モダンジャズには兄弟プレイヤーがたくさんいますが、3人兄弟となると思い浮かぶのはハンク、サド、エルヴィンのジョーンズ3兄弟、パーシー、ジミー、アルバートのヒース3兄弟でしょうか?この2組は全員がそれぞれの楽器で第一人者として活躍していますよね。一方、同時期に活動したモンゴメリー3兄弟については次兄のウェス・モンゴメリーだけが突出して有名で、他の2人については知る人ぞ知る存在となっています。長兄のモンク・モンゴメリーはウェスの2歳上でベース奏者、末弟のバディ・モンゴメリーはウェスの7歳下でヴァイブ奏者兼ピアニストですが、お世辞にもメジャーとは言えませんよね。
ただ、実はレコードデビューについてはウェスよりも他の2人の方が先なのですね。故郷インディアナポリスを拠点に活動していたウェスがキャノンボール・アダレイの推薦によりリヴァーサイドに初リーダー作「ウェス・モンゴメリー・トリオ」を吹き込んだのが1959年10月のこと。一方、モンクとバディの2人は50年代半ばに西海岸に移住し、1957年に"ザ・マスターサウンズ"としてパシフィックジャズに初リーダー作を吹き込むと、以後60年代初頭までに11枚もの作品を残します。このマスターサウンズには1958年の「キスメット」にウェスがギタリストとして加わっているものの、参加はその1枚だけで、基本はリッチー・クラブトゥリー(ピアノ)とベニー・バース(ドラム)の2人を加えたカルテット編成です。この2人のことはあまり他では見かけたことはありませんが、2人とも白人ジャズマンのようですね。
今日ご紹介する「マスターサウンズ・プレイ・ホレス・シルヴァー」はそんなマスターサウンズが1960年にリリースした作品。題名通り全てホレス・シルヴァーの楽曲ばかりを演奏したものです。この頃のホレス・シルヴァーと言えばブルーノートの顔として次々とヒット作を連発していたところ。ファンキーでポップな自作曲の数々は他のジャズマンも好んで取り上げていましたが、1枚まるごとシルヴァーに捧げるとなると珍しいですね。
1曲目は"Ecaroh"。曲名はHoraceを逆さ読みしたもので「ホレス・シルヴァー・トリオ&アート・ブレイキー、サブー」やジャズ・メッセンジャーズ「ニカズ・ドリーム」でも演奏された痛快ハードバップです。キャッチーなメロディに乗ってバディの軽快なヴァイブ→リッチー・クラブトゥリーのピアノとソロを取り、終盤にはベニー・バースのドラムとの掛け合いもあります。2曲目"Enchantment"は「6ピーシズ・オヴ・シルヴァー」収録曲。原曲はドナルド・バードとハンク・モブレーの2管でしたが、ここではヴァイブとピアノでややミステリアスな感じのバラード調に仕上げています。後半のベニー・バースのドラムソロも何となくエキゾチックです。3曲目"Nica's Dream"は多くのジャズマンのパトロンだったパンノニカ・デ・ケーニヒスヴァルター男爵夫人に捧げた名曲。初演は上述のジャズ・メッセンジャーズ「ニカズ・ドリーム」で、後に「ホレス・スコープ」でも再演しており、他のジャズマンによるカバーも多く、シルヴァーの中でも最も有名な曲かもしれません。
4曲目"Doodlin'"もシルヴァーの代表曲の一つで「ホレス・シルヴァー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ」収録曲です。ディジー・ガレスピーやサラ・ヴォーン、レイ・ブライアントもカバーしたゴスペル風のブルースで、ここではリッチー・クラブトゥリーが白人とは思えないソウルフルなピアノを聴かせてくれます。これまでソロの機会のなかったモンク兄さんもベースソロを聴かせますが、アコースティックではなくエレキベースなんですね。実はモンクはジャズ界におけるエレキベースの先駆者的存在だそうです。5曲目"Moonrays"は「ファーザー・エクスプロレーションズ」収録曲。ファンキーorソウルフルな曲が多いシルヴァーの中では珍しく抒情的で美しい曲で、ここでもヴァイブとピアノによる上品な演奏に仕上がっています。ラストトラックの"Buhaina"は「ホレス・シルヴァー・トリオ&アート・ブレイキー、サブー」やミルト・ジャクソン「MJQ」で演奏された曲。Buhainaとはアート・ブレイキーのムスリム名です。バディ→クラブトゥリー→モンクのエレキベースソロと軽快にリレーして作品を締めます。
この後、マスターサウンズは翌1961年に解散。再びウェスを迎えてモンゴメリー・ブラザーズを結成し、リヴァーサイドに「グルーヴヤード」等を残しますがこちらも短期間で活動を終了。その後、スター街道を驀進するウェスに対し、モンクとバディの2人は結局スポットライトを浴びることこそなかったものの、モンクは70年代、バディは2000年代になるまで活動を続けたようです。