス・マッキャンもピアニストなので、ジョー・サンプルどピアノがかぶりますが、曲によってマッキャンがエレピまたはオルガン、サンプルがオルガンを弾いたりと役割分担をしているようです。ただし、細かいソロの記載がないのでどれがマッキャンでどれがサンプルかは分かりません。

全10曲。ただし、2〜3分の曲が多いのでボリュームはそんなにありません。タイトル通り全ての曲がワルツのリズムで演奏されています。1曲目"Spanish Castles"はスイス人の作曲家ジョルジュ・グルンツの曲。オリジナルはもう少し洗練された感じですが、彼らが演奏するとファンキーで黒っぽいサウンドに変わりますね。ウィルトン・フェルダーのソウルフルなテナーソロ、ウェイン・ヘンダーソンのパワフルなトロンボーンソロもフィーチャーされます。以降ほとんどの曲でこの2人がソロを取ります。2曲目"Blues For Yna Yna"は西海岸の黒人バンドリーダー、ジェラルド・ウィルソンの曲。オルガンソロがありますがマッキャン?サンプル?どちらかわかりません。3曲目"Damascus"はレス・マッキャンのオリジナルでタイトル通り中東風のメロディを持った曲。2管がエキゾチックなテーマを奏でた後のパワフルな合奏がカッコいいですね。フェルダーの情熱的なテナーソロも良いです。続く"3/4 For God & Co."もマッキャンのオリジナルで「レス・マッキャン・リミテッド・イン・ニューヨーク」でも演奏されたファンキー・チューン。オルガンをバックにフェルダーがワイルドにブロウします。5曲目"Bluesette"はジャズ・ハーモニカの第一人者トゥーツ・シールマンスの名曲。愛らしいメロディに乗ってピアノ→テナー→トロンボーンとソロをリレーします。

続いて後半(B面)。6曲目"Big City"は黒人ピアニストのマーヴィン・ジェンキンスの曲。ウィルトン・フェルダーがソウルフルなテナーを聴かせます。7曲目はご存知ボビー・ティモンズの名曲"This Here"。本家のティモンズに負けないファンキーなピアノソロはおそらくレス・マッキャンではと推察します。8曲目はファッツ・ウォーラーの"Jitterbug Waltz"。この曲は2管はアンサンブルでピアノが主役ですが、最初のアコースティックピアノがジョー・サンプル、続くエレピがレス・マッキャンでしょう。9曲目はマイルス・デイヴィス「カインド・オヴ・ブルー」の"All Blues"。このあたり有名曲が続きます。ヘンダーソン→ピアノ(マッキャン?)→フェルダーの順でソロをリレーします。ラストはタイトルトラックの"Jazz Waltz"。ベースのボビー・ヘインズ作のファンキーな曲でおそらくマッキャン?→フェルダーとソロを取ります。以上、フュージョン時代からは想像もつかないクルセイダーズのアーシーで黒っぽいジャズが堪能できる1枚です。

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ルー・ドナルドソン/グレイヴィー・トレイン

2025-08-25 18:47:42 | ジャズ(ハードバップ)

ルー・ドナルドソンについては本ブログでもたびたび取り上げてきました。チャーリー・パーカー直系のアルト奏者として50年代のハードバップシーンで活躍した後、60年代に入るとオルガン奏者を起用したソウルジャズ作品を次々と発表さします。転機となるのは1961年1月録音の「ヒア・ティス」ですが、実はその次の4月27日に吹き込んだのがピアニスト入りの作品で今日ご紹介する「グレイヴィー・トレイン」です。

メンバーはハーマン・フォスター(ピアノ)、ベン・タッカー(ベース)、デイヴ・ベイリー(ドラム)、アレック・ドーシー(コンガ)。うちフォスターとベイリーのコンビは「スイング・アンド・ソウル」「ブルース・ウォーク」と言った50年代の代表作と同じです。おそらくですがこの時点のドナルドソンはハードバップ路線を継続するか、ソウルジャズ路線に変更するか決めかねていたのではないでしょうか?結局続く「ザ・ナチュラル・ソウル」以降はソウルジャズ路線を突き進むことになるのですが・・・

全7曲。うちオリジナルは2曲だけで、残りは全て歌モノスタンダードです。オープニングはタイトルトラックでもある"Gravy Train"でコテコテのブルースです。ちなみにgravy trainは熟語で「楽に稼げる仕事」、ride the gravy trainで「濡れ手に粟」とか言う意味だそうです。2曲目からは4曲連続スタンダードでいかにも南国らしい明るい"South Of The Border"、美しいバラード"Polka Dots And Moonbeams"、スインギーな"Avalon"、リー・モーガンの名演で知られる"Candy"と有名曲が続きます。どの曲もドナルドソンの歌心溢れるアルトソロ、ハーマン・フォスターの独特のブロックコード奏法、そしてコンガを効果的に活用したリズムセクションが演奏を盛り上げます。中でもドナルドソンがソニー・スティット張りにアドリブを引っ張る"Candy"がなかなか聴きモノです。

6曲目はドナルドソン作の"Twist Time"。当時はチャビー・チェッカーのヒット曲"The Twist"とともにツイストダンスが大流行していましたが、この曲はそこまで激しいリズムではなく普通のファンキージャズと言う感じです。ラストは再びスタンダードでベニー・グッドマン楽団のヒット曲"Glory Of Love"を軽快に演奏して締めます。以上、ベタな選曲の大衆路線っぽいアルバムではありますが、ドナルドソンらの演奏はさすがのクオリティで、気楽に楽しめる佳作だと思います。

 

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ブッカー・リトル4&マックス・ローチ

2025-08-23 21:21:06 | ジャズ(ハードバップ)

ジャズマンには夭折のミュージシャンが多くいます。25歳で事故死したクリフォード・ブラウンを筆頭に、20代で亡くなった者だけでもカール・パーキンス、ボブ・ゴードン、ダグ・ワトキンス、ファッツ・ナヴァロ、チャーリー・クリスチャン、スコット・ラファロ、リッチー・パウエル等がいます。死因は麻薬中毒だったり交通事故だったり色々ですが、みんな早死にですよね。その中でも最も若くして世を去ったのが夭折の天才トランぺッター、ブッカー・リトルです。彼が1961年10月に尿毒症(あまり聞いたことない病名ですが腎臓病の一種らしい)で死んだのは何と23歳6カ月の時。ただ、それほどの短命だったにもかかわらず、リトルが残した録音はリーダー作で4枚、サイドマンだと20枚を超えます。彼が活躍した50年代後半から60年代初頭にかけてはジャズシーンがちょうどハードバップからモードジャズあるいはフリージャズへと移行する時期で、その全てに対応できるリトルはまさに時代の寵児としてシーンを引っ張る存在になりうる逸材でした。

テネシー州メンフィスに生まれたリトルの才能を最初に見出したのはドラマーのマックス・ローチ。実は1956年にクリフォード・ブラウンが事故で亡くなった後、その後釜には18歳のリトルが抜擢される予定でした。ただ、当時のリトルはまだシカゴ音楽院の学生だったため、しばらくはベテランのケニー・ドーハムがトランぺッターを務めることとなります。2年後の1958年にリトルが無事学校を卒業すると、満を持してマックス・ローチのエマーシー盤「マックス・ローチ+4・オン・ザ・シカゴ・シーン」でデビュー。早くもその半年後の10月にユナイテッド・アーティスツに初のリーダー作を吹き込むことになります。

とは言え、本作の実質のリーダーはマックス・ローチ。5人中4人が当時のマックス・ローチ・グループのメンバーでリトル、ローチ、ジョージ・コールマン(テナー)、アート・デイヴィス(ベース)と言うラインナップです。おそらくローチが秘蔵っ子のリトルのためにリーダーの名義を譲ったのでしょう。ただ、当時のローチ・グループはあえてピアニストを置かず、チューバのレイ・ドレイパーを起用した独特のコンボサウンドを追求していましたが、ここでは名ピアニストのトミー・フラナガンが参加しています。

全6曲、うちオリジナルとカバーが半々ずつです。オープニングトラックはマイルス・デイヴィスの”Milestones”。マイルスの代表曲とも呼べるあの名曲が思い浮かびますが、それにしては随分メロディが違います。ジャズはアドリブ演奏なので原曲と少し違うことはよくあるのですが、それにしてもえらく大胆に解釈しているなと思ったら、何とこちらはマイルスが1947年にチャーリー・パーカーのバンドに在籍していた時に書いた全くの別曲らしいのです。道理でメロディが違い過ぎると思った。ただ、これはこれで非常にカッコいい曲です。オリジナルもyoutubeで聴けますが、個人的にはこちらの方が良いと思います。リトルはマックス・ローチからクリフォード・ブラウンの後継者として期待されたそうなのですが、私は正直リトルのことをエリック・ドルフィーの「アット・ザ・ファイヴ・スポット」等で最初に知ったクチなので、同じトランぺッターでも全然スタイルが違うやん!と思っていたのですが、デビューしたてのこの頃は前衛っぽさはあまりなく、ブラウニー直系のブリリアントなトランペットを響かせています。続くジョージ・コールマンのソウルフルなテナー、フラナガンの流麗なピアノ、親分ローチの迫力満点のドラミングもナイスです。

2曲目はスタンダード曲の"Sweet And Lovely"。この曲はコールマン抜きのワンホーンで、リトルが歌モノを朗々と歌い上げます。3曲目~5曲目は全てリトルのオリジナルで”Rounder’s Mood""Dungeon Waltz""Jewel's Tempo"と続きます。これらの曲はリトルのトランペットの音使いに少しだけ前衛的な香りもします。ただ、コールマンやフラナガンのピアノはあくまでオーソドックスなプレイなので全体的にはハードバップですね。3曲の中では”Rounder’s Mood”が出色の出来です。ラストの"Moonlight Becomes You"は歌モノのバラードで、リトルが再びワンホーンで高らかに歌い上げてアルバムを締めくくります。この後、リトルはマックス・ローチ・グループでの活動を続けるとともに鬼才エリック・ドルフィーと盟友となり、ジャズ史上に残るドルフィーの名盤「アット・ザ・ファイヴ・スポット」や自身のリーダー作「アウト・フロント」で共演します。そこでの演奏は完全にハードバップを脱した先鋭的な演奏で、わずか3年ほどの活動期間の間にリトルがスタイルを大きく変化させたことがわかります。ジャズ評論家の間で評価が高いのはどちらかと言うと後期の作品でしょうが、個人的には初リーダー作の本作を彼のベストに挙げたいと思います。

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ザ・サクソフォンズ・オヴ・ソニー・スティット

2025-07-28 19:00:18 | ジャズ(ハードバップ)

本日はソニー・スティットが1958年4月にルースト・レコードに残した「ザ・サクソフォンズ・オヴ・ソニー・スティット」です。ジャケットには2本のサックス(左がテナーサックス、右がアルトサックス)が描かれていますが、2人のプレイヤーがいるわけではなく、ソニー・スティットが両方のサックスを演奏しています。スティットはもともとアルト奏者でしたが、途中からテナーも吹くようになり、一時期はテナーばかり吹いていたこともあるようです。その理由としてはスティットが”チャーリー・パーカーのそっくりさん”と呼ばれることを嫌ってテナーに持ち替えたというのが定説ですが、そもそもスティットとパーカーってそんなに似てますかね?個人的には全然違うと思うのですが・・・

この時期のスティットはヴァーヴ、ルースト、アーゴ等に年4~5枚のペースでリーダー作を量産しており、そのほとんどがワンホーン・カルテットです。本作もスティットのワンホーンで、リズムセクションはピアノがジミー・ジョーンズ、ドラムがチャーリー・パーシップですが、ベースは不明です。不明って一体どういうことやねん!と思いますが、そもそもオリジナルLPにはメンバーの記載がないようなのです。ジョーンズとパーシップの名前はおそらく後に判明したのでしょうが、ベースは誰かわからないまま。ビバップ期に活躍したベーシストのジョン・シモンズ説が有力ですが、確証はないようです。随分いい加減ですね。

おそらくスティット本人もレコード会社も「どうせサックスがメインだからリズムセクションなんて誰でもええやん」的なスタンスだったのでしょう。確かに演奏を聴けば時折ジミー・ジョーンズのピアノソロが挟まれる以外は、最初から最後までスティットが吹きまくるという内容です。スタイルもいつもながら音数の多いスティット節。他のサックス奏者なら一息間を空けるようなタイミングでも隙間を埋めるようにフレーズを詰め込んできます。こう言った奏法はパーカーにも他のアルト奏者にもないもので、まさにワン&オンリーの独特のスティット・ワールドですね。

全11曲。うち歌モノスタンダードが8曲、スティットのオリジナルが3曲。曲も短いものは2分、長くても4分程度で平均して3分前後の演奏が続きます。この頃のスティット作品はほぼどの作品も同じような構成で、はっきり言ってマンネリかつワンパターンです。でも、内容が良くないかと言われるとそんなことはなく、泉のように湧き出てくるアドリブの洪水と、ジミー・ジョーンズ・トリオの奇をてらわない端正なサポートはやはり一聴の価値アリです。

スタンダードのうち"Am I Blue?""I'll Be Seeing You""When You're Smiling"”Them There Eyes”は他のジャズマンにもよく取り上げられるお馴染みの曲で、スティットがいつもながら快調にソロを取ります。なお、4曲中"I'll  Be Seeing You"のみアルトで他はテナーによる演奏です。

ただ、個人的には普段あまり耳にしないマイナーな曲の方に魅力を感じます。5曲目”In A Little Spanish Town"は1920年代のヒット曲で、ビング・クロスビーらが歌ったそうです。スペインののどかな風景が浮かぶような魅力的なメロディをスティットがアルトで歌い上げます。7曲目"Back In Your Own Backyard"は同じく20年代の曲で、顔を黒塗りしたパフォーマンスで知られるアル・ジョルソンの作曲。ゆったりしたミディアムテンポの演奏でスティットはテナーでじっくりソロを吹きます。10曲目”Shadow Waltz”はハリー・ウォーレン作曲でこの曲もビング・クロスビーらが歌った曲。ラテンリズムの軽快な演奏でスティットがテナーでメロディアスに歌い上げます。9曲目"Sometimes I Feel Like A Motherless Child"は歌モノではなく、物悲しい黒人霊歌で1曲だけ毛色が異なっています。

スティットのオリジナルの3曲もどれも良いです。オープニングトラックの”Happy Faces”は明るい曲調の軽快なバップナンバーで、スティットがテナーで朗々と歌い上げます。8曲目"Foot Tapper"は急速調のバップで、アルトでファナティックに吹きまくるスティットが絶好調です。ラストトラックの"Wind-Up"はミディアムテンポのブルースでスティットがアルトで例の畳み掛けるようなアドリブを披露します。3曲ともジミー・ジョーンズが短いながらもキラリと光るピアノソロで盛り上げます。以上、ワンパターンで何が悪い!と開き直るようなスティットのサックスが堪能できる1枚です。

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